コラム
- 2019/03/12
- 【小児科疾患】夜尿症
今回のテーマは夜尿症です。別な言い方としては「遺尿」とも言います。
「夜尿症」の定義としては、4~5歳のお子さんが寝ている間に起こる付随意の排尿のことを言います。
数字的には、女児より男児の方が2倍多いと言われております。
では早速、いつものように現代医学の観点から「夜尿症」を紹介してゆきましょう。
☆☆現代医学から診た夜尿症☆☆
先ずは、尿量調整や膀胱の貯尿量についての話から始めましょう。
皆さんもご存知のように、尿は腎臓で作られます。
腎臓で作られた尿は膀胱で一定量になるまで貯められ、尿量が一定量 に達すると尿意をもようし尿道を通過して体外に排尿されます。
腎臓で作られる尿量を決める要因としては、水分摂取量・塩分摂取量 ・腎臓の尿を作る働きを抑制するホルモン(抗利尿ホルモン)などがあります。
水分や塩分摂取量が多いと尿量は増え、抗利尿ホルモンの分泌が多いと尿量 は減ります。
実はこの仕組みが、昼と夜間睡眠中とでは以下のように変化が起こります。
①夜間睡眠中は抗利尿ホルモンが昼間の約2倍分泌されます。
②夜間睡眠中は自律神経の調節により、膀胱の大きさが昼間の約1.5倍になります。
以上の変化により、夜間睡眠中は腎臓で作られる尿量が昼間の60%に減少し、 膀胱の貯尿量も増量します。
この変化のおかげで、我々は夜間睡眠中の尿意も無く「おねしょ」もせずに、 グッスリと眠れるのです。
そしてこの身体の仕組みが完全に作られるのが、個人差はありますが3~4歳頃と言われております。
以上の事から、通常は3~4歳を過ぎたお子さんは、夜間睡眠中の尿量 の減少が起こり、更に膀胱の貯尿量が増加することにより、朝までおしっこを膀胱に貯めておくことが出来るようになります。
つまり、夜尿症は上記の尿量と膀胱の貯尿量のバランスが崩れて起こると言えます。
通常は睡眠中に尿意は発生しているのですが、お子さんは睡眠が深いために、 それに気付かず排尿してしまうのです。
夜間睡眠中の尿量減少が起こらないのは抗利尿ホルモンの分泌不足、膀胱貯尿量 の増量不足は自律神経のアンバランスが原因です。
では、何故そのような事が起こるのか、その原因を紹介しましょう。
☆尿量と貯尿量のバランスを崩す原因(夜尿症の原因)☆
① 早すぎるトイレ・トレーニングや強制的過ぎる場合。
お子さんが膀胱を抑制できるようになる年齢は個人差がありますが、通 常3歳以前ではトレーニングができる状態ではありません。
この様な時期にトイレ・トレーニングを開始したりすると「夜尿症」を発生させることがあります。
② 膀胱の筋肉の発達の遅れや、尿量が多い時にその圧力に耐え切れない場合。
③ もともと膀胱の容量が少ない
④ 睡眠が深い
⑤一時的な退行現象によるもの
⑥ストレスなどからくる適応障害の一種として発生するもの
⑦身体の冷えによるもの
⑧習慣性の多飲や塩分の過剰摂取
⑨糖尿病によるもの
⑩尿路感染によるもの
⑪脊髄の損傷によるもの
⑫尿路や生殖路の先天的奇形によるもの
などがあげられます。
但し、身体的な理由で「夜尿症」が起こることはまれであります。
☆夜尿症の分類☆
さて、夜尿症は先程の尿量と貯尿量のバランスの崩れ方から分類することができます。
そしてこの分類によって治療法が異なります。
▼ 多尿型・・・尿量の多いタイプです。原因の殆んどが抗利尿ホルモンの分泌不足ですが、塩分摂取量 過多の場合もあります。
(前者はうすい尿が、後者は濃い尿が多量に出ます)
▼ 膀胱型・・・膀胱の貯尿量が少ないタイプです。
(膀胱の容量が夜間のみ少ない場合と、昼夜共に少ない場合があります)
▼ 混合型・・・「多尿型」と「膀胱型」の両方の要因があるものです。
治療としては、先ず身体的原因がないかを検査します。
もし、そのような原因であればそちらの治療を行います。
身体的原因がない場合は
①薬物治療
②行動療法
③心理療法
④生活指導
⑤アラーム療法
⑥低周波電気刺激療法等 などが行われます。
簡単ではありますが、以上が現代医学から診た「夜尿症」の説明になります。
次に中医学から診た「夜尿症」の説明に入りましょう。
☆☆中医学から診た夜尿症☆☆
** 初めに ** 中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。
それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては、非常に難解で馴染みづらいものであります。
そこで、先ず、中医学による夜尿症の説明を読まれる前に、当HPの「わかる東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。
これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかる東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さいませ。
さてここでは、中医学による夜尿症を理解するために、「わかる東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。
☆ 夜尿症を理解するために必要な基礎知識☆
《陰陽》
陰陽の概念については既に皆さんはイメージが出来ていると思いますので、ここでは主に遺尿に関係のある陰陽の分類について紹介します。
○ 「気・血・水」
気血水も陰陽に分類することができるのです。
「気」は陽に属し、「血」と「水」は陰に属します。
○ 「昼・夜」
昼が陽に、夜が陰に属します。
《気》
「気」は「血」と「水」と伴に、人体を構成する基礎物質であり、健康な身体は「気・血・水」が適量 でスムースに流れていなければなりません。
ところが何らかの原因により「気」が不足を起こすことがあります。
この状態を「気虚」といいます。
「気」とは一種の生命エネルギーで各々の臓腑が持っているものなので、各臓腑ごとに気虚を起こします。
遺尿の原因には腎の気の不足(腎気虚)・脾の気の不足(脾気虚)・肺の気の不足(肺気虚)などがあります。
《臓腑》
臓腑とは内臓のことでした。
中医学で考える内蔵の働きと、現代医学のそれとはだいぶ違いがあることはもう皆さんはご存知のことと思います。
ここでは夜尿症に深く関係のある臓腑について少し説明してゆきます。
先ず、各臓腑の説明に入る前に、中医学が考える人体内の水液代謝と、それに関わる臓腑について説明します。
水液代謝についても、中医学独特の考え方をしますので、皆さんの常識は一度封印してこれから先をお読み下さい。
①、 口から入った飲食物(水分)は胃に送られ小腸に送られます。
②、 小腸は運ばれてきた飲食物(水分)を人体に必要な物と不必要な物に分けます。
その後、必要な物は脾に送られ、不必要な物の中で水液は膀胱へ、そうでない物は大腸へ送られ、排出されます。
③、 脾は小腸から送られてきた体に必要な物から有益な水液を吸収し肺へ送ります。
④、 肺は送られてきた水液を全身へ行き届かせます。
肺は身体の中では比較的上の方にありますので、水液を全身へ行き届かせるには都合がよいのです。
⑤、 全身を巡ってきた水液は腎臓に集められます。
そこで再利用出来る物は再吸収し、再度肺に戻します。不要な物は膀胱に送ります。
⑥、 膀胱へ送られてきた不要な水液は尿に変えられ排出されます。
また、膀胱へ運ばれる前の不必要になった水液は汗として排出される場合もあります。
これが大まかな体内の水液代謝の流れになります。
このように体内に入った水液は必要な物は再利用され、不必要な物は汗や尿として排出されます。
水液代謝に関わる主な臓腑は今の説明に出てきた脾・肺・腎が主役となり、それを補助する臓器として三焦(さんしょう)・膀胱・肝・心などが関与してまいります。
三焦とは、水液が流れる通路みたいなもので、現代医学には存在しない物です。
それでは次に各臓腑について説明してゆきましょう。
<腎>
腎は夜尿症にとってとても繋がりの深い臓器ですので、しっかりイメージを作ってください。
腎は「水を主る」と言われ、体内の水液代謝には大切な臓器です。
腎は全身を巡ってきた水液を必要な物と不必要な物にわけ、それらを吸収して肺に戻したり、膀胱へ送ったりしています。
更に、先程説明した水液代謝は全て腎の気化作用によって保たれております。
そしてこの気化作用を支えているのが腎陽というものです。
これは、腎の働きを「陰」と「陽」で分けた場合の「陽」の働きを指すことばで、身体を温める働きである「温煦作用」をさします。
ですから体内の水液代謝は腎の「温煦作用」によって支えられていると言っても過言ではありません。
そういったことから『腎は水を主る』と言われるのです。
この他に腎は「蔵精を主る」と言われます。
精とは広義の意味と狭義の意味がありますが、広義の精とは人体を構成し人体の各機能を支える基礎的な物質であります。
簡単に説明すると生きるために必要なエネルギーとイメージして頂ければよいかとおもいます。
狭義の精は生殖や発育を主ります。
精には「先天の精」と「後天の精」の2つがあります。
「先天の精」は両親から受け継ぐ精です。
ですから、赤ちゃんが母親から生まれ出た時にはしっかり赤ちゃんの身体の中に蔵されております。
それに対して「後天の精」は、飲食物から作られます。
これらの精は腎で貯蔵されますので、腎は「蔵精を主る」といわれるのです。
そして腎の中に蔵されている精を「腎精」と言います。
ところが、生まれつき「先天の精」が通常より少なく生まれてくるお子さんがいます。
この様な状態を「先天不足」といいます。
「先天不足」は腎の機能低下を起こすことがあり、これにより腎陽が不足して遺尿が起きることがありますので覚えておいてください。
又、腎は「骨を主り髄を生じる」と言われます。
先程説明した腎精には髄を生じる作用があります。
髄は骨を滋養しておりますので、腎精の不足は骨の滋養不足をまねきます。
さらに骨髄の不足は「腰膝酸軟腰(ようしつさんなん)」といって、腰や膝をだるくさせたり、痛みを生じさせてしまいます。
ですから腎は『腰の府』とも言われております。
さらに髄は「骨髄」と「脊髄」に別れます。「脊髄」は脳とつながります。
中医学では脳は髄が集まっていると考えます。
ですから、腎精の不足は知能にも影響を及ぼします。
<膀胱>
膀胱の主な生理作用は貯尿と排尿です。
膀胱の「気化作用」により尿は体外に排出されます。
「気化作用」は細かく分けると、「気化作用」と「制約作用(約束)」にわけられますが、通 常はこれらをひとまとめにして「気化作用」と言ってしまいます。
膀胱が失調を起こした場合、「気化作用」が失調を起こすと、排尿困難・排尿障害・尿閉といった症状が現れ、「制約作用」が失調を起こすと頻尿・失禁といった症状が現れます。
いずれにしても膀胱の機能が正常に保たれるのも、腎陽の温煦作用と水液調節作用の助けが必要です。
ですから腎の失調は膀胱の機能失調を起こし遺尿の原因になります。
<脾>
脾の主要な生理作用として「運化作用」と「昇清作用」があります。
【運化作用】
「運化作用」の『運』は転運輸送で、『化』は消化吸収を意味します。
つまり、飲食物から栄養分を吸収して、栄養分を全身へ運ぶ作用です。
先程説明した水液代謝の説明をもう一度思い出してみましょう。
飲食物は口から胃を通り小腸に運ばれます。
小腸では身体に必要な物と不要な物が分けられ、必要な物は脾に運ばれます。
脾はそこから有益の物を吸収して肺へ送り、肺から全身へと送られ、腎へ集められていました。
これらの口から始まって腎までの一連の流れが「運化作用」です。
脾の主要な生理作用は運化作用ですから、脾はこれらの働き全てを管理しているのです。
「納得できない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、中医学の臓腑の捉え方は現代医学のそれとは違い、臓腑を物体として見るのではなく、働きに注目しているのでこの様な考え方ができるのです。
又、運化作用は栄養分を吸収する働きがありますので、脾が損傷してしまうと気血を作る能力が低下してしまい、気血の生成不足をまねきます。
その他の運化作用の失調の症状は、食欲不振・下痢・軟便・むくみ・などが現れます。
【昇清作用】
先程の説明にあったように脾は小腸から送られてきた必要な物から、有益の物を吸収して肺へ送っておりました。
肺へ有益な物を持ち上げる作用が「昇清作用」です。
「昇清作用」が失調を起こすと、有益な物が肺まで持ち上げることが出来なくなってしまい、めまい・ふらつき・などが起こります。
又、「昇清作用」の失調が原因で起こる遺尿もありますので覚えておいてください。
因み、この持ち上げる作用には、臓腑や器官を正常な位置に保つ作用もあります。
この様な場合は「昇提作用」と言い、「昇提作用」の失調は胃下垂や脱肛などが現れます。
<肺>
肺の作用の中で遺尿に関係する作用は、『宣発作用』『粛降作用』『水道通 調作用』『治節』と沢山あります。
【宣発】
「宣発」とは宣布・発散の意で、広く発散させ行渡らせるという意味です。
水液・栄養物・気や濁気などを全身へ散布することです。
この働きにより脾から送られてきた、有益な水液は宣発作用によって全身へ散布されるのです。
又、濁気や汗もこの働きによって排出されます。
宣発作用の失調は、皮膚の乾燥・抵抗力低下・疲れやすい・各種の機能低下・汗が出ない・などの症状が現れます。
【粛降】
「粛降」の「粛」は清粛・粛清を意味し、「降」は下降を意味します。
粛降とは気や水液などを下部に輸送する作用です。
肺の宣発作用によって散布された有益な水液は粛降作用によって全身へ渡り腎へと送られます。
粛降作用の失調は、腎に気が届かなくなったり・不要な水液が体内に溜まったり・むくみ・息切れ・疲れやすい・尿量 減少・汗が止まらない・などの症状が現れます。
「肺は宣発・粛降を主る」と言われ、宣発・粛降といった作用を用いて水液や気を全身へ巡らせております。
【水道通調】
「水道」とは、先程水液代謝で説明した、脾→肺→全身→腎→膀胱→排出 といった一連の流れの全通 路を指します。
「通調」の「通」は疎通を意味し、「調」は調節を意味します。
肺は先程の宣発・粛降といった作用を用いて水道の流れがスームースに流れるように調節しております。
このことを「水道通調」といいます。
水道通調の失調は、むくみ・汗が出ない・といった症状が現れます。
【治節】
治節とは管理・調節を意味しますので、色々な働きがあります。
その中で遺尿に関係のある働きとしては、先程説明した「宣発・粛降」の作用により、水液の輸布・運行・排泄の管理・調節を行っております。
〈肝〉
肝の主要な生理作用に「疏泄を主る」があります。
【疏泄機能】
疏泄の「疏」は流れが通るの意で、「泄」は発散・昇発の意があります。
「疏泄」とは、全身の気を順調に運行させる・精神状態を安定させる・消化の補助・などの働きを言います。
ですから、「肺」の生理作用で説明した「水道通調」も疏泄の力を借りています。
【肝の特性】
肝は五行学説*では「木」に属します。木はのびやかに枝を伸ばします。
ですから、肝はノビノビとした状況や秩序のある状況を好みます。
逆を言えば物事が秩序よく進まない状況などを嫌います。
もしこのようなストレスにさらされると肝は損傷を受けてしまいます。
肝が損傷してしまうと、先程説明した疏泄機能の低下がおこりますので、様々な症状が現れてきます。
(五行学説*:「わかる・東洋医学理論」の五行学説の説明を参照してください)
<三焦>
三焦は現代医学にはない概念ですので、最初は理解するのに抵抗があるかもしれません。
三焦とは体内にあり、体内の水液や気が流れる通路とイメージして下さい。
あえて現代医学に例えると、リンパ管・汗腺・涙腺・といったような物ですが、全く同じ物ではありません。
<心>
心の主要な生理作用としては、「心は血脈を主る」と言い、全身の血液運行の原動力になります。
遺尿に関係のある作用としては「心は神を蔵す」と言い、心は精神活動の統括をしております。
「神」とは精神・意思・思惟活動を指し、血によって栄養されています。
何らかの原因で「心」へ血が巡って来ないと「神」が栄養されず、精神疲労や精神不安などがおこります。
《経絡》
経絡については「わかる・東洋医学理論」で説明されております。
その中に正経12経と言われる経脈がありました。
これは経脈の中でも特に重要なもので、それぞれ一対の臓腑と深い関係のある経脈でした。
遺尿に特に深く関係する経脈が正経12経の中にあります。
それは、肝と関係のある経脈で「足厥陰肝経」と言う経脈です。
足厥陰肝経のルートは陰部を通りますので、外邪*がこの経脈に入ると膀胱まで外邪を運んでしまい遺尿が起こることがあります。
(外邪*:「わかる・東洋医学理論」の病因を参照してください)
《病因》
病因についても「わかる・東洋医学理論」で説明しております。
病因には、様々なものがありましたが、この中で遺尿に関係があるのは、「湿熱・飲食不節・情志の失調」があります。
湿熱の場合は2通りあり、外因によるものと、飲食不節によって体内で生まれるものがありますので、先ずは外因による湿熱から説明してゆきましょう。
【外因による湿熱】
湿熱とは外因に含まれていた湿邪と熱邪が合わさったものです。
遺尿の場合はこの湿熱が体内に入り、更に足厥陰肝経に入り膀胱へ達して遺尿をおこします。
【飲食不節】
飲食不節に含まれている「肥甘厚味」「過食辛辣」「過度の飲酒」は体内で湿や熱を生みます。
飲食物は胃で受納され、脾は運化を主りますから、飲食不節によって生まれた湿熱を「脾胃湿熱」と言います。
こうして体内で生まれた湿熱は外因の湿熱同様に足厥陰肝経に入り込みます。
【情志の失調】
情志の失調は病因の中の内因で説明されております。
遺尿については、特にストレスなどの情志の抑鬱状態が原因となります。
肝の特性で説明いたしましたが、肝はストレス状態にさらされると損傷しやすい臓器です。
このことが遺尿の原因になることがあります。
さて、予備知識もだいぶ頭に入ってきたところで、「夜尿症」についての説明に入りましょう。
☆夜尿症について☆
中医学では夜尿症のことを、現代医学同様に「遺尿」又は「尿床」といいます。
中医学の「遺尿」とは、お子さんが夜間睡眠中に尿をもらし、目覚めてからそれに気付くものをいい、満3歳以上のお子さんを対象とします。
3歳~10歳位に多くみられるようですが、場合によっては成人まで引きずることも稀にあります。
(3歳未満のお子さんの夜尿は、知能・臓腑・気血・経脈が未発達のために、排尿制御能力の不足や、正常な排尿習慣がついていない為であるので、病態には属しません。又、就寝前の水分の過剰摂取や過労などによる夜尿も属しません。)
遺尿はその病因・病機により下記の3つに分類できます。
Ⅰ、腎の気の不足によるもの
Ⅱ、肺と脾の気の不足によるもの
Ⅲ、肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの
では、この分類別にそれぞれ病因・病機・弁証・症状・治療の順に説明してまいります。
Ⅰ、【腎の気の不足によるもの】
《病因・病気》
腎気の不足により膀胱が温煦されず、起こる遺尿です。
先ず、膀胱の働きを思い出してください。膀胱は小便の排尿や貯留を行っておりました。
そして、その機能は腎陽によって温煦されることで維持がされておりました。
病後や先天不足*又は虚弱体質などにより、腎気の不足が起こりると、それに続き腎陽**の不足が起こります。
昼と夜を陰陽で分けると、夜は陰に属します。
したがって夜は陰が主り、陽気は体内に納まる時間帯です。
しかし、この時に腎陽が不足していると膀胱は温煦されず、制約機能が失調すると遺尿が起こります。
(先天不足*・腎陽**:腎の説明を参照してください)
《弁証》
腎気虚証、又は腎陽虚証
《症状》 |
|
〈主症状〉 |
|
◎ |
尿量は多く、回数は1~数回・・・・腎気虚のため腎の固摂作用*と温煦作用が失調して起こります。 |
◎ |
冬季や寒冷によって症状が増悪する・・温煦作用が低下しているためです。 |
◎ |
疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。この場合は腎の気の不足の為に起こります。 (固摂作用*:わかる東洋医学理論の気の説明を参照してください) |
<随伴症状> |
|
○ |
顔色が白い・精神疲労・気力がない・下肢に力が入らない・寒がり・手足の冷え・・・陽気の不足により陽気(清陽)が全身に行き渡らなくて起こります。 |
○ |
知能遅れ・・・・・先天の不足*が脳に影響を及ぼしていると起こります。(詳しくは腎の説明を参照してください) |
○ |
腰に力が入らない・・・腎は「腰の府」でもあり、骨とも関係がありました。 腎虚によって起こる症状です。 (詳しくは腎の説明を参照してください) |
<誘発素因>
熟睡すると尿意に気付かない
《治療》
治法・・・・「補益腎気」「温固下元」といい、腎の気を補充して腎陽を高め、温煦機能を改善し、これにより膀胱を温煦し、膀胱の制約作用を促す治療を行います。
Ⅱ、【肺と脾の気の不足によるもの】
《病因・病機》
体内の水液代謝に関わる臓腑の主役は『脾・腎・肺』でした。
その中の脾と肺の機能が失調して起こる遺尿です。
大病や長期にわたる病気は、脾の気を損傷させてしまうことがあり、この状態を脾気虚といいます。
脾気虚になると脾の機能低下が起こります。
脾の作用の中には昇清作用といって、身体に有益な物を肺に持ち上げる作用がありました。
昇清作用が低下してしまうと、肺に持ち上げられるはずだった、身体に有益な水液が肺に運ばれなくなり、下部へ落ちて行ってしまいます。
更にこの場合は肺も失調を起こしていますので、肺の作用であった治節機能*が低下してしまい、膀胱の働きである制約作用を失調させてしまい遺尿が起こります。
(詳しくは脾・肺・膀胱・及び水液代謝の説明を参照してください)
(治節機能*:肺の生理作用の説明を参照してください)
この場合は、脾気虚と肺気虚が原因ですから、気虚に属します。
陰陽のところで説明しましたが、気は陽に属します。
したがって、気虚は陰盛を引き起こしますので、陰を主る夜に遺尿が起こります。
≪弁証≫
肺脾気虚証
《症状》 |
|
〈主症状〉 |
|
◎ |
排尿回数は多いが量は少ない・・・この場合の腎は正常であるので腎気虚による遺尿に比べると尿量 は少ないです。 |
◎ |
疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。 |
<随伴症状> |
|
○ |
顔色が黄色い・精神疲労・気力がない・・・脾気虚により運化作用の低下がおこり、気血の生化不足が起きてしまい、更に肺気虚により宣発・粛降作用の低下も起き、気血が、顔・心・四肢・に巡らず栄養できなくて起こります。 |
○ |
食欲不振・軟便・・・・・脾気虚により運化作用が低下して起こります。 |
○ |
息切れ・話す事さえ億劫・多汗・・・・気虚の特徴です。 |
《治療》
治法・・・・補益肺脾・昇陽固摂・・・・肺と脾の気を補して治節機能や昇清作用の改善し、膀胱の制約作用を促す治療をします。
Ⅲ【肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの】
〈病因・病気〉
肝の生理作用をもう一度思い出して見ましょう。
肝の「疏泄機能*」は肺の「水道通調**」を補助しておりました。
又、肝はストレスなどの「情志失調」で損傷され易い臓器でした。
ストレスなどが原因で「情志失調」が起こると、肝が損傷され「疏泄機能」が低下をいたします。
すると、「疏泄機能」の補助がなくなってしまった「水道通調機能」も低下を起こし、結果 的に膀胱の制約機能が低下し、遺尿を起こします。
又、「情志失調」の他にも、外邪の湿熱や、飲食不節により生まれた「脾胃湿熱」が「足厥陰肝経」に入り込む場合があります。
湿熱はその特性から経絡の中の気血の流れを阻滞させます。
「足厥陰肝経」は肝と深く関係しますので、気血の阻滞は肝の機能に影響を及ぼしてしまいます。
これにより肝の「疏泄機能」の低下が起こることもあります。
更に、「疏泄機能」の低下は気血の流れの滞りを助長させてしまうことになり、経脈に入り込んだ湿熱を化火させてしまいます。
先程も説明いたしましたが、「足厥陰肝経」は陰部や膀胱を通りますので、化火した火熱が膀胱に注がれてしまいます。
すると膀胱の制約作用が低下して遺尿が起こります。
(疏泄機能*は肝の、水道通調**は肺の、生理作用を参照してください)
≪弁証≫
肝経湿熱証
《症状》 |
|
〈主症状〉 |
|
◎ |
回数も尿量も少ない・・・・疏泄機能の低下のためです。 |
◎ |
小便が黄色く鼻をつく強い臭いがする・・・熱が膀胱へ入っているために熱症の特徴です。 |
<随伴症状> |
|
○ |
歯ぎしり・怒りっぽい・・・・肝の気が抑鬱状態により渋滞を起こし、さらにそれが熱化してしまうと、肝火がうまれてしまいます。 自然界と同様に熱は上に昇る性質がありますので、肝火の熱が上部にある「心」へと昇り、「心」に蔵されている「神」へ影響を及ぼします。 「神」が影響をうけると、精神不安などの症状が現れます。 (詳しくは「心」の生理作用を参照してください) |
○ |
顔・唇や目が赤い・・・・・・熱が顔まで昇ってきて起こります。 |
<誘発原因> |
|
○ |
情志の抑鬱や緊張すると症状が悪化する・・・この病証は肝に関わるものなので、肝に影響を及ぼす要因により症状は悪化します。 |
<治療>
治法・・・清肝利湿・・・・肝の疏泄機能を高めると伴に、「足厥陰肝経」に入り込んだ湿を体外に排出します。
以上が中医学的「遺尿」の説明になります。
現代医学とではだいぶ違った発想で、人体や疾患を捉えているのがおわかりになったかと思います。
現代医学と違う発想だからこそ病院で治らなかった疾患が中医鍼灸で治ることがあるのです。
そしてもう1つ、おそらく皆さんは中医学的な説明を読まれて、「遺尿」に対してこれだけ分類をするとは思わなかったと思います。
これが「わかる・東洋医学理論」で説明している『弁証』です。
中医学は疾患を診ているのではなく、患者さんの身体の「気血水」のバランスの崩れを診ているということが少しでも理解していただければ幸いです。
又、同じ「遺尿」であっても、弁証が違えば、使用するツボや処方される漢方薬も違ってきます。
これも又「わかる・東洋医学理論」で説明している【理・法・方・薬(穴)】という大原則です。
最近、東洋医学ブームとかで、様々なメディアで東洋医学が取り上げられており、「この疾患にはこのツボが効く!」とか、「この疾患にはこの漢方が効く!!」とか言っておりますが、本来の東洋医学(中医学)はそれほど短絡的なものではございません。
さて、次は予防についての話をいたしましょう。
予防については、特に現代医学や中医学といった括りはせずに紹介したいと思います。
☆予防☆ |
|
① |
お子さんの準備が出来ていないのにトイレ・トレーニングは避けましょう。 |
② |
寝る前に水分を控える。(水分摂取は就寝の2時間半前に)・・・・現代医学の分類で [多尿型・混合型]のタイプに分類されたお子さんは気を付けてください。 特に夕食後や入浴後の過剰な水分摂取には気を付けましょう。 水分摂取は、朝・昼は多く、夕方から減らすようにしましょう。 |
③ |
塩分摂取量を控える ・・・・これも上記と同様に [多尿型・混合型]のタイプのお子さんは気を付けてください。 |
④ |
排尿をこころもち我慢させる・・・・[膀胱型・混合型] のタイプのお子さんの予防法です。 これは排尿抑制訓練と言い、膀胱容量を大きくする訓練ですが、決して無理はさせないで下さい。 |
⑤ |
規則正しい生活リズムの確立をしましょう。 |
⑥ |
遅めの食事はやめましょう。 |
⑦ |
身体を冷やさないようにしましょう。 |
☆治る時期の予想☆
夜尿症の重症度は、その時間帯である程度わかると言われており、重症度から治る時期もある程度わかると言われております。
参考までに簡単に紹介しておきます。
寝入後すぐ・・・・5~6年後
夜中・・・・・・・3~4年後
朝方・・・・・・・1~2年後
以上になります。
これはあくまでも平均的な数字であり、個人差はありますのでご了承下さい。
☆夜尿症に効くと言われている民間療法☆
昔から伝わる民間療法や家庭薬の中には、ほとんど薬効がなくおまじないや迷信といっていいものもから、驚くほど効力があり、且つ科学も認める物まであります。
しかしながら、これらの効力の高い家庭薬は材料の入手が困難であったり、手間がかかるものも少なくありません。
ですから、ここでは入手も容易で、手間も出来るだけ掛からないものを紹介したいと思います。
(尚、出来るだけ数多くの情報を提供したいと思いますので、レシピについては省かせていただきます。もし、興味のある方はご遠慮なさらずに質問をお寄せくださいませ。)
*イタドリ*
道端や山野に自生する多年草です。
イタドリの根は利尿効果がありますので、根を煎じたり、黒焼きにして飲ませます。
*乾燥柿のへた*
乾燥柿のへたは夜尿症やしゃっくりに効果があります。
柿の種類は問いません。煎じて飲ませます。
*渋柿エキス*
渋柿エキスは脳卒中予防・夜尿症・しゃっくり・などに有効です。
渋の強いものほど効果的です。
=お茶=
「医食同源」と言う言葉は皆さんもご存知のことと思いますが、中国には「医茶同源」という言葉もあります。
お茶にも薬効があり、飲み方によってお茶は薬にもなるのです。
中国では、季節・体質・精神状態に合わせてお茶を選んで飲むことによって上手に体調を整えています。
今回は利尿効果のあるお茶を紹介しましょう。
*はとむぎ茶*
利尿効果の他に、皮膚の老廃物を取り除いてくれたり、胃腸を丈夫にしてくれたりします。
*スギナ茶*
高い利尿作用があります。
又、うがい薬としても使えます。因みに皆さんがよくご存知のツクシはスギナの子供です。
☆遺尿の注意点☆
最後に夜尿症についての3原則を紹介します。
夜尿症の3原則は『あせらず』『しからず』『おこさず』です。
夜尿症は『あせって』も治りません。
殆んどのお子さんが自然治癒いたしますので、おおらかな気持ちで対応しましょう。
『しかる』のは逆効果です。絶対に叱ってはいけません。
夜間にお子さんを『起こして』排尿させるのは、夜尿症を治すのに逆効果 になる場合がありますので、注意して下さい。
身体的原因がない夜尿症は、お子供さんの健康に何ら影響はありませんし、自然に治ることが多いので、ご家族の皆さんは必要以上に心配なさらないで下さい。
しかし、「おねしょ」が長期化すると、お子さんの精神衛生にも大きく影響する場合があるので、長期化するようであれば十分注意が必要です。あまり長引くようであれば、専門医への受診をおすすめいたします。
目安としては、4~5歳位までの「おねしょ」は心配しないで大丈夫でしょう。
6歳を過ぎても「おねしょ」が続くようであれば、適切な対応をされた方がよいと思います。
通常、大部分のお子供さんは何らかの治療に反応します。
以上で「夜尿症」についての説明を終わらせたいと思います。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【外科・整形外科・皮膚科疾患】インポテンスについて1
インポテンス(ED)について
皆さんの中には、自分や自分のパートナーは『インポテンス(以下ED)』にかからないと思っている方も多いと思います。しかし、先ごろアムステルダムで開催された「世界インポテンス研究会議」の数字を見てみると、日本のEDの患者数は約700万人と公表されております。これは世界的にみても高い発症率だそうです。そして日本の40歳以上の約三分の一強が中程度のEDだそうです(中程度のEDとは時々は勃起ができ維持できる程度。因みに、米国では8人に一人が慢性のEDということです)。
しかも、現在の日本ではED患者の若年化がおきているといわれております。
SEXは自分たちの遺伝子を次の世代へ残すという以外にも様々な意味でとても大切な行為です。ところが、この行為が成立しないとゆうことは本人ばかりではなく、パートナーにとっても重大な問題です。しかも、誰にでも簡単に相談ができる疾患ではありませんので、いつしか自分達だけで悩んでしまい精神的重圧も高くなり、更に悪い方向に進んでしまい悪循環に陥ってしまうケースも少なくありません。実際にどの国の調査結果 をみてもEDを訴えていても実際に医師の治療を受けた人は半数に満たないそうです。
▼ インポテンス(ED)ってどんな病気?▼
まずはEDについて現代医学(西洋医学)ではどのように捉えているのか簡単に説明してゆきたいと思います。
○概念○
≪定義≫
『満足のいく性交為をするために陰茎を勃起させ、尚且つ、その状態を持続する能力の欠如』となっています。又、日本性機能学会の定義だと、『性交の機会の75パーセント以上で勃起が不十分なため挿入が不可能な症状』としています。つまり、SEXの機会が4回あるうちの3回が勃起不十分な状態というわけです。
現代医学ではEDを幾つかに分類していますので、その分類を紹介します。
≪分類≫
分類法もEDの捉え方によって幾通りかあります。
<分類1>
代表的な分類です。
1.機能的インポテンス
勃起能力は正常だが精神的要因などにより十分な勃起が得られないタイプで、おもに心因性のものでEDの症状を訴える患者さんで一番多いパターンです。
2.器質的インポテンス
勃起に関与する神経・血管・ホルモンあるいは陰茎そのものに障害があるタイプで具体的には、外傷などにより神経や脳や脊髄の損傷・薬の副作用などがあり、代表的な疾患では糖尿病・動脈硬化・アルコール依存症・鬱などが挙げられます。
3.混合型インポテンス
機能的と器質的の区別ができなか、両者の混合しているタイプ
4.一過性インポテンス
薬剤使用中などにみられる一過性のタイプ
<分類2>
1.第一度インポテンス:パートナーとは性交できずパートナー以外だと勃起がおこる
2.第二度インポテンス:過去には性交ができていて現在は不可能なタイプ
**第一度の治療は困難で、第二度は一度に比べれば治療は容易です。
<分類3>
1.一次性(原発性)インポテンス:生来一度も性交が出来たことのないタイプ
2.二次性(続発性)インポテンス:従来は可能であったものが不可能になったタイプ
幾つかの分類を紹介したところで、次に勃起の仕組みと、それに必要な条件を簡単に考えてみたいと思います。
○ 勃起の仕組み○
勃起には性的興奮を伴う性的勃起と性的興奮を伴わない反射的勃起がありますが主に性的勃起について説明をします。
性的興奮の条件に適した刺激を与えられた脳は性的興奮を起こし、陰茎に勃起の命令を出します。この興奮に必要となるのがホルモンです。次にこの命令が中枢神経を伝わりペニスに血液を送るための筋肉を緩めます。この筋肉は弁構造となっており、この弁が開くことによりペニスを構成しているスポンジ状の海綿体へ血液が流入して勃起状態となります。海綿体に流入した血液は静脈を通 じて海綿体から流出するわけですが、構造上海綿体に血液が充満した状態では静脈は圧迫を受け、弁の作用をして勃起の維持の補助をすることになります。更に陰茎からの刺激は求心性に神経を介してお尻の骨(仙髄)に伝わり、遠心性の神経に乗り換えて再度陰茎の血液系に伝わり勃起の維持を行います。
簡単ですが勃起のメカニズムを紹介しました。次に上記をふまえて勃起に必要な条件をまとめてみましょう。
○勃起に必要な諸条件○
1.情緒的な状態
男性の勃起に対する精神的な条件は個人差がありますが、かなりデリケイトです。女性の発した一言や、ちょっとした態度でも影響します。意外と女性が考えている以上にデリケイトだったりします。
2.正常なホルモン分泌機能・適切なホルモン状態
脳の性的興奮はホルモンが深く関与しております。ホルモンを分泌させる脳の仕組み(大脳辺縁系・視床下部)とホルモンが正常であることが必要です。
3.正常な中枢神経
脳や脊髄などの神経の中枢です。脳からの指令が伝わる大切な経路になりますので、正常であることが条件になります。
4.正常な陰茎の血行状態
勃起は海綿体に血液が集まっておこりますので、正常な血液状態も条件に入ります。
○危険因子○
EDの危険因子は様々ですので、ここでは代表的なものを紹介します。
* 慢性病
動脈硬化・貧血・高血圧・腎臓病・アルコール性肝機能障害・前立腺肥大・癌・アルツハイマー・鬱病・糖尿病などがあり、日本では糖尿病が特に高い危険因子に挙げられています。
* 薬物
降圧剤・鬱病の薬剤・H2ブロッカー(胃潰瘍などの薬剤)・ホルモン製剤・非ステロイド性抗炎症薬・精神安定剤・麻薬・放射線治療などが挙げられます。
* その他
外傷・手術・不安・疲労・ストレス・心理的問題・加齢・喫煙・飲酒などがあげられ、日本人のインポテンス患者では喫煙常習者の割合が高値をしめしております。
○治療○
治療はEDの原因となってる要因の改善になります。
皆さんも既にご存知のようにEDの原因は様々ですから、治療法も多種にわたってしまいます。例えば薬剤が原因であれば薬剤の変更・心因的要因であればカウンセリングの受診・喫煙が原因なら禁煙・肝疾患が原因なら禁酒・ホルモン不足が原因の場合はホルモン製剤の投与など様々です。ですから全てをここで紹介するのは不可能なので、通 常病院ではどの様に診察が進められ、どの様な治療法や薬を使用するのか、代表的なものを幾つか紹介します。
まず、入念なカウンセリングが行われ、次に勃起機能検査(視聴覚性的刺激試験)(睡眠時勃起検査)・男性ホルモンの数値・血管の状態・神経の伝達の状態・睾丸やペニスの状態などの検査が行われます。そして具体的な状態を把握した上で、患者さんに一番適した治療が行われます。
次にどのような治療法があるか紹介をします。
まず、器質的なEDについてはペニスの血管を拡張させて強制的に勃起をおこさせる薬剤を注入する方法があります。この方法は直接注射によって薬剤をペニスの根元に注射する方法とスポイトのような器具を使用して尿道口から注入する方法があります。前者の場合薬の効果 の維持時間は2時間位で、基本的に日本では自己注射は認められておりませんから患者さんが医師以外の場合は利便性に欠けます。後者については医師の指導を受ければ患者さん自身で行うことができるという利点がありますが、効果 維持時間は前者の半分位です。尚、怪しい通販などでも同様な注射セットと薬剤が販売されていることがありますが、これらは海綿体へ副作用を起こすおそれがありますので、医師の受診をおすすめします。
又、手術によりシリコンなどの棒を海綿体に埋め込む方法があります。これは「折り曲げ式」や「ポンプ式」等、方式は様々ですが必要なときに任意で勃起をおこすことが可能です。
心因性EDについての治療法は勃起不全をおこすストレスの排除になります。この場合の多くは性交についての不安や緊張が関与してきているので、これらを取り除く治療になります。また、スタフィング・メソドといって勃起が不十分な状態で陰茎を膣に挿入する方法があります。この場合はシリコン製の挿入の補助具が使用されます。その他にはノン・エレクト法と言って、パートナーに性交を拒絶されると余計に性欲願望がたかまる、という心理を利用して勃起を誘発させる治療法もあります。
経口薬としては「塩酸トラゾル」「ビタミン剤」「ホルモン製剤」などがあり、有名なところでは「バイアグラ」や「レビトラ」などがあります。
EDの治療法を簡単に紹介しました。
以上が現代医学から診たEDの説明になります。
つぎは中医学(東洋医学)の視点からの説明にはいります。
今回は『インポテンス』を通して、できるだけ皆さんに中医学の病気の捉え方や、治療方針の立て方から治療にいたるまでをイメージしていただけるように説明してみたいと思います。
▼中医学の生理観について▼
中医学も現代医学と同様に医学です。医学である以上そこにはしっかりとした学問体系や理論が存在します。医学には正常な身体の状態を考える『生理観』(現代医学では生理学や解剖学など・中医学では臓腑学や経絡経穴学など)というものがあり、その上に病気の成り立ちを考える『病理観』が存在します。つまり、病気を理解するためには、まず正常な身体の仕組みや構造を理解しなければ病気を理解することは出来ません。ですから、まずは中医学の生理観を理解しないと、中医学から見た病気の説明をしても殆んど理解することは出来きません。しかし中医学の生理観は現代医学のそれとは全く異なった考え方をし、とても奥深いものですので、とりあえず今回はEDに関係するものだけにしぼって説明をさせていただきます。
≪気・血・水≫
中医学では人の身体は「気」「血」「水」の三つの物質により構成されていると考えます。そしてこれらが多くも少なくもなく適量 で、且つスムースに流れてこそ健康でいられると考えます。では、「気」「血」「水」についてもう少しだけ説明してみましょう。
<気>
気の主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。ここでその全てを説明することは不可能なので、失調をしてしまうと陽痿の原因になってしまう働きのみを説明します。
「推動作用」
推動とは「推進」「促進」の意味があります。推動作用とは臓器組織の活動の促進や「気・血・水」の流れを促進させる作用です。先程、健康な人は「気・血・水」がスムースに流れていると述べましたが、これら「気・血・水」をスムースに流す働きをしているのが推動作用の一つになります。又、各臓器が通 常の働きができるように臓器組織の活動の促進をしているのも推動作用の一つになります。もし、推動作用が失調をしてしまうと各臓器の活動性の低下が起きたり、「気・血・水」や不要な水液がスムースに流れなくなって停滞を起こしてしまいます。又、気が停滞してしまうことを「気滞」といいます。例えばストレスなどを受けると肝の気が停滞を起こすことがあります。肝の気が停滞を起こしている状態を『肝鬱』と言い陽痿の原因の一つになります。
「気化作用」
気化作用とはものを変化させる作用です。例えば食べた物を「気・血・水」に変化させています。もし、気化作用が失調してしまうと「気・血・水」が作れなくなってしまったり、余分な水分を気化することができないため不要な水液が生まれてしまったりします。
<血>
血の主な作用は各器官を栄養しています。また、精神活動の栄養源でもあります。ですから血が充実していれば情緒も安定していられます。
<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。
主な作用としては身体の各部所に潤いを与えます。津液が体内をスムースに循環できるのは主に「脾」「肺」「腎」「肝」の働きと「気」の推動作用によるものです。これらの働きが失調してしまうと、津液がスムースに流れなくなってしまい停滞を起こします。この状態を水湿証といい、水湿が寒性に傾くと寒湿と言い、水湿が熱化してしまい熱性に傾いた状態を湿熱と言います。この湿熱は陽痿の原因となります。
《精》
『精』とは生命の根本をなすもので、両親から受け継ぐ「先天の精」が、生後飲食物から作られる「後天の精」の滋養をうけて形成されます。『精』の作用は性行為・妊娠・出産といった性機能や生殖機能に関与します。又、成長・発育を促進する働きもあります。『精』は「腎」に蓄えられています。そのことから「腎精」とも呼ばれています。
次に陽痿と関係のある臓器について説明をしたいと思います。
《腎》
腎は水液代謝・呼吸・排尿・生殖・成長・発育などに関与します。この中で陽痿と関係が深い働きとしては、生殖・成長・発育の促進があります。
「精」のところでも述べましたが「精」は腎に蓄えられており、性機能や生殖機能に関与し、成長や発育を促進する働きもあります。腎に蓄えられていることから「腎精」とよばれています。「腎精」が充実していると成長・発育し、「腎精」が衰えると老化が始まります。この過程で「腎精」がある一定の量 に達すると精子が作られたり排卵がおこり、性欲が出てきます。ですから「腎精」の不足は陽痿の原因の一つになります。
腎には腎陰と腎陽があります。これらは相対する意味で用いられる言葉です。腎陽は「命門の火」とも呼ばれ各臓器・組織器官を温煦する作用があります。そして身体を温めて水液を蒸化し生殖・成長発育の促進の機能をしております。したがって腎陽の不足は陽痿をまねきます。
腎陽と腎陰は互いに依存しあい転化しあっています。したがって一方の不足は、やがてはもう片方の不足をまねきます。また、腎精は腎陰に属しますので、何らかの原因で腎精の不足が起きれば腎陽の不足に繋がります。
《心》
心の陽痿に関わる主な作用としては、血を全身のすみずみまで循環させる働きがあります。血の作用は、先程も述べましたが各器官を栄養することです。心の作用で血が全身へ循環されて各器官は栄養されることができるのです。その他には「心は神明を主る」と言われ、感情・思考・意思・判断などの精神活動全てを統括しています。ですから、心が充実していれば情緒は安定していますが、心が失調をおこすと不安感・不眠・などの症状があらわれます。
《脾》
脾の陽痿に関わる主な作用としては「運化作用」といって、飲食物を消化吸収して「気」や「血」を作りだし肺や心に送り、残りかすは大腸に送る働きがあります。もし、「運化作用」が失調すると食欲不振・軟便・下痢・むくみ、などがあらわれます。又、「脾は思を主る」といわれ、思考・記憶・集中などを統括しています。ですから思い悩みなどの精神の消耗は脾気を損耗させてしまいます。
《肝》
肝の主な働きとしては全身の「気」の運行・精神の安定・血の貯蔵・筋や目の生理機能の維持などがあります。この中で陽痿に関与する働きは「気」の運行・血の貯蔵・筋の生理機能の維持になります。
全身の「気」を順調に流す働きのことを「疏泄作用」といいます。「肝」はこの「疏泄」の働きをしています。肝は五行説では「木」に属し、疏泄条達の性質を持ちます。肝気が条達すれば気血はのびやかであり、疏泄作用は、気の運行・消化・情志の機能がスムースに働かせる助けをします。ですから肝はノビノビしたりスムースで秩序だった状況を好みます。逆を言うとストレスにとても弱い臓器です。もし、ストレスにさらされると「肝」の「疏泄作用」が失調を起こし「気」が停滞を起こします。なかなかイメージがしにくいと思いますので、少し具体的に説明してみましょう。皆さんもイライラしたり怒った時など顔がカッーと熱くなったり、更にひどいとクラクラした経験があると思います。これは、イライラというストレス状態にさらされたことで「肝」の「疏泄作用」が失調をおこし「気滞」が生まれます。次にスムースに流れることが出来なくなった「気」は熱化します。自然界では熱は上昇する性質を持ちますので「気滞」によって生まれた熱は体の中での上部である顔や頭に上ってきます。すると顔が熱く感じます。更に自然界では熱は風を生みます、体内で熱化した気も風を生み、脳が風の影響を受けクラクラした感じがするのです。
なんとなくイメージできたでしょうか?後程《病因》の所でも紹介しますが、中医学の考え方は人の体や病気のメカニズムを自然界にリンクさせて考えます。これは中医学の特徴の一つであり、我々現代医学に慣れ親しんでいる者にとっては理解しがたい部分であるかとは思います。
さて、その他に肝には血を貯蔵する作用があります、この肝に貯蔵されている血を「肝血」と呼びます。そして筋肉の働きはこの「肝血」によって維持されています。ですから「肝血」の不足は筋肉の働きにも影響をおよぼすことになり、筋肉のケイレンや陽痿の原因にもなります。
皆さん、中医学の生理観はご理解いただけたでしょうか?我々が慣れ親しんでいる現代医学の生理観とは大分違っていたと思います。最初はなかなか理解するのは難しかったり、抵抗があったりすると思いますが、生理観の概念が違うからこそ現代医学で治らなかった病気を中医学で治すことができるわけです。
それでは次に生理観の他に中医学の独特の考え方をするものを少しだけ紹介します。これも中医学を理解する上でとても大事な予備知識になります。
《病因》
病因とは病気となる原因のことです。中医学ではこの病因を「外因・内因・不内外因」の3つに大別 します。
『外因』とは身体の外の環境が病因となるものをさします。これらは「風・湿・熱(火)・暑・寒・燥」の6種類ありますが、この中で特に陽痿の病因となるものは「湿」です。
「湿」
湿の特徴は粘り気があり、気の流れを阻害します。また、湿は重いので体の下部を侵すことが多いです(湿邪下注と言います)。例えば、梅雨の季節などに足がむくみやすくなったり、重だるくなったりする方がいます。これは梅雨時期には空気中が多湿になっており、この湿気が体の中に入り込んできておこります。「気」が充実している健康な人であれば、「気の気化作用」の働きにより体の中に侵入してきた湿を追い出すことができますが、「気」の不足を起こしている人は「気化作用」が十分に働かないため、「湿」が体の中に停滞し下部である足に下がってしまいます。すると足が重だるくなったり、むくみが出たりするわけです。
「肝」のところでも触れましたが、中医学はマクロの医学と言われ、体や病気を大きな視点で診てゆきます。例えば人の体も自然界の一部と考えます。これは中医学の独特の考え方で、「天人相合」という、古代中国哲学からきている思想です。ですから、過度な季節の変化などは当然体に大きな影響をおよぼすと考えます。これが「外因」の基本的な考え方になります。
『内因』とは過度の精神状態が病因となるものをさします。これらは「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の7種類あります。これらは七情と呼ばれます。これらの内で「恐怖・驚き」は腎を傷つけ「憂鬱・怒り」は肝を傷つけ陽痿の原因となります。
『不内外因』とは内因・外因のどちらにも属さないものをさします。これらは「不節な飲食・外傷・寄生虫・過労・運動不足」などがあります。特に陽痿の病因となるものは「不節な飲食」が挙げられます。
《実証と虚証》
中医学では病気の状態を大きく実証と虚証に2分します。
『実証』
病因がとても強くて体の防衛力が抵抗出来ずに発症した病気です。例えば、いつも元気な人が強力な風邪のウイルスに侵された場合などがイメージしやすいかと思います。他には食べすぎも実証に含まれます。
『虚証』
「気・血・水」が不足したために病因自体はそれほど強くないのに発症した病気です。例えば、普通 の人には影響の無い程度のちょっとした気候の変化でも体調を崩してしまうような人がおられます。このような場合などが虚証になります。
さて、次は診断について説明をします。
そろそろ皆さんも現代医学と中医学とでは全く違うものであり、中医学にも独特の理論があることがわかっていただけてきていると思います。生理観や病理感が違うのですから当然治療理論についても現代医学のそれとはかなり違う独特の考え方をいたします。
引き続き「インポテンス 2」をご覧下さい。
- 2019/03/12
- 【産科・婦人科疾患】月経痛について
女性にとって毎月1回はおとずれる月経。
それに伴ない下腹部痛、腰痛をはじめ不快な症状を訴える女性は少なくありません。
今日これから説明していきます体質・症状別にみた自分の月経痛のタイプを把握し、生活習慣を見直していきましょう。
▼西洋医学的な月経の診断・治療方法▼
西洋医学では月経困難症として治療していきます。
~機能性月経困難症~
子宮や卵巣に病的な異常を伴わず中等度の下腹部痛や頭痛、腰痛、吐き気、嘔吐、めまいなどの全身症状をあらわし10~20代を中心に多く見られます。
治療としては、主に鎮痛剤の処方になります。
~器質性月経困難症~
子宮の病気が原因で起こり、主に子宮筋腫や子宮内膜症などがあげられます。20~40代に多く見られます。
治療法は、それぞれ病気や程度により異なりますが主に
薬物療法として鎮痛剤、ホルモン療法、
手術療法として開腹手術、腹腔鏡手術があります。
西洋医学では、機能性と器質性別々のものとして診ていきます。
治療としては主に、器質性の方に重点がおかれます。
このように、西洋医学の特徴は診察や検査によって異常が認められたものを‘病気’とみなし、それに対して治療をしていくというものです。ですので、器質的疾患や手術を要する疾患には有効といえます。
▼中医学的な月経痛の診断・治療方法▼
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。
・痛む時間(月経前、中、後)
・痛む部位(下腹部やお腹の両脇、腰痛など)
・痛みの性質(刺すような痛み、絞られるような痛み、しくしくする痛み、温めると痛みは楽になるか、手を当てると心地良いかなど)
この他、月経血の状態、月経周期、随伴症状などを中医学独特の診断方法(後述)を用いて聞きだしていきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
▼中医学的からだのしくみ▼
~「気」「血」「水」とは~
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
~臓腑の働きとは~
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。
中医学的にみた婦人科疾患で重要な臓腑の働きは下記のようになります。
『肝』・・1.全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。
伸びやかな状態を好むため、精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。この状態を「気滞」(気の流れがとどこおる)といいます。
2.全身の血液量をコントロールし、蓄える働きがあります。
ですので、肝の働きが弱まってしまうと血液を蓄えることが出来なくなるため(肝が支配している器官である)目のかすみ、爪が割れやすくなる、手足がしびれる、筋けいれんが起こりやすくなったりします。
『脾』・・1.食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
2.エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
3.血を脈外に漏らさないようにする働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
『腎』・・生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。
このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
女性では、月経不順や不妊症、早期閉経、続発性無月経症などの原因になります。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
▼中医学的月経痛のタイプと治療法▼
主に、実証タイプと虚証タイプに分けることが出来ます。
体にとって必要な「気・血・水」、が上手く流れず滞ってしまう実証タイプと、「気・血・陰・陽」不足による虚証タイプがあります。
~実証~
●気滞血オタイプ●
気滞とは精神的ストレスに弱い「肝」が傷害され、「肝」の気がスムーズに流れなくなるとストレスを感受した場所に気が滞ってしまう状態です。
血オは血の巡りが悪く、停滞してしまう状態をいいます。
気は血を押し出す働きをしており、気滞により流れがスムーズでなくなると血までも滞ってしまいます。
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい、マイナス思考
○随伴症状
胸や脇、乳房がはって痛む、イライラしやすい、ガスやげっぷがでやすくなる、血のかたまりが出ると痛みは軽減する
○月経痛の特徴
痛む時期:生理前或いは、生理後1~2日はお腹が脹って痛む
部位:お腹の両脇または片側のみ
痛みの性質:脹った痛み、或いは刺すような痛み、手を腹部にあてるのを嫌がる
○月経血の特徴
生理周期:正常或いは、遅れる
月経量:少なめ
色:紫色っぽく、赤黒い色
質:レバー状のかたまりが血に混じっている
○治療法
気と血の流れをスムーズにし、調えていく『理気活血』、
それにより、停滞していた血のかたまりを流し、痛みを鎮めていく『化オ止痛』の治療をしていきます。
ツボ:太衝、合谷、気海、次リョウ、三陰交、
漢方:少腹逐オ湯
●寒湿凝滞(かんしつぎたい)タイプ●
寒の性質は、流れを滞らせる収斂作用があり、体の中に入ることにより気の流れを停滞させてしまいます。そのため痛みを生じます。
○主な原因
月経中や産後、寒冷にあたる(真夏のクーラーや真冬の冷たい風)、冷たいもの・生ものの食べ過ぎ
○随伴症状
冷えると下腹部が痛くなり、温めると楽になる、手足が冷える、軟便、おりものは多く、白っぽい
○月経痛の特徴
痛む時間:月経前、或いは月経中
部位:下腹部の真ん中
痛みの性質:冷えると痛み、痛みは温めると楽になる、手を腹部にあてるのを嫌がる
○月経血の特徴
月経周期:正常、或いは遅れる
量:少なめ
色:赤黒っぽい
質:レバー状のかたまりが血にまじる
○治療法
経絡を温めることにより全身(この場合特に子宮)の気の流れを調えていく『温経暖宮』、
停滞していた血のかたまりを流し、痛みを鎮めていく『化オ止痛』の治療をしていきます。
ツボ:関元(灸)、中極、水道(灸)、地機
漢方:温経湯、当帰四逆加ごしゅゆ生姜湯
●肝鬱湿熱(かんうつしつねつ)タイプ●
精神的ストレスに弱い「肝」が傷害され、「肝」の気がスムーズに流れなくなるとストレスを感受した場所に気が滞ってしまいます。
体全体の気の流れを促進させる働きのある「肝」が停滞してしまうことにより余分な水分と熱が下腹部内に(子宮を含む)こもることにより、下記のような症状が現れ、痛みを生じます。
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい、マイナス思考
○随伴症状
胸脇や乳房の脹った痛み、便秘、尿は黄色く濃い、おりものは日頃から黄色っぽく粘っこい・においがある
○月経痛の特徴
痛む時期:月経前或いは、月経1~2日目まで
部位:下腹部或いは、下腹部の両側
痛みの性質:下腹部内に灼熱感を感じる、手をあてられるのを嫌がる
○月経血の特徴
月経周期:正常或いは、早まる
量:多め
色:暗めの赤色
質:粘っこく、レバー状のかたまりが血にまじる
○治療法
体内にこもっている熱と、余分な水分を取り除いていく『清熱除湿』、
気の流れをスムーズにし、痛みを鎮める『理気止痛』の治療をしていきます。
ツボ:気海、次リョウ、行間、曲泉、陰陵泉
漢方:清熱調経湯、竜胆シャ肝湯
~虚証~
●気血虚弱タイプ●
体の活動源である「気」と、体内の各組織に栄養を与える「血」の不足により痛みを生じます。
○主な原因
虚弱体質、過労、睡眠不足、病気による体の消耗、汗のかき過ぎ
○随伴症状
顔色が白っぽいか、黄色っぽい、疲れやすく持久力がない、
胃がもたれやすい或いは脹る、胃腸が弱い、めまいや立ちくらみがある、生理ではないのに不正出血がある、風を引きやすい
○月経痛の特徴
痛む時間:月経中或いは、月経後
部位:下腹部の真ん中
痛みの性質:しくしくする痛み、下腹部に手をあてたり、揉むと気持ちがよい、月経の終わり頃から腰も痛く重くなる
○月経血の特徴
月経周期:正常或いは遅れる
量:少なめ
色:薄い赤色
質:水っぽくさらっとしている
○治療法
気と血を補い増やしていき、痛みを鎮める『補気養血止痛』の治療をしていきます。
ツボ:脾ユ、足三里、関元、三陰交
漢方:十全大補湯
●肝腎不足タイプ●
「肝」は血を貯蔵し、「腎」は精を貯蔵します。(詳しくは<中医学的からだのしくみ~臓腑の働き~>の項を参照してください。)この精と血はお互いに栄養し合い、必要に応じて、精は血に、血は精に変化します。そのため中医学では、肝腎同源、精血同源などと言います。この肝腎のエネルギーの不足により、協調関係が乱れ、痛みが生じます。
○主な原因
生まれつき虚弱体質、早婚、出産過多、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
めまい、耳鳴り、腰が重だるく不快感があり脚に力が入らない、
○月経痛の特徴
痛む時期:月経後
部位:下腹部或いは、腹部の両脇
痛みの性質:はっきりしない痛み、しくしくする痛み
腹部に手をあてられるのを好む
○月経血の特徴
月経周期:正常或いは、遅れる
量:少なめ
色:薄い赤色
質:水っぽくさらっとしている
○治療法
肝と腎の気を補い増やしていく「補益肝腎」、肝と腎の気を補うことにより血が作られ痛みを鎮める「養血止痛」の治療をしていきます。
ツボ:肝・腎ユ、関元、三陰交
漢方:調肝湯
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分の月経痛や月経血の特徴、随伴症状などからタイプを判断できた方はこれから説明していきますタイプに合った食養生を1つでも2つでも実践して見てください。体質が徐々に改善し体調が以前より良くなり、症状が軽くなっていくのを実感できると思います。
●気滞血於タイプ●
【生活習慣】
・イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、ヨガや気功などの呼吸法やストレッチでリラックスできる時間を作りましょう。その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
・お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
【食べ物】
~香りの高い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます~
(野菜)春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ、セロリ、
(果物)みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず
(お茶)ジャスミン茶、ミントティー
●寒湿凝滞タイプ●
【生活習慣】
・月経中に冷たい食べ物は避けましょう。
・夏場のクーラーによる冷やし過ぎや冬場の薄着には気をつけましょう。
【食べ物】
~体を温める性質の食べ物を摂りましょう~
(穀類)もち米
(野菜)にら、にんにく、ねぎ、生姜
(肉類)羊肉
(スパイス)唐辛子、コショウ、シナモン、黒砂糖
(お茶)生姜入り紅茶(甘くして飲みたい時は黒砂糖やはちみつ、麦芽糖を入れて)
~体を冷やす性質のある食べ物は極力避けましょう~
(野菜)きゅうり、トマト、冬瓜、苦瓜、レタス、なす、ごぼう、大根
(果物)すいか、なし、バナナ、柿、レモン
(豆類)豆腐、豆乳、緑豆
(お茶)緑茶、ウーロン茶、菊花茶、薄荷(ミント)茶、
●肝鬱湿熱タイプ●
【生活習慣】
・イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、ヨガや気功などの呼吸法やストレッチでリラックスできる時間を作りましょう。その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
・お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
【食べ物】
~香りの高い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます~
(野菜)春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ。セロリ、
(果物)みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず
(お茶)ジャスミン茶、ミントティー
●気血虚弱タイプ●
【生活習慣】
・消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。
・消化が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。
・スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。
・頭や目の使いすぎは血を消耗させてしまうので、この時期は極力長時間パソコン作業や、夜遅くまでの勉強、仕事は避けましょう。
・ダイエットによる食事制限も禁物です。
【食べ物】
~気虚の症状が多いタイプはエネルギーを益す食べ物を摂りましょう~
(穀類)うるち米、粟米、小麦製品
(豆類)大豆や大豆製品、牛乳
(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
(魚類)いか、貝柱、
(果物)なつめ、もも、さくらんぼ
(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶
~血虚の症状が多いタイプは血を補う食べ物を摂りましょう~
(穀物)黒豆、赤豆、もち米、小麦
(豆類)黒豆、豆乳
(野菜)ほうれん草、小松菜、
(肉類)動物のレバー、赤みの多い肉
(魚類)まぐろの赤身、牡蠣、しじみ
(木の実)黒ごま、クルミ、なつめ、
(ドライフルーツ)レーズン、プルーン、ブルーベリー
(お茶)竜眼茶、ライチ茶、クコの実茶
~体を冷やす食べ物、辛い食べ物、油っこく味の濃い食べ物は
胃を刺激し気を消耗させるので避けましょう~
辛い食べ物・・青唐辛子、ねぎ、コショウなど
冷やす食べ物・・すいか、バナナ、イチジク、なし、苦瓜、薄荷など
●肝腎不足タイプ●
【生活習慣】
・消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。
・穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。
・ダイエットによる食事制限は禁物です。
【食べ物】
~主に腎のエネルギーを補う食べ物を多く摂りましょう~
(穀類)うるち米、粟米、小麦製品
(豆類)大豆や大豆製品、牛乳
(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
(魚類)いか、貝柱、
(果物)栗、もも、さくらんぼ
(木の実)くるみ、なつめ、黒ごま、クコの実
(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶
▼その他日常生活での注意点▼
1.基礎体温を毎日つけましょう。
2.基礎体温を測ることにより自分の体の状態(体内リズム)を目でみてわかることが出来ます。
3.月経1週間前は、消化しやすく栄養に富んだ食べ物を多く摂るようにしましょう。
豆類、魚類の高たんぱく食、緑黄色野菜、果物、適度な水をバランスよく摂ることにより月経中に失われる血液を補うことができます。
4.月経後は栄養に富んだ食べ物を多く摂るようにしましょう。(たんぱく質、鉄、食べ物、主に、肉類、動物のレバー、牛乳、乳製品)
5.月経中は、体を冷やさないようにしましょう。
冷たい飲み物や冷たい風に直接あたらないよう気をつけましょう。
6.睡眠はしっかりとりましょう。
7.ストレスはためないよう、運動(ヨガ、気功など)、読書、散歩などで気持ちが安らぐ空間を持ちましょう。
●中医学を導入している鍼灸院は、それほど多くはございません。
ですので、 中医学的な治療を受けたいとお考えの方はお気軽に当院までご相談下さい。鍼灸・漢方全般 に関する相談も承ります。
- 2019/03/12
- 【外科・整形外科・皮膚科疾患】インポテンスについて2
○中医学の治療理論○
《弁証》
中医学では病気がどうゆう種類かということを「証」(しょう)と言います。その「証」を見極めることを「弁証」と言います。つまり、弁証とは簡単に言えば病気の原因や性質や状態などを見極めることです。もう少し具体的に説明しましょう。先程「生理観」のところでも述べましたが、健康であるためには「気・血・水」が適量 であり、スームースに流れていなくてはなりません。もし、その中のどれかのバランスが崩れると、重度・軽度はありますが、何らかの不調が現れてきます。弁証とは、何が原因で・何が・何処で・どの様に・バランスを崩しているのかを見極めるのです。ですから弁証といっても色々な弁証法があります。せっかくですから代表的なもの簡単に紹介してみましょう。
<八網弁証>
八網弁証とは病態を{陰―陽}・{表―裏}・{寒―熱}・{虚-実}に分ける弁証法で病気の性質を見極めるものです。
<気血津液弁証>
気血津液弁証とは気血津液の量や流れ具合などの病理状態を分析します。
<臓腑弁証>
臓腑弁証とはどの臓腑がどのように失調しているのか、臓腑の病理状態を分析します。
他にも代表的なものとして六淫弁証・経絡弁証・六経弁証などがありますが今回は割愛させていただきます。
そして、これらの弁証法はけして独立しているものではなく、一人の患者さんについて必要であれば様々な弁証法を用い、全てを総合させて患者さんがどのようにバランスを崩されているのかを分析するのです。
皆さんの中には「病証」とは現代医学の「病名」のことと思われる方もいらっしゃると思いますが、実は似ているようで少し違うのです。例えば現代医学で○○病と言われれば、その病名によって治療法が決まり、同じ病名の患者さんであれば基本的にはみな同じ治療が施されます。しかし「証」となると、もっと細かい分類になります。例えば今回のEDについても4つの分類があります。後で詳しく紹介しますが、この4つの分類についても皆さんにわかり易く説明するために代表的な分類法を使用しましたが、もう少し細かく分類しようと思えば9つ位 に分類することが可能です。もっと身近な例だと風邪があります。一言に風邪(感冒)と言っても中医学の弁証では7つ位 に分類ができ、すべて処方される漢方薬も異なってきますし、使用するツボも変わってきます。しかも風邪の場合などは同じ患者さんでも日によって違う弁証になることも珍しくありません。「弁証」とは病気を診るものではなく、あくまでも体の中のバランスの崩れを診るものなのです。
ところで我々はどの様に病態を分析していると思いますか?
針灸の先生が血液を採取したりレントゲンやCTを撮っていると思いますか?我々はそのようなことは一切行いません、その代わりに「四診」という手段を用います。「四診」とは中医学独特の診断法で、顔や舌など見る「望診」・臭いや声などを聞く「聞診」・体に触れたり脈をとったりする「切診」・質問形式の「問診」・の四つの方法から構成され、これら全てを考慮して弁証がでてきます。例えば患者さんの顔色・体臭・皮膚や目や耳の状態・発汗について・食欲・体格・年齢・性格・身のこなし・舌の形や色や苔について・脈の打ち方や早さ・発声・仕事・家庭環境・食べ物の趣味・睡眠状態・排泄物について・生理について・などなど様々なものを参考にします。問診については主症状以外に色々なことを尋ねます。患者さんにしてみれば「何で病気に関係ないことまで訊くのだろう?」と疑問に思う方も多いと思いますが、中医学は病気だけではなく患者さん全体は言うまでもなく、患者さんの周りの環境までも考慮にいれた診断を行います。そのあたりが中医学は「マクロの医学」とか「一人一人に合わせたオーダーメイドの医学」とか言われるところです。
ですから当院では初診の患者さんについては、問診だけで30分以上かかることも珍しくありません。
さて話しをもとに戻しましょう。
患者さんの病態がわかったら次には治療方針を考えます。
《治則と治法》
中医学の治療理論は治則と治法に分けられます。
治則とは治療の根本的な原則で、標治と本治と標本同治の3種類あります。
治法とはそれぞれの疾患に対しての具体的な治療法のことです。
簡単に言えば、治則は治法を導き出すための大原則です。つまり、「弁証」により病気の状態がわかり、次に「治則」による治療の方向性を出し「治法」で具体的な治療法を考えるのです。そして最後に「治法」にそって漢方薬は処方され使用するツボが決まるのです。
《【理・法・方・薬(穴)】という大原則》
『理・法・方・薬(穴)』とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。
「理」とは理解と言う意味で、具体的には「四診」や「弁証」により病気を理解することをさします。
「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。
「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。
「薬(穴)」とは薬やツボの知識をさします。
つまり、本来の臨床の現場では「四診」により「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われるのです。逆を言えば、「理・法・方・薬(穴)」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。
問診もろくにしないで痛い所やコリが在る所に針をうったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。
さて、それではEDについて中医学の視点から説明をしてゆきましょう。そして、皆さんに中医学の病気の捉え方・診断・治療がイメージしてもらえたら幸いに思います。
▼ 中医学から診たインポテンス(ED)▼
○ 概要○
中医学ではEDのことを『陽痿』(陽萎){ようい}と言います。陽痿の原因が「腎の陽の気」の不足が多いことから、このように呼ばれているようです。古くは、陰茎が萎えることから『陰萎』と呼ばれたり「陰器不用」とも呼ばれました。
概要は西洋医学と殆んど同じで、男性が性機能が衰退する年齢に達する前に、陰茎の勃起不全や勃起の持続不足によって性交ができないものをいいます。陽痿は治療しにくい病気の一つで、特に器質的な原因によるものは難しいとされています。
陽痿は肝・脾・腎・心が関係し、陰茎は宗筋(筋肉の一種)が関与します。主な病因は過度の性交・ストレス・恐怖・湿などによります。
○ 陽痿のタイプ分け○
さて、中医学では一言に陽痿といっても、病因病機によって下記の1~4の4つに分類されます。そして病因・病機が違えば当然弁証名や随伴症状が違ってきます。
1.命門火衰による陽痿・・・弁証名は【命火衰微陽痿】
2.心脾労損による陽痿・・・弁証名は【心脾両虚陽痿】
3.湿熱による陽痿・・・・・弁証名は【湿熱下注陽痿】
4.七情内傷による陽痿・・・弁証名は【恐惧傷腎陽痿】叉は【肝気鬱結陽痿】
では、それではそれぞれについての病因病機・症状・治療方針を説明してまいります。
【命火衰微陽痿】
<概要>
「命火衰微陽痿」の「命火」とは『生命の本元の火』の意味があります。また、腎の生理で説明した腎陽と同じです。つまり、生殖や成長の根幹です。「命火衰微陽痿」とは、この「命火(腎陽)」が衰えてしまっておこる陽痿です。
<原因>
1. 過度のマスターベーション 2. 過度の性行為 3. 過度の驚恐 4. 慢性病 5. 加齢
1~4は腎精を損耗させます。また、加齢については腎精が衰えてくることです。そして、腎陽は腎中の精気から作られており、腎陰により滋養されています。また、腎精は腎陰に属します。ですから、腎精の不足は腎陽の不足をまねきます。
<症状>
□ 主症状
*勃起しないか、 勃起しても堅くならない‥‥‥ *性交と関係なく精液が漏れる‥ *精液が薄い冷たい‥‥‥‥‥‥ *冷やすと症状が悪化する 陰部や下腹部の冷え‥‥‥‥‥ *徐々に発病‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
腎陽の不足により陰茎を支えられない。 腎精の不足により精液の固摂ができない。 腎陽の不足により腎精の減少と冷えが現れた状態 。
腎陽不足による冷えの症状。 虚証の特徴。 |
□ 随伴症状
*めまい・耳鳴り・健忘‥ |
腎精不足により脳が滋養されないため起こる。 |
*脱毛‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
「腎の華」である髪が腎精不足で滋養できないと起こります。 |
*歯が弱い‥‥‥‥‥‥‥ |
歯は骨の余りと考えます。腎精不足で骨が滋養できないと起こります。 |
*手足が冷える・寒がり‥ |
腎陽不足の冷えの症状。 |
*精神不振‥‥‥‥‥‥‥ |
陽虚の温煦不足が気虚による推動力の低下をさらに悪化させて起こります。 |
*腰や膝がだるく冷える‥ |
腎精不足で腰の滋養が出来ず、更に腎陽不足の冷えによります。 |
*顔色が白い‥‥‥‥‥‥ |
陽虚により気血を顔面 に温運できずに起こります。 |
舌の色は淡く苔は白い・舌が淡いのは顔色が白いのと同じ理由です。苔が白いのは温煦不足により湿に冷えが入ると現れます。
<誘発素因>
腎精不足の原因がそのまんま誘発素因になります。
1. 過度のマスターベーション 2. 過度の性行為 3. 加齢 4. 慢性病 5. 過度の驚恐
<治療>
腎の温める力が不足しているのですから、「温補腎陽」や「温補元陽」といい腎陽を温補して宗筋の温陽を促します。
ツボ:三陰交・中極・関元・命門・腎兪・太谿・気海
漢方:五子衍宗丸・賛育丹・八味地黄丸・海馬補腎丸
【心脾両虚陽痿】
<概要>
心と脾の損傷により気血が不足するために起こる陽痿です。脾は運化作用といって飲食物を気や血に化成させていますが、脾が損傷を受け運化作用が失調することにより気血不足が起こります。一方、通 常心は脾から送られてきた血を全身に循環させていますが、脾気虚により血の生成の不足がおきているので心へ送られてくる血量 も減ってしまい、心血の不足をきたします。そして心血の不足は全身の血液不足をきたします。
この状態を『心脾両虚証』と言います。又、脾気と心血が不足しているのですから『気血両虚』と同じで、気血が生殖器を栄養できなくて陽痿が起こります。
<原因>
1. 精神消耗 2. 脾胃虚弱 3. 慢性病
「脾は思を主り、心は神明を主る」と言われており、脾や心は精神・意思・思惟と深くつながっていることは先程も説明しました。ですから憂鬱・思い悩みなどの精神的消耗は脾気や心血を損耗させてしまいます。
また、もともと脾胃虚弱な場合は気血の生成が足りずに気血不足がおこります。他には慢性疾患も気血を消耗させます。
<症状>
□ 主症状
*陽痿‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
脾気虚と心血虚のため陰茎を養えずに起こります。 |
*徐々に発病‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
虚証の特徴です。 |
*疲労で増悪・精神的にも 性行為に積極性がない‥‥‥‥ |
気虚を意味します。 |
□ 随伴症状
*息切れ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
気虚により「推動作用」が失調して呼吸活動が障害されておこります。 |
*汗をかきやすい‥‥‥‥ |
気虚により「固摂作用」が失調して起こります。 |
*軟便・むくみ‥‥‥‥‥ |
脾気虚により「運化水液作用」の減退により水湿が停留しておこります。 |
*食欲不振‥‥‥‥‥‥‥ |
脾の運化作用の減退により胃の受納に影響をおよぼしておこります。 (胃の受納:胃の働きの一つで飲食物を胃が受け入れることをいいます。) |
*めまい‥‥‥‥‥‥‥‥ |
血虚により脳髄(脳)が栄養されずにおこります。 |
*唇や爪の色が淡い‥‥‥ |
血虚により栄養されずにおこります。 |
*動悸・不眠 夢をよくみる‥‥‥‥‥ |
血虚により心神を栄養できずにおこります。 |
*顔色は黄色で艶がない‥ |
血不足で顔を栄養できなくて起こります。 |
*舌の色は淡い‥‥‥‥‥ |
気血不足を意味します。 |
*脈弱く細い‥‥‥‥‥‥ |
弱い脈は気虚、細い脈は血虚を意味します。 |
<誘発素因>
肉体的疲労や精神的疲労
<治療>
心と脾が損傷を受けているのですから「補益心脾」といって心と脾を元気にしてあげます。
ツボ:中極・三陰交・脾兪・太白・足三里・心兪・神門・内関・ダン中
漢方:帰脾湯・桂枝加竜骨牡蠣湯・五子地黄湯
【湿熱下注陽痿】
<概要>
湿熱による陽痿は『湿熱下注』(しつねつかちゅう)と言います。
津液のところで説明しましたが体内の不要な水液は「湿」を形成し、さらにこの「湿」の停滞が長引くことにより熱化してしまい「湿熱」へと変化します。さらに湿は体の下部を侵す易い性質がありますから、湿熱が体の下部へ侵入して様々な症状をもたらします。これを「湿熱下注」と言います。概要のところで触れましたが、陰茎は宗筋という筋肉が関与しています、下部へ移行してきた湿熱がこの宗筋に浸透すると宗筋は弛緩してしまい勃起不能が引き起こされます。
<原因>
1. 飲食物の不節 2. 痰湿体質 3. ストレス
油っこいもの・甘いもの・味の濃いものを偏食したり、酒を常飲していると「脾」「胃」の機能が低下してしまい「気化作用」が失調を起こし、飲食物の消化吸収能力が低下してしまいます。その結果 、体内に不要な水液が生まれます。また、元々体内に不要な水液が溜まり易い体質も原因になります。
ストレスは「肝」を失調させます。「肝」は「疏泄作用」といって全身の「気」の運行を調節しています。
ストレスによりこの「疏泄作用」が失調をおこすと、全身の気の運行に障害が出て、二次的に「脾の運化作用」の低下を招きます。このことによりストレスが原因で「湿」が生まれるケースもあります。
<症状>
この場合は「湿熱」が原因なので「湿」と「熱」による症状がでてきます。
□ 主症状
*勃起不全‥‥‥‥‥‥‥‥ *陰嚢に灼熱感・湿り気 腫れ痛み・痒み・臭い‥‥ |
下注している湿熱により気血の流れが塞がれておこります。
これも湿熱の症状です。 |
また、急激に発症する特徴もあります。これは、先程説明した「実証」の特徴です。
□ 随伴症状
*むくみやすい‥‥‥‥ |
脾の運化作用の減退により体内に水湿が停滞している状態です。 |
*下半身が重だるい‥‥ |
湿の重濁の性質で下半身に影響がおよびおこります。 |
*泥状便‥‥‥‥‥‥‥ |
湿が腸内に下注し粘滞の性質が大便に影響を及ぼした状態です。 |
*黄色の痰がでる 小便の量は少なく 黄色 喉の渇き 顔や頬が赤い‥‥‥‥ |
熱の症状です。 |
*舌は赤く 黄色の苔がある‥‥‥ |
舌の赤は熱・苔は湿・黄色の苔は湿熱の症状です。 |
*黄色の痰がでる‥‥‥ |
痰は湿で黄色は熱を意味します。つまり湿熱を意味します。 |
*イライラ、起こり易い |
疏泄失調により情志の調節ができない状態です。 |
<誘発素因>
過度の飲酒・油っこい物、甘い物、味の濃い物の過食・ストレス
<治療>
原因が湿熱ですから、治法は『清熱利湿』といい、熱を下げ湿をとる方針で治療を行います。
ツボ:中極・三陰交・陰稜泉・足三里・豊降などを使用します。
漢方薬:竜胆瀉肝湯・知柏地黄湯
【恐惧傷腎陽痿】【肝気鬱結陽痿】
<概要>
七情内傷による陽痿には「恐惧傷腎陽痿」と「肝気鬱結陽痿」があります。
病因に含まれる「内因」には「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の七情があることは「病因」のところで説明いたしましたが、この七情のなかで過度な怒・驚・恐・憂などにより気血が失調を起こし陰茎を栄養できないタイプの陽痿です。具体的な例としては、精神的刺激により性生活に自信がなくなったり、不安になって起こることが多いようです。
【恐惧傷腎陽痿】
恐怖によって腎が傷つけられ、心神不安を起こすために現れる陽痿です。腎は生殖に深く関与していますので、腎が損傷を受ければ生殖に影響がでるのは容易に想像がつくと思います。
<原因>
1. 驚き 2. 恐怖
古典では「驚けば気乱れ、恐れれば気下がる」と言われ、驚きや恐れは気血の失調をきたし、心や腎にも損傷を与えます。
<症状>
□ 主症状
*勃起不全‥‥‥‥‥ |
心や腎の損傷に陰茎を栄養出来ずにおこります。 |
平素は勃起するが性交時には不安や恐怖で勃起しない。
本疾患は虚証でありますが例外的に急激に発症します。
□ 随伴症状
*不眠・動悸‥‥‥‥ |
血の不足で心血虚となり心神が滋養できないと起こります。 |
*顔色に艶がない‥‥ |
血の不足で顔面 を滋養できないとおこります。 |
*めまい‥‥‥‥‥‥ |
血不足で頭目を滋養できないと起こります。 |
*耳鳴・難聴‥‥‥‥ |
腎は耳と深く関係しているため、腎精不足ために起こります。 |
*健忘・精神疲労 めまい‥‥‥‥‥‥ |
腎精は脳を滋養していますので腎精不足でおこります。 |
*足腰がだるい‥‥‥ |
「腎の府」である腰が腎精不足で滋養できないと起こります。 |
*脱髪‥‥‥‥‥‥‥ |
「腎の華」である髪が腎精不足で滋養できないと起こります。 |
*歯が抜ける‥‥‥‥ |
歯は骨の余りと考えます。腎精不足で骨が滋養できないと起こります。 |
<誘発素因>
性交時(特に初回)に精神的ショックを受けることで発症しやすい。
<治療>
この場合は驚きや恐怖により腎と心が損傷されているわけですから治法は「補腎養心」とか「補腎安神」といい腎精を補って宗筋を滋養し心を補って精神を安定させます。
ツボ:中極・三陰交・関元・命門・志室・太谿・心兪・神門・内関・ダン中
漢方:大補元煎
【肝気鬱結陽痿】
肝気鬱結とは肝の気が停滞を起こした状態を言います。そしてこの状態は数タイプの陽痿をおこします。
先程も説明しましたが、肝気が鬱結を起こすと「疏泄作用」が失調して湿が生まれてしまい「湿熱下注」の原因になります。
また、「疏泄作用」の失調が「脾」に影響をおよぼせば気血の生化ができなくなり心脾両虚陽痿の原因にもなります。
他には、肝に貯蔵されている肝血は筋肉の働きの維持をしております。そして陰茎は宗筋という筋肉が関与しています。肝気の鬱結が肝血を損耗させてしまえば宗筋を養うことができず陽痿がおこります。
<原因>
1. 怒り 2. 憂鬱
先程も述べましたが肝はノビノビしたりスムースで秩序だった状況を好むといわれています。イライラ・怒り・憂鬱などのストレスは肝の気の停滞をひき起こしてしまいます。
<症状>
□ 主症状
*勃起不全‥‥‥‥‥ |
肝の気は陰部も流れます。肝気の停滞により肝血の消耗がおこり陰茎を栄養できずにおこります。 |
□ 随伴症状
*イライラ・怒りっぽい‥‥‥ |
疏泄失調により情志の調節ができない状態です。 |
*胸や脇が張った感じがする‥ |
肝の気は胸脇部を流れていて、気が停滞すると張ったような痛みが気の流れるルート上に現れるので、胸や脇が張った感じがします。 |
*よくため息をつく‥‥‥‥‥ |
疏泄作用の失調により胸中の気がスムースに流れない。 |
*舌の色が紅色‥‥‥‥‥‥‥ |
気の停滞が熱化した状態。 |
*脈は細く弦をはじく様で 速い‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
細い脈―肝血不足・弦をはじく脈―肝鬱・速い脈―熱 |
<治療>
この場合は肝の気が停滞をしているわけですから、「疏肝解鬱」と言って肝の気を流してあげます。
ツボ:中極・三陰交・太衝・期門・陽陵泉
漢方:加味逍遙散・達鬱湯
以上がEDの弁証論治です。一言に『インポテンス』といっても、原因の違いによって随伴症状が様々であることがわかっていただけたと思います。我々はこの様に多くの随伴症状を参考にして、患者さんの体の中でおきているバランスの崩れを見つけてゆきます。そしてもう一つ皆さんにわかっていただきたいことは、同じEDでも原因や随伴症状が違えば漢方薬や使用するツボが違うということです。これは、先程も述べましたが中医学の治療は身体全体のバランスの崩れを改善してゆくものです。ですからEDという主症状が同じでも、「気・血・水」のバランスの崩れ方が違えばおのずと治療の方針も違ってくるのは当たり前のことです。
いかがですか、中医学の治療の考え方が少しは理解していただけましたでしょうか。
次に養生法を少し紹介しますが、EDで一番大切なことは原因の改善や危険因子の排除になります。現代医学でも中医学でもEDの原因で一番多いのは精神的影響と言われております。精神的影響には何らかの原因がありますので、その原因の改善が完治の近道です。逆を言えば、いくら治療をしても原因や危険因子の改善又は排除が出来なければ、治療が長引いてしまったり、再発の可能性も高くなってしまいます。
EDは恥ずかしい病気ではありませんので、けして一人で悩まずに専門家に相談してください。
最後EDによいと言われる食物と薬膳を紹介します。
<EDに適する食物>
羊肉・牛腎・豚腎・鰻・鰕・穴子・栗・蓮子・胡桃・胡麻
<EDに適する薬膳>
1.すっぽんスープ 2. 韮餃子 3. 山薬団子などがあります。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
- 2019/03/12
- 【産科・婦人科疾患】月経不順1~診断編~
女性ホルモンの分泌量は年齢に応じて変化します。それにより女性のからだは変化しますがストレスなどでバランスが崩れると、月経異常を引き起こすこともあります。ただし思春期や更年期にあたる人の場合は周期に少し誤差が生じてくるのがふつうです。
気になる月経不順の種類となぜ起きるのかを知り、生活習慣を見直していきましょう。
●正しい生理●
・生理周期:生理が始まった日から次の生理が始まる前日までの日数をいいます。理想は28日周期ですが、通 常は24~35日が正常な範囲です。周期は一定していることが重要です。
・生理期間:生理開始日から完全に生理が終わる日までの日数をいいます。通 常は3~7日が正常な範囲です。
・月経血状態:1日目はやや少なく、2~3日目は多く、その後は少しずつ少なくなります。
・月経血の色:やや暗めの赤色で、固まりはあまり出ないのが正常です。
●西洋医学的な月経不順の診断・治療方法●
大きく分けて「周期の異常」と「月経量の異常」に分けられます。
~周期の異常~
「頻発月経」・・周期が25日前後と短い月経のことをいいます。治療としては、主に排卵誘発療法や黄体機能賦活療法をおこないます。
「稀発月経」・・最終月経から1ヶ月以上月経がない状態をいいます。治療としては、主に排卵誘発療法がおこなわれます。
~月経血の異常~
「過多月経」・・月経の量が多かったり、8日以上も続いたりする場合をいいます。治療としては、主にホルモン補充療法をおこないます。
「過少月経」・・月経の量が少なかったり、2日程度と日数が短い場合いいます。治療としては、ホルモン補充療法をおこないます。
このように、西洋医学の特徴は診察や検査によって異常が認められたものを‘病気’とみなし、それに対して治療をしていくというものです。ですので、器質的疾患や手術を要する疾患には有効といえます。
●中医学的な月経不順の診断・治療方法●
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。
・月経量(多い・少ない・ふつう)
・色(淡・紅・紫・暗)
・性質(さらっとしている、粘っこい、血のかたまりがでる)
・おりもの(色・におい・量)
・月経に伴う不快な症状(腰痛・腹痛・嘔吐・頭痛・乳房が脹る)
この他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し、なぜ周期が早まったり、遅まったり或いは、月経量 が多かったり、少なかったりするのかを中医学独特の診断方法(後述)を用いて聞きだしていきます。その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
●中医学的からだのしくみ●
~「気」「血」「水」とは~
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
~「臓腑の働き」とは~
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてが出来るです。この点をまず理解してください。
中医学的にみた婦人科疾患で重要な臓腑の働きは下記のようになります。
「肝」・・1.全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。伸びやかな状態を好むため、精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。この状態を「気滞」(気の流れがとどこおる)といいます。
2.全身の血液量をコントロールし、蓄える働きがあります。
ですので、肝の働きが弱まってしまうと血液を蓄えることが出来なくなるため (肝が支配している器官である)目のかすみ、爪が割れやすくなる、手足がしびれる、筋けいれんが起こりやすくなったりします。
「脾」・・1.食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
2.エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
3.血を脈外に漏らさないようにする働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
「腎」・・生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。女性では、月経不順や不妊症、閉経などの原因になります。「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
●中医学的月経不順のタイプと治療法●
主に周期による異常(月経先期、月経後期、月経先後不定期)と月経量 の異常(月経過多、月経過少)に分けられます。
これから症状ごとに分類していきますが、誰もが必ずぴたりとタイプに当てはまるわけではありません。2~3つ併せ持っている方もいますので、その時は自分が多くもっている症状の項をメインにみてください。
【A 月経が早く来る場合(月経先期)】
月経周期が7日以上早まったり、また月に2回月経があったりする状態をいいます。月経先期は主に以下の3つのタイプに分けられます。
★血熱タイプ★
血熱とは、熱が体内にこもりやすく、その熱が血液の中に入ることにより出血しやすい、発疹ができやすい、熱症状などがみられます。
○主な原因
香辛料や辛いものの食べ過ぎ、お酒の飲みすぎ、日頃からイライラしやすいなど
○随伴してよくみられる症状
顔がほてる、口が乾燥する、尿は黄色く、便はコロコロの乾燥した便、にきび・吹き出物が出来やすく、色は赤く、化膿 しやすい
○月経血の特徴
色:ピンク色っぽい淡い赤色
量:少なめ
質:水っぽくさらっとしている
*以前に比べて、量は少なく、日数が短くなったもの
○治療法
体内にこもっている熱と血にある熱を取り除く「清熱涼血」の治療をしていきます。
ツボ:合谷、曲池、行間、隔ユ、三陰交
漢方:イライラする症状が強い・・加味逍遥散
出血症状がある時・・・黄連解毒湯、三黄シャ心湯
にきびがある時・・・荊芥連翹湯
★脾気虚タイプ★
エネルギーを作り出す「脾」の働きが低下することにより
疲れやすいなどスタミナ切れの症状がでてきます。
○主な原因
睡眠不足、過労、汗のかき過ぎ、病気による体力消耗、ダイエットなどによりエネルギーの生成不足、消耗のために引き起こされます。
○随伴してみられる症状
疲れやすく、体がだるい、話すのがおっくう、胃腸が弱く少し食べただけでも、もたれる、下痢、軟便もしくは、便意のない便秘
○月経血の特徴
色:ピンク色っぽい淡い赤色
量:多め
質:水っぽくさらっとしている
*以前に比べて、量は少なく、日数が短くなったもの
○治療法
脾を元気にし、エネルギーを益す「健脾益気」の治療をしていきます。
ツボ:脾・胃ユ、足三里、中カン、三陰交
漢方:主に四君子湯、六君子湯、
気が不足し内臓の下垂症状がある時・・・補中益気湯
気が不足し出血症状がある時・・・帰脾湯
★腎気虚タイプ★
○主な原因
先天的に虚弱体質、早婚、出産過多、長期間の過労、性交過多などによる腎のエネルギーを損傷させてしまい血が十分供給されないために起こります。
○随伴してみられる症状
腰が重くだるい、めまい、耳鳴り、難聴、尿は色がうすく量は多い、夜間頻尿
○月経血の特徴
色:うすい赤色
量:少なめ
質:水っぽくさらっとしている
○治療法
腎のエネルギーと血を補い、月経を調えていく「補腎益気養血調経」の治療をしていきます。
ツボ:腎ユ、太ケイ、関元
漢方:大補元煎、八味地黄丸
【B 月経が遅く来る場合(月経後期)】
周期が毎月7日以上遅れ、あるいは40~50日に1回、2~3ヶ月に1回といった状態をいいます。しかし、月経期間は正常です。
月経後期は主に以下の5つのタイプに分けることができます。
★血虚タイプ★
血虚とは、血が足りないために現れる症状です。
そのため血の作用である、体に栄養、潤いを与える働きが低下してしまいます。
○主な原因
虚弱体質、偏食、夜更かしにより、血がうまく生成されません。また、大手術や大出血のあと、頭や目の使いすぎ、多産のため授乳が多い思い悩み、考えすぎにより血の消耗をまねきます。
○随伴してみられる症状
顔色が悪い、コロコロの便、乾燥肌、髪の毛が抜けやすい、浅い睡眠、夢を多くみる、爪がうすくて割れやすい、めまい、立ちくらみ、動悸
○月経血の特徴
色:ピンク色っぽい淡い赤色
量:少なめ
質:水っぽくさらっとしている
*以前に比べて、量は少なく、日数が短くなったもの
○治療法
気と血を補う「補気養血」です。
気も一緒に補うことにより、血を生み出す働きが強まります。
ツボ:気海、三陰交、隔兪、脾兪、足三里
漢方:人参養栄湯、当帰芍薬散
★肝鬱気滞(かんうつきたい)タイプ★
肝鬱気滞とは、精神的ストレスに弱い「肝」が傷害され、「肝」の気がスムーズに流れなくなるため、気がストレスを感受した箇所に滞り(とどこおり)鬱々とした気持ちが生じやすくなります。
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい人、マイナス思考
○随伴してみられる症状
生理前・中に胸や脇・下腹部が脹って痛む、イライラしやすい、ため息がよくでる。
これらの症状はストレスにより悪化します。
○月経血の特徴
色:少し暗めの赤色
量:多かったり、少なかったりとさまざま
質:レバー状のかたまりが出る
○治療法
肝の気のめぐりをよくし、調えていく「疏肝解鬱」です。
ツボ:肝ユ、太衝、ダン中、内関
漢方:四逆散合当帰芍薬散、加味逍遥散
★血寒凝滞(けっかんぎょたい)タイプ★
‘寒’の性質は、流れを滞らせる、収斂作用があり、これが血に入ることにより流れが緩慢になり、運行の失調をまねきます。血寒は以下の2つのタイプに分けられます。
○主な原因
1.実寒タイプ・・月経前・中に冷たいものの食べ過ぎ、
寒冷にあたる(冷房や真冬の冷たい風)
2.虚寒タイプ・・もともと冷え体質の人が寒冷にあたる、薄着(とくに下半身)、
冷たいものや体を冷やす食べ物の食べ過ぎ
○随伴してみられる症状
冷えると下腹部が痛くなり、温めると痛みは軽減する、下半身が冷えやすい、顔色は青白っぽい
○月経血の特徴
色:黒っぽい赤色
量:少なめ
質:大きなレバー状のかたまりが血に混じる
○治療法
1.実寒タイプは、経絡(エネルギーの通り道)を温め寒さを散らし、月経を調えていく「温経散寒調経」の治療をしていきます。
ツボ:関元、中極、三陰交、次リョウ
(お灸も一緒にすると効果が高まります)
漢方:温経湯、当帰四逆加ごしゅゆ生姜湯
2.虚寒タイプは、体の中を温めてくれる陽気を増させるとともに、血を補い、月経を調えていく「温経扶陽養血調経」の治療をしていきます。
ツボ:腎ユ、命門、三陰交、次リョウ
漢方:大営煎、八味地黄丸合四物湯
★腎気虚タイプ★
「A 月経が早まる場合」の腎気虚タイプを参照して下さい。
★痰湿タイプ★
「脾」のエネルギーが足りないために、食べた物が気・血・水に変わらず、そのまま停留してしまった状態を「痰湿」といいます。性質は、粘々し、気血の流れを阻みます。
○原因
冷たい水分の取りすぎ、甘いもの、生ものの取りすぎ
○随伴して見られる症状
白いおりものが多くでる、水太り体質、体が重だるい、痰が多くでる、胸や胃のあたりがもたれる、吐き気、嘔吐をもよおす、手足・目のむくみ
○月経血の特徴
色:うすい赤色もしくは、黒っぽい赤色
量:少なめ
質:粘っこい
○治療法
「燥湿化痰活血調経」
ツボ:(鍼)足三里、中カン、豊隆、陰陵泉、
(お灸も一緒にすると効果が高まります)
漢方:二陳湯、五苓散
★血オ(けつお)タイプ★
血が経絡(エネルギーの通り道)に停滞し、気・水の流れを阻むことにより関節痛などの固定痛、内出血をしやすい、きれいな血が全身へうまく供給されないため皮膚が乾燥しやすい、知覚の低下、しびれなどが起こります。また、血が停滞した部位 に固いしこりができ痛みを助長させます。
○原因
ストレス、冷え、外傷、打撲、手術によるうっ血、過労
○随伴してみられる症状
固定した・刺されるような痛み、或いは絞られるような痛み、
顔色(とくに目のまわり)の黒ずみ、口・唇がくすんだ紫色、
青あざができやすい、皮膚がカサカサする
○月経血の特徴
色:赤黒い色
量:多め
質:粘りがあり、レバー状のかたまりが血に混じる
○治療法
血の流れを良くし、停滞したしこりを取り除いていく「活血化オ」の治療をしていきます。
ツボ:隔ユ、血海、三陰交、足三里
漢方:桂枝ぶくりょう丸、折衝飲、桃紅四物湯
【C 月経が早く来たり遅く来たりする場合(月経先後不定期)】
周期が定まらず、早まったり遅れたりする状態をいいます。
主に肝鬱気滞、脾気虚タイプ、腎気虚タイプにみられます。
★肝鬱気滞タイプ
「B 月経が遅く来る場合」の肝鬱気滞タイプを参照してください。
★脾気虚タイプ
「A 月経が早まる場合」の脾気虚タイプを参照してください。
★腎気虚タイプ
「A 月経が早まる場合」の腎気虚タイプを参照してください。
【D 過多月経】
月経量が普通より多かったり、あるいは日数が長くなる状態をいいます。
主に脾気虚タイプ、血熱タイプ、血オ(けつお)タイプにみられます。
★脾気虚タイプ
「A 月経が早く来る場合」の脾気虚タイプを参照してください。
★血熱タイプ
「A 月経が早く来る場合」の血熱タイプを参照してください。
★血オ(けつお)タイプ
「B 月経が遅く来る場合」の血オタイプを参照して下さい。
【E 過少月経 】
月経量が少ないか、あるいは日数が短いもので、甚だしいときは無月経となります。
主に血虚タイプや血オタイプに多くみられ、血寒凝滞や腎気虚、痰質タイプにみられます。
★血虚タイプ
「B 月経が遅く来る場合」の血虚タイプを参照して下さい。
★血オタイプ
「B 月経が遅く来る場合」の血オタイプを参照して下さい。
★血寒凝滞タイプ
「B 月経が遅く来る場合」の血寒凝滞タイプを参照して下さい。
★腎気虚タイプ
「A 月経が早く来る場合」の腎気虚タイプを参照して下さい。
★痰湿タイプ
「B 月経が遅く来る場合」の痰湿タイプを参照して下さい。
それぞれのタイプに合った生活養生・食養生は『月経不順・2~食養生篇』をご覧ください。
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:00~ 12:00 |
〇 13:00まで | 休 | 〇 | 〇 | 〇 | 休 | 〇 |
14:00~ 16:30 |
休 診 |
診 | 〇 | 〇 | 〇 | 診 | 〇 |
※ 火曜日・水曜日・木曜日が祝祭日の場合は午前診療となります。
※ 当院は予約制です。
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