おそらく皆さんの中で「円形脱毛症」という疾病の名前を聞いたことのない方は居ないと思います。ストレス社会の現代ではあまりにも有名な疾患の一つでね。私の知人でも数名「円形脱毛症」になってしまった人がいるくらい身近な疾病です。
では早速「円形脱毛症」の症状から説明してゆきたいと思います。
先行する病変や前ぶれもなく突然、円形もしくは楕円形の境界明瞭な脱毛斑生ずる疾患です。脱毛部の大きさは爪位 から手掌位と様々で単発の場合や多発する場合があります。通常は頭部ですが、眉毛・須毛・陰毛などにも及ぶことがあります。まれに白斑や白毛を伴うこともあります。また、目や爪に合併症が現れることもあります。
「円形脱毛症」は日本の人口の1~2%に発症し、約4分の1は15歳以下の小児といわれております。また約2割は家族内で発生し、発症しやすい遺伝的素因があるともいわれております。それではまず「円形脱毛症」を現代医学ではどのように捉えて治療をしてゆくのかを簡単に紹介していきたいと思います。
▼現代医学的「円形脱毛症」の捉え方▼
◎症状による分類
1.脱毛部が単発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「単発型脱毛症」
最も多い脱毛症です。自然治癒率60%前後といわれています。
2.脱毛部が複数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「多発型脱毛症」
3.頭毛全てが脱落・・・・・・・・・・・・・・・・・・「全頭型脱毛症」
4.「全頭型脱毛」に加え眉毛・須毛・睫毛も抜けてしまう・「悪性脱毛症」
5.上記に加え腋毛・陰毛・その他の体毛が脱毛・・・・・「汎発性脱毛症」
6.後頭部から両側頭部にかけて帯状に境界明瞭に脱毛・・「蛇行性脱毛症」
などに分類されます。
* 「蛇行性脱毛症」は「全頭型脱毛症」に移行することが多い。
◎ 合併症
「爪」・・・爪に小さな凹みや縦に溝や陵ができたり、肥厚・混濁・変形・脱落がおこることがあります。
「目」・・・白内障{「全頭型脱毛症」「悪性脱毛症」から}
◎ 病因
残念ながら不明です。現在、幾つかの仮説がありますので紹介いたします。
1.自律神経障害説
2.内分泌障害説(ホルモンなど)
3.毛周期障害説(病巣部の毛が休止期毛となる)
4.感染アレルギー説
5.自己免疫説
など現段階だと色々あります。
◎ 治療
主に薬物治療になります。
内用:セファランチン・グリチロン錠・アレジオン など
外用:塩化カルプロ二ウム液・ステロイド剤 など
病因が不明の為、対処療法的な治療になります。
簡単ではありますが現代医学的「円形脱毛症」の捉え方でした。
次に中医学的なお話に移りたいと思います。
▼▼▼中医学的「円形脱毛症」の捉え方と治療方針▼▼▼
まず、「円形脱毛症」とは現代医学の名前です。中医学では「油風」や「鬼舐頭」と呼んでいます。その他に現代医学と大きな相違点として、中医学では「毛髪」は『血』の余りから作られると考えられており、また髪の毛に栄養を与えているのも「血」と考えております。ですから「円形脱毛症」の原因には『血』が深く関係します。
さて今、皆さんの中には「え~、髪の毛が血から出来てるの~???」と疑問を持たれた方も多いかと思います。確かにいきなり「髪の毛は血からできている」と聞いてすぐに納得できる人は少ないと思います。しかし『血』と言っても現代医学と中医学では若干考え方が違います。そこでまずは中医学で考える『血』の働き・生成・循環・失調を簡単に紹介したいと思います。近代医学とは似ている部分もあれば全然違う部分もありますが、元々身体の捉え方自体が近代医学と中医学とでは違うものなのでその辺も含めて理解していただけたらと思います。
●『血』とは?●
◎ 作用・・・血はどんな働きをしているのでしょうか?
血は全身へ栄養分を行き渡らせたり潤いを与えます。これは現代医学と似ていますね。その他の作用としては精神活動を支えております。
◎ 生成・循環・・・血はどのように作られ体内を循環し補足されるのでしょうか?
血は「脾」で飲食物から作られます。そして「心」と「肺」の力によって全身へ運ばれ「肝」に貯蔵されます。また『精血同源』といって血や精のどちらか不足した場合は片方が化成して補足することができます。
◎ 失調・・・血が作用しなくなると?
血の失調については様々な要因があり色々な種類がありますので、今回は「円形脱毛症」に特に関係のある4種類の血の失調の状態を簡単に説明します。
1.血虚・・血が不足してしまった状態です。
中医学では血が不足すると「血虚生風」と言って血の不足により栄養が行き届かなくなった結果 、めまい・四肢の痺れや拘攣・肌肉がピクピク動く・目の乾燥・爪が白く光沢がない・皮膚の乾燥などの症状が現れると考えます。又、血が脳を養われなくなると「血厥虚証」と言って突然の昏倒・顔色が蒼白い・四肢が氷のように冷たい・唇が白く艶がない・皮膚が冷たいなどの症状も現れます。
先ほども書きましたが血は精神活動を支えておりますから血虚になると不眠・健忘・昏迷・不安感などが現れます。その他には目のかすみ・動悸・四肢の知覚麻痺・女性では月経量 の減少・月経周期の遅延又は月経の停止などの症状も現れます。
2.オ血・・血の流れが停滞してしまった状態です。
症状としては顔色がどす黒い・アザができやすい・皮膚のザラツキ・月経血や出血は紫暗色で血塊が混じるなどがあります。
3.血熱・・血が熱をおびた状態です。
ちょっとイメージしづらいかもしれませんね。これは血が熱化してしまたり、熱邪が血に入り込んで起こります。では早速症状をみてみましょう。心煩・躁動し発狂する・口は渇くが飲みたがらない・夜間に身熱が顕著・鼻血・各種出血傾向などがあります。
いかがですか、「血」と言ってもその作用や失調状態は近代医学と中医学とではだいぶ考え方が違うということがわかって頂けましたでしょうか?
●中医学的「円形脱毛症」を理解するための予備知識●
次に中医学による「円形脱毛症」を理解するために必要な予備知識として「病因」と「肝」について簡単に解説をいたします。
◎病因について◎
人体に病気を発生させる原因のことを病因と呼びます。
中医学ではこの病因の中で体外が原因で起こるものを「外因」とか「外感」と言い、さらにその中には「六淫」と呼ばれるものがあります。
この「六淫」(ろくいん)とは体外から人体を障害する6種類の要因の総称です。風(ふう)・寒・暑・湿・燥・熱の6種類です。これらを総称して「外邪」(がいじゃ)と呼ぶ事もあります。
又、各々単体に「邪」を付けて呼ぶ場合もあります。例えば「寒邪」(かんじゃ)「湿邪」(しつじゃ)「熱邪」(ねつじゃ)といった具合です。皆さんがよく使う「風邪」(かぜ)もここからきていて、我々は(ふうじゃ)と呼びます。六淫とはどのようなものかもう少し説明します。例えば、日本では春夏秋冬という四季が有り、気候も季節に合わせて変わります。冬は寒く夏は暑くなります。ところがその気候の変動が過度であったり、逆に不足したり、季節はずれの気候だったりすると体の不調を訴える方が出てまいります。この状態が外邪(六淫)が人体に障害をあたえた状態です。そして「円形脱毛症」はこの六淫の中の「風邪」によって起こることがあります。
中医学はマクロの医学と呼ばれ、外界の環境が人体に及ぼす影響をとても重視しています。これは中医学の特徴である考え方で、人間を自然の一部として捉えているからこそ出てくる発想です。六淫についてはなんとなくイメージできたでしょうか?六淫についてはまだまだ説明が足りないと思いますが本題からズレてはいけませんので今回は紹介程度にしておきます。
◎肝について◎
先ほど血の循環のところで血の貯蔵をしていると紹介しました「肝」であります。この「肝」の性質はノビノビした状況を好みます。逆を言えばストレスにとても弱い臓器です。過度のストレスが加わると「肝」の気はスムースに流れなくなり渋滞を起こします。気が渋滞を起こしていることを「気滞」言います。又、「気滞血オ」といい気滞はオ血の原因になります。また、熱にもなることもあります。
●「油風・鬼剃頭」●
主な原因としては風邪(ふうじゃ)によるものや過度の精神緊張により気血の流れが悪くなって起こる場合、過労などにより肝腎の機能低下により起こると考えられております。
それでは「油風・鬼舐頭」を原因別に大きく4つに分類して解説してまいりたいと思います。
『血虚と風邪』によるもの
血虚の原因は様々です。例えば先ほど血の生成で述べましたが、血は飲食物と精から作られます。消化器系の機能低下(中医学では脾胃)や過度な飲食物の摂取制限などは血虚をまねきます。ですから無理なダイエットなどは血虚の原因になります。又、中医学では目が機能する際には血を消耗すると考えておりますので、目を酷使しても血虚になる場合があります。このような事が原因で血虚になり血が毛髪を養うことができない状態に加え、風邪を受感してしまい毛竅を阻滞しておこります。
症状は発病初期には突然毛髪が脱落します。斑状は単発や多発の場合があります。随伴症状として不眠や夢を多く見るなどがあります。
これは≪血虚風盛証≫と言います。
治療方針:「養血キョ風」といって血の不足を補って風邪を体から出す治療をします。
漢方薬:神応養真湯 七物降下湯
ツボ :患部 百会 風池 膈兪 血海 足三里 三陰交 など
『肝腎の機能低下』によるもの
疲労やその他の疾患により肝腎が失調して血が化成できなくなり毛髪に栄養が行き届かなくなり脱毛が起こります。
病症が長期化し毛髪が生じない、あるいは症状悪化。随伴症状としては、手のひらや足の裏や胸のほてり・不眠・眩暈・耳鳴り・多汗・寝汗などがあります。
≪肝腎陰虧証≫と言います。
治療方針:「滋陰補腎」といって腎の働きを促進して陰液を補います。
漢方薬:七宝美髥丹 生髪丸 斑禿丸 六味丸
ツボ :患部 太衝 照海 膈兪 肝兪 腎兪 三陰交 など
『オ血』によるもの
憂慮や怒りにより肝が障害され気滞をお越し、更に「気滞血オ」が起こり毛髪を栄養できない状態です。随伴症状としては脇胸部の脹満疼痛・焦燥感・怒りっぽい・口が苦い・目が赤いなどがあげられます。
治療方針:「活血化オ」といって血の流れを改善してオ血を取り除きます。又、肝の気が渋滞をしていれば「疏肝理気」と言って肝をととのえて気を流す治療を行います。
漢方薬:逍遙散加桃仁・紅花・四逆散
ツボ :患部・合谷・太衝・陽陵泉・膈兪・肝兪・三陰交など
『血熱』によるもの
皆さんも焚き火をした経験があると思いますが、焚き火をすると火の回りの空気が温められて動き出し風を起こすことはご存知ですよね。中医学ではこれと同じ事が体の中で起こると考えます。
これを≪熱極生風≫と呼びます。
例えば、血に熱邪が入り血熱が起きると、その熱により風が生まれると考えます。これは血の中に熱が入ることにより血を消耗してしまい内風が発生するわけで「血熱生風」と呼びます。原因はストレスや過度の精神状態によります。症状は突然限局した円形や楕円形の脱毛が起こります。
随伴症状としてはイライラ・口渇・便秘・などがあります。
治療方針:「涼血熄風」と言って血にある熱邪を取り除き内風を鎮めます。
漢方薬:羚羊鈎藤湯
ツボ :内関・通里・太谿・三陰交などがあります。
「油風・鬼舐頭」を中医学的に4つに分類して病因・治療方針・漢方薬・ツボを説明いたしましたが、ご理解いただけましたでしょうか?次に分類に関係なくどの証にも共通 に施術ができる治療法を紹介します。
◎梅花針(ばいかしん)
皮膚針の一種で長い柄の先に5本の針を梅の花の様に束ねて作られいる針で、患部を軽く刺激します。
◎外治方
生姜を薄くスライスして患部をこする。又はもぐさの煎じ汁で患部を洗うなどの方法があります。
▼▼▼予防養生▼▼▼
中医学的「円形脱毛症」の捉え方を読んでいただければ、円形脱毛症は「血」と「ストレス」が深く関与していることがわかると思います。そこでここでは「血」についての予防養生を紹介いたします。尚、「ストレス」についての予防養生は当ホームページの『鬱証』のページに詳しく述べておりますのでそちらを参照してください。
◎補血作用のある食べ物◎
血を増やしてくれる食べ物ですので血虚タイプの方におすすめです。
*野 菜:
ほうれんそう・さといも・ブロッコリー・人参
きゃべつ・ひじき
*果 物:
ぶどう・もも・プルーン・レーズン・ざくろ
ブルーベリー・いちじく
*肉 類:
レバー・羊肉・鶏肉・牛肉
*魚介類:
えび・うなぎ・さば・いか・あなご・あわび・ぶり
まぐろ・かに・たこ・牡蠣・太刀魚・すっぽん
なまこ・すずき・いしもち・ふな・ふかひれ・えいひれ
*穀 物:
あわ・小麦・黒豆・黒米・赤米
*乳製品:
牛乳・卵
*木の実:
黒ごま・松の実・くるみ
*健康茶:
なつめ茶・クコ茶
*漢方薬:
当帰・竜眼
・・生活の中で注意すること・・
○ 目が機能するためには血が消耗されますので目の使い過ぎには注意しましょう。
○ 血は飲食物から作られます、過度なダイエットには注意しましょう。
◎活血作用のある食べ物◎
滞りを起こしている血の流れを回復してくれます。オ血タイプの方におすすめです。
*野 菜:
にら・えんどう豆・みょうが・なす・れんこん・くわい
セロリ・さといも・フキ・トマト・アスパラガス
たまねぎ・ねぎ・にんにく・らっきょ・しょうが
とうがらし・ピーマン・ほうれんそう・かぶ
*果 物:
くり・プルーン・もも・いちご・メロン
*魚介類:
太刀魚・たこ・いわし・あさり・あわび・たい・かに
ひじき・こい・なまこ・まぐろ・かつお・さば・こはだ
あじ・さんま
*健康茶:
ウコン・ローズティー・田七人参茶
*その他:
酢・カレー・黒砂糖
・・生活の中で注意すること・・
○ 血行が悪くなります、寒さには十分注意しましょう。
○ たばこも血行を悪くします、吸い過ぎに注意しましょう。
○ 適度な運動を心がけましょう。
○ オ血の要因は「冷え」「ストレス」「過労」です!!注意してください。
◎補陰作用のある食べ物◎
陰液を増やしてくれます。陰虧タイプの方におすすめです。
*野 菜:
ごぼう・ちんげんさい・きゅうり・なす・アスパラガス
トマト・みょうが・とうがん・れんこん・せり
*果 物:
スイカ・びわ・なし・バナナ・あんず・さくらんぼ
*魚介類:
ほたて・しじみ・あさり・かに
*健康茶:
緑茶・プーアール茶・ウーロン茶
*その他:
こんにゃく・そば・黒豆・小麦・豆乳
・・生活の中で注意すること・・
○ 陰液は夜の睡眠中に作られます。できるだけ12時前に寝るようにしましょう。
最後にタイプに関係なくストレスは大敵です。出来るだけストレスは貯めないように注意しましょう。
又、脱毛が起きている方は患部をマッサージして血行を良くするように心がけてください。
中医学的に捉える「円形脱毛症」は理解できましたか?
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。