【変形性膝関節症について】
近年の高齢化社会にともなって、“膝痛”の人が増え続けています。
膝は歩く時に重力のバランスを調節したり、その際の地面からの衝撃のショックを和らげる役目をしている重要な関節です。
統計的に、男性より女性の方が多いようです。
60歳以上では、女性の40%、男性の20%が変形性膝関節症と診断されています。
では、始めに膝関節について説明します。
骨と骨が連結している部分を関節と呼びますが、膝関節は大腿骨と脛骨、膝蓋骨で構成されています。常に曲げ伸ばしをして体重を支えていて、階段を降りる時には体重の3倍もの荷重がかかると言われています。
このように負担がかかっても、大腿骨と脛骨が擦り減ったり、痛んだりしないのは、骨が擦り合う部分を“関節軟骨”が覆ってクッションの役割をしているからです。また、関節軟骨が擦り切れないように、大腿骨と脛骨の間には“半月板”が挟まり、複数の“靭帯”が骨と骨をつなぎ留め、さらに筋肉が膝関節全体を支えています。
また、膝関節を包んでいる関節包の内側にある滑膜細胞から“関節液”が分泌されて、関節の潤滑剤として働き、半月板や軟骨に栄養を与え新陳代謝を促して不要になった老廃物を運んで処理します。
では、何故、変形性膝関節症が起こるのでしょうか?
●現代医学的な捉え方●
関節軟骨は新陳代謝を繰り返して弾力性を保っていますが、加齢とともに代謝が低下し、弾力性が失われ次第に擦り減っていきます。
少しずつ膝関節にかかる負担が増して、骨と骨が直接ぶつかり合うようになります。この状態が続くと軟骨の表面 に裂け目ができ、剥がれ始めます。この軟骨のカスを除去しようとする過程で関節に炎症や関節液の過剰分泌(水が溜まる状態)が起きてきます。
こうなると膝関節は腫れて痛み、歩行がつらくなります。
骨同士がぶつかり合ううちに、トゲのような骨(骨棘といいます)が現れたりすると更に痛みが悪化します。
“痛い→歩かない→筋力低下により関節の負担増→痛みが悪化する”、という悪循環に陥ります。このように、膝関節の破壊に伴って炎症を起こし、膝の腫れや熱感・痛みが現れ、体重や身体の動きによって生じるストレスが長い間膝に作用して膝関節の軟骨を壊し、ゆっくり骨の変形が進んでいく疾患が“変形性膝関節症”です。
(原因)
“加齢”によるものの他に、“肥満”“外傷”“激しいスポーツ”“疾患、代謝異常”などがあります。
(症状)
最初のうちは、立ち上がったり、歩き始めるなどの“動作開始時痛”が典型的な初期症状です。病変の進行に伴って、歩行時痛、階段昇降時痛(特に降りる時が痛む)、可動域制限、腫脹、熱感、変形、関節周囲の筋肉の萎縮が出現して、常に痛むようになっていきます。
(現代医学的な治療)
◇ 理学療法・・・・温熱療法で血行改善をし痛みを和らげたり、筋肉トレーニングで関節を支える筋肉を鍛えます。
◇ 薬物療法・・・・痛みに対して、抗炎症剤・鎮痛剤があります。痛みがひどい時は、関節液を抜いたり、ステロイド剤や関節軟骨保護剤を関節に注射します。
◇ 手術・・・・・・人口関節置換術や脛骨高位骨切術などがあります。
● 中医学的な捉え方●
中医学とは、「中国伝統医学」のことです。
中医学には、体を一つの統一体として考える、という独特の視点があります。
人間は自然の一部として存在していて、自然の一部であると同時に人間の体の中にも自然界の要素がそのまま揃っているという考え方です。
根底にあるのが、“陰陽五行説”です。先人たちは、自然界のすべてのものが“陰と陽”に分けられると考えました。例えば、“暗いと明るい”“湿りと乾燥”“重いと軽い”などです。
陰と陽は、互いに対立し、かつ影響し合うものとしています。
そして、自然のものは、その性質によって“木・火・土・金・水”の5つの要素に分けられると考えました。5つの要素は互いに生かし生かされつつ、自然界全体を絶妙なバランスに保たせていると考えました。
中医学は調和を大切にした学問です。現象面にとらわれるだけでなく、根本的な調節を行なうことが大切であり、現代医学とは違う角度から体を見つめる医学なのです。
中医学では、人間の体を診るときには“気・血・津液”“五臓六腑”の状態に注目します。
“気・血・津液”は、人体を構成する物質であり、臓腑とともに体の生理機能を維持する働きがあります。“気・血・津液”は“五臓六腑”の働きによって生成と代謝されており、“五臓六腑”は“気・血・津液”によって滋養されているのです。
中医学では、この“気・血・津液”が必要なだけあり、“五臓六腑”に必要なだけ行き渡りスムーズに流れていることが健康(中庸)な状態と考えています。
つまり、病気とは何らかの原因(病因)によって、“気・血・津液”に過不足が起こり、“五臓六腑”に影響を及ぼし、スムーズに流れていない状態なのです。
現代医学で言うところの、“診断・治療”を、中医学では“弁証論治”といいます。
四診(望診・聞診・問診・切診)と呼ぶ独特の診察方法で患者さんから情報を収集し証を決め、これを弁証といいます。証にしたがって治療方針をたてることを論治といいます。
弁証論治には、独特の言葉が使われるので慣れないと違和感があると思いますが、何の病因が、何を障害して、どのようになっているのかを見極めることなのです。
証が決まれば、治療方針(治則)が用意されています。同じ症状であっても、原因や障害を受けている部位 によって証は異なります。証が異なれば、治則も異なります。
患者さんの症状をきちんと把握し、適切な弁証論治を行なうので、対処療法を主とする現代医学とは異なったアプローチが可能となります。
前置きが長くなりましたが、変形性膝関節症について考えてみたいと思います。
中医学には、変形性膝関節症という証はありません。痛み方などの症状や患者さんの体質などによって証を立てていくことになります。
まず、“気・血・津液”のどれが障害されているのでしょうか?
これは、主に“津液”が考えられます。
津液は、体内にある必要な水分で全身を潤し、関節、靭帯、筋肉に潤いをあたえ、動きを円滑にする作用があります。津液は不足することでも、また流れが悪くなり停滞することでも障害が起こります。
津液に係わりの深い臓器は、“脾”“肺”“腎”があり、協調して生成・運搬・排泄を行なっています。これらの臓腑のどの生理機能が失調しても障害が起こります。
病因には、外因(風・寒・湿・熱・火・暑・燥)という季節や環境によるもの、内因(心理状態)、不内外因(飲食の不摂生、外傷、過労、運動不足など)がありますが、特に外因の寒・湿が大きく影響します。
では、代表的な証をあげてみます。
◆ 湿熱証・・・・ |
津液(水分)が停滞し、水湿の邪に変化したことで起こります。加えて熱性を持つと湿熱といいます。症状は、膝関節が赤く腫れる、灼熱感のある痛み、膝が動かしにくい、重く痛む、関節を冷やすと楽になる、尿が黄色く濁る、舌の色が紅い、舌苔が黄色く厚い、など。 (治則)“清熱化湿”・・・熱を冷まし、湿を取り除く治療です。 |
◆ 寒湿証・・・・ |
水湿の邪に寒性をもったものです。症状は、膝関節が冷えて痛む、腫れる、気候の寒さや雨で痛みが強くなる、患部を温めると楽になる、舌の色は淡く白っぽい、舌苔は白く厚い、など。 (治則)“散寒化湿”・・・冷えをとり、湿を取り除く治療です 。 |
◆ 肝腎陰虚証・・ |
肝と腎は互いに協調し合っています。肝陰(血)が不足すれば 腎陰(精=生命のエネルギー)も不足し、腎陰が不足すれば肝陰も不足します。 慢性病や肉体疲労、加齢(老化)により、両者のバランスが崩れ症状が現れます。 腎陰は脳・骨・髄を滋養する作用があり不足すると、筋骨が滋養されないため足腰がだるくなり、筋肉の萎縮が起こります。舌の色が紅く、裂紋がある、舌苔は薄くて白いか黄色く乾燥、など。 (治則)“滋養肝腎”・・・肝腎の精血を滋養して内熱を冷ます治療です。 |
◆ 脾腎陽虚証・・ |
腎陽は陽気をつくる源で、全身の温煦作用(温める作用)を促進します。津液を蒸化し津液の代謝障害を抑制しています。また、津液を温めることによって水邪の氾濫や水湿の内停を防ぐ働きもあります。腎陽は脾陽を温煦し、脾の運化作用(消化・吸収・輸送)を助け、また、脾の運化作用によって腎精(生命エネルギー)が補充されます。慢性疾患、疲労倦怠などから水邪が長期間体内に停滞することによって腎陽虚(腎陽が不足)となり、これに脾陽虚が加わり症状が現れます。腰膝が軟弱無力となり冷えて痛みます。舌の色は淡く、舌苔は白く滑らか、など。 (治則)“温補脾腎”・・・腎を温めて脾を健全にする治療です。 |
◆ 日常生活で気を付けること◆
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膝を冷やさないようにする(冷えて痛みが増す方) 運動で筋肉を強くする、または維持をする・・・プールで歩いたり泳いだりするのが一番膝への負担が少なく、筋肉がつけられます。 食生活の改善・・・食生活を改善することによって体重を減らして膝への負担を少なくします。また、体を冷やす食品は避けましょう。冷たい飲み物生野菜、生魚、コーヒーや緑茶も体を冷やします。 |
以上が、中医学的“変形性膝関節症”の捉え方と治療法になります。
勿論、これだけではありませんが、少しでも中医学的なアプローチがご理解頂ければ幸いです。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。