コラム

2019-02-20
肋間神経痛 

肋間神経痛に関して、始めに神経の働きから説明します。“神経”とは、動物に見られる組織で、情報伝達の役割を担っています。

神経は、中枢神経と末梢神経に分かれます。中枢神経は、脳そのものと脊髄そのものをいいます。末梢神経は、脳と脊髄と全身の各部との連結する部分で、脳から出る脳神経と脊髄から出る脊髄神経があります。

脳神経は脳から左右それぞれ12本あります。末梢神経は、体性神経と自律神経があります。体性神経とは、痛みや温度などを脳に伝える知覚(感覚)神経と、自らの意志で動かすことの出来る運動神経です。顔の筋肉や手・足の筋肉などは末梢神経で支配されているので自分の意志で動かすことが出来ます。自律神経とは、自分の意志で動かすことの出来ない心臓や血管、内臓に分布している神経です。

肋間神経は、脊髄の胸髄から出て肋骨に沿って走り胸部や腹部に分布している末梢神経です。肋間神経の知覚性のものは胸・背部と腹部の皮膚に行き知覚を司っています。更に胸膜・横隔膜にも肋間神経が分布して痛覚に関与し、心膜・食道にも肋間神経の知覚線維が分布しています。運動性のものは、脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋)、肋間筋、腹筋に分布しています。

 

【現代医学的な捉え方】

末梢神経の経路に沿って起こる激痛発作を“神経痛”とよんでいます。神経支配に関係なく現れる痛みは漠然と用いられることが多い病名ですが、医学的にはいくつかの特徴が見られる場合だけを神経痛と定義しています。

神経痛の痛みの発作は1回につき数秒から数分間で終わることが多く、無症状の時間をはさんで繰り返し現れます。さらに、痛みが起こる末梢神経の支配領域に刺激を加えると、痛みを誘発する圧痛点と呼ばれるポイントが認められます。

また、くしゃみや咳をしたときなどに痛みが引き起こされることがあります。体を曲げるといった、ある決まった姿勢をとると痛みが起こる場合もあります。

神経痛は、特発性と症候性(続発性)に分けられます。特発性とは、原因となる病名が判明せず、神経痛が病名としてつけられる場合です。知覚や筋肉の運動・反射といった末梢神経の機能を調べる神経学的な検査をしても、痛み以外の症状が見られません。

かつては、背骨にある病気がなかなか突き止られず、ほとんどの神経痛が特発性として扱われていました。しかし、診断技術の進歩に伴い、神経痛の多くに原因となる病気があることが判明してきました。

症候性とは、診断や検査によって神経痛の背景にある病気が明らかになり、その1つの症状として痛みが現れる場合です。肋間神経痛は症候性タイプがほとんどとされています。 “脊髄の病変”“神経根の障害”“帯状疱疹(ウィルス感染)”“背骨の側湾症”“内臓異常から起こる関連痛”などが原因と考えられています。

 

脊髄の病変が原因の肋間神経痛

背骨の中に脊髄神経が走行していますが、この脊髄神経が何かの原因で圧迫を受けて神経異常を起こした状態です。圧迫を起こすのは、腫瘍・椎間板ヘルニア・脱臼・骨折・血腫 等が考えられます。胸椎部の病変で両側の異常(両側の肋間神経に知覚異常が感じられる) が現れたら、脊髄の病変が疑われます。また、トイレで力んだり、くしゃみをした時に体の両側に症状が出たり、電気的な痛みが走る、なども脊髄病変が疑われます。

 

神経根の障害が原因の肋間神経痛

肋間神経が胸椎の骨の間から出てくる時に、この出口の部分で何かしらの障害を受ける事で痛みなどの神経症状が出てくるものです。神経根をいたずらする要因は、椎間板ヘルニア・骨の変形・椎間関節症などによるものがあります。通 常は片側に症状が出ます。

 

背骨の側湾症が原因の肋間神経痛

側湾症は背骨が側湾しているため、肋骨にアンバランスが生じて神経を圧迫し、靭帯や筋肉に異常をきたし、背中のあちこちが痛くなることがあります。

 

帯状疱疹が原因の肋間神経痛

帯状疱疹は脊髄神経節のウィルス感染症による肋間神経痛で、神経の支配領域に沿って病変が広がります。ウィルスの正体である“ヘルペスウィルス”は脊髄神経節に進入し皮膚に運ばれ、そこに感染を起こして、感染した神経が支配する皮膚領域に激しい痛みを起こします。この場合、身体を動かさなくても痛みが持続します。

 

内臓異常から起こる関連痛

関連痛は、内臓の異常があるときに、ある一定の場所に出てくる痛みです。神経の支配域とは別 の痛みであり、動かしても変化はありません。背中に出てくる痛みが多いために、肋間神経痛と間違われることがあります。肋骨の中には、心臓・肺・肝臓・胃・膵臓などの臓器があります。これらの内臓には自律神経が背骨から走行しています。内臓の異常は神経を伝わって背骨の回旋筋に影響を与えるといわれています。胸椎は支持力を失って変位 を起こし、これが痛みの原因ではないかとも言われています。

 

【中医学的な捉え方】

中医学では、病気は体内の「気・血・水」のバランスが崩れた状態であると考えます。

必要なところに足りなかったり(この状態を“虚”といいます)、必要以上に多かったり (この状態を“実”といいます)、巡りが悪くなったりした状態を、独自の診断方法を用いて見極めて、証をたてて治療方法を決めていきます(これを弁証論治といいます)。

 

~気・血・水について~

《気》・・・

気は人体を構成し、人体の生命活動を維持する最も基本的な物質なのです。

気”は二つの源から作られています。

・先天の気・・・両親から受け継いだ気です。生命の土台といえます。 ・後天の気・・・後天の気には二つあり、生命活動の基礎になっています。

1つは“水穀の精微”と呼ばれ、脾と胃の働きで飲食物を栄養に変えて作られます。

もう1つは、“清気”と呼ばれ、呼吸によって新鮮な外気を取り入れて体内の濁気を吐き出します。

気は体内で、絶え間なく流れ、全身の臓器や組織・器官をめぐり生理活動の動力となっています。

 

《血》・・・

血は栄養素を豊富に含んだものです。脈管内を通 じ、全身を流れ、各器官に 栄養を与え、その活動を支えています。

血の流れが悪くなり、有害な状態で体内に停滞した状態を”オ血“といい、月経痛や肩こりなど様々な痛みの症状を生みます。血が不足した状態を“血虚”といい、貧血やめまいの症状が現れます。

 

《水》・・・

体内に存在する必要な水液のことです。全身に潤いを与え、関節などの動きを 円滑にする作用があります。不足すると乾燥、関節が動かしづらいなど症状が現れます。多過ぎたり、流れが悪くなって停滞すると“湿”となり、むくみ・だるさ・冷えなどの症状が現れます。

 

この“気・血”が流れる通路を、「経絡」といいます。経絡は、臓腑で生成された気血を上下・内外に運び、全身を栄養したり機能を調節したりする作用を持っています。

さらに、臓腑と臓腑、あるいは臓腑と器官、体表などをつなぐ連絡網でもあります。

中医学には、現代医学でいう神経に該当する概念はありませんが、経絡は独自の楯行経路 をもつ循環・伝達系であると考えられています。

 

肋間神経痛は、中医学において“脇痛”に属する疾患で「季肋部痛」「脇下痛」などの病名があります。脇痛は情緒の不安定、飲食の不摂生、慢性疾患が長期化することなどが原因で起こると考えられています。そして経絡の流れに異常が起こったときに「痛み」という身体からの警告が発せられるのです。

経絡の運行障害による痛みを“不通則痛”といいます。治療は「通ずればすなはち痛まず」(通 則不痛)に基づいて行われます。

 

それでは、運行障害を起こす原因をタイプ別に説明していきます。

 

肝気鬱結タイプ

中医学でいう“肝”とは、現代医学の“肝臓”とは異なります。肝の作用には、気の運動を調節して気血の運行を維持して、消化や水液代謝の促進があります。更に、精神・心理活動にも肝の調節機能が作用しています。このような作用を“疏泄(そせつ)”といいます。感情の抑鬱や悩み、怒りによって肝が傷つくことによって、気の流れが滞り経絡の流れが悪くなり胸肋部が張って痛みます(脹痛)。この時、痛む場所は流動的で定まりません。

情緒が安定して、気持ちがのびやかになると症状が軽減します。

舌質は紅、舌苔は薄白、脈は弦です。

(治療原則)・・・・疏肝解鬱・理気通絡(肝の疏泄作用の失調を整えて、気の流れを促し 経絡の通りを良くして“血”や“水”をどんどん行かせて痛みを取り除きます)

 

血オ(血流不全)タイプ

肝気鬱結”の症状が長く経過すると血行に影響して、オ血(血の流れが停滞した状態)を生み、これが経絡の流れを悪くし痛みが起こります。特徴は、針で刺されるような痛みで、痛む場所が一定しており、痛みは昼間は軽く、夜間に激しくなります。

舌質は暗紫またはオ斑、舌苔は薄白、脈は渋です。

(治療原則)・・・・活血化オ・疏経活絡・キョ風通絡(血の流れを良くして、オ血を取り 除き経絡の通りを良くして痛みを改善します)

 

痰飲タイプ

飲食の不摂生や消化機能の減退により水飲・痰積(体内に溜まった不要な水分のこと)が肋部に停滞した為に経絡の流れを妨げ、胸脇部に痛みを生じることがあります。咳をしたり唾を吐くと胸脇下に痛みが響く、脇間部が脹る、息切れがする、などの症状も現れます。

舌質は淡、舌苔は白、脈は沈弦または沈滑です。

(治療原則)・・・・化痰逐飲(水分代謝を改善し体内にある不要な水分を取り除いて 胃腸の働きを整えて痛みを改善します)

 

肝陰虚(血液・栄養不足)タイプ

肝の働きには“血の貯蔵”があります。活動時にその貯蔵した血を疏泄機能を用いて四肢末端まで供給する役目を担っています。過労や慢性疾患などによって、本来からだに必要な気血が不足することでも痛みが発生します。このような栄養不足の痛みを“不栄則痛”といいます。いつも胸脇部に痛みがあり、目のかすみ、耳鳴り、口の渇きなどの症状も現れます。

舌質は紅、舌苔は少、脈は弦細数です。

(治療原則)・・・・活血潤燥・理気疏肝・和絡止痛(血の不足を補って体を潤し、経絡の 流れを良くして痛みを改善します)

 

少陽病タイプ

これは、“六経弁証”の中の症状です。中医学では、“弁証論治”という方法で病状を見極め、治療方法を導きます。弁証方法には“六経弁証“の他“臓腑弁証”“八綱弁証”“気血弁証”“三焦弁証”などがあります。

六経弁証は、おもに寒冷性の外邪(外因)により、疾病が発生する時に用いられます。六経弁証では、疾病の段階を、“太陽病・陽明病・少陽病・太陰病・少陰病・厥陰病”の6段階に分けています。少陽病は、外邪が体表にはなく、しかしまだ内部(裏)にまでは入っていない状態をいいます。これを、“半表半裏証”ともいい、冷感と熱感とが交互にあらわれること(寒熱往来といいます)を特徴とします。脇肋部が張って痛む他、口が苦い、呼吸をすると増悪する、咽喉部の乾燥感、食欲不振などが現れます。

舌質は紅、舌苔は白滑~薄黄、脈は弦です。

(治療原則)・・・・和解少陽(邪気を取り除いて正気を助けて症状を改善していきます)

 

治療原則の四文字は見慣れないものだと思いますが、原因となるものを取り除き“経絡”の中の気・血・水の流れをスムーズにすることで痛みを取ることを目的としています。

 

現代医学と中医学とでは、“肋間神経痛”という症状の捉え方が異なります。

このように、違った角度から人体を見つめているので、現代医学とは違ったアプローチで治療が行なえるのが中医学であるといえます。

大まかな説明でしたが、少しでも中医学的なアプローチがご理解頂ければ幸いです。

 

最後に、肋骨で囲まれた中には、脊髄をはじめ様々な臓器が存在しています。痛みを発する原因も多くありますので、安易に自己判断をされずに検査を受けることも付け加えさせて頂きます。

 

中医学鍼灸は、一般的な局所治療鍼灸と異なります。

症状のタイプ別や、細かい体質、或は症状の起因を見極め手当てを行なうところに大きな特徴が有ります。

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