花粉症が流行る春の季節では、鼻が詰まったり、頭痛がしたりする方多いと思います。
しかし、慢性的にこのような症状が現れる病気があるのはご存知でしょうか。
蓄膿症という病気、一度は聞いたことがある方も多いかもしれません。
この病気は、一度発症するとなかなか治りづらく、とても悩んでいる方が多いようです。
今回は、この蓄膿症について述べていきたいと思います。
<西洋医学的な蓄膿症>
まず始めに、西洋医学的に捉えた蓄膿症を説明していきます。
蓄膿症は、その名の通り、膿が溜る病気ですが、具体的には、鼻腔の周囲にある大小の空洞(副鼻腔)に膿が溜ってしまう病気を言います。
ただ、蓄膿症という名称は、いわゆる俗称であり、正確には慢性の副鼻腔炎のことを言います。
この膿が溜る場所である副鼻腔は、顔の骨のなかにある空洞で、一般 的に鼻の穴と言われる鼻腔の奥に位置しています。
副鼻腔という空洞は、4つあります。
・上顎洞(じょうがくどう)
・前頭洞(ぜんとうどう)
・篩骨洞(篩骨蜂巣・しこつどう/しこつほうそう)
・蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)
副鼻腔炎は、これらの空洞が炎症をおこし膿が溜ってしまう病気なのです。
症状は、鼻づまり、鼻汁、前頭部に頭重感、嗅覚障害といった症状が現れることがあります。
鼻汁については、いわゆる風邪をひいたときのような、ずるずるとした水溶性のものではなく、粘液性で濃い色のついたものとなります。
また、重症になると、鼻腔の周りの器官へ影響が現れるケースも出てきます。
耳から鼻へと通じる管の炎症から中耳炎を起こし、鼻汁がのどに流れ込むことによって、慢性の咽頭炎、気管支炎、胃腸障害にまで発展する例もあります。
慢性の副鼻腔炎は、このような症状が繰り返し起こす状態を言い、厳密には、8~12週間以上続く場合を慢性副鼻腔炎と言います。
<原因>
では、なぜこのような炎症が起こるのかを説明します。
先ほど述べた症状をみると、とても風邪の諸症状に似ていると思います。
これは、副鼻腔炎と風邪にはとても関連性があるためであると言えます。
実際に、風邪に引き続いて副鼻腔炎となる場合もあります。
このような副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎と言われており、原因は、急性副鼻腔炎はさまざまな細菌やウイルス感染によって引き起こされるものです。
では、蓄膿症と呼ばれる慢性副鼻腔炎の原因は何なのでしょう。
もし、急性副鼻腔炎と同じように、さまざまな細菌やウイルス感染のみが原因であれば、細菌やウイルス感染が除去すれば治ると思います。
しかし、慢性副鼻腔炎は、副鼻腔炎の症状が繰り返し発症するものです。
このことを考えると慢性副鼻腔炎の原因は、さまざまな細菌やウイルス感染のみではないと言えます。
では、細菌やウイルス感染以外の要因は何なのか。
これについては、残念ながら現在のところ確実な答えは出ていません。
しかし、確実な答えは明がではありませんが、その要因についてはいくつか考えられています。
体質的な要因としては、重度のアレルギ、遺伝的素因、環境的な要因としては、環境汚染物質の影響が考えられています。
<治療>
繰り返し発症し、その原因も分からない慢性副鼻腔炎ですが、昔は手術による治療が多かったようです。しかし、現在は、抗生物質を長期にわたって持続投与するような、保存的療法による治療が多いようです。
・保存的療法
- 鼻処置
血管収縮剤などを綿棒やスプレーで鼻内に塗布し、鼻汁を吸引する治療です。
- ネブライザー療法
抗生物質、ステロイド、血管収縮剤などの入った液を霧状にして鼻に噴霧する治療です。
- 上顎洞穿刺洗浄
鼻から上顎洞に針を刺し、貯まっている膿を吸引し、生理食塩水で洗浄する治療です。
- プレッツ置換法
薬液を鼻腔内に注入した後、ポリッツェル球と呼ばれる器具で、鼻腔に圧力をかけて、さらに奥にある副鼻腔内に薬液を送り込む治療です。
- 点鼻薬
血管収縮剤入りの点鼻薬により、炎症を抑える治療です。
- 薬物療法
抗生物質や酵素製剤、粘液溶解剤の投与による治療です。
また、最近では、マクロライド系抗生物質を長期にわたって投与する治療の有効性が認められ、広く使用されているようです。
・手術療法
長期の保存的療法により症状が改善しない場合は、手術療法が行われることがあります。
<中医学的な蓄膿症の捉え方>
では次に、中医学的な蓄膿症の捉え方について、述べていきます。
鼻孔から生臭い膿が出て鼻が詰まり、嗅覚が減退することもある、このような症状を、中医学では、鼻淵(びえん)もしくは膿漏(のうろう)と言います。
蓄膿症などの慢性副鼻腔炎や急性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎は、中医学ではこの鼻淵という病症として治療を行います。
「わかりやすい東洋医学理論」でも述べられていますが、中医学において、人間の体は気、血、水により構成されており、これらを臓腑が正常に運用することで、人間は正常な生理活動を行っています。
では、鼻淵では、これらがどのように失調することで、起こるのかを述べていきます。
ただし、今回は蓄膿症(慢性副鼻腔炎)がテーマですので、急性の鼻淵に関わる部分については、割愛させていただきます。ご了承ください。
・気と水の失調
慢性的な鼻淵では、多くの場合、気と水の失調が関係します。
気には推動作用があり、これが失調すると、体内の水を押し出す力が弱くなり、水の流れが悪くなります。
この結果、水の異常物質である痰湿が生成され、この痰湿が鼻に凝集することで、鼻淵となります。このような、気と水の失調は、臓腑の失調が大きく関係してきます。
特に、慢性的な鼻淵では、脾や肺の臓器の失調が大きく関係してきます。
・脾や肺の失調
- 脾臓
脾臓は、横隔膜の下、やや左側にある臓器です。
脾臓の主要な生理機能としては、食べ物から得た栄養や水分を体全体に運び出す運化作用や、体内において物質を上に持ち上げる昇精作用などがあります。
鼻淵では主に、運化作用の失調が大きく関係します。
脾臓が持つ気(脾気)が失調することで、運化作用の失調し、その結果 、水がスムーズに流れなくなり、痰湿が鼻に凝集し、鼻淵を起こすことがあるのです。
- 肺臓
肺臓は、胸腔内に左右一対で存在する臓器です。主な生理作用としては、大気中の有益な物質を取り入れる作用である呼吸や、他にも水分代謝における重要な作用も持っています。
中医学における水分代謝の流れとしては、食物から得た水分が脾臓から肺臓へ運ばれ、肺臓はその水分を腎臓へ運び、不必要な水分は尿として排泄されるという流れとなります。
他にも肺臓が水分を皮毛に散布することで皮毛を潤すと言ったことも水分に関わる重要な生理活動です。
つまり、肺臓に注目すると、肺臓は水分を、適宜、全身に運び出す役割を担っているのです。
このような作用は、肺の通調水道作用と言います。
鼻淵では主に、肺が持つ気(肺気)が失調することで、通調水道作用の失調を起こし、これにより、水分代謝がスムーズにいかず、痰湿が鼻に凝集し、鼻淵を起こすことがあるのです。
<鼻淵の原因>
慢性的な鼻淵の多くは、肺臓や脾臓の失調が大きく関係すると、ご理解いただけたかと思います。
では、肺臓や脾臓の失調はどのような原因で起こるのでしょう。
・思慮過度によるもの
中医学では、七情という「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の七種類の感情があり、これらの感情が過度になりすぎることでも、病気になると考えられています。
実際に、思い悩みが過ぎたりすると、胃腸の調子が悪くなるのは、この思い悩みの感情が、脾臓を損傷するためであると考えられています。
鼻淵でも、思い悩みが過ぎたり、過度に物事を考えることで、脾臓を損傷し、水液代謝がスムーズにいかずに鼻淵となることがあります。
このような場合、脾気虚(脾臓の気が不足している状態)による鼻淵といえるでしょう。
・過食や偏食によるもの
過食や偏食は、脾臓の機能を低下させます。摂取した食物が多すぎて、本来もつ脾臓の機能では、食物代謝や水分代謝が追いつかず、これを繰り返すことで、脾臓の機能は低下してきます。
脾臓の機能が低下すれば、痰湿を生みやすくなり、鼻淵となることがあります。
このような場合も、脾気虚による鼻淵といえるでしょう。
・経過の長い病気によるもの
経過の長い重度の病気は、体内の気血を損傷します。
これにより、脾臓や肺臓の気が不足することで、鼻淵となることがあります。
この場合は、肺気虚による鼻淵の場合もありますし、脾気虚による鼻淵の場合もありえます。
・体質的な肺気虚によるもの
もともと、風邪をひきやすかったり、喘息を持つような方もいらっしゃると思います。
このような方は、体質的に肺気虚があり、鼻淵となることがあります。
もちろん、このような場合は、肺気虚による鼻淵といえます。
<証タイプ別治療方法>
では、次に証分類別の治療方法について述べていきます。
先ほど述べた通り、慢性的な鼻淵には、肺気虚、脾気虚によるものがあります。
中医学的な治療は、これらの証分類ごとに行われます。
・肺気虚による鼻淵
肺気虚による鼻淵の場合、「益気肺気」「去痰」「通竅」の治療を行います。
この治療は、不足している肺気を補い、さらに鼻に凝集している痰湿を取り除き、鼻を通 すという治療です。
また、肺気虚の場合、体の抵抗力が低下していることがあります。
このような場合は、感冒や花粉などのアレルギーが顕著に現れるので、これらの状態を見ながらの治療が必要と思われます。
・脾気虚による鼻淵
脾気虚による鼻淵の場合、「益気健脾」「去痰」「通竅」の治療を行います。
この治療は、不足している健脾を補い、水液の運化作用を高めて、鼻に凝集している痰湿を取り除き、鼻を通 すという治療です。
脾気虚による鼻淵のでは、過食や偏食などの食生活の乱れが、症状を悪化させます。
このことからも、普段の食生活も見直しつつ治療を行う必要があると思われます。
いかがでしょう?
中医学的な蓄膿症の治療はご理解頂けましたでしょうか?
蓄膿症のような慢性的な疾患は、病院での対症療法的なお手当てだけでは、なかなか治りづらいことが多いと思います。
これは、体質や生活をしている環境や食生活が大きく関係しているからと言えるでしょう。
根本的な体質から改善をしたい、その体質にあった食養生を知りたいという方は、一度、中医学的なお手当てをされてみるのも良いかと思います。
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