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- 2019/03/11
- 【内科疾患】過敏性大腸炎
~診断治療編~
1.●過敏性大腸炎(過敏性腸症候群)●
最近、テレビの健康番組や雑誌などを見ていると「過敏性大腸炎」を取り上げている事がよくあります。皆様も何度か目や耳にしたことがあるかと思います。実際「過敏性大腸炎」で悩まされている患者さんはここ数年急増しきており、10年位 前から消化器外来でもかなりの割合(3~5割)を占めるようになってきていると言われています。(男女比では1:1.6でやや女性の方が多いみたいです。)
さて、皆さんは「過敏性大腸炎」と聞いてどんな病気だと想像しますか?
{慢性的な下痢の症状があり、通勤途中で電車から降りてトイレに駆け込んでしまうような病気}などとイメージされる方も多いのではないでしょうか。しかし「過敏性大腸炎」
の症状はそれだけではありません。それでは「過敏性大腸炎」(過敏性腸症候群)の説明を始めたいと思います。
★『過敏性大腸炎』は西洋医学的病名★
まず、『過敏性大腸炎』(過敏性腸症候群=IBS)という名前ですがこれは西洋医学的病名です。では西洋医学では『過敏性大腸炎』をどのように捉えてどのような治療をしてゆくのでしょうか。
▼西洋医学的な捉え方と治療▼
【概念】
胃腸の働きは交換神経と副交感神経によって支配されていますが、そのバランスが過度のストレスや感情、食事、気候の変化などの要因が重なり崩れると腸管が刺激に対し過敏になりすぎ蠕動運動を早めたり止めたり局所的痙攣が起こり下痢や便秘・下痢と便秘の繰り返し・腹痛などを起こします。従来より「慢性腸炎」と診断されていたもの多くはこの範疇です。西洋医学では症状によって「便秘型」「下痢型」「交代性下痢・便秘型」に分類しております。男性は下痢型、女性は便秘型が目立つようです。尚、胃腸の構造には全く異常はなく潰瘍等も出来ていない状態です。
【成因】
心理社会的な要因が関与していることが多いといわれ、自律神経失調症や心身症の一部とされています。
【症状】
便秘・下痢・便秘と下痢の繰り返し・腹痛などの消化器症状の他には頭痛・頭が重い・肩こり・眩暈・動悸・倦怠感・不眠・ゲップ・腹部膨満・腹鳴・放屁などの症状を伴うこともあります。
【治療】
1.増悪因子(ストレス・食事・アルコールなど)があれば除く
2.緩下薬・下痢止め薬・消化機能改善薬・消化酵素薬の投与。また、精神の要因が強い場合は心理療法・精神安定剤などの投与があります。
以上が西洋医学的な「過敏性大腸炎」の捉え方と治療になります。
次に中医学的(東洋医学)な説明に入りますが、その前に少しだけ中医学について説明をしたいと思います。
★ 多くの方が知っているようでよくわからない東洋医学★
皆さんの中には東洋医学のことを中国伝承医学と思っている方も多いかと思います。しかし中国と東洋は同じ意味ではありませんので、この考えは正しくはありません。勿論、中国伝承医学も東洋医学に入りますが、インドやチベットの伝承医学も東洋医学に入るからです。そして中国伝承医学のみを意味する場合は「中医学」と呼びます。因みに西洋医学にも伝承医学はあります、例えば皆さんもよくご存知の「アロマセラピー」や「ホミオパシー」「メディシナルハーブ」などです。本来はこれらも西洋医学に入ってしまいます。ですから皆さんが病院などで受けている医学だけを意味するときは「現代医学」と呼びます。
さて芸術や思想などの世界でも西洋と東洋の概念が違うように西洋医学(現代医学)と東洋医学(中医学)もまた全く別 物と言っても過言ではないくらい概念が違います。身体の仕組みから病気が発症する過程や治療の方針にいたるまで、全く違う観点や考え方をします。例えば現代医学では「膵臓」という臓器が存在するのに対して中医学では存在しません。逆に現代医学には無い「三焦(さんしょう)」「心包(しんぽう)」といった臓腑が中医学には存在したりします。これは現代医学は物理的に目や検査器具で見える物を見ているのに対して中医学は目には見えない『働き』を見ているからなのです。
いかがですか?おそらく今これを読んでいて混乱をしてきている方も多いと思いますが心配しないで下さい。今ここで知って頂きたかったのは我々の身近にある現代医学と中医学とでは根本的に考え方が違うという事を理解して頂きたかったのです。しかも中医学という学問は「天人相応」「陰陽論」「五行学説」といった中国古来の思想の上に成り立っている学問です。{「五行学説」「天人相応」については後に簡単に説明します}ですから「中医学の○○は現代医学の□□だ」といった単純に繋がるものではありません。だからこそ病院で治らなかった疾患が「中医針灸」で治るのです。
しかしながら我々は幼い頃から医学に関しては現代医学の概念で教育を受けていますので、最初はなかなか中医学的な考え方に戸惑いがあると思います。ですからここでは少しでも中医学的な思考を理解して頂く為に、まず中医学から見た健康な身体の状態と不健康な状態を簡単に説明します。
*「五行学説」
古代中国の哲学理論です。世の中の全ての物は「木」「火」「土」「金」「水」の五種の基本物質(性質)に分類することができ、その中で生じる様々な変化やその相関関係であらゆることを説明するという考え方です。後ほど病理の方で五行学説の一部を使って説明いたします。
*「天人相応」
「天」は自然界を意味し「人」は人体構造や人の生理的や病理的変化を意味します、そして「天」と「人」を作っている要素は同じであるという考え方です。ですから自然現象と人体に起こる変化を結びつける事が可能です。簡単に言ってしまえば「暑くて夏バテした」などといった具合です。これは中医学の大きな特徴の一つで現代医学にはない発想です。つまり中医学では気候の変化と身体の変化を結び付けて考えます。逆を言えば治療も気候の変化を考慮に入れて進行してゆきます。具体的に言えば同じ疾患であっても季節によって使用する薬やツボが違うということです。
▼中医学的生理観と病理観▼
◎ 人の身体は何で構成されている?◎
我々は生きる為に呼吸をして食べ物を食べ水分を補給します。現代医学ではこれらが血や肉や骨やエネルギーなどに変わり人を構成する要素へとなってゆきますが、中医学では体内に取り込まれた物は「気」「血(けつ)」「水」を生むと考えます。そしてこれらが人を構成します。では「気」「血」「水」とはいったい何でしょう?
【気】・・・全ての源。一口に言えば活力エネルギーの源であり身体を構成する大事な要素です。
中医学では「気」はとても流動的な『物質』と考えています。そして「気」の密度が低く流動性が高い状態の時を『陽』逆に密度が高く流動性が低い状態を『陰』として二分します。「気」の主な作用は飲食物や呼吸によって取り入れた空気をエネルギーに変えたり「血」「水」を身体の隅々まで運んだり、外部からの様々な身体に対する害に対しバリヤを張ったり、身体を温めたり、体から余分な水分(汗・尿・血)が出ない様にしてくれています。
中医学では「気」はとても重要です。その証拠に「天気」「元気」「やる気」「気のせい」など日本語にも「気」という文字を使った言葉が多いですよね。
【血】・・・皆さんの知っている血液に近いものですがイコールではありません。
「血」(けつ)の作用は全身に栄養分を行き渡らせています。その他には精神活動を支えています。このあたりは現代医学の血液と違う点です。
【水】・・・体内の「血」以外の体液
「水」は本来「津液」と言います。主な作用としては身体を潤しています。
**「血」「水」は身体の余分な熱を下げる作用もしております(車のラジエターの水を想像してください)
◎ 健康な身体の「気・血・水」◎
健康な人の身体の状態はこの『気』『血』『水』が多くも少なくもなくバランスよく且つ滞りなく流れている状態です。もう少しイメージしやすいように川に例えてみましょう。
「気・血・水」がバランスよく流れている状態は、あまり人が入って来ないような山の中の清流をイメージして下さい。魚も沢山棲んでいるでしょうし、飲んでもとても美味しく喉を潤してくれるでしょう。次にバランスが崩れた状態を説明します。
◎ 「気・血・水」のバランスが崩れた状態◎
1.「気・血・水」が少なくなった状態をそれぞれ「気虚」「血虚」「津液不足」といいます。川に例えれば水量 が減ってきている状態です。雨も降らずに放っておくと大変なことになってしまいます。
2.「気・血・水」の流れに滞りが生じた状態を、それぞれ「気滞」「オ血」「痰湿」といいます。川に例えると流れに淀みが生じヘドロでも浮いている状態をイメージしてもらえればよいかと思います。清流の時は飲む事も出来たでしょうが、同じ川でもこうなってしまったら飲むどころか近付きたくもないですし、逆に人間に害を与えてきます。
いかがですかイメージできました?
そして簡単に言ってしまえば針灸治療とはこの崩れたバランスを調整して元のバランスのとれた清流の状態に戻す事をしているわけです。
▼ 中医学的病気の診たてとは?▼
次に崩れたバランスを元の状態に戻す為に情報を収集します。
まず最初にどのようにバランスが崩れているのかを診ます。つまり「気虚」なのか?それとも「血虚」なのか?はたまた「気滞」なのか?・・・etcですね。
バランスがどのように崩れているのかがわかったら、次はそれが何処で起きているのかを調べなければいけません。例えばその場所が体表なのか?経絡と言って「気」「血」が流れる通 路で起こっているのか?それとも体表ではなくて体の中の内臓なのか?バランスが崩れている場所を特定せねば治療方針は立ちません。因みに「過敏性大腸炎」の場合は内臓にバランスの崩れが起きていることが多いのです。
勿論、原因が何なのかを知ることも大事です。
それと中医学の特徴の一つでもあることなのですが患者さんの体質を知るということも大事なことです。
まだ幾つかあるのですが今回は省略させていただきますが、最終的には
1.「何が原因で」・・・病気の原因(飲食物・ストレス・喜怒哀楽・熱・寒・湿・・・etc)
2.「何が」・・・・・・『気』『血』『水』のどれが
3.「何処で」・・・・・体表・経絡・内臓(臓腑)・・・等
4.「どうなって」・・・どの様にバランスが崩れているのか
5.「どうしたのか」・・症状
これらの情報を収集し患者さんの身体がどのような状態なのかを判断いたします。このようにして決定されたものを『証(しょう)』と言います。『証』とは現代医学の病名に近いものです。ですから冒頭で述べたように「過敏性大腸炎」とは現代医学の呼び方になるわけです。
そして『証』を決定することを「弁証(弁証)」と呼んでいます。次に「論治(ろんじ)」といって決定した『証』に対して治療方法を決めてゆきます。ここまできて始めて使用するツボや漢方薬を選ぶことができるようになります。そしてこの一連の流れを「弁証論治」と言いどんな疾患に対しても行ってゆきます。ですから最初から「この病気にはこのツボ」みたいな単純なものはありません、例えそれが肩こりであってもです。安易にコッテいる場所に針をさしているわけではありません。
▼ 中医学的内臓の働き▼
先ほども述べましたが「過敏性大腸炎」の場合、バランスの乱れは内臓に多くみられます。そこで少し中医学的に見た内臓の説明をいたします。よく「五臓六腑にしみわたる」などと言いますが、その五臓六腑の事です。中医学では内臓に現代医学とは別 の働きも持たせています。そこで今回は「過敏性大腸炎」に関係する臓器にしぼり作用と特徴を説明いたします。
【脾】
食べた物から「気」「血」「水」を作り肺や心に送ります。又、体内の余分な水分の気化をしています。思い悩んだりすると障害されやすく「気虚」を起こします。又、湿気をきらいます。五行説では「土」の性質を持ちます。
【腎】
体内の水(水液代謝)を管理し脳を栄養したりします。精を貯蔵します。精とは生命の根本をなすもので成長や生殖を支え、両親から受け継いだ『先天の精』飲食物から作られる『後天の精』があります。よく「精が出るね!」などと言いますよね。
【心】
血の循環を行います。「精神活動」を司ります。このあたりも現代医学には無い観点ですね。
【肝】
気血の流れを円滑にします。また血を貯蔵することにより循環血量の調整をします。
五行説では「木」の性質をもちます。「木」はノビノビと大地に根を張り、枝を天高く大きく伸ばします。「木」の性質の「肝」もノビノビした状況を好みます。ですからストレスがかかると肝の気は「気滞」をお越しやすいです。そして「気滞」は熱に変化します。
以上が「過敏性大腸炎」に関係する内臓の働きと特徴です。それでは以上の事をふまえて中医学的「過敏性大腸炎」の捉え方を説明してゆきます。
▼中医学的「過敏性大腸炎」の捉え方▼
中医学では「過敏性大腸炎」は精神的・社会的ストレスの他に過労と食生活にも原因があると考えます。また現代医学では「過敏性大腸炎」と一括りにされていますが、中医学では分類(弁証)の仕方によってだいたい2~8通 りに分類します。これは弁証を大きくするか細かくするかの違いであり、いずれもバランスを崩している臓器は「肝」「脾」「腎」が多いようです。今回は4つに分類してみたいと思います。
まず最初に4つの分類を簡単に紹介します。
1.脾の気が不足して起こる・・・・・・【脾虚湿盛証】
2.脾と腎の陽気の不足で起こる・・・・【脾腎陽虚証】
3.脾の気と心の血の不足で起こる・・・【心脾両虚証】
4.肝の気が脾をいじめて起こる・・・・【肝脾不和証】(肝脾不調証)
以上の4つの分類になります。
では、それぞれの病因~病機・症状・治則・ツボ・漢方薬の説明をします。
**脾虚湿盛証**
【病因病機】
内蔵の特徴で述べましたが「脾」は湿気を嫌います。冷たい物や生ものなどを食べ過ぎると身体のなかで余分な水分を生みます。すると「脾」はこの余分な水分により気の不足をおこします。この状態を『脾気虚』と呼びます。『脾気虚』になれば当然「脾」が行っていた働きは衰えてしまいます。「脾」の作用である水分の気化作用が衰えてしまえば益々体内に余分な水分が停滞してしまい、下痢や軟便が生じます。ひどくなると少量 の冷たい物を口にしただけでも下痢をしてしまったりします。程度の軽いものは皆さんも日常生活で経験があると思いますので理解するのも簡単ではないでしょうか。
【症状】
症状としては脾の機能が低下していますから、冷たいものを口にすると直ぐに下痢になったり、水様状の便あるいは軟便になったりします。またお腹が鳴ったり腹痛がおきたりもします。
【治側】
『健脾化湿』といって脾を元気にさせる(健脾)ことにより余分な湿気を取り除いてゆく(化湿)治療をします。
【ツボ】
『豊隆』『足三里』『陰陵泉』『三陰交』『中カン』『脾兪』『章門』『太白』
【漢方薬】
『二陳湯』『四君子湯』
**脾腎陽虚証**
【病因病機】
体質的に虚弱体質や過労や病にかかって時間が経ってしまうと「脾」と「腎」の陽気と言って身体を温める機能が低下してしまいます。勿論「脾」が行っていた飲食物をエネルギーに変える力も減ってしまい、余分な水分を気化する力もなくなります。一方、水を司っている「腎」では「水湿内停」といって水が溜まった状態になってしまいます。
【症状】
身体を温めている機能が低下していますから、全身や四肢又は下腹部の冷えや腎の症状が現れ易い場所である膝や腰に冷痛があったりします。水分代謝に関わる脾と腎の機能が低下していますので長期的な軟便と下痢の繰り返しや、食後すぐに腹痛やお腹が鳴ったりします。又、便は水様状や白い粘液が混じったりします。余分な水分が体内にありますから顔面 や肢体に浮腫が現れます。この証の原因は虚弱体質や疲労ですし体も冷えていますから、冷えや過労で症状は増悪し休んだり温めたりすれば軽減します。
【治側】
『温腎健脾』といって腎を温め脾を元気にすることによって、身体の冷えを取り除き水分代謝の改善をしてゆきます。
【ツボ】
『天枢』『中カン』『足三里』『脾兪』『章門』『関元』『気海』『太谿』『腎兪』『命門』
【漢方薬】
『理中丸』『合四神丸』
**心脾両虚証**
【病因病機】
ここで「脾」の働きをもう一度思い出してみましょう。脾は「運化」と言って食べた物から「気」「血」「水」を作り肺や心に送っていましたね。また思い悩むと障害されやすい臓器でもありました。「心脾両虚証」とはストレスなどで思い悩むことにより脾が障害され「運化」作用が低下しておこります。「脾」で「血」が作られず「心」へ「血」が送られて来ないのですから「心」では「血」の不足がおきてしまいます。この状態を『心血虚』と言います。つまり『脾気虚』と『心血虚』が同時に起きている状態です。「脾気虚」ですから脾で「血」「水」を十分作ることができません。「血」「水」は身体の余分な熱を下げていることは前に述べましたが、この証では『陰虚熱』といって「血」「水」の不足による熱状態も現れます。
【症状】
症状としては「心血不足」から現れる不眠・動悸・健忘や夢を多く見るようになったり「脾」の症状である飲食の減少やお腹が張った感じや倦怠感などが現れます。また便の方は緊張すると下痢をしたり、熱症状からくる便秘も現れます。また便秘と下痢を繰り返したりします。
【治側】
『補益心脾』心の血と脾の気を補って症状の改善を行います。
【ツボ】
『血海』『隔兪』『心兪』『脾兪』『足三里』『三陰交』『気海』『章門』『太白』
【漢方薬】
『帰脾湯』
**肝脾不和証(肝脾不調証)**
【病因病機】
「過敏性大腸炎」の代表的な弁証です。
臓器の特徴のところで「脾」は「土」・「肝」は「木」の性質を持つと述べました。これは「中医学の説明」で述べた五行学説による分類です。ここで五行学説を使って「肝」と「腗」の関係を説明します。ではまず、自然界において「木」と「土」の関係を考えてみましょう。「木」は成長したり生存するためには「土」から栄養分を吸い取らなければなりません。逆に言えば「土」は常に「木」に栄養分を奪われていると考えます。つまり「土」は「木」に克されている関係であるといえます。五行学説ではこういう関係を「相克」と呼び「土」と「木」の関係は『木克土』(もっこくど)といいます。「肝」と「脾」の間にもこの「木克土」の関係が存在していて「肝」が「脾」を克した時に現れるのがこの「肝脾不和証」(肝脾不調証)です。証名に使われている「和」や「調」は「調和」の意です。肝は健康であれば「気」「血」の流れを円滑にする機能をしているわけですから、本来は「脾」と調和して「脾」が行っている摂取物を「気」「血」に変え上にある臓器(心・肺)に送る作用を補助していなければなりません。しかしストレスなどの原因で肝が障害されれば「脾」との調和が崩れてしまいます。このような状態を「肝脾不和証」(肝脾不調証)と呼びます。
「過敏性大腸炎」の場合ストレスに弱い肝はストレスを受けると「気」の流れが滞りを起こしてしまい、滞った「気」は熱化してしまいます。やがてその影響を「脾」が受けてしまい「脾」は「気」の不足を起こします。
【症状】
症状としては「肝」の「気」が停滞してることによりガスが溜まりやすくなったり、お腹が張った感じや両脇がすっきりしないなどといた不快感が起きたり、イライラや怒りっぽくなったりもします。また気が停滞して熱化したことによる便秘も現れます。緊張やストレス・イライラで症状は増悪します。「脾」の「気」の不足もありますから「脾気虚」からくる下痢も現れます。この証の特徴は症状に便秘と下痢が混在するところにあります。つまり症状としては便秘と下痢の繰り返しになります。
【治側】
『疏肝健脾』といって「肝」を整えて「脾」を建てなおす治療です。
【ツボ】ダン中・内関・中カン・陽陵泉・太衝・脾兪など
【漢方薬】
『逍遥散』『柴苓湯』(小柴胡湯+五苓湯)
以上が中医学的「過敏性大腸炎」の捉え方と治療になります。
いかがですか?
ここで皆様に理解して頂きたかったのは現代医学では一括りにされている病気でも以上のような違った観点から診ればこのような分類が出来るということです。当然分類がちがえば治療方針も変わってきますし、同じ「過敏性大腸炎」でも使用するツボや薬も違てきます。けして「この病気にはこのツボだ」とか「この病気にはこの漢方薬だ」みたいな単純なものではありません。まして「下痢や便秘だから胃や腸に関係するツボを使えばいい」というものではありません。中医学には「同病異治・異病同治」という言葉があります。同じ病気であっても、患者さんの体質・精神状態・病状・気候などの要素を考慮して治療の仕方が違うこともあれば、異なった病気であても同じ治療になるとこともあるという事です。まさしく患者さん個人個人に合わせたオーダーメイドの医学です。
冒頭でも述べましたが現代医学と中医学は同じ医学であっても全くの別 物と思って頂いた方が理解しやすいかと思います。そして違う観点の医学だからこそお互いの苦手とする疾患や患者さんをホローできるのです。まさしく「陰・陽」の関係ですね。ですからこれを読んでおられる方の中で「病院へ行ったけど治らなかった」とか「お医者さんに完治は無理と言われた」からといって諦める前に、もう一度違う観点から病気をみてみてはいかがでしょうか?
では続いて「予防養生」についてご紹介させていただきます。
~予防養生編~
▼予防養生▼
「慢性腸炎」の病因の多くがストレスということは皆さんもご承知のことと思います。ストレスさえ除去できれば予防養生も簡単ですが、残念ながら現代社会で生きてゆかなければならない我々にとってそれはなかなか難しいことです。少しでもストレス緩和になるような生活を送りたいものです。
さて予防養生ですが、まず便通異常がある方は運動習慣・食事を含めた生活習慣を見直してみましょう。そこで東洋医学的予防養生の中からどなたでも簡単に日常生活に取り入れやすいものだけにしぼり紹介させていただきます。
【お茶による予防養生】
『医食同源』という言葉は皆さんも聞いた事があると思います。「食事も医学(薬)と同じである」という考え方ですが実はお茶もこの考え方の延長線上に位 置します。(中国では「医茶同源」と言う言葉があります)
≪ストレス解消のお茶≫
ストレスにより滞った「気」を流してくれます。
「ジャスミン茶」・・・ジャスミン特有のさわやかな香りが「気」の滞りを流してくれます
「ミントティー」・・・ミントの爽快感が「気」の滞りを流してくれます
「刺五加茶」・・・・・免疫力を高めて体力を整えてくれます
「しそ茶」・・・・・・「気」を流して精神を安定させてくれます
「西洋おとぎり草茶」(セント・ジョーンズ・ワート)坑うつ薬などとの併用は不可です。又、喘息薬を服用されている場合は医師への相談が必要です。
≪体を温めてくれるお茶≫
「杜仲茶」・・・・肥満や高血圧にも効果があり、カフェインが含まれていないため寝る前に飲んでも大丈夫です。又、美肌にも効果 があるそうです。
「紅茶」・・・・・ミルク・ショウガ・ハチミツ・シナモンなどを入れてお試し下さい。
「ウコン茶」・・・血行促進効果もあります。カレーの「ターメリック」と同じ原料です。
「よもぎ茶」・・・こちらも血行促進効果があります。民間薬として昔から親しまれています。
≪下痢に効果のあるお茶≫
濃い目に煎れた煎茶・玉露があります。ただし、緑茶は体を冷やしますから温めて飲むことをお勧めします。
≪便秘に効果のあるお茶≫
「決明子」・・・高血圧で便秘な方にお勧めです。
「アロエ茶」・・取り過ぎると体を冷やしますので注意して下さい。
「センナ」
【食べ物・飲み物による予防養生】
まず、暴飲暴食はやめましょう。又、腸内の細菌叢の改善にはヨーグルトなどの乳製品を取りましょう。緑茶や紅茶に含まれるカテキンは腸の病気の病原菌を殺菌してくれます。ただし、緑茶は体を冷やしますので注意して下さい。くず湯なども腸の働きを整えてくれます。では東洋医学的に具体的に紹介してゆきます。
≪体に元気を与えてくれる食べ物≫
「気」が不足することによって下痢を起こしたり、体を温められなくなったり、大便を押し出せなくなり便秘を起こしたりしますので、まず『補気』といって「気」を補ってくれる食べ物を紹介します。
さつま芋・えんどう豆・そら豆・豆腐・かぼちゃ・椎茸・なつめ・りんご・貝柱
≪ストレス解消になるたべもの≫
次にあげる食べ物は滞った「気」を流す作用があります。
*魚介類
かき、あさり、かに、しじみ、しらす、しゃこ
*野菜
みょうが、三つ葉、春菊、パセリ、セロリ、しそ、小松菜、キャベツ菊の花、にら、ねぎ
からしな、大根、かいわれ大根、かぶ、カリフラワー、おかひじき、グリンピース、
たまねぎ、つるむらさき、にがうり、もやし、らっきょ
*果物
金柑 レモン、グレープフルーツ、みかん、ゆず、いちご
*その他
牛乳、しょうが、こしょう、八角
≪下痢について≫
人は汗をかくと口渇になりますが、下痢の場合は水分が身体から出てもあまり口渇感がありません。ですから脱水症状を起こすこともありますので意識的に水分補給をしましょう。ただし、体を冷やさない飲み物を選んで下さい。下痢は冷えから起こる事が多いですから体を冷やす食べ物にも注意して下さい。皮をむいたりんごを薄い輪切りにし柔らかくなるまで煮て、それをつぶしてハチミツを入れて温めて食べるのもよいでしょう、下痢止めの効果 があります。また、ショウガは内臓を温める作用がありますし、シソは大腸・小腸を正常にしてくれます。
≪便秘について≫
食物繊維を取るようにして下さい:穀類・イモ類・海草類・根菜類・きのこ類などです。またアロエの皮を中のゼリーを食べたり、皮は擦ってハチミツを入れて飲むのも効果 があるといわれています。
【ツボによる予防養生】
まずツボの押し方を説明します。
1.リラックスできる時間と場所を選びます。
2.「痛いけど気持ちがよい」くらいの力でお腹から息を吐き出しながら押します。
3.押す力をゆるめる時に息を吸います。
4.何回か繰り返し押し手下さい。
5.ツボ押しをしている間は指を皮膚から離さないようにしましょう。
またツボ押しをる前には指を温めておくことも忘れずに。
≪ストレス解消のツボ≫
・「内関」・・・内側の手の関節から指3本分上にあります。
・「太衝」・・・足の甲で親指と人さし指の接合点、甲の一番高い部分の手前のへこみです。
≪胃腸を整えてくれるツボ≫
・「中カン」・・・みぞおちとへその真ん中にあります。
・「足三里」・・・膝の皿の外側、指4本分下がった所にあります。
・「梁丘」・・・・膝の上約2.5センチの太ももの外側にあります。
【その他に注意すること】
腸は自律神経の影響を強く受けていますので自然のリズムを崩さないようにしましょう。夜更かし・喫煙・深酒は慎みましょう。
冷えがある場合は肩甲骨と肩甲骨の間や臍の下などをホカロンなどで温めると楽になります。
簡単に生活に取り入れることができるものだけにしぼり紹介させていただきましたが、最初は自分に出来そうな簡単なものから少しずつやってゆくのが宜しいかと思います。
簡単ではありましたが中医学的「過敏性大腸炎」について説明させていただきました。なんとなく中医学的観点がわっかって頂けましたでしょうか?
冒頭でも述べましたが、「東洋医学」という言葉自体には馴染みがあっても、その内容となるとなかなか理解されておられる方はいらっしゃいません。しかも残念なことに国内において中医学を専門に治療を行っている治療院も数える位 しかないのが現状です。
近年、現代医学は目まぐるしく進歩しており、一昔前では治せなかった疾患もだいぶ治せるようになってまいりました。しかしながら、まだまだ現代医学が苦手としている疾患もあることは事実です。そして現代医学とは別 の医学があることを知らずに、そのような疾患に悩まされている患者さんも意外と身近に数多くいらっしゃいます。現代医学とは違う観点で診ることで症状の改善或は完治の可能性は広がると思います。
我々は中医学がさらに浸透して、このような患者さんが少しでも楽になられることを切に願っております。
「過敏性大腸炎」、その他の症状でお悩みの方や針灸・漢方全般に関する事で質問等がございましたらお気軽にご相談ください。
当院では漢方専門薬局へのご紹介、或いは保険漢方を出して頂けるクリニックへの紹介状もお出しします。
「病気別、わかる東洋医学診断」の過去のページには月経痛(月経困難症)・月経不順・アトピー性皮膚炎・耳鳴り・腰痛・鬱病などを紹介しております。
- 2019/03/11
- 【内科疾患】血尿・血便について
尿や便は、身体の健康状態を表す重要な指標です。
現代医学においても内科などでは、その状態は問われますが、それ以上に中医学では何科を受診しても、大抵、尿や便についての問診があります。
それは何故かというと、尿や便の状態には、その患者さんの病気の状態や、基本的な体質が反映されているからです。
中医学では、身体全体の様子を把握した上で、全体的にバランスの良い治療をしていきます。
最近は洋式のトイレが増えてきたため、自分の普段の尿や便の様子を知らない人が多いですが、日頃の健康管理のために、目で見ておくことをお勧めします。
血尿や血便は、自覚症状として気づく前に定期健診などで見つかることが多いようです。
見た目に色が普段と違うときも同様に、身体の中の何かしらの異変を表しているわけですし、何かの病気の場合もありますが、一過性で心配のない場合もありますから、早めに医療機関を受診しましょう。
<中医学的考え方>
中医学では常に、表面的な症状だけではなく、根本的な原因を重視して治療を行います。
身体の働きの全体的なバランスを整えていくことで、健康で活力のある身体づくりをしていきます。
なぜ、中医学では現代医学と違って、身体全体のバランスを整えることができるのかと言うと、基本的な身体の働きに関する考え方が違うため、おのずと治療法も違うからなのです。
詳しいことは、病気別わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段に中医学で考える身体のしくみについて書いてありますので、
「わかりやすい東洋医学理論」をご覧下さい。
中医学では身体のみかたが根本的に西洋医学とは違います。西洋医学では身体を細かく分析し、細胞レベルでとらえますが、中医学では身体を大きく捉えて、小宇宙であると考えます。地球は大宇宙に存在する小宇宙の一つです。これと同じように地球からみれば、身体は小宇宙といえるのです。
宇宙に存在するものにはすべて意味があり、無駄なものはひとつもありません。
それぞれが、互いに影響しあいながら、バランスを保ち、大自然の法則に従って動いているのです。人間も同じように体内に存在するものすべてが重要な意味を持ち、個々の臓器も、互いに影響しあい、バランスを保って、健康を維持しているのです。
小宇宙である身体を構成し、生命活動の源として働くものは『気・血・水』です。
気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器(五臓六腑)も、うまく働くことが出来、健康でいられると考えます。
○「気」・「血」・「水」について
<気>
気は人間が活動するために必要な基礎物質です。そのため気の働きは様々です。
主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。
<血>
血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます。
ここにも中医学独特の概念があり、血は精神活動の栄養源でもあります。
ですから血の不足は精神不安や不眠を発症させます。
また、身体が熱くなりすぎないように冷却する働きもあります。
<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。
主な作用としては 身体の各部所に潤いを与えたり、血と同様に冷却する働きもあります。
この「気・血・水」の3つが、充分にあり、スムーズに流れていると、健康な状態が保たれます。
これらが停滞したり、不足したりすると、不調をきたし、様々な症状がでてきます。
○臓腑の働き
五臓六腑というのが東洋医学の考える内蔵のことです。
西洋医学のそれとは異なり、中医学では内臓を物体として区別するのではなく、働きで区別 します。
主な働きとして、六腑は飲食物の消化吸収を行い、五臓は栄養分から「気・血・水」を作り、運んだり、貯蔵したりしています。
五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の事で、
六腑は「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」の事です。
各々の臓腑には西洋医学と同じような働きをするものや、全く違う働きをするものもあります。同じ臓腑の名前を使ってはいますが、中医学では臓腑の働きに注目していますので、名前が同じでも、全く同じ物を指しているわけではありません。
今回のテーマで関係深い臓腑は「心」・「脾」・「腎」です。
「心」: 中医学でいう「 心 」は西洋医学と同じ血液ポンプとしての役目に加えて、思考・精神作用の中枢とされています。
心を養う栄養物である血や体液(陰)・気(陽)などが充実していると精神的にもいい状態でいられます。この「陰」は冷やす作用があり、陽は温める作用があって互いにバランスを取り合っています。
「脾」:
1.食べたものをエネルギー(気・血・水)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
この働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能が低下してしまいます。
2.エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
この働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
3.血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。
この働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
「腎」 : 生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。
このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
このエネルギーが足りなくなると、骨や歯がもろくなる、耳が遠くなる、髪が薄くなったり、白髪が多くなったりします。
○タイプ別にみた血尿・血便
【血尿】
1.心火による血尿
主症状: |
小便が赤く熱感がある。 |
随伴症: |
顔面紅潮・喉の渇き・不眠 |
舌脈像: |
舌尖紅・脈数 |
病機 : |
「心」の陰陽バランスが崩れて、陰(冷やす作用)が弱くなった結果 、「心」に熱が起こり、「心」と関係深い「腑」である小腸に熱が移ったため、血尿が起きた。 |
治法 : |
清心瀉火・止血 「心」の陰陽バランスを整えて、熱症状を鎮め、止血する治療をします。 |
2.脾腎両虚による血尿
主症状: |
小便頻回・淡紅色の血尿 |
随伴症: |
倦怠・顔面が黄色っぽい・腰背部がだるい・めまい・耳鳴り |
舌脈像: |
舌質淡・脈細 |
病機 : |
疲労しすぎたり、長く病気をしていたりすると、脾と腎の働きが弱まり、統血作用・固摂作用(必要以上の血液が体外に漏れでないようにする)が弱まり血尿が起こる。 |
治法 : |
健脾益腎・補気摂血 「脾」の働きを良くし、気を補って血が漏れ出ないようにします。 |
【血便】
1.湿熱による血便(血熱内蘊)
主症状: |
便は鮮紅色・先に血が出て、その後便が出る。すっきり排便しない。 |
随伴症: |
肛門の疼痛・腹痛 |
舌脈像: |
舌苔黄膩・脈濡数 |
病機 : |
脂っこいもの甘いもの味の濃いものをとりすぎたり、お酒を飲みすぎたりすることにより、脾胃の働きが悪くなり、「湿熱」※が生じる、または、外界から「湿邪」※が身体に襲来して、これが大腸に移行して損傷が起こり、 血便が起こる。 |
※「湿熱」:飲食の不摂生などにより、湿が内生し、滞って、熱化した状態です。 ※「湿邪」:外因のうちのひとつで、体外から侵入する病因物質。 湿邪の特徴は気機を阻害しやすく脾胃の陽気を損傷しやすい、重濁・粘滞の性質があるなどです。 |
|
治法 : |
清熱化湿・涼血止血 「湿」を身体の外に出し、熱を下げ、止血します。 |
2.脾胃虚寒による血便
主症状: |
下血・色は紫暗色または黒 |
随伴症: |
腹痛・顔色が悪い・精神不振・下痢 |
舌脈像: |
舌質淡・脈細 |
病機 : |
長く病気を患い、「脾」の力が低下し、統血作用(血が対外に漏れでないようにする作用)がうまく働かず、血が腸からもれ出て血便が起こる。 |
治法 : |
温中健脾・養血止血 身体を温め、「脾」の働きを良くして、統血作用(血が体外に漏れでないようにする作用)がうまく働くようにし、止血します。 |
以上のように、中医学的治療では、病気の『原因』を見極め、根本から治していくので、再発しにくくなり、体調も全体的にバランスが良くなっていきます。
体調の不調は身体からのメッセージです。その声をむやみに封じこめることなく、根本を見直し、真の健康に近づいていくきっかけにして下さい。
心の底から明るい笑顔で生活することが出来るようになります。
中医学は身体と心に優しい医学です。是非一度ご相談下さい。
- 2019/03/11
- 【その他】診察シュミレーション 花粉症1
●診察シュミレーション ~花粉症編~ ●
慢性症状・難治病でお悩みの方、真の中医学(東洋医学)、真の診断と治療を理解していただけると思います。
◇はじめに◇
現代医学の発展はめざましいものがあります。
皆さんも病院で検査などを受ければ、その検査データーの精密さや検査機材の進歩にお気づきになると思います。
現代医学では患者さんの病気を調べる手段に様々な検査が用いられております。
例えば、血液検査・レントゲン・CT・超音波・・・など、その症状により様々な検査がございます。
このように医師は検査データーや画像をみて患者さんの状態を把握します。
それに対して鍼灸師は上記の様な検査は一切行いません。
皆さんは鍼灸師が検査機材などを使用しないで、どうして病態を把握することができるのか不思議に思うかもしれません。
しかし、中医学による施術を行っている治療者は、現代医学と同様に患者さんの病態を把握して、治療方針を考えてから治療にあたります。
ただ病んでいる部位や痛い箇所に針を打つだけではありません。
一般的な鍼灸院の言う「東洋医学」と、我々が言う「中医学」とは全くの別 物です。
中医学の治療というのは、先ず「弁証」を立てます。
「弁証」とは簡単に言ってしまえば、患者さんの体の中の、現代医学では出てこないエネルギーバランスの崩れ具合をみて、病気の原因や性質や進行状態などを見極めることです。
「弁証」が立てられたら、それに基づいて治療方針を決め、治療方針が決まったら、それを基に使用するツボを決めていきます。
つまり、治療の第一段階は「弁証」を立てることから始まります。
その「弁証」を立てる手段が『四診』と言われ、現代医学の検査と同様のものです。
『四診』とは「望診」「問診」「切診」「聞診」の総称です。
①「望診」とは、患者さんの顔色や舌の状態みて疾病の状況を判断するものです。
(舌の形状や苔の具合で寒熱や活力量の過不足などを判断します。)
②「問診」とは『四診』の中でも重要な診察法で、患者さん本人や付き添いの方に病気のことは勿論の事、生活状況・家庭環境・性格・睡眠状況・など様々な質問をさせて頂き、そこから疾病の状況を判断するものです。
当院に来院された患者さんはお気づきだと思いますが、当院においても「問診」は重要視しており、初診時には「問診」のみに30分位 かける事も珍しくありません。
③「切診」には〈脈診〉と〈按診〉があります。 |
||
|
1) |
〈脈診〉とは脈拍を診察することですが、現代医学の〈脈診〉と、我々の〈脈診〉とでは内容がやや違います。 我々の脈診は脈拍数や不整脈の他に、脈の強弱・浮き沈み・太い細い・脈の触れ方、などを観察します。 それにより、体の活力具合・体の寒熱などを見極めます。 |
|
2) |
〈按診〉とは患者さんの皮膚・手足・胸腹部などを、撫でたり・押したり・触ったりして、しこり・圧痛・温度・湿り気などを観察します。 |
④「聞診」とは、患者さんの発する声や臭いから、患者さんの疾病の状況を判断します。
上記に挙げた4つの診断法は独立するものではなく、これら全ての方法により情報を収集し、総合的に患者さんの体の中でどのような歪みが生じているのかを振り分けます。
このようにして振り分けられたものが、先程紹介した「弁証」です。
では実際にどの様に『四診』が行われ、どの様に「弁証」を立てていくのかをシュミレートしてみたいと思います。
第一回の今回は「花粉症」の四診をシュミレートしてみたいと思います。
そこで、できるだけ理解しやすいように、東洋医学の基礎的な理論についてと花粉症についての詳しい説明が、こちら『病気別 ・わかる東洋医学診断』の「わかりやすい東洋医学理論」と「花粉症について」に記載されておりますので、そちらを先にお読みになられてから、この後をお読みになることをおすすめいたします。
- 2019/03/11
- 【その他】診察シュミレーション 花粉症2
◇ 問診シュミレーション◇
では早速シュミレートをしてみたいと思います。
初診の患者さんは先ず問診表を書いて頂きます。
問診表には現在の病状を書いていただく箇所と、普段の生活・めまい・耳鳴り・のぼせ、などの有無を答えていただく質問表があります。
質問表は患者さんの症状により、上記の質問の他に20~60位の質問が追加されます。
これらの質問にチェックを入れていただく事により、問診を行う前に治療者は現在の患者さんの病状に加え、患者さんの体質を大まかに把握することができます。
中医学では患者さんの体質を把握するということは、現在の病状を把握することと同等に重要な事だと考えております。
なぜなら中医学は病気を診るのではなく、病人を診る医学だからです。
例えば、風邪という病気は1つしかありませんが、風邪をひいた人(病人)となるとその人の体質に風邪が入っているわけですから、体質+病気=病人、となります。
中医学は病人をみる医学ですから、同じ風邪をひいた場合でも、体質が違えば弁証や治療法が変わってくるのです。
また、中医学では、風邪をひきやすい体質の方であれば、風邪の症状が治まっただけでは完治とは言いません。
このような患者さんの場合で、風邪の症状が辛い時は、先ず、「標治法」と言って風邪の症状を治める治療を行い、ある程度風邪の症状が治まってきた段階で「標治法」から「本治法」に切り替えます。
「本治法」とは風邪をひき易い体質から風邪をひき難い体質に改善します。
そしてこの体質の改善が終了して初めて「根治」といって、いわゆる完治となるわけです。以上のことから、治療者にとっては患者さんの体質を知るということはとても大事なことなのです。
さて、問診表に質問表が付属しているのにも理由があります。
冒頭でも述べましたが、「問診」は「四診」の中でも重要度が高い診察の一つです。
当院でも「問診」にはかなりの時間をかけております。
問診の前に治療者が患者さんの体質を大まかに把握できることにより、問診時間の短縮が可能となります。これは質問表にあった質問を問診時に省くとういうことではなく、質問表をもとに更に深い問診が可能になるということです。
患者さんは何らかの不調があって来られているのですから、問診は出来るだけ短く、正確に、より深く行うのが我々治療者の努めなのです。
さてシュミレーションにもどりましょう。
Ⅰ、治療者は問診に入る前に問診表と質問表に目を通します。
問診表には以下のことが書かれてありました。
男性 21歳 学生 初診日:H19年3月15日
【主訴】
一週間前から、鼻水・鼻の痒み・くしゃみ、がある。
毎年この時期になると同じような症状が出る。
数年前に病院へ行ったところ「花粉症」と判断された。
耳鼻咽喉科で鼻の検査もしたが異常は無かった。
次に質問表を見てみると
軟便傾向・息切れ・落ち込みやすい性格、などにチェックがありました。
Ⅱ、問診表に目を通し終えたら、患者さんに問診室へ入ってもらいます。
入り口から痩身な青年がゆっくり入ってまいりました。
顔色は白くツヤが無く、肌が乾燥しやや荒れているようです。
「こんにちは」と声をかけると、挨拶を返してくれましたが、どことなく声に力が無い感じがしました。
椅子に腰掛けてもらい改めて挨拶を交わしました。
患者さんはとりたてて体臭や口臭は無いようです。
又、目も充血していないようです。
治療者は患者さんが問診室へ入って来る時から先ほど説明した「望診」と「聞診」を開始しており、患者さんから発せられる多くの情報を既にキャッチしています。
具体的には体型・顔色・顔の肌の質感などチェックしています。
更に患者さんの発する声や臭いにも気を配っています。
さてここで、治療者が問診表に目を通してから患者さんが問診室の椅子に腰掛けるまでに治療者がどの様な事を考えていたのか、頭の中を覗いてみましょう。
【1-1問診表】
先ず問診表を見て患者さんの主訴が「花粉症」であることを確認すると、花粉症を引き起す原因には中医学的に何があるのかを考えます。
因みに、「花粉症」という病名はあくまでも現代医学の病名で、中医学には「花粉症」という弁証名は存在しません。
西洋医学では花粉症はアレルギー疾患の1つとして考えます。
当然アレルギーを引き起こす誘発物質はスギなどの花粉です。
中医学では花粉の様に、体の外から体内へ侵入して病気を引き起こすものを外邪と言います。
「花粉症」を引き起こす外邪は主に「風寒」「風熱」「燥熱」などがあります。
更に「花粉症」と関係の深い臓器には「肝」「脾」「肺」「腎」などがあります。
これらの臓器に何らかの損傷が起こると「花粉症」を引き起こすことがあります。
逆を言えば、「花粉症」の患者さんはこれらの臓器のどれかが損傷していることが多いわけです。
(外邪や臓器・花粉症について、詳しくは当HP『病気別・わかる東洋医学診断』の「わかりやすい東洋医学理論」「花粉症について」を参照して下さい。)
さて、もう一度「花粉症」を引き起こす外邪をよくみてみましょう。
「花粉症」を引き起こす外邪は、「寒」の性質のもの(風寒)と、「熱」の性質のもの(風熱・燥熱)の大きく2つに分けられます。
患者さんがどの外邪を受感したのかを判別する場合は、「寒」「熱」では現れる症状にそれぞれ違う特徴がありますので、先ず「四診」により「寒・熱」の判別 をしていきます。
その結果、もし「熱」の症状が認められれば、次に「風」と「燥」の症状の特徴をやはり「四診」により判別 をし、最終的に受感した外邪を特定していきます。
損傷を起した臓器についても同様に「四診」により各臓器それぞれの特徴ある症状を判別 して損傷している臓器を決定していきます。
問診表を見てみると
主症状は鼻水・鼻の痒み・くしゃみ、です。
これは「花粉症」の代表的な症状であります。
中医学的にみれば「肺」の機能失調時によくみられる症状です。
更に問診表を読み進めていくと、
毎年同じ時期に、同じような症状が出て、病院では「花粉症」と診断されています。
さらに鼻には器質的な異常が無いとなっています。
これは中医学的にみれば、季節的な外邪による病気の可能性をしめしています。
更に発病の時期をみてみると毎年春に発病をしています。
外邪には「風邪(ふうじゃ)」「熱邪」「燥邪」「湿邪」「寒邪」「暑邪」の6種類があり、この中で特に春に現れやすいのが、「風邪(ふうじゃ)」です。
ですから今の段階では季節的な外邪(風邪)の受感による病症の可能性が高いというところまでわかりました。
しかし、今の段階ではまだ情報が足りませんのであくまでも可能性があるというだけです。
【1-2質問表】
さて、問診表により患者さんの主訴がわかり、季節的な外邪(風邪)の影響による可能性が高いところまでわかったところで、次は質問表に目を通 します。
この質問表では、主に患者さんの体質や現在現れている病状の性質を大まかに掴むことができます。
勿論、患者さんによって詳しく書いてくださる方や、そうでない方もいらっしゃいますし、体質が現在の病状に隠されてしまい、患者さんの体質がわからない場合などもありますので、必ずしも質問表で体質や現在現れている病状の性質がわかるものではありません。
さて、それでは質問表のチェック項目を見てみると
「寒がり」・「軟便傾向」・「息切れ」・「おちこみやすい性格」、にチェックがされています。
A、「寒がり」
寒がりには患者さんの体質を表わす場合と、病状の性質を表わす場合
の2つの意味合いがありますので、この後の問診の際に更に確認する必要があります。
今の段階では体質的には体を温めるエネルギーが不足している「気虚」か、それが更に進行している「陽虚」の可能性と、病状の性質的には「寒性の病性」の可能性があります。
B、「息切れ」
息切れは、エネルギーが不足している「気虚」状態の時に現れる症状です。
特に「肺」や「心」の機能失調時の症状です。
この患者さんの主症状を考えると「肺」の機能失調の可能性が高そうですが、これも後ほど問診で確認しましょう。
C、「軟便傾向・落ち込みやすい性格」
軟便や落ち込みやすい性格は「脾」の機能失調の可能性を意味します。
脾の働きの1つに消化があります。脾が損傷され消化能力が低下すると軟便傾向になります。
又、エネルギーは飲食物から作られます。したがって消化能力が低下すると、エネルギーが作られず、「気虚」になってしまいます。
尚、過度な思い悩みは脾を損傷させてしまいます。
ですから、落ち込みやすい性格の人は脾を損傷させている人が多いのです。
問診表から、この患者さんは「風邪(ふうじゃ)」の受感による病症の可能性が高いと考えられます。
次に質問表を考慮すると、「風寒」の受感の可能性も考えられます。
体質的にはエネルギーの不足である「気虚」がある可能性も考えられます。
又、臓腑の失調については、今のところこの患者さんは「肺」か「心」及び「脾」の機能低下がある可能性も考えられます。
治療者は以上のことを頭にいれて問診を始めていきます。
【2-1入室~着座】
患者さんが入室してきた時から「望診」と「聞診」は始まります。
ではこの患者さんの場合はどうだったでしょうか?
A 痩身である。 B 顔の肌が乾燥しやや荒れている。 C 顔色が白い。
D 声に力がない。 E、目の充血はない F、口臭・体臭はない
以上6点をチェックしています。
A、痩身
痩身をきたす原因は「気虚」「血虚」「陰虚」など沢山ありますが、問診表と質問表から考えると、「脾気虚」により栄養が吸収されず痩せている可能性が考えられます。
B、顔にツヤが無く、肌が乾燥しやや荒れている。
これは「肺」の機能失調を表わします。
「肺」は宣発といって、体表へ「気・血」といった、栄養や潤いなどを散布しております。
「肺」が損傷したことにより宣発能力が低下すると、栄養や潤いなどが体表へ散布されず皮膚の乾燥や肌荒れが起こります。
C、顔色が白い
顔色が白い原因は「血虚」など幾つかありますが、今までの経過からすると、この患者さんの場合は「肺」の宣発能力の低下により、血が顔まで行きと渡らなくなっている可能性が考えられます。
D、声に力が無い
中医学では発声は「肺」の働きが深く関与していると考えます。
ですから「肺」が失調することで、声に力が無くなってしまうことがあります。
E、目の充血はない
目の充血は熱症状を意味します。
ですから「花粉症」の場合、目の充血は外邪の種類が「風熱」の可能性を意味します。
この患者さんの場合は目が充血していないので、今の段階では風熱の可能性はまだありません。
しかしこれは今の段階の話で、これだけで風熱の否定にはなりませんので、 問診で再度確認する必要があります。
F、体臭・口臭はない
体臭は様々な病状を現します。治療者は体臭の種類によってその患者さんの失調している臓腑の情報を得ることが出来ます。
又、口臭は胃に熱がこもるとおこります。
この患者さんは特に臭いがありませんので、特に情報は得られません。
以上のことから、この患者さんに「肺」の失調がある可能性がかなり高いということがわかります。
それ以外については、まだ特に決定的な判断材料はありません。
治療者が問診表を見てから患者さんが着座するまでに、どの様なことを考えているかがおわかりになったと思います。
それでは、いよいよ問診の様子を見てみましょう。
- 2019/03/11
- 【その他】診察シュミレーション 花粉症3
Ⅲ、先ずは具体的に主症状(鼻水・鼻の痒み・くしゃみ)について質問をしたところ、次のような答えが返ってきました。
A)鼻水はそれほど激しくはない。
B)鼻水は透明でサラサラして、粘調又は黄色ではない。
C)くしゃみが連発する。
D)冷たい風にさらされると症状が悪化する。
E)疲れると症状が悪化する。
Ⅳ、次にその他の「花粉症」の症状について質問をしたところ、
次のような答えが返ってきました。
A)粘調又は黄色の痰や目ヤニは無い。又目や鼻や咽に痛みや熱感も無い。
B)激しい鼻づまりはない。
C)熱い所・暑い日・温風に当たっても症状は変わらない。
D)咽や鼻の乾燥感、から咳も無い。
Ⅴ、最後に随伴症状について質問をしたところ、患者さんからは次のような答えが返ってきました。
A)風邪をひきやすい・B)食欲がなく胃下垂がある。又むくみやすい・疲れやすい
C)寒がりではあるが、冷え症では無い。便に未消化物は混じらない。
D)性機能や聴力は正常で腰や膝にだるさや痛みは無い・E)家族に花粉症はいない。
G)鼻・目・耳・咽などに閉塞感は無く、ストレスが加わっても症状は特に変化しない。H)怒りやすくもない。
以上が今回の問診の患者さんの答えです。
?、最後に脈診と舌診をしました。
脈は力の無い脈で、脈速はやや遅めでした。
舌は白っぽく、ボテット膨らんだ感じでした。
では、患者さんの答えや、脈・舌から、治療者がどの様に弁証を立てるのか
又、治療者の頭の中を覗いてみましょう。
【3-1主症状についての問診】
先ず、主症状について詳しく質問をしています。
患者さんの答えから何がわかるか説明しましょう。
A)鼻水はそれほど激しくはない・D)疲れると症状が悪化する。
中医学では、一般的に激しい症状が「実」の症状で、緩慢な症状が「虚」の症状と考えます。
鼻水が激しくないということですから、症状は緩慢であるといえますので、「虚」の症状ととらえることができます。
又、疲れると症状が悪化するのも「気虚」の症状の特徴です。
これらは、先程の問診表や望診などで考えられてきた「気虚」の裏づけの1つの情報となります。
次に、
B)鼻水は透明でサラサラして、粘調又は黄色ではない。
C)くしゃみが連発する。
D)冷たい風にさらされると症状が悪化する。
以上の3点とも、主症状が「寒」の性質をもっていることを表わします。
これはそのまま外邪の性質に置き換えられます。
因みに鼻水が粘調又は黄色である場合は熱の症状になります。
さて、【1-1問診】の説明を思い出してください。
治療者は問診表や質問表から外邪の種類は「風邪(ふうじゃ)」か「風寒の邪」の可能性が高いと考えていました。
この問診で外邪が「寒」の性質であることがわかったことにより、この患者さんが受感した外邪が「風寒」の可能性が高いことが見えてまいりました。
しかし問診は正確に慎重に行わなければなりませんから、次は「風寒」以外の邪の症状があるかを患者さんに尋ねて、それらの症状が無いことを確かめて、初めてこの患者さんは「風寒」の邪を受感したと決定できるのです。
そこで次は主症状以外の「花粉症」の症状をみてみましょう。
【3-2主症状以外の花粉症の症状についての問診】
先ず、A)B)C)の質問ですが、
粘調又は黄色の痰や目ヤニの有無・目や鼻や咽に痛みや熱感、激しい鼻づまりの有無・熱い所・暑い日・温風に当たった時の症状の悪化の有無を訊ねています。
これらは全て「熱邪」の症状の特徴です。
患者さんはこれらの症状は無いと答えておりますから、上記の問診で「熱邪」は否定されました。
次に、D)の、咽や鼻の乾燥感、から咳の有無についての質問ですが、
これは「燥邪」の症状の特性です。
この患者さんの場合「燥邪」の可能性は低いのですが、念のために確認しております。
患者さんは上記のような症状が無いと言っておりますので「燥邪」の可能性も無いと言ってよいでしょう。
これで、「熱邪」と「燥邪」が否定されましたので、患者さんは「風寒の邪」を受感したと考えてよいでしょう。
さて今までで患者さんについてわかったことをまとめてみましょう。
この患者さんは季節性の「外邪」を受感したものと考えられます。
「外邪」の種類は「風寒の邪」です。
また、体質的にはエネルギーの不足である「気虚」の可能性が高いと言えます。
しかし、今の段階では「気虚」の可能性があるのはわかっていても、どの臓器のエネルギーが不足しているのかまではわかりません。
そこで、これ以降の問診では随伴症状の質問をしながらどの臓器が虚しているのかを探ってゆきます。
【3-3それ以外の随伴症状についての問診】
随伴症状は、闇雲に探ってゆくわけではありません。
しかし質問の仕方は各先生によって様々ですので、今回は先ず、問診表の説明で登場した「花粉症」に関連のある臓器をから質問していきます。
その中でも、今のところ一番可能性が高そうな「肺」から質問を開始してみました。
患者さんは、A)風邪をひきやすいと答えております。
これは「肺気虚」の典型的な症状です。
今までの問診や望診や聞診でも「肺」の可能性は高かったので、このへんでこの患者さんは「肺気虚」があると考えて間違いないでしょう。
次にほかの臓腑もチェックしていきます。
B)食欲がない・胃下垂・むくみやすい・疲れやすい、などの症状があります。
これは「脾気虚」の症状です。
今までにも「脾気虚」の症状は幾つかありましたので、この患者さんは「肺気虚」の他に「脾気虚」があると考えてもいいでしょう。
尚、「脾気虚」は進行すると「脾陽虚」になりますので、次はそこも確認しなければなりません。
それについての質問の答えがC)の、寒がりではあるが、冷え症では無い。
便に未消化物は混じらない。になります。
これによってこの患者さんは、冷えはあるものの「脾陽虚」までは進んでいないと判断できます。
次の答えは、D)性機能や聴力は正常で腰や膝にだるさや痛みは無い・E)家族に花粉症はいない。であります。
この答えは、腎についての質問の答えになります。
腎は性機能や遺伝に関わる臓器です。又、耳・腰・膝とも深く関与します。
腎についての質問は全てその症状がありませんので、この患者さんの腎は正常といえます。
次は、G)鼻・目・耳・咽などに閉塞感は無く、ストレスが加わっても症状は特に変化しない。H)怒りやすくもない。です。
これは肝の症状についての質問に対しての答えです。
本来「肝」が関与する基本病理は「気滞」によるものですから「実」の性質です。
この患者さんは明らかに「虚」の病症が出ておりますが、「虚」と「実」が混雑する場合もありますので、「肝」の質問をしています。
しかし患者さんの答えは「肝」の症状は無いと言っております。
したがって随伴症状を総合すると、この患者さんは「脾」と「肺」のエネルギー不足があるようです。
大体、弁証が組み立てられてきました。
最後に脈診と舌診をして、弁証が間違っていないか最終確認をします。
この患者さんの脈は力がありませんでした。力の無い脈は「気虚」を意味します。
次に脈の速さは「寒・熱」を表わし、遅い脈は「寒」を表わします。
次に舌ですが、白い舌はやはり「寒」を意味し、ボテット膨らんだ舌は「気虚」を意味します。
脈診や舌診の結果も問診と一致しましたので、最終確認も出来ました。
今までの四診を総合すると、この患者さんの弁証は「脾気虚」と「肺気虚」の両方がありますので弁証名は『脾肺気虚』となります。
更に、今の患者さんの病状は、体質的に『脾肺気虚』があったところに「風寒の邪」を受感し、現在の症状が発症したと考えられます。
ではどの様な機序を経て、現在の症状が発症したのかを簡単に説明したいと思います。
この患者さんの体質は『脾肺気虚』ですから「脾」と「肺」のエネルギー不足があります。
「脾」の働きの1つに「運化作用」があります。
「運化作用」とは食べた物をエネルギーに変え、全身へ運ぶ作用です。
「脾」はエネルギーを作り出し全身へ運ぶ仕事をしているのです。
更に「脾」のエネルギーを全身へ運ぶ仕事の手助けをしているのが「肺」の「宣発・粛降作用」です。
つまり、エネルギーは「脾」によって作られ、「脾」と「肺」によって全身へ運ばれます。
ところで、脾によって作られるエネルギーには幾つかの種類があります。
その中の一つに「気」があります。さらに「気」にも幾つかの種類や働きがあり、その中の一つに「衛気」があります。
「衛気」の働きの中には「防衛作用」といって、外邪が体に侵入しようとするのを防ぐ働きがあります。
この「衛気」は「肺」の「宣発作用」によって体表へ運ばれることによって、はじめて「防衛作用」を果 たすことができるのです。
「脾気虚」になってしまうとエネルギーが作られなくなります。その結果 「気」の生成能力が低下してしまい「衛気」の不足につながります。
更に、この患者さんは「肺気虚」もあります。「肺気虚」は「宣発作用」の低下をまねき、「衛気」が体表へ運ばれづらくなってしまいます。
この結果、「防衛作用」の低下が起こり、外邪の侵入が起こりやすくなってしまいます。
ですから「肺気虚」の方は風邪をひきやすくなってしまうのです。
この患者さんの場合も同様に風邪をひきやすいと言っておられます。
更に風邪だけに限らずその他の外邪の受感もしてしまいますので、毎年同じ様な症状に悩まされてしまうのです。
さて弁証が立てられた時点で基本的に問診は終了です。
患者さんには施術に備えて治療室へ移動をしていただき、ベッドに横になってもらいます。
その間に治療者は治療方針と使用するツボを決めなければなりません。
先ず最初に考えるのが治療方針です。
皆さんならどの様な治療方針を考えますか?
患者さんの主訴は、「鼻水・鼻の痒み・くしゃみ」です。
今、患者さんを苦しめているのは上記の三つの症状ですから、先ずはこれらの症状を取り除くことが最優先になります。
これらの症状を引き起こしているのは「風寒の邪」ですから、今回の治療は「風寒の邪」を体から追い払う治療と「肺」のエネルギーを上げる治療が主になります。
これが冒頭に出てきた「標治法」になります。
その後上記の症状が治まったら「本治」である「肺」と「脾」のエネルギーを高める治療に切り替えていきます。
最後に治療法が決まれば、それに沿ったツボを選択します。
問診が終わって針を打つまでに治療者の頭の中では上記の様なことを考えています。
我々はこのようにして弁証を立てております。
このような過程は決して珍しいことではなく、中医鍼灸ではごく普通 のことであります。
中医学の治療は『理・法・方・薬(穴)』という大原則にのっとって行われます。
「理・法・方・薬(穴)」とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。
「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。
「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。
「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。
「薬(穴)」とは薬やツボの知識をさします。
つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われるのです。逆を言えば、「理・法・方・薬(穴)」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。
以上のことから、いい加減な問診であったり、痛い所やコリが在る所や病んでいる所にのみ針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。
人を治すには、それなりの理論や手順を踏まないと決して結果はでません。
ましてや、慢性症状を治療するには尚のこと繊細な弁証が必要になってまいります。
当院は患者さんと伴に病を治していこうと考えております。
真剣にお悩みの方は、お気軽に当院までご相談ください。
我々も誠意を持ってお答えいたします。
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