陰部のかゆみを中医学では、「陰痒」と言い、
「陰部掻痒」は女性に、また「陰嚢湿疹」は男性に、発生する皮膚病です。
陰部の不快感は、なかなか人に話しにくい症状であり、病院を受診せずに市販の塗り薬に頼ってしまう方も多いかもしれません。
しかし、痒みの原因が何なのかをはっきりさせないと、単なる痒み止めでは、効果 がない場合もありますし、逆に悪化させてしまうこともあります。
痒み止めの薬は一時的に痒みを止めるものがほとんどで、ステロイドを含むものも多いので、ただかゆみを止める目的で多用するのは危険です。
感染症以外に、単なる下着かぶれの場合もありますし、内蔵疾患が隠れている場合もあります。
きちんと原因を把握し効果のある治療をして、早めに治すことが大切です。
また、陰部はとてもデリケートな皮膚ですから、効果のある薬でも、長期間頼っていると、
さらに状態が悪くなってしまうこともあり、根本的な治療にはなりません。
基本的には陰部を清潔に保つことが大切ですが、石鹸を使ってはいけない場合もありますから、気をつけましょう。
大切なのは、痒みを抑えることだけではなく、根本的な原因を把握し、基本体質を改善して、痒みをおこしにくい身体をつくっていくことです。
さて、中医学的にはどのように考えているのでしょうか。
中医学では「病」は、身体のバランスの崩れと考えます。
「痒み」という症状を通して現れた、「身体のバランスのくずれ」を把握して表面 的な「痒み」を抑えると同時に、根本的な体質も治療していきます。
中医学で考える身体のしくみについて、詳しくは、「わかりやすい東洋医学理論」が、病気別 わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段にありますので、ご参考にして下さい。
中医学的な鍼灸治療で、体質改善が出来るという事をご存知の方は多いと思いますが、痒みが抑えられるということはご存知ない方が多いのではないでしょうか。
痒みの原因は、「水湿」と「熱」が体内に潜んでいることや、皮膚をうるおす力が足りない事によります。
ですから、中医学の鍼灸治療では、その水湿や熱を身体の外に出す事や、身体をうるおす力を強める事によって、痒みを緩和していくのです。
痒み止めの薬は、痒み物質の働きをブロックする作用のものがほとんどですから、一時的な作用のみで終わってしまいますし、依存性がありますから、使用量 が、次第に増えてしまって、かえって皮膚に悪影響を及ぼす危険があります。
身体にとって、真の健康とは何かを考えていただきたいと思います。
さて、中医学的な治療について、詳しく考えていきましょう。
陰痒は、大きく分けると、2つのタイプに分かれます。
1・肝経湿熱(湿熱下注)によるもの
主訴 :
外陰部の掻痒・疼痛
随伴症:
帯下の量が多い、色は白色又は黄色で臭気がある。
心煩・不眠・いらいら感・口が苦く粘る・尿が黄色い
舌・脈:
舌苔黄膩・弦数脈
原因 :
ストレスや食生活の不摂生により、うまく代謝が出来ずに、体内に“湿熱”と呼ばれる病症が形成されて、これが陰部に流注して炎症を引き起こすことにあります。
又は、不衛生にしていて、病原菌に感染することによっても起こります。
治療 :
疏肝清熱・利湿止痒
肝の働きを良くし、気の流れをスムースにすることにより、代謝を良くします。
湿の滞りをなくすことで、身体の余分な熱を取り、痒みをとめます。
食事 :
油っこい食品・濃いお茶・コーヒー・アルコール類・トウガラシ食品などをできるだけ控え、菜食中心の食事に心掛けましょう。
2・肝腎陰虚によるもの
主訴 :
陰部の痒み・乾燥・灼熱感
随伴症:
帯下は少量、色は黄色・手足のほてり・発汗・眩暈・耳鳴り・
腰や膝のだるさ・口渇・夜間に痒みが強くなる。
舌・脈:
舌質紅 舌苔少 脈細数無力
原因 :
老化や慢性病・性交過多・出産などにより、身体が精力不足(精血不足)となり、身体が充分に滋養されないために起こります。
身体をうるおしたり、余分な熱をさます作用のある「陰液」が不足するために、乾燥して熱感のある状態です。閉経後に多く起こります。
治療 :
滋陰清熱・養血止痒
身体をうるおす作用を強め、陰液を増やすことで体温のバランスをとります。
血を増し、働きを良くして痒みを止めます。
両方とも熱証であり、身体の中に生じた熱が主な原因となっていますが、実証・虚証の違いがあり、治療法も大きく違っています。随伴症状により、きちんと見分けることが大切です。
ここで言う「湿熱」とは、いったいなんでしょう。
現代医学では聞きなれない言葉ですね。
中医学では、「湿熱」とは、病気の原因となるもののひとつと考えます。
体内で、代謝がうまく行われない為に、滞ってしまった余分な物質のことで、アレルギー疾患(アトピー・リウマチなど)や、感染症の原因となります。
「湿熱」とは「湿邪」と「熱邪」の合わさったもので、じめじめと湿って粘っこく熱感があり、 痒みや炎症の原因になります。
例えば梅雨時、湿気が多く暖かい所にはカビが生えてしまうように、人体でも「湿熱」が あると、病気の巣になってしまうのです。
「湿邪」は湿気の多い時期に身体に侵入しやすいので、梅雨時など湿気の多い時期には体調が悪くなりやすく、リウマチなどの症状も悪化します。
また、飲食の不摂生でも、消化しきれなかった飲食物が体内に滞ることにより、余分な水分「水湿」が生じてしまいます。
ですから、水湿が原因の疾患では食事に注意することが大切なのです。
「熱邪」は、身体に熱感のある状態ですが、何故熱が生じてしまったのかという原因を考えると大きく二つに分かれます。
普段の体温は、身体の「陽」と「陰」のバランスを保つことで一定に保たれていますが、その「陽」(プラスのエネルギー)が増えすぎて熱のある状態を『実熱』といい、「陰」(マイナスのエネルギー:熱を抑える力)が不足して、陰陽のバランスが崩れ、その結果 として「陰」より「陽」が多くなってしまった状態を『虚熱』といいます。
一見、症状は同じですが、原因が違いますから、治療法も大きく違っています。
先程あげた、1.肝経湿熱による陰痒は『実熱』ですから、余分なものを取り去る事が主な治療となりますし、2.肝腎陰虚による陰痒は『虚熱』ですから、身体をうるおし、体温のバランスをとる力を補ってあげることが根本的な治療となります。
痒みの原因は両極端に違っているわけですから、その表面の痒みだけ抑えても 結局は、再発を繰り返したり、逆に悪化してしまったりします。
中医学では、病気の根本的な原因を把握して、根本から治していきますから、表面 的な治療に終わらず、きちんと治すことができます。
たとえば、樹木の病気においても、葉に病変が現れたら、根本を養う土から良い状態に変えていくように、人間の身体も根本から丈夫な状態にしていくことで、心身ともに健康な身体をつくっていきましょう。