病気にはさまざまなものがありますが、咽喉痛(のどの痛み)という症状はとても身近なものでないでしょうか?
風邪を拗らせたときなどは、経験される方も多いと思います。
これは、のどが体外に近い場所にあり、体外の影響を受けやすい器官であるからと言えます。
今回は、私たちの生活の中で、とても身近な咽喉痛について、述べていきます。
<咽喉部とは>
咽喉痛という病気を知る前にまず、咽喉部(のど)がどのような器官なのかを説明します。
咽喉は、いわゆる、のどに位置する器官です。
咽喉は、身体の部位により、咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)に分けられています。
咽頭と喉頭には様々な役割があり、人が生活をする上で重要な働きをしています。
・咽頭(いんとう)
咽頭は口の奥の鼻腔の下から食道と気管の入り口までの部分をいいます。
さらに咽頭は上から鼻咽頭、中咽頭、下咽頭という3つの部分で構成されています。
筋肉でできたこの通路を通って、食べものは食道へ、空気は肺へと運ばれています。
また、咽頭の中も鼻や口と同様に、粘液を分泌しうぶ毛のような線毛をもつ粘膜で覆われています。これは、粘液にとらえられたほこりの粒子を食道へ運ぶために存在します。
口からは細菌やウィルスなど、体にとって悪いものも入ってきます。
咽頭は、これらの細菌やウィルスと闘う役割ももっています。
この役割は、扁桃腺や咽頭扁桃と呼ばれるリンパ組織でできた器官によって行われます。よく風邪を拗らせた時に、扁桃腺が腫れたという経験をされた方もいらっしゃると思いますが、これは、細菌やウィルスと闘っているために炎症が発生して起こる現象です。
また、構造的にみると、咽頭にはとても変った形の組織があります。
のどの奥を覗くと扁桃の間にぶら下がっているのが見える小さな組織で、
俗に「のどちんこ」とも呼ばれている組織です。口蓋垂は、食べものや飲みものを飲みこむ際に、それらが鼻腔へ入るのを防ぐ働きをしています。
・喉頭(こうとう)
喉頭は咽頭よりも身体の下に位置し、気管の最上部にある器官です。
喉頭の中には声帯があり、主に音声を発する役割を担っています。
声帯の収縮により、肺からの空気がそこにぶつかり、声帯が振動して音に変化します。
この音と、舌、鼻、口の働きによって、言葉が作り出されています。
また、喉頭の上前部には、喉頭蓋といわれる蓋があります。
この蓋の開閉により、物を飲みこむときに、食物が気管に入らないようにし、肺を守っています。
このように、のどは、体内における門番としての役割があり、例え睡眠中であろうとも、常に働いている器官と言えるでしょう。
<西洋医学的な咽喉痛の原因は?>
咽喉痛の原因には、さまざまなものがあります。
先ほど述べた通り、のどで細菌やウィルスと闘っていることを考えると炎症による痛みというのはイメージしやすいと思います。
咽頭炎、喉頭蓋炎、扁桃炎といった病気は、多くの場合、細菌やウィルスが原因となる病気です。
また他にも、のどの器質的な異常により、痛みを引き起こすこともあります。
代表的な例としては、咽頭癌が挙げられます。
咽頭癌も進行すれば、痛みや、声が出しづらいといった症状が誘発します。
<原因不明の咽喉痛>
先ほどのように炎症や気質的変化が、原因であれば検査で発見することができると思います。
しかし、検査でも異常所見が出ずに、未だに原因が明らかになっていない咽喉痛や咽喉の不快感も存在します。
このような場合、咽喉頭異常感症、もしくは、咽喉頭神経症と診断されることがあります。
原因の可能性としては、以下の原因が挙げられています。
・全身的原因
自律神経失調症、内分泌異常、更年期障害、
鉄欠乏性貧血(てつぼうせいひんけつ)、嚥下(えんげ)障害など
・精神的原因
うつ病、仮面うつ病、心身症、神経症、がん不安など
これらは、決して珍しいことではないと思います。
特に、ストレス社会と言われる現代では、精神的原因に挙げられている疾患はよくメディアでも見かける病気であると思います。
たとえ、咽喉痛といった症状でも、身体の異常信号として捉えた方が良いのかもしれません。
<中医学による咽喉痛の捉え方>
では次に、中医学による咽喉痛の捉え方を述べていきます。
『わかりやすい東洋医学理論』でご説明したとおり、中医学では、
体内を構成する要素(内因)として気・血・津液、
病気を及ぼす環境変化(外因)として「風・湿・熱(火)・暑・寒・燥」
という考え方があります。
そして、これらの要素が身体の許容範囲を超えた変化をきたした時に疾患が現れます。
もちろん、咽喉痛も例外ではありません。
咽喉痛の場合、これらの要素の病的変化が、体内に「熱」を生み出し、「熱」が咽喉部に影響することで、咽喉痛は起こるのです。
しかし、ここで一点、気をつけなければならないことがあります。
「熱」という言葉です。
「熱」というと、中医学に触れたことのない方は、体温計で体温を測ることで、発見できる「発熱」を想像するかと思います。
それはそれで、間違いではありません。熱には温度があり、体温計は体内の温度を測るものなのですから。
しかし、中医学における「熱」は、必ずしも体温計で計ることのできないものも含まれています。
中医学には、「未病」という言葉がありますが、この言葉をかみ砕くと、
「病気には至ってないが体に変調をきたしている状態」と解釈することができます。
では、病気に至っていない体の変調とはどのようなものなのか・・・
そのひとつに、中医学における「熱」があります。
中医学における「熱」には、虚熱と実熱という2つの熱があります。
虚熱は、内因(気・血・津液)の不足によって引き起こされる体内の熱を指します。
特に血・津液は、体内の熱を冷ます作用のある物質であり、これらが不足すると体内の熱が冷まされずに、熱が旺盛になってしまいます。
症状としては、手足のほてり、寝汗、口や咽が乾燥するといった症状がでますが、体温計における熱の変化は現れないこともしばしばあります。
実熱は、外因(風邪・熱邪など)が旺盛、または、臓腑機能の亢進によって、現れる体内の熱を指します。虚熱のように体の熱を冷ます作用が低下するのとは違い体の熱そのものを亢進させる作用が強まるために起こります。
この場合、顔色が赤く呼吸が荒い、痰や尿が黄色い、冷たいものを好む、といった症状がでます。
これらの熱の違いにより、咽喉痛の原因が変ってくるため、お手当ての仕方も変わってくるのです。
<咽喉痛の原因別治療>
では次に、咽喉痛を起こす原因ごとに、その治療方法を述べていきます。
咽喉痛の原因に熱が大きく関係してくることは、先に述べたとおりです。
つまり、治療には熱の性質を鑑別する必要があるのです。
熱を鑑別する上で重要なのは、咽喉痛に至った経過や随伴症状をよく分析し、熱の特性を捉えることです。
ご参考にしていただけると幸いです。
しかし、ここで1点注意があります。
治療効果を考えた場合、咽頭癌による咽頭痛については、中医学のみの治療では、目に見える効果 を期待するのはなかなか難しいのが現状です。
咽頭癌の治療としては、西洋医学的な治療と併せて、中医学による治療をするのがより効果 的かと思います。
中医学では、体内エネルギーバランスの調整、免疫力の強化、あるいは、抗癌剤による体への負担、それによる不定愁訴などの改善治療に役立つかと思います。要するに、体のクオリティを高めて上げることに、中医学の治療を受ける要素があります。
その点を踏まえた上で、ご参考にしていただけると幸いです。
・風熱による咽喉痛
風熱による咽喉痛は、風熱の邪が体表を侵襲して肺臓に入り、その熱が上って咽喉を薫灼することで起こります。
風熱による咽喉痛は、経過が長くなければ実熱による咽喉痛でしょう。
[随伴症状]
発熱、軽度の悪寒、頭痛、体の痛み、咳嗽、口渇、
舌質紅、舌苔薄黄、脈浮数
[治法]
清熱利咽、去風清熱
・肺胃熱盛による咽喉痛
傷んだものを食べたり、辛いものの食べ過ぎなどで、胃腸に熱が篭り、さらにその熱が咽喉に上ることで起こります。
実熱による咽喉痛は、実熱によるものと言えます。
また、この場合、咽喉痛は激しいものとなります。
[随伴症状]
冷たいものを好む、口渇、顔面紅潮、目赤、小便が赤い、
大便は乾燥している、舌質紅、舌苔黄あるいは黄燥、脈滑数
[治法]
清熱利咽、清熱瀉火解毒
・陰虚火旺による咽喉痛
陰虚火旺による咽喉痛に関わる臓腑として腎があります。
腎の経絡(足の少陰腎経)は喉をめぐって舌を挟んでいます。
腎陰(体内の熱を冷ます役割を持つ物質)が不足することで、熱が腎の経絡を上って喉に影響することで、陰虚火旺による咽喉痛は起こります。
陰虚火旺による咽喉痛は虚熱によるものと言えます。
[随伴症状]
手足のほてり、腰や膝がだるく力が入らない、耳鳴り、難聴、
舌質紅、舌苔少、脈細数
[治法]
清熱利咽、滋陰降火
いかがでしょう?
中医学による咽喉痛の捉え方はご理解いただけましたでしょうか?
特に、先に述べた熱の捉え方は、西洋医学にはないものです。
咽喉痛に限らず、検査数値には現れないのに体がつらいといった症状をお持ちの方は、一度、観点を変えて、お手当てをしてみるのも良いかと思います。
中医学(東洋医学)全般(鍼灸・漢方・食事療法・体質改善)のご相談は
当院までお気軽にどうぞ。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。