コラム

2019-03-12
【小児科疾患】夜尿症

今回のテーマは夜尿症です。別な言い方としては「遺尿」とも言います。

「夜尿症」の定義としては、4~5歳のお子さんが寝ている間に起こる付随意の排尿のことを言います。

数字的には、女児より男児の方が2倍多いと言われております。

では早速、いつものように現代医学の観点から「夜尿症」を紹介してゆきましょう。

 

☆☆現代医学から診た夜尿症☆☆

先ずは、尿量調整や膀胱の貯尿量についての話から始めましょう。

皆さんもご存知のように、尿は腎臓で作られます。

腎臓で作られた尿は膀胱で一定量になるまで貯められ、尿量が一定量 に達すると尿意をもようし尿道を通過して体外に排尿されます。

腎臓で作られる尿量を決める要因としては、水分摂取量・塩分摂取量 ・腎臓の尿を作る働きを抑制するホルモン(抗利尿ホルモン)などがあります。

水分や塩分摂取量が多いと尿量は増え、抗利尿ホルモンの分泌が多いと尿量 は減ります。

 

実はこの仕組みが、昼と夜間睡眠中とでは以下のように変化が起こります。

①夜間睡眠中は抗利尿ホルモンが昼間の約2倍分泌されます。

②夜間睡眠中は自律神経の調節により、膀胱の大きさが昼間の約1.5倍になります。

 

以上の変化により、夜間睡眠中は腎臓で作られる尿量が昼間の60%に減少し、 膀胱の貯尿量も増量します。

この変化のおかげで、我々は夜間睡眠中の尿意も無く「おねしょ」もせずに、 グッスリと眠れるのです。

そしてこの身体の仕組みが完全に作られるのが、個人差はありますが3~4歳頃と言われております。

以上の事から、通常は3~4歳を過ぎたお子さんは、夜間睡眠中の尿量 の減少が起こり、更に膀胱の貯尿量が増加することにより、朝までおしっこを膀胱に貯めておくことが出来るようになります。

 

つまり、夜尿症は上記の尿量と膀胱の貯尿量のバランスが崩れて起こると言えます。

通常は睡眠中に尿意は発生しているのですが、お子さんは睡眠が深いために、 それに気付かず排尿してしまうのです。

夜間睡眠中の尿量減少が起こらないのは抗利尿ホルモンの分泌不足、膀胱貯尿量 の増量不足は自律神経のアンバランスが原因です。

では、何故そのような事が起こるのか、その原因を紹介しましょう。

 

☆尿量と貯尿量のバランスを崩す原因(夜尿症の原因)☆

① 早すぎるトイレ・トレーニングや強制的過ぎる場合。

お子さんが膀胱を抑制できるようになる年齢は個人差がありますが、通 常3歳以前ではトレーニングができる状態ではありません。

この様な時期にトイレ・トレーニングを開始したりすると「夜尿症」を発生させることがあります。

② 膀胱の筋肉の発達の遅れや、尿量が多い時にその圧力に耐え切れない場合。

③ もともと膀胱の容量が少ない

④ 睡眠が深い

⑤一時的な退行現象によるもの

⑥ストレスなどからくる適応障害の一種として発生するもの

⑦身体の冷えによるもの

⑧習慣性の多飲や塩分の過剰摂取

⑨糖尿病によるもの

⑩尿路感染によるもの

⑪脊髄の損傷によるもの

⑫尿路や生殖路の先天的奇形によるもの

などがあげられます。

但し、身体的な理由で「夜尿症」が起こることはまれであります。

 

☆夜尿症の分類☆

さて、夜尿症は先程の尿量と貯尿量のバランスの崩れ方から分類することができます。

そしてこの分類によって治療法が異なります。

 

▼ 多尿型・・・尿量の多いタイプです。原因の殆んどが抗利尿ホルモンの分泌不足ですが、塩分摂取量 過多の場合もあります。

(前者はうすい尿が、後者は濃い尿が多量に出ます)

▼ 膀胱型・・・膀胱の貯尿量が少ないタイプです。

(膀胱の容量が夜間のみ少ない場合と、昼夜共に少ない場合があります)

▼ 混合型・・・「多尿型」と「膀胱型」の両方の要因があるものです。

 

治療としては、先ず身体的原因がないかを検査します。

もし、そのような原因であればそちらの治療を行います。

身体的原因がない場合は

①薬物治療

②行動療法

③心理療法

④生活指導

⑤アラーム療法

⑥低周波電気刺激療法等   などが行われます。

 

簡単ではありますが、以上が現代医学から診た「夜尿症」の説明になります。

次に中医学から診た「夜尿症」の説明に入りましょう。

 

 

☆☆中医学から診た夜尿症☆☆

** 初めに ** 中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。

それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては、非常に難解で馴染みづらいものであります。

そこで、先ず、中医学による夜尿症の説明を読まれる前に、当HPの「わかる東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。

これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかる東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さいませ。

 

さてここでは、中医学による夜尿症を理解するために、「わかる東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。

 

☆ 夜尿症を理解するために必要な基礎知識☆

《陰陽》

陰陽の概念については既に皆さんはイメージが出来ていると思いますので、ここでは主に遺尿に関係のある陰陽の分類について紹介します。

○ 「気・血・水」

気血水も陰陽に分類することができるのです。

「気」は陽に属し、「血」と「水」は陰に属します。

○ 「昼・夜」

昼が陽に、夜が陰に属します。

 

《気》

「気」は「血」と「水」と伴に、人体を構成する基礎物質であり、健康な身体は「気・血・水」が適量 でスムースに流れていなければなりません。

ところが何らかの原因により「気」が不足を起こすことがあります。

この状態を「気虚」といいます。

「気」とは一種の生命エネルギーで各々の臓腑が持っているものなので、各臓腑ごとに気虚を起こします。

遺尿の原因には腎の気の不足(腎気虚)・脾の気の不足(脾気虚)・肺の気の不足(肺気虚)などがあります。

 

《臓腑》

臓腑とは内臓のことでした。

中医学で考える内蔵の働きと、現代医学のそれとはだいぶ違いがあることはもう皆さんはご存知のことと思います。

ここでは夜尿症に深く関係のある臓腑について少し説明してゆきます。

先ず、各臓腑の説明に入る前に、中医学が考える人体内の水液代謝と、それに関わる臓腑について説明します。

水液代謝についても、中医学独特の考え方をしますので、皆さんの常識は一度封印してこれから先をお読み下さい。

 

①、 口から入った飲食物(水分)は胃に送られ小腸に送られます。

②、 小腸は運ばれてきた飲食物(水分)を人体に必要な物と不必要な物に分けます。

その後、必要な物は脾に送られ、不必要な物の中で水液は膀胱へ、そうでない物は大腸へ送られ、排出されます。

③、 脾は小腸から送られてきた体に必要な物から有益な水液を吸収し肺へ送ります。

④、 肺は送られてきた水液を全身へ行き届かせます。

肺は身体の中では比較的上の方にありますので、水液を全身へ行き届かせるには都合がよいのです。

⑤、 全身を巡ってきた水液は腎臓に集められます。

そこで再利用出来る物は再吸収し、再度肺に戻します。不要な物は膀胱に送ります。

⑥、 膀胱へ送られてきた不要な水液は尿に変えられ排出されます。

また、膀胱へ運ばれる前の不必要になった水液は汗として排出される場合もあります。

 

これが大まかな体内の水液代謝の流れになります。

このように体内に入った水液は必要な物は再利用され、不必要な物は汗や尿として排出されます。

水液代謝に関わる主な臓腑は今の説明に出てきた脾・肺・腎が主役となり、それを補助する臓器として三焦(さんしょう)・膀胱・肝・心などが関与してまいります。

三焦とは、水液が流れる通路みたいなもので、現代医学には存在しない物です。

それでは次に各臓腑について説明してゆきましょう。

 

<腎>

腎は夜尿症にとってとても繋がりの深い臓器ですので、しっかりイメージを作ってください。

腎は「水を主る」と言われ、体内の水液代謝には大切な臓器です。

腎は全身を巡ってきた水液を必要な物と不必要な物にわけ、それらを吸収して肺に戻したり、膀胱へ送ったりしています。

更に、先程説明した水液代謝は全て腎の気化作用によって保たれております。

そしてこの気化作用を支えているのが腎陽というものです。

これは、腎の働きを「陰」と「陽」で分けた場合の「陽」の働きを指すことばで、身体を温める働きである「温煦作用」をさします。

ですから体内の水液代謝は腎の「温煦作用」によって支えられていると言っても過言ではありません。

そういったことから『腎は水を主る』と言われるのです。

この他に腎は「蔵精を主る」と言われます。

精とは広義の意味と狭義の意味がありますが、広義の精とは人体を構成し人体の各機能を支える基礎的な物質であります。

簡単に説明すると生きるために必要なエネルギーとイメージして頂ければよいかとおもいます。

狭義の精は生殖や発育を主ります。

精には「先天の精」と「後天の精」の2つがあります。

「先天の精」は両親から受け継ぐ精です。

ですから、赤ちゃんが母親から生まれ出た時にはしっかり赤ちゃんの身体の中に蔵されております。

それに対して「後天の精」は、飲食物から作られます。

これらの精は腎で貯蔵されますので、腎は「蔵精を主る」といわれるのです。

そして腎の中に蔵されている精を「腎精」と言います。

ところが、生まれつき「先天の精」が通常より少なく生まれてくるお子さんがいます。

この様な状態を「先天不足」といいます。

「先天不足」は腎の機能低下を起こすことがあり、これにより腎陽が不足して遺尿が起きることがありますので覚えておいてください。

又、腎は「骨を主り髄を生じる」と言われます。

先程説明した腎精には髄を生じる作用があります。

髄は骨を滋養しておりますので、腎精の不足は骨の滋養不足をまねきます。

さらに骨髄の不足は「腰膝酸軟腰(ようしつさんなん)」といって、腰や膝をだるくさせたり、痛みを生じさせてしまいます。

ですから腎は『腰の府』とも言われております。

さらに髄は「骨髄」と「脊髄」に別れます。「脊髄」は脳とつながります。

中医学では脳は髄が集まっていると考えます。

ですから、腎精の不足は知能にも影響を及ぼします。

 

<膀胱>

膀胱の主な生理作用は貯尿と排尿です。

膀胱の「気化作用」により尿は体外に排出されます。

「気化作用」は細かく分けると、「気化作用」と「制約作用(約束)」にわけられますが、通 常はこれらをひとまとめにして「気化作用」と言ってしまいます。

膀胱が失調を起こした場合、「気化作用」が失調を起こすと、排尿困難・排尿障害・尿閉といった症状が現れ、「制約作用」が失調を起こすと頻尿・失禁といった症状が現れます。

いずれにしても膀胱の機能が正常に保たれるのも、腎陽の温煦作用と水液調節作用の助けが必要です。

ですから腎の失調は膀胱の機能失調を起こし遺尿の原因になります。

 

<脾>

脾の主要な生理作用として「運化作用」と「昇清作用」があります。

【運化作用】

「運化作用」の『運』は転運輸送で、『化』は消化吸収を意味します。

つまり、飲食物から栄養分を吸収して、栄養分を全身へ運ぶ作用です。

先程説明した水液代謝の説明をもう一度思い出してみましょう。

飲食物は口から胃を通り小腸に運ばれます。

小腸では身体に必要な物と不要な物が分けられ、必要な物は脾に運ばれます。

脾はそこから有益の物を吸収して肺へ送り、肺から全身へと送られ、腎へ集められていました。

これらの口から始まって腎までの一連の流れが「運化作用」です。

脾の主要な生理作用は運化作用ですから、脾はこれらの働き全てを管理しているのです。

「納得できない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、中医学の臓腑の捉え方は現代医学のそれとは違い、臓腑を物体として見るのではなく、働きに注目しているのでこの様な考え方ができるのです。

又、運化作用は栄養分を吸収する働きがありますので、脾が損傷してしまうと気血を作る能力が低下してしまい、気血の生成不足をまねきます。

その他の運化作用の失調の症状は、食欲不振・下痢・軟便・むくみ・などが現れます。

 

【昇清作用】

先程の説明にあったように脾は小腸から送られてきた必要な物から、有益の物を吸収して肺へ送っておりました。

肺へ有益な物を持ち上げる作用が「昇清作用」です。

「昇清作用」が失調を起こすと、有益な物が肺まで持ち上げることが出来なくなってしまい、めまい・ふらつき・などが起こります。

又、「昇清作用」の失調が原因で起こる遺尿もありますので覚えておいてください。

因み、この持ち上げる作用には、臓腑や器官を正常な位置に保つ作用もあります。

この様な場合は「昇提作用」と言い、「昇提作用」の失調は胃下垂や脱肛などが現れます。

 

<肺>

肺の作用の中で遺尿に関係する作用は、『宣発作用』『粛降作用』『水道通 調作用』『治節』と沢山あります。

 

【宣発】

「宣発」とは宣布・発散の意で、広く発散させ行渡らせるという意味です。

水液・栄養物・気や濁気などを全身へ散布することです。

この働きにより脾から送られてきた、有益な水液は宣発作用によって全身へ散布されるのです。

又、濁気や汗もこの働きによって排出されます。

宣発作用の失調は、皮膚の乾燥・抵抗力低下・疲れやすい・各種の機能低下・汗が出ない・などの症状が現れます。

 

【粛降】

「粛降」の「粛」は清粛・粛清を意味し、「降」は下降を意味します。

粛降とは気や水液などを下部に輸送する作用です。

肺の宣発作用によって散布された有益な水液は粛降作用によって全身へ渡り腎へと送られます。

粛降作用の失調は、腎に気が届かなくなったり・不要な水液が体内に溜まったり・むくみ・息切れ・疲れやすい・尿量 減少・汗が止まらない・などの症状が現れます。

「肺は宣発・粛降を主る」と言われ、宣発・粛降といった作用を用いて水液や気を全身へ巡らせております。

 

【水道通調】

「水道」とは、先程水液代謝で説明した、脾→肺→全身→腎→膀胱→排出 といった一連の流れの全通 路を指します。

「通調」の「通」は疎通を意味し、「調」は調節を意味します。

肺は先程の宣発・粛降といった作用を用いて水道の流れがスームースに流れるように調節しております。

このことを「水道通調」といいます。

水道通調の失調は、むくみ・汗が出ない・といった症状が現れます。

 

【治節】

治節とは管理・調節を意味しますので、色々な働きがあります。

その中で遺尿に関係のある働きとしては、先程説明した「宣発・粛降」の作用により、水液の輸布・運行・排泄の管理・調節を行っております。

 

〈肝〉

肝の主要な生理作用に「疏泄を主る」があります。

 

【疏泄機能】

疏泄の「疏」は流れが通るの意で、「泄」は発散・昇発の意があります。

「疏泄」とは、全身の気を順調に運行させる・精神状態を安定させる・消化の補助・などの働きを言います。

ですから、「肺」の生理作用で説明した「水道通調」も疏泄の力を借りています。

 

【肝の特性】

肝は五行学説*では「木」に属します。木はのびやかに枝を伸ばします。

ですから、肝はノビノビとした状況や秩序のある状況を好みます。

逆を言えば物事が秩序よく進まない状況などを嫌います。

もしこのようなストレスにさらされると肝は損傷を受けてしまいます。

肝が損傷してしまうと、先程説明した疏泄機能の低下がおこりますので、様々な症状が現れてきます。

(五行学説*:「わかる・東洋医学理論」の五行学説の説明を参照してください)

 

<三焦>

三焦は現代医学にはない概念ですので、最初は理解するのに抵抗があるかもしれません。

三焦とは体内にあり、体内の水液や気が流れる通路とイメージして下さい。

あえて現代医学に例えると、リンパ管・汗腺・涙腺・といったような物ですが、全く同じ物ではありません。

 

<心>

心の主要な生理作用としては、「心は血脈を主る」と言い、全身の血液運行の原動力になります。

遺尿に関係のある作用としては「心は神を蔵す」と言い、心は精神活動の統括をしております。

「神」とは精神・意思・思惟活動を指し、血によって栄養されています。

何らかの原因で「心」へ血が巡って来ないと「神」が栄養されず、精神疲労や精神不安などがおこります。

 

《経絡》

経絡については「わかる・東洋医学理論」で説明されております。

その中に正経12経と言われる経脈がありました。

これは経脈の中でも特に重要なもので、それぞれ一対の臓腑と深い関係のある経脈でした。

遺尿に特に深く関係する経脈が正経12経の中にあります。

それは、肝と関係のある経脈で「足厥陰肝経」と言う経脈です。

足厥陰肝経のルートは陰部を通りますので、外邪*がこの経脈に入ると膀胱まで外邪を運んでしまい遺尿が起こることがあります。

(外邪*:「わかる・東洋医学理論」の病因を参照してください)

 

《病因》

病因についても「わかる・東洋医学理論」で説明しております。

病因には、様々なものがありましたが、この中で遺尿に関係があるのは、「湿熱・飲食不節・情志の失調」があります。

湿熱の場合は2通りあり、外因によるものと、飲食不節によって体内で生まれるものがありますので、先ずは外因による湿熱から説明してゆきましょう。

 

【外因による湿熱】

湿熱とは外因に含まれていた湿邪と熱邪が合わさったものです。

遺尿の場合はこの湿熱が体内に入り、更に足厥陰肝経に入り膀胱へ達して遺尿をおこします。

 

【飲食不節】

飲食不節に含まれている「肥甘厚味」「過食辛辣」「過度の飲酒」は体内で湿や熱を生みます。

飲食物は胃で受納され、脾は運化を主りますから、飲食不節によって生まれた湿熱を「脾胃湿熱」と言います。

こうして体内で生まれた湿熱は外因の湿熱同様に足厥陰肝経に入り込みます。

 

【情志の失調】

情志の失調は病因の中の内因で説明されております。

遺尿については、特にストレスなどの情志の抑鬱状態が原因となります。

肝の特性で説明いたしましたが、肝はストレス状態にさらされると損傷しやすい臓器です。

このことが遺尿の原因になることがあります。

 

さて、予備知識もだいぶ頭に入ってきたところで、「夜尿症」についての説明に入りましょう。

 

☆夜尿症について☆

中医学では夜尿症のことを、現代医学同様に「遺尿」又は「尿床」といいます。

中医学の「遺尿」とは、お子さんが夜間睡眠中に尿をもらし、目覚めてからそれに気付くものをいい、満3歳以上のお子さんを対象とします。

3歳~10歳位に多くみられるようですが、場合によっては成人まで引きずることも稀にあります。

(3歳未満のお子さんの夜尿は、知能・臓腑・気血・経脈が未発達のために、排尿制御能力の不足や、正常な排尿習慣がついていない為であるので、病態には属しません。又、就寝前の水分の過剰摂取や過労などによる夜尿も属しません。)

 

遺尿はその病因・病機により下記の3つに分類できます。

Ⅰ、腎の気の不足によるもの

Ⅱ、肺と脾の気の不足によるもの

Ⅲ、肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの

 

では、この分類別にそれぞれ病因・病機・弁証・症状・治療の順に説明してまいります。

 

Ⅰ、【腎の気の不足によるもの】

《病因・病気》

腎気の不足により膀胱が温煦されず、起こる遺尿です。

先ず、膀胱の働きを思い出してください。膀胱は小便の排尿や貯留を行っておりました。

そして、その機能は腎陽によって温煦されることで維持がされておりました。

病後や先天不足*又は虚弱体質などにより、腎気の不足が起こりると、それに続き腎陽**の不足が起こります。

昼と夜を陰陽で分けると、夜は陰に属します。

したがって夜は陰が主り、陽気は体内に納まる時間帯です。

しかし、この時に腎陽が不足していると膀胱は温煦されず、制約機能が失調すると遺尿が起こります。

(先天不足*・腎陽**:腎の説明を参照してください)

 

《弁証》

腎気虚証、又は腎陽虚証

《症状》

〈主症状〉

尿量は多く、回数は1~数回・・・・腎気虚のため腎の固摂作用*と温煦作用が失調して起こります。

冬季や寒冷によって症状が増悪する・・温煦作用が低下しているためです。

疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。この場合は腎の気の不足の為に起こります。

(固摂作用*:わかる東洋医学理論の気の説明を参照してください)

<随伴症状>

顔色が白い・精神疲労・気力がない・下肢に力が入らない・寒がり・手足の冷え・・・陽気の不足により陽気(清陽)が全身に行き渡らなくて起こります。

知能遅れ・・・・・先天の不足*が脳に影響を及ぼしていると起こります。(詳しくは腎の説明を参照してください)

腰に力が入らない・・・腎は「腰の府」でもあり、骨とも関係がありました。

腎虚によって起こる症状です。

(詳しくは腎の説明を参照してください)

<誘発素因>

熟睡すると尿意に気付かない

 

《治療》

治法・・・・「補益腎気」「温固下元」といい、腎の気を補充して腎陽を高め、温煦機能を改善し、これにより膀胱を温煦し、膀胱の制約作用を促す治療を行います。

 

Ⅱ、【肺と脾の気の不足によるもの】

《病因・病機》

体内の水液代謝に関わる臓腑の主役は『脾・腎・肺』でした。

その中の脾と肺の機能が失調して起こる遺尿です。

大病や長期にわたる病気は、脾の気を損傷させてしまうことがあり、この状態を脾気虚といいます。

脾気虚になると脾の機能低下が起こります。

脾の作用の中には昇清作用といって、身体に有益な物を肺に持ち上げる作用がありました。

昇清作用が低下してしまうと、肺に持ち上げられるはずだった、身体に有益な水液が肺に運ばれなくなり、下部へ落ちて行ってしまいます。

更にこの場合は肺も失調を起こしていますので、肺の作用であった治節機能*が低下してしまい、膀胱の働きである制約作用を失調させてしまい遺尿が起こります。

(詳しくは脾・肺・膀胱・及び水液代謝の説明を参照してください)

(治節機能*:肺の生理作用の説明を参照してください)

この場合は、脾気虚と肺気虚が原因ですから、気虚に属します。

陰陽のところで説明しましたが、気は陽に属します。

したがって、気虚は陰盛を引き起こしますので、陰を主る夜に遺尿が起こります。

 

≪弁証≫

肺脾気虚証

《症状》

〈主症状〉

排尿回数は多いが量は少ない・・・この場合の腎は正常であるので腎気虚による遺尿に比べると尿量 は少ないです。

疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。

<随伴症状>

顔色が黄色い・精神疲労・気力がない・・・脾気虚により運化作用の低下がおこり、気血の生化不足が起きてしまい、更に肺気虚により宣発・粛降作用の低下も起き、気血が、顔・心・四肢・に巡らず栄養できなくて起こります。

食欲不振・軟便・・・・・脾気虚により運化作用が低下して起こります。

息切れ・話す事さえ億劫・多汗・・・・気虚の特徴です。

《治療》

治法・・・・補益肺脾・昇陽固摂・・・・肺と脾の気を補して治節機能や昇清作用の改善し、膀胱の制約作用を促す治療をします。

 

Ⅲ【肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの】

〈病因・病気〉

肝の生理作用をもう一度思い出して見ましょう。

肝の「疏泄機能*」は肺の「水道通調**」を補助しておりました。

又、肝はストレスなどの「情志失調」で損傷され易い臓器でした。

ストレスなどが原因で「情志失調」が起こると、肝が損傷され「疏泄機能」が低下をいたします。

すると、「疏泄機能」の補助がなくなってしまった「水道通調機能」も低下を起こし、結果 的に膀胱の制約機能が低下し、遺尿を起こします。

又、「情志失調」の他にも、外邪の湿熱や、飲食不節により生まれた「脾胃湿熱」が「足厥陰肝経」に入り込む場合があります。

湿熱はその特性から経絡の中の気血の流れを阻滞させます。

「足厥陰肝経」は肝と深く関係しますので、気血の阻滞は肝の機能に影響を及ぼしてしまいます。

これにより肝の「疏泄機能」の低下が起こることもあります。

更に、「疏泄機能」の低下は気血の流れの滞りを助長させてしまうことになり、経脈に入り込んだ湿熱を化火させてしまいます。

先程も説明いたしましたが、「足厥陰肝経」は陰部や膀胱を通りますので、化火した火熱が膀胱に注がれてしまいます。

すると膀胱の制約作用が低下して遺尿が起こります。

(疏泄機能*は肝の、水道通調**は肺の、生理作用を参照してください)

 

≪弁証≫

肝経湿熱証

《症状》

〈主症状〉

回数も尿量も少ない・・・・疏泄機能の低下のためです。

小便が黄色く鼻をつく強い臭いがする・・・熱が膀胱へ入っているために熱症の特徴です。

<随伴症状>

歯ぎしり・怒りっぽい・・・・肝の気が抑鬱状態により渋滞を起こし、さらにそれが熱化してしまうと、肝火がうまれてしまいます。

自然界と同様に熱は上に昇る性質がありますので、肝火の熱が上部にある「心」へと昇り、「心」に蔵されている「神」へ影響を及ぼします。

「神」が影響をうけると、精神不安などの症状が現れます。

(詳しくは「心」の生理作用を参照してください)

顔・唇や目が赤い・・・・・・熱が顔まで昇ってきて起こります。

 

<誘発原因>

情志の抑鬱や緊張すると症状が悪化する・・・この病証は肝に関わるものなので、肝に影響を及ぼす要因により症状は悪化します。

<治療>

治法・・・清肝利湿・・・・肝の疏泄機能を高めると伴に、「足厥陰肝経」に入り込んだ湿を体外に排出します。

 

以上が中医学的「遺尿」の説明になります。

現代医学とではだいぶ違った発想で、人体や疾患を捉えているのがおわかりになったかと思います。

現代医学と違う発想だからこそ病院で治らなかった疾患が中医鍼灸で治ることがあるのです。

そしてもう1つ、おそらく皆さんは中医学的な説明を読まれて、「遺尿」に対してこれだけ分類をするとは思わなかったと思います。

これが「わかる・東洋医学理論」で説明している『弁証』です。

中医学は疾患を診ているのではなく、患者さんの身体の「気血水」のバランスの崩れを診ているということが少しでも理解していただければ幸いです。

又、同じ「遺尿」であっても、弁証が違えば、使用するツボや処方される漢方薬も違ってきます。

これも又「わかる・東洋医学理論」で説明している【理・法・方・薬(穴)】という大原則です。

最近、東洋医学ブームとかで、様々なメディアで東洋医学が取り上げられており、「この疾患にはこのツボが効く!」とか、「この疾患にはこの漢方が効く!!」とか言っておりますが、本来の東洋医学(中医学)はそれほど短絡的なものではございません。

 

さて、次は予防についての話をいたしましょう。

予防については、特に現代医学や中医学といった括りはせずに紹介したいと思います。

☆予防☆

お子さんの準備が出来ていないのにトイレ・トレーニングは避けましょう。

寝る前に水分を控える。(水分摂取は就寝の2時間半前に)・・・・現代医学の分類で [多尿型・混合型]のタイプに分類されたお子さんは気を付けてください。

特に夕食後や入浴後の過剰な水分摂取には気を付けましょう。

水分摂取は、朝・昼は多く、夕方から減らすようにしましょう。

塩分摂取量を控える ・・・・これも上記と同様に [多尿型・混合型]のタイプのお子さんは気を付けてください。

排尿をこころもち我慢させる・・・・[膀胱型・混合型] のタイプのお子さんの予防法です。

これは排尿抑制訓練と言い、膀胱容量を大きくする訓練ですが、決して無理はさせないで下さい。

規則正しい生活リズムの確立をしましょう。

遅めの食事はやめましょう。

身体を冷やさないようにしましょう。

☆治る時期の予想☆

夜尿症の重症度は、その時間帯である程度わかると言われており、重症度から治る時期もある程度わかると言われております。

参考までに簡単に紹介しておきます。

寝入後すぐ・・・・5~6年後

夜中・・・・・・・3~4年後

朝方・・・・・・・1~2年後

以上になります。

これはあくまでも平均的な数字であり、個人差はありますのでご了承下さい。

 

☆夜尿症に効くと言われている民間療法☆

昔から伝わる民間療法や家庭薬の中には、ほとんど薬効がなくおまじないや迷信といっていいものもから、驚くほど効力があり、且つ科学も認める物まであります。

しかしながら、これらの効力の高い家庭薬は材料の入手が困難であったり、手間がかかるものも少なくありません。

ですから、ここでは入手も容易で、手間も出来るだけ掛からないものを紹介したいと思います。

(尚、出来るだけ数多くの情報を提供したいと思いますので、レシピについては省かせていただきます。もし、興味のある方はご遠慮なさらずに質問をお寄せくださいませ。)

 

*イタドリ*

道端や山野に自生する多年草です。

イタドリの根は利尿効果がありますので、根を煎じたり、黒焼きにして飲ませます。

 

*乾燥柿のへた*

乾燥柿のへたは夜尿症やしゃっくりに効果があります。

柿の種類は問いません。煎じて飲ませます。

 

*渋柿エキス*

渋柿エキスは脳卒中予防・夜尿症・しゃっくり・などに有効です。

渋の強いものほど効果的です。

 

=お茶=

「医食同源」と言う言葉は皆さんもご存知のことと思いますが、中国には「医茶同源」という言葉もあります。

お茶にも薬効があり、飲み方によってお茶は薬にもなるのです。

中国では、季節・体質・精神状態に合わせてお茶を選んで飲むことによって上手に体調を整えています。

今回は利尿効果のあるお茶を紹介しましょう。

 

*はとむぎ茶*

利尿効果の他に、皮膚の老廃物を取り除いてくれたり、胃腸を丈夫にしてくれたりします。

 

*スギナ茶*

高い利尿作用があります。

又、うがい薬としても使えます。因みに皆さんがよくご存知のツクシはスギナの子供です。

 

☆遺尿の注意点☆

最後に夜尿症についての3原則を紹介します。

 

夜尿症の3原則は『あせらず』『しからず』『おこさず』です。

夜尿症は『あせって』も治りません。

殆んどのお子さんが自然治癒いたしますので、おおらかな気持ちで対応しましょう。

『しかる』のは逆効果です。絶対に叱ってはいけません。

夜間にお子さんを『起こして』排尿させるのは、夜尿症を治すのに逆効果 になる場合がありますので、注意して下さい。

 

身体的原因がない夜尿症は、お子供さんの健康に何ら影響はありませんし、自然に治ることが多いので、ご家族の皆さんは必要以上に心配なさらないで下さい。

しかし、「おねしょ」が長期化すると、お子さんの精神衛生にも大きく影響する場合があるので、長期化するようであれば十分注意が必要です。あまり長引くようであれば、専門医への受診をおすすめいたします。

目安としては、4~5歳位までの「おねしょ」は心配しないで大丈夫でしょう。

6歳を過ぎても「おねしょ」が続くようであれば、適切な対応をされた方がよいと思います。

通常、大部分のお子供さんは何らかの治療に反応します。

 

以上で「夜尿症」についての説明を終わらせたいと思います。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 

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