コラム
- 2019/02/20
- 悪心・嘔吐
悪心とは、のどから胸、胃にかけて感じられる嘔吐が起こりそうな不快な感覚を言います。
嘔吐とは、胃や腸の中身が口から吐き出される現象を言います。
悪心・嘔吐には、唾液がたくさん出てくる冷や汗、顔色が青白くなる、めまい、頻脈、低血圧、脱力感、疲労感などの症状が一緒に出てくることが多いです。
悪心・嘔吐は色々な病気で起きますが、その起こり方はいずれの場合もある病気の場所から脳の延髄にある嘔吐中枢と呼ばれる場所に、直接、あるいは化学受容器引金帯と呼ばれる場所を経由して嘔吐中枢に異常が伝えられ、今度は嘔吐中枢から胃、食道、横隔膜、腹の筋肉に命令が伝えられます。
嘔吐中枢から命令が伝えられますと、まず胃の出口がしまり、胃の内容物が下へ行かないようになり、同時に食道と胃の入り口が緩みます。
次に横隔膜、腹の筋肉が激しく縮んで腹の圧力が高くなって胃の内容物が緩んだ胃の入り口、食道を通 って口に搾り出されます。
嘔吐中枢を刺激するような病気は色々ありますが、医学では次のような三種類に分けられます。
1・中枢性嘔吐
a・
脳の色々な病気、特に脳の内圧が高くなるような場合(脳の外傷、あるいは脳卒中で脳にむくみや血液が溜まったとき、脳腫瘍等)
b・
心因性といって特に病気がなく精神的なもので起きます。
2・反射性嘔吐
a・
内臓の病気、胃、腸、胆のう、膵臓、肝臓の病気(代表的な病気は腸閉塞、胆石、幽門狭窄等)
b・
内臓以外でも、心筋梗塞、尿管結石、子宮外妊娠等、激しい痛みがある場合にも起きます。
c・
嫌な臭い、嫌いな、特に残酷なものを見たときに起こります。
3・化学受容器引金帯を経由する嘔吐
a・
体内の有害物質が血液中に増えたとき。例えば尿毒症、糖尿病昏睡のまえぶれ、つわり等の場合。
b・
めまい、船酔い等、感覚器官の異常の場合。
c・
薬、治療用の放射線照射、アルコール等によって起こります。
代表的な嘔吐を伴う病気
1・中枢性嘔吐
・くも膜下出血
くも膜下出血はいわゆる脳卒中と呼ばれる病気のうちの一つです。(脳卒中のは他に脳出血や脳梗塞があります)
くも膜下出血のほとんどは脳の血管(動脈)に知らないうちにこぶが出来ていて、ある日突然にこれが破裂して、頭の中に出血することにより起こります。
このこぶのことを脳動脈瘤といいます。
突然に起こる頭痛と嘔吐が特徴です。頭をハンマーで叩かれた様だとか、いまだかつて感じたことのないほどの痛みだなどと表現されます。
また、出血が強いときは、こん睡状態になることもしばしばです。
大変重とくな病気で早期発見が難しく、一度脳動脈瘤が破裂するとほぼ高い確率で再度破裂します。医師の適切な処置が不可欠です。
2・反射性嘔吐
・腸閉塞(イレウス)
腸閉塞とは食べ物や消化液の流れが小腸や大腸で滞った状態、すなわち内容物が腸に詰まった状態を言います。
腸が拡張して張ってくるため、お腹が張って痛くなり、肛門の方向へすすめなくなった腸の内容物が口の方向に逆流して吐き気を催し嘔吐したりします。
原因が腸の外側にある場合と内側にある場合があります。
腸の外側に原因がある場合とは、腸が外側から圧迫されたりねじれたりする場合です。腹部を切る開腹手術を受けたことがある患者さんでは、腸と腹壁、腸同士の癒着が起こりますが、癒着の部分を中心に腸が折れ曲がったり、ねじれたり、癒着部分でほかの腸を圧迫されたりして腸が詰まる場合が一般 的です。
まれに腸自体が自然にねじれて詰まることもあります。(腸捻転)
腸自体が圧迫されたりねじれたりするだけでなく、腸に酸素や栄養分を送る血管が入った膜(腸間膜)も、圧迫されたりねじれたりして、血流障害を起こしたものを絞扼性腸閉塞と言います。
腸の内側に問題がある場合としては、大腸ガンによる閉塞があり、高齢者で便秘傾向の人では、硬くなった便自体も腸閉塞の原因になります。
症状の現れ方は、突然激しい腹痛と吐き気、嘔吐が起こります。
嘔吐の吐物は、最初は胃液(白色から透明ですっぱい)、胆汁(黄色で苦い)ですが、進行すると腸の奥から逆流してきた腸の内容物となり、下痢便のような色合いで便臭を伴うようになります。(吐糞症)
自然に治ることはないので早めに病院で受診する必要があります。
・急性胃炎
急性胃炎は様々な原因によって引き起こされる胃の急性症状の総称です。
ほとんどの例で上腹部の自覚症状を伴いますが、原因が取り除かれると回復も早いのが特徴です。
飲食物、薬剤、ストレスにもとずくものが多く見られます。
そのほか、アルコール、外傷、外科手術、ピロリ菌の感染、アニサキス症の際にも急性胃炎を生じることがしばしばあります。
一般には原因があってから短時間のうちに食欲不振、吐き気、嘔吐、上腹部の痛み、またはもたれ感などの症状が生じてくるのが特徴です。
原因がはっきりしている場合、それを除くことが急性胃炎治療の基本です。
軽症の場合は、注意深く様子を見ることで十分と思われます。
症状が強かったり、様子をみても改善がみられない場合は、内視鏡検査の可能な病院を受診して下さい。
3・化学受容器引金帯を経由する嘔吐
・メニエール病
メニエール病は、内耳の病気で繰り返すめまいに、難聴や耳鳴りを伴うものです。
一般に片側の内耳の障害ですが、時には両側とも障害されることもあります。内耳を満たしている内リンパ液が過剰になると、内リンパ水腫になりますが、この状態によってメニエール病が起こると考えられています。
しかし、この内リンパ水腫がなぜ起こるのかについては不明です。
症状は、何の誘引もなく突然回転性のめまい(ぐるぐる回る)が起こり、めまいと同時に、あるいはめまいの少し前から片耳に耳鳴りや耳の閉塞感、難聴が起こります。
めまいを繰り返す間隔は人によって違い、数日、数週間、数ヶ月、あるいは一年に一回など様々です。
めまいが激しいときはこれらの症状以外にも吐き気、嘔吐、冷や汗、動悸などが起こります。
治療には、めまいを軽くする抗めまい剤や、内リンパ水腫を軽減する薬が使用されます。
しかし、メニエール病は難病に指定されている病気で、完全に治すことが困難な場合も少なくありません。
めまい発作はメニエール病に限らず他の生命に関わる病気かもしれないので、至急専門医の診療を受けてください。
悪心・嘔吐はからだの変調を示すサインのようなものです。他に症状を伴ったり長引いたりするようならば、一度専門医に診てもらい、適切な治療をあおいで下さい。
尚、上記した病気はほんの一例ですので参考までにしてください。
中医学でみる悪心・嘔吐
中医学においても吐き気を催すことを悪心と言います。
また有声無物(ゲェーッと声を出すこと)を嘔といい、有物無声(物を吐き出すこと)を吐といいます。
嘔吐の説明の前に簡単に中医学の基本的な生体観を説明していきます。
~気・血・水~
気-
気とは物質であり、人が生理活動をする上での重要なエネルギー源です。物質ゆえに消耗したり補充したりすることが出来ます。
また運動性も持ち合わせており、「昇降出入」という働きがあります。「昇降出入」とは気の運動形式のことで、昇ったり降りたりする上下方向の運動と、発散したり収納したりする出入方向の運動が基本になっているということです。
よって、気は物質でありながら運動性を持っているのです。
また、気が不足して病気になってしまうことを気虚と呼び、気が1ヵ所に滞って流れが悪くなって病気になってしまうことを気滞と呼びます。
気の具体的な生理作用には、人体各部を栄養する栄養作用、内蔵の活動を促進したり、体内の流れを推進したりする推動作用、内臓を温め活動を促進したり体温を維持する温く作用、体表を保護し、外から侵入してくるものを防いだり侵入してきたものと闘ったりする防御作用、人体を構成している水分や血液が外に漏れ出ないようにする固摂作用、体内の物質を変化させたり代謝を行う気化作用などがあります。
血-
血とは、体内を流れる赤色の液体で、人体を構成し生命活動を維持する基本的物質です。
現代医学でいう血液とは、似ていますがイコールではありません。
中医学で血の作用は全身を栄養し潤すことです。
例えば顔が赤くつややかだったり、肌がふくよかで皮膚や髪の毛が潤って光沢があるのも、あるいは目などの感覚器や筋肉などの運動器が円滑に働くのも血の充足のおかげなのです。
他にも、血は精神活動を支える栄養源になっており、血が足りなくなると精神的な症状(失眠、健忘、昏迷、不安など)が現れます。
水-
水とは人体中の正常な水分の総称です。
その中には唾液や涙、汗といったものも含まれます。
水の作用は体表部(皮膚や汗腺など)から体内深部(脳や骨、関節や内臓など)を潤します。また、水は血を作るうえでも重要な成分になっています。
~臓・腑~
臓-
臓とは五臓とも呼ばれ、肝、心、脾、肺、腎という実質性臓器のことを指し、主な働きは、気、血、水の生成と貯蔵を担います。
腑-
腑とは六腑とも呼ばれ胃、大腸、小腸、膀胱、胆、三焦という中空性臓器のことを指します。主な働きは、飲食物の消化をし、身体に必要なものは五臓に渡し、不必要なものは排泄します。
~病因の分類~
病因とは、身体が病気になる原因を言います。
病因の分類には、外因(六淫)、内因(七情)、不内外因(外因、内因以 外の原因)の三つに分類されます。
ただし、現代中医学では外感と内傷の二つに分類する方法をとっています。
外感には、六淫、疫痢、外傷、虫獣傷、寄生虫等が含まれ、内傷には精神素因の七情と生活素因である飲食と労逸、および内生素因である痰飲とお血が含まれます。
六淫-
六淫とは外邪とも呼ばれ、体の外から体の中に入ってきて病気を発生させるものです。
六種類の外邪があり、それぞれ風、暑、湿、燥、寒、火(熱)があります。
七情-
七情とは、喜、怒、思、憂、悲、恐、驚の七種類の感情です。
これらの感情が激しすぎたり、長期にわたって精神を刺激することで、臓腑気血の働きを悪くしてしまい病気が発生します。
飲食と労逸-
生活習慣の乱れがそのまま病気に発展していく場合もあります。
食べ過ぎや栄養失調、食の偏り、不潔なものを食べるなどから、働きすぎや休息のとりすぎでも起こります。
痰飲とお血-
痰飲とは、水分代謝がうまくいかなくなり一ヶ所に停滞して出来てしまった異常体液です。
お血とは、血の流れが悪くなり停滞してしまったものをいいます。これらが体内に出来てしまうと気や血、水の流れが悪くなり、臓腑に影響を与えて病気が発生します。
~経絡~
経絡とは、気・血が流れる通路で体内に網目のように張り巡らされています。
かく臓腑に対応しており、大きなものは14本になります。
簡単にではありますが、中医学の基本的な生体観を上記しました。
これから悪心・嘔吐が起こる過程を説明していきます 。
正常な状態での消化吸収のメカニズム
中医学では、消化吸収は脾・胃が協力しあって行い、肝がその調節をしています。
胃の働き
・食べ物を受け取ります。
・もみ砕いて細かくします。
・下(小腸)へ送ります。…胃気の方向は下になります。
脾の働き
・食べ物、水分から栄養素を取り出します。
・その栄養素を上に持ち上げます。…脾気の方向は上になります。
肝の働き
・気の流れを調節します。
・消化を助けます。(胆汁の分泌と排泄)
・感情のコントロール
これらの働きが低下してしまうと悪心・嘔吐につながります。
ではタイプ別に説明していきます。
1・外邪を受けたことによるタイプ
<要因>
季節や気候の影響を受けたり風邪を引くなど
外邪としては風、寒、湿などがあります。
これらが胃を攻撃しますと胃気が下に降りられず、吐き気・嘔吐が出ます。
<症状>
突然嘔吐します。
頭や身体が痛くなる、発熱、悪寒を伴います。
2・飲食が停滞してしまっているタイプ
<要因>
食べすぎ、飲みすぎ
油っこいもののとりすぎ
不衛生なものを食べる など
<症状>
酸っぱいものを嘔吐します。
お腹が張る、げっぷが出る、食べたくない、吐くと楽になるなどの症状を伴います。
3・余分な水分(痰飲)が溜まってしまっているタイプ
<要因>
食べすぎ、飲みすぎ
胃腸が弱い
夜中に食べる
よく思い悩む…七情のうち思は脾を傷めます。
脾胃が元気に働けないと、水分をうまく代謝することが出来ず痰飲をつくってしまい、吐き気・嘔吐の原因になってしまいます。
<症状>
このタイプの多くは水のようなものを吐きます。
めまい、動悸などを伴うことがあります。
4・気の流れが滞ってしまっているタイプ
<要因>
イライラする
よく怒る
ストレスが大きい
緊張しやすい、あるいは緊張が続いている
よく人に気を遣う など
肝はストレスに弱く気を流す働きが低下するので、気の流れが滞ってしまいます。それが脾、胃に影響すると吐き気・嘔吐につながります。
<症状>
酸っぱいものを嘔吐します。
胸や脇が張る、ゲップがでる、ため息が多いなどを伴います。
5・胃腸が冷えているタイプ
<要因>
普段から冷たいものをとっている
冷えやすい体質
胃腸が弱い など
手足が冷えると動きづらくなるように、胃腸も冷えると元気に働けなくなります。そして脾、胃が十分に働けないと、食べ物を受け入れて消化することが出来ず、吐き気、嘔吐の症状が出てしまいます。
<症状>
手足が冷たい
便がゆるい、下痢しやすいなどを伴います。
6・胃の陰液(潤して冷ます働きのあるもの)が足りないタイプ
<要因>
辛いもの、味の濃いもの、油っこいものを良く食べる
慢性病で陰液が不足している
慢性の炎症が続いている(慢性胃炎など)
<症状>
何もなくても吐き気がします
また、良くなったり、嘔吐したりを繰り返します
口や喉が渇く、胸焼けがする、空腹感はあっても食欲はない
お小水が濃い、舌が赤いなどを伴います
以上が大まかなタイプになりますが、タイプ別に適切な治療を行っていきます。中医学では器質的に異常のないものや、医者に原因が不明といわれたものに対してより効果 を発揮します。なかなか症状の改善しない悪心・嘔吐に苦しんでいる方は、当院までお気軽にご相談ください。
- 2019/02/20
- 胃下垂
胃下垂とは、ものを食べた後胃がその重さに耐え切れず正常な位 置より垂れ下がることを言います。レントゲンで見ると、骨盤の高さより胃角(胃の内側のカーブで急角度に曲がる所)が下にあります。胃そのものが下に下がっているというより、胃の入り口は正常な位 置にありながら、胃が長細く伸びてしまうのです。
西洋医学では、腹部圧力の低下、また胃を支える脂肪や筋力の低下で腹部に必要な緊張を保てずに、胃の下垂がおこると言われています。胃下垂症の人は、他の臓器(腸・子宮など)も下垂傾向にあるとされ、一般 に痩せ型の女性に多く見られます。
<胃下垂の症状>
胃下垂の場合、胃が長く伸びるだけで、他の症状を伴わないこともありますが、次のような症状をおこしやすいと言われます。
・ 食後の膨満感
・ ゲップ
・ 胸焼け
・ 胃痛
・ 胃もたれ
・ 便秘など
また胃下垂の人の胃を調べると、蠕動運動と言われる胃自体の消化運動が正常に行われていません。この蠕動運動の失調は、飲食物の消化・吸収を低下させ、体全体に十分な栄養を供給できないことから、貧血・肌荒れなどの栄養障害を引き起こす可能性が多くあります。
さらに胃アトニ-という疾患を併発することもあります。胃アトニ-は消化力の低下から、胃に食べたものが長く留まり、食後に膨満感を起こしやすくなります。さらに胃酸過多から胃壁を荒らし、胃炎や胃潰瘍を誘発することも多いので、この場合早期治療が必要です。
<西洋医学的治療法>
胃下垂の根本的な治療法は、西洋医学では見つかっていません。
胃下垂に伴う胃の不快感を抑えたり、消化を助けるための薬剤治療が主に行われています。
また、胃の負担を軽減するように、
1. 食後は横になり休息を取る
2. 暴飲暴食を控える
など、生活習慣の改善も大事な治療となっています。
<中医学からみる胃下垂>
○はじめに○
中医学では、人間のからだを構成し、生命活動を維持する基本物質を気・血・津液と呼んでいます。この気・血・津液は人体をくまなく、絶え間なく流れ、臓腑、筋肉、骨、脳などすべての組織を栄養し、その働きを維持しています。
気・血・津液は、体内で産生されます。物質であるため、消耗することもあります。多すぎることもなく、また少なすぎる事もなく、気・血・津液の絶妙なバランスを保ち、本来の機能を保たせることが、中医学の治療です。ここに、健康の基本があります。
また、中医学で考える五臓<肝・心・脾・肺・腎>六腑<胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦>が、互いに協調しながらそれぞれの機能を円滑に行うことによってはじめて、気・血・津液は過不足なく、その機能は保たれます。どこかの臓腑に問題があれば、必ず気・血・津液にも影響が及び、反対に、この気・血・津液が体内において正常な働きを失えば、五臓六腑もその機能を果 たすことができません。
すべては、一つに繋がっているーこの考え方は中医学の特徴でもあります。
では、ここから胃下垂についての本題に入ります。
前述したように西洋医学には、胃下垂の根本治療はありません。そもそも胃が何故下垂するのか、下垂させてしまうような腹圧の低下や筋力低下が何故おこるのか…そこが西洋医学では説明しずらいのかもしれません。
これに対し、中医学では、内臓一般の下垂症状を「気陥」という状態ととらえます。なぜ本来の位 置より臓器が下垂するのか、その本質を見極めて治療を行います。
「気」とは車でいえばガソリンのようなものです。人間のからだを動かしたり、温めたり、栄養したり…と、気には様様な、そして大切な働きがあります。この「気」の働きのなかに<固摂作用>といわれる働きがあります。
気の固摂作用とは、
○気・血・津液の過剰な排泄を抑え、留める。
○内臓の位置を保つ。
というものです。出血や汗がダラダラと出るのを抑えたり、尿、精液、帯下などの過剰な排泄を防ぎ、内臓が下がらないように一定の位 置に保つのが、気の固摂の働きです。
この固摂作用の中で、特に内臓の位置に保つ働きが失調することを「気陥」と言います。
内臓下垂の症状を呈する治療では、下垂している器官が胃であっても、腸であっても、また子宮であっても、考え方は変わりません。「気陥」という気の失調を改善することが、すべての下垂症状の治療となります。
☆気陥とは?☆
気陥は「中気下陥(脾気下陥)」と言われます。
「中気下陥」は脾気虚の進行した状態で、脾の「昇提作用」が失調して下垂症状をおこすと考えられ、胃下垂もこの「中気下陥」という証であらわします。
「中気」とは、人体の真ん中にあり、おもに飲食物の消化・吸収をつかさどる「脾」の気を指します。
「下陥」とは字の通り、下に陥ちる、下がるということです。
脾気が下がる(上がらない)=胃下垂ととらえるのです。
○脾○
では、この「脾」がどのような働きをするのか、脾の生理作用を見てみましょう。
<脾は運化を主る>
胃・小腸で飲食物の中から取り出された水穀の精微は脾で吸収され、さらに上焦部の肺へ送られます。これが気・血・津液を作るもとになります。
脾は、胃や小腸、大腸を含めた飲食物の消化吸収に関わるすべてを管理しているため、「脾は運化を主る」と言われます。
脾の運化作用が失調すると、食欲不振・腹部のもたれ・食後倦怠感や眠気・軟便・下痢・むくみなどの症状があらわれます。
<脾は血を統す>
気の固摂作用によって、脾は血が経脈を流れる際に、脈外に漏れださないように監督して、血の漏出を防いでいます。これを「脾は血を統す」といいます。
この働きが失調すると、鼻血・不正出血・生理がダラダラ続く・皮下出血などの出血症状があらわれます。
<脾は昇提を主る>
脾には、臓腑・器官の固有の位置を維持する働きがあります。また、小腸から受け取った水穀の精微を吸収し、肺に持ち上げ送る働きを有します。これを「脾は昇提を主る」といいます。
この働きが失調すると、腹部の下垂・脱肛・めまい・ふらつきなどの症状があらわれます。
<脾は口に開きょうする>
飲食物が口から入り、水穀の精微に変わるまでの過程は、すべて脾の運化作用によって管理されています。そのため、脾の運化作用の失調は、味がない・口が粘る・唇の色が淡白など、口や唇の症状としてもあらわれます。さらに運化作用の失調により水液や飲食物が代謝されず体内に残ると、痰飲という病理に変化します。この場合、舌苔は厚く、汚いものが付着しているようにみえます。
このように脾は、飲食物から気・血・津液を作り出すためにとても重要な働きをするとともに、血の漏出を防いだり、内臓の位 置を保っているのです。
では次に、この胃下垂を引き起こす中気下陥の原因や随伴症状、治療法などを見てみましょう。
◎ 中気下陥(脾気下陥)による胃下垂
脾気の昇提作用が低下したことで、下垂症状が顕著にあらわれる証。
慢性病や長期にわたる下痢、過労や多産、また、もともと脾胃虚弱の者が暴飲暴食をすることによって脾気を損傷することによって起こる。これらは中気下陥を悪化させる誘引ともなる。
さらに、中気不足のために、全身に気血を行き渡らせることができない。脾気が下がるため、清陽が頭部に達しないなど、症状は全身に渡る。
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随伴症状―下腹部の下墜感・下痢・脱肛・子宮下垂・遊走腎・息切れ・めまい・立ちくらみ・疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、胃もたれ、軟便、下痢、
舌診―淡白・はん大・歯痕あり(気虚) 舌苔―白滑
脈診―沈遅弱
治則―脾気を補い、気を上に引き上げる補中益気・昇陽挙陥、益気昇提
代表配穴―中かん・気海・関元・足三里・脾ゆ・百会
○
○
○
○
中かん・足三里―胃経の募穴と合穴であり(募合配穴法)。中焦の気を補う。補法では、益気建中など脾胃の機能を改善する働きがある。
気海・関元―気海は生気の海であり、関元は原気の関。施灸により、大補元気・昇陽固脱をはかる。
百会―督脈は手足三陽経と連絡しており、全身の陽気を統括する作用がある。この三陽経は、督脈、足けつ陰肝経と百会穴で交会しているため、諸陽各経を貫通 することができる。これにより、昇陽益気(全身の気を持ち上げる、下陥した清陽を昇らせる)作用を持つ
脾ゆ・足三里―両穴に補法を施し、灸を加えることで、健脾助運と補中益気をはかる。
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代表方剤―補中益気湯
(補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、補剤の王者として別名医王湯と呼ばれます。補中とは、人体を縦に上・中・下の三つに分けた内の真ん中「中」すなわち胃腸の働きを高め、体力を補い元気をつけることをいいます。下垂症状のほかにも、虚弱体質、食欲不振、病後の衰弱、疲労倦怠、夏負けなど、多くの虚証症状に用いられます。)
先に述べたように、脾気の低下がおこると、飲食物の消化吸収が妨げられ、人間が活動するためのエネルギーは産生出来ません。胃下垂の症状がある場合、その根底には、この脾気が不足し、からだを滋養できていない状態が隠れています。
特に女性は、偏ったダイエットや痩せ願望から、「胃下垂の人は太らない」と胃下垂を病気ととらえるどころか、羨ましいと考える風潮があります。この風潮は決して正しいとはいえません。食べたものから、自身のからだを栄養する気・血・津液が産み出されることは、とても大切なことなのです。
もし、胃下垂や内臓下垂の症状がみられる場合は、
1. 暴飲暴食を避け、睡眠をしっかり取る。
2. お刺身や生野菜、果物、甘いものを取り過ぎない。
3. 飲み物はなるべく常温以上のものにする。
4. からだを冷やさない。
などに注意をしながら、生活を見直してみると良いでしょう。
また脾は「湿」を嫌う為、梅雨の時期は特に疲れやすくなります。生ものや甘いものが好ましくないのも、からだの中に「湿」を溜め込む性質があるためです。「湿」は体内でもベトベトと粘着性を持つので、清陽が上に昇るのを邪魔して、結果 、脾気を傷つけてしまいます。
適度な食事、適度な運動、十分な休息を取り、湿気に負けないからだを作りたいですね。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
また、東洋医学の中での中医針灸に関する質問もお気軽にどうぞ。
- 2019/02/20
- 陰痒
陰部のかゆみを中医学では、「陰痒」と言い、
「陰部掻痒」は女性に、また「陰嚢湿疹」は男性に、発生する皮膚病です。
陰部の不快感は、なかなか人に話しにくい症状であり、病院を受診せずに市販の塗り薬に頼ってしまう方も多いかもしれません。
しかし、痒みの原因が何なのかをはっきりさせないと、単なる痒み止めでは、効果 がない場合もありますし、逆に悪化させてしまうこともあります。
痒み止めの薬は一時的に痒みを止めるものがほとんどで、ステロイドを含むものも多いので、ただかゆみを止める目的で多用するのは危険です。
感染症以外に、単なる下着かぶれの場合もありますし、内蔵疾患が隠れている場合もあります。
きちんと原因を把握し効果のある治療をして、早めに治すことが大切です。
また、陰部はとてもデリケートな皮膚ですから、効果のある薬でも、長期間頼っていると、
さらに状態が悪くなってしまうこともあり、根本的な治療にはなりません。
基本的には陰部を清潔に保つことが大切ですが、石鹸を使ってはいけない場合もありますから、気をつけましょう。
大切なのは、痒みを抑えることだけではなく、根本的な原因を把握し、基本体質を改善して、痒みをおこしにくい身体をつくっていくことです。
さて、中医学的にはどのように考えているのでしょうか。
中医学では「病」は、身体のバランスの崩れと考えます。
「痒み」という症状を通して現れた、「身体のバランスのくずれ」を把握して表面 的な「痒み」を抑えると同時に、根本的な体質も治療していきます。
中医学で考える身体のしくみについて、詳しくは、「わかりやすい東洋医学理論」が、病気別 わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段にありますので、ご参考にして下さい。
中医学的な鍼灸治療で、体質改善が出来るという事をご存知の方は多いと思いますが、痒みが抑えられるということはご存知ない方が多いのではないでしょうか。
痒みの原因は、「水湿」と「熱」が体内に潜んでいることや、皮膚をうるおす力が足りない事によります。
ですから、中医学の鍼灸治療では、その水湿や熱を身体の外に出す事や、身体をうるおす力を強める事によって、痒みを緩和していくのです。
痒み止めの薬は、痒み物質の働きをブロックする作用のものがほとんどですから、一時的な作用のみで終わってしまいますし、依存性がありますから、使用量 が、次第に増えてしまって、かえって皮膚に悪影響を及ぼす危険があります。
身体にとって、真の健康とは何かを考えていただきたいと思います。
さて、中医学的な治療について、詳しく考えていきましょう。
陰痒は、大きく分けると、2つのタイプに分かれます。
1・肝経湿熱(湿熱下注)によるもの
主訴 :
外陰部の掻痒・疼痛
随伴症:
帯下の量が多い、色は白色又は黄色で臭気がある。
心煩・不眠・いらいら感・口が苦く粘る・尿が黄色い
舌・脈:
舌苔黄膩・弦数脈
原因 :
ストレスや食生活の不摂生により、うまく代謝が出来ずに、体内に“湿熱”と呼ばれる病症が形成されて、これが陰部に流注して炎症を引き起こすことにあります。
又は、不衛生にしていて、病原菌に感染することによっても起こります。
治療 :
疏肝清熱・利湿止痒
肝の働きを良くし、気の流れをスムースにすることにより、代謝を良くします。
湿の滞りをなくすことで、身体の余分な熱を取り、痒みをとめます。
食事 :
油っこい食品・濃いお茶・コーヒー・アルコール類・トウガラシ食品などをできるだけ控え、菜食中心の食事に心掛けましょう。
2・肝腎陰虚によるもの
主訴 :
陰部の痒み・乾燥・灼熱感
随伴症:
帯下は少量、色は黄色・手足のほてり・発汗・眩暈・耳鳴り・
腰や膝のだるさ・口渇・夜間に痒みが強くなる。
舌・脈:
舌質紅 舌苔少 脈細数無力
原因 :
老化や慢性病・性交過多・出産などにより、身体が精力不足(精血不足)となり、身体が充分に滋養されないために起こります。
身体をうるおしたり、余分な熱をさます作用のある「陰液」が不足するために、乾燥して熱感のある状態です。閉経後に多く起こります。
治療 :
滋陰清熱・養血止痒
身体をうるおす作用を強め、陰液を増やすことで体温のバランスをとります。
血を増し、働きを良くして痒みを止めます。
両方とも熱証であり、身体の中に生じた熱が主な原因となっていますが、実証・虚証の違いがあり、治療法も大きく違っています。随伴症状により、きちんと見分けることが大切です。
ここで言う「湿熱」とは、いったいなんでしょう。
現代医学では聞きなれない言葉ですね。
中医学では、「湿熱」とは、病気の原因となるもののひとつと考えます。
体内で、代謝がうまく行われない為に、滞ってしまった余分な物質のことで、アレルギー疾患(アトピー・リウマチなど)や、感染症の原因となります。
「湿熱」とは「湿邪」と「熱邪」の合わさったもので、じめじめと湿って粘っこく熱感があり、 痒みや炎症の原因になります。
例えば梅雨時、湿気が多く暖かい所にはカビが生えてしまうように、人体でも「湿熱」が あると、病気の巣になってしまうのです。
「湿邪」は湿気の多い時期に身体に侵入しやすいので、梅雨時など湿気の多い時期には体調が悪くなりやすく、リウマチなどの症状も悪化します。
また、飲食の不摂生でも、消化しきれなかった飲食物が体内に滞ることにより、余分な水分「水湿」が生じてしまいます。
ですから、水湿が原因の疾患では食事に注意することが大切なのです。
「熱邪」は、身体に熱感のある状態ですが、何故熱が生じてしまったのかという原因を考えると大きく二つに分かれます。
普段の体温は、身体の「陽」と「陰」のバランスを保つことで一定に保たれていますが、その「陽」(プラスのエネルギー)が増えすぎて熱のある状態を『実熱』といい、「陰」(マイナスのエネルギー:熱を抑える力)が不足して、陰陽のバランスが崩れ、その結果 として「陰」より「陽」が多くなってしまった状態を『虚熱』といいます。
一見、症状は同じですが、原因が違いますから、治療法も大きく違っています。
先程あげた、1.肝経湿熱による陰痒は『実熱』ですから、余分なものを取り去る事が主な治療となりますし、2.肝腎陰虚による陰痒は『虚熱』ですから、身体をうるおし、体温のバランスをとる力を補ってあげることが根本的な治療となります。
痒みの原因は両極端に違っているわけですから、その表面の痒みだけ抑えても 結局は、再発を繰り返したり、逆に悪化してしまったりします。
中医学では、病気の根本的な原因を把握して、根本から治していきますから、表面 的な治療に終わらず、きちんと治すことができます。
たとえば、樹木の病気においても、葉に病変が現れたら、根本を養う土から良い状態に変えていくように、人間の身体も根本から丈夫な状態にしていくことで、心身ともに健康な身体をつくっていきましょう。
- 2019/02/20
- 円形性脱毛症
おそらく皆さんの中で「円形脱毛症」という疾病の名前を聞いたことのない方は居ないと思います。ストレス社会の現代ではあまりにも有名な疾患の一つでね。私の知人でも数名「円形脱毛症」になってしまった人がいるくらい身近な疾病です。
では早速「円形脱毛症」の症状から説明してゆきたいと思います。
先行する病変や前ぶれもなく突然、円形もしくは楕円形の境界明瞭な脱毛斑生ずる疾患です。脱毛部の大きさは爪位 から手掌位と様々で単発の場合や多発する場合があります。通常は頭部ですが、眉毛・須毛・陰毛などにも及ぶことがあります。まれに白斑や白毛を伴うこともあります。また、目や爪に合併症が現れることもあります。
「円形脱毛症」は日本の人口の1~2%に発症し、約4分の1は15歳以下の小児といわれております。また約2割は家族内で発生し、発症しやすい遺伝的素因があるともいわれております。それではまず「円形脱毛症」を現代医学ではどのように捉えて治療をしてゆくのかを簡単に紹介していきたいと思います。
▼現代医学的「円形脱毛症」の捉え方▼
◎症状による分類
1.脱毛部が単発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「単発型脱毛症」
最も多い脱毛症です。自然治癒率60%前後といわれています。
2.脱毛部が複数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「多発型脱毛症」
3.頭毛全てが脱落・・・・・・・・・・・・・・・・・・「全頭型脱毛症」
4.「全頭型脱毛」に加え眉毛・須毛・睫毛も抜けてしまう・「悪性脱毛症」
5.上記に加え腋毛・陰毛・その他の体毛が脱毛・・・・・「汎発性脱毛症」
6.後頭部から両側頭部にかけて帯状に境界明瞭に脱毛・・「蛇行性脱毛症」
などに分類されます。
* 「蛇行性脱毛症」は「全頭型脱毛症」に移行することが多い。
◎ 合併症
「爪」・・・爪に小さな凹みや縦に溝や陵ができたり、肥厚・混濁・変形・脱落がおこることがあります。
「目」・・・白内障{「全頭型脱毛症」「悪性脱毛症」から}
◎ 病因
残念ながら不明です。現在、幾つかの仮説がありますので紹介いたします。
1.自律神経障害説
2.内分泌障害説(ホルモンなど)
3.毛周期障害説(病巣部の毛が休止期毛となる)
4.感染アレルギー説
5.自己免疫説
など現段階だと色々あります。
◎ 治療
主に薬物治療になります。
内用:セファランチン・グリチロン錠・アレジオン など
外用:塩化カルプロ二ウム液・ステロイド剤 など
病因が不明の為、対処療法的な治療になります。
簡単ではありますが現代医学的「円形脱毛症」の捉え方でした。
次に中医学的なお話に移りたいと思います。
▼▼▼中医学的「円形脱毛症」の捉え方と治療方針▼▼▼
まず、「円形脱毛症」とは現代医学の名前です。中医学では「油風」や「鬼舐頭」と呼んでいます。その他に現代医学と大きな相違点として、中医学では「毛髪」は『血』の余りから作られると考えられており、また髪の毛に栄養を与えているのも「血」と考えております。ですから「円形脱毛症」の原因には『血』が深く関係します。
さて今、皆さんの中には「え~、髪の毛が血から出来てるの~???」と疑問を持たれた方も多いかと思います。確かにいきなり「髪の毛は血からできている」と聞いてすぐに納得できる人は少ないと思います。しかし『血』と言っても現代医学と中医学では若干考え方が違います。そこでまずは中医学で考える『血』の働き・生成・循環・失調を簡単に紹介したいと思います。近代医学とは似ている部分もあれば全然違う部分もありますが、元々身体の捉え方自体が近代医学と中医学とでは違うものなのでその辺も含めて理解していただけたらと思います。
●『血』とは?●
◎ 作用・・・血はどんな働きをしているのでしょうか?
血は全身へ栄養分を行き渡らせたり潤いを与えます。これは現代医学と似ていますね。その他の作用としては精神活動を支えております。
◎ 生成・循環・・・血はどのように作られ体内を循環し補足されるのでしょうか?
血は「脾」で飲食物から作られます。そして「心」と「肺」の力によって全身へ運ばれ「肝」に貯蔵されます。また『精血同源』といって血や精のどちらか不足した場合は片方が化成して補足することができます。
◎ 失調・・・血が作用しなくなると?
血の失調については様々な要因があり色々な種類がありますので、今回は「円形脱毛症」に特に関係のある4種類の血の失調の状態を簡単に説明します。
1.血虚・・血が不足してしまった状態です。
中医学では血が不足すると「血虚生風」と言って血の不足により栄養が行き届かなくなった結果 、めまい・四肢の痺れや拘攣・肌肉がピクピク動く・目の乾燥・爪が白く光沢がない・皮膚の乾燥などの症状が現れると考えます。又、血が脳を養われなくなると「血厥虚証」と言って突然の昏倒・顔色が蒼白い・四肢が氷のように冷たい・唇が白く艶がない・皮膚が冷たいなどの症状も現れます。
先ほども書きましたが血は精神活動を支えておりますから血虚になると不眠・健忘・昏迷・不安感などが現れます。その他には目のかすみ・動悸・四肢の知覚麻痺・女性では月経量 の減少・月経周期の遅延又は月経の停止などの症状も現れます。
2.オ血・・血の流れが停滞してしまった状態です。
症状としては顔色がどす黒い・アザができやすい・皮膚のザラツキ・月経血や出血は紫暗色で血塊が混じるなどがあります。
3.血熱・・血が熱をおびた状態です。
ちょっとイメージしづらいかもしれませんね。これは血が熱化してしまたり、熱邪が血に入り込んで起こります。では早速症状をみてみましょう。心煩・躁動し発狂する・口は渇くが飲みたがらない・夜間に身熱が顕著・鼻血・各種出血傾向などがあります。
いかがですか、「血」と言ってもその作用や失調状態は近代医学と中医学とではだいぶ考え方が違うということがわかって頂けましたでしょうか?
●中医学的「円形脱毛症」を理解するための予備知識●
次に中医学による「円形脱毛症」を理解するために必要な予備知識として「病因」と「肝」について簡単に解説をいたします。
◎病因について◎
人体に病気を発生させる原因のことを病因と呼びます。
中医学ではこの病因の中で体外が原因で起こるものを「外因」とか「外感」と言い、さらにその中には「六淫」と呼ばれるものがあります。
この「六淫」(ろくいん)とは体外から人体を障害する6種類の要因の総称です。風(ふう)・寒・暑・湿・燥・熱の6種類です。これらを総称して「外邪」(がいじゃ)と呼ぶ事もあります。
又、各々単体に「邪」を付けて呼ぶ場合もあります。例えば「寒邪」(かんじゃ)「湿邪」(しつじゃ)「熱邪」(ねつじゃ)といった具合です。皆さんがよく使う「風邪」(かぜ)もここからきていて、我々は(ふうじゃ)と呼びます。六淫とはどのようなものかもう少し説明します。例えば、日本では春夏秋冬という四季が有り、気候も季節に合わせて変わります。冬は寒く夏は暑くなります。ところがその気候の変動が過度であったり、逆に不足したり、季節はずれの気候だったりすると体の不調を訴える方が出てまいります。この状態が外邪(六淫)が人体に障害をあたえた状態です。そして「円形脱毛症」はこの六淫の中の「風邪」によって起こることがあります。
中医学はマクロの医学と呼ばれ、外界の環境が人体に及ぼす影響をとても重視しています。これは中医学の特徴である考え方で、人間を自然の一部として捉えているからこそ出てくる発想です。六淫についてはなんとなくイメージできたでしょうか?六淫についてはまだまだ説明が足りないと思いますが本題からズレてはいけませんので今回は紹介程度にしておきます。
◎肝について◎
先ほど血の循環のところで血の貯蔵をしていると紹介しました「肝」であります。この「肝」の性質はノビノビした状況を好みます。逆を言えばストレスにとても弱い臓器です。過度のストレスが加わると「肝」の気はスムースに流れなくなり渋滞を起こします。気が渋滞を起こしていることを「気滞」言います。又、「気滞血オ」といい気滞はオ血の原因になります。また、熱にもなることもあります。
●「油風・鬼剃頭」●
主な原因としては風邪(ふうじゃ)によるものや過度の精神緊張により気血の流れが悪くなって起こる場合、過労などにより肝腎の機能低下により起こると考えられております。
それでは「油風・鬼舐頭」を原因別に大きく4つに分類して解説してまいりたいと思います。
『血虚と風邪』によるもの
血虚の原因は様々です。例えば先ほど血の生成で述べましたが、血は飲食物と精から作られます。消化器系の機能低下(中医学では脾胃)や過度な飲食物の摂取制限などは血虚をまねきます。ですから無理なダイエットなどは血虚の原因になります。又、中医学では目が機能する際には血を消耗すると考えておりますので、目を酷使しても血虚になる場合があります。このような事が原因で血虚になり血が毛髪を養うことができない状態に加え、風邪を受感してしまい毛竅を阻滞しておこります。
症状は発病初期には突然毛髪が脱落します。斑状は単発や多発の場合があります。随伴症状として不眠や夢を多く見るなどがあります。
これは≪血虚風盛証≫と言います。
治療方針:「養血キョ風」といって血の不足を補って風邪を体から出す治療をします。
漢方薬:神応養真湯 七物降下湯
ツボ :患部 百会 風池 膈兪 血海 足三里 三陰交 など
『肝腎の機能低下』によるもの
疲労やその他の疾患により肝腎が失調して血が化成できなくなり毛髪に栄養が行き届かなくなり脱毛が起こります。
病症が長期化し毛髪が生じない、あるいは症状悪化。随伴症状としては、手のひらや足の裏や胸のほてり・不眠・眩暈・耳鳴り・多汗・寝汗などがあります。
≪肝腎陰虧証≫と言います。
治療方針:「滋陰補腎」といって腎の働きを促進して陰液を補います。
漢方薬:七宝美髥丹 生髪丸 斑禿丸 六味丸
ツボ :患部 太衝 照海 膈兪 肝兪 腎兪 三陰交 など
『オ血』によるもの
憂慮や怒りにより肝が障害され気滞をお越し、更に「気滞血オ」が起こり毛髪を栄養できない状態です。随伴症状としては脇胸部の脹満疼痛・焦燥感・怒りっぽい・口が苦い・目が赤いなどがあげられます。
治療方針:「活血化オ」といって血の流れを改善してオ血を取り除きます。又、肝の気が渋滞をしていれば「疏肝理気」と言って肝をととのえて気を流す治療を行います。
漢方薬:逍遙散加桃仁・紅花・四逆散
ツボ :患部・合谷・太衝・陽陵泉・膈兪・肝兪・三陰交など
『血熱』によるもの
皆さんも焚き火をした経験があると思いますが、焚き火をすると火の回りの空気が温められて動き出し風を起こすことはご存知ですよね。中医学ではこれと同じ事が体の中で起こると考えます。
これを≪熱極生風≫と呼びます。
例えば、血に熱邪が入り血熱が起きると、その熱により風が生まれると考えます。これは血の中に熱が入ることにより血を消耗してしまい内風が発生するわけで「血熱生風」と呼びます。原因はストレスや過度の精神状態によります。症状は突然限局した円形や楕円形の脱毛が起こります。
随伴症状としてはイライラ・口渇・便秘・などがあります。
治療方針:「涼血熄風」と言って血にある熱邪を取り除き内風を鎮めます。
漢方薬:羚羊鈎藤湯
ツボ :内関・通里・太谿・三陰交などがあります。
「油風・鬼舐頭」を中医学的に4つに分類して病因・治療方針・漢方薬・ツボを説明いたしましたが、ご理解いただけましたでしょうか?次に分類に関係なくどの証にも共通 に施術ができる治療法を紹介します。
◎梅花針(ばいかしん)
皮膚針の一種で長い柄の先に5本の針を梅の花の様に束ねて作られいる針で、患部を軽く刺激します。
◎外治方
生姜を薄くスライスして患部をこする。又はもぐさの煎じ汁で患部を洗うなどの方法があります。
▼▼▼予防養生▼▼▼
中医学的「円形脱毛症」の捉え方を読んでいただければ、円形脱毛症は「血」と「ストレス」が深く関与していることがわかると思います。そこでここでは「血」についての予防養生を紹介いたします。尚、「ストレス」についての予防養生は当ホームページの『鬱証』のページに詳しく述べておりますのでそちらを参照してください。
◎補血作用のある食べ物◎
血を増やしてくれる食べ物ですので血虚タイプの方におすすめです。
*野 菜:
ほうれんそう・さといも・ブロッコリー・人参
きゃべつ・ひじき
*果 物:
ぶどう・もも・プルーン・レーズン・ざくろ
ブルーベリー・いちじく
*肉 類:
レバー・羊肉・鶏肉・牛肉
*魚介類:
えび・うなぎ・さば・いか・あなご・あわび・ぶり
まぐろ・かに・たこ・牡蠣・太刀魚・すっぽん
なまこ・すずき・いしもち・ふな・ふかひれ・えいひれ
*穀 物:
あわ・小麦・黒豆・黒米・赤米
*乳製品:
牛乳・卵
*木の実:
黒ごま・松の実・くるみ
*健康茶:
なつめ茶・クコ茶
*漢方薬:
当帰・竜眼
・・生活の中で注意すること・・
○ 目が機能するためには血が消耗されますので目の使い過ぎには注意しましょう。
○ 血は飲食物から作られます、過度なダイエットには注意しましょう。
◎活血作用のある食べ物◎
滞りを起こしている血の流れを回復してくれます。オ血タイプの方におすすめです。
*野 菜:
にら・えんどう豆・みょうが・なす・れんこん・くわい
セロリ・さといも・フキ・トマト・アスパラガス
たまねぎ・ねぎ・にんにく・らっきょ・しょうが
とうがらし・ピーマン・ほうれんそう・かぶ
*果 物:
くり・プルーン・もも・いちご・メロン
*魚介類:
太刀魚・たこ・いわし・あさり・あわび・たい・かに
ひじき・こい・なまこ・まぐろ・かつお・さば・こはだ
あじ・さんま
*健康茶:
ウコン・ローズティー・田七人参茶
*その他:
酢・カレー・黒砂糖
・・生活の中で注意すること・・
○ 血行が悪くなります、寒さには十分注意しましょう。
○ たばこも血行を悪くします、吸い過ぎに注意しましょう。
○ 適度な運動を心がけましょう。
○ オ血の要因は「冷え」「ストレス」「過労」です!!注意してください。
◎補陰作用のある食べ物◎
陰液を増やしてくれます。陰虧タイプの方におすすめです。
*野 菜:
ごぼう・ちんげんさい・きゅうり・なす・アスパラガス
トマト・みょうが・とうがん・れんこん・せり
*果 物:
スイカ・びわ・なし・バナナ・あんず・さくらんぼ
*魚介類:
ほたて・しじみ・あさり・かに
*健康茶:
緑茶・プーアール茶・ウーロン茶
*その他:
こんにゃく・そば・黒豆・小麦・豆乳
・・生活の中で注意すること・・
○ 陰液は夜の睡眠中に作られます。できるだけ12時前に寝るようにしましょう。
最後にタイプに関係なくストレスは大敵です。出来るだけストレスは貯めないように注意しましょう。
又、脱毛が起きている方は患部をマッサージして血行を良くするように心がけてください。
中医学的に捉える「円形脱毛症」は理解できましたか?
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
- 2019/02/20
- 下痢
下痢とは、消化管内において十分に水分が吸収されず、水分を多く含んだ形状のない便を排出することを言います。
排便回数が多いだけでは、下痢というわけではありません。
健康な便は、腸で水分吸収されるため形状がきちんとありますが、下痢の場合はウィルス感染、炎症、何らかの疾患の1つの症状など様々な原因によって腸の中の悪いものを早く体外へ出そうとする防御反応が働くために起こります。
では、“下痢”について「現代医学」と「中医学」のそれぞれの捉え方を説明していきたいと思います。
【現代医学な捉え方】
日本人の1日の糞便量はおよそ150gで、水分含有量はその60~70%を占めていますが、80~90%になると軟便から泥状便、90%以上では水様便となります。
便が消化管を早く通過しすぎたり、便中のある物質が大腸の水分吸収を妨げたり、大腸で水分が分泌されたりすると便に過剰の水分が含まれます。
下痢の症状の他に、腹痛、嘔気、嘔吐、脱水症状、発熱などがあります。
下痢の発生機序から“通過時間の異常による下痢”“浸透圧性下痢”“分泌性下痢”の3つに大きく分類されます。
≪通過時間の異常による下痢≫
便の通過速度が速くなることは、下痢の最も一般的な原因です。
便が正常な硬さとなるには、ある程度の時間、便が大腸に留まっている必要があります。
便が大腸を速く通過すると水様性の便になります。
多くの医学的処置や治療が、便が大腸に留まる時間を短縮します。それには、甲状腺機能亢進症、胃や小腸・大腸の部分切除、胃潰瘍治療のための迷走神経切断、腸のバイパス手術、マグネシウムを含む制酸薬、下剤、プロスタグランジン、セロトニン、カフェインなどの薬の使用が含まれます。
多くの食べ物、特に酸性の食品は速く通過します。特定の食品に耐性がなく、それらを食べた後に常に下痢を起こす人がいます。
≪浸透圧性下痢≫
浸透圧性下痢は、血液中に吸収されない物質が腸内に残存するために腸管内浸透圧が高まり起こる下痢です。
この吸収されない物質が便中に過剰の水分を残留させるので下痢が起こります。
一部の果物や豆類、そしてダイエット食品やキャンデー、チューインガムなどで糖の代わりに使われるヘキシトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖類が浸透圧性下痢を引き起こします。
ラクターゼ(乳糖分解酵素)の欠乏症も浸透圧性下痢を起こします。ラクターゼは正常なら小腸にみられる酵素で、乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解して血液中に吸収できるようにします。乳糖不耐症の人が牛乳を飲んだり、乳製品を食べたりすると、乳糖が消化されません。乳糖が小腸に蓄積すると浸透圧性下痢を起こします。
消化管中の血液も浸透圧性物質として働き、黒色便(メレナ)を起こします。
正常な腸内細菌の過剰繁殖や、普通は腸内にみられない細菌の繁殖も浸透圧性下痢の原因となります。アメーバなどの寄生虫感染症、抗生物質の服用による腸内の細菌叢の破壊も浸透圧性下痢の原因となります。
≪分泌性下痢≫
分泌性下痢は、細菌毒素、ホルモン、化学物質などが腸管において水分や電解質の分解を促進して起こる下痢で、その種類は多くあります。
コレラ菌や、ある種のウィルスに感染したとき産生される毒素によってこの分泌が起こります。ある種の細菌による感染症や、寄生虫による感染症も水分の分泌を促進します。
この下痢は大量に起こり、コレラでは1時間に約1リットル以上の便を排泄します。
この他の原因には、ヒマシ油のような緩下薬、胆汁酸などがあります。
カルチノイド、ガストリノーマ、ビポーマなどの稀な腫瘍でも、またポリープによっても分泌性下痢が起こります。
《下痢の治療》
●水分補給
●食事療法・・・
1~2日は、食事を避けて安静を保ちます。脂肪の多い食事、冷たいもの、刺激の強い香辛料などは避け、消化の良いものを徐々に摂取するようにしましょう。
●薬物療法・・・
抗生物質、腸運動抑制剤など
*
下痢の原因が何らかの感染症の場合には、薬を用い下痢を止めることで腸内の細菌やウィルスをとどめることにつながるため、病院を受診し、医師の指示に従うようにしましょう。
【中医学的な捉え方】
最初に、中医学的な人体の考え方について説明します。
詳しくは、“わかる東洋医学診断 まとめ”のページの上段の「わかりやすい東洋医学理論」をお読み下さい。
現代医学とは異なる角度から、人体を見ていることが理解いただけると思います。
人体には“気・血・水”と呼ばれる「人体を構成して生理活動を活発化させる基本的物質」が巡っています。
~気・血・水について~
○気・・・
気は体内を流れるエネルギーの1つです。消化・吸収・排泄を正常に行なう、血を巡らせる、体温を保つ、ウィルスや細菌から体を守る、内臓を正常な位 置に保つなど、体の生理機能を維持する働きがあります。
○血・・・
いわゆる“血液”という意味のほか、“気”とともに体内を流れて、内臓や組織に潤いと栄養分を与え、また精神活動(気持ち・気分・情緒・感情)を支える物質でもあります。
○水・・・
体内を潤すのに必要な水分のことです。胃液・唾液・細胞間液・リンパ液・汗なども含まれます。体表近くの皮毛・肌膚から、体内深部の脳髄・骨髄・関節臓腑までを潤します。
気・血・水の生成や代謝は“五臓六腑”と呼ばれる臓器によって行なわれます。
五臓と六腑は、よく一緒に語られますが役割は異なります。
六腑は、“胃・小腸・大腸・膀胱・胆・三焦”の総称です。
六腑というのは、水穀(飲食物)を消化して、身体に有益な物質である“水穀の精微”(これが気・血・水の生成材料になります)と、不必要な物質である糟粕(カスのことです)とに分け、“水穀の精微”を五臓に受け渡し、糟粕を大・小便に変えて排泄を行なう臓器です。
六腑のうち、口から摂取された水穀が最初に運ばれる臓器が“胃”です。
胃が水穀を受け入れて(これを受納といいます)、消化し(これを腐熟といいます)、消化物を下方の臓器に渡す(これを和降といいます)という3つの働きをします。
小腸は、胃の下にある臓器で、胃で消化された水穀を人体に有益な“水穀の精微(清)”と“不要な糟粕(濁)”とに分別 します。
そして分別した“清”を脾に運び、“濁”をさらに水分とそうでない物に分けて膀胱と大腸に移します。大腸と膀胱は“濁”をそれぞれ大・小便にして排泄します。
また、胆は肝で生成された胆汁を小腸に分泌して、消化を助けています。
三焦は、臓腑機能を統轄して、水分や気を運行させる通路の働きをしています。
“五臓”は“肝・心・脾・肺・腎”の総称です。
五臓は、六腑から水穀の精微を受け取り“気・血・水”を生成し貯蔵する臓器です。
~五臓について~
○肝・・・
肝は血を貯蔵する働きのほか、全身の“気”のめぐりをコントロールして、精神・情緒を安定させる作用や、筋肉・目の働きを維持する働きがあります。
○心・・・
血を全身に送り出すポンプの作用のほか、脳の働きの一部を担っていて、情緒や感情といった“こころ”とも関係が深い臓器です。心の機能が充実していると精神状態が穏やかで、情緒が安定し、思考能力も活発になります。
○脾・・・
消化に関わる機能すべてを含んだ臓器です。食べたり飲んだりしたものを、体の役に立つエネルギー(気)に変える役割があります。また、血を脈外に漏さないようにする働きや、味覚をはじめとする口の生理機能を維持する働きもあります。
○腎・・・
腎には体内の水分代謝をコントロールして不必要な水分を尿として排泄させる作用があるほか、成長・発育・生殖・老化に深くかかわる“精”を蓄える臓器でもあります。
☆精とは・・・
体を構成する栄養物質や生命エネルギーの総称です。腎に蓄えられて、人の成長・発育を促進し、性行為・妊娠・出産などの性機能や生殖機能を維持する働きがあります。
中医学では、人体は“気・血・水”がスムーズにめぐって、必要なところに必要なだけあり、五臓六腑が正常に機能している状態を“健康”と考え、どこかのバランスが崩れた状態が“病気”と考えます。
バランスを崩す原因(病因)には、“外因・内因・不内外因”があります。外因とは外界の環境因子(気候の変化など)、内因とは感情や精神状態など、不内外因とは食生活や過労などの生活習慣のことです。
これらの病因が、気・血・水のバランスを崩し、五臓六腑の働きを失調させることで病気になると考えます。
中医学独特の診断方法で、何の病因で、五臓六腑のどの臓器に影響を及ぼし、気・血・水がどのようバランスを崩し、どのように失調したかを見極め(これを弁証といいます)、治療方法を決める(これを論治といいます)ことを“弁証論治”といいます。
では、下痢に関して説明していきましょう。
中医学では、下痢を“泄瀉(腹瀉)”といいます。主症状は、排便回数が増加、大便が軟化、ひどいときは大便が水のようになります。
厳密には、“泄”は大便が軟らかく勢いが緩やかなものをいい、“瀉”は大便が水のようにうすく勢いが急なものをいいます。
正常な排便は、主に脾と胃の協調運動が中心となって行われ、大腸、肝、腎が関与しています。
飲食物は、まず胃で簡単に消化された後に脾に送られます。脾には、飲食物を消化して身体に必要な栄養素を吸収し、肺に送る働きがあります。身体に不必要なものを小腸や大腸に送るのは胃の役割です。
大腸では、小腸から送られてくる食物の残渣を受け取り、余分な水分を再吸収して糞便を形成して排出する働きがあります。
脾は上向き、胃は下向きという運動をすることによって消化吸収と排泄が正常に行われる仕組みになっています。この運動方向に逆らって、胃の働きが上に向かうと嘔吐や吐き気などの症状が、脾の働きが下に向かうと下痢が起こります。
胃が正常に働くためには適度な潤いが必要ですが、脾は逆に湿気を嫌います。
そのため、水分の摂り過ぎなどで脾に余分な湿気が溜まってしまうと、機能が低下して下痢をしやすくなります。
また、脾の機能がもともと弱い人は、水分をうまく吸収することができないため、脾に余分な湿気が溜まりやすくなる傾向があります。
下痢には、急性と慢性があります。
急性の下痢の原因は、湿熱や寒湿などの外邪によるものと、暴飲暴食などによるものがあります。
慢性の下痢は、もともと脾胃が弱い、精神・情緒をコントロールする肝が機能失調を起こしている、腎陽が不足している、といった原因で起こると考えられます。
それでは、それぞれのタイプ別に説明します。
●外邪(寒湿または湿熱)による下痢
*
寒湿の感受(雨中や湿地での生活、生ものや冷たいものの過食)によって、脾の機能が低下して下痢が起こります。
このタイプの人は、冷えたり、生もの・冷たいものの過食によって症状が悪化します。
水様便に加え、吐き気、手足や全身が重だるい、頭がスッキリしない、むくみ、寒気 がする、腹部冷痛、といった症状が現れます。温めると症状は改善します。
(治療方針)散寒化湿・・・寒湿を取り除きながら脾の機能を整える治療です。
*
湿熱(暑く湿度の高い季節や、味の濃いもの・脂っこいものの過食、過度の飲酒)が大腸に侵襲して機能失調となり下痢が起こります。
症状は急迫し、便は水様の黄褐色で、臭いが強く、肛門に灼熱感があるなどが特徴です。
(治療方針)清熱利湿・・・湿熱を取り除き大腸の機能を整える治療です。
●飲食失調よる下痢
暴飲暴食、食べ過ぎによって脾胃の消化・吸収機能が阻害されて下痢が起こります。
みぞおちが張って痛む、腹部を押すと苦しい、臭いの強いゲップがでる、未消化物を伴う腐敗臭の強い便がでる、下痢の後に痛みが軽減する、などの症状があります。
(治療方針)消食導滞・・・
胃腸に停滞する消化物を除去して胃腸の機能を整える治療です。
●肝気鬱結による下痢
肝の疏泄作用(気をめぐらし臓腑の働きをスムーズにします)によって、脾の運化作用(消化吸収し、栄養を全身に送ります)の働きが正常に保たれています。
ストレスや精神疲労などから、肝の疏泄作用が低下し、脾の運化機能が失調して下痢が起こります。
便秘と下痢を繰り返す、下痢をしても腹痛が治まらない、緊張や感情の変化によって症状が増悪するなどの特徴があります。
(治療方針)疏肝健脾・・・
肝の疏泄作用を調整し、同時に脾の運化作用を促す治療です。
●脾胃虚弱による下痢
便が時に軟便となり、時に下痢となります。便の出始めは硬く形があっても、後に下痢(軟便)となるのが特徴です。
疲れやすい、食後に眠くなる、排便の回数が多い、顔がむくみやすい、尿が出にくい、などの症状があります。
生もの、冷たいもの、脂っこいものなど、消化の悪いものの飲食で症状が悪化します。
(治療方針)益気健脾・・・消化機能を増強させる治療です。
●腎陽虚弱による下痢
高齢者や冷え性の人に多いのは、食べ物を消化吸収するエネルギーが不足して起こる下痢です。
腎陽は体を温める原動力です。腎陽の機能は年齢とともに弱くなるため、年をとると冷えやすくなります。また、腎陽の火力がある程度強くないと、脾を温める事が出来ず、脾胃が飲食物をうまく消化吸収することが出来なくなります。
夜明け前に腹部が痛み、腹鳴が起こって下痢を起こし、下痢をした後は楽になる、という特徴的な症状があります。
他にも、腹部が冷え、温めることを好む、腰・膝がだるい、四肢が冷える、夜間頻尿、などの症状があります。
生もの、冷たいものの飲食や寒冷によって症状が悪化します。
(治療方針)温腎健脾・・・腎を温めて消化機能を促進する治療です。
≪養生≫
下痢のときは、脱水症状を避けるため水分の補給を心掛けて下さい。とくに、高齢者の方は、脱水症状を起こしやすく、全身の症状が悪化することがありますので注意が必要です。
水分補給は、湯冷ましや番茶、スポーツ飲料などがよいでしょう。ジュース類、牛乳などは、含まれる成分が下痢を悪化させることがありますので避けて下さい。
≪予防≫
*身体を冷やさないように心掛ける
*暴飲暴食を避ける
*栄養バランスの良い食事を摂り、体力と抵抗力をつけておく
*体調が悪いときは、脂っぽい食事、アルコールは避ける
*嗜好品や刺激物を摂り過ぎない
*睡眠を十分とり、規則正しい生活を送る
*仕事時間と、休息時間をきちんと分け、生活にメリハリをつける
*ストレスを受けていることを認識して、自分に合ったストレス解消法をみつける、など。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
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※ 火曜日・水曜日・木曜日が祝祭日の場合は午前診療となります。
※ 当院は予約制です。
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