緑内障とは、眼の神経が傷つき「視野」が欠けていく病気です。
決して珍しい病気ではありません。
これといった自覚症状がないまま進行するので、視野の異常に気付いた時には、失明寸前というケースもあります。
失明してからの治療は、現代の医学では不可能といわれています。
“最近なんだか視力が落ちた・・・”“なんだか眼が疲れるようになった・・・”といった、よくある眼の不調は、緑内障という眼の病気のせいかもしれません。
はじめに、眼の仕組みから説明していきます。
物を見るということは、物から反射した光が眼に入るところからスタートします。
光は、眼球の角膜・前房・瞳孔・水晶体・硝子体を順に通って、網膜に像を結びます。
その情報が、網膜の視神経細胞を通って脳に伝えられることで、私たちは物を見ることができるのです。
この仕組みが正常に働くには、眼球内が一定の圧力、つまり一定の“眼圧”に保たれていることが必要です。
眼圧がいつもほぼ一定なのは、水晶体の周りが「房水」という液体に満たされて、またその後ろが硝子体というゲル状の物質に満たされているからです。
重要なのは、“房水が一定量に保たれている”ということです。
その圧力のおかげで眼球が球形に保たれ、変形することもなく、物の像が結ばれて、物を見ることが出来るのです。
房水は血液の血漿とよく似た成分の透明な液体で、血液の代わりに目の中にあって、水晶体や角膜に栄養を与えています。
房水は、虹彩の裏側にある“毛様体”(後房内)でつくられ、眼の前方(前房)に流れていき、虹彩 と角膜の間の排出管(隅角)から排出され血管へと流れ出ています。
つまり房水が常に一定量流れていることで、ある程度の眼圧が保たれているのです。
ところが、房水の流れが悪くなったり、流れ出なくなったりすると、房水が眼球内に溜まって眼圧が高くなり、周りを圧迫し、硝子体も、その先の網膜も圧迫されてしまいます。
眼圧が高くなると、圧力に弱い視神経が侵され、消失してしまい、そのため視野障害が起こります。これが緑内障です。
視神経は一部でも消失すると、その分だけ視野が欠けてしまいます。
しかも消失した視神経は二度と戻りません。
緑内障の患者総数は、治療を受けていない潜在患者数を含めて全国で約250万~300万人と推定されています。
最近の調査では、40代以上の30人のうち1人に緑内障が見つかりました。
治療を受けていたのは、その中の約20%です。(日本緑内障学会調査)
では、緑内障について“現代医学”と“中医学”それぞれの捉え方を説明していきます。
≪現代医学的な捉え方≫
緑内障には、大きく分けて3つのタイプがあります。
先天緑内障・続発緑内障・原発緑内障の3つです。
“先天緑内障”は、生まれつき隅角の異常があるなどの場合です。
“続発緑内障”は、ケガや病気、薬剤の使用などが原因で起こります。
“原発緑内障”は、ほかに原因となる病気がなく、誰にでも起きる可能性があります。
実際に患者数が多いのが原発緑内障です。そして、原発緑内障はさらに「開放隅角緑内障」と「閉塞隅角緑内障」とに分けられます。
●開放隅角緑内障
隅角の房水の排出路にはフィルター状の部分があります。
このフィルター部分に様々な物質が溜まって目詰まりしてしまうと、房水の排出がうまく出来なくなります。なぜフィルター部分が目詰まりしてしまうのか、原因ははっきりしていませんが、老化現象のひとつであることは間違いないだろうといわれています。
いずれにしても、房水の排出がうまくいかないと、房水がたまり、眼圧が上がってしまいます。そしてやがて視神経を侵して消失させ、視野障害が起こります。
これが“開放隅角緑内障”です。開放隅角緑内障は、非常にゆっくりと進行し、また自覚症状が現れにくいために気づきにくいといえます。
また、眼圧が正常範囲の緑内障もあります。
眼圧の正常範囲は10~20mmHgです。そして21mmHg以上の高い眼圧のときには、それだけ緑内障の発生率は高くなるといえます。
しかし、眼圧が高い人すべてが緑内障になるというわけではありません。逆に、眼圧が正常範囲なのに視神経の消失や視野障害が起きている正常眼圧緑内障もあります。
眼圧がいくつだと緑内障という、数値の目安はないのです。
なぜ正常眼圧で緑内障になるかについては、視神経の強さには個人差があるからだと考えられています。
実は、日本人には正常眼圧緑内障がとても多く、開放隅角緑内障の4分の3は正常眼圧緑内障だということがわかっています。
●閉塞隅角緑内障
開放隅角緑内障が房水の排出路の問題で起こるのに対して、房水の通 り道の問題で起こるのが閉塞隅角緑内障です。
毛様体で作り出された房水は、水晶体の後ろから瞳孔の方へと流れています。
その通り道である水晶体と虹彩とがくっついて「瞳孔ブロック」を起こすと房水がそこでせき止められてしまうのです。
すると、隅角の房水の排出路も虹彩で塞がれてしまい、房水が溜まって眼圧が上がり、閉塞隅角緑内障になります。
瞳孔ブロックが広い範囲で起きると、短時間で隅角が閉塞し、急激に眼圧が上がって、急性の閉塞隅角緑内障発作が起こります。
この場合には、急激な強い眼の痛みや、その他の症状が現れます。
しかし、隅角の閉塞が起こっては戻り、起こっては戻るということを繰り返す慢性の閉塞隅角緑内障もあって、その場合は開放隅角緑内障同様、症状に気づきにくいといえます。
●緑内障の症状
正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障や、慢性の閉塞隅角緑内障では視神経が徐々に侵されて視野障害が起こりますが、初期の自覚症状はほとんどありません。
視神経は、視神経乳頭というところから束になって脳へとつながっています。
眼圧が高くなり視神経が侵されると、視神経の線維は徐々に消失し、視神経乳頭がへこんでしまいます。こうなると神経線維が消失した部分の情報は脳に伝わらなくなり、視野が欠けるという障害が起こります。
この変化はとてもゆっくりと起こっています。そして、神経線維は120から130万本もあるので、神経線維が消失し始めてもすぐには視野に影響が現れません。
通常、視野の異常が発見されるときは、神経線維の半分ほどが消失している段階です。
さらに、私たちは物を見るときに片方の眼の視野が欠けていても、もう一方の眼で自然にカバーしてしまい、視野が欠けているとは思わずに日常生活にも支障のないまま過ごしてしまうことが多いのです。
しかし、急性の閉塞隅角緑内障の発作の場合はすぐに気づきます。
突然の強い眼の痛みに襲われ、目の充血、かすみ等とともに強い頭痛や嘔吐までもが起こることがあります。こうした症状が起きた時には直ちに専門医の診察を受けることが必要です。
●緑内障の検査
早期発見のためにできることは、定期的な検査を受けることです。
緑内障を診断し治療経過の良し悪しを判断するには、多くの検査が必要なのです。
(1) 眼圧検査
(2) 隅角検査
主に診断のために行う検査で、専用のコンタクトレンズを用いて行います。
(3) 眼底検査
視神経の障害の程度を判定するために行う検査です。視神経の眼球の出口(視神経乳頭)には、小さなくぼみがあり、緑内障ではこのくぼみが拡大します。健康診断などでは、よく「視神経乳頭陥凹拡大(ししんけいにゅうとうかんおうかくだい)」と判定されます。
(4) 視野検査
見える範囲を調べる検査です。緑内障の進行具合を判断するために、最も重要な検査です。
●緑内障の治療
緑内障は、眼圧を下げることができれば、その進行を防止したり、遅らせたりすることができる可能性のある病気です。正常眼圧緑内障でさえも、眼圧をさらに下げることで病気の進行を遅らせることができる可能性があります。ただし、ひとたび障害されてしまった視神経は、残念ながら回復することはありません。また、どんなに手を尽くしても進行を止められない緑内障もあります。しかし、早期に緑内障を発見できれば、言い換えれば、まだ視神経の障害が軽いうちに手を打つことができれば、失明に至る危険性はぐっと少なくなります。
治療方法としては、薬物療法・レーザー治療・手術がありますが、すべての緑内障に対して同じ治療効果 があるのではなく、緑内障のタイプやそれぞれの人に適した治療方針を決定してゆくことがとても重要です。
(1) 薬物療法
多くの緑内障では、薬物療法が治療の基本となります。現在では、さまざまな薬効を持った点眼薬が発売されており、緑内障のタイプ・重症度・眼圧の高さなどに応じて処方されます。一種類の目薬だけで効果 が少ないと判断された場合は、複数の目薬を組み合わせて処方されます。また、眼圧を下げる飲み薬もありますが、全身の副作用が強く出ることがあり、内服できない場合もあります。
(2) レーザー治療
レーザー治療には主に二つの方法があります。ひとつは、虹彩(いわゆる茶目)に孔を開けて、眼内の房水の流れを変えるというもので、多くの閉塞隅角緑内障がこの方法によって治療可能です。虹彩 に孔を開けるときにレーザーを使用します。
もうひとつは、線維柱帯に照射することで房水の排出を促進するためのレーザー治療です。一部の開放隅角緑内障に効果 があります。レーザー治療は外来で行うことができます。
(3) 手術
薬物療法やレーザー治療が功を奏さなかった場合に行われる治療です。大まかには、房水を眼外に染み出すように細工をする手術と、線維柱帯を切開して房水の排出をたやすくしてやる手術の二つがあります。緑内障の手術方法は年々改良が進み、治療成績もかなり改善されてきました。
≪中医学的な捉え方≫
中医学の病気の捉え方は、現代医学とは異なります。
その違いは、病気の原因を考える病理観や人体のしくみを考える生理観といった、根本的なところから始まります。
中医学独自の診断体系に基づいて診断を下し、それに沿った治療方法で病気にアプローチをしていきます。
現代医学とは違う角度から人体を見つめる医学なのですから、比較して“どちらが良いのか?”ということではありません。
“病気を治す”という目的は同じで、そのためのアプローチ方法が違うだけなのです。
中医学的に健康を考えるときに重要なのは、「正気」の充実です。
正気とは、免疫力や抵抗力の源です。
正気を生み出す物質が「気・血・水」です。
気・血・水は人体を構成する基本物質で、骨や肉になると同時にエネルギー源にもなっていると考えるのです。
そして、気・血・水をつくり、その補充や代謝を行うのが「五臓六腑」です。
五臓六腑が順調に働けば、気・血・水は充実し、それによって正気も充実します。
これが健康な状態なのです。
逆に、五臓六腑が失調し、気・血・水が不足したり、あるいは代謝が悪くなった状態が病気なのです。
ですから、どんな病気でも気・血・水の異常に行きつくのです。
では、気・血・水の異常は何故おこるのでしょうか。
病気の原因を「病因」といいます。病因には、体の外からの病因「外感」と、体の内に原因がある「内傷」の二つ大別 されます。
さらに、「外感」には“六淫(りくいん)”といわれる気候の異常(風邪・暑邪・火邪(熱邪)・湿邪・燥邪・寒邪)のほか、“外傷”“寄生虫”“疫痢”があります。
「内傷」には、“七情(精神的病因)”“飲食不調(食事による病因)”“労逸(過労や休みすぎ)”“血・水の代謝異常(体内異常物質が病因)”があります。
どういった病因によって、気・血・水の何がどのようにバランスを崩しているのかを見極めることを、“弁証”といいます。
弁証の結果から、治療方法を決めることを“論治”といいます。
中医学では、この“弁証論治”に基づいて治療が行われます。
一般に、未知な病気に対しては対応策をとることは困難ですが、病気の原因(病因)やメカニズムが分析できれば、中医学ではそれに対する何らかの対応策をとってゆくことができます。
それでは“緑内障”についての弁証を考えていきたいと思います。
緑内障は、視神経が障害をうけて、視力が低下、悪化すると失明に至る病気です。
中医学には、“緑内障”という弁証はありません。
弁証では、“脾胃虚弱・肝気鬱結・肝腎陰虚”があります。
各弁証を説明する前に、関わる臓腑“肝・脾・腎”の働きから説明します。
≪肝の主な働き≫
肝は疏泄を主ります。具体的には、全身の気機(気の昇降出入の運動)を調整し、それによって血・水の運行や、脾胃の運化作用を促進し、情志(感情)を調整するといった作用があります。
肝の疏泄機能が正常であれば、気機はスムーズにゆき、気血が調和し、経絡は滞らず、臓腑・器官も正常に活動します。
しかし、この機能が失調すると、気・血・水の輸送・代謝に異常がおこり、血行障害や病理産物を形成し、経絡が渋滞し、臓腑・器官の活動に影響がでます。
肝の経脈は上って目系に連絡しています。
そして、視力は肝血の滋養に依存しています。このことから、肝は目に開竅するといわれています。
また、五臓六腑の精気はすべて目に上注するため、目と五臓六腑は内在的に連携しています。肝の機能が正常であるか否かは、しばしば目に反映されます。
≪脾の主な働き≫
脾は運化を主ります。運化とは、水穀(飲食物)を精微(栄養素)と化し、全身に輸布する機能のことです。脾の運化機能とは“水穀の運化”と“水液の運化”の二つからなります。
“水穀の運化”とは、飲食物の消化・吸収作用のことです。この機能が正常であれば、臓腑・経絡・筋肉・骨髄などに必要な栄養が届き、正常な生理活動が営むことができます。
しかし、運化機能が失調すると食欲不振となり、倦怠感、消痩(やせやつれる)や、気血生化不足などの病変がおこります。
“水液の運化”とは、水液の吸収・輸布の作用のことです。水湿の運化ともいわれています。
吸収された水穀の精微に含まれる余った水分はこの作用により、肺と腎に送られ、肺と腎の気化作用により汗・尿となり体外に排泄されます。
この働きが正常であれば、水液は体内に異常に停滞することはなく、湿・痰・飲などの病理産物も生じません。
しかし、脾の水液運化の機能が失調すると水液が体内に停滞し、湿・痰・飲などの病理産物が生じ、また水腫となることもあります。
病理産物が経絡の流れを滞らせると、必要な栄養素が行き渡らず、また痛みを発生させます。
≪腎の主な働き≫
腎の機能は、精気(人体の各種機能を支える基本物質)を貯蔵し、発育・成長、生殖を主ること、また水液代謝や呼吸(深い呼吸=納気)作用を管理することです。
腎中の精気は生命活動の基本で、腎陰と腎陽は各臓の陰陽の根本です。
腎陰は人体における陰液(血・水)の根源であらゆる臓腑・器官を潤し、滋養する作用を有しています。また、腎陽は人体における陽気の根源で臓腑・器官を温煦し、推動する作用があります。
これらが衰えると、老化現象が加速され、耳鳴り、難聴、健忘症などの症状や、生殖能力の減退、浮腫などの症状があらわれます。
それでは、各弁証の説明をしていきます。
●脾胃虚弱タイプ
過労や思慮過多、慢性疾患などにより、脾気を消耗し運化機能が失われることにより、水穀と水液の代謝障害を引き起こします。
水穀の精微が化生できなくなれば、気血の生成が低下し、気血不足を引き起こします。
また、脾の機能が低下すると、体内に水液が停滞し病理産物である湿が発生します。
これを“内湿”といいます。内湿が停滞すると、そこに“熱”が発生し、経絡の流れが滞っていきます。
このように、気血不足、湿の発生による経絡の阻滞が起こると目(全身)を滋養できなくなります。
その他、食欲不振、下痢、水腫、倦怠疲労、無気力などの症状があらわれます。
(治療方法)益気健脾・・・脾の気を充実させ運化機能を整える治療です
●肝気鬱結タイプ
肝の疏泄作用は精神的な要素、ストレスが加わることにより失調します。気機が鬱滞した状態を“気滞”といい、気滞が生じた部分には膨満感と疼痛がおこります。
湿と同様に、気滞がおこると“熱”が発生します。これを肝火といいます。
肝火は経絡の阻滞をおこし、上部に上炎して頭顔面部に症状を引き起こします。
目の充血・腫脹・疼痛、頭痛、顔面紅潮、突発性難聴、耳鳴り、イライラ感、怒りっぽい、不眠などの症状があらわれます。
(治療方法)
疏肝理気解鬱・・・
鬱滞した肝気の流れを改善する治療です
瀉肝清火・・・・・
肝火を取り除いて、燃え上がる炎を鎮める治療です
●肝腎陰虚タイプ
肝血が腎を養うことによって精を生成し、腎精が肝を滋養して血を生成します。
ストレス・疲労の長期化・慢性病などによって、両者のバランスが失調すると、内熱が出現して、肝気の疏泄や腎の蔵精機能を減退させます。
肝血と腎精(精血)は同源であるため、肝腎は同時に陰虚が現れやすく、一方が衰えるともう一方が同じように衰える性質があります。
肝の陰液(血・水)が不足すると、目を滋養できなくなります。
腎陰が不足すると、肝の陽を制御できなくなり肝陽上亢を引き起こします。
頭部や目の脹痛、目の充血、顔面紅潮、眩暈、耳鳴り、イライラ感、怒りっぽい、不眠、多夢、腰や膝のだるさなどの症状があらわれます。
(治療方法)滋養肝腎・・・肝腎の精血を滋養して内熱を冷ます治療です
上記の3つのタイプに分類して説明しましたが、大きな原因は目を巡る経絡の流れが滞り、視神経が栄養・滋潤されないことであると考え治療を行います。
本日の内容は如何でしたか?
一般に鍼灸治療は、痛み・凝り・自律神経失調症などの適応は知られております。
しかし、中医鍼灸を行って居る場合、眼科系の疾患などでも治療効果 を発揮することが出来ます。
眼科疾患でお悩みの方、一度経験豊かな鍼灸の先生の治療を試みるのも良いかも知れません。
本日の内容が、眼科疾患・特に緑内障でお悩みの方の参考になれば幸いかと存じます。