コラム

2019-03-12
【その他】痿証について2

「痿証」とは冒頭でも述べたように、中医学による疾患名で、「痿躄(いへき)」ともいいます。

「痿」とは肢体が萎えて運動障害が生じた状態を言い「躄」とは足に力が入らないことをいいます。

一言でいってしまえば「痿証」とは四肢の筋肉が弛緩・軟弱・無力となり、進行した場合には筋肉の萎縮や運動障害をまねく病証です。

初期の段階では、下肢の脱力感がみられ、徐々に手足の弱化が起こり、痺れや感覚の消失が起こります。

重症になってくると物が持てなくなったり、体を支えられなくなったり、さらに進行すると筋肉の萎縮が進み自分の意思で手足をコントロールできなくなります。

 

* 「痿証」の病因・病機*

「痿証」は下記のような機序で起こります。

A:湿熱が肺を損傷して起こるもの。

B:湿熱が経脈侵入して起こるもの。

C:脾胃のエネルギー不足によって起こるもの。

D:肝と腎のエネルギー不足によるもの。

以上の4つがあげられます。

 

*「痿証」の分類*

「痿証」には、その病因・病機、及び症状により概ね以下の様に分類されます。

①肺熱到痿 ②湿熱発痿 ③脾胃虚痿 ④肝腎虧痿 ⑤脈痿(心痿)

⑥筋痿(肝痿) ⑦肉痿(脾痿) ⑧骨痿(腎痿) ⑨皮毛痿(肺痿)

 

さて、以上が「痿証」の分類になりますが、これ以降については病因病機で分類し説明をしてゆきます。

 

 

【湿熱が肺を損傷して起きるもの】

湿熱が肺を損傷して起こる「痿証」ですから、『肺熱到痿』といわれます。

また、分類で紹介した「皮毛痿」もこの中に含まれます。

 

≪病因・病機≫

湿熱の邪が肺へ侵入して、肺や津液を損傷させてしまうことにより、筋肉を栄養できなくなり発症します。

 

《症状》

*主症状*

①手足の筋力の低下や筋萎縮・・・熱により体内の水分(津液)が損傷され、筋肉を栄養できなくなり起こります。

 

*随伴症状*

①発熱・から咳・のどの渇き・・・熱により体内の水分(津液)が損傷されて起こります。

②皮毛の乾燥や光沢の消失・・肺は「宣発作用」により有益な水液を皮毛に散布していますが、熱により体内の水分(津液)が損傷されたり、肺の「宣発作用」が低下してしまうと、皮毛を潤すことができなくなり、皮毛が乾燥したり光沢の消失が起こります。

この様な状態が先程分類にありました「皮毛痿」です。

 

 

【湿熱が経脈侵入して起こるもの】

湿熱が経脈侵入して起こる「痿証」ですから、「湿熱発痿」といわれます。

 

≪病因・病機≫

『わかりやすい東洋医学理論』に「外因」についての説明があったと思います。

その「外因」の中にあった「湿邪」を受感し、更に長期間体内に「湿邪」が留まってしまったことにより熱化をおこすと、「湿邪」は「湿熱」と変わります。

「湿熱」が経脈に侵入し気血の流れが妨げられ、筋肉を栄養できずに起こります。

又、「湿邪」を受感しなくても、甘い物・味の濃い物・油っぽい物・辛いも物などを食べ過ぎても、体内で「湿熱」を産んでしまうことがあります。

(外因については『わかりやすい東洋医学理論』を参照してください)

 

《症状》

*主症状*

足の筋力低下や麻痺・・・・湿邪は湿気ですから水分です。水は高所から低所へ流れます。

体内でもこれと同じことが起こりますので、湿邪は体の中での下部である足へ影響を及ぼし、筋力低下や麻痺がおこります。

 

* 随伴症状*

① 腹部がつかえる・・・・腹部に湿が停滞しておこります。

② 体が重だるい・・・・・湿が体内にあると、手足や頭が重だるく感じます。

③ 排尿痛・・・・・・・・湿が下腹部に侵入するとおこります。

④ 小便が赤く少量・・・・湿熱の熱の特性です。

 

 

【脾胃虚弱によるもの】

脾胃虚弱によって起こるので「脾胃虚痿」といいます。

 

≪病因・病機≫

『わかりやすい東洋医学理論』で「気・血・水」の説明があったかと思いますが、その中で、「血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます」と説明されておりました。

筋肉も「血」によって栄養されております。

「血」は脾や胃の働きによって作られます。

したがって、何らかの原因によって脾胃が虚弱となってしまうと、「血」を作る能力が低下してしまい、最終的には筋が栄養されなくなり運動麻痺が起こります。

 

《症状》

*主症状*

運動麻痺などは緩やかに進行する・・・・脾胃虚弱はエネルギー不足の状態です。

基本的にエネルギー不足からくる病症の進行は緩やかな場合が多いようです。

 

*随伴症状*

①食欲不振・倦怠感・・・脾胃虚弱の為に消化吸収能力が低下しておりますので、それに伴い食欲も低下してまいります。又、「気・血」の生成能力が低下している為エネルギー不足の状態ですから倦怠感もでてまいります。

②むくみ・・・・消化吸収能力の低下は体内の水液代謝も悪くしますので、むくみが現れます。

 

 

【肝腎不足によるもの】

肝腎不足によって起こるので、「肝腎虧痿」といわれます。

分類で紹介した「筋痿(肝痿)」「骨痿(腎痿)」もここに含まれます。

 

《病因病機》

先程、肝や腎の説明で「肝腎不足」の説明をいたしましたが覚えていますか?

「肝腎不足」とは、肝に蔵されている血と腎に蔵されている精が両方とも不足してしまった状態でした。

先天的に腎のエネルギー不足・長患い・慢性病・老化・過剰なSEXや自慰行為は「肝腎不足」をまねきます。

その結果、筋骨を養えなくなって運動麻痺が起こります。

 

《症状》

*主症状*

特に下肢の筋力低下・運動麻痺・・・・肝腎陰虚の特徴で下肢に発症しやすい

 

*随伴症状*

①膝や腰に力が入らない・腰背部のだるさ・耳鳴り・難聴・遺精・抜け毛・・・腎精不足の症状です。

③月経不順・目のかすみ・・・・・・肝血不足の症状です。

 

 

▼その他の「痿証」について

 

『脈痿(心痿)』について

中医学では「心(しん)」は血の循環を統括しております。

そのことから「脈痿」は「心痿」とも言われます。

何らかの原因で心のエネルギーが熱化を起こすことがあります。「化熱上炎」と言って通 常熱は対流によって上に昇ります。

心のエネルギーが熱化して上に昇るとき、血も導いて昇ってしまいます。

すると下半身の血量が減ってしまい筋肉を栄養できずに「痿証」を起します。

ですからこの場合の症状は下半身に現れます。

又は、多量の出血することにより体内に血の量が減って起こる場合もあります。

 

 

『筋痿(肝痿)』について

中医学では「肝は筋を主する」と考えておりますので、「筋痿」は「肝痿」とも言われます。

肝の気は通常上方へ流れます。しかし何らかの原因で過度に上に流れてしまう事があります。

又、冒頭の「肝」の説明で触れましたが、「肝」は血を貯蔵しておりました。

肝に貯蔵されている血量が減ったり、過度に肝の気が上に流れたりして起こる「痿証」をいいます。

主な症状としては、筋のひきつりや痙攣が起こり、徐所に筋肉の弱化が進行し運動障害が発症します。又、勃起不全なども起こります。

 

 

『肉痿(脾痿)』について

中医学では「脾は肌肉を主る」と考えておりますので、「肉痿」は「脾痿」とも言われます。

「肉痿」は先程説明した「脾胃虚痿」に含まれるものと、脾のエネルギーが熱化して起こるもの、長期にわたり湿気を受感した結果 、湿邪が肌肉を障害して起こるものがあります。

主な症状としては、皮膚や筋肉の麻痺や無感覚・筋肉の弱化などがあります。

 

 

『骨痿(腎痿)』について

中医学では、骨と腎は深い関係にあるので「骨痿」は「腎痿」ともいわれます。

先程説明した「肝腎虧痿」に属する「痿証」です。

腎に蔵されている精(腎精)から骨髄が造られ、骨髄は骨を栄養します。

何らかの原因で腎精の不足が起こると骨が栄養されなくなり「骨痿」が発症します。

又、腎の気が何らかの原因で化熱をしても骨髄が減少して骨に影響が出る場合もあります。

 

《治療》

「痿証」の治療については先ず、「疏通経絡」といって経絡の流れを促進させ、更に筋肉や骨を栄養してあげることが基本になります。

同時に先程説明したそれぞれの病因に対しての治療を加えます。

 

では次に各病因や分類に対しての治療を紹介しましょう。

①肺熱到痿

「清肺潤燥」「養陰生津」と言って、肺に潤いを滋養する治療をおこないます。

②湿熱発痿

「清熱利湿」と言って、熱を下げて湿を取り除く治療をおこないます。

③脾胃虚痿

「健脾益気」と言って、脾を元気にして気を益す治療をおこないます。

④肝腎虧痿

「滋補肝腎」と言って、肝血と腎精を補充する治療をおこないます。

⑤脈痿(心痿)

「清心瀉火」「活血養血」と言って、心の熱化を抑え、血を養い全身へ巡らす治療をおこないます。

⑥筋痿(肝痿)

「清肝養血」といって、肝を鎮め肝血を養う治療をおこないます。

⑦肉痿(脾痿)

「清熱利湿」「健脾和胃」と言って、熱を下げて湿を取り除き、脾と胃を元気にする治療をおこないます。

⑧骨痿(腎痿)

「補腎益精」「養陰清熱」と言って、腎精を補し陰のエネルギーを増すことで熱を下げる治療をおこないます。

⑨皮毛痿(肺痿)

皮毛痿は肺熱到痿に含まれますから、治療法は肺熱到痿と同様に「清肺潤燥」「養陰生津」になります。

 

 

《養生法》

皆さんも既におわかりのように「痿証」には多くのタイプや病因がありますので、養生法も色々あります。

その全てを紹介することは不可能なので、ここでは病因に対する食養生を紹介いたします。

 

【湿・熱に対する食養生】

湿と熱では養生法が若干異なりますのでここでは「湿」と「熱」に分けて紹介いたします。

 

《熱に対する食養生》

麦・あわ・とうもろこし・はとむぎ・そば・緑豆・浜納豆・豆腐・豆乳

ピータン・プレーンヨーグルト・かに・あさり・ところてん・昆布・のり

わかめ・しじみ・きゅうり・とうがん・ズッキーニ・にがうり・レタス

白菜・セロリ・なす・たけのこ・ごぼう・大根・チンゲン菜・トマト

キウイ・スイカ・レモン・梨・メロン・バナナ・柿

 

《熱に対する生活上の注意点》

◎脂っこいもの・味の濃い物・甘いもの・お酒・肉類は食べ過ぎないように注意しましょう。

◎熱いお風呂も避けましょう。

 

《湿に対する食養生》

はと麦・とうもろこし・そば・はすの実・小豆・大豆・緑豆・黒豆・えんどう

空豆・あさり・あわび・しじみ・はまぐり・ふな・どじょう・こい・すずき

昆布・のり・わかめ・ところてん・にがうり・たけのこ・きゅうり

さやえんどう・セロリ・とうがん・もやし・白菜・ズッキーニ・ごぼう

すいか・すもも・ぶどう・キウイ・メロン

 

《湿をとる健康茶》

柳茶・プーアール茶・紅茶・ジャスミン茶

 

《湿に対する生活上の注意点》

◎脂っこいもの・味の濃い物・甘いもの・冷たい水分の食べすぎに注意しましょう。

◎適度な運動(汗をかく位)をしましょう。

◎冷えは水液代謝を悪くしますので、体を冷やさないようにしましょう。

お風呂はぬるめのお湯で長めにつかりましょう。

 

《脾と胃の食養生》

ピーナッツ・なつめ・金針菜・くり・メロン・しいたけ・アボガド・ゆりね

そらまめ・にら・さくらんぼ・さといも・ひらたけ・ふな・鯉・サメ・真鯛

はも・たちうお・どじょう・ひらめ・大麦・もち米・米・牛肉・羊肉・きじ

蜂蜜

 

《肺を潤してくれる食べ物》

松の実・さとう・りんご・バナナ・ピーナッツ・さめ

 

《腎の食養生》

くり・・・腎と筋を補ってくれます。

ナマコ・鶏肉・・・・腎精を益してくれます。

 

《肝血を増やす食養生》

金針菜

 

《肝腎虧痿の食養生》

にがうり・にら・ぶどう・クコの実・ごま・いか・たまご

 

《髄や骨を補う食べ物》

アーモンド・かに

 

《その他の養血作用のある食べもの》

レンコン・豆乳・ぶどう・大豆・鶏肉・さめ・ナマコ・いか・うなぎ

 

以上が食養生になりますが、その他に理学療法・機能訓練・マッサージなども併行するとよいでしょう。

 

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

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