医療機関で測定した血圧の分類では、最高血圧が140~159mmHgまたは最低血圧が90~99mmHgあるときに(軽症)高血圧とし、最高血圧が160~170mmHgまたは、最低血圧が100~109mmHgあるときに(中等症)高血圧とし、最高血圧が180mmHg以上または最低血圧が110mmHg以上あるときに(重症)高血圧と定めています。
血圧値が高血圧の数値でも、一回測っただけでは高血圧症とはいいません。同じ状態で何回も測って決まります。
●高血圧症は原因が分かっているかどうかで大きく2つに分類されます●
血圧が高くなる明らかな原因が分からないものを本態性高血圧と呼び、高血圧症の患者の90~95%を占めています。これに対して血圧が高くなる原因が明らかなものは二次性高血圧と呼ばれています。
本態性高血圧は明らかな原因は解っていませんが、遺伝的素因や加齢、食塩の過剰摂取、寒冷、肥満、ストレス、運動不足、喫煙などが影響して血圧を上昇させていると考えられています。そのため、高血圧症は生活習慣病の一つとして取り扱われています。
二次性高血圧には腎臓の働きが低下したものや、ホルモンの異常によっておこるもの、血管に病気があるもの、神経性のものなどがあります。
本態性高血圧症の自覚症状は、急激に血圧が変動したときに感じることが多いです。
高血圧症の多くを占める本態性高血圧の患者は、初期には自覚症状を訴えないのが普通 です。しかし、まったく自覚症状があらわれないのかといえば、そうではありません。たとえば、一時的ではありますが、急激に血圧が上がった場合に、頭重感、頭痛、めまい、肩こり、動悸、吐き気、手足のしびれ感、顔面 のほてり感などの自覚症状を訴えることがあります。
高血圧症では、合併症が大きな問題です。
高血圧症の状態が長くなると、徐々に血管障害が進行して、脳、心臓、腎臓などに高血圧症による臓器障害と呼ばれる合併症をひきおこします。この合併症が大きな問題です。
高血圧症によって脳の血管に障害がおこると、頭痛、めまい、耳鳴り、手足のしびれ感などの症状がでることがあります。さらに進行すると、意識障害や運動障害、脳梗塞を起こします。心臓では不整脈や心肥大、心不全、狭心症、心筋梗塞の原因にもなります。また、腎不全や尿毒症などの腎障害や、眼底出血の原因にもなります。
●現代医学的診断・治療方法●
本態性高血圧症は様々な原因がからんで起こるので、問診や検査などによって、考えられる原因を絞り込み、生活習慣を改善した上で、その人に最もあう薬を併用しながら治療を行います。
どのような理由で血圧が高くなっているかによって、循環血液量を減らしたり、血管を拡張させたり、心臓の働きを抑えて、心臓からの血液の拍出量 を減らす薬を用います。
現在使われているのは、利尿剤や血管拡張剤、交感神経抑制剤、レニンアンギオテンシン酵素阻害剤です。
こうして高血圧と深い関係のある動脈硬化や糖尿病などを将来の病気に備えるのが、現代医学の考え方です。西洋薬は副作用などの懸念があるため、絶対的な満足感を得られる治療法にはなってないのが現状です。
●中医学的診断・治療方法●
中医学では主に原因のはっきりしない本態性高血圧症に効果を発揮します。
高血圧症の患者さんは初期には特に症状が現れない人もいれば、自律神経失調による目眩、頭痛、肩こり、イライラ、不眠、動悸、気分の低落など多様な症状を示す患者さんもいます。多様な病態を示す高血圧症に対して、中医学では患者の主症状に注目し、その病機の分析に力を入れます。
中医学は、西洋薬のようには直接的血圧を下げる強力な治療薬はありませんが、患者さんの生体を全身的に調整・治療することによって多様な症状を一つ一つ消し去り、結果 的に血圧異常・代謝異常を改善することができます。
●中医学的からだのしくみ●
中医学(中国医学)では人間の体を次のように考えています。人間の体は五臓六腑を中心に生命を維持する基本物質である気(エネルギー)・血(血液)・水(体液)が十分に生産され、この気・血・水が経絡という通 路を正常に流れて初めて人間の健康が維持できるという考え方にあります。
中医学による病気の治療とは、生命活動を維持する気・血・水のどこに問題があり、それが不足(虚)か有余(実)を判断します。そして五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎)のうちのどの臓腑が、この気・血・水の問題を作り出したかを診断をします。
五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎)は西洋医学と全く同じ役割分担ではありませんので混乱しないようご一読下さい。
●高血圧症に重要なポイントとは?●
中医学的にみた高血圧症で重要な臓腑(肝・心・脾・肺・腎)は下記のようになります。
「肝」…長期的に精神的な緊張が続くため
肝のエネルギーが一箇所に停滞し、停滞し続けた肝のエネルギーは火(熱・興奮状態)に変化しやすく、病理的な肝風・肝火といわれる状態になります。肝風と肝火はいずれも肝のエネルギーが興奮した状態であり、上昇・炎上という動的な性質をもっています。その為に血圧の上昇を起こします。
「脾」…味の濃い食べ物や甘い物を好んで食べたり、過度の飲食不節制のため
飲食の不節制が続くと代謝しきらない余分な栄養素(痰濁)が体内に溜まってきます。
余分な栄養素は停滞すると熱に変化しやすくなる傾向があります。この余分な栄養素(痰濁)が上昇する性質をもつ肝の臓腑と一緒になると頭部を乱し(風痰上優といわれる)、血圧上昇、頭痛、めまいなどを引き起こします。また、痰濁は血流を妨げたり、血液のサラサラを低下させたりします。その為に血圧の上昇につながります。
「腎」…過労または加齢のため
腎精が不足すると肝の陰血も不足となり、肝腎不足という状態になります。肝の陰血が不足すると、相対的に肝陽が過剰となり、肝陽が上亢して清空を乱す結果 、血圧上昇、頭痛、めまいなどの症状がおこります。分かりやすく述べると興奮状態(肝陽上亢)、陰血不足は血液の粘着率が高い状態です。
上に述べた関連臓腑の中で中心的役割を果たすのが、「肝と腎」2つの臓腑のアンバランスな関係(陰陽失調)です。
●中医学的高血圧症のタイプと治療法●
高い血圧を一時的に下げても、高血圧の原因・崩れた体質、病態がそのまま残るならば血圧は再び上昇する可能性があります。したがって高血圧症には根本的な治療が必要であり、中医学には次のような考えかたがあります。
1.肝火上炎タイプ
体を温めるエネルギーが過剰になりすぎて、体の上部にその熱が集まってしまう状態です。
主な症状
イライラする・怒りっぽい・頭痛(張った痛み)・赤ら顔・めまいなど
治療方法:
清瀉肝火
漢方薬:
竜胆瀉肝湯
2.肝陽上亢タイプ
肝火上炎タイプより、症状が複雑化したタイプです。
肝陰を損傷すると肝陽は陰の制約を失ってしまい、上下の陰陽が失調するタイプ。
ストレスなどで肝の働きが過剰となり、またそれを制するための肝の滋養が衰えているタイプ。滋養不足からめまい・ふらつき・耳鳴りなどが起こりやすい。
主な症状
めまい・耳鳴り・頭痛・偏頭痛など
治療方法:
平肝潜陽 (上がっている肝のエネルギーを下に下げる治療法)
滋補肝腎 (肝と腎のエネルギーバランスを補う治療法)
漢方薬:
天麻釣藤飲
3.肝風上擾証タイプ
このタイプは肝陽が上逆して肝風を生じたものです。
主な症状
めまい(倒れそうになる)・頭痛(張った痛みまたは激痛)
手足の痺れまたはふるえ・言語障害・歩行困難
治療方法:
平肝熄風(肝の機能亢進状態を改善し、めまい・痙攣など状態を改善する)
滋陰潜陽(体を潤しつつ、栄養分を補い上がっているエネルギーを下に下げる)
漢方薬:
鎮肝熄風湯
4.肝腎陰虚証タイプ
気持ちが鬱々とした状態が続くと肝火(肝の機能亢進状態)を動かし、陰液を消耗するタイプ。
主な症状
五心煩熱・健忘(物忘れ)・足腰のだるさ・盗汗(寝汗)・遺精
治療方法:
補益肝腎(人体に内在する抵抗力を強め、肝と腎の生理機能の回復を促進する)
漢方薬:
杞菊地黄丸
5.痰濁内阻証タイプ
脾のエネルギーが足りないために、食べたものが気や血に変わらず、余分な水分が体内に停滞しているタイプ。
主な症状
目眩・口が粘る・口が苦い・痰が多い・大小便がすっきり出ない
肥満体型・手足のしびれ
治療方法:
健脾化痰
(胃腸を調整し、体内に内在する不必要な物質を取り除く)
平肝熄風
(肝の機能亢進を改善し、めまい・筋肉の痙攣などを改善する)
漢方薬:
黄連温胆湯
6.気滞血お証タイプ
血の流れが滞ってしまうことにより、気の流れも渋滞を起こしてしまうタイプ。
主な症状
めまい・頭痛・固定痛・激痛がある
治療方法:
疏肝理気
(肝の疏泄失調と整え、気の流れを調整し、気の滞りを改善する)
活血養血
(血の流れを改善し、血の滞りを改善し、血の不足を補う)
漢方薬:
逍遥散
7.陰陽両虚証タイプ
陰と陽が両方とも衰えている状態で、大病後の回復期あるいは慢性病の末期などに現れるしまうタイプです。
主な症状
目眩・耳鳴り・動悸・息切れ・不眠または夢を多く見る・足腰がだるい・手足の冷え・夜間尿が多い
治療方法:
調補陰陽(エネルギーを陽気といい、それを補給する物質を陰分といいます。この2つをバランスよく調整する)
漢方薬:
二仙湯
●高血圧の食養生と生活養生とは?●
ドクダミ茶
乾燥したドクダミの葉25gを600mlの水で半量になるまで煎じて1日3回に分けて飲みます。
杜仲茶
中国原産のトチュウには、利尿などの作用があります。市販の葉5~10gを600mlの水で煎じ、1日3回に分けて飲みます。
決明子茶
便秘傾向の強い高血圧の方に向いています。血圧を下げる作用と便秘(コロコロ便)を改善します。
釣藤鈎(ちょうとうこう)
カキカズラのとう(生薬のちょうとうこう)5~10gを煎じて1日3、4回飲みます。特に動脈硬化性の高血圧に効果 があるとされます。
菊花茶
のぼせ、火照り感のある高血圧により、血圧を下げる作用とのぼせ、火照りの改善になります。
青菜の効用
まず、食用にできる青菜や野草の葉を~6種類用意し、よく水洗いして細かく刻みます。
それをすり鉢ですりつぶし、すりこぎでつくと青汁が取れます。これをなるべく多量 に(目安は90mlずつ)1日2、3回飲むとよいとされています。
野菜や草木の緑の葉には、多くのビタミン、ミネラル、をはじめ、酵素や植物性ホルモンなどが含まれています。これが、健康的な血液を作るのに役立ち、血圧の安定につながる青汁の効用です。
入手しやすい青汁の材料…ほうれん草・小松菜・大根の葉・シソ・ヨモギ・柿の葉など
クエン酸の効用
クエン酸は食酢や梅干し、柑橘類などに含まれる酸味成分です。クエン酸は現代医学でも体内の細胞のエネルギー代謝を活発にすることが分かっています。血圧には、全身の細胞の代謝が良くなり、心臓や血管の負担が軽減すると考えることができます。
梅肉エキス…5g程度を1日3回に分けて取るとよい。
酢…50g程度を1日3回に分け、水などで薄めて飲用するのが目安。
日常生活の改善ポイントとして、
○
血管収縮作用を引き起こす喫煙を控える。
○
精神的ストレスを解消するために趣味を持つ。
○
ウォーキングやストレッチなどの適度な運動を習慣づけて、新陳代謝を活発にし、肥満を解消する。
○
食べ過ぎによるカロリー過剰を避ける。
○
動物性脂肪を控えめにし、ビタミンなどのミネラルや食物繊維を取り入れることが大切です。
中でも特に気をつけたいのが、食生活です。
カツオやマグロ、イワシ、サバなどの青魚には、血液をサラサラにするDHAや、EPAなどの不飽和脂肪酸が含まれており、滞った血液の流れを促進する働きがあります。
また、コレステロールを下げて、血栓を予防するタマネギ、血圧を緩和し、末梢循環を促進させて動脈硬化を予防するニンニク、不足しがちなミネラルが豊富な、ワカメや昆布などの海藻類を取るようにしましょう。
他に血液を増やす食材に、
ほうれん草やニンジンなどの緑黄色野菜、アサリやシジミなどの貝類、レバー、鶏肉、黒豆、くるみなどがあります。
なお、血をめぐらせる作用にすぐれた中成薬に、
「丹参(たんじん)」という生薬を配合したものがあります。
「丹参」には、
◇血管を拡張して血流を増やす作用
◇血圧降下作用
◇血栓抑制作用
◇血液粘度を下げる作用
◇血管を若々しく保つ作用
◇血小板の凝集を抑制する作用
◇抗酸化作用
などがあることが分かっていて、中国でもお年寄りの病気予防や治療に広く用いられています。
日本では、「冠元顆粒(かんげんかりゅう)」という名前で市販されている中成薬があります。血の汚れが悪くなると起こる、頭痛、肩こり、関節痛などの痛みに即効性があります。
また、毎日、服用を続けていると心臓病や脳卒中、認知症の防止にも効果 的です。
高血圧ひとつ取り上げても様々なタイプがあることがお分かり頂けたでしょうか?
当治療院は、お一人お一人の症状に合った治療法を取り、漢方、食生活などをアドバイスさせて頂きます。
お気軽に当院までご相談下さいませ。