女性を悩ませる代表的な病名ですが、どのような病態なのでしょう。
治療方法は西洋医学と東洋医学でかなり違うようですね。
《西洋医学的考え方》
子宮内膜症とは、本来子宮内腔に存在するはずの子宮内膜組織が、子宮以外の場所(主に腹部)にできる病気です。その内膜組織は,本来の子宮の周期と同じように月経期になると剥離・出血しますが、血液を体外に出すことが出来ず、体内に溜めてしまいます。
そのため、激しい月経痛や腰痛・不妊などの原因となったり、チョコレート嚢胞が出来たりすることがあります。
生殖年齢の女性の5%に,子宮内膜症があるという統計があり、やせ型・胃腸下垂型の人に多いようです。
☆症状
激しい月経痛や、月経時以外の下腹部痛が主な症状です。また不妊との関係も指摘されています。
生理時の出血が多くなる事もあります。
☆検査と診断
症状などから子宮内膜症が疑われた場合、内診や直腸診、超音波検査、血液検査(腫瘍マーカー測定)が行われます。確定診断に腹腔鏡検査を行う事もあります。
☆ 治療法
大きく分けて薬物療法と手術療法の2つがあります。
【薬物療法】
子宮内膜症は、卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)によって、病状が進行します。
薬物療法では、卵胞ホルモンの分泌や働きを抑えるホルモン剤を使い、月経を一時的に止めて 病巣を小さくします。
この薬を服用中には妊娠を期待することは出来ません。
痛みの軽い場合は、鎮痛剤のみで経過をみます。
【手術療法】
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病状が進行している場合に行われます。
将来、妊娠を希望する場合は卵巣や子宮を残し、病巣のみを取り除きます。
腹腔鏡を使って行われる事が多く、身体の負担も少ないのですが、およそ3割の患者さんは再発をします。
妊娠の希望はなく、閉経までまだ期間が長い場合、女性ホルモンを分泌する卵巣機能の正常な部分のみを残し、子宮を摘出する場合もあります。
閉経間近い患者さんの場合、子宮、卵巣、卵管を全て摘出します。
再発はなくなりますが、更年期障害のような症状が出ることがあります。
《中医学的考え方》
中医学では、子宮内膜症は子宮内膜異位症とも言われ、本来あるべきではない位 置に子宮内膜が増殖し、生理のように剥離・出血をくりかえす病態で、出血した血液の行き場がないところに問題があります。
この状態を中医学では「お血(おけつ)」といいます。(身体の中の血がどこかで滞っている状態です)
中医学では、身体のしくみの考え方が、西洋医学とは少し違います。
人間の身体を車に例えると、エンジンにあたるのが『五臓六腑』で、ガソリンにあたるのが、『気・血・水』です。
エンジンとガソリンのどちらに問題があっても、車は動きませんね。
人間も同じように、五臓六腑の働きを整えるのと同時に、『気・血・水』の働きも整えて、初めて 健康を維持する事が維持出来るのです。
中医学では、生命活動の源として働くものは『気・血・水』であると考えています。
気というのは、気持ちの気と同じような意味合いもありますが、中医学では、活力という意味であり、 血脈の流れを推進したり、臓器組織の活動を促進したり、人体を栄養する作用もあると考えます。
血は血液という意味よりも広く考えて全身を栄養するだけでなく、精神活動も支えています。
水は津液とも言われ、身体をうるおす水分の事です。
これらは飲食から得られ、五臓六腑で消化吸収して作られていきます。
気・血・水は『経絡』という、人体の上下・内外を貫く道筋によって、全身を流れ、栄養したり、 臓器の機能を調節したりしています。健康な状態では、経絡は全身を滞る事なく流れています。
これらのどこかに問題がおこることにより、身体のバランスが崩れます。
そしてその微妙な崩れは、日頃の体調(食欲・排尿・排便・睡眠・疲労感・主訴以外の症状)などにも 現れますし、他覚症状としては、顔色や脈状・舌の色や形にも現れてきます。
少しだけバランスが崩れた時、早めに治療をすれば、大きな病になることなく、 元の健康な状態に戻ることが出来ます。
これを『未病治』といい、病になる前のケアで治す、東洋医学の基本概念でもあります。
バランスの崩れが進んで、病に陥った場合も、治療の目的はバランスを整える事ですから、 細かい症状のすべてを総合し、その人全体をとらえて、どのように治療したら良いかを決めていきます。
経絡の流れを良くしてあげる事は、身体機能のバランスをとり、 健康な状態に近づけることにつながりますから、 中医学的治療を続けると、主訴がとれていくだけでなく、自然治癒力が増すなど、人間の基本的な生命力が強くなっていきます。
ですから、赤ちゃんのころから、中医学的養生を続けていると、根が深い樹木が太く高い木になるように、強く生命力のある子に育つでしょう。
高齢者においては、若返ることはないにしても、老化のスピードを遅くすることは出来ますから、元気に天寿を全うする事ができるでしょう。
治療においては、ただ単に痛みのある部位だけではなく、経絡上で、その流れを良くしてくれる作用のあるツボや、滞りを除いてくれるようなツボも使っていきます。
ツボにはそれぞれ特性がありますから、その詳しい効能を考慮し、効果 的な組み合わせを考える事も大切です。
頭痛の治療にも、手足のツボを使いますし、特効穴が手にあったりするのは、ツボの特性を利用しているからです。
子宮内膜症の話に戻りましょう。
子宮内膜の症状は主に生理痛などの激しい腹痛です。
基本的な原因は、気血の流れが悪くなり、オ血(おけつ・血の滞り)が出来るためです。
かなり痛みがひどく、鎮痛剤を服用してしまう方も多いようですね。
話は少しズレますが、鎮痛剤について考えてみましょう。
最近の鎮痛剤の作用機序は、痛みを感じる元の物質〔発痛物質〕の働きを止めるものがほとんどです。
痛みは感じなくなるかもしれませんが、果たして身体への影響は大丈夫なのでしょうか?
生理痛の原因は気・血の滞りです。
ただでさえ流れが滞っている身体に、さらに普通の働きを止めてしまうものを与えてしまって いいわけがありません。
本当は気血の流れを良くしてあげるお手当てをするべきなのですから・・・。
「すべてのものには意味があります」発痛物質にも大切な意味があるのです。
痛みは身体の異常を伝えるメッセージです。「ここに異常がありますから、なんとかして下さい」と、脳に伝えてくれる役目をしているのが、発痛物質です。その働きをむやみに止めてはいけません。
動けないほど痛い時は、本当は寝ているべきなのです。
横になり、暖かくして消化のいいものをとり、気血の流れを少しでも良くしてあげれば、 自然治癒力が治してくれます。
しかし、現代社会では、もちろん呑気に寝ているわけにはいきません。
鎮痛剤を飲んで動かなければいけない事も多いでしょう。
でも忘れないで下さい、身体は困っているのです。
痛みは感じなくても、いたわってあげて下さい。
なるべく気血の流れが良くなるように、時々深呼吸をするとか、胃腸に負担をかけないようにする・ 早めに寝るようする・等、ちょっとの努力で出来る事は沢山あります。
飲んですぐ効く薬というのは、つまり身体のバランスをすぐに崩してくれるものです。
やむなく服用した場合は、バランスを良くしてあげる事も合わせてしてください。
さて、中医学の話に戻りましょう。
中医学ではどのように子宮内膜症を治療していくのでしょうか。
患者さんの、その時の症状を細かく伺い、
舌診・脈診を通して体質をつかみ、食べ物の嗜好や生活習慣(食欲・排尿便・睡眠)等も加味したうえで、 診断をし、その人その人にあった治療をします。
身体全体のバランスを良くするというのが、目標です。
子宮内膜の主な原因である「血の滞り」は、なぜ起こるか考えてみましょう。
大きく分けて、以下の三つ原因があります。
1. 滞血オ : 気の流れが滞りその結果として血が滞る
2. 凝血オ : 寒邪(冷え)が身体に侵入し血が滞る
3. 気虚血オ: 気を流す力が弱く気滞を生じ、その結果血も滞る
【原因別 主な症状・治療法・日常の養生について】
1. 気滞血オ
症 状:
治 療:
養 生:
お勧め
の食品:
漢方薬:
精神的ストレス、イライラ、下腹部の張痛。生理の時、血の塊が出ると痛みが軽くなる。
「気」の流れを改善して、心身をのびやかに保ち、血行を良くする治療をします。
ヨガや気功などの呼吸法、ストレッチ等でリラックスしましょう。
シソの葉、梅、みょうが、みかん、レモン、ジャスミンティー、ミントティー等
血府逐お湯(けっぷちくおとう)
2.寒凝血オ
症 状:
治 療:
養 生:
お勧め
の食品:
漢方薬:
手足の冷え、寒がり、薄着、生ものや冷たいものの飲食を好む。生理痛は暖めると軽減する。
身体を温めて血流を良くする治療をします。
夏でも冷房などで冷えてしまう事がありますから、上着を着るなど、こまめに体温の調節をして、日頃も身体を冷やさないようにしましょう。
ショウガ、にんにく、シソ、ネギ、鳥肉、ジンジャーティーなど
少腹逐お湯(しょうふくちくおとう)、温経湯(うんけいとう)
3.気虚血オ
症 状:
治 療:
養 生:
お勧め
の食品:
体力がない、すぐ疲れる、やせ型、胃下垂、虚弱体質
体力をつけ、血行をよくする。「気」を補って血流を正常にする治療をします。
日常の食事をバランス良くとり、睡眠をしっかりとるようにしましょう。
梅、キクラゲ、しじみ、ショウガ、なつめ、クコの実、豆腐、なつめ茶など
漢方薬:
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)四物湯(しもつとう)
なお、子宮内膜症は、下腹部痛以外にも、生理の量が多くなる・生理の期間が長くなる等で出血が多くなる場合もあります。
その際、生理中は、必要以上に出血が多くならないようにする配慮も必要ですし、生理中とそうでない時では、治療法も違う場合があります。
個人個人の体質に合わせて治療を行います。お気軽に当院までご相談くださいませ。