コラム

2019/03/12
【その他】眠気について

嗜睡(嗜眠)とは?

 

昼夜問わず、眠りたがるものをいいます。

睡眠時間を十分とっているのにも関わらず、体がだるいのは何故?

気力が湧かないのは何故?

と考えた事がある方はたくさんいらっしゃると思います。

このような症状は西洋医学で、検査の数値には出てこないお体の悲鳴です。

西洋医学では解明されない体調を東洋医学(中医学)の視点から見ていくと原因が明らかになることが多々あります。

 

太陽の陽気が上がっているのに眠いのは何故でしょうか?

中医学は陰陽五行説という哲学的理論に基づいています。

世の中の事象は陰陽に分けられると考えます。

太陽の出ている昼間は「陽」太陽が沈んだ後の夜は「陰」

世の中は陰と陽という相対的な考え方によって成り立っています。

陽気が上がっていると、人間は活動的になります。

「陽」は「動」の働きを持っており、「陰」は「静」の働きをもっています。

したがって陰が盛んになってしまっている状態(気が活動性を満たしていない状態・気力のない状態)を、東洋医学では嗜睡と考えます。

 

この症状がある方は根本的に

胃腸機能の低下(中医学では「脾」の臓器が低下していると考えます)

がお体に体調不良を起こして四六時中眠いという症状をもたらしています。

 

胃腸機能の「機能」とは中医学では「気」の持っている作用のことです。

「気」は陰陽で言えば「陽」になります。

「陽」の性質を持つ「気」のエネルギーを損なうことにつながります。

根本的に「脾」の胃腸機能低下が原因となって体調不良を起こしている訳です。

それなので胃腸機能低下に伴う他の症状もおのずと出てきてしまいます。

 

嗜睡はタイプ別に分けるとおおまかに2つに分けられます。

 

中医学で言う

タイプ① 湿困脾陽によるもの

治法(治療方法)

健脾化湿…消化吸収系の機能を高め、体内の不必要な水分を取り除きます。

 

タイプ② 脾気虚によるもの

治法(治療方法)

温陽健脾…活動の基である「陽」を温め、消化吸収に関わる「脾」を活発にさせます。

益気化湿…滅入りがちな気持ちを引き立て、体内の余分な水分を取り除きます。

 

これから細かく体調の分析をしていきますので、ご自分がどちらのタイプに属するのか参考にしながら読んでみて下さい。

 

タイプ①

湿困脾陽によるもの

 

~ 身体が重だるい ~

人体には非常に多くの水分が含まれており、生理上重要な役割を果たしています。

人体に必要な水分を中医学では津液といいます。

必要な水分(津液)はいったん汚く濁ってしまうと、反対に生理代謝を阻害してしまいます。

そこで病邪として人体を襲う「湿」も濁って汚いというイメージでとらえられています。

このほか濡れた衣服が重いように、「湿」は「重い」という性質をもっています。

したがって「湿」が体表に侵入すると身体や四肢が重だるくなり、 関節に停留すると重く痛んで動作が障害され、分泌物や排泄物も濁って汚いものになります。

 

体質的に水太りになりやすい方や、湿気の多い梅雨の時期に湿邪が身体に侵入すると上記のような症状な症状が発生しやすくなります。

 

~ 胸悶感・食欲不振 ~

臓腑経絡中に「湿」が渋滞すると、気の活動は渋滞を起こし、気の運動形式を失調させたり、経絡の運行を障害します。

 

経絡とは臓腑で生成された気血が流れる通路で全身の栄養と機能調節を促進する作用があります。

 

食欲不振は、飲食物をエネルギーに変えて、全身に輸送する生理機能が減退し、胃の受納(飲食物を胃に送ること)に影響すると起こります。

 

~ 便が軟らかい(大便溏薄)~

一般に濁って汚い水は清らかな水に比較すると、どろっとして粘ついた感じがします。

そこで「湿」は津液(人体に必要な水分)とは違って、粘滞性が強いと考えられており、湿邪に犯されると、排泄物などがべとついたり、大小便の切れが悪くなかなかふき取れないなどの症状が現れます。

運化水液作用は運化水液作用が減退し、腸中に水湿が停留すると起こるわけです。

この運化水液作用は「脾」の作用の1つです。

飲食物から吸収されたエネルギーに含まれる余った水分はこの作用により「肺」と「腎」に送られ、「肺」と「腎」の気化作用により、汗や尿となって体外に排出されます。

この働きが正常であれば、余分な水分は体内に停滞することなく「湿」などの病理産物も生じません。

しかし、「脾」の運化水液作用の機能が失調すると、水分が体内に停滞し、便が軟らかくなったり、むくみなどの症状が出現します。

 

このタイプの方は湿邪(水分)が「動」の働きをもつ「陽」の作用を邪魔してしまうため、全身にエネルギーが回らなくなり、「四六時中眠い」という状態になると考えます。

 

「湿」は「陰」の作用を持ち、気の活動を阻滞し、陽気を損傷してしまうからなのです。

 

中医学(漢方)では「湿気」「水分」は胃腸機能を低下させますので、昔から湿気の多い日本で長生きするためには、いかに胃腸に負担をかけないかというのが最重要課題でした。

タイプ①の方に積極的に摂取して頂きたい食品です。参考になさって下さい。

 

☆ はとむぎ ☆

効用

健胃  →胃の機能を高めます。

健脾化湿→脾臓の働き(消化機能)を高め、体内の余分な水分を排出させます。

 

☆ インゲン豆 ☆

効用

健脾化湿→脾臓の働き(消化機能)を高め、余分な湿気を取り除く効果 があります。

 

 

タイプ②

脾気虚によるもの

 

~ 倦怠感 ~

生命活動の原動力となる「元気(原気とも言う)」不足が原因で臓器組織の活動を促進したり、経絡の流れを促進させる作用が無力となり、「気」そのものの活動性や運動性が低下してしまっている状態です。

 

~ 食後の嗜睡 ~

「脾」は後天の本と言って飲食物から生命活動のエネルギー源である気・血・水を作り出すおおもとの臓器になります。

この「脾」の臓器はエネルギー源を吸収して全身に輸送する働きがあります。これを運化作用と言います。

食べたものをうまく消化できない為、良いエネルギーを運搬する働きが弱ってしまっている状態です。

運化無力になると、食後に食したものが阻止され流れの滞りが起きている状態がこのような症状として出てきてしまうのです。

栄養のあるエネルギーは全身に散布する必要があります。

飲食物から得た「脾」にある良いエネルギーを上に持ち上げて(これを昇清作用といいます)上から下にある臓器へ運ぶことが大事になります。

上記のような働き(運化作用や昇清作用)が弱くなってしまうと、精神疲労感などの気の機能の減退した症状が出てきてしまうのです。

 

~ 話すことがおっくうになる・息切れなど ~

呼吸活動や発声などを促進させる作用のある気(推動作用といいます)が消耗してしまっている状態です。

 

~ 寒がり・四肢の冷え ~

筋肉を温めるのは、脾の「陽」の気により行われています。

中医学では人体に対して推動作用、温める作用を持つ気を「陽」と称しており、また人体に対して栄養・滋潤作用をもつ気を「陰」と称しています。

脾の運化不足・陽気不足が四肢や全身におよび、温かくできないと発生します。

 

胃腸機能が正常に働かないと・・・

単にゲップが出るとか胸やけや腹部膨満感などの不快感があるというだけでなく、体にとって必要とする栄養物が吸収されないばかりか、むくみや下痢といった不要な水分が体内に停滞し、更には気力の低下から免疫力の低下にもつながります(中医学では胃腸の機能は「脾」の働きになります)。

 

 

そこで、タイプ①の方にもタイプ②の方にも積極的に摂取して頂きたい食品をご紹介致します。

肉類

脂身の少ない鶏のささ身・牛肉の赤身など

魚類

いしもち・すずき

きのこ類

気を効果的に補う舞茸・椎茸

豆類

豆腐・納豆など大豆製品・そら豆・小豆・枝豆・グリーンピースなど

主食

元気を補い、基礎代謝を高めてくれる主食をしっかり摂取することが大切で、あわ・ひえ・きび・はとむぎなどの穀物を混ぜて炊くとより元気をつけます。

お茶

元気不足が進むと体が冷えやすくなり、また冷えると代謝が悪くなります。

また冷えると代謝が悪くなるので、基本的に冷たいものは控えましょう。

身体のアンバランスこそが、免疫力を低下させることにつながり、色々な病気の誘発原因となりえます。

上記の補養食物を参考にされ、日々のお食事に取り入れられたら如何でしょうか?

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。たとえば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中国鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず、全体的なお手当てを行っているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行っている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがよくありました。

特に下記の疾患は早めに受診されると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 

2019/03/12
【その他】老化予防について

年齢とともに生じる老化は、誰しもが避けることのできない生理現象です。

しかし、いかに健康的な体の状態を維持し、老化の進行を遅らせるか、また早期に老化が起こるのをどのように防ぐのかということは、時代や国を越え、常に人々の関心の的の一つになっています。

昨今、日本では高齢化社会となり要介護の方が増えていますが、健康な体で老後を迎えて、長寿を全うしたいというのは万人が望んでいることだと思います。

今回は老化予防について、中医学で考える健康体とはどのような状態なのか、老化をまねきやすい原因は何か、老化の進行を少しでも防ぐ日常生活の過ごし方はどのようなものなのか、お話ししていきたいと思います。

ご参考までに読んでいただけたらと思います。

 

<中医学で診る人の成長と老衰>

10歳:五臓の生理機能が安定し始める。気血は流れ通じている。精子、卵子の排出がある。

20歳:気血は充満し、流れに勢いがある。筋肉はモリモリとし、元気である。

30歳:五臓の生理機能は安定している。血脈の機能も盛んである。

40歳:臓腑、経脈の流れは安定している。立つことより座ることを好む。老化が始まりかける。

50歳:肝臓が弱り始める。視力が減退し始める。老化が始まる。

60歳:心気が衰弱し始める。心配ごとが増えはじめ、横になりたがる。動くことがおっくうになる。

70歳:脾胃の機能が衰え始める。筋肉が衰え、皮膚のつやがなくなる。

80歳:肺が弱くなる。言葉をよく間違える。頭が少しボケる。

90歳:腎の機能が低下する。経脈の中が空虚になる。前記の症状が悪化する。

100歳:五臓が全て虚の状態となる。気力、体力ともに衰え、基本的な物質は全て減少してくる。

 

 

◆中医学における健康な体の概念とは◆

中医学では、「人体は、虚せば衰える」と言われており、老化は人体の生理機能(正気・エネルギー)が虚弱になったことの現われであると考えられています。

健康体の保持や早期の老化を防ぐためには、免疫力や抵抗力の源とされる「正気(パワー)」の充実がキーポイントとなります。そして、「気」「血」「水」(詳しくは後述)が、過不足なく充分にめぐっていること、「五臓六腑」の働きが順調であること、「陰陽」のバランスがとれていることが重要な条件になります。これらの働きがうまく調和していることにより、頭は聡明で、艶のある肌を保ち、健康で抵抗力のある身体を維持していくことができるのです。

中医学では、人も自然の一部であるとする観点からみますと、季節の変化を受けて、体も変化していくことは自然なことなのです。そのため年間を通 して、体の状態が一定であるということは考えられず、生活環境や年齢の違いなどにより、バランスの取れた「良い状態」は、人それぞれで異なります。

 

 

◆中医学でとらえる体のしくみ◆

体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。

もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。

さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。

この「気・血・水」は、「五臓六腑」によって作られたあと、「経絡」という(エネルギーを通 る)ルートを通って、全身に運ばれその働きを発揮します。

老化では、これら気、血が減少し、そのため五臓六腑が養われず、症状の悪化は相互に影響しあいます。

その結果、体全体の減退症状がみられ、早期の老化が見られるのです。

 

 

◆中医学で考える老化をまねきやすい原因とは◆

1.先天的に体が虚弱である

生まれつき身体が虚弱なため、さまざまな疾病を患いやすく、また病後も身体が虚弱で病が長引いて回復できず、「気(エネルギー)」「血」が日増しに消耗し、次第に臓腑にも影響を与え、早期の老化が起こります。

 

2.過労、早婚多産による五臓の損傷

過労は、正気(パワー)を消耗しやすく、特に早婚多産の女性の場合は、人体の  精気(‘生命の根源である力’をいい、下腹部にあります。気功でいう臍下丹田)を消耗し、精神的にも外見的にも次第に衰弱して、早期の老化が起こります。

 

3. 飲食の不節制による脾胃の損傷

空腹と満腹の状態が不調和となり脾胃の働き(食べたものをエネルギーに変える)を損傷してしまった結果 、「気、血」を作り出すことができません。

そのため、体の内部では五臓六腑に、体表では肌や経絡(エネルギーが通 る道)に栄養がいきわたらず、次第に体がエネルギー不足になり、老化が早期に起こります。

 

4.大病後の不調や慢性病による正気の消耗

大病は、気や血を消耗します。とくに産後の不養生、慢性病が長引き、発症を繰り返している状態が長く続きますと他の臓器へも影響を及ぼし様々な症状を生み出します。これらは老化を早めてしまう原因の一つになります。

 

 

◆中医学で考える老化と最も関係の深い臓器◆

~「腎」~

「腎」は、生命力の源であり、生殖器・発育・成長と深く関わります。

腎のエネルギーは、「先天の源」とも言われ、両親から授かった精気(体の丈夫さ)であり、体全体のパワーを貯蔵してある大切な臓器になります。

エネルギーが少なく足りなかったりすると、先天的な虚弱症状がみられ、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。

病気の際にみられる症状としましては、腰や膝がだるくなり、足に力が入らなくなる、頻尿傾向になる(特に夜間尿)、耳鳴りや難聴、物忘れが多くなる、骨がもろくなりやすい、早く老いやすくなる、白髪が多くある、歯や髪が抜けやすくなるなどです。

「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。

このように、腎のエネルギーが不足しますと、老化による症状が数多く見られます。

 

~「脾」~

脾は「後天の源」ともいわれ、食べたものをエネルギーに変える働きがあり、生まれてから死ぬ まで、活動源である「気」を生産し続けています。

ここの働きが低下してしまうと、エネルギーを作り出せないため、さまざまな疾患を引き起こしやすくなってしまいます。

 

以下に詳しく脾の働きを説明します。

 

①食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。

働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。

<主な症状>

軟便または下痢、痰が多く出る、手足がむくむ、食欲がない、身体が重だるい

 

②エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。

働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。

 

③血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。

働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。

 

▼中医学的診断・治療方法▼

個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。

そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。

この他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。

その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。

 

 

◆中医学的老化症状のタイプと治療法◆

先に述べましたように、人体を構成する先天・後天の源である、脾と腎の働きを補い調和させることに重点をおいて、予防治療をしていきます。

 

●脾気虚タイプ●

食物からエネルギー(気)を生み出す源である「脾」の働きが失調することにより体を養う気や血が作りだせないため、体全体の機能減退症状がみられます。

 

○主な原因

生まれつき虚弱体質、飲食の不摂生、過労、あれこれ思い悩むことが多い。

 

○随伴症状

めまい、頭がくらくらする、食欲がない、食べても少ししか入らない、息切れ、便はやや軟便傾向または慢性の下痢、元気がでない、疲れやすい、話したがらない(パワー不足の為)、顔色が黄色っぽい

 

○治療方法

脾の働きを高めて、食べたものをエネルギーや血に変えていく「健脾益気」の治療をしていきます。

 

 

●肝腎不足タイプ●

肝は血を貯蔵し、腎は先天のエネルギーを貯蔵しています。これらはお互いに協力し必要なときに変換しあいます。この2つの臓器の働きが失調すると、体を養う「血」や「先天のエネルギー」不足を生じ、早くから老化症状がみられます。

 

○主な原因

生まれつき虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷

 

○随伴症状

めまい、耳鳴り、腰が重だるく不快感があり脚に力が入らない、目が乾きやすい

 

○治療方法

肝・腎の働きを高め、滋養していく「滋養肝腎」の治療をしていきます。

 

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腎は体全体を温める力(気の働き)と臓腑や各器官に栄養を与え潤す力(血・水の働きに当てはまります)を備え調節しています。

この温める力が低下すると手足の冷え、むくみ、頻尿などの冷え症状が強くあらわれ、潤す力が低下するとのぼせ、発汗、めまい、人によっては骨密度の減少、高血圧、高コレステロールをまねくと考えられています。

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●腎気虚タイプ●

○主な原因

先天的に虚弱体質、早婚、出産過多、長期間の過労、性交過多による腎のエネルギーの損傷。

 

○随伴してみられる症状

腰や膝が重くだるい、めまい、耳鳴り、難聴、精力減退、尿失禁、疲労感、頻尿、夜間尿が日に2~3回ある、インポテンツ、物忘れをする

 

○治療法

腎のエネルギーを補い増やしていく「補腎益気」の治療をしていきます。

 

 

●腎陽虚タイプ●

「腎気虚のタイプ」に冷えの症状が加わり、症状の悪化を示しています。

先天的に腎のエネルギーが弱いか、冷たいものの過食などから体の陽気が損なわれ、体全体の冷え症状があらわれます。

 

○主な原因

生まれつき体質が虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷

 

○随伴症状

寒がり、手足の冷え、腰や膝が重だるく痛い、下腹部が冷える、顔色が蒼白、尿が希薄で量 が多い、朝方(3~5時)下痢をする、むくみ、不妊、インポテンツ

 

○治療方法

体の大元である腎を温め、活動力を増す「温補腎陽」の治療をしていきます。

 

 

●腎陰虚タイプ●

体を養う「精や血」、体を潤す「水液」が不足した状態で、体の内外を潤すことができないために、ほてりや乾燥症状がみられます。

 

○主な原因

生まれつき体質が虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷

 

○随伴症状

腰・膝が重だるく痛い、やせている、めまい、耳鳴り、難聴、不眠、手足がほてる、咽喉が乾く、寝汗をかく、歯がぐらぐらして抜けやすい、男性女性ともに不妊、早期閉経

 

○治療方法

体を養う血、潤す働きを高める「滋補腎陰」の治療をしていきます。

 

以上、主に臨床で見られる老化現象についてお話してきましたが、ここでは一部を述べさせていただきました。

このほかにもいくつかのタイプが見られますが、老化の臨床症状は複雑であり、すべてをここでご紹介することはできませんが、もっと詳しく自分自身の体の状態を把握されたい方は、当院へお気軽にご相談してください。

 

▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼

自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます。

タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。

体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。

 

 

●脾気虚タイプと腎気虚タイプ●

【生活習慣】

消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。

消化が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。

スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。

頭や目の使いすぎは血を消耗させてしまうので、この時期は極力長時間パソコン作業や、夜遅くまでの勉強、仕事は避けましょう。

ダイエットによる食事制限も禁物です。

 

【食べ物】  ~エネルギーを益す食べ物を(適度に)摂りましょう~

○脾気虚タイプ・・(穀類)うるち米、粟米、小麦製品

         (豆類)大豆や大豆製品、牛乳

         (肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏

         (野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参

         (魚類)いか、貝柱

         (果物)なつめ、もも、さくらんぼ

         (お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶

 

○腎気虚タイプ・・上記の食べ物にプラス

          栗、くるみ、黒ごま、クコの実

 

 

~体を冷やす食べ物、辛い食べ物、油っこく味の濃い食べ物は胃を刺激し気を消耗させるので避けましょう~

 

・辛い食べ物・・青唐辛子、ねぎ、コショウなど

・冷やす食べ物・・すいか、バナナ、イチジク、なし、苦瓜、薄荷など

 

 

●肝腎不足タイプと腎陰虚タイプ●

【生活習慣】

体を養う血の消耗につながる生活は避けましょう。

睡眠はしっかりとり、血を消耗させやすいパソコンの使いすぎ、テレビの見すぎ、夜更かしは避けましょう。

血を補い、体を潤す働きのある食べ物を摂るよう心がけましょう。

 

 

【食べ物】~体を冷まし、潤す作用のある食べ物を摂りましょう~  

     (乳製品)豆乳、牛乳

     (肉類) 豚の皮、鴨肉、豚肉

     (魚介類)いか、牡蠣、すっぽん(とくに甲羅の部分)

     (野菜) 山芋、白きくらげ、黒きくらげ

     (果物) なし、もも、ぶどう

     (木の実)クコの実、くるみ、黒ごま

     (お茶) 桑の実とクコの実のお茶

 

 

●腎陽虚タイプ●

【生活習慣】

冷えやすい下半身は下腹部や腰部にカイロをはって、しっかり温めましょう。

体を温める食べ物を摂るようにしましょう。

 

 

【食べ物】~体を温め、活動力を増す作用のある食べ物を摂りましょう~

     (穀類) もち米

     (肉類) 羊肉、鹿肉、牛肉

     (魚介類)えび、なまこ

     (野菜) にら、ねぎ、ししとう、かぼちゃ、しょうが、にんにく

     (木の実)栗、くるみ

     (香辛料)酒、シナモン、黒砂糖、ウイキョウ(フェンネル)

     (お茶) 杜仲茶、ジンジャーティー黒砂糖入り

 

※ 腎陽虚はからだを温める働きのある食材を、腎陰虚はからだに潤いを与える食材です。同じ「腎」でも作用させる働きが180度違いますので気をつけて摂取してください。

 

 

◆最後に◆

「老化=自然現象」ではありますが、その現れる年齢や症状は人それぞれで異なります。

また若い人でも白髪や脱毛、歯が抜けやすい、体力仕事ではないが腰痛になりやすいといった老化現象が見られます。これらの症状が現れやすい原因として、主に、

① 生まれつき虚弱体質(生命の根源のパワー不足)。

② 過労やストレス、多産などによる正気の消耗。

が挙げられます。ストレスやショックで白髪になってしまうといったケースはご存知の方もいらっしゃるかと思います。

 

ですので、日頃からできる老化予防としましては、「規則正しい生活をし、自分の体に合った適切なものを適量 食べ、適度に睡眠(休息)をとり、適度に運動をし、ポジティブ思考で、適度に笑うこと」が大切です。とても単純で当たり前のことなのですが、実践してみるとなるとなかなか続かないものです。

しかし上記の生活習慣は、美容によいことはもちろんのこと、健康な体を保持することができるのです。

普段忙しくしている方は、「こんなことは分かっているけど、忙しくてこんな理想的な生活なんてできない。」とお思いの方も多数いらっしゃるかと思いますが、そういう方は、食事の質や量 を見直してみたり、運動不足ぎみの方でイライラしやすくストレスのたまりやすい方は、少しでもいいですから運動を始めてみたり(ウォーキングなど身近なことから)、平日睡眠不足ぎみの方は、休日の前日は夜更かしせずに寝て、翌朝はいつも通 りまたは1~2時間後くらいの間に起きる(お昼に起きると体の疲労感を増してしまいます。平日とあまりギャップのない、規則ある生活を送りましょう)など、日常生活を少し見直してみるだけで、体の快調感が高まると思います。

老化予防には日頃からの養生が一番大切なのです。

 

2019/03/12
【内科疾患】風邪について

今日は風邪〈かぜ〉についてのお話です。一般にお医者さんにかかる理由で一番多いのも、この風邪〈かぜ〉かもしれませんね。それだけ身近にある病気です。

 

しかし、実は、風邪〈かぜ〉という病名はありません。正式には、かぜ症候群という上気道(鼻腔・咽頭・喉頭)の急性炎症の総称として、定義されています。

 

ほとんどが、ウィルスによる感染ですが、まだ発見されていないものも多く、現代医学が克服できない病気の一つです。

 

それではここで、西洋医学的な観点から、風邪〈かぜ〉についてお話しましょう。

 

わかりやすくするため、これからは〈かぜ〉と記しますね。

 

かぜは人間がよくかかる病気で、90%近くがウィルスによる感染です。

 

インフルエンザウィルスの感染で起こった場合をインフルエンザ、それ以外のウィルス、細菌などによる感染の場合を普通 感冒と分類します。

 

鼻かぜや、お腹にくるかぜ…というように、かぜにかかって出る症状は様様です。

 

代表的な症状をとしては、

・ 頭痛、発熱、

・ 咳、痰、喉の痛み

・ 鼻水、鼻詰まり、くしゃみ

・ 腹痛、下痢、嘔吐

・ 関節痛、筋肉痛

・ 全身倦怠感

 

などがあります。症状の違いは原因となるウィルスや、本人の年齢、体質によってもことなります。

 

代表的なウィルスと、それによる症状をみてみると

 

○ ライノウィルス-鼻症状(鼻水・鼻づまり・くしゃみ)

○ アデノウィルス・エンテロウィルス-のど症状(咽頭痛・喉頭発赤)

○ インフルエンザウィルス-38度以上の高熱・全身症状・関節痛・筋肉痛

○ ノロウィルス・ロタウィルス-感染性胃腸炎・嘔吐・下痢・吐き気

になります。

 

 

☆ウィルスってどんなもの?☆

 

ウィルスとは、細菌よりも小さな微生物で、非常に多くの種類があります。冒頭でお伝えしたように、まだ全部が知られているわけではなく、未知のものも多いのです。

 

かぜの原因となるウィルスは低温・乾燥を好む為、かぜが流行するのは、だいたい冬の時期となります。夏に発症するかぜは種類が異なり、高温・多湿に強いウィルスが原因です。

 

 

かぜは普通、時間の経過とともに症状が変化していき、比較的短期間のうちに治ります。しかし、慢性病のある人や、高齢者は症状を悪化させることも多いので、特に注意が必要です。肺炎などの合併症や、薬の副作用にも十分気をつけなければなりません。

 

また、小児のかぜも、自分では症状を的確に表現できないこともありますので、親の観察と判断が重要になります。お顔の色や便の状態、汗のかき方、食欲などを、日ごろからチェックしてみましょう。

 

妊娠中の場合は、特に母体・胎児ともに影響を及ぼす場合があるので、自分で判断せず、専門医にアドバイスを受けることをお勧めします。

 

 

 

☆かぜ薬の効果☆

 

市販の感冒薬は、解熱・咳止め・鼻水止め…のように、一連の症状を抑えるものです。かぜの原因となるウィルスに対して決定的な効果 を発揮する治療薬は、残念ながらまだ見付かっていません。抗生物質も実はウィルスに対してはお手上げなのです。

 

かぜはそのほとんどが飛沫感染といって、咳などとともにでる唾液の粒子から、人から人へ感染します。予防には、マスクの着用やうがい、手洗い、また食器などの共用は避けたほうが賢明です。そして何よりも安静を心がけましょう。

 

 

◎ さて、これまでは西洋医学によるかぜのお話でしたが、いよいよこれから中医学的なお話に入ります。人のからだを小さな宇宙と考え、自然界とより密接に関係を結ぶ中医学ならではの考えを、どうぞご覧下さい!

 

 

<中医学による風邪(かぜ)の考え方>

 

よく、「免疫力が低下すると病気になりやすい」と言われます。同じ状況の中にあっても、かぜを引く人と、そうでない人がいることからも、かぜの原因が決して外の環境だけではないことがわかります。外と中―この二つの状態が大きく作用するのです。

 

1. 外部環境、気候条件(暑い・寒い・風が強い・湿度が高い・湿度が低くウィルスが繁殖しやすい…など)

 

2. 自分のからだの状態(疲れている・寝不足・慢性疾患をもっている…など)

 

中医学では、この外からからだに悪い影響を与えるものを、外邪(外因)といい、風邪(かぜではなく、ふうじゃと読む)・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・熱邪(火邪)の六つがあります。

 

とくにかぜの原因となる外邪は、

1. 風邪

2. 寒邪

3. 熱邪

4. 湿邪 

の四つです。

 

それでは、この四つの外邪の特徴を見てみましょう。

 

○風邪○

・ 変化しやすいー病状の進展が早い(かぜも、寒気→発熱→咳→痰のように変化が早い)

 

・ 遊走性、移動性に富むー疼痛部分が移動する。

 

・ 上半身、皮膚をおかすー風邪は性質が軽く、頭、顔面などの上半身、あるいは表面 の皮膚に症状があらわれやすい。うなじや背中がゾクゾクするなど。

 

・ 動揺するーぐるぐるするめまい、けいれん、震えなど。

 

 

☆☆他の邪気を先導する!☆☆

 

ここがポイント!

風邪は単独で人体に侵入することは少なく、他の外邪をともなって、からだに入る。

<風熱・風寒・風湿など>

 

(風邪の症状)

寒気-温めると緩解、発熱、汗が出る、頭痛、鼻水、皮膚のかゆみ、しびれ、ひきつれ

 

 

○寒邪○

・ 冷えー全身、局所の冷寒症状をあらわす。寒気、手足の冷え、お腹が冷たい。分泌物はさらさらで、色は薄く透明。尿が近くなる。

・ 収斂性があるー縮まる。ひきつる。汗孔も閉じる為、汗が出ない。筋肉のひきつれ

・ 凝滞性があるー気・血の流れが停滞する為、こわばりや激しい痛みをともなう

 

(寒邪の症状)

激しい寒気―温めても変わらない、汗が出ない、うなじや背中のこわばり、関節痛、腹痛、下痢、嘔吐、手足の冷え

 

 

○熱邪○

・ 強い熱感―発熱。ほてり。冷たいものを欲しがる。顔が赤い。尿が黄色く濃い。冷やすと緩解。暑い日に悪化。

・ 炎上性があるー炎のように上にのぼる性質を持つ。上半身、特に顔面 部の熱症状

・ 神明をおかすー精神や意識に影響をあたえる。興奮。意識障害など。

・ 発散する-汗が大量に出る。

・ 気や津液を損傷するー大量発汗で体内の水分が損なわれて、皮膚が乾燥したり、喉が渇く。汗とともに気がもれるため、疲れやすいく、だるい。

・ 発疹、出血しやすいー熱邪が血に侵入するとおこる。血熱ともいう。

 

 

(熱邪の症状)

発熱、発汗、喉の痛み、口渇、黄色い鼻水、発疹、鼻血、血尿、目が赤い、いらいら

 

 

○湿邪○

・ 重く沈む性質があるー湿邪に犯された部分が重だるい。

・ 下に沈むー下半身や下肢に症状が出やすい。(膝、足首、腰)

・ 定着するーいったん体内に侵入すると、なかなか取り除くことが出来ない。症状の長期化。治りずらい。

・ 粘ばりがあるーねばねば、じとじと、ベトベトする。痰がねばったり、じとじとした汗をかく。大便がベトベトして便器が汚れる。

・ 脾をやぶるー食べたものを体内でエネルギーに変え、全身に栄養をめぐらせることができなくなる。食欲が落ちる。悪心。嘔吐。手足がむくむ。

 

 

(湿邪の症状)

頭重感、じとじとの汗、じゅくじゅくした湿疹、関節の重だるい痛み、場所の固定した痛み、ジメジメした日の症状悪化。

 

 

では次に、中医学で考えるひとのからだの面から、かぜとの関連性をみてみましょう。

 

<中医学で考えるひとのからだ>

 

「免疫力」…とは現代医学でよく用いられる言葉です。病気に抵抗する力、からだのバリア機能とも言えます。この考え方は中医学にもみられ、特に、からだの表層で外邪と戦う働きを「衛気(えき)」と呼びます。

この衛気が不足すると外邪の侵入を受けやすくなり、かぜも引きやすくなるわけです。

 

○衛気○

衛気―そもそもこれを説明するには、「気」という概念をお話しなければいけませんね。

 

「気」という言葉は、日本でも日常よく使われていますが、中医学で考える時は、次の二つの概念を重要としています。

 

<気>

1. 人体を構成する物質と考える

物質ですから、消耗したり補充できます。気が足りない人には、気を補う治療を行い、邪気が多く病気に罹っている人からは、この邪気を取り除く治療をします。

 

2. 活動性・運動性を持つ

人体の生理作用は、気の活動が中心となっておこなわれます。気の運動形態は、昇ったり降りたりする上下方向の運動と、発散したり収納したりする出入方向の運動が基本となり「昇降出入」と呼ばれます。

 

では実際に「気」が行う生理作用・種類をあげてみましょう。

 

 

☆気の生理作用☆

・ 人体を栄養する

・ 活動を推進する、ものを動かす

・ からだを温める

・ 病邪、外邪と闘う

・ 異常発汗や出血、遺精などを制御し、内臓の位置を保つ

・ 生体内での物質の相互変化や代謝を行う

 

☆気の種類☆

中医学では、働きや生成される場所などにより、気をいくつかに分類します。ここでは、代表的なものをご紹介しましょう。

 

・ 元気―生命活動の原動力となる。「原気・真気」とも呼ばれ、人体の発育や臓腑組織の活力を旺盛にする。

・ 宗気―心拍運動や呼吸を促進する、胸部にある臓器の働きに関与

・ 営気―特に栄養作用を強く示す。「栄気」ともよばれる。血液の成分となる。

○ 衛気-体表を防御する!!

 

 

やっと本題の「衛気」が出てきましたね。ここから衛気のお話に入ります。

 

衛気は先ほどあげた気の六つの生理作用の中で、特に<防御作用・温ク作用>を強く持っています。体表では、肌表を保護して外邪の侵入を防ぎ、汗孔の開閉を管理して体温調節を行います。また、肌の潤いを保つのも衛気の働きによります。

 

体内では筋肉や臓腑組織を温め、その活動を活発にします。

 

◎もし、この衛気が不足したら…◎

外邪からからだを守ることが出来なくなり、特に「風邪(ふうじゃ)」の侵入を受けやすくなってしまいます。いわゆる「かぜをひきやすい」状態です。

 

◎ どうしたら衛気が不足するの??◎

からだを守る働きは、肝・心・脾・肺・腎という五臓のうちの「肺・腎」と密接に関わっています。衛気自体は「腎」という臓にある両親から受け継いだ先天の精を源とし、飲食物からエネルギーを滋養して生成されます。この衛気を「肺」の発散力(宣発作用)によって体表に広く分布して、外邪の侵入を防いでいるのです。

 

慢性病にかかったり、からだ自体の気が消耗していれば衛気自体が不足することになります。また、「肺」の機能が低下していても衛気を体表に行き渡らせる事が出来ず、防衛機能は衰えてしまいますね。

 

 

さてここで、かぜの話に戻りましょう。

 

中医学では、かぜを「感冒」と称します。感冒は、衛気が弱くなった所に、風邪を感受して発病します。季節でみると、春夏には風熱、梅雨時期には暑湿、そして秋冬には風寒をともなうことが多いと言われます。風邪は寒邪・熱邪と結びついて、それぞれ風寒・風熱と言われます。この「寒・熱」の違いは、体温計で測れるものではなく、あくまで患者さんの訴える症状をもとに、脈・舌・顔色…などを考慮しながら診断します。たとえ39度の発熱があっても、本人が寒気や水様性の鼻水を訴えれば、「寒症状」ととらえます。

 

弁証

風寒

風熱

暑湿

 

季節

秋~冬

春~夏

梅雨(長夏)

 

病機

寒邪が体表から侵入。肺の宣発作用が損なわれ温めることも出来ず、寒冷症状を示す。

熱邪が肺を犯す。肺の粛降作用(呼吸で得た清気を腎に降ろしたり、余計な水分を膀胱に送る)が低下。熱症状を示す。

暑湿の邪気が、飲食物の消化、運化作用を失調させる。消化器症状を示す。

 

症状

悪寒・軽度の発熱・汗が出ない・頭痛・水様性の鼻水・くしゃみ・・水っぽい痰・口渇は無い

高熱・悪寒は軽い・喉の腫れ、痛み・口渇・咳そう・痰は黄色く濃い・目が赤い・黄色い鼻汁

頭痛・体に熱がこもる・関節痛・胸悶・お腹が痞える・汗はあまり出ない・腹痛・下痢・口が粘る

 

良い食べ物

体を温めて、寒邪を発散させるものが良い。

例)生姜・ねぎの白い部分・紫蘇・にんにく・こしょう・きんかん・シナモン

熱を外にだすものが良い。

例)薄荷・いちご・梨・緑豆・すいか・冬瓜・ゴーヤ

身体にこもっている熱、体内に停滞している余分な水分を排出するものが良い。

例)緑豆・はとむぎ・あずき・すいか

 

好ましくない食べ物

性質が涼のもの。生もの。体を冷やすもの。

例)生野菜・すいか・柿・なす・冬瓜・きゅうり・トマト

性質が熱や湿のもの。

例)ラム肉・こしょう・唐辛子・生姜・シナモン・人参・卵・にんにく

性質が熱や湿のもの。

例)風熱に同じ

 

症状に合うお茶・飲み物

杏仁茶

紫蘇入り生姜茶

ねぎ入りお味噌汁

菊花茶と緑茶を混ぜたもの

ミントティー

緑豆

はすの葉茶

はとむぎ茶

 

治則

去風散寒

 

宣発解表

疏散風熱

 

清粛肺気

清化暑湿

 

解表和裏

 

配穴

大椎・風池・風門・ 肺ゆ・合谷・列欠

(大椎・肺ゆにはお灸も良い。また汗が出ない時は、合谷・復溜も加える。)

大椎・合谷・外関・ 肺ゆ・尺沢・魚際

(喉の痛みがある場合は、列欠・照海を加える。)

大椎・合谷・曲池・ 中かん・足三里・ 陰陵泉

(吐き気や嘔吐がある場合は内関を加える)

 

※ どんな症状でも、感冒にかかったら安静は必要となります。

 

まずは日ごろから過労・飲食不摂生・寝不足を避けて気を充満させ、風が強い日は特に、からだ(首~背中)に直接風が当たらないような服装を心がけましょう。

 

以上、中医学によるかぜの考え方をお話させていただきました。

 

いかがでしたでしょうか??

 

鍼治療を受けたことが無い方も、また中医学に初めて触れた!という方も、今日をきっかけにして、中医学の鍼灸に興味を持っていただけたら、本当に嬉しいです。

 

からだの声に耳を傾けながら生きるーそうすれば、自分自身が、自分にとっての名医となれるのでは…と思います。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

2019/03/12
【その他】痿証について1

『痿証』とは中医学用語です。

中医学の古典には「痿証とは肢体の筋肉が弛緩・弱化し、病の進行とともに萎縮する病証」と記されております。

症状としては、初期は下肢の脱力感が多くみられ、徐々に手足が弱化してまいり、最終的には筋が萎縮してしまい、運動障害をきたします。

 

現代医学ではこの様な症状を引き起こす疾患には「脊髄空洞症」「重症筋無力症」「進行性筋ジストロフィー」「筋萎縮性側索硬化症」「ギランバレー症候群」「多発性筋炎」・・・・など沢山あります。

勿論、これは代表的な疾患ですから、その他にも沢山の病気が存在します。

尚、これらの疾患については現代医学の専門のHPの方を参照して下さいませ。

 

次に、中医学の視点から『痿証』について説明をしてまいりましょう。

 

★ 痿証について★

*はじめに*

中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。

それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては非常に難解で馴染みづらいものであります。

そこで先ず、「痿証」の説明を読まれる前に、「病気別・わかる東洋医学診断」に掲載されている「わかりやすい東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。

これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかりやすい東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さい。

さてここでは、「痿証」を理解するために、「わかりやすい東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。

 

《陰陽論について》

陰陽についての概論的な事は既にご理解されていると思いますので、ここでは人間を構成する基礎的なものである「気・血・水(津液)」や「働き」を陰陽で分類してみたいと思います。

『陽』に属す物としては「気」があります。

気はそれぞれの臓腑の働きを促進させたり、体を温める作用などがあります。

『陰』に属す物は「血と水(津液)」があります。

これらの働きには体を潤したり冷却する作用があります。

又、この分類はそのまま「働き」に置き換えることができます。

体を温める働きは「陽」に、体を冷却したり潤す働きは「陰」に属します。

 

《臓腑について》

臓腑については「わかりやすい東洋医学理論」で大まかな説明がありますのでここでは、「痿証」に関係のある臓腑についてだけもう少し説明をします。

 

『肺』

肺の主な生理作用には「宣発・粛降・水道通調」があります。

これらの説明をする前に、中医学の考える体内水液代謝から説明したいと思います。

口から摂取された水分は胃を経由し小腸へと送られます。

小腸は「必別清濁」といい、送られてきた水分を人体に有益な水液と不要な水液に分けます。

人体に有益な水液は脾に運ばれます。脾は小腸から送られてきた有益な水液を消化吸収して肺へ送ります。

肺は「宣発作用」で先程の有益な水液などを皮毛に散布します。

「宣発」とは散布・発散の意味で、肺が有益な水液を「宣発」することにより皮毛や筋肉は栄養されたり、潤されております。

次に散布された有益な水液は肺の「粛降作用」により身体全体を巡りながら下降し、腎へ集められます。

その後再利用できる水液は肺へ戻され、不要な水液は膀胱で貯尿された後排泄されます。

最後に「水道通調」ですが、「水道」とは脾~肺~全身~腎~膀胱~排泄の水液が流れるルートをいいます。

「通調」とは、調節の意味があります。

つまり「水道通調」とは、脾から排泄までの水液の流れが滞らないように調節する作用をいいます。

もう一度「肺」の作用をまとめてみましょう。

肺は「宣発作用」により有益な水液を皮毛に散布します。

次に「粛降作用」により散布された水液は全身を巡りながら下降してゆきます。

このように肺は体内の水液循環に深く携わり、水液の運行が滞らないようにしております。

このような働きを「水道通調」といいます。

 

『肝』

「わかりやすい東洋医学理論」で「血」の説明があったかと思います。

血は全身を巡り、筋や器官など様々の物を栄養して「肝」で貯蔵されます。

更に「肝」は「血」を貯蔵するだけでなく血の体内循環量の調整も行います。

例えば体内を巡っている血液の量が少なくなってきた場合は「肝」は貯蔵してある「血」を血脈へと供給し循環量 を正常な量へ戻します。

逆に体内循環量が多すぎれば貯蔵量を増やして、循環量を正常値へもどします。

以上のように「肝」の働きの1つには「血の貯蔵と循環量の調整」があります。

 

『腎』

「腎」の働きは沢山ありますが、その中の1つに「精を蔵す」働きがあります。

「精」の概念は中医学独特のもので、詳しく説明すると長くなってしまいますので、ここでは「人体を構成したり、生命活動を維持するためのエネルギーの根源」とだけイメージしていただければ結構です。

例えば、赤ちゃんがお母さんのお腹から生まれて直ぐにミルクを飲まなくても、しばらくは生きていられます。

これは既にあかちゃんは何処かにエネルギーを貯えているからです。

このエネルギーが「精」であり、貯えている場所が腎になります。

又、精から髄が生まれ、髄は脳や骨を養っております。

 

『精と血・腎と肝』

精と血は深い関係にあり、お互いに変化しあって生命活動の維持をしております。

例えば何らかの理由で血が足らなくなった場合は、精が血へと変化し血の減少を抑えようとします。

逆に何らかの理由で精が減少した場合は、今度は血が精へと変化することで、精の減少を抑えようとします。

以上のことから精と血は『精血同源』と言われ、腎は精を蔵し肝は血を貯蔵することから、『肝腎同源』とも言われます。

このように、精と血はお互いに変化し合うことで、精や血の不足が起こらないようにしております。

ところが、どちらか一方が過剰に減少してしまい、もう片方が減少を抑えようと過剰に変化してしまうことで、結果 的に「精」も「血」も両方とも足らなくなってしまうことがあります。

このような状態を「肝腎不足」又は「肝腎陰虚」といいます。

これは後ほど痿証の病因・病機で出てきますので、是非覚えておいてください。

2019/03/12
【その他】痿証について2

「痿証」とは冒頭でも述べたように、中医学による疾患名で、「痿躄(いへき)」ともいいます。

「痿」とは肢体が萎えて運動障害が生じた状態を言い「躄」とは足に力が入らないことをいいます。

一言でいってしまえば「痿証」とは四肢の筋肉が弛緩・軟弱・無力となり、進行した場合には筋肉の萎縮や運動障害をまねく病証です。

初期の段階では、下肢の脱力感がみられ、徐々に手足の弱化が起こり、痺れや感覚の消失が起こります。

重症になってくると物が持てなくなったり、体を支えられなくなったり、さらに進行すると筋肉の萎縮が進み自分の意思で手足をコントロールできなくなります。

 

* 「痿証」の病因・病機*

「痿証」は下記のような機序で起こります。

A:湿熱が肺を損傷して起こるもの。

B:湿熱が経脈侵入して起こるもの。

C:脾胃のエネルギー不足によって起こるもの。

D:肝と腎のエネルギー不足によるもの。

以上の4つがあげられます。

 

*「痿証」の分類*

「痿証」には、その病因・病機、及び症状により概ね以下の様に分類されます。

①肺熱到痿 ②湿熱発痿 ③脾胃虚痿 ④肝腎虧痿 ⑤脈痿(心痿)

⑥筋痿(肝痿) ⑦肉痿(脾痿) ⑧骨痿(腎痿) ⑨皮毛痿(肺痿)

 

さて、以上が「痿証」の分類になりますが、これ以降については病因病機で分類し説明をしてゆきます。

 

 

【湿熱が肺を損傷して起きるもの】

湿熱が肺を損傷して起こる「痿証」ですから、『肺熱到痿』といわれます。

また、分類で紹介した「皮毛痿」もこの中に含まれます。

 

≪病因・病機≫

湿熱の邪が肺へ侵入して、肺や津液を損傷させてしまうことにより、筋肉を栄養できなくなり発症します。

 

《症状》

*主症状*

①手足の筋力の低下や筋萎縮・・・熱により体内の水分(津液)が損傷され、筋肉を栄養できなくなり起こります。

 

*随伴症状*

①発熱・から咳・のどの渇き・・・熱により体内の水分(津液)が損傷されて起こります。

②皮毛の乾燥や光沢の消失・・肺は「宣発作用」により有益な水液を皮毛に散布していますが、熱により体内の水分(津液)が損傷されたり、肺の「宣発作用」が低下してしまうと、皮毛を潤すことができなくなり、皮毛が乾燥したり光沢の消失が起こります。

この様な状態が先程分類にありました「皮毛痿」です。

 

 

【湿熱が経脈侵入して起こるもの】

湿熱が経脈侵入して起こる「痿証」ですから、「湿熱発痿」といわれます。

 

≪病因・病機≫

『わかりやすい東洋医学理論』に「外因」についての説明があったと思います。

その「外因」の中にあった「湿邪」を受感し、更に長期間体内に「湿邪」が留まってしまったことにより熱化をおこすと、「湿邪」は「湿熱」と変わります。

「湿熱」が経脈に侵入し気血の流れが妨げられ、筋肉を栄養できずに起こります。

又、「湿邪」を受感しなくても、甘い物・味の濃い物・油っぽい物・辛いも物などを食べ過ぎても、体内で「湿熱」を産んでしまうことがあります。

(外因については『わかりやすい東洋医学理論』を参照してください)

 

《症状》

*主症状*

足の筋力低下や麻痺・・・・湿邪は湿気ですから水分です。水は高所から低所へ流れます。

体内でもこれと同じことが起こりますので、湿邪は体の中での下部である足へ影響を及ぼし、筋力低下や麻痺がおこります。

 

* 随伴症状*

① 腹部がつかえる・・・・腹部に湿が停滞しておこります。

② 体が重だるい・・・・・湿が体内にあると、手足や頭が重だるく感じます。

③ 排尿痛・・・・・・・・湿が下腹部に侵入するとおこります。

④ 小便が赤く少量・・・・湿熱の熱の特性です。

 

 

【脾胃虚弱によるもの】

脾胃虚弱によって起こるので「脾胃虚痿」といいます。

 

≪病因・病機≫

『わかりやすい東洋医学理論』で「気・血・水」の説明があったかと思いますが、その中で、「血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます」と説明されておりました。

筋肉も「血」によって栄養されております。

「血」は脾や胃の働きによって作られます。

したがって、何らかの原因によって脾胃が虚弱となってしまうと、「血」を作る能力が低下してしまい、最終的には筋が栄養されなくなり運動麻痺が起こります。

 

《症状》

*主症状*

運動麻痺などは緩やかに進行する・・・・脾胃虚弱はエネルギー不足の状態です。

基本的にエネルギー不足からくる病症の進行は緩やかな場合が多いようです。

 

*随伴症状*

①食欲不振・倦怠感・・・脾胃虚弱の為に消化吸収能力が低下しておりますので、それに伴い食欲も低下してまいります。又、「気・血」の生成能力が低下している為エネルギー不足の状態ですから倦怠感もでてまいります。

②むくみ・・・・消化吸収能力の低下は体内の水液代謝も悪くしますので、むくみが現れます。

 

 

【肝腎不足によるもの】

肝腎不足によって起こるので、「肝腎虧痿」といわれます。

分類で紹介した「筋痿(肝痿)」「骨痿(腎痿)」もここに含まれます。

 

《病因病機》

先程、肝や腎の説明で「肝腎不足」の説明をいたしましたが覚えていますか?

「肝腎不足」とは、肝に蔵されている血と腎に蔵されている精が両方とも不足してしまった状態でした。

先天的に腎のエネルギー不足・長患い・慢性病・老化・過剰なSEXや自慰行為は「肝腎不足」をまねきます。

その結果、筋骨を養えなくなって運動麻痺が起こります。

 

《症状》

*主症状*

特に下肢の筋力低下・運動麻痺・・・・肝腎陰虚の特徴で下肢に発症しやすい

 

*随伴症状*

①膝や腰に力が入らない・腰背部のだるさ・耳鳴り・難聴・遺精・抜け毛・・・腎精不足の症状です。

③月経不順・目のかすみ・・・・・・肝血不足の症状です。

 

 

▼その他の「痿証」について

 

『脈痿(心痿)』について

中医学では「心(しん)」は血の循環を統括しております。

そのことから「脈痿」は「心痿」とも言われます。

何らかの原因で心のエネルギーが熱化を起こすことがあります。「化熱上炎」と言って通 常熱は対流によって上に昇ります。

心のエネルギーが熱化して上に昇るとき、血も導いて昇ってしまいます。

すると下半身の血量が減ってしまい筋肉を栄養できずに「痿証」を起します。

ですからこの場合の症状は下半身に現れます。

又は、多量の出血することにより体内に血の量が減って起こる場合もあります。

 

 

『筋痿(肝痿)』について

中医学では「肝は筋を主する」と考えておりますので、「筋痿」は「肝痿」とも言われます。

肝の気は通常上方へ流れます。しかし何らかの原因で過度に上に流れてしまう事があります。

又、冒頭の「肝」の説明で触れましたが、「肝」は血を貯蔵しておりました。

肝に貯蔵されている血量が減ったり、過度に肝の気が上に流れたりして起こる「痿証」をいいます。

主な症状としては、筋のひきつりや痙攣が起こり、徐所に筋肉の弱化が進行し運動障害が発症します。又、勃起不全なども起こります。

 

 

『肉痿(脾痿)』について

中医学では「脾は肌肉を主る」と考えておりますので、「肉痿」は「脾痿」とも言われます。

「肉痿」は先程説明した「脾胃虚痿」に含まれるものと、脾のエネルギーが熱化して起こるもの、長期にわたり湿気を受感した結果 、湿邪が肌肉を障害して起こるものがあります。

主な症状としては、皮膚や筋肉の麻痺や無感覚・筋肉の弱化などがあります。

 

 

『骨痿(腎痿)』について

中医学では、骨と腎は深い関係にあるので「骨痿」は「腎痿」ともいわれます。

先程説明した「肝腎虧痿」に属する「痿証」です。

腎に蔵されている精(腎精)から骨髄が造られ、骨髄は骨を栄養します。

何らかの原因で腎精の不足が起こると骨が栄養されなくなり「骨痿」が発症します。

又、腎の気が何らかの原因で化熱をしても骨髄が減少して骨に影響が出る場合もあります。

 

《治療》

「痿証」の治療については先ず、「疏通経絡」といって経絡の流れを促進させ、更に筋肉や骨を栄養してあげることが基本になります。

同時に先程説明したそれぞれの病因に対しての治療を加えます。

 

では次に各病因や分類に対しての治療を紹介しましょう。

①肺熱到痿

「清肺潤燥」「養陰生津」と言って、肺に潤いを滋養する治療をおこないます。

②湿熱発痿

「清熱利湿」と言って、熱を下げて湿を取り除く治療をおこないます。

③脾胃虚痿

「健脾益気」と言って、脾を元気にして気を益す治療をおこないます。

④肝腎虧痿

「滋補肝腎」と言って、肝血と腎精を補充する治療をおこないます。

⑤脈痿(心痿)

「清心瀉火」「活血養血」と言って、心の熱化を抑え、血を養い全身へ巡らす治療をおこないます。

⑥筋痿(肝痿)

「清肝養血」といって、肝を鎮め肝血を養う治療をおこないます。

⑦肉痿(脾痿)

「清熱利湿」「健脾和胃」と言って、熱を下げて湿を取り除き、脾と胃を元気にする治療をおこないます。

⑧骨痿(腎痿)

「補腎益精」「養陰清熱」と言って、腎精を補し陰のエネルギーを増すことで熱を下げる治療をおこないます。

⑨皮毛痿(肺痿)

皮毛痿は肺熱到痿に含まれますから、治療法は肺熱到痿と同様に「清肺潤燥」「養陰生津」になります。

 

 

《養生法》

皆さんも既におわかりのように「痿証」には多くのタイプや病因がありますので、養生法も色々あります。

その全てを紹介することは不可能なので、ここでは病因に対する食養生を紹介いたします。

 

【湿・熱に対する食養生】

湿と熱では養生法が若干異なりますのでここでは「湿」と「熱」に分けて紹介いたします。

 

《熱に対する食養生》

麦・あわ・とうもろこし・はとむぎ・そば・緑豆・浜納豆・豆腐・豆乳

ピータン・プレーンヨーグルト・かに・あさり・ところてん・昆布・のり

わかめ・しじみ・きゅうり・とうがん・ズッキーニ・にがうり・レタス

白菜・セロリ・なす・たけのこ・ごぼう・大根・チンゲン菜・トマト

キウイ・スイカ・レモン・梨・メロン・バナナ・柿

 

《熱に対する生活上の注意点》

◎脂っこいもの・味の濃い物・甘いもの・お酒・肉類は食べ過ぎないように注意しましょう。

◎熱いお風呂も避けましょう。

 

《湿に対する食養生》

はと麦・とうもろこし・そば・はすの実・小豆・大豆・緑豆・黒豆・えんどう

空豆・あさり・あわび・しじみ・はまぐり・ふな・どじょう・こい・すずき

昆布・のり・わかめ・ところてん・にがうり・たけのこ・きゅうり

さやえんどう・セロリ・とうがん・もやし・白菜・ズッキーニ・ごぼう

すいか・すもも・ぶどう・キウイ・メロン

 

《湿をとる健康茶》

柳茶・プーアール茶・紅茶・ジャスミン茶

 

《湿に対する生活上の注意点》

◎脂っこいもの・味の濃い物・甘いもの・冷たい水分の食べすぎに注意しましょう。

◎適度な運動(汗をかく位)をしましょう。

◎冷えは水液代謝を悪くしますので、体を冷やさないようにしましょう。

お風呂はぬるめのお湯で長めにつかりましょう。

 

《脾と胃の食養生》

ピーナッツ・なつめ・金針菜・くり・メロン・しいたけ・アボガド・ゆりね

そらまめ・にら・さくらんぼ・さといも・ひらたけ・ふな・鯉・サメ・真鯛

はも・たちうお・どじょう・ひらめ・大麦・もち米・米・牛肉・羊肉・きじ

蜂蜜

 

《肺を潤してくれる食べ物》

松の実・さとう・りんご・バナナ・ピーナッツ・さめ

 

《腎の食養生》

くり・・・腎と筋を補ってくれます。

ナマコ・鶏肉・・・・腎精を益してくれます。

 

《肝血を増やす食養生》

金針菜

 

《肝腎虧痿の食養生》

にがうり・にら・ぶどう・クコの実・ごま・いか・たまご

 

《髄や骨を補う食べ物》

アーモンド・かに

 

《その他の養血作用のある食べもの》

レンコン・豆乳・ぶどう・大豆・鶏肉・さめ・ナマコ・いか・うなぎ

 

以上が食養生になりますが、その他に理学療法・機能訓練・マッサージなども併行するとよいでしょう。

 

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

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