更年期の体の不調は多くの人が経験するものですが、個人差があります。
「ほてり、のぼせ、発汗、不眠、イライラ、めまい、憂うつな気分になる」などいった症状があらわれます。
現代医学では、減少した女性ホルモンを直接的に補う、ホルモン補充療法がよく用いられます。この方法は更年期症状全般 に有効ですが、誰もが飲めるわけではなく、血栓症がある人や乳がんの既往があるような人は服用が制限されてきます。
このような場合中医学では、こころと体全体のバランスを整えることに重きをおき、様々な不定愁訴といわれる症状を独自の診断方法にもとづいて治療していきます。
症状の軽重は、個々の体質や性格、生活環境や社会環境が関係してきます。
▼中医学的な更年期障害のとらえ方▼
中医学では主に「腎」が生殖機能と深く関わっています。更年期にかかる45~55歳の間は体全体の機能低下が見られますが、特に「腎」の働きが自然現象として衰えていきます。腎は下記の≪~臓腑の働きとは~≫でもふれますが、元気の源とも言われ、体全体を温める力(気の働き)と臓腑や各器官に栄養を与え潤す力(血・水の働きに当てはまります)を備え調節しています。この温める力が低下すると手足の冷え、むくみ、頻尿などの冷え症状が強くあらわれ、潤す力が低下するとのぼせ、発汗、めまい、人によっては骨密度の減少、高血圧、高コレステロールをまねくと考えられています。
また、このような状態が長く続くと他の臓器へも影響を及ぼし様々な症状を生み出します。
▼中医学的からだのしくみ▼
~「気」「血」「水」とは~
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
~臓腑の働きとは~
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。
中医学的にみた婦人科疾患で重要な臓腑の働きは下記のようになります。
「肝」・・
1.
全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。伸びやかな状態を好むため、精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。この状態を「気滞」(気の流れがとどこおる)といいます。
2.
全身の血液量をコントロールし、蓄える働きがあります。
ですので、肝の働きが弱まってしまうと血液を蓄えることが出来なくなるため(肝が支配している器官である)目のかすみ、爪が割れやすくなる、手足がしびれる、筋けいれんが起こりやすくなったりします。
「脾」・・
1.
食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
2.
エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
3.
血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
「腎」・・
生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
女性では、月経不順や不妊症、閉経などの原因になります。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
▼中医学的な更年期障害のとらえ方▼
中医学では主に「腎」が生殖機能と深く関わっています。更年期にかかる45~55歳の間は体全体の機能低下が見られますが、特に「腎」の働きが自然現象として衰えていきます。腎は上記の≪~臓腑の働きとは~≫でもふれましたが、元気の源とも言われ、体全体を温める力(気の働き)と臓腑や各器官に栄養を与え潤す力(血・水の働きに当てはまります)を備え調節しています。この温める力が低下すると手足の冷え、むくみ、頻尿などの冷え症状が強くあらわれ、潤す力が低下するとのぼせ、発汗、めまい、人によっては骨密度の減少、高血圧、高コレステロールをまねくと考えられています。
また、このような状態が長く続くと他の臓器へも影響を及ぼし様々な症状を生み出します。
▼中医学的診断・治療方法▼
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。
この他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
▼中医学的更年期障害のタイプと治療法▼
●肝腎陰虚タイプ●
肝腎要といわれるようにこの2つの臓器の働きが失調することにより、体を養う血、潤す働きの水が不足し、あらわれる症状です。
○随伴症状
月経が早く来る、経血量は多くダラダラとしみでる、色は紅い、めまい
顔面部ののぼせ、いらいら気分になる、汗がでる、口が乾きやすい
手足・胸中がほてる、腰がだるくなる、耳鳴り、動悸、不眠
○治療方法
体を養う血、潤す働きを高める「滋養肝腎」の治療をしていきます。
ツボ:腎ユ、肝ユ、太渓、復溜、三陰交、内関、太衝
漢方:六味丸合四物湯
●腎陽虚タイプ●
体全体を温める働きをもつ「腎」。機能が低下すると冷え症状が多く見られます。
○随伴症状
月経周期がまちまちで経血量は少ない、色は薄く赤い(淡い)
質はさらさらしている、またダラダラでる、顔色はうす暗く、手足が冷える、頭がくらくらめまいがする、腰がだるく冷える、尿が希薄で量 が多い
○治療方法
体を温め、活動力を増す「温補腎陽」の治療をしていきます。
ツボ:腎ユ、命門、関元、三陰交 (お灸も一緒にすると効果が高まります)
漢方:八味地黄丸
●痰湿阻絡タイプ●
「脾」のエネルギーが足りないために、食べた物が気・血・水に変わらず、余分な水分が体内に停滞し、経絡(気の流れるルート)の運行を阻害するために生じる症状です。
○随伴症状
水太り体質、頭が重くめまいがする、頭痛、耳鳴り、のぼせる
胸や胃のあたりがもたれる、吐き気、嘔吐をもよおす、食欲低下
むくみ、軟便ぎみ
○治療法
脾の働きを高めることにより痰を作らないようにする「健脾化痰」の治療をしていきます。
ツボ:(鍼)足三里、中カン、豊隆、三陰交
(お灸も一緒にすると効果が高まります)
漢方:半夏白ジュツ天麻湯、二陳湯、五苓散
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます、タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。
●肝腎陰虚タイプ●
【生活習慣】
・
体を養う血の消耗につながる生活は避けましょう。睡眠はしっかりとり、血を消耗させやすいパソコンの使いすぎ、テレビの見すぎ、夜更かしは避けましょう。
・
血を補い、体を潤す働きのある食べ物を摂るよう心がけましょう。
【食べ物】
~体を冷まし、潤す作用のある食べ物を摂りましょう~
(乳製品)
豆乳、牛乳
(肉 類)
豚の皮、鴨肉、豚肉
(魚介類)
いか、牡蠣、すっぽん(とくに甲羅の部分)
(野 菜)
山芋、白きくらげ、黒きくらげ
(果 物)
なし、もも、ぶどう
(木の実)
クコの実、くるみ、黒ごま
(お 茶)
桑の実とクコの実のお茶
●腎陽虚タイプ●
【生活習慣】
・
冷えやすい下半身は下腹部や腰部にカイロをはって、しっかり温めましょう。
・
体を温める食べ物を摂るようにしましょう。
【食べ物】
~体を温め、活動力を増す作用のある食べ物を摂りましょう~
(穀 類)
もち米
(肉 類)
羊肉、鹿肉、牛肉
(魚介類)
えび、なまこ
(野 菜)
にら、ねぎ、ししとう、かぼちゃ、しょうが、にんにく
(木の実)
栗、くるみ
(香辛料)
酒、シナモン、黒砂糖、フェンネル
(お 茶)
杜仲茶、ジンジャーティー黒砂糖入り
※腎陽虚はからだを温める働きのある食材を、腎陰虚はからだに潤いを与える食材です。
同じ「腎」でも作用させる働きが180度違いますので気をつけて摂取してください。
●痰湿阻絡タイプ●
【生活習慣】
・
甘いものや味付けの濃いもの、油っこい食べ物は控えましょう。
・
水分代謝が悪く、水太りしやすいので水分の摂りすぎには注意して下さい。また、冷たい物(アイスやジュース)は控えめにしましょう。
・
運動は規則的にじんわり汗をかくくらいのウォーキングなどがおすすめです。汗だくになってやる必要はありません。
・
梅雨の時期は湿気の影響を直に受けるので、この時期は食べ物に気をつけましょう。
【食べ物】
~水分を排出してくれる働きのある食べ物を摂りましょう~
(穀 類)
はと麦、とうもろこし、小豆、黒豆
(野 菜)
冬瓜、白菜、山芋、トマト、チンゲンサイ
(魚 類)
こい、ふな
(果 物)
すいか、ぶどう、メロン
▼その他日常生活での注意点▼
*
悩んだり、焦ったり、イライラしたりする気持ち、心身の疲労などが更年期障害を強くしますので、ストレスはためないよう、運動(ヨガ、気功、など)、軽い散歩などで気持ちが安らぐ空間を持ちましょう。
*
室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
*
規則正しい生活をし栄養バランスの摂れた食べ物、特にカルシウムやビタミン類をしっかり摂り、十分な睡眠をとりましょう。
更年期というのは本来「更に良い年齢を重ねて行こう」という意味合いが含まれています。
どこか暗くさびしいイメージを持つ方もいますが、卵巣が働きを終えるというのは女性であれば誰にでも起こる自然なことです。更年期をマイナスにとらえるのではなく、よくここまで頑張ってこれたと自分をねぎらい、これからの人生をよりよく生きるための充電期間と考えましょう。
●より細かく『自分の体質を把握したい』、『1つのタイプだけではなく、幾つも混ざっているタイプがあるため詳しく知りたい』という方、中医学的治療を受けたいという方はお気軽に当院へご相談ください。
鍼灸・漢方全般に関するご相談もお受けしております。