コラム

2019-03-11
【内科疾患】胃潰瘍・胃炎について

ストレス社会といわれる現代において、胃炎や胃潰瘍はよく耳にしますね。今日は、この二つの消化器疾患に関して述べさせて頂きます。

 

○胃

みぞおちの左に位置する袋状の消化器官が胃です。その容量は約1.2~1.6リットルです。

胃は食べ物を十二指腸での消化の進み具合に合わせて、一時的に貯留しながら、食べ物と胃液を混ぜ合わせて消化・吸収し、十二指腸に送り出します。普通 は約4時間で胃から十二指腸に送り出されます。

胃の粘膜からは、塩酸・消化酵素ペプシン・粘液などの胃液が分泌され、特に塩酸はpH1.0~2.5という強い酸性を示すため、この酸から胃自体を保護するために、粘液がとても大切な役割を果 たしています。粘液の作用が弱くなると、酸によって胃の粘膜が消化されるために、胃潰瘍などを引き起こします。

 

◎胃炎(急性胃炎・慢性胃炎)

胃炎とは、胃の粘膜が炎症を起こしている病気です。その原因や症状の違い、胃粘膜の状態から、急性胃炎と慢性胃炎に分けられます。

 

・急性胃炎

概念―

胃粘膜に限局した炎症、発赤、腫脹、びらん

原因―

肉体的、精神的ストレス、暴飲暴食、抗生物質、非ステロイド系消炎剤などによる胃粘膜の血流障害

症状―

突発的な腹痛、胸焼け、吐き気。まれに吐血や下血をおこす場合もある。

治療―

薬物性のものやストレスによるものは原因の除去が第一。安静を心がける。

それでも症状が改善されないときは、胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護薬を使用

 

・慢性胃炎

分類―

表層性胃炎

萎縮性胃炎

肥厚性胃炎

※ 特に萎縮性胃炎が多い。慢性の炎症により、胃腺がつぶれるなど萎縮性の胃病変が全体に見られる。非可逆性。

原因―

☆☆ヘリコバクター・ピロリ菌の感染。

アルコールの飲みすぎ、喫煙、ストレス、薬剤

症状―

急性胃炎と比べて、症状がはっきりしないものが多い。

何となく胃がもたれる。胃の不快感、ゲップ、胸焼け。

長期に渡ると、食欲不振や倦怠感がおこる。

 

治療―

対処療法としては、急性胃炎と同様、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、運動機能改善薬を使用。

☆ピロリ菌に感染している場合は、除菌が有効とされていますが、現在のところ、ピロリ菌の除菌療法がみとめられているのは消化性潰瘍だけで、慢性胃炎では認められていないため、検査・治療ともに自費となります。

 

 

◎胃潰瘍

十二指腸潰瘍とともに消化性潰瘍と言われ、酸・ペプシン(タンパク質を分解する酵素)により消化管の壁の欠損を生じる状態です。食べ物を消化する胃液(攻撃因子)とその胃液から胃を守る作用(防御因子)のバランスが崩れた時におこると考えられています。男性は女性に比べ、約3倍ほど罹患率が高いようです。

攻撃因子の一つである胃液は、塩酸とペプシンを含んでおり、食べ物を溶かすだけに強い酸性を持っています。その力から胃自体を守るのが防御因子です。防御因子には、粘膜を保護する粘液、粘膜が分泌するアルカリ性の重炭酸、粘液を健全に保つ血液の流れがあります。この攻撃因子と防御因子のバランスが崩れると、胃が自己消化し粘膜が障害されます。

攻撃因子にはその他、ストレスも大きく関係しています。ストレスは自律神経に変調を来たします。胃液の過分泌や、粘膜表面 の血管を収縮させることにより、血液の流れが悪くなり防御因子の力を低下させてしまうのです。

同様に、喫煙も胃粘膜の血流を低下させ、潰瘍を悪化させる誘因となります。喫煙がストレス発散!と言う人も多いと思いますが、実は喫煙自体が病気を産み出す行為となり、まさに百害あって一利なし!!です。

 

また、最近になって、ヘリコバクター・ピロリ菌という菌が消化性潰瘍と深く関わっていることがわかってきました。

ピロリ菌は、胃の粘液内や、粘液と粘膜の間に生息している細菌で、ピロリ菌が放出するアンモニアが胃の粘膜を攻撃して炎症や潰瘍を引き起こすと考えられています。

消化性潰瘍に罹っている人の胃を調べると、その多くに、ピロリ菌の陽性反応が出ますが、ピロリ菌に感染した人全てに症状が現れるわけではありません。

再発を繰り返しやすい場合は、ピロリ菌の除菌が有効とされ、消化性潰瘍治療薬<ランソプラゾール>と、抗生物質の<クラリスロマイシン>と<アモキシシリン>の3剤を1週間服用する除菌療法が行われます。この除菌については専門医に相談して下さい。

・ 症状―

みぞおちや上腹部の痛み、げっぷ、胃酸が上がってくる。

背中の痛み

特に胃潰瘍の場合は、食後すぐに痛みが現れることが多い。

潰瘍からの出血が多いと、黒色のタール便が出る。

・ 治療―

薬を使った治療が中心。

ピロリ菌の除去。

出血や穿孔などがある場合は、内視鏡手術や、外科的手術を行う。

以上が西洋医学的な胃炎・胃潰瘍の概要です。

次に中医学的な考察に入ります。

 

 

《中医学的による考察》

中医学では、胃炎や胃潰瘍をその器質的変化で分類するのではなく、胃の痛み<胃痛>を主訴とする状態としてとらえた中で、その起因や症状の違いなどから弁証を行い、治療法を組み立てます。

詳細に問診し、胃痛の出ている期間、痛みの性質や特徴、及び随伴症状などとも関連させて分類します。

特に鍼灸治療では、機能性病変(胃そのものに炎症は認められないが、胃に不快感やもたれ、食欲が出ないなどの症状がある)による胃痛に良い効果 があります。また、器質清病変(炎症や潰瘍を呈する場合)でも、止痛効果 が期待できるので、この場合は継続して治療を行うことが大切です。

 胃炎や胃潰瘍だけでなく、現代医学の分類による十二指腸潰瘍や胃神経症なども、この<胃痛>と同様に考えるので、参照ください。

 

中医学では、外界の気候(特に寒さ)や、飲食物の取り過ぎ、ストレス、長期にわたる薬剤の使用などが、胃痛をひきおこすと考えています。

中医学の弁証でみると、

◎ 寒邪犯胃

◎ 飲食停滞

◎ 肝気犯胃

◎ 脾胃虚寒

 

が挙げられます。これらを分類するにあたっては、その発症原因や痛みの性質を問診の際に詳しく聞き、病邪が阻滞しているのか、臓腑の機能失調なのか、また、実証もしくは虚証なのかを正確に判断することが大切です。弁証するにあたり、問診で重要なポイントを次に示します。

 

 

<問診のポイント>

食べ過ぎ、飲みすぎてはいないか?

雨に濡れた、プールに入った、強い冷房の中にいた…など体を冷やしてはいないか?(温めると胃痛は軽減するか)

胃痛の出る時間は決まっているか?(会社に行く通 勤時間に痛む、テスト前に痛くなるなど)

胃は[痛む]のか、[張る]のか?

便秘傾向か、それとも軟便か?回数や便の性状(水っぽい、乾いている)

嘔吐がある場合は、嘔吐するのは、酸水か、水っぽい涎か?

また飲食物の嘔吐はあるか?その後楽になるか?

食べ物の好き嫌い。(冷たいものや熱いもの、油もの)

飲食と痛みの関係(食べると痛む、空腹時に痛むなど)

以上の問診を含め、舌診や脈診をもとに、弁証施治を行います。

 

 

次に「胃痛」を学ぶ上でポイントとなる中医学の基本を示します。

 

○中医学のいろは・1○

中医学では、人間のからだを構成し、生命活動を維持する基本物質を気・血・津液と呼んでいます。気・血・津液は、飲食物から得た水穀の精微をもとに、体内で作られます。多すぎることもなく、また少なすぎる事もなく、気・血・津液の絶妙なバランスを保ち、本来の機能を保たせることが、中医学の治療です。

また、その前提として、臓腑が互いに協調しながらそれぞれの機能を円滑に行うことが肝心です。

〔五臓〕肝・心・脾・肺・腎

〔六腑〕胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦

〔奇恒の腑〕脳・髄・骨・脈・胆・女子

それぞれの臓腑は自らの役割を果たすのみにとどまらず、他の臓器とも協力して機能を果 たしています。

 

○中医学のいろは・2○

―気候とからだ―

中医学では、外部環境の変化が病因となるものを外邪(外因)といいます。

外邪には風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・熱邪(火邪)の六つがあります。

このうち胃痛と深く関係するのは、寒邪です。

寒邪は凝滞性をもち、気・血の流れを停させる為、こわばりや激しい痛みをもたらします。お腹を出して寝てしまったら、明け方腹痛で目が覚めた…とは、この寒邪がお腹に入り痛みを引き起こしたと判断します。

 

○中医学のいろは・3○

―ストレスとからだ―

「肝・心・脾・肺・腎」の五臓のうち、ストレスと最も深くかかわっているのが「肝」です。「肝」は全身の気の流れを統括し、スムーズにしています。これを肝の疏泄機能と言います。

「肝」は本来伸び伸びとした状態を好むため、肉体的・精神的なストレスを受けると、この疏泄機能が影響を受けて肝気が渋滞をおこし、怒りっぽくなったり、ため息が多いなどの症状が出ます。このように気の流れがスムーズでなく、停滞していることを「気滞」といいます。

○ ストレス→肝の疏泄機能失調→気滞→体の不調を訴えるーこの図式は、ストレスの多い現代社会ではよく見られます。

 

 また、「肝」は気血の流れをスムーズにするとともに、胆汁を分泌することで、飲食物の消化・吸収を補助しています。この作用が低下すると、ゲップや胃のもたれ、腹が張るなどの症状が現れます。

 

ではここから「胃痛」の具体的な弁証を見ていきましょう。

 

○ 寒邪犯胃 ○

この証はもともと胃陽(胃を温める力)が虚しているところに、生ものや冷たいものを過食したか、あるいは腹部が寒冷刺激を受け、寒邪が胃を犯したことでおこる。寒邪により胃陽が損傷して寒凝気滞になり、気が通 じなくなることで痛みが生じる。したがって、寒さに遇うと痛みが増し、温めると緩解する胃カン部の冷痛が主症となる。

症状―

急性の胃かん痛。寒がりで暖を取りたがる。寒さで痛みが増し、温めると痛みは軽減。熱いものを好む。味覚が減退し、口渇はない。

舌診―

淡・白滑苔

脈診―

弦緊、または沈遅

治則―

温中暖胃・散寒止痛

取穴―

中カン・胃ゆ・足三里

※ 中カン・胃ゆは<ゆ募配穴>で、補法を施し灸を加えると、胃陽を奮いおこし温中散寒をはかることができる。

 

○ 飲食停滞 ○

胃気虚弱なものが、暴飲暴食、疲労時に消化の悪いものを過食して、飲食物の停滞が起こり、胃の降濁作用が失調。胃に停滞した未消化物が腐敗して濁気が上昇する。

嘔吐後は実邪が去って、胃気の巡りが改善するため、張痛は軽減する。

 

※胃の降濁作用とは…

胃には腐熟し終わった飲食物を、一つ残らず小腸に送り出す働きがあります。このことは、飲食物を下に降ろすことでもあるので、「胃は降を以って順となす」といいます。

症状―

胃カン部の張痛(拒按)。酸腐臭の嘔吐。ゲップ。酸っぱい胃液がこみ上げる。泥状便。唾液の分泌亢進。脱力感。発汗。

舌診―

紅・厚ジ苔

脈診―

滑、滑数など

治則―

消食導滞(消化物を除去して、胃気を導く)

取穴―

足三里・中カン・梁門

※ 足三里・中カンー和胃通 腸をはかる

※ 梁門―胃経のゲキ穴。急症を主る。また、中カンと組み合わせることで、緩急止痛の効果 がある。

 

○ 肝気犯胃 ○

ストレスや緊張により肝気が鬱結して、疏泄機能の低下をおこし、胃の気を阻滞するために痛みが引き起こされる。肝と胃の協調作用が崩れた状態。

現代医学でいう神経性胃炎に相当し、慢性化すると潰瘍を形成する。

症状―

胃部の張痛が反復。痛みは両脇部におよぶ。イライラや怒り、興奮などの精神状態とともに痛みが増す。上腹部のつかえ感。

舌診―

紅、薄黄苔

脈診―

弦または弦数

治則―

シャ肝和胃、和胃止痛

取穴―

内関・太衝・足三里

※ 内関は理気の作用があり、この配穴により疏肝解鬱・和胃降逆をはかる。

 

○ 脾胃虚寒 ○

胃通が長引いたり、薬剤を長期服用していると、正気が衰えて胃痛が治らなくなる。胃の経絡が温めらずらくなり、益々胃の働きが低下。

現代医学でいうと、慢性萎縮性胃炎などがこれにあたる。息切れや、精神疲労、倦怠感などの全身症状を伴う。

症状―

胃カン部の隠痛(しくしく痛む)按じると痛みは軽減する。飲食減少。水様のよだれ。無力感。精神疲労。手足が冷たく寒がり。

舌診―

淡、薄白苔

脈診―

軟弱、または細数

治則―

温中健脾・散寒止痛・(養陰和胃)

取穴―

中カン・関元・足三里・(三陰交・照海)

※ 三陰交・照海―胃を潤す作用が失調し、機能低下が顕著にみられる場合は、肝、脾、腎三陰交会穴である三陰交を組み合わせる事で、健脾和胃をはかり、水穀の精微の化生を促進。また、滋補肝腎によって胃陰不足を助ける。

 

以上のように、「胃痛」といってもその症状や発症原因は様様であります。

現代医学的解説でも述べたように、胃潰瘍の原因として注目されるヘリコバクター・ピロリ菌も、その保菌者全員が発病するわけではありません。発症する人と、しない人の差はどこにあるのか…個個人を取り巻く生活環境の違いや性格の特徴、生まれ持った体質。そして何よりも外的ストレス。

体の機能失調を来たし、結果として病気を発症する原因を見逃さずに治療を行う中医学の治療は、ただ炎症を抑えるとか、痛みを感じなくする…といった対処療法的考えから抜け出し、その根本にせまる本質的治療と言えます。

 

胃炎や胃潰瘍を含め、消化器疾患では、日々の食生活を見直すことが最重要となります。

規則正しい食事を心がけ、冷たいものや油ものはなるべく避けたいものです。

特に、暑い夏は、クーラーの効いた部屋で氷の入ったジュースを一気飲み…しがちです。

心して、自分自身の体を守りたいですね。

また、ストレスを感じやすい方は、気の巡りが滞りやすいので、気分転換に散歩を取り入れたり、ヨガやストレッチで体をほぐすことをお勧めいたします。また、ゆずなどの柑橘類やジャスミンティーなども気の巡りを良くするので、どうぞお試しください。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

 

◎ 当院での治療をお考えの方へ

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

 

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに慢性化した、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 

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