コラム

2019-03-12
【その他】痿証について1

『痿証』とは中医学用語です。

中医学の古典には「痿証とは肢体の筋肉が弛緩・弱化し、病の進行とともに萎縮する病証」と記されております。

症状としては、初期は下肢の脱力感が多くみられ、徐々に手足が弱化してまいり、最終的には筋が萎縮してしまい、運動障害をきたします。

 

現代医学ではこの様な症状を引き起こす疾患には「脊髄空洞症」「重症筋無力症」「進行性筋ジストロフィー」「筋萎縮性側索硬化症」「ギランバレー症候群」「多発性筋炎」・・・・など沢山あります。

勿論、これは代表的な疾患ですから、その他にも沢山の病気が存在します。

尚、これらの疾患については現代医学の専門のHPの方を参照して下さいませ。

 

次に、中医学の視点から『痿証』について説明をしてまいりましょう。

 

★ 痿証について★

*はじめに*

中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。

それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては非常に難解で馴染みづらいものであります。

そこで先ず、「痿証」の説明を読まれる前に、「病気別・わかる東洋医学診断」に掲載されている「わかりやすい東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。

これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかりやすい東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さい。

さてここでは、「痿証」を理解するために、「わかりやすい東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。

 

《陰陽論について》

陰陽についての概論的な事は既にご理解されていると思いますので、ここでは人間を構成する基礎的なものである「気・血・水(津液)」や「働き」を陰陽で分類してみたいと思います。

『陽』に属す物としては「気」があります。

気はそれぞれの臓腑の働きを促進させたり、体を温める作用などがあります。

『陰』に属す物は「血と水(津液)」があります。

これらの働きには体を潤したり冷却する作用があります。

又、この分類はそのまま「働き」に置き換えることができます。

体を温める働きは「陽」に、体を冷却したり潤す働きは「陰」に属します。

 

《臓腑について》

臓腑については「わかりやすい東洋医学理論」で大まかな説明がありますのでここでは、「痿証」に関係のある臓腑についてだけもう少し説明をします。

 

『肺』

肺の主な生理作用には「宣発・粛降・水道通調」があります。

これらの説明をする前に、中医学の考える体内水液代謝から説明したいと思います。

口から摂取された水分は胃を経由し小腸へと送られます。

小腸は「必別清濁」といい、送られてきた水分を人体に有益な水液と不要な水液に分けます。

人体に有益な水液は脾に運ばれます。脾は小腸から送られてきた有益な水液を消化吸収して肺へ送ります。

肺は「宣発作用」で先程の有益な水液などを皮毛に散布します。

「宣発」とは散布・発散の意味で、肺が有益な水液を「宣発」することにより皮毛や筋肉は栄養されたり、潤されております。

次に散布された有益な水液は肺の「粛降作用」により身体全体を巡りながら下降し、腎へ集められます。

その後再利用できる水液は肺へ戻され、不要な水液は膀胱で貯尿された後排泄されます。

最後に「水道通調」ですが、「水道」とは脾~肺~全身~腎~膀胱~排泄の水液が流れるルートをいいます。

「通調」とは、調節の意味があります。

つまり「水道通調」とは、脾から排泄までの水液の流れが滞らないように調節する作用をいいます。

もう一度「肺」の作用をまとめてみましょう。

肺は「宣発作用」により有益な水液を皮毛に散布します。

次に「粛降作用」により散布された水液は全身を巡りながら下降してゆきます。

このように肺は体内の水液循環に深く携わり、水液の運行が滞らないようにしております。

このような働きを「水道通調」といいます。

 

『肝』

「わかりやすい東洋医学理論」で「血」の説明があったかと思います。

血は全身を巡り、筋や器官など様々の物を栄養して「肝」で貯蔵されます。

更に「肝」は「血」を貯蔵するだけでなく血の体内循環量の調整も行います。

例えば体内を巡っている血液の量が少なくなってきた場合は「肝」は貯蔵してある「血」を血脈へと供給し循環量 を正常な量へ戻します。

逆に体内循環量が多すぎれば貯蔵量を増やして、循環量を正常値へもどします。

以上のように「肝」の働きの1つには「血の貯蔵と循環量の調整」があります。

 

『腎』

「腎」の働きは沢山ありますが、その中の1つに「精を蔵す」働きがあります。

「精」の概念は中医学独特のもので、詳しく説明すると長くなってしまいますので、ここでは「人体を構成したり、生命活動を維持するためのエネルギーの根源」とだけイメージしていただければ結構です。

例えば、赤ちゃんがお母さんのお腹から生まれて直ぐにミルクを飲まなくても、しばらくは生きていられます。

これは既にあかちゃんは何処かにエネルギーを貯えているからです。

このエネルギーが「精」であり、貯えている場所が腎になります。

又、精から髄が生まれ、髄は脳や骨を養っております。

 

『精と血・腎と肝』

精と血は深い関係にあり、お互いに変化しあって生命活動の維持をしております。

例えば何らかの理由で血が足らなくなった場合は、精が血へと変化し血の減少を抑えようとします。

逆に何らかの理由で精が減少した場合は、今度は血が精へと変化することで、精の減少を抑えようとします。

以上のことから精と血は『精血同源』と言われ、腎は精を蔵し肝は血を貯蔵することから、『肝腎同源』とも言われます。

このように、精と血はお互いに変化し合うことで、精や血の不足が起こらないようにしております。

ところが、どちらか一方が過剰に減少してしまい、もう片方が減少を抑えようと過剰に変化してしまうことで、結果 的に「精」も「血」も両方とも足らなくなってしまうことがあります。

このような状態を「肝腎不足」又は「肝腎陰虚」といいます。

これは後ほど痿証の病因・病機で出てきますので、是非覚えておいてください。

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