「脳卒中」の死亡率は減ったとはいえ命を失うこともありますし、生存しても上記のようなリハビリなどの回復訓練を行わなければなりません。ですから、できることなら脳卒中はかからないようにしたいものです。つまり、予防が大切なのです。
先程も述べましたが、脳卒中と生活習慣病は深い関係があります。脳卒中はある日突然発症しますが、生活習慣病は生まれてから発症するまでの長い年月をかけて序々に発症します。生活習慣病の怖いところは、序々に発症するところにあります。つまり、本人が気付かないうちに病気に犯されているというこが多々あるのです。
実は皆さんもよく耳にする「生活習慣病」という言葉は、たった10年位 前に作られた言葉なのです。たった10年でこれだけの認知度があるということは、我々にとって人事ではなく、かなり重要な病気だということです。
そういった理由で今回は、脳卒中と深い関係にある生活習慣病についても少し触れてみたいと思います。
▼生活習慣病ってどんな病気??▼
皆さんは「成人病」という言葉を聞いたことがあるかと思います。成人病とは加齢とともに特に40代から発症率が急激に増加する疾病の総称で、癌・循環器疾患・糖尿病などが代表的な疾患です。そして、これらの疾患の研究が進むに従い、その成因は生まれてから現在にいたる数十年間に作られた生活習慣・遺伝的素因・加齢が深く関与していることが明らかとなってまいりました。したがって、生活習慣の改善は成人病の発生や進行を予防することができるわけです。そこで、1997年にその当時の厚生省は、このことを国民全体に周知させる目的で「生活習慣病」という言葉を使うようになったわけです。つまり、簡単に言うと生活習慣病とは、毎日の良くない生活習慣の蓄積が引き起こす病気ということです。
「生活習慣病」というと何となく軽い病気のイメージがある方もいると思いますが、なんと日本人の三分の二以上がこの病気で亡くなっているという報告もされており、とても怖い病気なのです。そして、「生活習慣病」のやっかいな点は長年の生活習慣や加齢が関与して序々に発症します。つまり、健康な状態と病気の状態の区別 が明確でないと言う点があります。これは成人期に生活習慣病にかかり、気付かぬ まま老年期に引きずり老人病の基礎を築いてしまいます。具体的に今回のテーマである脳卒中で説明すると、成人期に「動脈硬化」が発症し、そのまま放置して進行してしまい、老年期で「脳卒中」などを引き起こすということになるわけです。次に今話題の代表的な生活習慣病を4つ紹介しましょう。
=恐怖の死の四重奏=
皆さんは『死の四重奏』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これはある4つの症状が重なった場合、死亡リスクがかなり高まることから「死の四重奏」と呼ばれています。ではその4つの症状とは、「高血圧」「高脂血症」「肥満」「糖尿病」です。もうお気づきの方も多いと思いますが、今話題になっている『メタボリック・シンドローム(症候群)』のことです。
なぜここで『メタボリック・シンドローム』を皆さんに紹介したかというと、実はこれらの疾患は全てが脳卒中を引き起こす要因に成りうるからなのです。せっかくですから、これらの疾患についても簡単に説明をしたいと思います。
○高血圧○
高血圧とは血圧の数値で言えば、上が140mmHg以上か下が90mmHg以上です。簡単に言ってしまえば、血管に強い圧力がかかっている状態です。
1999年の年齢階級別受療率をみてみると、高血圧症は40代後半から急激に増加しております。これは、壮年期からの生活習慣の影響が老年期にでているという見方が出来ます。ところで、高血圧は「サイレント・キラー」という怖い別 名があるのをご存知ですか?その理由は高血圧には自覚症状がほとんど無いところにあります。ですから、なかなか自分では高血圧に気付くことが出来なかったり、検査などで高血圧と言われても、そのまま放置してしまうことが多く、最終的には脳卒中や心筋梗塞といった死亡する可能性のある怖い病気を招いてしまうからです。
血管に常に高い圧力がかかっていると、血管が痛みやすくなるばかりではなく、高い圧力で血液を送り出す心臓にもかなりの負担がかかってしまいます。また、高血圧は動脈硬化も招いてしまいます。そして、動脈硬化は高血圧を更に悪化させるといった悪循環に陥ってしまいます。更に、動脈硬化は腎臓の機能さえも低下させてしまいます。
ところで、先ほど老化が高血圧をまねく話をいたしましたが、確かに日本では血圧は成人に達して以降、加齢とともに上昇していかれる方が多いようですが、発展途上国では加齢にともなう血圧の上昇が認められない民族があることも確認されております。
又、国内地域や国際比較に目を向けてみると、高血圧は都市部より農漁村部に多く西日本より東日本が多く、食塩摂取量 が5g以下の民族より多量に摂取する民族に多いことがわかっております。塩分を採りすぎると体内の塩分の濃度を下げる為に大量 の水分が血管内に吸収され、血液の量が増えてしまい、それに伴い血圧が上昇してしまうのです。このことからも、高血圧は生活習慣と深い関係があることがうかがえます。
○高脂血症○
高脂血症とは簡単に言ってしまうと、血液中の脂が増え過ぎてしまった病気で、日本の死因の二位 ・三位である心臓病・脳卒中の原因である動脈硬化の原因になります。又、高血圧を更に悪化させたりもします。
高脂血症の恐ろしいところは、高血圧と同じく痛くもかゆくもないところです。つまり自分ではなかなか気付きません。又他人に「あなたは高脂血症です」と言われても「それは大変だ!なんとかせねば!!」とはなかなか思いません。しかし、そのまま放置しておくと脂は血管の中でどんどん溜まってゆき「動脈硬化」をきたします。ところが、この「動脈硬化」も痛くもかゆくもありませんので、そのまま放置してしまいがちです。そしてついに「脳卒中」や「心筋梗塞」を発症させてしまうのです。
今の事を裏付ける数字を厚生労働省が発表していますので紹介します。
高脂血症の方と潜在患者の合計は2200万人で、さらに細かく見てゆくと男性の30代・女性は50代から高脂血症の状態の方は、なんと二人に一人だそうです。しかも自覚している方はわずか30%だけだったそうです。
さて、血液の中には「コレステロール・中性脂肪・リン脂質・遊離脂肪酸」の4種類の脂質が存在しております。高脂血症とは、この中の「コレステロール」と「中性脂肪」が多すぎる状態です。コレステロールの中の「悪玉 コレステロール(LDL)」は動脈の壁にくっついて動脈を厚くして血液の通 り道を細くしたり、血管を硬くして動脈硬化を招いてしまいます。又、中性脂肪自体は動脈硬化を招きませんが中性脂肪の増加は「善玉 コレステロール(HDL)」の減少を招きます。「善玉コレステロール」は血管や細胞内の余分なコレステロールを肝臓に運んでいますので、「善玉 コレステロール」の減少は「悪玉コレステロール」の増加を招くことになり、間接的に動脈硬化を招いてしまうことになります。
(参考:コレステロールや中性脂肪は多すぎると問題ありますが、体にとって必要なものです。)
○肥満○
肥満とは脂肪が一定以上体に付いた状態をいいます。肥満の目安を知る方法としては皆さんもよく耳にするBMIなどがあります。
BMIとはBody Mass Indexの略で、日本語では「肥満指数」といいます。
計算方法は、体重kg÷身長m×身長m=BMIです。
日本肥満学会では標準BMIを22とし、25以上を肥満と定めております。つまり、皆さんが上記の式にご自分の身長と体重を当てはめて出た数字が25以上であれば肥満ということになります。因みに、18.5以下は痩せと定められております。
ではこの25という数値は何を根拠に定められたかというと、25以上の人は「高血圧」「高脂血症」「糖尿病」にかかりやすい数値なのです。25という数値には実はこのような意味があったのです。尚、肥満は上記の疾患以外にも高尿酸血症・痛風・脂肪肝・膵炎・睡眠時無呼吸症候群・腰痛・膝痛などの関節痛・月経の異常・などとも関係があります。
さて、肥満も生活習慣病です、ではどのような生活習慣をしている人が肥満になりやすいのでしょうか?肥満はエネルギーの消費量 を摂取量が上まった時に起こります。つまり、エネルギーの過剰摂取と運動不足によって起こるわけです。又、摂取量 以外に不規則な食事や早食い・まとめ食い、といった食事の採り方にも肥満の原因があります。
○糖尿病○
糖尿病の患者さんの脳卒中死亡率は、正常な方の2~3倍と言われております。そして、平成9年の糖尿病実態調査によると、糖尿病の疑いがある人は1370万人いるそうです。
血液の中には筋肉や臓器の栄養源である「ブドウ糖」が流れています。糖尿病は「ブドウ糖」が細胞に吸収されなくなってしまい、血液の中にあふれてしまっている状態です。因みに、血液の中にどの位 のブドウ糖があるかを知る値が血糖値です。このことから、糖尿病にかかると血糖値が上昇するのです。
ブドウ糖が細胞に吸収されなければ、体はエネルギー不足を起こします。ブドウ糖が細胞に吸収されるのに必要なホルモンが「インスリン」です。糖尿病はこのインスリンが分泌されなかったり、分泌されても少量 であったりうまく働かない状態で、前者を1型(小児糖尿病・インスリン依存型)、後者を2型と呼びます。日本の糖尿病患者さんの95%以上が2型といわれております。その他には遺伝子や肝臓・すい臓などの病気や感染症・免疫異常なども原因になります。そしてこの2型糖尿病の原因となるのが、食べすぎや飲酒や運動不足といった生活習慣の影響が大きいのです。
糖尿病は脳卒中は勿論、他にも様々な病気をまねきます。例えば、網膜症・心筋梗塞・皮膚病・感染症・腎臓の病気(糖尿病腎症)・手足のしびれや冷え(糖尿病神経障害)・下肢閉塞性動脈硬化症などがあります。又、高脂血症・高血圧・腎臓病の方が糖尿病にかかると症状をさらに悪化させてしまいます。
いかがですか、生活習慣病の恐ろしさや脳卒中との関係がご理解できましたでしょうか。
これらについての予防法については、後ほど脳卒中の予防法と一緒に紹介いたします。
尚、当ホームページの「ためになる話」でも紹介されていますので、興味のある方はどうぞご覧下さい。