コラム

2019-02-20
胃下垂

胃下垂とは、ものを食べた後胃がその重さに耐え切れず正常な位 置より垂れ下がることを言います。レントゲンで見ると、骨盤の高さより胃角(胃の内側のカーブで急角度に曲がる所)が下にあります。胃そのものが下に下がっているというより、胃の入り口は正常な位 置にありながら、胃が長細く伸びてしまうのです。

西洋医学では、腹部圧力の低下、また胃を支える脂肪や筋力の低下で腹部に必要な緊張を保てずに、胃の下垂がおこると言われています。胃下垂症の人は、他の臓器(腸・子宮など)も下垂傾向にあるとされ、一般 に痩せ型の女性に多く見られます。

 

<胃下垂の症状>

胃下垂の場合、胃が長く伸びるだけで、他の症状を伴わないこともありますが、次のような症状をおこしやすいと言われます。

 

・ 食後の膨満感

・ ゲップ

・ 胸焼け

・ 胃痛

・ 胃もたれ

・ 便秘など

 

また胃下垂の人の胃を調べると、蠕動運動と言われる胃自体の消化運動が正常に行われていません。この蠕動運動の失調は、飲食物の消化・吸収を低下させ、体全体に十分な栄養を供給できないことから、貧血・肌荒れなどの栄養障害を引き起こす可能性が多くあります。

さらに胃アトニ-という疾患を併発することもあります。胃アトニ-は消化力の低下から、胃に食べたものが長く留まり、食後に膨満感を起こしやすくなります。さらに胃酸過多から胃壁を荒らし、胃炎や胃潰瘍を誘発することも多いので、この場合早期治療が必要です。

 

<西洋医学的治療法>

胃下垂の根本的な治療法は、西洋医学では見つかっていません。

胃下垂に伴う胃の不快感を抑えたり、消化を助けるための薬剤治療が主に行われています。

また、胃の負担を軽減するように、

1. 食後は横になり休息を取る

2. 暴飲暴食を控える

など、生活習慣の改善も大事な治療となっています。

 

<中医学からみる胃下垂>

 

はじめに○

中医学では、人間のからだを構成し、生命活動を維持する基本物質を気・血・津液と呼んでいます。この気・血・津液は人体をくまなく、絶え間なく流れ、臓腑、筋肉、骨、脳などすべての組織を栄養し、その働きを維持しています。

気・血・津液は、体内で産生されます。物質であるため、消耗することもあります。多すぎることもなく、また少なすぎる事もなく、気・血・津液の絶妙なバランスを保ち、本来の機能を保たせることが、中医学の治療です。ここに、健康の基本があります。

また、中医学で考える五臓<肝・心・脾・肺・腎>六腑<胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦>が、互いに協調しながらそれぞれの機能を円滑に行うことによってはじめて、気・血・津液は過不足なく、その機能は保たれます。どこかの臓腑に問題があれば、必ず気・血・津液にも影響が及び、反対に、この気・血・津液が体内において正常な働きを失えば、五臓六腑もその機能を果 たすことができません。

すべては、一つに繋がっているーこの考え方は中医学の特徴でもあります。

 

では、ここから胃下垂についての本題に入ります。

 

前述したように西洋医学には、胃下垂の根本治療はありません。そもそも胃が何故下垂するのか、下垂させてしまうような腹圧の低下や筋力低下が何故おこるのか…そこが西洋医学では説明しずらいのかもしれません。

これに対し、中医学では、内臓一般の下垂症状を「気陥」という状態ととらえます。なぜ本来の位 置より臓器が下垂するのか、その本質を見極めて治療を行います。

 

「気」とは車でいえばガソリンのようなものです。人間のからだを動かしたり、温めたり、栄養したり…と、気には様様な、そして大切な働きがあります。この「気」の働きのなかに<固摂作用>といわれる働きがあります。

気の固摂作用とは、

気・血・津液の過剰な排泄を抑え、留める。

内臓の位置を保つ。

というものです。出血や汗がダラダラと出るのを抑えたり、尿、精液、帯下などの過剰な排泄を防ぎ、内臓が下がらないように一定の位 置に保つのが、気の固摂の働きです。

この固摂作用の中で、特に内臓の位置に保つ働きが失調することを「気陥」と言います。

内臓下垂の症状を呈する治療では、下垂している器官が胃であっても、腸であっても、また子宮であっても、考え方は変わりません。「気陥」という気の失調を改善することが、すべての下垂症状の治療となります。

 

気陥とは?☆

気陥は「中気下陥(脾気下陥)」と言われます。

「中気下陥」は脾気虚の進行した状態で、脾の「昇提作用」が失調して下垂症状をおこすと考えられ、胃下垂もこの「中気下陥」という証であらわします。

「中気」とは、人体の真ん中にあり、おもに飲食物の消化・吸収をつかさどる「脾」の気を指します。

「下陥」とは字の通り、下に陥ちる、下がるということです。

脾気が下がる(上がらない)=胃下垂ととらえるのです。

 

脾○

では、この「脾」がどのような働きをするのか、脾の生理作用を見てみましょう。

 

<脾は運化を主る>

胃・小腸で飲食物の中から取り出された水穀の精微は脾で吸収され、さらに上焦部の肺へ送られます。これが気・血・津液を作るもとになります。

脾は、胃や小腸、大腸を含めた飲食物の消化吸収に関わるすべてを管理しているため、「脾は運化を主る」と言われます。

脾の運化作用が失調すると、食欲不振・腹部のもたれ・食後倦怠感や眠気・軟便・下痢・むくみなどの症状があらわれます。

 

<脾は血を統す>

気の固摂作用によって、脾は血が経脈を流れる際に、脈外に漏れださないように監督して、血の漏出を防いでいます。これを「脾は血を統す」といいます。

この働きが失調すると、鼻血・不正出血・生理がダラダラ続く・皮下出血などの出血症状があらわれます。

 

<脾は昇提を主る>

脾には、臓腑・器官の固有の位置を維持する働きがあります。また、小腸から受け取った水穀の精微を吸収し、肺に持ち上げ送る働きを有します。これを「脾は昇提を主る」といいます。

この働きが失調すると、腹部の下垂・脱肛・めまい・ふらつきなどの症状があらわれます。

 

<脾は口に開きょうする>

飲食物が口から入り、水穀の精微に変わるまでの過程は、すべて脾の運化作用によって管理されています。そのため、脾の運化作用の失調は、味がない・口が粘る・唇の色が淡白など、口や唇の症状としてもあらわれます。さらに運化作用の失調により水液や飲食物が代謝されず体内に残ると、痰飲という病理に変化します。この場合、舌苔は厚く、汚いものが付着しているようにみえます。

 

このように脾は、飲食物から気・血・津液を作り出すためにとても重要な働きをするとともに、血の漏出を防いだり、内臓の位 置を保っているのです。

 

では次に、この胃下垂を引き起こす中気下陥の原因や随伴症状、治療法などを見てみましょう。

 

中気下陥(脾気下陥)による胃下垂

脾気の昇提作用が低下したことで、下垂症状が顕著にあらわれる証。

慢性病や長期にわたる下痢、過労や多産、また、もともと脾胃虚弱の者が暴飲暴食をすることによって脾気を損傷することによって起こる。これらは中気下陥を悪化させる誘引ともなる。

さらに、中気不足のために、全身に気血を行き渡らせることができない。脾気が下がるため、清陽が頭部に達しないなど、症状は全身に渡る。

 

 

随伴症状―下腹部の下墜感・下痢・脱肛・子宮下垂・遊走腎・息切れ・めまい・立ちくらみ・疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、胃もたれ、軟便、下痢、

舌診―淡白・はん大・歯痕あり(気虚)  舌苔―白滑

脈診―沈遅弱

治則―脾気を補い、気を上に引き上げる補中益気・昇陽挙陥、益気昇提

代表配穴―中かん・気海・関元・足三里・脾ゆ・百会

 

 

 

 

 

 

中かん・足三里―胃経の募穴と合穴であり(募合配穴法)。中焦の気を補う。補法では、益気建中など脾胃の機能を改善する働きがある。

気海・関元―気海は生気の海であり、関元は原気の関。施灸により、大補元気・昇陽固脱をはかる。

百会―督脈は手足三陽経と連絡しており、全身の陽気を統括する作用がある。この三陽経は、督脈、足けつ陰肝経と百会穴で交会しているため、諸陽各経を貫通 することができる。これにより、昇陽益気(全身の気を持ち上げる、下陥した清陽を昇らせる)作用を持つ

脾ゆ・足三里―両穴に補法を施し、灸を加えることで、健脾助運と補中益気をはかる。

 

代表方剤―補中益気湯

(補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、補剤の王者として別名医王湯と呼ばれます。補中とは、人体を縦に上・中・下の三つに分けた内の真ん中「中」すなわち胃腸の働きを高め、体力を補い元気をつけることをいいます。下垂症状のほかにも、虚弱体質、食欲不振、病後の衰弱、疲労倦怠、夏負けなど、多くの虚証症状に用いられます。)

 

先に述べたように、脾気の低下がおこると、飲食物の消化吸収が妨げられ、人間が活動するためのエネルギーは産生出来ません。胃下垂の症状がある場合、その根底には、この脾気が不足し、からだを滋養できていない状態が隠れています。

特に女性は、偏ったダイエットや痩せ願望から、「胃下垂の人は太らない」と胃下垂を病気ととらえるどころか、羨ましいと考える風潮があります。この風潮は決して正しいとはいえません。食べたものから、自身のからだを栄養する気・血・津液が産み出されることは、とても大切なことなのです。

 

もし、胃下垂や内臓下垂の症状がみられる場合は、

1. 暴飲暴食を避け、睡眠をしっかり取る。

2. お刺身や生野菜、果物、甘いものを取り過ぎない。

3. 飲み物はなるべく常温以上のものにする。

4. からだを冷やさない。

 

などに注意をしながら、生活を見直してみると良いでしょう。

また脾は「湿」を嫌う為、梅雨の時期は特に疲れやすくなります。生ものや甘いものが好ましくないのも、からだの中に「湿」を溜め込む性質があるためです。「湿」は体内でもベトベトと粘着性を持つので、清陽が上に昇るのを邪魔して、結果 、脾気を傷つけてしまいます。

適度な食事、適度な運動、十分な休息を取り、湿気に負けないからだを作りたいですね。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

また、東洋医学の中での中医針灸に関する質問もお気軽にどうぞ。

当院は予約制となります

  • まずはお電話でご相談ください。

  • 0088-221818

診療時間

9:00~
12:00
13:00まで
14:00~
16:30

※ 火曜日・水曜日・木曜日が祝祭日の場合は午前診療となります。
※ 当院は予約制です。

アクセス

〒180-0002
東京都武蔵野市吉祥寺東町1丁目17-10

院内の様子