のぼせとは、頭へ血がのぼって、ぼうっとなったり、上気した状態の事をいいます。
健康な時でも、長湯や暑さでのぼせることはありますが、病気の症状として「のぼせ」がでる場合は、単独にその症状が出ることは少なく、他にほてり、発汗・いらいら・食欲不振・下半身の冷えなど他の症状を伴う事が多いようです。
主に自律神経失調症や更年期障害・高血圧などでみられる症状ですが、他の病気が隠れている場合もありますので、気になる症状がありましたら、専門医を受診しましょう。
診察や検査の結果、他に病気が認められない時、年齢や症状から考えて、自律神経失調症や更年期障害と診断されます。
現代医学的治療法としては、薬物療法(ホルモン剤・自律神経調整薬・漢方薬)・心理療法がありますが、気長に様子を見ながら治療していきます。
自律神経失調症や更年期障害のように、検査でははっきりと他の病名がつかず、不定愁訴を気長に治していく病気は、東洋医学(中医学)的治療を勧める医師も多いようです。
では中医学的には「のぼせ」をどのようにとらえているのでしょうか。
中医学では、身体の働きに関する考え方が、根本的に現代医学的とは違っています。
まずは中医学的にみた身体の働きについて簡単に説明します。
現代医学では身体を細かく分析し、細胞レベルでとらえますが、中医学では身体を大きく捉えて、小宇宙であると考えます。
地球は大宇宙に存在する小宇宙の一つです。これと同じように地球からみれば、身体は小宇宙といえるのです。宇宙に存在するものにはすべて意味があり、 無駄なものはひとつもありません。
それぞれが、互いに影響しあい、バランスを保ち、大自然の法則に従って動いているのです。
人間も同じように、体内に存在するものすべてが重要な意味を持ち、個々の臓器も互いに影響しあいバランスを保って、健康を維持しています。
このバランスが崩れた状態が「病気」と考え、治療の基本はバランスを整える事ですから、血液検査に出ないような、微細な不定愁訴も治すことが出来るのです。
小宇宙である身体を構成し、生命活動の源として働くものは『気・血・水』です。
気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器(五臓六腑)も、うまく働くことが出来、健康でいられると考えます。
1.気・血・水について
<気>
気は人間が活動するために必要な基礎物質です。そのため気の働きは様々です。
主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。
<血>
血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます。
ここにも中医学独特の概念があり、血は精神活動の栄養源でもあります。
ですから血の不足は精神不安や不眠を発症させます。
また、身体が熱くなりすぎないように冷却する働きもあります。
<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。
主な作用としては身体の各部所に潤いを与えたり、血と同様に冷却する働きもあります。
2.陰陽について
陰陽論では、対立するものを相対的に考えて、陰陽に分けることで、生理観や病理観のベースにしています。
健康な状態では「陰陽のバランス」が整っていますから、治療の指標になります。
気・血・津液を陰陽で分けると、「気」が陽で「血・津液」が陰です。
気には身体を温める作用があり、血・津液には身体を冷やす作用かあります。
気の中でとくに温める作用の強い「陽気」と、血・津液の中でとくに冷却作用の強い「陰液」のバランスが上手く保たれることで、私達の身体は36度前後の平熱を維持しているのです。
バランスが崩れてどちらかに偏れば、熱が出たり、冷えてしまったりします。
簡単に考えると、陽気が強すぎる時と、陰液が足りなすぎる時には、熱がでるわけです。
3.五臓の働きについて
・肝:
全身の気の流れを良くし、各器官の働きを助けます。
血を蓄える働きもあり、筋肉の働きや精神活動にも関係しています。
肝の働きが悪くなるとイライラと怒りやすくなったり、目や疾患・生理痛・手足のしびれ等を起こす事があります。
情思(精神)面では、ストレスを感受しやすく、ストレスが 一定のラインを越えると、肝の気の流れが低下し、鬱滞感やイライラ、あるいはウツウツとした気分等が生じます。
・心:
血の循環をしています。
精神活動に関係し、五臓の働きをとりまとめています。
働きが悪いと、動悸や不眠・舌の先が赤く痛んだりします。
情思(精神)面では、不安感・不眠・夢をよく見る・物忘れが多いなどの症状があります。
・脾:
食べたものをエネルギー(気・血・水)に変え、身体の機能を活発にします。(運化作用)。
この働きが悪くなると、活力不足で疲れやすくなり、下痢しやすくなります。
血を脈外に漏らさないようにする働きもあります(統血作用)。
この働きが低下すると、内出血しやすくなります。少しぶつけただけでも青あざが出来ます。
情思(精神)面では、落ち込むことが多い・無気力などの症状があります。
・肺:
呼吸することにより、気を全身に巡らし、水分の調節をします。
汗腺の働きにも関与し、皮膚の状態にも関係します。
この働きが弱くなると、呼吸器疾患・鼻炎・などを起こすというのは分かり易いと思いますが、蕁麻疹などの皮膚科疾患も肺の働きに関係しています。
情思(精神)面では、憂鬱で気分が晴れない・悲観的などの症状があります。
・腎:
生命力の源、先天の「気」を蓄えています。骨や髪・耳と関係します。
成長や生殖能力に関連深く、年齢と共に変化します。
女性では、月経や妊娠と関係します。
腎のエネルギー(先天の気)は、脾から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
腎の働きが弱いと、元気がない・不妊・生理不順・腰痛・冷え症などになります。
加齢と共に腎の働きは弱くなっていきますから、骨が弱ったり、髪がぬ ける、耳の聞えが悪くなるなどの症状がでてきます。
情思(精神)面では、驚きやすい・恐い夢を見る・元気がない等の症状があります。
以上の五臓がバランス良く働いてくれるように調節してくれているのが、「気・血・水」です。
中医学の場合は、症状と、どの「臓」の気・血・水の働きが失調し、関係しているかを分析し見極める事が、中医学的診断となり、治療方針をたてていくことになります。
では、のぼせについて、タイプ別に考えていきましょう。
1.肝鬱血虚・化火タイプ
症状:
のぼせ・ほてり、いらいら・怒りっぽい・胸脇部が脹って苦しい・食欲不振・肌につやがないなど
起因:
飲食や日常生活の不摂生。
月経・出産・慢性病などによる血の不足。
精神的ストレス・怒り・緊張。
病機:
肝気の巡りが悪くなり、停滞して、エネルギーが渋滞し、熱をもった状態です。
血が不足する血虚の傾向があると、身体をうるおし、熱をさます働きのある陰液も足りなくなる為、ますます熱が上に上がってのぼせやすくなります。
治法:
疏肝清熱・養血柔肝
肝の気を巡らせる作用を良くし、血を補って、余分な熱を冷ます力を改善する治療をします。
2.肝虚気滞タイプ
症状:
のぼせ・顔面部のほてり・発汗・いらいら・下半身の冷え・月経不順
起因:
飲食や日常生活の不摂生・月経・出産・慢性病・精神的ストレス
病機:
肝の気血が不足して疏泄(気血の流れを良くし、円滑にする働き)が十分に行われていない状態です。
治法:
疏肝泄熱・養肝温下
肝の働きと気血の流れを良くし、下半身を温める治療をします。
3.血オタイプ
症状:
上半身ののぼせ・ほてり、下半身の冷え、頭痛・肩こり・腰痛・肌や口唇がどす黒い・月経痛・月経不順・舌質が暗紫オ点オ斑など
病機:
気血のめぐりが悪く、血の滞りがある状態で、いろいろな症状があります。
治法:
活血化オ
血の滞りをなくし、気血の流れをよくします。
4.肝腎陰虚タイプ
症状:
ほてり・のぼせ・熱感、いらいら・耳鳴り・めまい・遺精・腰や膝がだるく無力
病機:
肝・腎の働きが悪くなり、身体を冷やす作用がある「陰液」が不足した為、陰陽のバランスが崩れて、陽気が上に上がってしまった状態です。
治法:
滋養肝腎
肝・腎の働きを良くすることで、陰液を補い、陰陽のバランスをとります。
5.脾気陰両虚タイプ
症状:
手足のほてり、食欲不振・食べると腹が脹る・口唇の乾燥・指のさかむけ・元気がないなど
起因:
飲食の不摂生・飲酒癖・過労など
病機:
栄養を吸収して血や津液をつくり全身に送る作用のある「脾気」が不足するために陰液(冷却作用)の産生が低下し、陰陽バランスが崩れて、内熱が生じた状態です。
治法:
益気健脾・滋補脾陰
脾の働きを良くし、陰液が養われるようにしていきます。
以上のように、同じ「のぼせ」という症状でも、原因はさまざまですから、治療法もさまざまで、根本的に問題となっている、体質から改善していきます。
中医学では、一人の患者さんを全体的にみて、どこに問題があって、どのような進行状態であるのかを慎重に考えて、「証」をたて、治療方針を決めます。
証とは、中医学の診断名です。症状の情報収集をし、症状の程度・進行具合を見極め気血水がどのように失調しているのか、よく診て、病態を把握します。
患者さんの性格や生活環境も考慮しながら、日常生活のアドバイスをする事もあり、まさに全人的な医学です 。
身体に対してはもちろん、心に対しても優しく、学問的にも奥の深い中医学は、幅広くいろいろな疾患に対応することが出来ます。
個人個人の体質に合わせて治療を行います。
是非一度ご相談ください。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。