コラム

2019/02/20
おりものの異常

おりものの異常(帯下について)

帯下とは、膣内から流出する粘液で“おりもの”“こしけ”と呼ばれ、正常では無色透明で、臭いが少なく少量 です。

女性の身体の状態を判断するために、月経の症状と併せて確認する重要な問診項目の一つです。

通常、発育成熟期・月経前後・妊娠初期に量が多くなりますが、このような場合は病としては扱いません。帯下量 が多く、その色や性状、臭いに異常があり、あるいは全身症状を伴うものを“帯下病”といいます。

 

はじめに生理周期と合せて、正常な帯下の状態を知っておきましょう。

まず、帯下は排卵前後に透明で糸を引くような粘りのあるものが出て、排卵が終わった高温期にかけては色は透明で、臭いがなく、固まらないのが正常です。

色がついていたり、臭いがあったり、固まりがある場合は、膣炎や性感染症などの疑いがあります。例えば、カンジダ膣炎があると、よくカッテージチーズのようなポロポロと固まる白い帯下があります。

 

では、“帯下”に対する西洋医学と中医学のそれぞれの捉え方を説明します。

 

西洋医学的な捉え方≫

帯下とは、女性生殖器からの分泌物ですが、特にそれにより外陰部が湿潤され、分泌物の存在が自覚され、不快感がみられる程度になったものをいいます。

 

分泌物の由来する場所により次のように分類されます。

1) 卵管帯下(卵管癌など)

2) 子宮体部帯下(子宮内膜炎、子宮体癌、その他)

3) 頸管帯下(頸管粘液、頸管炎、子宮頚癌、その他)

4) 膣帯下(膣炎、その他)

5) 外陰帯下(外陰炎、その他)

 

また、帯下の性状から次のように分けられます。

1) 白色帯下(頸管粘液増量、子宮内膜炎、トリコモナス膣炎、その他)

2) 黄色帯下(淋疾、その他)

3) 血性帯下(性器出血ですが、血液以外の分泌液が多量に混入している場合)

 

さらに原因の面から、

1) 生理的帯下(排卵期、妊娠時、その他)

2) 炎症性帯下(膣炎、外陰炎、子宮内膜炎、その他)

3) 壊死性帯下(悪性腫瘍、月経、分娩後、その他)

4) うっ血性帯下

5) 心因性帯下、に分けられます。

 

中医学的な捉え方≫

中医学では、弁証(病状を見極めて治療方針を立てること)に必要な情報を得るために様々な項目で問診を行います。望診(見る)、切診(触れる)なども行いますが、何よりも問診が重要です。

集められた情報から、患者さんの病状、体質などを見極めて治療方針がたてられます。

女性の場合は、月経の状態とともに帯下の状態も大切な問診項目です。

自分の体調を管理する上でも、帯下の色、臭い、性状の清濁(清はサラサラした状態・濁はネバネバした状態)を日頃からチェックしておく必要があるといえます。

 

中医学では、人体を現代医学的な解剖論とは異なった見方をします。どちらが正しいというのではありません。異なった見方をすることで、現代医学とは違った治療が出来ることを知って頂きたいと思います。

詳しい内容は、NO168:“わかりやすい東洋医学理論”の中の「中医学の生理観・基礎概念」の項目で説明がありますので、是非参照して下さい。このページでは、詳細は省略させて頂きます。(探しずらい場合は、まとめのページの上段にもわかりやすい東洋医学理論が掲載されております。

 

中医学では、人体は“気・血・水”がスムーズに体内を巡って、必要なところに必要なだけあり、五臓六腑・経絡が正常に機能している状態を“健康”と考えます。

生殖器には臓腑では“脾、腎、肝”、経絡では奇経八脈の“衝脈、任脈”の働きが深く関わります。何らかの原因で“脾、腎、肝”の働きが低下し、“衝脈、任脈”の流れが滞ることで帯下の異常が引き起こされると考えます。

原因や、失調した臓腑などによっていくつかのタイプ(証)に分かれます。

 

 

【肝経湿熱タイプ】

帯下は、決して病的なものばかりではありません。体に必要な水分として生殖器に分泌されています。しかし、水分が停滞するなどの代謝異常が起きること“水湿の邪”に変化し病的なものとなります。そして、流れが滞ると、熱を生みます。それが肝経に、侵入することで起こるのがこのタイプです。

(症状)

帯下の量が多く、色が膿のような黄緑色です。あるいは血液が混じり、米のとぎ汁のように混濁している場合があります。

また、帯下の臭いが強く、外陰部に掻痒感や痛みがあります。

その他、尿が黄色く濃い、耳鳴り、口が苦い、咽頭の乾き、怒りっぽいといった症状や、胸肋部がつまった感じ・張った感じを伴うこともあります。

 

(治療方針)

清肝利湿・・・肝の熱を清めて、湿邪を取り去る治療です。

(食養生)

体内の熱を取る食材を摂りましょう。肉中心のこってりとした料理や、味付けの濃い料理、辛みの強い料理の食べすぎなどは、体に熱を発生させやすいため注意が必要です。野菜中心のメニューで薄味を心掛けましょう。

 

「食材」・・・

ほうれん草、もやし、セロリ、大根、きゅうり、トマト、豆腐

 

【脾虚湿困】

水湿の邪”が脾の機能を失調させた状態です。もともと脾は乾燥を好み、湿気を嫌う臓腑なのです。

(症状)

帯下は白色、性状は粘稠、臭気のないもが続きます。また、元気がない、疲れやすい、食欲不振、むくみ、泥状便などの症状があります。

 

(治療方針)

健脾益気・・・脾の運化機能を立て直し陽気を補う治療です。

除湿止帯・・・湿を取り除き、漏れ出るものを止める治療です。

(食養生)

余分な水分を出すものと、体を温めるものを組み合わせましょう。

 

「食材」・・・

きゅうり、とうがん、とうもろこし、豆類、そば、海草、あさり、しじみ、かぼちゃ、にら、ねぎ、しょうが、青じそ など

 

【腎陽虚】

腎気の身体を温める作用が著しく低下した状態です。全身および局所が冷え、冷寒症状が現れます。水分を気化させる機能が低下します。

(症状)

帯下は白色で、量が多く稀薄なのが特徴で流れるように排出されます。

顔色がどす黒い、元気がない、寒がる、四肢の冷え、夜間頻尿、腰や膝がだるく無力、頭のふらつき、などの症状があります。

 

(治療方針)

温腎補陽・・・

腎を温めて陽気を補う治療です。

 

固渋止帯・・・

腎の固摂作用(漏れ出さないように留めておく作用)を回復させる治療です。

(食養生)

体を温める食材を摂ると共に、穀類や豆類、野菜、肉、魚などをバランスよくとり寒さに負けない体力づくりを心掛けましょう。

 

「食材」・・・

かぶ、ねぎ、かぼちゃ、にら、しょうが、にんにく、栗、鶏肉、羊肉、さば、いわし、黒豆、大豆、長いも、など

その他、“紫赤色で血液様・悪臭がする場合”は、悪性腫瘍などを疑う必要があります。また、“妊娠中の多量 の水様帯下”は破水で流早産の前兆と考えられ、どちらも専門医を受診することをお勧めします。

 

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより 一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 

 

 

2019/02/20
つわり

妊娠初期にみられる悪心、嘔吐、食欲不振、嗜好の変化は大部分が全身状態に重大な影響を与えることなく自然治癒します。

このような症状を「つわり」といい、妊婦の5080%にみられます。

しかし、これらの症状が悪化し食物摂取が困難となり、その状態が持続すると栄養障害・代謝障害をきたし、臓器障害や全身状態の悪化を招くことがあります。

まれにビタミンB1欠乏により脳障害(ウエルニッケ脳症)をきたすこともあります。

食物摂取が困難となり加療を要する状態になったものを「妊娠悪阻」といいます。

軽症のものも含めると妊娠の数%にみられます。

通常は妊娠5~6週から症状が出現し、妊娠1216週ころまでには消失します。

本証発症のメカニズムの詳細は不明ですが、妊娠初期の内分泌や代謝面 の急激な変化が原因となり、自律神経失調を主とする精神的心理的因子が誘因となって発生すると考えられています。

それ以前は認められず、妊娠したことが契機となって悪心・嘔吐・偏食などといった症状が出現することから、多くの場合診断は容易です。

まれに、妊娠初期に食中毒や胃潰瘍などと合併することにより、同様の症状を呈することがあるので症状が強い場合には一度検査を受けられる必要性があります。

また、胞状奇胎(ほうじょうきたい)の場合は妊娠悪阻を伴うことが多いので、正常の妊娠であるかどうかを診断することも重要です。

 

つわり(妊娠悪阻)と関わりの深い臓腑

 現在、日本の西洋医学で使われている、内臓を表す用語は中医学の「五臓(肝・心・脾・腎)」と同じ文字で表現していますが、機能は必ずしも一致しません。

肝臓ではなく「肝」というように、中医学について書かれてた文章の中で五臓の名前に「臓」の文字をつけないのは、西洋医学と区別 するためなのです。

 

「肝」

ストレスや暴飲暴食で重労働を強いられると、肝臓自身にも疲れが溜まります。こういう状態を中医学では「肝鬱」といいます。

「肝」は肝臓だけでなく、体全体の機能を調節し、消化吸収や血流を正常に保ち、精神活動や情緒をも司る臓腑と捉えられています。

自律神経系の緊張や失調との関係が深いのです。「鬱」は機能の阻滞を表します。

つまり肝鬱は肝機能のストライキによる体調や精神活動の不調のことなのです。

肝鬱の状態が続くと、自律神経系の緊張や失調を介して体のあちこちで支障が生じてきます。

消化器系に影響すると胸やけ、吐き気、食欲不振、下痢などの症状が表れ、神経性胃炎、神経性下痢、過敏性大腸症へとつながることもあります。

西洋医学では病気とは言えない症状も多いのですが、中医学ではちゃんとした疾病として捉えられ、治療法が数多くあるのです。

 

「胃」

胃は飲食物を消化します。

生命活動に欠かせない滋養物質である水穀の精微をつくります。

消化した残りかすである「濁」と小腸や大腸に送る「降濁」も胃の働きです。

 

「脾」

 気の生成・・・食べた物を生成して補充します。

脾は胃で作られた滋養物質を吸収して上昇させ、全身に送る「昇清」という働きをもっています。

運化作用・・・脾は運化といって、食べたものを消化吸収して全身に栄養分を運ぶ作用があります。

栄養分から津液を作り、全身に送ります。

津液とは血以外のすべての体液のことで、水穀の精微が、脾で気化されてできたものです。おもに体の各部を潤す働きをしています。

 

「脾と胃」

上記の説明の通り、上昇(脾の働き)と下降(胃の働き)という正反対の働きをもつ脾と胃が協調し統一して活動していれば、食欲がわき、おいしく食べられます。

しかし、一方の働きが低下すると、もう一方の働きも低下します。

例えば、脾の「昇清」が低下すると、胃の「降濁」が上に逆流したり、昇清が低下して降濁だけが働く「昇降失調」の状態となります。脾と胃は昇降という相反した方向性の作用によって食べ物の消化・運搬を主っているのです。

 

つわりにも、体質などによって負担になる症状は人によって様々です。

中医学では大まかに3つのタイプに分類して考えていきます。

 

 

 脾胃虚弱によるもの ☆

通常、女性の体は毎月経血を排泄する役割を持っていますが、妊娠により、排泄機能が休止状態になると衝脈の気が旺盛になります。

通常、外に排泄されなくてはいけない気が体の中で行き場をなくし、同じ経絡で関係の深い「胃」に悪影響をもたらすのです。

衝脈とは、体内を流れる経脈の一つで子宮から起こり、「血海」とも言います。

月経の来朝と密接に関係しています。

一般に受胎によって月経が停止し経血が排泄しなくなると、衝脈の気は体の中に旺盛になります。その気の上逆は胃を犯すことがあるのです。

胃気は胃の気が下がることにより、正常な機能を発揮しますが、もともと胃が弱い方が受胎すると衝脈にともなって胃気が上逆し嘔悪が起こるのです。

 

 

 肝脾不和によるもの ☆

平素から胃気(消化物を下に降ろす作用があります)が虚弱で肝気が旺盛ぎみな人が妊娠すると、胎児の栄養のために血が胞宮(子宮)に結集することにより、肝血不足となり、そのために相対的に肝気が旺盛になります。

肝は西洋医学で言う肝臓を含め自律神経やホルモン系の調整機能、血の貯蔵、精神機能などを有し、これらの機能を総称して肝気といいます。

肝機能のことで全身へ気を良く巡らせる働きをしています。

妊娠をされた状態でストレスやイライラ状態が続くと中医学では肝が障害されると考えます。

肝気がスムーズに流れなくなることにより、衝脈の気を挟んで上逆し、これが気を犯すと嘔吐がおこるのです。

 

 

 痰湿によるもの ☆

脾陽不足で運化が失調し、痰湿が内生して中焦(腹部)に阻滞している人が受胎によって経血が閉じ衝脈を阻滞すると、気血の運行が悪くなり、衝脈の気が痰湿を挟んで上逆し嘔悪が起こります。

痰は津液が煮詰まり濁ったものです。

つまり、津液の変化したもので、大元は脾の消化吸収機能が衰えた事が根本にあります。脾胃の気化作用が弱くなると、「脾虚湿盛」といって、水分の停滞が起こります。

この停飲は長期になると熱を受けて粘性を持った「痰」へと変化します。

中医学では「脾派生痰の源」と言われています。

 

3つのタイプが大まかに理解して頂けたところで今度は何故吐き気などの症状が起こるのか、タイプ別 に細かくみていくことにしましょう。

 

 

脾胃虚弱によるもの

 

 妊娠後2~3ヶ月に出現、悪心、嘔吐、食物の臭いを嗅いだだけで気持ち悪くなる、または食べるとすぐ吐く、または清稀な涎を嘔吐する。

原因

妊娠により衝脈の気が旺盛になり、脾胃虚弱に乗じて胃を犯すと胃の気が下がることができず、上逆しておこります。

胃は本来食べ物を納め、消化した後、腸に下ろすように働きます。

胃の気は下降しているのが正常なのですが、胃の気が反対に上逆すると、上記の嘔吐などの症状が出るのです。もともと胃の弱い方がなりやすい症状です。

また、「涎」は中医学では「脾」と関係の深いものです。

 

 精神倦怠 嗜睡

原因

脾気(上昇方向へ気をおくる働き)が不足して気血を昇清(良いエネルギーを上げ、栄養素を頭の方へ運ぶこと)できないとおこります。

「食べると眠くなったりだるくなったりする」これを嗜睡といいます。

脾胃が虚弱で食べ物を消化できない状態です。胃・脾の気が悶々として気の流れが停滞し、食後すぐ横になりたくなり、体が重くなります。

清陽(気血)が昇って頭目を栄養できないとおこります。

 

 息切れ 懶言

原因

気が不足し、呼吸活動や発声を動かしている気(推動作用)が低下するとおこります。

 大便溏薄

脾の働きである「運化作用」が減退し、腸の中に水湿が停留するとおこります。

 

 

肝胃不和によるもの

 

 妊娠初期に出現、苦水または酸水を嘔吐する、油っこい食物を嫌う、または食物の臭いを嗅いだだけで気持ち悪くなる

原因

肝の欝熱が衝脈の気を挟んで上逆し、これが胃気を犯すとおこります。

肝の気を巡らせる機能(疏泄機能)が失調し、気の渋滞が長く続くと熱を発生させます。

精神的な緊張などが鬱積して、それが発散されずにいる状態です。

 

 

 胸肋部の張痛、げっぷ、よく溜め息をつく、精神抑鬱

原因

肝気が欝滞するとおこります。

肝気鬱結とは、精神的ストレスによる症状を指しています。

精神的ストレスによる感情抑うつの状態は、多くの病気の原因や憎悪因子となります。

また、逆に様々な病気は感情の抑うつをもたらします。

肝気が鬱結すれば気の流通が滞り、胸の煩悶感が発生します。

ため息をつくと煩悶感は少し軽くなります。

嘔吐、げっぷ、胃酸の逆流、食欲不振などは鬱結した肝気が胃を犯したものなのです。

 

 

 口苦、頭脹感、頭痛

原因

肝火が上衝するとおこります。

肝気の鬱滞が熱化して昇発が過度になった状態です。

鬱熱が肝経(肝に帰属する経絡で、下肢から胸脇部を昇って目や頭頂部に達する)にめぐった為に生じた症状です。

 

 

痰湿による症状

 

 妊娠初期に出現、痰涎を嘔吐する

原因

衝脈の気が痰湿を挟んで上逆するとおこります。

痰湿が子宮や衝任脈を塞ぐ結果、衝任不通・気血運行不利となります。

衝脈や任脈とは妊娠や月経と関係深い経絡です。

「衝は血海である」と言われており、その脈は子宮から起こり、気血の作用を調節し、月経の来潮と密接に関係しています。

 

 

 胸悶、食欲不振

原因

痰飲が中焦(腹部)に阻滞して水穀の腐熟や運化が悪くなるとおこります。

 

 

 口が甘く粘つく、味がわからない

原因

痰飲が上犯して口にあふれると、口が粘つき運化が悪くなり、中気が昇らないと味がわからなくなる。

 

 

 大便溏薄、浮腫

原因

「脾」の運化機能(食べたものを消化吸収して全身に栄養分を運ぶ作用)が減退して水湿が腸の中に停留すると便がやわらかくなります。

肌に水湿が停留すると「むくみ」がでます。

 

気のめぐりが悪いと水の代謝が悪くなり、痰飲という病的な津液が生じます。

痰といっても喉に絡むあの痰だけを指すのではなく、体内の至る所に生じる水分の代謝異常をすべて指します。

痰を生じる源は五臓の中の「脾」といって、現代の膵臓などの消化器の働きと関係があります。

上記のような症状は痰飲が原因となって起こる症状なのです。

なぜ痰が生ずるかというと「脾は生痰の源」といって「脾虚」が根底にあるからです。

脾虚とは脾の運化機能(食べたものを消化吸収して全身に栄養分を運ぶ作用)の低下のことです。

 

痰湿が子宮や衝任脈を塞ぐ結果、衝任不通・気血運行不利となります。

衝脉や任脉とは妊娠や月経と関係深い経絡です。

「衝は血海である」と言われており、その脈は子宮から起こり、気血の作用を調節し、月経の来潮と密接に関係しています。

それでこの障害を「痰湿阻滞」といいます。

 

3つのタイプによって、治療計画、方針を立ててゆき手当てをしていくものが中医学になります。

 

つわりの時の食生活

中医学的にみた妊婦さんの食生活の基本は、「脾」と「腎」を補うことです。

補うというのは、不足しがちな機能に「てこ入れ」をするというような意味です。

脾”とは、食べたものを消化吸収して身体を養う臓腑です。

腎”とは、持って生まれた元気を保存し、子孫を残していく力のある臓腑です。

腎を補うことで胎児が安定し、脾を補うことで不足しがちな気血を作りだすことができます。

腎に貯金されている、「精(生殖や成長に必要なエッセンスのようなもの)」を補充することができます。

消化の良い物を五味(すっぱい・苦い・甘い・辛い・塩からい)

五色(赤・青・黄・白・黒)を考えて、バランス良く食べるのが理想です。

とはいえ、つわりがひどくて、特定の物しか食べられなくなる場合もあります。

その時は無理をせず、食べられる物を食べられるときに少しずつでも食べておくことが大切です。

また、レモン、シソ、ブドウ、などはつわりの時でも食べやすく、中医学では胎児を安定させると言われている食べ物です。

また、ショウガや、梅干し、大根などは吐き気を抑える働きがあります。

ちょっとお腹が空いたときにこうした物を食事に取り入れて食べると良いでしょう。

空腹時に吐き気がする人が多いので、小さく作ったおにぎりなどを持ち歩くと安心です。

上記のような食べ物を毎日の食事に上手に取り入れ、症状の緩和に努めましょう。

料理を作るとき、食べ物の相性が良いと美味しくたべられ、なおかつ効果 も高くなります。

 

妊娠悪阻(つわり)のことでわからないこと、疑問点などございましたら

お気軽に当院までご相談ください。

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

2019/02/20
バセドウ病

バセドウ病と聞いても聞きなれない方も多いと思います。

 

バセドウ病とは甲状腺の機能が亢進してしまう病気の中でもっとも多くみられる病気です。

この病気では心臓がドキドキする動悸がしたり、汗がとめどなく流れたり、疲れやすくなったり、首が腫れたりします。

女性に多くおこり、仕事や育児に忙しい30代に多くみられ、また症状が自律神経失調に似ていて発見することも難しい場合もあります。

忙しくて疲れているだけ”と、思われている内に病気が隠れていないかを知るためにも、なるべくわかり易くお話ししたいとおもいます。

 

では、そもそも甲状腺とはなんでしょう?

甲状腺は首の中央より少し下の方にあり、のどぼとけを下から取り囲むようにあります。 文字のとおり、「甲」をひっくり返したような蝶形の内分泌腺 (内分泌というのは、身体の組織の中でホルモンを血液やリンパの中に直接分泌することです)です。

甲状腺は海藻などに多く含まれるヨードなどを原料にして、サイロキシンというホルモンを生成し、分泌します。

内分泌器の中では最大の器官になります。

 

サイロキシン(甲状腺ホルモン)の主な作用には

物質代謝の亢進:

甲状腺ホルモンは筋肉、心臓、腎臓、肝臓などの臓器の酸素の消費を高め、基礎代謝を亢進します。

また、代謝により体温を上昇させます。

代謝の中には、たんぱく質代謝(たんぱく質の合成と分解)、糖代謝(ブドウ糖の吸収と血糖上昇)、脂質代謝などあります。

発育促進   :

成長ホルモンの働きを助け、骨や歯の発育を促す。また、中枢神経細胞の発育を促す。

精神機能刺激 :

精神活動一般にも影響を与える。甲状腺ホルモンが欠乏すると精神活動が鈍くなる。

主に新陳代謝(生体物が常に新しい栄養物質を取り入れ、消化した古い物質を排泄すること)を活発にする作用があります。

 

バセドウ病とは、なんらかの原因によりこの甲状腺の機能が亢進してしまい、サイロキシンが必要以上にでてしまう病気のことです。(甲状腺機能亢進症のうち大部分がバセドウ病です)

 

バセドウ病は2030歳代の女性に多くおこり、ついで40代の順になります。

男女比は16ほどで人口10万に対し、約80人いるとみられています。

 

では、これからバセドウ病の西洋医学的な原因、治療法と中医学的な見方を考えていきましょう。

 

<西洋医学からバセドウ病を考える>

原因――

現在のところ免疫異常からおこる、自己免疫疾患と考えられている。

自己免疫疾患とは、本来身体の中に入って来た異物に対し抗体をつくり異物を排除する免疫反応が、間違えて自分の身体に対して抗体をつくり、自分の身体を攻撃してしまう病気です。

バセドウ病の場合は自分自身の甲状腺分泌するスイッチを攻撃してしまい、サイロキシン(甲状腺ホルモン)が過剰に分泌されてしまいます。

なぜ、このような自己免疫ができてしまうかは、今のところまだ解明されていません。(遺伝的な素因にウィルスやストレスなどが影響して発症するのではないかと推測されます)

 

症状――

新陳代謝が活発になり、身体の中では空焚きしたような状態になります。

新陳代謝が活発になり、交感神経も興奮し、エネルギーをどんどん消費してしまいます。

疲れやすい、息切れをする

汗をかく、暑がる、微熱、肌が湿る

動悸、頻脈がおこる

手足が振るえる

甲状腺が腫れる

空腹で食べてしまうが、体重減少(ときに増加)

精神不安(早口、イライラ感、集中力低下、躁病、うつ病)

眼球突出(浮腫、充血、二重視、視力低下)、眼球運動障害

診断――

甲状腺の腫れに気付かなかったりすると、症状から自律神経失調と間違えてしま うこともよくあります。

また、食欲が出て食べてしまうのに痩せていき疲れやすくなるので糖尿病とも間違われることがあります。

臨床所見(上記の症状が)が見られる場合は血液検査をします。

 

血液検査で甲状腺ホルモンの量を測定します。多くなっていれば、今度は甲状腺を刺激する自己抗体の量 を測定することもあります。

甲状腺腫の有無を見ます(触診、エコーによる)

 

治療法―

治療方法としては甲状腺ホルモンの分泌を抑えるようにします。

 

薬物療法…治療の際の第一の選択肢としては薬物治療になります。薬物で甲状腺ホルモンの合成を抑制します。

甲状腺には1~2ヶ月分のホルモンの備蓄があり数値が正常値になるまでには時間がかかります。

また、数値が正常になっても、容易に再発を繰り返す疾患なので、緩解するまで最低6ヶ月~1年は服薬の必要があります。

副作用としては、じん麻疹などのアレルギー症状を起こすことがあります。

薬物療法はバセドウ病自体を治すものではなく、コントロールしながら自然に緩解するのを待つ治療法です。ストレスなどにより再発しやすくなるので、心身に負担を避けるようにする必要があります。

 

手術療法…甲状腺の亜全摘出手術をおこないます。(亜全摘出とは、ほぼ全部摘出する手術のことを言います)

甲状腺の病気自体は変わりませんが、ホルモンを出しているところを減らしてホルモンの量 を調節する手術です。

90%の人の甲状腺の機能が正常になります。

薬の副作用がある人、甲状腺腫の大きい人、妊娠を望む人などが対象になります。

2~3週間の入院が必要です。

手術の後5年以上経過して、薬を一切飲まなくて済む患者さんは80%以上になります。

 

アイソトープ治療…放射線治療の一種

検査の後、甲状腺に集まる性質の放射性ヨード(ヨードは甲状腺ホルモンの原料)を経口より投与する。

甲状腺が被爆され機能が低下することにより、甲状腺ホルモンを合成、分泌する能力がなくなっていきます。

身体全体の健康には影響のない放射線量です。

一回飲むだけの治療なのでとても簡単におこなえます。

妊娠出産を希望する人には使えません。(一般には3040歳の人に使います)

ただ、放射線が長期にわたり放出されるので10年後ぐらいに甲状腺機能低下の見られる方20%ほどいます。(機能低下が出た場合はホルモン剤で補います)

甲状腺の治療は適応を見きわめて、三つの選択肢の中から決めます。

第一の選択肢としては薬物療法になりますが、医師と相談上で治療法を選択していきます。

 

バセドウ病の治療を怠った場合…バセドウ病のコントロールが悪いと心臓に負担をかけて心房細動(心臓の筋肉が不規則に動いてしまうこと)がおこるようになってしまい、ひどくなると心不全をおこします。

また、甲状腺ホルモンには骨吸収を促進する(骨を溶かす)性質がありますので、骨粗しょう症の原因になります。

治療を怠ると、合併症も出やすくなります。

合併症にはバセドウクリーゼ(甲状腺発症)といって、バセドウ病の症状が突然悪化して意識障害をおこして死亡するようなことにもなったり、筋肉の萎縮や手足が麻痺してしまったりすることもあります。

 

バセドウ病は適切な治療をすれば一般には予後の良い病気です。

薬物療法などでは長期の治療が必要な場合もありますので、日々の養生につとめます。

 

以上が西洋医学から考えたバセドウ病です。

 

<中医学からバセドウ病を考える>

 

中医学のお話しをする前に、ホームページのトップページのやや下にある「わかりやすい東洋医学理論」の中の中医学の陰陽、生理観、気血水(津液)、内臓(五臓六腑)、経絡を読んでいただきたいとおもいます。

治療方法としては、針、簡単な食事療法を紹介します。

 

中医学において、バセドウ病は「癭(エイ)病」という病気の範疇になります。

(エイ)とは“こぶ、首すじのこぶ”の意味で、西洋医学でいうところの甲状腺腫になります。

甲状腺腫は、良性のものはほうっておいても予後は良く問題のない病気です。(良性悪性の診断は触診、エコー、細胞診により確定します)

甲状腺腫の全てがバセドウ病にあたるわけではないのですが、癭(エイ)病の一部として考えます。

ちなみに癭病とは、情志や飲食、地域性、体質などにより気滞(気の滞り)、痰(病的な代謝物質)、血オ(血の滞り)などが引き起こされ腫瘍となった状態です。

(主に癭病の中の熱性のある証に属します)

 

では、基礎的なお話しを交えてバセドウ病を考えていきます。

 

中医学における健康な状態とは気血水(津液)のバランスがとれ、滞りなく流れている状態です。

病気とはその反対で気血水のバランスがくずれ、弱くなったり、強くなりすぎたり、滞ったりしている状態です。

 

そして病気の原因には内因、外因、不内外因の三つがあります。

 

外因とは 体外より人体を襲う病邪(邪気)のことで、六淫(ろくいん)といって、風、寒、暑、湿、燥、火()があります。

季節、気候が正常な状態であれば身体に悪い影響はないのですが、急や異常な気候の変化があったり、季節外れの気候だったりすると身体に悪い影響があり病気になりやすくなります。

 

内因とは 情志(感情)のことで、怒、喜、思、悲、憂、恐、驚の7種類の感情が、臓器の働きを悪くして気血水が正常に働けなくなり、病気になると考えます。

中医学では自然界の中で起こることは体内でも起こると考えます。

臓腑の働きが悪くなると、身体の中でも六淫のような邪気が発生します(身体の中でも熱くなったり、寒くなったり、風が吹いたりするということです)

内風、内寒、内湿、内燥、内火の5種類あります。

 

不内外因とは食生活、労働、安逸、性生活などで、これらを節制せずバランスが悪くなると臓腑に悪影響を与えて病気になります。

 

その中でもバセドウ病を考えるときにポイントとなるのは、「火」「熱」の邪気 (まとめて火熱と言われる)と風の邪気です。

臓腑では主に肝、次に心の働きが重要になります。

 

火熱は、陽の気が盛んになって発生したものです。

特性は自然界の火や熱と似ています。

バセドウ病でのポイントになりますので、簡単に説明します。

()(ねつ)について

火熱は陽邪で、その性質は炎上する…上方に燃え上がるイメージです。

高熱、悪熱(熱がる)、煩渇(とてものどが渇く)、汗をかく、脈が力強く振れるなどの症状がでます。

火は気を消耗しやすく、津液を傷付けます…火熱は津液()を外に追い出したり、蒸発させたりします。また、気を消耗させます。

のどが渇き、舌を乾燥させる。全身の津液()、気を消耗させる。

火は風を生み、血を動かします:火熱が人体を侵すと筋肉の潤いを失わせます。 高熱、うわ言を言ったり、四肢が痙攣したり、身体を強張らせたりします。

火は腫瘍をつくる:火熱が血に入り、局部に集まると腫れ物ができ易くなる。

 

(ふう)について

風は陽邪で、その性質は開泄で、陽位 (上方)を侵し易い;開泄とは汗腺を開いて汗をかくこと。

風は行き先が定まらず、よく変化をする。

風は全ての病気の長:他の邪気と結合し易い、他の邪気の先導者である。

などの性質があります。

肝の機能は

蔵血作用…血液の貯蔵。血液量の調節。出血予防。などの作用

疏泄作用…気の流れをスムーズにする。脾胃(消化吸収、栄養運搬など)の働きを促進。情志のコントロール。

胆汁の分泌、排泄。女性の排卵や月経、男性の射精をスムーズにする。

血液を貯蔵、調節し、排卵や月経に関係することにより 肝は婦人科疾患に非常に関係の深い臓腑といえる。

 

心の機能は

血脈を主る…血液循環を管理している。(血液の流れ、拍動など)

神志を主る…精神、意識、思索活動を管理している。

 

原因――

バセドウ病は中医学では、ストレスや食事の不摂生などにより、肝の気が滞り火に変わったり(肝火偏盛:カンカヘンセイ)、肝の陰液が損なわれた結果 陽の気が強く出てきたり(肝陰不足:カンインフソク)、内風が発生したり(陰虚動風:インキョドウフウ)、また同じように食事の不摂生により脾胃の機能が失調して血の生成が足りなくなったり、肝火が陰液と血を煮つめて陰血が足りなくなったりして、心の陰血(主に陰液)が損なわれて(心陰虚損:シンインキョソン)発症すると考えます。

 

弁証論治(中医学診断と治療)

肝陰不足(カンインフソク)

ストレスなどにより肝気が滞り、それが長期にわたって改善されないと火に変わってしまう。火が肝の陰液を損傷して肝陰不足になる。また、湿熱病が長期化したり、他の肝病が長引いたりしても陰液を損傷しておこる。

症状――

バセドウ病の症状の中でも、咽喉の渇き、目の乾き、汗をかく(特に手足と胸、寝汗)、微熱、精神不安(イライラ感など)が特徴となる。めまい、耳鳴りがでることもある。

 

治療――

滋養肝陰(ジヨウカンイン)。針治療では肝の陰液を補う治療をする。

また、肝の陰液が少なくなると陽気が上がりやすくなるため、これを抑える治療も加える。

 

食べて治す―

黒きくらげ、クコの実、山芋、スッポンなどは陰虚を改善させ、肝を助けます。

 

肝火上炎(カンカジョウエン)

ストレスなどが原因になり肝の気滞状態が続くと火に変化し、上方へ上がってしまったためおこる。

症状――

バセドウ病の症状の中でも、目の充血、イライラ感、月経異常(月経が早まる)などが特徴となる。

 

治療――

清肝セツ火(セイカンセツカ)。針では上がってしまった肝火を下げる治療をする。

 

食べて治す―

セロリ、金針菜などは肝の熱をとり、火を下げる作用があります。

 

陰虚風動(インキョフウドウ)

陰虚の状態が重くなるとあらわれる。

過労、熱病、慢性病や情志の影響などにより陰虚の状態になり、乾燥した大地に風が吹くように内風の状態になります。

症状――

バセドウ病の症状の中でも、汗をかく、体重減少、手足の振るえなどが特徴となる。

 

治療――

平肝熄風(ヘイカンソクフウ)。針では主に肝の陰液を補い、風を抑えます。

 

食べて治す―

牛乳、トマト、スイカなどが陰液を補う作用があります。

 

心陰虚損(シンインキョソン)

熱病や失血後、ストレスから化火し陰液を損傷したためおこる。

症状――

バセドウ病の症状の中でも、動悸、頻脈、疲れやすい、汗をかく(手足や胸、寝汗) 、咽喉が渇く、集中力低下などが特徴となる。

他に不眠、多夢、健忘など

 

治療――

滋陰安神(ジインアンシン)。針治療では、心の陰液を補う治療をします。

 

食べて治す―

ゆりね(百合根)、緑茶などが心の陰液を補います。

 

これらの弁証はしばしば同時に現れます。

心肝陰虚(カンシンインキョ)

肝火の火が心に影響して心火になり、陰血を枯渇させてしまった状態。 心陰虚と肝陰虚の症状の特徴が同時にでる。

症状――

バセドウ病の症状の中でも動悸、汗をかく、目の乾き、目のかすみ、精神不安、疲れやすいなどが特徴になる。

 

治療――

滋養陰精、寧心柔肝(ジヨウインセイ、ネイシンジュウカン)。針治療では肝と心の火を消して、陰液を補う治療をする。

 

食べて治す―

心陰虚、肝陰虚を参考にする。

 

ポイント

バセドウ病は青年期の女性に多い疾患です。

特に肝の働きと女性の月経、帯下、妊娠なども考慮しながら診断、治療する必要があります。

 

ヨードの取り方について

甲状腺は、ヨードを濃縮して必要な分だけホルモンを生成しています。

日本では、ヨードの元になっている海藻類などは食事の中に豊富に含まれていますので、偏食などがなければヨードが足りなくなることは、まずありません。

逆に、薬物療法中にヨードを取りすぎると薬の効き目が悪くなることがありますので、特にヨードを多く含む昆布を少し控えると良いでしょう。

ひじき、わかめなどは食べ過ぎなければ問題はありません。

 

まとめ

バセドウ病の治療は西洋医学では、一定の確立している治療法があります。

東洋医学での治療は西洋医学の治療と同時進行でよい効果が期待できます。

西洋医学ではストレスは悪化する時の原因にはなるが、病気の発症は今のところ原因不明(自己免疫疾患にかかる原因が不明)と考えています。

また治療の中でも、薬物療法はバセドウ病を根治するのではなく、甲状腺の働きをコントロールする治療法なので、治療期間中にも気候の変化、多様なストレスなどで体調が悪くなり再発、悪化の原因になると考えます。

東洋医学では、ストレスについての捉え方も違い、弁証(診断)、治療も研究されてとても友好的な治療ができます。

バセドウ病のような病気の場合、薬物治療中の更なる体調管理方法として中医針灸の治療を受けることは、大変効果 的なことであると思います。

 

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

2019/02/20
逆子

妊娠28週~30週前後に胎児の位置が異常になる状態を逆子といいます。

頭が上になった骨盤位、お尻が下になっている殿位、足が下になっている足位 などがあります。

帝王切開によるお産は、大々的に死産率を下げますが母体に負担が掛かります。

中医学的には、腹部の正中線上には、生命のエネルギーを貯えているツボが密集しているため、帝王切開で、その部分を切開してしまうということは、生命エネルギーの消耗に繋がります。また個人差がありますが、子宮の戻りが遅い、母乳の出が悪いといったトラブルも引き起こしやすくなります。

鍼灸治療は、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。

そのため、胎児の回転を促す力を引き出すとともに、随伴症状(例:足がつりやすい、むくみやすい、便秘など)をも改善していくことができます。

自然なお産で、体の負担を少しでも緩和してくれる鍼灸治療をおすすめします。

 

<原因>

・骨盤が狭い:胎児が下に下がることができない

・骨盤が広い:水も多いため胎児の安定感が悪い

・胎盤の位置

・臍帯の長さ

・胎児の大きさなど

様々な原因が絡み合って起こると言われています。

 

<治りづらい場合>

・産道が小さい

・胎児が成長し大きくなってしまった場合

 

中医学的な考え▼

体の活動源である「エネルギー」、栄養源である「血」、体を潤す「水」の不足やこれらの流れが停滞することにより、逆子になりやすくなると考えられています。

原因はタイプ別の項を参照してください。

 

矯正治療のタイミング▼

妊娠28週前後、胎児の重さが約 2000gがベストな状態と言えます。

この時期胎児は大きさもちょうどよく、羊水も多いため矯正率が高く、再発率も低くなります。時期が早すぎる場合は、胎児の成長が足りないため、羊水の中で浮いて動いてしまいます。また、遅すぎる場合は退治が成長してしまい、ツボに刺激を与えても胎位 は移動しないケースが多くみられます。

しかし、28週を過ぎてしまった場合でも、胎児がまだ小さく、羊水も充分な量 があり、上記の器質的な原因がみられない方は、矯正が可能になる場合があります。

その際は一度、お気軽にご相談下さい。

 

中医学的逆子のタイプと治療法▼

気滞タイプ●

「気滞」とは主に、精神的ストレスなどにより気の流れが停滞してしまうことです。

そのため胎児の転位も停滞しやすくなり、逆子になるタイプです。

主な原因

精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい、マイナス思考、仕事が忙しい

主な症状

脇腹や下腹部が脹る、胸のあたりが悶々とする、げっぷやおならがでやすい

気分が晴れずイライラする、よくため息がでる

治療方法

気の流れをスムーズにし、脇腹の脹り感や気持ちの鬱滞感をとっていく

「理気行滞」、「安胎転胎」の治療をしていきます。

 

気虚タイプ●

エネルギー不足のため、胎位転換の力がなくなって逆子になるタイプです。

主な原因

虚弱体質、過労、睡眠不足、汗のかき過ぎ

主な症状

疲れやすい、息切れ、話すのがおっくう、胎児が下がりぎみ、痩せぎみ、唇が白っぽい

治療方法

エネルギーを増して、母体を元気にするとともに胎動も活発にしていく「益気養血」、「安胎転胎」の治療をしていきます。

 

痰湿タイプ●

「脾」のエネルギーが足りないために、食べた物が気・血・水に変わらず、余分な水分が体内に停滞し、経絡(気の流れるルート)の運行を阻害します。

そのため、胎児の転位を妨げ、逆子になるタイプです。

主な原因

冷たい水分・甘いもの・味の濃いもの・脂っこいもの、ビール、生ものを多く摂取する、家が湿気を帯びやすい

主な症状

水太り体質、色白、体が重だるい、痰が多くでる、頭が重くめまいがする、

手足・目のむくみ、無力感

治療方法

脾の働きを高めることにより体の余分な水分を外にだしていく「健脾利湿」、「安胎転胎」の治療をしていきます。

 

 

タイプ別にみる生活養生・食養生▼

自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます、タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。

体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。

 

気滞タイプ●

【生活習慣】

イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、脇腹が脹りやすいといった症状が多くみられます。ヨガや気功などの呼吸法やストレッチで、リラックスできる時間を作りましょう。その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。

お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。

【食べ物】

~香りの高い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます~

(野菜)春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ、セロリ

(果物)みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず

(お茶)ジャスミン茶、ミントティー

 

気虚タイプ●

【生活習慣】

消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。

消化力が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。

スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るようにしましょう。

【食べ物】 ~エネルギーを増す食べ物を多く取りましょう~

(穀類)うるち米、粟米

(豆類)大豆や大豆製品、牛乳、豆乳

(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏

(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参

(魚類)いか、貝柱

(果物) なつめ、もも、さくらんぼ

(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶

 

痰湿タイプ●

【生活習慣】

甘いものや味付けの濃いもの、油っこい食べ物は控えましょう。

水分代謝が悪く、水太りしやすいので水分の摂りすぎには注意して下さい。また、冷たい物(アイスやジュース)は控えめにしましょう。

運動は規則的にじんわり汗をかくくらいのウォーキングなどがおすすめです。汗だくになってやる必要はありません。

梅雨の時期は湿気の影響を直に受けるので、この時期は食べ物に気をつけましょう。

【食べ物】~水分を排出してくれる働きのある食べ物を摂りましょう~

(穀類)はと麦、とうもろこし、小豆、黒豆

(野菜)白菜、山芋、チンゲンサイ

(魚類)こい、ふな

(果物)ぶどう

(お茶)紅茶、ジャスミン茶、杜仲茶、なつめ茶

その他日常生活での注意点▼

妊娠中は、胎児を養うために、栄養源である「血」の消耗が激しくなります。

睡眠はしっかりとり、パソコンの使いすぎ、本やテレビの見すぎ、夜更かしは避けましょう。できれば過労も避けたいものです。

逆子体操・・・腰痛のある方や、体操をするとお腹が脹ってしまう方は無理をせず、できる範囲で行いましょう。

悩んだり、焦ったり、イライラしたりする気持ち、心身の疲労などが症状を悪化させますので、ストレスはためないよう、運動(ヨガ、気功、など)、軽い散歩などで気持ちが安らぐ空間を持ちましょう。汗のかき過ぎは「エネルギー」と「血」の消耗に繋がりますので、うっすら汗ばむ程度が適度といえます。

室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。

お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。

規則正しい生活をし栄養バランスの摂れた食べ物、特にカルシウムやビタミン類をしっかり摂り、十分な睡眠をとりましょう。

 

 ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

当院での治療をお考えへの方へ

 

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

 

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

2019/02/20
欠乳

欠乳とは、産後に母乳の分泌が少なくなったり、全く出なくなったりする状態で、母乳分泌不足のことです。中医学では“少乳”“乳汁不足”“乳汁不行”とも言われています。

母乳は、出産すればお母さんから分泌されるもの!と簡単に理解されがちですが、実際はいくつかの段階を経ています。まず、母乳分泌の仕組みから説明していきたいと思います。

 

母乳の出るしくみ≫

妊娠中、卵巣や胎盤から分泌される“エストロゲン”や“プロゲステロン”というホルモンの働きで乳腺が発育します。一方では、これらのホルモンが乳汁分泌ホルモンである“プロラクチン”の作用にブレーキをかけていて妊娠中に母乳分泌が起こらないように抑制されています。このように妊娠中はホルモンの働きで抑制されていた母乳分泌も分娩後、赤ちゃんを出産するホルモンによる抑制がとれ母乳分泌が始まります。

具体的な流れは次のようになります。

 

分娩で胎盤が体外に排出されると、胎盤から分泌されていたエストロゲンとプロゲステロン(妊娠の維持に作用するホルモンです)は急激に減少します。

 

エストロゲンとプロゲステロンの減少により、乳汁の分泌抑制がとれ、プロラクチン(乳汁の産生を促し、排卵を抑制する作用のあるホルモンです)が乳腺に活発に働きかけ乳汁の生産を始めます。

 

生産された乳汁は乳管を通って、いったん乳管洞に蓄えられます。乳頭の筋肉は乳汁が 溢れないよう収縮しています。

 

乳頭には刺激に敏感な知覚神経が集まっていて、赤ちゃんが乳首をくわえ、吸う刺激により乳頭の筋肉はゆるみます。

 

赤ちゃんの吸う刺激が、脳の視床下部を刺激し、下垂体後葉(脳にあるホルモンを分泌する器官です)からオキシトシンが分泌されます。

 

オキシトシンは乳腺を取り囲んでいる筋肉を収縮させて、乳汁を乳房から積極的に押し出します。この状態を“射乳”といいます。

 

このように、母乳分泌には赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激が大きくかかわっています。

さらに、オキシトシンというホルモンは子宮を収縮させる作用があり、赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらうことには子宮復古の手助けになるといえます。

 

では、どうして欠乳(母乳分泌不全)になるのか現代医学と中医学の視点から説明したいと思います。

 

現代医学的な捉え方≫

乳汁分泌不全とは、赤ちゃんに必要な量の母乳が分泌されない状態をいいます。

原因は、疲労、精神不安定、栄養不足、貧血、下垂体機能不全など全身的要因や、乳腺発育不全、乳房形成術既往など局所的要因による乳汁産生低下、赤ちゃんの吸啜力不足、オキシトシン性射乳機構不全や、乳管系の開通 不全などによる乳汁排出不全や、それに伴う残乳による血流の変動や、神経反射を介した乳汁産生機転阻害があります。

乳汁分泌促進には、円滑な排乳路の確保や、乳房への血流増加、さらにはプロラクチンなど内分泌性乳汁産生刺激因子(ホルモン)の増強などを必要とします。

従って、乳汁分泌不全に対しては“貧血・脱水・低栄養”などの母体の要因を改善すると共に、乳房マッサージによる血流増加・排乳促進を図ります。プロラクチン分泌には、スルピリドやメトクロプラミドなどの薬剤により亢進します。

 

中医学的な捉え方≫

中医学では、母乳(乳汁)は気・血が変化したものと考えます。

婦人の乳汁不行は皆気血虚弱、経絡不調によるものである”とあります。

母乳分泌不足は、分娩時に出血過多となり、気が血とともに消耗して起こるもの。

母体がもともと気血不足であったのに加え、出産により気血がより不足したために母乳の生成が不足して起こるもの。

肝鬱気滞(肝の働きが低下して気が巡らない状態)となり気機不暢のために乳路の通 りが悪くなり、そのため母乳がつまって出なくなるもの。

脾胃虚弱により納運失職(飲食物を消化吸収して気血の材料を作り出す働きが低下した状態)となって化源が不足し気血不足となって起こるもの。

肝気犯胃(肝の気を巡らす機能が低下して胃の消化機能に影響が及んだ状態)となって受納(飲食物を胃が受け入れること)が悪くなり気血の化生に影響して母乳が不足するものなどがあります。

 

具体的な症状を説明する前に、中医学的な人体の考え方について説明します。

 

人体には“気・血・水”と呼ばれる「人体を構成して生理活動を活発化させる基本的物質」が巡っています。

 

~気・血・水について~

気・・・

気は体内を流れるエネルギーの1つです。消化・吸収・排泄を正常に行なう、血を巡らせる、体温を保つ、ウィルスや細菌から体を守る、内臓を正常な位 置に保つなど、体の生理機能を維持する働きがあります。

 

血・・・

いわゆる“血液”という意味のほか、“気”とともに体内を流れて、内臓や組織に潤いと栄養分を与え、また精神活動(気持ち・気分・情緒・感情)を支える物質でもあります。

 

水・・・

体内を潤すのに必要な水分のことです。胃液・唾液・細胞間液・リンパ液・汗なども含まれます。体表近くの皮毛・肌膚から、体内深部の脳髄・骨髄・関節臓腑までを潤します。

気・血・水の生成や代謝は“五臓六腑”と呼ばれる臓器によって行なわれます。

五臓と六腑は、よく一緒に語られますが役割は異なります。

六腑は、“胃・小腸・大腸・膀胱・胆・三焦”の総称です。

六腑というのは、水穀(飲食物)を消化して、身体に有益な物質である“水穀の精微”(これが気・血・水の生成材料になります)と、不必要な物質である糟粕(カスのことです)とに分け、“水穀の精微”を五臓に受け渡し、糟粕を大・小便に変えて排泄を行なう臓器です。

六腑のうち、口から摂取された水穀が最初に運ばれる臓器が“胃”です。

胃が水穀を受け入れて(これを受納といいます)、消化し(これを腐熟といいます)、消化物を下方の臓器に渡す(これを和降といいます)という3つの働きをします。

小腸は、胃の下にある臓器で、胃で消化された水穀を人体に有益な“水穀の精微(清)”と“不要な糟粕(濁)”とに分別 します。

そして分別した“清”を脾に運び、“濁”をさらに水分とそうでない物に分けて膀胱と大腸に移します。大腸と膀胱は“濁”をそれぞれ大・小便にして排泄します。

また、胆は肝で生成された胆汁を小腸に分泌して、消化を助けています。

三焦は、臓腑機能を統轄して、水分や気を運行させる通路の働きをしています。

五臓”は“肝・心・脾・肺・腎”の総称です。

五臓は、六腑から水穀の精微を受け取り“気・血・水”を生成し貯蔵する臓器です。

 

 

~五臓について~

肝・・・

肝は血を貯蔵する働きのほか、全身の“気”のめぐりをコントロールして、精神・情緒を安定させる作用や、筋肉・目の働きを維持する働きがあります。

 

心・・・

血を全身に送り出すポンプの作用のほか、脳の働きの一部を担っていて、情緒や感情といった“こころ”とも関係が深い臓器です。心の機能が充実していると精神状態が穏やかで、情緒が安定し、思考能力も活発になります。

 

脾・・・

消化に関わる機能すべてを含んだ臓器です。食べたり飲んだりしたものを、体の役に立つエネルギー(気)に変える役割があります。また、血を脈外に漏さないようにする働きや、味覚をはじめとする口の生理機能を維持する働きもあります。

 

肺・・・

肺は呼吸を行ないます。きれいな空気(清気)を体内に取り入れ、汚れた空気(濁気)を体外に出す働きがあります。

また、皮膚や口、鼻などの体表面に細菌やウィルスや有害物質などから体を守るエネルギーのバリア(衛気という気)をはりめぐらせて感染症から守る働きもあります。

 

腎・・・

腎には体内の水分代謝をコントロールして不必要な水分を尿として排泄させる作用があるほか、成長・発育・生殖・老化に深くかかわる“精”を蓄える臓器でもあります。

 

精とは・・・

体を構成する栄養物質や生命エネルギーの総称です。腎に蓄えられて、人の成長・発育を促進し、性行為・妊娠・出産などの性機能や生殖機能を維持する働きがあります。

そして、気・血が流れる通路として人体の上下・内外を貫いて五臓六腑を交流させている通 路のことを“経絡(けいらく)”と呼びます。

中医学には神経という概念がなく、経絡が循環・伝達系の役割を果たしているといえます。

経絡は、東洋医学独特のもので西洋医学(現代医学)にはその存在はいまだ確認はできていません。

しかし、胃の経絡上の経穴に刺激を与え、レントゲンを撮ると胃の働きが活発になることが分かっております。ただ、先程述べたように経絡そのもの自体、科学的に見つけられないのですが、存在はしているので、経絡上のツボに刺激を与えた事により胃の活動が活発になった事が見つけられております。

経絡とは、体の各部をくまなく流れる気・血・水の通路であり、ツボとツボを結んだ線でもあります。それらは、体内に深く入り臓腑と連絡していて、全身の機能を正常に調節する働きがあります。

 

中医学では、人体は“気・血・水”がスムーズにめぐって、必要なところに必要なだけあり、五臓六腑が正常に機能している状態を“健康”と考え、どこかのバランスが崩れた状態が“病気”と考えます。

鍼灸治療は、崩れたバランスを整えることを目的とした治療法なのです。

バランスを崩す原因(病因)には、外因・内因・不内外因があります。外因とは、外界の環境因子(気候の変化など)、内因は感情や精神状態など、不内外因は食生活や過労などの生活習慣のことです。

これらの病因が、気・血・水のバランスを崩し、五臓六腑の働きを失調させることで病気になると考えます。

中医学独特の診断方法で、何の病因で、気・血・水のいずれが、どのようにバランスを崩し、五臓六腑のどの臓器が、どのように失調したかを見極め(これを弁証といいます)、治療方法を決める(これを論治といいます)ことを“弁証論治”といいます。

では、欠乳について、弁証論治別(タイプ別)に説明したいと思います。

 

気血両虚型

母乳の源になる気・血の不足した状態です。母乳は水様、乳房は軟らかく、張った感じはありません。息切れ、精神疲労、めまい、動悸、顔色がすぐれないなどの症状を伴います。

(治療方針)補益気血・・・

不足した気血を補う治療です。気血を充実させて乳汁の産生を図ります。

脾胃虚弱型

脾と胃は、飲食物を栄養にかえて生命活動の基礎を作ります。虚弱してしまうと全身を栄養できなくなり、乳汁の産生ができません。乳房は軟らかく、腹脹、食欲不振、息切れ、精神疲労、倦怠、無力感、下痢といった症状を伴います。

(治療方針)健壮脾胃・・・

脾と胃の機能を回復させ栄養の充実を図り、乳汁の産生を促します。

肝鬱気滞型

肝には“疏泄”という気血の循環を促進させる働きがあります。気血が全身を巡っていれば身体は正常に機能します。しかし、感情の乱れや、ストレスを受けることで機能が低下すると気血の渋滞を招きます。乳房の気血の渋滞が、欠乳となります。

乳房は脹痛(脹満感を伴った痛み)があり、胸脇部の脹り、食欲不振、抑鬱といった症状を伴います。

(治療方針)疏肝解鬱・・・

鬱滞した気の流れを改善し、通乳を図ります。

肝気犯胃型

肝鬱気滞により胃の働きに影響が及んだ状態です。胃には水穀を受納し腐熟させる(飲食物を消化吸収し全身に栄養源を運搬する)働きがあります。この働きが低下すると気血の化生に影響し、母乳の産生が出来なくなります。乳房の脹痛、胃の脹満・つかえ、脇肋痛、食欲不振、ゲップがすっきり出ないとった症状を伴います。

(治療方針)疏肝和胃・・・

肝の疏泄を調節すると同時に胃の機能を改善し、乳汁の産生を図ります。

以上のように、現代医学と中医学とでは“欠乳”という症状の捉え方が異なります。

違った角度から人体を見つめているので、現代医学とは違ったアプローチで治療が行えるのが中医学であるといえます。

 

食事療法≫

気血を増す食物の摂取は、増乳を促す事になります。

下記の様な食物を摂取することにより、より栄養素の高い母乳の生産を手助け致しますのでご参考までにどうぞ。

(気を補う作用のある食べ物)

旬の青魚

・・・

秋は“さば、さんま、いわし”

いも類

・・・

さつまいも、里いも、じゃがいも

その他

・・・

きのこ類、豆類、穀類、ごぼう、人参、根菜類

 

(血を補う作用のある食べ物)

豆類

・・・

黒豆、大豆、小豆

種実類

・・・

松の実、くるみ、ごま、栗

魚介・海草類

・・・

しじみ、あさり、かき、わかめ、昆布

その他

・・・

ほうれん草、長いも、うなぎ、レバー

昔から、“もち米(おもち)”は産前産後に良い食品とされています。

 

欠乳”には様々な原因があります。経験豊かな助産師さんに相談することも大切なことです。乳房マッサージはとても有効な方法です。

 

母乳は、赤ちゃんにとってバランスのとれた最高の栄養源です。

また、先にも述べましたが、母乳を与えることは、赤ちゃんのみならず、お母さんの子宮の働きを回復させるのに大切なことでもあります。そして、何よりも母子を密着させて愛情を育む大切な時間となります。

 

中医学鍼灸は、一般的な局所治療鍼灸と異なります。

症状のタイプ別や、細かい体質、或いは症状の起因を見極め手当をおこなうところに大きな特徴があります。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

当院での治療をお考えへの方へ

 

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

 

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

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