コラム

2019/02/20
メニエール病

眩暈(めまい)、吐き気の発作をくりかえし、耳鳴りや難聴などの症状もともない原因のはっきりしないものがメニエール症候群と診断されます。  

 

現代医学的には、内耳が水ぶくれ状態になり、内外のリンパ液のバランスがくずれる結果 だと考えられています。原因は不明ですが、ストレスや過労が大きく関与しているといわれています。治療は対症療法で眩暈や吐き気を抑える薬剤や、神経伝達をよくする薬剤、精神安定剤、利尿剤、血液循環をよくする薬剤などが使用されます。

 

中医学で考えた場合、「眩暈」、「吐き気」、「耳鳴り」「難聴」などの症状はそれぞれ関係ないようにみえますが「痰濁」というキーワードでつながります。中医学では「痰がなければ眩暈は発生しない、痰は火によって動く」などの記述があります。「痰濁」は水分代謝の失調によって産生される病理的物質です。体に必要な水分「津液」に対し、病理的水分を「痰濁」といい、普段皆さんが考える肺から排出される「タン」と同じく中医学では「無形の痰」といい体全体にもこれがあると考えています。この「痰濁」が多くなると「痰濁閉阻」といい「気、血、津液」の流れが悪くなり、「眩暈」「吐き気」「耳鳴り」「難聴」の原因の一つとなります。水分代謝では消化器が一番重要です。ストレスでは「気滞」、過労では「気虚」となり消化器の働きがわるくなります。消化器の働きが落ちると、水分の代謝機能に影響し「痰濁」が産生されます。

 

中医学的からだのしくみ●

中医学(中国医学)では人間の体を次のように考えています。人間の体は五臓六腑を中心に生命を維持する基本物質である気(エネルギー)・血(血液)・水(体液)が十分に生産され、この気・血・水が経絡という通 路を正常に流れて初めて人間の健康が維持できるという考え方にあります。

中医学による病気の治療とは、生命活動を維持する気・血・水のどこに問題があり、それが不足(虚)か有余(実)を判断します。そして五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎)のうちのどの臓腑が、この気・血・水の問題を作り出したかを診断をします。

 

五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎)は西洋医学と全く同じ役割分担ではありませんので混乱しないようご一読下さい。

五臓のうち「肝」が原因を起こすもの

 

肝は風・木の臓とされ、四季では春に相当するので

春の営みのように気を上へ上へと上昇させようとします。

そのため、眩暈(めまい、ふまつき)が生じるものです。

また、肝は精神刺激を非常に感受しやすいものなので、

ストレスとの影響も非常に強いパターンでなのです。

 

症状

眩暈(めまい、ふらつき)、耳鳴、偏頭痛、怒りっぽい、イライラする、赤ら顔、のぼせ、目が充血する、不眠、夢が多い、不安が強い、うつ様症 状、口苦などを伴う

いずれも肝の変動による症状です 。

 

治法:平肝鎮陽・清火熄風

漢方:竜胆瀉肝湯

   天麻釣藤飲

   釣藤飲など

 

1.五臓のうちの腎の弱りによるもの

 

腎は脳との関わりが強いとされていて、腎気が弱り脳が栄養されないために、めまい、ふらつきが出ます。

虚弱によるもので、腎は精を蔵し、精は髄を生む。

また、脳は「隋の海」と古くから言われています。

 

症状

眩暈(めまい、ふらつき)、物忘れがひどい(健忘)、足腰が酸い、また力が入らない、耳鳴 どれも腎の弱りに伴う症状です。

 

治法:補益腎精

漢方:六味地黄丸

   海馬補腎丸などが該当

 

 

2.五臓のうち脾が気血不足となるもの

 

体全体の気血が不足していて起こるパターンです。

車で例えるとガソリン(気血)の足らない状態であり、体のガソリンを作り出すのは五臓のうち「脾胃」であり、この脾胃の弱りが根底にあることが多いのです。

・動いて疲労すると眩暈が悪化する。

 

元々、気血が少ないので運動や過労によって気血を消耗すると悪化します。

・倦怠感、話すのがおっくう、無気力、顔色が悪い

気血不足のために現れる症状である。

また、一身の気血が不足しているため、五臓六腑に気を供給出来ないと、各々特徴的な症状が出る。

・心に気血が不足すると、不眠、動機が

・脾胃に気血が不足すると、食欲不振が

・肝に気血が不足すると、目がかすみ、爪に艶がなくなる

治法:補益気血・健運脾胃

漢方:十全大補湯・帰脾湯・補中益気湯・婦宝当帰膠・七物降下湯

など

 

3.病理水分「痰濁」が経絡を塞ぐために起こる眩暈

 

痰濁が頭部をおおうために起こります。

また、脳に気血が送られないので、余計に眩暈(めまい、ふらつき)を起こしやすいのです。

痰濁による特有の症状を伴うため、他の原因の眩暈と見分けることが出来ます。

つまり、痰がつまり、咽がゴロゴロしたり、体が重くなったりといった症状です。

 

痰濁が身体のどこを侵すかによって症状が異なります。

・頭重感を伴う、体が重い:湿痰が頭部を侵すと、頭がどんよりと重く感じる。

・胸悶:湿痰が胸部で停滞

・悪心、眠たくて仕方ない(嗜眠)、ゲップ、しゃっくり

 

治法:燥湿化痰、止眩

漢方:半夏白朮天麻湯

    竹茹温胆湯

    五苓散

    苓桂朮甘湯など

 

水分とメニエール病

メニエール病であり内リンパ水腫が原因と考えられえる場合は、「水分過剰」に気をつけることが基本となります。

しかし「水分が多い方が血液がサラサラなるのでは?」と思われるかもしれません。ではそれを東洋医学的に考えてみましょう。

 

まず「リンパ水腫」は悪質な水分、過剰な部分であり、内耳という限定された部分に溜まっているわけです。そして回転するようなめまいであったり、耳鳴りを発生させます。

その状態を改善させる為には、内耳付近の血液循環が大切です。

血液に乗って水分が補給、代謝されます。

 

過剰水分→内耳に溜まる→血液循環が水分を補正する

 

そのしくみの中で悪質な水分が血液循環を邪魔します。

サラサラ以前の問題として過剰水分が臓器や器官を浮腫んだ状態としてしまい、血液を流れにくくしています。

 

メニエール病を繰り返す方の食事療法としまして

しょうが ●にら ●火を通した大根 などなどの食材がお勧めです。

 

ストレスとメニエール病

メニエール病の宿敵は「ストレス」です。これが血管の収縮の大きな問題となってきます。

まず「リンパ水腫」は勿論「水」から産まれます。その水は飲食物から体に入ります。だれでも血中に水分は沢山持っていますが、その水分が内耳に溜まる。溜まる原因と排出出来ない原因があります。

内耳の付近の血流が低下していると常時補正しているリンパ液の代謝速度が低下してしまいます。

ストレス、寝不足から血管が収縮気味となってしまい、普段は血液に乗って、常時調節、排出されているはずのリンパ液の代謝が追いつかない。

その為、視神経の疲労(目の疲れや長時間の運転)でもめまい、メニエール病発生の引き金となる方が多いのではないでしょうか。

それは視神経が疲労した状態はストレスがかかった状態と同様に血管が収縮しやすい事からも言える事だと考えられます。

 

長時間の運転やテレビ、読書はさける

夜更かしや睡眠不足、過労はさける

対人関係や心配事も可能な限り気にしない   

などが大切。

今までの注意事項を意識するだけでも発生する頻度は減るはずです。又、点滴や病院の「めまい止め薬」でも一時的に改善するかもしれません。

しかし「一時的におさまったようにみえて、何度も再発する」。

また、「一見治ったようだが、その後もずっとふらつく」

こういった「めまいやメニエール病の慢性化」した患者さんがかなり多い事には訳があります。

「体質の偏り」です。  

それこそが「原因」なのです。

「原因」が有ってめまいが発生するわけですから、点滴などで一時押さえしたところで、再発は必ず起きます。

又、形を変えた状態で発生するかもしれません。

その「形を変えた状態」とは、ふらつき、食欲不振、視力の低下、疲労倦怠感、もしくは記憶力の低下かもしれません。

 

根本的な体質を中医学(針治療や漢方)で改善していきましょう。

私たちは、お一人お一人の症状に合った治療法を取り、漢方、食生活などをアドバイスさせて頂きます。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

2019/02/20
めまい

西洋医学的なめまいの捉え方

自己ないし、外界の空間における異常知覚をめまいといいます。

通常めまいは「平衡機能の異常により生じ、特に不快な感情をともなうもの」をめまいとよぶことが多いそうです。

 

東洋医学(中医学)的なめまいの捉え方

中医学では、病名を症状別に分類して整理します。その分類法は中医学特有のものです。

症状別に分類していくと、中医学のめまいに含まれる症状の範囲は相当広くなります。メニエール・高血圧症・脳血管障害・貧血・自律神経失調症・眼科疾患などに見られるめまいの症状は、すべて中医学のめまいの症状別 タイプを適用することが出来るのです。

 

 

~ 中医学臓腑の働き ~

中医学では、人体は気(き)・血(けつ)・津液(しんえき )という成分により構成されていると考えます。大雑把にいえば、気は生体エネルギー、血は血液、津液は血液の構成成分でもある正常な体液成分、と考えて下さい。これらの成分がバランスよく、心身に充分満たされ、うまくはたらくことで、人体は健康を維持できると考えます。「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのが臓腑になります。

めまいと関係が深い臓腑が下記の肝・腎・脾になります。めまいは3つの臓腑の働きのいずれかが乱れて起こると考えています。

 

「めまいは肝に属す」(諸風掉眩、皆肝に属す)といわれ、めまいと最も関係が深いのは肝だと考えています。中医学でいう肝は肝臓機能の働きだけではなく、自律神経の働きを調整して全身の血液循環をコントロールしています。血流や筋肉の働きも管理していますから更年期の問題や肩こり等も肝が関わってきます。目の使いすぎ、神経の使いすぎ、ストレス、寝不足、過労等は肝を消耗させる事になります。結果 として自律神経の働きが乱れ、脳や内耳の方へ十分血液が循環しなくなり、めまいの症状を起こします。従って、肝と関係のあるツボがよくめまいの治療で用いられます。

 

「腎は耳に竅を開く」といわれ、耳は腎とも深く関係が有ります。東洋医学でいう腎は泌尿器だけでなく、内分泌(ホルモン)系、免疫系、生殖能力、骨や歯、耳、髪、腰、ノド等と関係しています。発育・成長・老化と関係していますので、年をとる毎に腎の機能は低下していきます。

いわゆる「腎虚」と呼ばれる状態です。腎虚になると骨や歯は弱くなり、尿の出方、生殖能力も弱ってきます。そして耳の方も、耳鳴りや難聴が起き易くなります。耳の内耳の平衡器官の方が障害されるとめまいが起こります。

 

「痰無くしてめまい起こらず」といわれ、水毒症状の代表としてめまいが起こる事が有ります。油っこい食べ物、甘い物の食べ過ぎ、冷たい物の飲み過ぎ等が消化器系の働きを弱め、胃内停水といって、胃の中で水がポチャポチャした状態になります。こういう状態を水毒といって身体の中の水分代謝が悪くなります。例えば内耳の水ぶくれ等でめまいを起こし易くなります。

 

 

~ めまいのタイプと治療方法 ~

中医学ではめまいを眩暈といいます。脳・耳・目に障害を起こすと考えられています。これらを上記の「肝・腎・脾」の臓腑と関連付けて3種類に分けて考えます。

 

1.栄養物質が必要以上に多くなるもの(「肝」の臓腑と関係が深い)

  このタイプは高血圧の傾向にある人に多く見られます。

 

2.栄養物質が不足するもの(「脾」と「腎」の臓腑と関係が深い)

  このタイプは低血圧の傾向にある人に多く見られます。

 

3.栄養物質の流れが行き届かない場合(「脾」の臓腑と関係が深い)

  病的な体の水分が邪魔することによって脳に栄養物質が届かずにめまいを  起こすもの。

 

 

タイプ1Part1 栄養物質が必要以上に多くなる

 

感情の起伏が激しくストレスを溜め、ストレスや悩みを発散できない。

     ↓

肝の疏泄機能が滞る(肝気鬱結)

 肝の気はスムーズに流れるのを好みます。

 流れがスムーズでなくなると欝結(気の渋滞)を引き起こします。

     ↓

気や血の流れが停滞し、臓器の生理作用を乱す。

     ↓

精神不安定…胸苦しい・乳房が張る・月経不順・弦を張ったような脈を打つ。

 

上記のような状態が長期間続くと…

体内で熱が生まれ、(肝鬱化熱)

     ↓

すると火に変化して燃え上がります。(肝鬱化火)

     ↓

これが引き金となって風が生まれる。

(風は移動する性質を意味します。体内で症状が動き回る傾向が出ます)

     ↓

激しいめまいに伴い、下記の症状などを併発します。

症状

・ 頭の張りと痛み

・ 赤ら顔

・ 目の充血がある

・ 眠れない

・ イライラして怒りっぽい

・ のどが渇きやすく、水分を多く欲しがる

・ 口が苦く感じる

・ 月経過多

・ 便秘

 

症状別タイプでいうと、中医学では「肝火上炎」となります。

治療:疏肝解鬱、清肝瀉火

処方例:四逆散

 

 

タイプ1Part2 栄養物質が必要以上に多くなる

 

肝気鬱結から肝火上炎が生じ、肝火上炎が長く続くと…

次第に肝の陰液が消耗(熱で体内の水分が減少する事を指します)され、「肝陽上亢」という症状別 タイプに移行します。

 

このタイプは情志の抑うつや激怒などによって急激に激しいめまいが起こります。または、不眠、過労ななどで増悪します。

 

熱がすぐに火に変化しない場合でも、肝の気の欝結状態が長く続くと…

 

熱によって精や血、津液が傷つける。

(体内の水分が減少傾向になる車で言うとラジエターの水分が減ってきている状態です)

      ↓

肝の疏泄機能による気や血、津液の生産量不足が重なる。

      ↓

肝陽が過度に亢進し、肝陰が不足する。

      ↓

肝火上炎に似た症状が現れます。

 

症状

めまいのほかに、

上半身、顔面部に熱症状が著名

のどが渇くが水分を欲しがらない

頭痛(主に後頭部痛)、頭重感

肩こり(主に頚部のこり)

耳鳴、眼精疲労、イライラ、易怒性

不眠、顔面紅潮、眼球充血、口が苦い

などの症候があります。

めまいは乗り物の中で座っているときのような感じで、激しいときは悪心や嘔吐が生じることもあります。

 

治療法:「滋陰平肝潜陽」

肝陽の抑制と肝腎の陰の滋養により陰陽を調整し、これによって風気の内動を止める。

漢方:鎮肝熄風湯・天麻鈎藤飲など

 

 

 

タイプ2Part1 栄養物質が不足するもの

 

体が元々虚弱体質・過労・食生活の不摂生・疲れやすい

     ↓

脾胃の機能が低下して、原料があっても気や血に作り変える力が足りず、消耗されてしまう。

気と血は脾胃という臓器で作られます。

     ↓

消化・吸収能力が低下する。

     ↓

脾には良いエネルギーを上に持ち上げる作用があります。

その作用が低下してしまった結果めまいが発症してしまうケースです。

(滋養物質である「清陽」が上昇せず、脳や髄が十分に満たされない)

 

症状

・ 全身倦怠感があり、無理をするとめまいが起こる

・ 横になると症状が軽減する

・ 眠気 ・ 話すのがおっくう

・ 食欲不振

・ 便秘あるいは下痢

・ 低血圧

  など

 

症状別タイプでいうと中医学では「気血両虚」となります。

 

治療法:「益気養血」

気血を補益し、清陽を昇提する。これによって髄海を補益してめまいを止める。

漢方:帰脾湯・補中益気湯・十全大補湯・四物湯など

 

 

タイプ2Part2 栄養物質が不足するもの

 

老化・長期の不眠・慢性病による基本物質の消耗・過度のセックスなど

     ↓

脳の活動に必要な髄を十分満たすことができない。

     ↓

脳の機能低下を招き耐えず、たえずめまいが起こる。

 

症状

・ 夕方になるとめまいがひどくなる

・ 耳鳴りを伴う

・ 腰や膝がだるい

・ 尿の量が少ないが、トイレに行く回数は多い

・ 夜間尿が多い

・ 手足がほてる

・ のぼせやすい

・ 膝や下肢が冷えて痛む

・ 顔色が悪い

  など

 

症状別タイプでいうと中医学では「腎精不足証」となります。

 

治療法:「滋補腎精」

腎精を滋養し、脳髄を滋養してめまいを止める。

漢方:六味地黄湯・知柏地黄湯など

のぼせなどがひどい場合:左帰丸・左帰飲など

冷えがひどい場合:右帰丸・右帰飲・真武湯など

 

 

タイプ3 栄養物質の流れが行き届かない場合

冷たいものや生ものの食べすぎ・油もの・辛いもの・過度の飲酒

     ↓

食生活のアンバランスが長期間続くと・・・

     ↓

体に必要のない水分が停滞する。これが集まって変化した粘液性の病因物質を痰濁といいます。

     ↓

痰濁が滋養物質の通り道(三焦)をふさぐ

     ↓

滋養物質である「清陽」が昇れず、脳の滋養が不足して、機能が低下し、めまいが発症する。

 

症状

・ 頭重感があり、回転性のめまいがある。(宙に浮いた感じの場合もある) ・ 胸苦しく、胃がつかえる

・ 食欲がわかない ・ 手足が重い

・ よく眠気がさす(特に食後に眠くなる)

・ 疲れやすい

・ 足の冷え

などの症状があり、 動くとめまいがひどくなる。

多くは頭痛、悪心を伴い、激しい時は月に何回か嘔吐を伴う発作性のめまいや頭痛をきたす。天気が悪くなるとこれらの症状が悪化するのが、このタイプの特徴です。

 

治療法:「燥湿化痰」「健脾和胃」

痰濁を除去し、清空の働きを改善してめまいを止める。

胃の働きを調整し、痰濁の生成を阻止する。

漢方:黄連温胆湯・六君子湯・参苓白朮散

 

 

おおおまかにタイプ別しましたが、上記のほかに症状が複雑化している場合もあります。

例えば、タイプ1とタイプ2など、個々のご症状を細かく伺うことによって治療法を導きだしていくのが、中医学になります。ですから、オーダーメイド治療ということです。

少し理解して頂けたでしょうか。

では次にめまいの食養生について明記したいと思います。

 

 

オケラ(白朮)

栄養物質の流れが行き届かないタイプ③の方にお薦めです●

 

山野に自生するキク科の多年草、オケラの根茎を生薬名 「白朮」といいます。

健胃、滋養、利尿の働きが有り、芳香性健胃剤、利尿剤として漢方薬や民間薬で用いられます。胃内停水といって胃の中で水がポチャポチャしている状態を改善し、水毒としてのめまいに効果 があります。

オケラを用いた漢方薬:苓桂朮甘湯、沢瀉湯等

 

 

オニノヤガラ(天麻)

栄養物質が必要以上に多くなるタイプ1の方にお薦めです●

 

雑木林の木陰に生える草丈約1メートルのラン科の多年草。 地中の塊茎で、ナラタケの菌糸と共生して栄養分を作るため、 地上部には葉緑素はなく、赤っぽい棒状の様子が「鬼の矢柄」 と呼ばれています。根茎を乾燥させた物を「天麻」といい、めまいや頭痛の主薬として漢方薬に処方されます。主に内風と呼ばれる動揺感、めまい、痙攣等に対して用いられます。中国の食品を扱う店では、天麻とプーアル茶をブレンドしたティーパック式の物も売られています。

天麻を用いた漢方薬:半夏白朮天麻湯

また食品としては…

例えば、苦瓜を炒めたもの。苦瓜は性質が寒で味が苦いのでよく瀉出し、清熱します。熱のため、口が渇く、煩悶状態、目の充血、暑気があるときなどに有用です。

牛・豚・鳥・魚などの内臓、海藻類、セロリ、ピーマン、パセリ、ウドなどの苦味の野菜類、グレープフルーツなどの苦味の強い果 物など。

 

 

イチョウ

栄養物質が不足するタイプ②の「腎」の臓器と関係がある方にお薦めです●

 

イチョウの祖先は、古生代から存在していると言われ、「生きた化石」として知られています。近年になってイチョウのないドイツ・フランスでイチョウの葉の研究が進み、日本から大量 のイチョウの葉を輸入して、循環器の薬として利用されています。血管を丈夫にする働きがある事から老人性のめまい、耳鳴りなどへの応用が注目されています。

 

 

煎じ方、飲み方◆

511月の緑の葉を採取します。汚れをよく水で洗い、45日間陰干しにします。

方法1

1日1020グラムを目安に、水1リットルで煎じます。沸騰後はすぐに火を止め、そのまま置き、15分たったら葉を捨てます。これを1日、34回に分けて飲みます。(煎じ過ぎると、余分な成分が出るので、煎じ過ぎないようにする事)

方法2

紅茶や緑茶のように茶こし半分位のイチョウの葉(細く切った物)を入れ 熱湯を注ぎ、2~3分たって飲みます。

また食品としては…

ゴマ・黒豆などは常に食用に使うとよい。その他にスッポンなど

 

 

栄養物質が不足するタイプ2の「脾」と関係がある方にお薦めの食品●

 

味は甘味のもので、温性を持ったもので気や血を補養する食物を摂取することが大事になります。

ナツメ・山芋・麦芽糖・枸杞の実・竜眼・など

 

 

めまいひとつ取り上げても様々なタイプがあることがお分かり頂けたでしょうか?

当治療院は、お一人お一人の症状に合った鍼灸治療法を行い、漢方、食生活などのアドバイスもさせて頂きます。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

2019/02/20
悪心・嘔吐

悪心とは、のどから胸、胃にかけて感じられる嘔吐が起こりそうな不快な感覚を言います。

嘔吐とは、胃や腸の中身が口から吐き出される現象を言います。

悪心・嘔吐には、唾液がたくさん出てくる冷や汗、顔色が青白くなる、めまい、頻脈、低血圧、脱力感、疲労感などの症状が一緒に出てくることが多いです。

 

悪心・嘔吐は色々な病気で起きますが、その起こり方はいずれの場合もある病気の場所から脳の延髄にある嘔吐中枢と呼ばれる場所に、直接、あるいは化学受容器引金帯と呼ばれる場所を経由して嘔吐中枢に異常が伝えられ、今度は嘔吐中枢から胃、食道、横隔膜、腹の筋肉に命令が伝えられます。

嘔吐中枢から命令が伝えられますと、まず胃の出口がしまり、胃の内容物が下へ行かないようになり、同時に食道と胃の入り口が緩みます。

次に横隔膜、腹の筋肉が激しく縮んで腹の圧力が高くなって胃の内容物が緩んだ胃の入り口、食道を通 って口に搾り出されます。

 

嘔吐中枢を刺激するような病気は色々ありますが、医学では次のような三種類に分けられます。

 

1・中枢性嘔吐

 

a・

脳の色々な病気、特に脳の内圧が高くなるような場合(脳の外傷、あるいは脳卒中で脳にむくみや血液が溜まったとき、脳腫瘍等)

 

 

b・

心因性といって特に病気がなく精神的なもので起きます。

 

2・反射性嘔吐

 

a・

内臓の病気、胃、腸、胆のう、膵臓、肝臓の病気(代表的な病気は腸閉塞、胆石、幽門狭窄等)

 

 

b・

内臓以外でも、心筋梗塞、尿管結石、子宮外妊娠等、激しい痛みがある場合にも起きます。

 

 

c・

嫌な臭い、嫌いな、特に残酷なものを見たときに起こります。

 

3・化学受容器引金帯を経由する嘔吐

 

a・

体内の有害物質が血液中に増えたとき。例えば尿毒症、糖尿病昏睡のまえぶれ、つわり等の場合。

 

 

b・

めまい、船酔い等、感覚器官の異常の場合。

 

 

c・

薬、治療用の放射線照射、アルコール等によって起こります。

 

 

代表的な嘔吐を伴う病気

 

1・中枢性嘔吐

 

  ・くも膜下出血

 

くも膜下出血はいわゆる脳卒中と呼ばれる病気のうちの一つです。(脳卒中のは他に脳出血や脳梗塞があります)

くも膜下出血のほとんどは脳の血管(動脈)に知らないうちにこぶが出来ていて、ある日突然にこれが破裂して、頭の中に出血することにより起こります。

このこぶのことを脳動脈瘤といいます。

突然に起こる頭痛と嘔吐が特徴です。頭をハンマーで叩かれた様だとか、いまだかつて感じたことのないほどの痛みだなどと表現されます。

また、出血が強いときは、こん睡状態になることもしばしばです。

大変重とくな病気で早期発見が難しく、一度脳動脈瘤が破裂するとほぼ高い確率で再度破裂します。医師の適切な処置が不可欠です。

 

2・反射性嘔吐

 

  ・腸閉塞(イレウス)

 

腸閉塞とは食べ物や消化液の流れが小腸や大腸で滞った状態、すなわち内容物が腸に詰まった状態を言います。

腸が拡張して張ってくるため、お腹が張って痛くなり、肛門の方向へすすめなくなった腸の内容物が口の方向に逆流して吐き気を催し嘔吐したりします。

原因が腸の外側にある場合と内側にある場合があります。

腸の外側に原因がある場合とは、腸が外側から圧迫されたりねじれたりする場合です。腹部を切る開腹手術を受けたことがある患者さんでは、腸と腹壁、腸同士の癒着が起こりますが、癒着の部分を中心に腸が折れ曲がったり、ねじれたり、癒着部分でほかの腸を圧迫されたりして腸が詰まる場合が一般 的です。

まれに腸自体が自然にねじれて詰まることもあります。(腸捻転)

腸自体が圧迫されたりねじれたりするだけでなく、腸に酸素や栄養分を送る血管が入った膜(腸間膜)も、圧迫されたりねじれたりして、血流障害を起こしたものを絞扼性腸閉塞と言います。

腸の内側に問題がある場合としては、大腸ガンによる閉塞があり、高齢者で便秘傾向の人では、硬くなった便自体も腸閉塞の原因になります。

症状の現れ方は、突然激しい腹痛と吐き気、嘔吐が起こります。

嘔吐の吐物は、最初は胃液(白色から透明ですっぱい)、胆汁(黄色で苦い)ですが、進行すると腸の奥から逆流してきた腸の内容物となり、下痢便のような色合いで便臭を伴うようになります。(吐糞症)

自然に治ることはないので早めに病院で受診する必要があります。

 

  ・急性胃炎

 

急性胃炎は様々な原因によって引き起こされる胃の急性症状の総称です。

ほとんどの例で上腹部の自覚症状を伴いますが、原因が取り除かれると回復も早いのが特徴です。

飲食物、薬剤、ストレスにもとずくものが多く見られます。

そのほか、アルコール、外傷、外科手術、ピロリ菌の感染、アニサキス症の際にも急性胃炎を生じることがしばしばあります。

一般には原因があってから短時間のうちに食欲不振、吐き気、嘔吐、上腹部の痛み、またはもたれ感などの症状が生じてくるのが特徴です。

原因がはっきりしている場合、それを除くことが急性胃炎治療の基本です。

軽症の場合は、注意深く様子を見ることで十分と思われます。

症状が強かったり、様子をみても改善がみられない場合は、内視鏡検査の可能な病院を受診して下さい。

 

3・化学受容器引金帯を経由する嘔吐

 

  ・メニエール病

 

メニエール病は、内耳の病気で繰り返すめまいに、難聴や耳鳴りを伴うものです。

一般に片側の内耳の障害ですが、時には両側とも障害されることもあります。内耳を満たしている内リンパ液が過剰になると、内リンパ水腫になりますが、この状態によってメニエール病が起こると考えられています。

しかし、この内リンパ水腫がなぜ起こるのかについては不明です。

症状は、何の誘引もなく突然回転性のめまい(ぐるぐる回る)が起こり、めまいと同時に、あるいはめまいの少し前から片耳に耳鳴りや耳の閉塞感、難聴が起こります。

めまいを繰り返す間隔は人によって違い、数日、数週間、数ヶ月、あるいは一年に一回など様々です。

めまいが激しいときはこれらの症状以外にも吐き気、嘔吐、冷や汗、動悸などが起こります。

治療には、めまいを軽くする抗めまい剤や、内リンパ水腫を軽減する薬が使用されます。

しかし、メニエール病は難病に指定されている病気で、完全に治すことが困難な場合も少なくありません。

めまい発作はメニエール病に限らず他の生命に関わる病気かもしれないので、至急専門医の診療を受けてください。

 

悪心・嘔吐はからだの変調を示すサインのようなものです。他に症状を伴ったり長引いたりするようならば、一度専門医に診てもらい、適切な治療をあおいで下さい。

尚、上記した病気はほんの一例ですので参考までにしてください。

 

 

 

中医学でみる悪心・嘔吐

 

中医学においても吐き気を催すことを悪心と言います。

また有声無物(ゲェーッと声を出すこと)を嘔といい、有物無声(物を吐き出すこと)を吐といいます。

 

嘔吐の説明の前に簡単に中医学の基本的な生体観を説明していきます。

 

~気・血・水~

気-

気とは物質であり、人が生理活動をする上での重要なエネルギー源です。物質ゆえに消耗したり補充したりすることが出来ます。

また運動性も持ち合わせており、「昇降出入」という働きがあります。「昇降出入」とは気の運動形式のことで、昇ったり降りたりする上下方向の運動と、発散したり収納したりする出入方向の運動が基本になっているということです。

よって、気は物質でありながら運動性を持っているのです。

また、気が不足して病気になってしまうことを気虚と呼び、気が1ヵ所に滞って流れが悪くなって病気になってしまうことを気滞と呼びます。

気の具体的な生理作用には、人体各部を栄養する栄養作用、内蔵の活動を促進したり、体内の流れを推進したりする推動作用、内臓を温め活動を促進したり体温を維持する温く作用、体表を保護し、外から侵入してくるものを防いだり侵入してきたものと闘ったりする防御作用、人体を構成している水分や血液が外に漏れ出ないようにする固摂作用、体内の物質を変化させたり代謝を行う気化作用などがあります。

 

血-

血とは、体内を流れる赤色の液体で、人体を構成し生命活動を維持する基本的物質です。

現代医学でいう血液とは、似ていますがイコールではありません。

中医学で血の作用は全身を栄養し潤すことです。

例えば顔が赤くつややかだったり、肌がふくよかで皮膚や髪の毛が潤って光沢があるのも、あるいは目などの感覚器や筋肉などの運動器が円滑に働くのも血の充足のおかげなのです。

他にも、血は精神活動を支える栄養源になっており、血が足りなくなると精神的な症状(失眠、健忘、昏迷、不安など)が現れます。

 

水-

水とは人体中の正常な水分の総称です。

その中には唾液や涙、汗といったものも含まれます。

水の作用は体表部(皮膚や汗腺など)から体内深部(脳や骨、関節や内臓など)を潤します。また、水は血を作るうえでも重要な成分になっています。

 

~臓・腑~

臓-

臓とは五臓とも呼ばれ、肝、心、脾、肺、腎という実質性臓器のことを指し、主な働きは、気、血、水の生成と貯蔵を担います。

 

腑-

腑とは六腑とも呼ばれ胃、大腸、小腸、膀胱、胆、三焦という中空性臓器のことを指します。主な働きは、飲食物の消化をし、身体に必要なものは五臓に渡し、不必要なものは排泄します。

 

 

~病因の分類~

 

病因とは、身体が病気になる原因を言います。

病因の分類には、外因(六淫)、内因(七情)、不内外因(外因、内因以   外の原因)の三つに分類されます。

ただし、現代中医学では外感と内傷の二つに分類する方法をとっています。

外感には、六淫、疫痢、外傷、虫獣傷、寄生虫等が含まれ、内傷には精神素因の七情と生活素因である飲食と労逸、および内生素因である痰飲とお血が含まれます。

六淫-

六淫とは外邪とも呼ばれ、体の外から体の中に入ってきて病気を発生させるものです。

六種類の外邪があり、それぞれ風、暑、湿、燥、寒、火(熱)があります。

 

七情-

七情とは、喜、怒、思、憂、悲、恐、驚の七種類の感情です。

これらの感情が激しすぎたり、長期にわたって精神を刺激することで、臓腑気血の働きを悪くしてしまい病気が発生します。

 

飲食と労逸-

生活習慣の乱れがそのまま病気に発展していく場合もあります。

食べ過ぎや栄養失調、食の偏り、不潔なものを食べるなどから、働きすぎや休息のとりすぎでも起こります。

 

痰飲とお血-

痰飲とは、水分代謝がうまくいかなくなり一ヶ所に停滞して出来てしまった異常体液です。

お血とは、血の流れが悪くなり停滞してしまったものをいいます。これらが体内に出来てしまうと気や血、水の流れが悪くなり、臓腑に影響を与えて病気が発生します。

 

~経絡~

 

経絡とは、気・血が流れる通路で体内に網目のように張り巡らされています。

かく臓腑に対応しており、大きなものは14本になります。

簡単にではありますが、中医学の基本的な生体観を上記しました。

 

 

これから悪心・嘔吐が起こる過程を説明していきます 。

 

 

正常な状態での消化吸収のメカニズム

 

中医学では、消化吸収は脾・胃が協力しあって行い、肝がその調節をしています。

 

胃の働き

・食べ物を受け取ります。

・もみ砕いて細かくします。

・下(小腸)へ送ります。…胃気の方向は下になります。

 

脾の働き

・食べ物、水分から栄養素を取り出します。

・その栄養素を上に持ち上げます。…脾気の方向は上になります。

 

肝の働き

・気の流れを調節します。

・消化を助けます。(胆汁の分泌と排泄)

・感情のコントロール

 

これらの働きが低下してしまうと悪心・嘔吐につながります。

 

ではタイプ別に説明していきます。

 

1・外邪を受けたことによるタイプ

 <要因>

 

季節や気候の影響を受けたり風邪を引くなど

外邪としては風、寒、湿などがあります。

これらが胃を攻撃しますと胃気が下に降りられず、吐き気・嘔吐が出ます。

 

 <症状>

 

突然嘔吐します。

頭や身体が痛くなる、発熱、悪寒を伴います。

 

2・飲食が停滞してしまっているタイプ

 <要因>

 

食べすぎ、飲みすぎ

油っこいもののとりすぎ

不衛生なものを食べる   など

 

 <症状>

 

酸っぱいものを嘔吐します。

お腹が張る、げっぷが出る、食べたくない、吐くと楽になるなどの症状を伴います。

 

3・余分な水分(痰飲)が溜まってしまっているタイプ

 <要因>

 

食べすぎ、飲みすぎ

胃腸が弱い

夜中に食べる

よく思い悩む…七情のうち思は脾を傷めます。

脾胃が元気に働けないと、水分をうまく代謝することが出来ず痰飲をつくってしまい、吐き気・嘔吐の原因になってしまいます。

 

 <症状>

 

このタイプの多くは水のようなものを吐きます。

めまい、動悸などを伴うことがあります。

 

4・気の流れが滞ってしまっているタイプ

 <要因>

 

イライラする

よく怒る

ストレスが大きい

緊張しやすい、あるいは緊張が続いている

よく人に気を遣う           など

肝はストレスに弱く気を流す働きが低下するので、気の流れが滞ってしまいます。それが脾、胃に影響すると吐き気・嘔吐につながります。

 

 <症状>

 

酸っぱいものを嘔吐します。

胸や脇が張る、ゲップがでる、ため息が多いなどを伴います。

 

5・胃腸が冷えているタイプ

 <要因>

 

普段から冷たいものをとっている

冷えやすい体質

胃腸が弱い           など

手足が冷えると動きづらくなるように、胃腸も冷えると元気に働けなくなります。そして脾、胃が十分に働けないと、食べ物を受け入れて消化することが出来ず、吐き気、嘔吐の症状が出てしまいます。

 

 <症状>

 

手足が冷たい

便がゆるい、下痢しやすいなどを伴います。

 

6・胃の陰液(潤して冷ます働きのあるもの)が足りないタイプ

 <要因>

 

辛いもの、味の濃いもの、油っこいものを良く食べる

慢性病で陰液が不足している

慢性の炎症が続いている(慢性胃炎など)

 

 <症状>

 

何もなくても吐き気がします

また、良くなったり、嘔吐したりを繰り返します

口や喉が渇く、胸焼けがする、空腹感はあっても食欲はない

お小水が濃い、舌が赤いなどを伴います

 

 

以上が大まかなタイプになりますが、タイプ別に適切な治療を行っていきます。中医学では器質的に異常のないものや、医者に原因が不明といわれたものに対してより効果 を発揮します。なかなか症状の改善しない悪心・嘔吐に苦しんでいる方は、当院までお気軽にご相談ください。

2019/02/20
胃下垂

胃下垂とは、ものを食べた後胃がその重さに耐え切れず正常な位 置より垂れ下がることを言います。レントゲンで見ると、骨盤の高さより胃角(胃の内側のカーブで急角度に曲がる所)が下にあります。胃そのものが下に下がっているというより、胃の入り口は正常な位 置にありながら、胃が長細く伸びてしまうのです。

西洋医学では、腹部圧力の低下、また胃を支える脂肪や筋力の低下で腹部に必要な緊張を保てずに、胃の下垂がおこると言われています。胃下垂症の人は、他の臓器(腸・子宮など)も下垂傾向にあるとされ、一般 に痩せ型の女性に多く見られます。

 

<胃下垂の症状>

胃下垂の場合、胃が長く伸びるだけで、他の症状を伴わないこともありますが、次のような症状をおこしやすいと言われます。

 

・ 食後の膨満感

・ ゲップ

・ 胸焼け

・ 胃痛

・ 胃もたれ

・ 便秘など

 

また胃下垂の人の胃を調べると、蠕動運動と言われる胃自体の消化運動が正常に行われていません。この蠕動運動の失調は、飲食物の消化・吸収を低下させ、体全体に十分な栄養を供給できないことから、貧血・肌荒れなどの栄養障害を引き起こす可能性が多くあります。

さらに胃アトニ-という疾患を併発することもあります。胃アトニ-は消化力の低下から、胃に食べたものが長く留まり、食後に膨満感を起こしやすくなります。さらに胃酸過多から胃壁を荒らし、胃炎や胃潰瘍を誘発することも多いので、この場合早期治療が必要です。

 

<西洋医学的治療法>

胃下垂の根本的な治療法は、西洋医学では見つかっていません。

胃下垂に伴う胃の不快感を抑えたり、消化を助けるための薬剤治療が主に行われています。

また、胃の負担を軽減するように、

1. 食後は横になり休息を取る

2. 暴飲暴食を控える

など、生活習慣の改善も大事な治療となっています。

 

<中医学からみる胃下垂>

 

はじめに○

中医学では、人間のからだを構成し、生命活動を維持する基本物質を気・血・津液と呼んでいます。この気・血・津液は人体をくまなく、絶え間なく流れ、臓腑、筋肉、骨、脳などすべての組織を栄養し、その働きを維持しています。

気・血・津液は、体内で産生されます。物質であるため、消耗することもあります。多すぎることもなく、また少なすぎる事もなく、気・血・津液の絶妙なバランスを保ち、本来の機能を保たせることが、中医学の治療です。ここに、健康の基本があります。

また、中医学で考える五臓<肝・心・脾・肺・腎>六腑<胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦>が、互いに協調しながらそれぞれの機能を円滑に行うことによってはじめて、気・血・津液は過不足なく、その機能は保たれます。どこかの臓腑に問題があれば、必ず気・血・津液にも影響が及び、反対に、この気・血・津液が体内において正常な働きを失えば、五臓六腑もその機能を果 たすことができません。

すべては、一つに繋がっているーこの考え方は中医学の特徴でもあります。

 

では、ここから胃下垂についての本題に入ります。

 

前述したように西洋医学には、胃下垂の根本治療はありません。そもそも胃が何故下垂するのか、下垂させてしまうような腹圧の低下や筋力低下が何故おこるのか…そこが西洋医学では説明しずらいのかもしれません。

これに対し、中医学では、内臓一般の下垂症状を「気陥」という状態ととらえます。なぜ本来の位 置より臓器が下垂するのか、その本質を見極めて治療を行います。

 

「気」とは車でいえばガソリンのようなものです。人間のからだを動かしたり、温めたり、栄養したり…と、気には様様な、そして大切な働きがあります。この「気」の働きのなかに<固摂作用>といわれる働きがあります。

気の固摂作用とは、

気・血・津液の過剰な排泄を抑え、留める。

内臓の位置を保つ。

というものです。出血や汗がダラダラと出るのを抑えたり、尿、精液、帯下などの過剰な排泄を防ぎ、内臓が下がらないように一定の位 置に保つのが、気の固摂の働きです。

この固摂作用の中で、特に内臓の位置に保つ働きが失調することを「気陥」と言います。

内臓下垂の症状を呈する治療では、下垂している器官が胃であっても、腸であっても、また子宮であっても、考え方は変わりません。「気陥」という気の失調を改善することが、すべての下垂症状の治療となります。

 

気陥とは?☆

気陥は「中気下陥(脾気下陥)」と言われます。

「中気下陥」は脾気虚の進行した状態で、脾の「昇提作用」が失調して下垂症状をおこすと考えられ、胃下垂もこの「中気下陥」という証であらわします。

「中気」とは、人体の真ん中にあり、おもに飲食物の消化・吸収をつかさどる「脾」の気を指します。

「下陥」とは字の通り、下に陥ちる、下がるということです。

脾気が下がる(上がらない)=胃下垂ととらえるのです。

 

脾○

では、この「脾」がどのような働きをするのか、脾の生理作用を見てみましょう。

 

<脾は運化を主る>

胃・小腸で飲食物の中から取り出された水穀の精微は脾で吸収され、さらに上焦部の肺へ送られます。これが気・血・津液を作るもとになります。

脾は、胃や小腸、大腸を含めた飲食物の消化吸収に関わるすべてを管理しているため、「脾は運化を主る」と言われます。

脾の運化作用が失調すると、食欲不振・腹部のもたれ・食後倦怠感や眠気・軟便・下痢・むくみなどの症状があらわれます。

 

<脾は血を統す>

気の固摂作用によって、脾は血が経脈を流れる際に、脈外に漏れださないように監督して、血の漏出を防いでいます。これを「脾は血を統す」といいます。

この働きが失調すると、鼻血・不正出血・生理がダラダラ続く・皮下出血などの出血症状があらわれます。

 

<脾は昇提を主る>

脾には、臓腑・器官の固有の位置を維持する働きがあります。また、小腸から受け取った水穀の精微を吸収し、肺に持ち上げ送る働きを有します。これを「脾は昇提を主る」といいます。

この働きが失調すると、腹部の下垂・脱肛・めまい・ふらつきなどの症状があらわれます。

 

<脾は口に開きょうする>

飲食物が口から入り、水穀の精微に変わるまでの過程は、すべて脾の運化作用によって管理されています。そのため、脾の運化作用の失調は、味がない・口が粘る・唇の色が淡白など、口や唇の症状としてもあらわれます。さらに運化作用の失調により水液や飲食物が代謝されず体内に残ると、痰飲という病理に変化します。この場合、舌苔は厚く、汚いものが付着しているようにみえます。

 

このように脾は、飲食物から気・血・津液を作り出すためにとても重要な働きをするとともに、血の漏出を防いだり、内臓の位 置を保っているのです。

 

では次に、この胃下垂を引き起こす中気下陥の原因や随伴症状、治療法などを見てみましょう。

 

中気下陥(脾気下陥)による胃下垂

脾気の昇提作用が低下したことで、下垂症状が顕著にあらわれる証。

慢性病や長期にわたる下痢、過労や多産、また、もともと脾胃虚弱の者が暴飲暴食をすることによって脾気を損傷することによって起こる。これらは中気下陥を悪化させる誘引ともなる。

さらに、中気不足のために、全身に気血を行き渡らせることができない。脾気が下がるため、清陽が頭部に達しないなど、症状は全身に渡る。

 

 

随伴症状―下腹部の下墜感・下痢・脱肛・子宮下垂・遊走腎・息切れ・めまい・立ちくらみ・疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、胃もたれ、軟便、下痢、

舌診―淡白・はん大・歯痕あり(気虚)  舌苔―白滑

脈診―沈遅弱

治則―脾気を補い、気を上に引き上げる補中益気・昇陽挙陥、益気昇提

代表配穴―中かん・気海・関元・足三里・脾ゆ・百会

 

 

 

 

 

 

中かん・足三里―胃経の募穴と合穴であり(募合配穴法)。中焦の気を補う。補法では、益気建中など脾胃の機能を改善する働きがある。

気海・関元―気海は生気の海であり、関元は原気の関。施灸により、大補元気・昇陽固脱をはかる。

百会―督脈は手足三陽経と連絡しており、全身の陽気を統括する作用がある。この三陽経は、督脈、足けつ陰肝経と百会穴で交会しているため、諸陽各経を貫通 することができる。これにより、昇陽益気(全身の気を持ち上げる、下陥した清陽を昇らせる)作用を持つ

脾ゆ・足三里―両穴に補法を施し、灸を加えることで、健脾助運と補中益気をはかる。

 

代表方剤―補中益気湯

(補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、補剤の王者として別名医王湯と呼ばれます。補中とは、人体を縦に上・中・下の三つに分けた内の真ん中「中」すなわち胃腸の働きを高め、体力を補い元気をつけることをいいます。下垂症状のほかにも、虚弱体質、食欲不振、病後の衰弱、疲労倦怠、夏負けなど、多くの虚証症状に用いられます。)

 

先に述べたように、脾気の低下がおこると、飲食物の消化吸収が妨げられ、人間が活動するためのエネルギーは産生出来ません。胃下垂の症状がある場合、その根底には、この脾気が不足し、からだを滋養できていない状態が隠れています。

特に女性は、偏ったダイエットや痩せ願望から、「胃下垂の人は太らない」と胃下垂を病気ととらえるどころか、羨ましいと考える風潮があります。この風潮は決して正しいとはいえません。食べたものから、自身のからだを栄養する気・血・津液が産み出されることは、とても大切なことなのです。

 

もし、胃下垂や内臓下垂の症状がみられる場合は、

1. 暴飲暴食を避け、睡眠をしっかり取る。

2. お刺身や生野菜、果物、甘いものを取り過ぎない。

3. 飲み物はなるべく常温以上のものにする。

4. からだを冷やさない。

 

などに注意をしながら、生活を見直してみると良いでしょう。

また脾は「湿」を嫌う為、梅雨の時期は特に疲れやすくなります。生ものや甘いものが好ましくないのも、からだの中に「湿」を溜め込む性質があるためです。「湿」は体内でもベトベトと粘着性を持つので、清陽が上に昇るのを邪魔して、結果 、脾気を傷つけてしまいます。

適度な食事、適度な運動、十分な休息を取り、湿気に負けないからだを作りたいですね。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

また、東洋医学の中での中医針灸に関する質問もお気軽にどうぞ。

2019/02/20
陰痒

陰部のかゆみを中医学では、「陰痒」と言い、

「陰部掻痒」は女性に、また「陰嚢湿疹」は男性に、発生する皮膚病です。

陰部の不快感は、なかなか人に話しにくい症状であり、病院を受診せずに市販の塗り薬に頼ってしまう方も多いかもしれません。

しかし、痒みの原因が何なのかをはっきりさせないと、単なる痒み止めでは、効果 がない場合もありますし、逆に悪化させてしまうこともあります。

痒み止めの薬は一時的に痒みを止めるものがほとんどで、ステロイドを含むものも多いので、ただかゆみを止める目的で多用するのは危険です。

 

感染症以外に、単なる下着かぶれの場合もありますし、内蔵疾患が隠れている場合もあります。

きちんと原因を把握し効果のある治療をして、早めに治すことが大切です。

また、陰部はとてもデリケートな皮膚ですから、効果のある薬でも、長期間頼っていると、

さらに状態が悪くなってしまうこともあり、根本的な治療にはなりません。

 

基本的には陰部を清潔に保つことが大切ですが、石鹸を使ってはいけない場合もありますから、気をつけましょう。

 

大切なのは、痒みを抑えることだけではなく、根本的な原因を把握し、基本体質を改善して、痒みをおこしにくい身体をつくっていくことです。

 

 さて、中医学的にはどのように考えているのでしょうか。

 

中医学では「病」は、身体のバランスの崩れと考えます。

「痒み」という症状を通して現れた、「身体のバランスのくずれ」を把握して表面 的な「痒み」を抑えると同時に、根本的な体質も治療していきます。

 

中医学で考える身体のしくみについて、詳しくは、「わかりやすい東洋医学理論」が、病気別 わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段にありますので、ご参考にして下さい。

 

中医学的な鍼灸治療で、体質改善が出来るという事をご存知の方は多いと思いますが、痒みが抑えられるということはご存知ない方が多いのではないでしょうか。

 

痒みの原因は、「水湿」と「熱」が体内に潜んでいることや、皮膚をうるおす力が足りない事によります。

 

ですから、中医学の鍼灸治療では、その水湿や熱を身体の外に出す事や、身体をうるおす力を強める事によって、痒みを緩和していくのです。

 

痒み止めの薬は、痒み物質の働きをブロックする作用のものがほとんどですから、一時的な作用のみで終わってしまいますし、依存性がありますから、使用量 が、次第に増えてしまって、かえって皮膚に悪影響を及ぼす危険があります。

身体にとって、真の健康とは何かを考えていただきたいと思います。

 

 さて、中医学的な治療について、詳しく考えていきましょう。

 

陰痒は、大きく分けると、2つのタイプに分かれます。

1・肝経湿熱(湿熱下注)によるもの

 

主訴 :

外陰部の掻痒・疼痛

 

随伴症:

帯下の量が多い、色は白色又は黄色で臭気がある。

心煩・不眠・いらいら感・口が苦く粘る・尿が黄色い

 

舌・脈:

舌苔黄膩・弦数脈

 

原因 :

ストレスや食生活の不摂生により、うまく代謝が出来ずに、体内に“湿熱”と呼ばれる病症が形成されて、これが陰部に流注して炎症を引き起こすことにあります。

又は、不衛生にしていて、病原菌に感染することによっても起こります。

 

治療 :

疏肝清熱・利湿止痒

肝の働きを良くし、気の流れをスムースにすることにより、代謝を良くします。

湿の滞りをなくすことで、身体の余分な熱を取り、痒みをとめます。

 

食事 :

油っこい食品・濃いお茶・コーヒー・アルコール類・トウガラシ食品などをできるだけ控え、菜食中心の食事に心掛けましょう。

 

 

2・肝腎陰虚によるもの

 

主訴 :

陰部の痒み・乾燥・灼熱感

 

随伴症:

帯下は少量、色は黄色・手足のほてり・発汗・眩暈・耳鳴り・

腰や膝のだるさ・口渇・夜間に痒みが強くなる。

 

舌・脈:

舌質紅 舌苔少 脈細数無力

 

原因 :

老化や慢性病・性交過多・出産などにより、身体が精力不足(精血不足)となり、身体が充分に滋養されないために起こります。

身体をうるおしたり、余分な熱をさます作用のある「陰液」が不足するために、乾燥して熱感のある状態です。閉経後に多く起こります。

 

治療 :

滋陰清熱・養血止痒

身体をうるおす作用を強め、陰液を増やすことで体温のバランスをとります。

血を増し、働きを良くして痒みを止めます。

 

 両方とも熱証であり、身体の中に生じた熱が主な原因となっていますが、実証・虚証の違いがあり、治療法も大きく違っています。随伴症状により、きちんと見分けることが大切です。

ここで言う「湿熱」とは、いったいなんでしょう。

現代医学では聞きなれない言葉ですね。

中医学では、「湿熱」とは、病気の原因となるもののひとつと考えます。

体内で、代謝がうまく行われない為に、滞ってしまった余分な物質のことで、アレルギー疾患(アトピー・リウマチなど)や、感染症の原因となります。

 

「湿熱」とは「湿邪」と「熱邪」の合わさったもので、じめじめと湿って粘っこく熱感があり、 痒みや炎症の原因になります。

例えば梅雨時、湿気が多く暖かい所にはカビが生えてしまうように、人体でも「湿熱」が あると、病気の巣になってしまうのです。

「湿邪」は湿気の多い時期に身体に侵入しやすいので、梅雨時など湿気の多い時期には体調が悪くなりやすく、リウマチなどの症状も悪化します。

また、飲食の不摂生でも、消化しきれなかった飲食物が体内に滞ることにより、余分な水分「水湿」が生じてしまいます。

ですから、水湿が原因の疾患では食事に注意することが大切なのです。

「熱邪」は、身体に熱感のある状態ですが、何故熱が生じてしまったのかという原因を考えると大きく二つに分かれます。

普段の体温は、身体の「陽」と「陰」のバランスを保つことで一定に保たれていますが、その「陽」(プラスのエネルギー)が増えすぎて熱のある状態を『実熱』といい、「陰」(マイナスのエネルギー:熱を抑える力)が不足して、陰陽のバランスが崩れ、その結果 として「陰」より「陽」が多くなってしまった状態を『虚熱』といいます。

一見、症状は同じですが、原因が違いますから、治療法も大きく違っています。

先程あげた、1.肝経湿熱による陰痒は『実熱』ですから、余分なものを取り去る事が主な治療となりますし、2.肝腎陰虚による陰痒は『虚熱』ですから、身体をうるおし、体温のバランスをとる力を補ってあげることが根本的な治療となります。

痒みの原因は両極端に違っているわけですから、その表面の痒みだけ抑えても 結局は、再発を繰り返したり、逆に悪化してしまったりします。

 

中医学では、病気の根本的な原因を把握して、根本から治していきますから、表面 的な治療に終わらず、きちんと治すことができます。

たとえば、樹木の病気においても、葉に病変が現れたら、根本を養う土から良い状態に変えていくように、人間の身体も根本から丈夫な状態にしていくことで、心身ともに健康な身体をつくっていきましょう。

 

当院は予約制となります

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