コラム

2019-02-20
欠乳

欠乳とは、産後に母乳の分泌が少なくなったり、全く出なくなったりする状態で、母乳分泌不足のことです。中医学では“少乳”“乳汁不足”“乳汁不行”とも言われています。

母乳は、出産すればお母さんから分泌されるもの!と簡単に理解されがちですが、実際はいくつかの段階を経ています。まず、母乳分泌の仕組みから説明していきたいと思います。

 

母乳の出るしくみ≫

妊娠中、卵巣や胎盤から分泌される“エストロゲン”や“プロゲステロン”というホルモンの働きで乳腺が発育します。一方では、これらのホルモンが乳汁分泌ホルモンである“プロラクチン”の作用にブレーキをかけていて妊娠中に母乳分泌が起こらないように抑制されています。このように妊娠中はホルモンの働きで抑制されていた母乳分泌も分娩後、赤ちゃんを出産するホルモンによる抑制がとれ母乳分泌が始まります。

具体的な流れは次のようになります。

 

分娩で胎盤が体外に排出されると、胎盤から分泌されていたエストロゲンとプロゲステロン(妊娠の維持に作用するホルモンです)は急激に減少します。

 

エストロゲンとプロゲステロンの減少により、乳汁の分泌抑制がとれ、プロラクチン(乳汁の産生を促し、排卵を抑制する作用のあるホルモンです)が乳腺に活発に働きかけ乳汁の生産を始めます。

 

生産された乳汁は乳管を通って、いったん乳管洞に蓄えられます。乳頭の筋肉は乳汁が 溢れないよう収縮しています。

 

乳頭には刺激に敏感な知覚神経が集まっていて、赤ちゃんが乳首をくわえ、吸う刺激により乳頭の筋肉はゆるみます。

 

赤ちゃんの吸う刺激が、脳の視床下部を刺激し、下垂体後葉(脳にあるホルモンを分泌する器官です)からオキシトシンが分泌されます。

 

オキシトシンは乳腺を取り囲んでいる筋肉を収縮させて、乳汁を乳房から積極的に押し出します。この状態を“射乳”といいます。

 

このように、母乳分泌には赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激が大きくかかわっています。

さらに、オキシトシンというホルモンは子宮を収縮させる作用があり、赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらうことには子宮復古の手助けになるといえます。

 

では、どうして欠乳(母乳分泌不全)になるのか現代医学と中医学の視点から説明したいと思います。

 

現代医学的な捉え方≫

乳汁分泌不全とは、赤ちゃんに必要な量の母乳が分泌されない状態をいいます。

原因は、疲労、精神不安定、栄養不足、貧血、下垂体機能不全など全身的要因や、乳腺発育不全、乳房形成術既往など局所的要因による乳汁産生低下、赤ちゃんの吸啜力不足、オキシトシン性射乳機構不全や、乳管系の開通 不全などによる乳汁排出不全や、それに伴う残乳による血流の変動や、神経反射を介した乳汁産生機転阻害があります。

乳汁分泌促進には、円滑な排乳路の確保や、乳房への血流増加、さらにはプロラクチンなど内分泌性乳汁産生刺激因子(ホルモン)の増強などを必要とします。

従って、乳汁分泌不全に対しては“貧血・脱水・低栄養”などの母体の要因を改善すると共に、乳房マッサージによる血流増加・排乳促進を図ります。プロラクチン分泌には、スルピリドやメトクロプラミドなどの薬剤により亢進します。

 

中医学的な捉え方≫

中医学では、母乳(乳汁)は気・血が変化したものと考えます。

婦人の乳汁不行は皆気血虚弱、経絡不調によるものである”とあります。

母乳分泌不足は、分娩時に出血過多となり、気が血とともに消耗して起こるもの。

母体がもともと気血不足であったのに加え、出産により気血がより不足したために母乳の生成が不足して起こるもの。

肝鬱気滞(肝の働きが低下して気が巡らない状態)となり気機不暢のために乳路の通 りが悪くなり、そのため母乳がつまって出なくなるもの。

脾胃虚弱により納運失職(飲食物を消化吸収して気血の材料を作り出す働きが低下した状態)となって化源が不足し気血不足となって起こるもの。

肝気犯胃(肝の気を巡らす機能が低下して胃の消化機能に影響が及んだ状態)となって受納(飲食物を胃が受け入れること)が悪くなり気血の化生に影響して母乳が不足するものなどがあります。

 

具体的な症状を説明する前に、中医学的な人体の考え方について説明します。

 

人体には“気・血・水”と呼ばれる「人体を構成して生理活動を活発化させる基本的物質」が巡っています。

 

~気・血・水について~

気・・・

気は体内を流れるエネルギーの1つです。消化・吸収・排泄を正常に行なう、血を巡らせる、体温を保つ、ウィルスや細菌から体を守る、内臓を正常な位 置に保つなど、体の生理機能を維持する働きがあります。

 

血・・・

いわゆる“血液”という意味のほか、“気”とともに体内を流れて、内臓や組織に潤いと栄養分を与え、また精神活動(気持ち・気分・情緒・感情)を支える物質でもあります。

 

水・・・

体内を潤すのに必要な水分のことです。胃液・唾液・細胞間液・リンパ液・汗なども含まれます。体表近くの皮毛・肌膚から、体内深部の脳髄・骨髄・関節臓腑までを潤します。

気・血・水の生成や代謝は“五臓六腑”と呼ばれる臓器によって行なわれます。

五臓と六腑は、よく一緒に語られますが役割は異なります。

六腑は、“胃・小腸・大腸・膀胱・胆・三焦”の総称です。

六腑というのは、水穀(飲食物)を消化して、身体に有益な物質である“水穀の精微”(これが気・血・水の生成材料になります)と、不必要な物質である糟粕(カスのことです)とに分け、“水穀の精微”を五臓に受け渡し、糟粕を大・小便に変えて排泄を行なう臓器です。

六腑のうち、口から摂取された水穀が最初に運ばれる臓器が“胃”です。

胃が水穀を受け入れて(これを受納といいます)、消化し(これを腐熟といいます)、消化物を下方の臓器に渡す(これを和降といいます)という3つの働きをします。

小腸は、胃の下にある臓器で、胃で消化された水穀を人体に有益な“水穀の精微(清)”と“不要な糟粕(濁)”とに分別 します。

そして分別した“清”を脾に運び、“濁”をさらに水分とそうでない物に分けて膀胱と大腸に移します。大腸と膀胱は“濁”をそれぞれ大・小便にして排泄します。

また、胆は肝で生成された胆汁を小腸に分泌して、消化を助けています。

三焦は、臓腑機能を統轄して、水分や気を運行させる通路の働きをしています。

五臓”は“肝・心・脾・肺・腎”の総称です。

五臓は、六腑から水穀の精微を受け取り“気・血・水”を生成し貯蔵する臓器です。

 

 

~五臓について~

肝・・・

肝は血を貯蔵する働きのほか、全身の“気”のめぐりをコントロールして、精神・情緒を安定させる作用や、筋肉・目の働きを維持する働きがあります。

 

心・・・

血を全身に送り出すポンプの作用のほか、脳の働きの一部を担っていて、情緒や感情といった“こころ”とも関係が深い臓器です。心の機能が充実していると精神状態が穏やかで、情緒が安定し、思考能力も活発になります。

 

脾・・・

消化に関わる機能すべてを含んだ臓器です。食べたり飲んだりしたものを、体の役に立つエネルギー(気)に変える役割があります。また、血を脈外に漏さないようにする働きや、味覚をはじめとする口の生理機能を維持する働きもあります。

 

肺・・・

肺は呼吸を行ないます。きれいな空気(清気)を体内に取り入れ、汚れた空気(濁気)を体外に出す働きがあります。

また、皮膚や口、鼻などの体表面に細菌やウィルスや有害物質などから体を守るエネルギーのバリア(衛気という気)をはりめぐらせて感染症から守る働きもあります。

 

腎・・・

腎には体内の水分代謝をコントロールして不必要な水分を尿として排泄させる作用があるほか、成長・発育・生殖・老化に深くかかわる“精”を蓄える臓器でもあります。

 

精とは・・・

体を構成する栄養物質や生命エネルギーの総称です。腎に蓄えられて、人の成長・発育を促進し、性行為・妊娠・出産などの性機能や生殖機能を維持する働きがあります。

そして、気・血が流れる通路として人体の上下・内外を貫いて五臓六腑を交流させている通 路のことを“経絡(けいらく)”と呼びます。

中医学には神経という概念がなく、経絡が循環・伝達系の役割を果たしているといえます。

経絡は、東洋医学独特のもので西洋医学(現代医学)にはその存在はいまだ確認はできていません。

しかし、胃の経絡上の経穴に刺激を与え、レントゲンを撮ると胃の働きが活発になることが分かっております。ただ、先程述べたように経絡そのもの自体、科学的に見つけられないのですが、存在はしているので、経絡上のツボに刺激を与えた事により胃の活動が活発になった事が見つけられております。

経絡とは、体の各部をくまなく流れる気・血・水の通路であり、ツボとツボを結んだ線でもあります。それらは、体内に深く入り臓腑と連絡していて、全身の機能を正常に調節する働きがあります。

 

中医学では、人体は“気・血・水”がスムーズにめぐって、必要なところに必要なだけあり、五臓六腑が正常に機能している状態を“健康”と考え、どこかのバランスが崩れた状態が“病気”と考えます。

鍼灸治療は、崩れたバランスを整えることを目的とした治療法なのです。

バランスを崩す原因(病因)には、外因・内因・不内外因があります。外因とは、外界の環境因子(気候の変化など)、内因は感情や精神状態など、不内外因は食生活や過労などの生活習慣のことです。

これらの病因が、気・血・水のバランスを崩し、五臓六腑の働きを失調させることで病気になると考えます。

中医学独特の診断方法で、何の病因で、気・血・水のいずれが、どのようにバランスを崩し、五臓六腑のどの臓器が、どのように失調したかを見極め(これを弁証といいます)、治療方法を決める(これを論治といいます)ことを“弁証論治”といいます。

では、欠乳について、弁証論治別(タイプ別)に説明したいと思います。

 

気血両虚型

母乳の源になる気・血の不足した状態です。母乳は水様、乳房は軟らかく、張った感じはありません。息切れ、精神疲労、めまい、動悸、顔色がすぐれないなどの症状を伴います。

(治療方針)補益気血・・・

不足した気血を補う治療です。気血を充実させて乳汁の産生を図ります。

脾胃虚弱型

脾と胃は、飲食物を栄養にかえて生命活動の基礎を作ります。虚弱してしまうと全身を栄養できなくなり、乳汁の産生ができません。乳房は軟らかく、腹脹、食欲不振、息切れ、精神疲労、倦怠、無力感、下痢といった症状を伴います。

(治療方針)健壮脾胃・・・

脾と胃の機能を回復させ栄養の充実を図り、乳汁の産生を促します。

肝鬱気滞型

肝には“疏泄”という気血の循環を促進させる働きがあります。気血が全身を巡っていれば身体は正常に機能します。しかし、感情の乱れや、ストレスを受けることで機能が低下すると気血の渋滞を招きます。乳房の気血の渋滞が、欠乳となります。

乳房は脹痛(脹満感を伴った痛み)があり、胸脇部の脹り、食欲不振、抑鬱といった症状を伴います。

(治療方針)疏肝解鬱・・・

鬱滞した気の流れを改善し、通乳を図ります。

肝気犯胃型

肝鬱気滞により胃の働きに影響が及んだ状態です。胃には水穀を受納し腐熟させる(飲食物を消化吸収し全身に栄養源を運搬する)働きがあります。この働きが低下すると気血の化生に影響し、母乳の産生が出来なくなります。乳房の脹痛、胃の脹満・つかえ、脇肋痛、食欲不振、ゲップがすっきり出ないとった症状を伴います。

(治療方針)疏肝和胃・・・

肝の疏泄を調節すると同時に胃の機能を改善し、乳汁の産生を図ります。

以上のように、現代医学と中医学とでは“欠乳”という症状の捉え方が異なります。

違った角度から人体を見つめているので、現代医学とは違ったアプローチで治療が行えるのが中医学であるといえます。

 

食事療法≫

気血を増す食物の摂取は、増乳を促す事になります。

下記の様な食物を摂取することにより、より栄養素の高い母乳の生産を手助け致しますのでご参考までにどうぞ。

(気を補う作用のある食べ物)

旬の青魚

・・・

秋は“さば、さんま、いわし”

いも類

・・・

さつまいも、里いも、じゃがいも

その他

・・・

きのこ類、豆類、穀類、ごぼう、人参、根菜類

 

(血を補う作用のある食べ物)

豆類

・・・

黒豆、大豆、小豆

種実類

・・・

松の実、くるみ、ごま、栗

魚介・海草類

・・・

しじみ、あさり、かき、わかめ、昆布

その他

・・・

ほうれん草、長いも、うなぎ、レバー

昔から、“もち米(おもち)”は産前産後に良い食品とされています。

 

欠乳”には様々な原因があります。経験豊かな助産師さんに相談することも大切なことです。乳房マッサージはとても有効な方法です。

 

母乳は、赤ちゃんにとってバランスのとれた最高の栄養源です。

また、先にも述べましたが、母乳を与えることは、赤ちゃんのみならず、お母さんの子宮の働きを回復させるのに大切なことでもあります。そして、何よりも母子を密着させて愛情を育む大切な時間となります。

 

中医学鍼灸は、一般的な局所治療鍼灸と異なります。

症状のタイプ別や、細かい体質、或いは症状の起因を見極め手当をおこなうところに大きな特徴があります。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

当院での治療をお考えへの方へ

 

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

 

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

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