女性にとって毎月1回はおとずれる月経。
それに伴ない下腹部痛、腰痛をはじめ不快な症状を訴える女性は少なくありません。
今日これから説明していきます体質・症状別にみた自分の月経痛のタイプを把握し、生活習慣を見直していきましょう。
▼西洋医学的な月経の診断・治療方法▼
西洋医学では月経困難症として治療していきます。
~機能性月経困難症~
子宮や卵巣に病的な異常を伴わず中等度の下腹部痛や頭痛、腰痛、吐き気、嘔吐、めまいなどの全身症状をあらわし10~20代を中心に多く見られます。
治療としては、主に鎮痛剤の処方になります。
~器質性月経困難症~
子宮の病気が原因で起こり、主に子宮筋腫や子宮内膜症などがあげられます。20~40代に多く見られます。
治療法は、それぞれ病気や程度により異なりますが主に
薬物療法として鎮痛剤、ホルモン療法、
手術療法として開腹手術、腹腔鏡手術があります。
西洋医学では、機能性と器質性別々のものとして診ていきます。
治療としては主に、器質性の方に重点がおかれます。
このように、西洋医学の特徴は診察や検査によって異常が認められたものを‘病気’とみなし、それに対して治療をしていくというものです。ですので、器質的疾患や手術を要する疾患には有効といえます。
▼中医学的な月経痛の診断・治療方法▼
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。
・痛む時間(月経前、中、後)
・痛む部位(下腹部やお腹の両脇、腰痛など)
・痛みの性質(刺すような痛み、絞られるような痛み、しくしくする痛み、温めると痛みは楽になるか、手を当てると心地良いかなど)
この他、月経血の状態、月経周期、随伴症状などを中医学独特の診断方法(後述)を用いて聞きだしていきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
▼中医学的からだのしくみ▼
~「気」「血」「水」とは~
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
~臓腑の働きとは~
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。
中医学的にみた婦人科疾患で重要な臓腑の働きは下記のようになります。
『肝』・・1.全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。
伸びやかな状態を好むため、精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。この状態を「気滞」(気の流れがとどこおる)といいます。
2.全身の血液量をコントロールし、蓄える働きがあります。
ですので、肝の働きが弱まってしまうと血液を蓄えることが出来なくなるため(肝が支配している器官である)目のかすみ、爪が割れやすくなる、手足がしびれる、筋けいれんが起こりやすくなったりします。
『脾』・・1.食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
2.エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
3.血を脈外に漏らさないようにする働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
『腎』・・生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。
このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
女性では、月経不順や不妊症、早期閉経、続発性無月経症などの原因になります。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
▼中医学的月経痛のタイプと治療法▼
主に、実証タイプと虚証タイプに分けることが出来ます。
体にとって必要な「気・血・水」、が上手く流れず滞ってしまう実証タイプと、「気・血・陰・陽」不足による虚証タイプがあります。
~実証~
●気滞血オタイプ●
気滞とは精神的ストレスに弱い「肝」が傷害され、「肝」の気がスムーズに流れなくなるとストレスを感受した場所に気が滞ってしまう状態です。
血オは血の巡りが悪く、停滞してしまう状態をいいます。
気は血を押し出す働きをしており、気滞により流れがスムーズでなくなると血までも滞ってしまいます。
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい、マイナス思考
○随伴症状
胸や脇、乳房がはって痛む、イライラしやすい、ガスやげっぷがでやすくなる、血のかたまりが出ると痛みは軽減する
○月経痛の特徴
痛む時期:生理前或いは、生理後1~2日はお腹が脹って痛む
部位:お腹の両脇または片側のみ
痛みの性質:脹った痛み、或いは刺すような痛み、手を腹部にあてるのを嫌がる
○月経血の特徴
生理周期:正常或いは、遅れる
月経量:少なめ
色:紫色っぽく、赤黒い色
質:レバー状のかたまりが血に混じっている
○治療法
気と血の流れをスムーズにし、調えていく『理気活血』、
それにより、停滞していた血のかたまりを流し、痛みを鎮めていく『化オ止痛』の治療をしていきます。
ツボ:太衝、合谷、気海、次リョウ、三陰交、
漢方:少腹逐オ湯
●寒湿凝滞(かんしつぎたい)タイプ●
寒の性質は、流れを滞らせる収斂作用があり、体の中に入ることにより気の流れを停滞させてしまいます。そのため痛みを生じます。
○主な原因
月経中や産後、寒冷にあたる(真夏のクーラーや真冬の冷たい風)、冷たいもの・生ものの食べ過ぎ
○随伴症状
冷えると下腹部が痛くなり、温めると楽になる、手足が冷える、軟便、おりものは多く、白っぽい
○月経痛の特徴
痛む時間:月経前、或いは月経中
部位:下腹部の真ん中
痛みの性質:冷えると痛み、痛みは温めると楽になる、手を腹部にあてるのを嫌がる
○月経血の特徴
月経周期:正常、或いは遅れる
量:少なめ
色:赤黒っぽい
質:レバー状のかたまりが血にまじる
○治療法
経絡を温めることにより全身(この場合特に子宮)の気の流れを調えていく『温経暖宮』、
停滞していた血のかたまりを流し、痛みを鎮めていく『化オ止痛』の治療をしていきます。
ツボ:関元(灸)、中極、水道(灸)、地機
漢方:温経湯、当帰四逆加ごしゅゆ生姜湯
●肝鬱湿熱(かんうつしつねつ)タイプ●
精神的ストレスに弱い「肝」が傷害され、「肝」の気がスムーズに流れなくなるとストレスを感受した場所に気が滞ってしまいます。
体全体の気の流れを促進させる働きのある「肝」が停滞してしまうことにより余分な水分と熱が下腹部内に(子宮を含む)こもることにより、下記のような症状が現れ、痛みを生じます。
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい、マイナス思考
○随伴症状
胸脇や乳房の脹った痛み、便秘、尿は黄色く濃い、おりものは日頃から黄色っぽく粘っこい・においがある
○月経痛の特徴
痛む時期:月経前或いは、月経1~2日目まで
部位:下腹部或いは、下腹部の両側
痛みの性質:下腹部内に灼熱感を感じる、手をあてられるのを嫌がる
○月経血の特徴
月経周期:正常或いは、早まる
量:多め
色:暗めの赤色
質:粘っこく、レバー状のかたまりが血にまじる
○治療法
体内にこもっている熱と、余分な水分を取り除いていく『清熱除湿』、
気の流れをスムーズにし、痛みを鎮める『理気止痛』の治療をしていきます。
ツボ:気海、次リョウ、行間、曲泉、陰陵泉
漢方:清熱調経湯、竜胆シャ肝湯
~虚証~
●気血虚弱タイプ●
体の活動源である「気」と、体内の各組織に栄養を与える「血」の不足により痛みを生じます。
○主な原因
虚弱体質、過労、睡眠不足、病気による体の消耗、汗のかき過ぎ
○随伴症状
顔色が白っぽいか、黄色っぽい、疲れやすく持久力がない、
胃がもたれやすい或いは脹る、胃腸が弱い、めまいや立ちくらみがある、生理ではないのに不正出血がある、風を引きやすい
○月経痛の特徴
痛む時間:月経中或いは、月経後
部位:下腹部の真ん中
痛みの性質:しくしくする痛み、下腹部に手をあてたり、揉むと気持ちがよい、月経の終わり頃から腰も痛く重くなる
○月経血の特徴
月経周期:正常或いは遅れる
量:少なめ
色:薄い赤色
質:水っぽくさらっとしている
○治療法
気と血を補い増やしていき、痛みを鎮める『補気養血止痛』の治療をしていきます。
ツボ:脾ユ、足三里、関元、三陰交
漢方:十全大補湯
●肝腎不足タイプ●
「肝」は血を貯蔵し、「腎」は精を貯蔵します。(詳しくは<中医学的からだのしくみ~臓腑の働き~>の項を参照してください。)この精と血はお互いに栄養し合い、必要に応じて、精は血に、血は精に変化します。そのため中医学では、肝腎同源、精血同源などと言います。この肝腎のエネルギーの不足により、協調関係が乱れ、痛みが生じます。
○主な原因
生まれつき虚弱体質、早婚、出産過多、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
めまい、耳鳴り、腰が重だるく不快感があり脚に力が入らない、
○月経痛の特徴
痛む時期:月経後
部位:下腹部或いは、腹部の両脇
痛みの性質:はっきりしない痛み、しくしくする痛み
腹部に手をあてられるのを好む
○月経血の特徴
月経周期:正常或いは、遅れる
量:少なめ
色:薄い赤色
質:水っぽくさらっとしている
○治療法
肝と腎の気を補い増やしていく「補益肝腎」、肝と腎の気を補うことにより血が作られ痛みを鎮める「養血止痛」の治療をしていきます。
ツボ:肝・腎ユ、関元、三陰交
漢方:調肝湯
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分の月経痛や月経血の特徴、随伴症状などからタイプを判断できた方はこれから説明していきますタイプに合った食養生を1つでも2つでも実践して見てください。体質が徐々に改善し体調が以前より良くなり、症状が軽くなっていくのを実感できると思います。
●気滞血於タイプ●
【生活習慣】
・イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、ヨガや気功などの呼吸法やストレッチでリラックスできる時間を作りましょう。その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
・お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
【食べ物】
~香りの高い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます~
(野菜)春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ、セロリ、
(果物)みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず
(お茶)ジャスミン茶、ミントティー
●寒湿凝滞タイプ●
【生活習慣】
・月経中に冷たい食べ物は避けましょう。
・夏場のクーラーによる冷やし過ぎや冬場の薄着には気をつけましょう。
【食べ物】
~体を温める性質の食べ物を摂りましょう~
(穀類)もち米
(野菜)にら、にんにく、ねぎ、生姜
(肉類)羊肉
(スパイス)唐辛子、コショウ、シナモン、黒砂糖
(お茶)生姜入り紅茶(甘くして飲みたい時は黒砂糖やはちみつ、麦芽糖を入れて)
~体を冷やす性質のある食べ物は極力避けましょう~
(野菜)きゅうり、トマト、冬瓜、苦瓜、レタス、なす、ごぼう、大根
(果物)すいか、なし、バナナ、柿、レモン
(豆類)豆腐、豆乳、緑豆
(お茶)緑茶、ウーロン茶、菊花茶、薄荷(ミント)茶、
●肝鬱湿熱タイプ●
【生活習慣】
・イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、ヨガや気功などの呼吸法やストレッチでリラックスできる時間を作りましょう。その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
・お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
【食べ物】
~香りの高い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます~
(野菜)春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ。セロリ、
(果物)みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず
(お茶)ジャスミン茶、ミントティー
●気血虚弱タイプ●
【生活習慣】
・消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。
・消化が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。
・スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。
・頭や目の使いすぎは血を消耗させてしまうので、この時期は極力長時間パソコン作業や、夜遅くまでの勉強、仕事は避けましょう。
・ダイエットによる食事制限も禁物です。
【食べ物】
~気虚の症状が多いタイプはエネルギーを益す食べ物を摂りましょう~
(穀類)うるち米、粟米、小麦製品
(豆類)大豆や大豆製品、牛乳
(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
(魚類)いか、貝柱、
(果物)なつめ、もも、さくらんぼ
(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶
~血虚の症状が多いタイプは血を補う食べ物を摂りましょう~
(穀物)黒豆、赤豆、もち米、小麦
(豆類)黒豆、豆乳
(野菜)ほうれん草、小松菜、
(肉類)動物のレバー、赤みの多い肉
(魚類)まぐろの赤身、牡蠣、しじみ
(木の実)黒ごま、クルミ、なつめ、
(ドライフルーツ)レーズン、プルーン、ブルーベリー
(お茶)竜眼茶、ライチ茶、クコの実茶
~体を冷やす食べ物、辛い食べ物、油っこく味の濃い食べ物は
胃を刺激し気を消耗させるので避けましょう~
辛い食べ物・・青唐辛子、ねぎ、コショウなど
冷やす食べ物・・すいか、バナナ、イチジク、なし、苦瓜、薄荷など
●肝腎不足タイプ●
【生活習慣】
・消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。
・穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。
・ダイエットによる食事制限は禁物です。
【食べ物】
~主に腎のエネルギーを補う食べ物を多く摂りましょう~
(穀類)うるち米、粟米、小麦製品
(豆類)大豆や大豆製品、牛乳
(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
(魚類)いか、貝柱、
(果物)栗、もも、さくらんぼ
(木の実)くるみ、なつめ、黒ごま、クコの実
(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶
▼その他日常生活での注意点▼
1.基礎体温を毎日つけましょう。
2.基礎体温を測ることにより自分の体の状態(体内リズム)を目でみてわかることが出来ます。
3.月経1週間前は、消化しやすく栄養に富んだ食べ物を多く摂るようにしましょう。
豆類、魚類の高たんぱく食、緑黄色野菜、果物、適度な水をバランスよく摂ることにより月経中に失われる血液を補うことができます。
4.月経後は栄養に富んだ食べ物を多く摂るようにしましょう。(たんぱく質、鉄、食べ物、主に、肉類、動物のレバー、牛乳、乳製品)
5.月経中は、体を冷やさないようにしましょう。
冷たい飲み物や冷たい風に直接あたらないよう気をつけましょう。
6.睡眠はしっかりとりましょう。
7.ストレスはためないよう、運動(ヨガ、気功など)、読書、散歩などで気持ちが安らぐ空間を持ちましょう。
●中医学を導入している鍼灸院は、それほど多くはございません。
ですので、 中医学的な治療を受けたいとお考えの方はお気軽に当院までご相談下さい。鍼灸・漢方全般 に関する相談も承ります。