悪心とは、のどから胸、胃にかけて感じられる嘔吐が起こりそうな不快な感覚を言います。
嘔吐とは、胃や腸の中身が口から吐き出される現象を言います。
悪心・嘔吐には、唾液がたくさん出てくる冷や汗、顔色が青白くなる、めまい、頻脈、低血圧、脱力感、疲労感などの症状が一緒に出てくることが多いです。
悪心・嘔吐は色々な病気で起きますが、その起こり方はいずれの場合もある病気の場所から脳の延髄にある嘔吐中枢と呼ばれる場所に、直接、あるいは化学受容器引金帯と呼ばれる場所を経由して嘔吐中枢に異常が伝えられ、今度は嘔吐中枢から胃、食道、横隔膜、腹の筋肉に命令が伝えられます。
嘔吐中枢から命令が伝えられますと、まず胃の出口がしまり、胃の内容物が下へ行かないようになり、同時に食道と胃の入り口が緩みます。
次に横隔膜、腹の筋肉が激しく縮んで腹の圧力が高くなって胃の内容物が緩んだ胃の入り口、食道を通 って口に搾り出されます。
嘔吐中枢を刺激するような病気は色々ありますが、医学では次のような三種類に分けられます。
1・中枢性嘔吐
a・
脳の色々な病気、特に脳の内圧が高くなるような場合(脳の外傷、あるいは脳卒中で脳にむくみや血液が溜まったとき、脳腫瘍等)
b・
心因性といって特に病気がなく精神的なもので起きます。
2・反射性嘔吐
a・
内臓の病気、胃、腸、胆のう、膵臓、肝臓の病気(代表的な病気は腸閉塞、胆石、幽門狭窄等)
b・
内臓以外でも、心筋梗塞、尿管結石、子宮外妊娠等、激しい痛みがある場合にも起きます。
c・
嫌な臭い、嫌いな、特に残酷なものを見たときに起こります。
3・化学受容器引金帯を経由する嘔吐
a・
体内の有害物質が血液中に増えたとき。例えば尿毒症、糖尿病昏睡のまえぶれ、つわり等の場合。
b・
めまい、船酔い等、感覚器官の異常の場合。
c・
薬、治療用の放射線照射、アルコール等によって起こります。
代表的な嘔吐を伴う病気
1・中枢性嘔吐
・くも膜下出血
くも膜下出血はいわゆる脳卒中と呼ばれる病気のうちの一つです。(脳卒中のは他に脳出血や脳梗塞があります)
くも膜下出血のほとんどは脳の血管(動脈)に知らないうちにこぶが出来ていて、ある日突然にこれが破裂して、頭の中に出血することにより起こります。
このこぶのことを脳動脈瘤といいます。
突然に起こる頭痛と嘔吐が特徴です。頭をハンマーで叩かれた様だとか、いまだかつて感じたことのないほどの痛みだなどと表現されます。
また、出血が強いときは、こん睡状態になることもしばしばです。
大変重とくな病気で早期発見が難しく、一度脳動脈瘤が破裂するとほぼ高い確率で再度破裂します。医師の適切な処置が不可欠です。
2・反射性嘔吐
・腸閉塞(イレウス)
腸閉塞とは食べ物や消化液の流れが小腸や大腸で滞った状態、すなわち内容物が腸に詰まった状態を言います。
腸が拡張して張ってくるため、お腹が張って痛くなり、肛門の方向へすすめなくなった腸の内容物が口の方向に逆流して吐き気を催し嘔吐したりします。
原因が腸の外側にある場合と内側にある場合があります。
腸の外側に原因がある場合とは、腸が外側から圧迫されたりねじれたりする場合です。腹部を切る開腹手術を受けたことがある患者さんでは、腸と腹壁、腸同士の癒着が起こりますが、癒着の部分を中心に腸が折れ曲がったり、ねじれたり、癒着部分でほかの腸を圧迫されたりして腸が詰まる場合が一般 的です。
まれに腸自体が自然にねじれて詰まることもあります。(腸捻転)
腸自体が圧迫されたりねじれたりするだけでなく、腸に酸素や栄養分を送る血管が入った膜(腸間膜)も、圧迫されたりねじれたりして、血流障害を起こしたものを絞扼性腸閉塞と言います。
腸の内側に問題がある場合としては、大腸ガンによる閉塞があり、高齢者で便秘傾向の人では、硬くなった便自体も腸閉塞の原因になります。
症状の現れ方は、突然激しい腹痛と吐き気、嘔吐が起こります。
嘔吐の吐物は、最初は胃液(白色から透明ですっぱい)、胆汁(黄色で苦い)ですが、進行すると腸の奥から逆流してきた腸の内容物となり、下痢便のような色合いで便臭を伴うようになります。(吐糞症)
自然に治ることはないので早めに病院で受診する必要があります。
・急性胃炎
急性胃炎は様々な原因によって引き起こされる胃の急性症状の総称です。
ほとんどの例で上腹部の自覚症状を伴いますが、原因が取り除かれると回復も早いのが特徴です。
飲食物、薬剤、ストレスにもとずくものが多く見られます。
そのほか、アルコール、外傷、外科手術、ピロリ菌の感染、アニサキス症の際にも急性胃炎を生じることがしばしばあります。
一般には原因があってから短時間のうちに食欲不振、吐き気、嘔吐、上腹部の痛み、またはもたれ感などの症状が生じてくるのが特徴です。
原因がはっきりしている場合、それを除くことが急性胃炎治療の基本です。
軽症の場合は、注意深く様子を見ることで十分と思われます。
症状が強かったり、様子をみても改善がみられない場合は、内視鏡検査の可能な病院を受診して下さい。
3・化学受容器引金帯を経由する嘔吐
・メニエール病
メニエール病は、内耳の病気で繰り返すめまいに、難聴や耳鳴りを伴うものです。
一般に片側の内耳の障害ですが、時には両側とも障害されることもあります。内耳を満たしている内リンパ液が過剰になると、内リンパ水腫になりますが、この状態によってメニエール病が起こると考えられています。
しかし、この内リンパ水腫がなぜ起こるのかについては不明です。
症状は、何の誘引もなく突然回転性のめまい(ぐるぐる回る)が起こり、めまいと同時に、あるいはめまいの少し前から片耳に耳鳴りや耳の閉塞感、難聴が起こります。
めまいを繰り返す間隔は人によって違い、数日、数週間、数ヶ月、あるいは一年に一回など様々です。
めまいが激しいときはこれらの症状以外にも吐き気、嘔吐、冷や汗、動悸などが起こります。
治療には、めまいを軽くする抗めまい剤や、内リンパ水腫を軽減する薬が使用されます。
しかし、メニエール病は難病に指定されている病気で、完全に治すことが困難な場合も少なくありません。
めまい発作はメニエール病に限らず他の生命に関わる病気かもしれないので、至急専門医の診療を受けてください。
悪心・嘔吐はからだの変調を示すサインのようなものです。他に症状を伴ったり長引いたりするようならば、一度専門医に診てもらい、適切な治療をあおいで下さい。
尚、上記した病気はほんの一例ですので参考までにしてください。
中医学でみる悪心・嘔吐
中医学においても吐き気を催すことを悪心と言います。
また有声無物(ゲェーッと声を出すこと)を嘔といい、有物無声(物を吐き出すこと)を吐といいます。
嘔吐の説明の前に簡単に中医学の基本的な生体観を説明していきます。
~気・血・水~
気-
気とは物質であり、人が生理活動をする上での重要なエネルギー源です。物質ゆえに消耗したり補充したりすることが出来ます。
また運動性も持ち合わせており、「昇降出入」という働きがあります。「昇降出入」とは気の運動形式のことで、昇ったり降りたりする上下方向の運動と、発散したり収納したりする出入方向の運動が基本になっているということです。
よって、気は物質でありながら運動性を持っているのです。
また、気が不足して病気になってしまうことを気虚と呼び、気が1ヵ所に滞って流れが悪くなって病気になってしまうことを気滞と呼びます。
気の具体的な生理作用には、人体各部を栄養する栄養作用、内蔵の活動を促進したり、体内の流れを推進したりする推動作用、内臓を温め活動を促進したり体温を維持する温く作用、体表を保護し、外から侵入してくるものを防いだり侵入してきたものと闘ったりする防御作用、人体を構成している水分や血液が外に漏れ出ないようにする固摂作用、体内の物質を変化させたり代謝を行う気化作用などがあります。
血-
血とは、体内を流れる赤色の液体で、人体を構成し生命活動を維持する基本的物質です。
現代医学でいう血液とは、似ていますがイコールではありません。
中医学で血の作用は全身を栄養し潤すことです。
例えば顔が赤くつややかだったり、肌がふくよかで皮膚や髪の毛が潤って光沢があるのも、あるいは目などの感覚器や筋肉などの運動器が円滑に働くのも血の充足のおかげなのです。
他にも、血は精神活動を支える栄養源になっており、血が足りなくなると精神的な症状(失眠、健忘、昏迷、不安など)が現れます。
水-
水とは人体中の正常な水分の総称です。
その中には唾液や涙、汗といったものも含まれます。
水の作用は体表部(皮膚や汗腺など)から体内深部(脳や骨、関節や内臓など)を潤します。また、水は血を作るうえでも重要な成分になっています。
~臓・腑~
臓-
臓とは五臓とも呼ばれ、肝、心、脾、肺、腎という実質性臓器のことを指し、主な働きは、気、血、水の生成と貯蔵を担います。
腑-
腑とは六腑とも呼ばれ胃、大腸、小腸、膀胱、胆、三焦という中空性臓器のことを指します。主な働きは、飲食物の消化をし、身体に必要なものは五臓に渡し、不必要なものは排泄します。
~病因の分類~
病因とは、身体が病気になる原因を言います。
病因の分類には、外因(六淫)、内因(七情)、不内外因(外因、内因以 外の原因)の三つに分類されます。
ただし、現代中医学では外感と内傷の二つに分類する方法をとっています。
外感には、六淫、疫痢、外傷、虫獣傷、寄生虫等が含まれ、内傷には精神素因の七情と生活素因である飲食と労逸、および内生素因である痰飲とお血が含まれます。
六淫-
六淫とは外邪とも呼ばれ、体の外から体の中に入ってきて病気を発生させるものです。
六種類の外邪があり、それぞれ風、暑、湿、燥、寒、火(熱)があります。
七情-
七情とは、喜、怒、思、憂、悲、恐、驚の七種類の感情です。
これらの感情が激しすぎたり、長期にわたって精神を刺激することで、臓腑気血の働きを悪くしてしまい病気が発生します。
飲食と労逸-
生活習慣の乱れがそのまま病気に発展していく場合もあります。
食べ過ぎや栄養失調、食の偏り、不潔なものを食べるなどから、働きすぎや休息のとりすぎでも起こります。
痰飲とお血-
痰飲とは、水分代謝がうまくいかなくなり一ヶ所に停滞して出来てしまった異常体液です。
お血とは、血の流れが悪くなり停滞してしまったものをいいます。これらが体内に出来てしまうと気や血、水の流れが悪くなり、臓腑に影響を与えて病気が発生します。
~経絡~
経絡とは、気・血が流れる通路で体内に網目のように張り巡らされています。
かく臓腑に対応しており、大きなものは14本になります。
簡単にではありますが、中医学の基本的な生体観を上記しました。
これから悪心・嘔吐が起こる過程を説明していきます 。
正常な状態での消化吸収のメカニズム
中医学では、消化吸収は脾・胃が協力しあって行い、肝がその調節をしています。
胃の働き
・食べ物を受け取ります。
・もみ砕いて細かくします。
・下(小腸)へ送ります。…胃気の方向は下になります。
脾の働き
・食べ物、水分から栄養素を取り出します。
・その栄養素を上に持ち上げます。…脾気の方向は上になります。
肝の働き
・気の流れを調節します。
・消化を助けます。(胆汁の分泌と排泄)
・感情のコントロール
これらの働きが低下してしまうと悪心・嘔吐につながります。
ではタイプ別に説明していきます。
1・外邪を受けたことによるタイプ
<要因>
季節や気候の影響を受けたり風邪を引くなど
外邪としては風、寒、湿などがあります。
これらが胃を攻撃しますと胃気が下に降りられず、吐き気・嘔吐が出ます。
<症状>
突然嘔吐します。
頭や身体が痛くなる、発熱、悪寒を伴います。
2・飲食が停滞してしまっているタイプ
<要因>
食べすぎ、飲みすぎ
油っこいもののとりすぎ
不衛生なものを食べる など
<症状>
酸っぱいものを嘔吐します。
お腹が張る、げっぷが出る、食べたくない、吐くと楽になるなどの症状を伴います。
3・余分な水分(痰飲)が溜まってしまっているタイプ
<要因>
食べすぎ、飲みすぎ
胃腸が弱い
夜中に食べる
よく思い悩む…七情のうち思は脾を傷めます。
脾胃が元気に働けないと、水分をうまく代謝することが出来ず痰飲をつくってしまい、吐き気・嘔吐の原因になってしまいます。
<症状>
このタイプの多くは水のようなものを吐きます。
めまい、動悸などを伴うことがあります。
4・気の流れが滞ってしまっているタイプ
<要因>
イライラする
よく怒る
ストレスが大きい
緊張しやすい、あるいは緊張が続いている
よく人に気を遣う など
肝はストレスに弱く気を流す働きが低下するので、気の流れが滞ってしまいます。それが脾、胃に影響すると吐き気・嘔吐につながります。
<症状>
酸っぱいものを嘔吐します。
胸や脇が張る、ゲップがでる、ため息が多いなどを伴います。
5・胃腸が冷えているタイプ
<要因>
普段から冷たいものをとっている
冷えやすい体質
胃腸が弱い など
手足が冷えると動きづらくなるように、胃腸も冷えると元気に働けなくなります。そして脾、胃が十分に働けないと、食べ物を受け入れて消化することが出来ず、吐き気、嘔吐の症状が出てしまいます。
<症状>
手足が冷たい
便がゆるい、下痢しやすいなどを伴います。
6・胃の陰液(潤して冷ます働きのあるもの)が足りないタイプ
<要因>
辛いもの、味の濃いもの、油っこいものを良く食べる
慢性病で陰液が不足している
慢性の炎症が続いている(慢性胃炎など)
<症状>
何もなくても吐き気がします
また、良くなったり、嘔吐したりを繰り返します
口や喉が渇く、胸焼けがする、空腹感はあっても食欲はない
お小水が濃い、舌が赤いなどを伴います
以上が大まかなタイプになりますが、タイプ別に適切な治療を行っていきます。中医学では器質的に異常のないものや、医者に原因が不明といわれたものに対してより効果 を発揮します。なかなか症状の改善しない悪心・嘔吐に苦しんでいる方は、当院までお気軽にご相談ください。