コラム

2019/03/11
【その他】日本における鍼灸治療の現状1

● 日本における鍼灸治療の現状●

 

▼本内容を読むに当たり▼

この文章は、鍼灸・漢方医療の治療を真に求めている方の為に、現状の鍼灸・漢方医療を深く理解して頂きたく、また安易に受診することを避けて頂きたいとの思いから、現状の日本に於いての鍼灸・漢方医療の真実を書き込んでおります。

そして、受診されたい方々に、確り学習と臨床経験を積んだ良い先生方を見つけだして頂く為の指針・道しるべになればと思っております。

ですから、内容そのものは決して批判・批評を行っているものではございません。

真実を伝えているものでございます。誤解の無い様にお願い申し上げます。

 

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「あなたは鍼灸治療をご存知ですか?」と訊かれたらどう答えますか?

おそらく「はい、知っています。」と答えるでしょう。

では、「東洋医学をご存知ですか?」と訊かれたらどう答えますか?

やはり「知っています。」と答えるでしょう。

逆にこれらの質問に「いいえ、知りません。」と答える方は少ないと思います。

日本で生活しておられる方なら『鍼灸治療』や『東洋医学』という言葉を聞いたことがない、もしくはイメージが出来ないという方はいないでしょう。

では、「『鍼灸治療』は『東洋医学』ですか?」と訊かれたらどうでしょう?

おそらく「はい、そうです。」とお答えになる方が多いと思います。

針やお灸は中国から伝わった治療法であるから「鍼灸治療イコール東洋医学」

とお考えになられると思います。

しかし答えは「YES」でも「NO」でもありません。

何故なら今の日本では、東洋医学とは全くかけ離れた治療をおこなっている鍼灸院の方が多いからです。

実際に私が卒業した鍼灸学校の卒業生で東洋医学による治療を行っている鍼灸師は5%もいないでしょう。

しかも、日本の場合は「医療」ではなく「癒し」が目的の治療院の方が多いと言えます。

このような日本の現状を考えると、先程の質問の答えはどちらかと言えば「NO」の方が正解に近いかもしれません。

更に残念な事に、一般の方なら上記のような考え方をしても仕方がありませんが、東洋医学による治療を行っていないのに、鍼灸治療を行っているというだけで、自分は東洋医学を行っていると誤解をしてしまっている鍼灸師さえいます。

東洋の国である日本に住んでいながら鍼灸師までも何故このような誤解が生じてしまうのか皆さんは不思議に思うかもしれませんが、日本における東洋医学がおかれている現状を考えてみると、これは一概に誤解をしている鍼灸師だけの問題ではなく、医療制度や鍼灸学校の教育システムにも問題があるように思えます。

又、近年は「東洋医学ブーム」とやらで、テレビや雑誌などで東洋医学が頻繁に紹介されておりますが、かなり本物の東洋医学からかけ離れた情報もみうけられます。

このような状況を総合して考えてみると、一般の方々が東洋医学を誤解してしまうのも仕方のないことだと思います。

そこで今回は皆さんが知っていそうで、実はよく理解されていない鍼灸治療や東洋医学の日本の現状の話をしたいと思います。

 

★医学とは?★

では先ず「東洋医学」についての説明をする前に「医学」について少し考えてみたいと思います。

皆さんは「医学」とはどの様な学問だと思いますか?

例えば、お医者さんになるために学ぶ学問は勿論「医学」ですよね。

では、最近テレビで人気の健康番組などで得た「○○病には○○がいい」といった知識は「医学」と言えるのでしょうか???

皆さんはどう思いますか?

答えは「NO」です。これは医学とは言えません。

 

何故なら、「医学」とは病気を治す為の学問ですよね。

では病気とはどの様な状態かといえば、正常な体のしくみが崩れた状態です。

この正常なしくみを「生理」といいます。

さらに病気を発病させる仕組みを「病理」といいます。

つまり、病気を治すということは元の正常な状態へ戻すということです。

その為には、正常な体の仕組みを知らなくてはなりません。

ですから、「生理学」や正常な構造を学ぶ「解剖学」、「病理学」といった学問を学ばなくては、病気を治すことは出来ません。

又、これらを知っているだけでは病気を治すことが出来ません。

次に必要になるのは病気の診断方法である「診断学」や治療法を学ぶ「治療学」を知らなくてはなりません。

つまり「医学」とは、根底にしっかりした、「解剖学」「生理学」といった正常な体の仕組みや構造についての知識があり、次に「病理学」があり、その上に「診断学」「治療学」が存在していなければなりません。

このなかのどれか一つが欠けても「医学」とは言えないのです。

更に、同じ種類の「医学」を勉強した人は基本的に1つの疾患に対してはどの先生が施術をしても同じ結果 が出なければなりません。

例えば、一般的な疾患にかかってしまった時にどの病院へ行っても治療ができるということです。

つまり「再現性」がなければ「医学」ではないということです。

ですから「西洋医学」にせよ「東洋医学」にせよ「医学」という言葉が付く以上は上記の条件を満たしているのです。

 

それでは先程の条件をまとめてみましょう。

①、 健康な状態の体の構造や仕組みの概念がしっかりあること

(西洋医学では生理学・解剖学など、東洋医学では臓腑学・経絡経穴学など)

②、 病気が発症するメカニズムの概念がしっかりあること

(西洋医学では病理学など、東洋医学では病因病機学など)

③、①や②の上に診断や治療についての方法論があること

(西洋医学では診断学・治療学など、東洋医学では、弁証学・治療学など)

④、治療には再現性があること

これらが条件になります。

 

つまり、西洋医学であれ中医学であれインド医学であれ、医学と名のつくものには各々の概念による、生理学・解剖学・病理学があり、その上に各々の概念による、治療学が存在するのです。

1つの疾患であっても、各医学によって生理学~治療学まで各々の概念があるということです。

 

さて、「医学」と言われるものの条件を理解して頂いたところで、次に「現代医学」と「伝統医学」を簡単に紹介しましょう。

「現代医学」とは、日本でよく「西洋医学」と言われているもので、皆さんが病院などで受診される最先端医療をさします。

それに対して「伝統医学」とは現代医学とは違う理論による治療を意味します。

つまり、現代医学(西洋医学)と伝統医学の違いは、先程紹介した、生理学・解剖学・病理学・診断学・治療学などの概念が違うということです。

そして「東洋医学」もこの「伝統医学」の1つなのです。

 

★東洋医学とは?★

ここ数年、日本では予防医学への関心が高まっており、それにともない東洋医学への注目や期待といったものも高まりつつあります。

実際にCMなどでも「未病」といった東洋医学の言葉などを耳にする機会も増えてまいりました。

しかし残念な事に、東洋医学について表面上の紹介はされているものの、きちんとした説明までしているものは少ないようです。

逆に東洋医学を間違った解釈で紹介したり、受けて側に誤解を与えるような表現をしているメディアも多々見受けられます。

これはとても残念なことであります。

又、日本では「東洋医学」=「中国で生まれた医学」と思っている方が多いようですが本来の東洋医学とは、それだけを指すものではありません。

「東洋」という意味は「中国」という意味ではないのと同じように、「東洋医学」とは「東洋の医学」ということです。

つまり、「東洋医学」には、中国で生まれた「中国伝統医学(中医学)」の他にも、有名なものでは、インドのアーユルヴェーダやユーナニー・インドネシアのジャム医学・チベット医学などがあります。

 

では、中国で生まれた医学だけを言う場合は何というかというと「中国伝統医学」又は「中医学」といいます。

如何ですか「東洋医学」と「中医学」の違いがおわかりになりましたか?

当院の治療はこの「中医学」に基づいて行っております。

そこでこれ以降は混乱を避けるため、中国で生まれ伝承された医学のことは「中医学」と呼ぶことにいたします。

そして、中医学を含めた東洋の医学のことを「東洋医学」と呼びます。

 

さて、ここまで読まれると、西洋医学も中医学も同じ医学であるのがご理解できたと思います。

又、中医学のみに限らず、その他の東洋医学もれっきとした医学です。

しかし、日本の一般の方々は東洋医学を西洋医学と同等に考えている人は少ないでしょう。

なかには、「東洋医学」を、民間療法の1つ・非科学的な治療・いかがわしい・「お呪い」や「迷信」といった認識で捉えておられる方もいらっしゃいます。

何故、その様なことになったのか?

その答えは日本おける中医学の歴史や、鍼灸学校の教育システムの中に隠れております。

 

それでは中医学の歴史からのぞいてみましょう。

 

★ 日本における中医学の歩み★

=中医学の受容期(飛鳥~室町)=

中医学はいつごろ中国で生まれたと思いますか?

中医学の原典といわれる書に「黄帝内経(こうていだいけい)」という書物があります。

この書は紀元前200年頃の「前漢時代」に編集されたと言われます。

更にそれからさかのぼること500年前の「春秋時代」には、既に鍼灸治療は行われていたそうです。

この様に中医学は長い年月をかけて経験と実績を積み重ねて除々に出来上がってきたのです。

因みに中医学の基本的な部分は「漢」の時代に出来上がっておりますから、日本では中医学のことを「漢方」と呼びます。

皆さんもよくご存知の「漢方薬」はここからきております。

さて、そして日本には伝わったのは6世紀の半ばに、中国人が鍼灸治療の方法を持込んだのが始まりだと言われております。

その後「遣隋使」や「遣唐使」などにより徐々に伝えられ、平安時代には日本に定着していったそうです。

平安後期から室町時代にかけての医療は寺院により行われていたので、中医学は僧侶によって伝承されてゆきます。

その後、室町時代に入ると医師を専門職とする人が現れ始め、中国(明)に漢方を学ぶために留学をする者まで出てまいりました。

飛鳥時代から室町時代にかけてが、中医学の受容期とも言われます。

因みに、中国から医学が伝わる以前の日本の医学は「和方」と呼ばれ、現在でも民間療法として残っているものもあります。

 

=漢方の最盛期と日本の漢方(和漢)の誕生(安土桃山~江戸)=

さて、漢方が日本に定着してくると、日本人の漢方医の手によって書かれた医書が出回るようになります。

その中には、本来の漢方理論を無視したハウツー本的な本も出回るようになり、これが安土桃山時代には大流行したそうです。(今も昔も日本人はハウツー本が好きなようですね。)

そして、これが日本特有の漢方(和漢)を生むきっかけになってゆきます。

江戸時代へと入ると経済や社会も安定してまいり、益々医療が盛んになってまいります。

江戸時代が漢方の最盛期といってよいでしょう。

やがて江戸時代も中期になると漢方の理論を受け入れず、日本独自の漢方を目指す派閥も現れてまいりました。

この一派の理論は簡便であったことから、多くの医師から支持を受け、やがて全国へと広まってゆきました。

そしてその後明治以降も受け継がれることとなるのです。

 

=鎖国と日本漢方の発展(江戸)=

江戸時代の大きな出来事として「鎖国」がございます。

この「鎖国」は日本の漢方にとっても大きな影響を及ぼします。

先ず鎖国により中国からの情報が途絶えてしまいます。

この時点で中国から日本に伝わっていた漢方の情報は不十分であったため鎖国以降は不十分な漢方の情報を元に日本独特の漢方へと発展してゆくことになります。

 

=転換期(江戸)=

江戸幕府は鎖国時代にもオランダとは国交を保っていたのは皆さんもご存知のことと思います。

江戸中期にそのオランダから現代医学のルーツである「蘭方」が入ってまいりました。

やがて徐々に「蘭方」は「漢方」に代わり、日本の医療の主役となりってまいります。

とはいうものの、まだまだ鍼灸治療は明治維新までは盛んに行われていたそうです。

 

=衰退期(明治~昭和初期)=

時代は明治時代へと入ってまいります。

漢方は江戸時代中期に入ってきた「蘭方」によって主役の座から降ろされてしまっていたわけですが、今度は明治維新により医療の表舞台からも消されてしまいます。

明治政府は西洋医学のみを医療として普及させたのです。

具体的には、西洋医学を修得した者のみを医師として認めました。

つまり、明治以降の医療制度では、漢方医や鍼灸師は医療の枠から外されてしまったわけで、これは現在も続いております。

しかし明治維新以降、漢方や鍼灸治療が消えたわけではありません。

何故なら、現在と同様にこれらの治療に頼っている患者さんが存在するからです。

この様に医療の表舞台から降ろされた鍼灸治療や漢方薬は、民間療法・民間薬として医療の枠の外で生き残ってゆきます。

以上の政治的な方針により、今現在も残る鍼灸治療のイメージや中国漢方と同じ名前を持つのに効能が全く違う漢方(和漢方)が存在したりするのです。

明治の後期になると、臨床に携わる一部の医師から漢方の効果を認める者も出てきて漢方の学習を始める者も現れたそうです。

 

=再注目期と現代の問題点(昭和~現代)=

時代は昭和へ入り漢方が再度注目を浴びる時代がやってまいりました。

第2次世界大戦が終戦をむかえ、社会が落ち着きを取り戻すと、漢方薬の慢性病への効能が評価をされ始めます。

昭和47年には日中国交回復により閉ざされていた中医学の知識が再度日本へ入って来るようになり、これを学習する医師・薬剤師・鍼灸師が現れます。

昭和50年代前半には健康保険適用の漢方エキス剤が増え、これを機会に漢方が再び見直されるきっかけとなり、以降漢方エキス剤を使う医師は現在まで増え続けております。

漢方が見直され漢方エキス剤を使う医師が増えるのはとても良いことなのですが、その反面 新たな問題も発生しております。

医師が漢方エキス剤を使用する場合、本来の漢方の理論ではなく現代西洋医学の病名に合わせて使用せれていることの方が多いため、効き目が無かったり、副作用の問題も出てきております。

 

以上が日本における中医学の歩みです。

当初は医療として日本に入ってきた中医学が明治維新以降、医療制度から外されてしまい現在に至っていること。

また、中国から伝わった漢方が簡易的なものとして一部の流派に伝わっていったこと。

日本漢方が鎖国により独自の発展をしたことなどが、おわかりになったと思います。

これらの歴史が日本の一般の方が持つ「東洋医学」や「鍼灸治療」のイメージを作り上げるきっかけになってしまったのです。

更に、この様な歴史は、現代において下記のタイプの漢方薬や鍼灸に携わる人達をうみました。

タイプ①:中医学を1からしっかり学ぼうとするタイプ

タイプ②:中医学をしっかり学んではいないのに、学んだ気になっているタイプ

タイプ③:中医学の理論を受け入れず、日本独自の漢方処方や鍼灸を行うタイプ

タイプ④:中医学の理論を受け入れず、現代医学の概念で漢方処方や鍼灸を行うタイプ

 

現在の日本で漢方薬や鍼灸に携わる仕事をしている人々の考え方は概ね上記の4パターンになります。

そしてこれらの人々の多くが東洋医学を実践していると言うでしょう。

このことが一般の方々を混乱させる根源になっているのです。

 

さて、ここでちょっと矛盾を感じる方はいませんか?

先程「医学」とは、「生理学」や「解剖学」といった正常な身体の働きの知識の上に病気の成り立ちである「病理学」があり、さらにその上に「治療法」がありました。

漢方薬や鍼灸治療とは、中医学による治療法の1つであります。

つまりこれらの根底には中医学による生理学や解剖学(経絡・経穴学、臓腑学)病理学(病因・病機学)などの基礎的な理論の上になりたつものです。

先程の②③④のパターンの場合だと、基礎的な中医学理論を受け入れずに、最後の治療法のみを利用しているにすぎません。

例えば、現代西洋医学と中医学ではそれらの学問の概念や理論が全く違います。

生理学などの基礎的な学問から最終的な治療学まで現代西洋医学の概念で行えば矛盾はありませんが、基礎的な理論は現代西洋医学で治療法は中医学というやり方では治療効果 を100%発揮することは難しいと思います。

針治療の場合は最初から最後まで現代西洋医学の概念で治療をすることは可能ですが、現代西洋医学では、中医学による針治療の全てが解明されてはおりませんので、全てを現代西洋医学の概念で治療できる疾患は限られてしまいます。

しかしながら、針や漢方薬は基礎的な学問や理論を知らずに、「○○病には○○が効く」といった使用法でも効果 が出る場合も多いのも事実です。

ですから②③④のパターンの場合でも全く効果がでないというわけではありません。

ただし、鍼灸や漢方の効果を100%発揮させるのは不可能でしょう。

それどころか身体に対して悪影響や副作用を及ぼしてしまう場合もあります。

よく、針や漢方薬には副作用が無いと言われますが、それは全くの嘘です。

病を治すものですから、間違った使い方をすれば副作用がでるのは当たり前のことです。

日本国内における漢方薬の世界では、最初から診断までを現代西洋医学の概念で行い最後に現代西洋医学の病名に合わせて漢方薬を処方したり、症状のみに合わせて簡易的に漢方薬処方を行っている所もよくあります。

その場合、たまたま薬が合えば効き目はありますが、効き目が出ない場合も多々あります。

当院にも、中国で処方してもらった漢方薬は効いたのに、帰国して日本の病院や薬局で漢方処方をしてもらったら、以前の症状が再発してしまったという相談が度々あります。

 

さて皆さんの中には、

{お医者さんは中医学や東洋医学の知識をもっていて当たり前だろう}とか

{お医者さんは針の知識は無くても漢方薬の知識は持っているだろう}とか

{鍼灸師は皆中医学や東洋医学については詳しいだろう}

などと思っている方も多いと思います。

では、次のコーナーではその辺について紹介をしてみたいと思います。

2019/03/11
【内科疾患】発熱3~中医学臨床編1

☆【外感発熱】と【内傷発熱】

中医学で発熱を考える場合は、先ず、病因の違いによって、大きく【外感発熱】と【内傷発熱】に分類します。

 

 

【外感発熱】

「邪正闘争」時に生まれる熱です。

体は「外邪」を受感すると、正気が外邪を追い出そうとします。当然、外邪は追い出されまいとし、正気と外邪の戦いが生じます。このことを「邪正闘争」といい、「邪正闘争」が起こると、熱が発生してしまいます。この熱が「外感発熱」です。

特徴は、発熱は高熱・急に発症する・経過が短い・発展が早い・初期には悪寒がある・などがあります。

西洋医学でいう、感染による高熱・熱射病・マラリアなどの発熱がこれにあたります。

外感発熱は人体を襲った外邪の種類によって「風寒による発熱」「風温による発熱」「湿熱による発熱」「寒湿による発熱」「暑湿による発熱」の大きく5つに分けられます。

 

 

【内傷発熱】

飲食不節・過度な労倦・情志の失調・などにより、臓腑機能の失調がおこり、気血の流れが乱れたり、陰陽のバランスの崩れることにより起こる発熱です。

特徴は、比較的発熱は低熱・緩慢に発症する・経過が長い・発展が緩慢・悪寒はない・臓腑の症状を伴う・などがあげられます。

西洋医学でいう、機能性の微熱・癌・血液病・結核・内分泌疾患などによる発熱がこれにあたります。

内傷発熱は病因の種類により「陰虚による発熱」「気虚による発熱」「血虚による発熱」「肝鬱による発熱」「オ血による発熱」の大きく5つに分けられます。

 

では次に、「外感発熱」と「内傷発熱」のそれぞれについて、分類・病因・病機・症状・治療と順を追って説明してゆきます。(今後使われる専門用語等については、今まで説明してあるもののみを使用しますので、もし分からない言葉がありましたら、もう一度★中医学の基礎概念★を参照してください。)

 

 

【外感発熱】

1.「風寒による発熱」

《病因・病気》

体が風寒の邪に襲われると、体温調整をしている衛気が損傷され、体温調節が出来なくなる「衛気の閉塞*」や、衛気と営気のバランスが崩れ、陰陽失調の一つである「営衛不和**」がおこり発熱が発症します。又、「寒邪***」が体内に入ってくると「邪正闘争による発熱****」や寒邪そのものが熱化して発熱が発症します。

(衛気の閉塞*は「気の種類」を、営衛不和**は「気の種類」と「陰陽」を、寒邪***は病因の外因を、「邪正闘争」による発熱****は外感発熱の説明を、それぞれ参照してください。)

《症状》

〈主症状〉

悪寒・・・

 

寒邪は陰邪に含まれ、特徴は陽気を傷害しました。陽気に含まれる衛気は寒邪に障害を受けてしまいます。衛気は体を温める作用である「温煦作用*」が強い気ですから、衛気が障害されることにより温煦作用が低下して悪寒が発症します。

(温煦作用*については、気の作用を参照してください。)

無汗・・・

 

「寒邪の収引性*」により、毛竅を閉塞し起こります。

(寒邪の収引性については、外因の寒邪を参照してください。)

頭痛・身体痛・・・

 

風寒の邪が「経脈*」を阻滞し、体に栄養が行渡らなくなり起こります。

(経脈:経絡を参照してください。)

 

〈随伴症状〉

鼻閉・鼻声・くしゃみ・鼻汁・喉の瘙痒感・咳嗽

 

肺の生理作用で説明しましたが、肺は体表で外邪の侵入を防いでおりました。しかし、外邪を受感することにより、肺の働きの機能低下がおこります。その結果 上記の症状が現れます。

(肺の機能については、「肺」の生理を参照してください。)

《治療》

治療は「解表散寒」「宣肺退熱」といい、体表にある風寒の邪を追い出し、肺の機能を元に戻し、熱を取り去るという治療を行います。

ツボ:尺沢・大椎・外関・風池・など

漢方:通宣理肺片・小青竜湯・など

 

 

2.「湿熱による発熱」

《病因・病気》

体内に湿熱又は湿邪が侵入して熱化し、それが「三焦*」で留まることにより発熱します。

「飲食不節**」や、「過度の思い悩み***」は脾を損傷し、脾の運化作用の低下が起こり湿が産まれます。

(三焦*:内蔵の三焦を参照してください。)

(飲食不節**・過度の思い悩み***:病因を参照してください。)

 

《誘発原因》

飲食の不節が続くと増悪します。

《症状》

〈主症状〉

発熱・頭昏・・・

 

湿熱又は湿邪が侵入して熱化し、それが三焦で留まることにより気の流れを阻滞してしまい、気が上に昇ってゆけなくなりおこります。

咳嗽・ 白く粘った痰・・・

 

湿は脾を損傷させ、消化吸収作用である、「運化作用*」を失調させます。その結果 痰が生じます。

(運化作用:脾の生理を参照してください。)

口が苦い・・・

 

湿熱が、腹部(中焦)阻滞することにより、胆が影響を受け胆汁の分泌が乱れて起こります。

(胆:胆の生理を参照してください。)

 

〈随伴症状〉

胸脇脹満・・・

 

上記の理由で胆が失調することにより、胆と関係のある経絡の流れが滞ってしまい、その「経絡」の走行部位 である胸脇が脹った感じがします。

(経絡:経絡を参照してください。)

食欲不振・・・

 

湿により脾が損傷され、消化吸収作用である「運化作用低下」により起こります。

(運化作用:脾の生理を参照してください。)

倦怠・力が入らない四肢のだるさ・・・

 

脾の生理で説明しましたが、脾は四肢を主っておりますので、脾が湿熱に損傷されて起こります。

小便が赤っぽく短い・便秘か下痢・・・

 

湿熱が下腹(下焦)阻滞すると、小便が赤っぽく短くなり、湿熱の熱邪が強いと腸液を損傷してしまい便秘となり、湿邪が強いと下痢になります。

軟便・・・

 

湿邪が腸に入り大便に影響をおよぼして起こります。

普段から痰が多い・・・

 

内生した痰が口まで昇ってきている状態です。

胸苦しい・・・

 

内生した痰が胸中に停滞している状態です。

胃部のつかえ・悪心・嘔吐・・・

 

内生した痰が胃部に停滞している状態です。

《治療》

治療は「清熱利湿」「健脾助運」といい、熱を下げ、湿を体外に出すことと、脾を整えて運化作用を復活させることにより湿の発生を防ぎます。

ツボ:豊降・足三里・陰陵泉・三陰交・曲池・合谷・など

漢方:甘露消毒丹・五苓散・桂尺芍知母湯・半夏白朮天麻湯・平胃散・など

 

 

3.「風温による発熱」

《病因・病機》

風温の邪が体表から体内に侵入し、衛気が損傷されて発熱が起こります。又、体内に入った熱がこもって発熱します。

《症状》

〈主症状〉

ノドの乾きはあるが、それほど水分は欲しない・・・

 

これは虚熱の症状です。虚熱とは体を冷却する作用が低下しておこる熱のことです。この場合は風温の邪が体内に入って来たことにより起こります。風温の邪は陽邪であるので、陰を損傷しやすいという特性があります。そのため陰の物質が損傷され、冷却作用が低下してしまうのです。

発熱は重く悪寒は軽い・・・

 

風温の邪は体内で化火しやすいため重い発熱になります。

少量の発汗・・・

 

「風邪」も「熱邪」も共に上昇しやすい特性がありますので、上に昇り肺を侵します。肺は汗の排泄の管理をしていますので、肺が失調することにより起こります。

(風邪・熱邪:病因の中の外因を、肺の機能については肺の生理を参照してください。)

顔や目が赤い・・・

 

熱は上昇する特性があります。体内の熱が上部である顔に昇ってきて起こります。

 

〈随伴症状〉

頭痛・頭の張った感じ・・・

 

体内の熱が上部である頭に昇ってきて起こります。

咳嗽・黄色い痰・・・

 

熱が上昇してきて肺が侵された症状です。肺の生理で説明しましたが、肺は水液代謝に関与していました。肺が損傷されることで水液の代謝能力が低下し、不要な水分が蓄積されてしまい、痰となって体外へ排出されるのです。ですから肺は「貯痰の器」と言われております。又、黄色の痰は熱を意味します。因みに白くてサラサラの痰は冷えを意味します。

鼻づまり・粘り気のある鼻水・・・

 

肺は鼻と深い関係がありますので、これもやはり肺の損傷による症状です。又、粘り気のある鼻水は熱を表します。痰と同様にサラサラした鼻水は冷えを表します。

 

《治療》

治療は「疏風解表」「宣肺去痰」といい、体表の風邪を追い払い、肺の機能を向上させて痰 を追い出す治療を行います。

ツボ:豊降・尺沢・曲池・合谷・大椎・風池・など

漢方:銀翹解毒片・桑菊感冒片・超婢湯・など

 

4.「寒湿による発熱」

《病因・病機》

寒湿や湿邪が体に侵入することにより、陽気が外に発散出来なくなります。この状態を「陽気閉鬱」と言い、長引くと発熱を起こします。

《症状》

〈主症状〉

悪寒・発熱・・・

 

寒湿により陽気が損傷されて起こります。

頭が重い・鼻づまり・・・

 

寒湿の停滞によっておこります。

下痢・・・

 

寒湿が脾を損傷して、消化吸収作用である運化作用が低下しておこります。

 

〈随伴症状〉

胃脘部のつかえ・・・

 

寒湿が脾を損傷しておこります。

腹痛・・・

 

寒湿により胃腸の働きが低下して起こります。

《治療》

治療は「散寒化湿」「解表退熱」といい、寒と湿を取り去り、熱を下げる治療を行います。

ツボ:風池・外関・中カン・足三里・など

漢方:薏苡仁湯・羌活勝湿湯・小青竜湯・など

 

 

5.「暑湿による発熱」

《病因・病気》

暑湿に体が侵され、湿邪が体内にこもり、暑邪が体表をいぶし蒸すことによる発熱です。

《症状》

〈主症状〉

体が熱い・患者には熱感はあるが肌はそれほど熱くない・・・

 

暑邪が強いと前者で、湿が強いと後者の症状がでます。

頭が張る・意識障害・・・

 

暑湿が気血の流れを妨げ、気血が頭に巡らないために起こります。

胸が熱い・喉の渇き・小便が赤っぽく短い・・・

 

暑邪は体内の中の正常な水分を損耗させます。その結果 身体を冷却することが出来なくなり、このような症状が起こります。

胸部が不快・咳嗽・・・

 

肺が暑熱に侵されて起こります。

《治療》

治療は「疏風散邪」「清暑化湿」といい、暑邪をしずめ湿邪を追い出す治療を行います。

ツボ:風池・曲池・大椎・合谷・など

漢方:桂苓甘露飲・清暑益気湯・新加香需飲・清絡飲・など

 

以上が「外感発熱」についての説明となります。次に「内傷発熱」について説明をいたします。

 

 

【内傷発熱】

1.「陰虚による発熱」

《病因・病機》

陰陽の所で説明しましたが、陰陽を寒熱で分類すると、陰は寒性で陽は熱性に分類されました。陰は寒性ですから、体を冷やす作用があります。これは、体が熱くなり過ぎないように抑制しているわけです。ですから、陰の作用低下は発熱につながってしまいます。この状態が陰虚による発熱です。もともと陰虚体質の方もいますが、長期にわたる下痢や湿熱による病などは陰液を損傷させやすく、その結果 、陰虚となり陽気が亢進し、発熱が起こります。

 

《誘発原因》

疲労や性交渉などがあった日の夜に増悪します。

《症状》

〈主症状〉

午後や夜間に発熱がある・手のひらや足の裏が火照る・・・

 

陰虚の特徴的な症状です。(陰陽は夜半近くで相交します。その際に陰が少ないと相対的に陽が抑えきれずに発熱します。)

胸がほてる・・・

 

陰虚による熱が心を侵した結果 です。

寝汗・・・

 

夜半は体表では汗が出やすい状態にあります。更に体内の熱が津液を追い出す形になり上記の症状がでます。

 

〈随伴症状〉

夢が多い・不眠・・・

 

陰虚による熱に心が侵され、心神に影響がでた症状です。「心」は精神活動の統括をしておりました。心が損傷されると、精神不安定になり上記の症状がでます。

(心の作用については心の生理を参照してください。)

ノドの乾き・・・

 

水液の不足によりノドが潤せないために起こります。

月経不順・・・

 

陰虚により生じた熱が血におよんだ症状です。

便秘で大便が乾燥している・小便は黄色く少量 ・・・

 

熱が水液を損耗させて起こります。

温まると症状増悪・・・

 

温まると虚火が増長するために起こります。

《治療》

治療は「滋陰清熱」といい陰液を滋養して陽を抑制し熱を下げる治療を行います。

ツボ:復溜・腎兪・太谿・三陰交・心兪・神門・内関・など

漢方:知柏地黄丸・加減葳蕤湯・秦艽鼈甲湯・天王補心丹・など

 

 

2.「気虚による発熱」

《病因・病機》

気の不足によって起こります。病機については色々ありますが、主に脾の機能低下に起因するものが多いようです。過労や飲食の不節は脾を損傷し、脾の運化作用の低下が起こります。これにより飲食物の消化吸収能力が低下し、気が作られなくなり気虚となります。

その結果、水液も作られなくなり陽を抑制できず発熱が起きたり、脾の持ち上げる働きである昇提作用の低下により「脾気下陥*」が起こり、陽の気が鬱滞し発熱が起きたりします。

(脾気下陥*:脾臓の生理を参照してください。)

 

《誘発原因》

疲労後に増悪します。

《症状》

〈主症状〉

発熱は疲労後に増悪します。・・・

 

気虚はエネルギーの不足している状態です。もともとエネルギー不足の状態で疲労をすれば、当然エネルギー減少は過多となり症状が現れたり悪化したりします。

 

〈随伴症状〉

めまい・無力感・・・

 

「元気*の不足」により、物を運ぶ働きである「推動作用**の低下」が起こり、体の隅々に気血などが循環できなくなり起こります。

(元気*は気の種類を、推動作用**は気の作用を参照してください。)

息切れ・喋るのがおっくう・・・

 

気虚により、呼吸運動の働きのある「宗気不足*」が起こり呼吸・発声を推進できずに起こります。

(宗気:気の分類を参照してください。)

感冒・多汗・・・

 

気虚により、体温調整をしている「衛気*の不足」で起こります。

(衛気*:気の分類を参照してください。)

食欲不振・軟便 ・・・

 

脾の消化吸収の働きである「運化作用*」の低下により起こります。

(脾の運化作用*:脾の生理を参照してください。)

《治療》

治療は「調中益気」と言い、中気を整えて気を益す治療を行います。

ツボ:脾兪・胃兪・足三里・中脘・百会・など

漢方:補中益気湯・など

 

 

3.「血虚による発熱」

《病因・病機》

血は陰陽では陰に分類されました、「陰虚による発熱」でも説明したので皆さんも記憶に新しいと思いますが、陰は冷却作用がありました。血の不足は陰の不足と同様に陽気の亢進に繋がり発熱を招きます。血虚は長期間の病気による臓腑の損傷(特に心肝血虚や脾の生血不足)や大量 の出血・出産や手術での過度の出血などによって起こります。

《症状》

〈主症状〉

決まった時間に発熱する・寝汗・手足が熱い・・・

 

血の不足により、陽気を抑えきれずに発熱がおこります。

 

〈随伴症状〉

顔が赤い・・・

 

陽気が顔面 部まで昇ってきている状態です。

動悸・不眠・夢が多い・・・

 

心と特に関係の深い血の不足である「心血虚*」の症状です。

(心血虚*:心の生理を参照してください。)

顔色にツヤが無い・唇が紫色・・・

 

血の不足により顔を滋養出来ない状態です。

月経が遅れる・無月経 ・・・

 

血の不足のために起こります。

皮膚の乾燥・・・

 

血の不足により表皮を潤せない状況です。

便秘・・・

 

血の不足により腸を潤せない状況です。

《治療》

治療は「益気養血」といって血を増やし、脾気も補し生血作用も高める治療を行います。

ツボ:心兪・脾兪・足三里・三陰交・血海・地機・など

漢方:生血丸・加味帰脾湯・酸棗仁湯・など

 

2019/03/11
【その他】日本における鍼灸治療の現状2

★医大における中医学や東洋医学の教育システム★

お医者さんになるには大学の医学部に通うわけですが、医学部では西洋医学を中心に勉強しますので、中医学や東洋医学について十分な勉強はいたしません。

これは医学部だけではなく薬科大学も同じです。

各大学によって中医学研究会や東洋医学研究会といったものがあったり、授業で東洋医学の講義があったりしますが、医学教育と言う意味ではまだまだ不十分な状態です。

ですから東洋医学に興味のある学生は個人的に勉強をせざるをえない状況です。

さて日本の医療制度をみてみると、鍼灸治療は「医療類似行為」という枠組みであります。

お医者さんは「医療行為」を行えるわけですから、当然鍼灸治療も行えますし、漢方薬の処方もできるわけです。

つまり、法律上はお医者さんに中医学の知識がなくても、針を打っても、漢方薬を処方しても問題はありません。

又、薬剤師さんも同様に中医学の知識がなくても漢方薬の知識がなくても販売することができます。

逆に、中国の中医大学で中医学を学び中医師として病院へ勤務している人でも、日本の免許を持っていなければ、いくら中医学に精通 していても日本で針を打ったり、漢方薬の販売や処方することはできません。

 

先程も述べましたが、鍼灸や漢方には素晴らしい効果がありますし、逆に副作用もあるわけです。

それらの効果を引き出すのも、副作用を出さない様にするのも、正確な中医学の知識が必要になります。

しかしながら、医師の免許を取得したというだけで、中医学の知識が無いのにこれらの治療や漢方薬の処方が可能になるのは、私にはとても不思議な制度に思えてなりません。

 

さて次は鍼灸師の教育システムについて紹介してみましょう。

 

★日本の鍼灸師の教育システムについて★

先ず、日本で鍼灸師になるには、鍼師・灸師の国家試験に合格しなければなりません。

鍼師灸師の資格は、厚生労働大臣が認定する国家資格です。

しかも、この資格は独立開業権が認められております。

つまり、国家試験に合格して必要な事務手続きを済ませれば開業(開院)ができるという資格です。

この鍼師灸師の国家試験を受験するには、文部科学大臣の認定した学校または厚生労働大臣の認定した養成施設(鍼灸専門学校など)で必要課程を修了しなければなりません。

(健常者の場合は厚生労働大臣の認定した養成施設になります。)

さて、国家試験に出題される問題についてですが、殆んどの問題が現代西洋医学の問題で東洋医学についての問題の割合はたったの五分の一位 です。

 

上記の事を踏まえて鍼灸学校の話しをいたしましょう。

鍼灸学校の修業年数は3年です(鍼灸大学を除く)。

学生の年齢を見てみると高校を卒業してそのまま入学した方もいれば、60代の方もおられます。

学生の年齢だけをみても幅が広いことがわかると思います。

ですから、入学の動機も様々で中医学や東洋医学を学びたいと純粋に思って入学される方は決して多くはありません。

しかも、国家試験の問題は殆んど現代西洋医学ですから、専門学校の3年間はどうしても現代西洋医学中心のカリキュラムになってしまいます。

これはしかたがないことで、東西に限らず医学の勉強は莫大な知識が必要になってきます。

3年間で東西の医学を修得させるのは不可能なのです。

すると、国家試験に合格することが大事であるし、学生も中医学や東洋医学をどうしても勉強をしたいというわけではないので、現代西洋医学中心のカリキュラムになってしまいます。

又、鍼灸学校に常勤されている先生方も上記の教育システムによる教育を受けておられるので、学生に中医学や東洋医学を深く教えることができる先生は殆んどおりません。

学校によっては中医学や東洋医学に詳しい先生がおられたり、外部より先生を招いているところもありますが、それでも授業のコマ数の問題等、中医学や東洋医学の教育がしっかり行われているとはいえません。

ですから、日本の鍼灸師は、鍼灸学校に入学し3年間という医学を学ぶにはあまりにも短い時間で、現代西洋医学の中から国家試験に出そうな箇所を中心に勉強し、試験に合格し資格を所得しているのです。

しかも、先程も述べましたが鍼灸師の資格は独立開業権がありますので、この時点で開院をしても問題はありません。

 

日本の鍼灸学校の教育システムについては上記のようになります。

如何ですか?

これを読まれて鍼灸学校で東洋医学や中医学のスペシャリストが育つと思いますか?

それどころか3年間という短い期間で医療者を育てられると思いますか?

 

これについては他の教育システムと比較すれば答えは一目瞭然です。

例えば、台湾の中医大学などでは6年以上の時間を費やし中医師を育てます。

その内容は

1~3年・・・・・・西洋医学の基礎

3~5年・・・・・・中医学

5年(後半)~6年・・臨床

学生は卒業までに7000~1万人の患者さんを診ます。

さらに卒業後は大学病院などで研修を行います。

(中国や台湾では大学病院の中に鍼灸科があります)

 

又、日本の医学部については6年+2年の研修といったプログラムになっています。

 

これら2つを比べても医療を行う人材を育てるのには、かなりの時間が必要になるのがご理解いただけると思います。

 

それに比べると日本の鍼灸学校の3年という期間はどうでしょうか?

当然、鍼灸学校卒業時に学生の臨床経験は数名~数十名がいいとこでしょう。(当然見学のみ)

又、国家試験合格=開業権というのもどうでしょうか?

国家試験にさえ合格すれば、研修経験が無く学校でひたすら机上の論理だけを学んだ人であっても開業ができ、院長先生となれるのです。

 

これが日本の鍼灸教育制度であります。

あえて苦言を申すと、国は鍼灸治療を「医療類似行為」として扱っており、「医療行為」とはみなしていないわけで、当然鍼灸師も医療行為が出来ないわけですから医師と同等に6年や8年もかけて知識を得る必要がないと考えるわけです。

ですから3年で卒業できる制度を作ったのだと思います。

また鍼灸学校でもこのような理念や状況のなかでは、治療者を育てる教育が出来るわけもなく、ただ国家試験受験の為の予備校に成り下がってしまっているのが現状かと思います。

 

ですから、中医学や東洋医学を学びたいと思う学生は学校に頼ることは出来ず、独学するしかありません。

しかし、真の東洋医学や中医学を実践している治療院も少ないことから、研修をしたいと思っても、なかなかそのような治療院で研修ができるチャンスも少ないのが現状です。

医学は本からだけで全てを学ぶ事は不可能で、実際の臨床に触れたり経験のある先生に指導をしていただかないと身に付きません。

日本のこのような状況下では、いくら本人が中医学や東洋医学を学びたいと思っても実践できる場所は少ないのです。

その結果、中医学や東洋医学をしっかりと修得できる鍼灸師・医師・薬剤師の数はかなり少ないものとなっております。

 

★ 日本の針灸と中医学★

この様な環境下で育った鍼灸師の多くは治療行為などは出来ずに慰安的な行為に頼るしかありせん。

又、本当の東洋医学や中医学すら知らない状況ですので、冒頭でも述べたように、鍼灸治療をしていれば東洋医学の治療をしていると勘違いしてしまう鍼灸師がでてきてしまうのです。

その結果、安易に看板に東洋医学の文字を書いてある治療院も少なくありません。

又、最近は東洋医学ブームでメディアなどでも間違った東洋医学の情報が氾濫しており、街を歩けば東洋医学を売り物にした癒し処などが目に付きます。

残念ながらこれらの多くは東洋医学とはかけ離れたものであります。

先程の文章を読まれた皆さんはおわかりだと思いますが、今の日本では中医学・東洋医学による治療を実践している治療院は少ないのが現状であります。

又、日本における鍼灸師のレベルの幅はかなり大きいものになります。

例えば、3年間鍼灸学校に通っただけで特に研修の経験もなく、国家試験に合格して開業した先生から、在学中から卒業後数年間に渡り経験のある臨床家の元で研修をした先生では、かなりの差になるわけです。

又、日本の場合は中医学を全く知らずに漢方薬を扱っておられる医師や薬剤師も多く存在します。

 

しかし、しっかりと中医学を勉強されておられる医師・薬剤師・鍼灸師は少数ながら必ずおります。

ですから、中医学・東洋医学の治療をお求めの皆さんは、メディアや看板に踊らされることなく、しっかりと御自分の目でそのような治療院を諦めずに探してくださいませ。

 

勿論、症状によっては中医学や東洋医学以外の鍼灸治療法でも十分効果 がありますので、ご自分に合う治療法にまだ出会っていない方は、是非ご自分に合った治療法を探して下さいませ。

 

▼最後に▼

最後まで目を通して頂き有難うございます。

鍼灸・漢方医療を受診される際には患者さんサイドにも医療者を見極める力を養っていただきたいのであります。

慢性疾患や体質改善の治療を希望される方は、弁証(症状の把握・起因・現状の進行状況)診断ができる所で受診して頂きたいと思います。

医学には、理論・治療方針・再現性が必要となります。鍼灸・漢方医療は決して病名診断で治療を行うものではございません。

今回の内容が鍼灸・漢方医療を受診されたいと希望する皆様方に伝わることを熱望いたします。

2019/03/11
【内科疾患】発熱4~中医学臨床編2

4.「肝鬱による発熱」

《病因・病機》

肝の生理で述べましたが、肝はストレスに弱い臓器でした。ストレスが加わることで、気鬱が起こり、次いで気鬱が火になる「気鬱化火」が起こり発熱を発症いたします。

 

《誘発原因》

情志の変化で誘発されます。

《症状》

〈主症状〉

イライラなどの精神状態で発熱する・・・

 

肝鬱化火の症状です。(詳しくは肝の生理を参照してください。)

 

〈随伴症状〉

イライラ・起こり易い・・・

 

気をスムーズに流す働きである「肝の疏泄作用*」の失調により「精神活動の調整**」が出来なくなって起こります。

(肝の疏泄作用*精神活動の調整**:肝の生理を参照してください。)

胸や脇の張った感じ・乳房の張った痛み・・・

 

肝鬱により気の渋滞が肝と関わりのある「経絡*」に起こり、発症します。(詳しくは「経絡*」を参照してください。)

月経不順・生理時の痛み・・・

 

肝の失調により肝の作用である血流量 の調節が出来なくなっておこります。(詳しくは肝の生理を参照してください。)

ノドが乾き冷たい飲み物を欲する・・・

 

熱が体内の水液を損耗して起こります。

顔が紅い・・・

 

熱が顔まで昇って来ている状態です。

便秘・・・

 

熱が体内の水液を損耗して腸を潤せなくなって起こります。

尿は紅っぽいか黄色・・・

 

熱が膀胱などへ下注すると起こります。

《治療》

治療は「理気解鬱」「清肝瀉火」といい、肝の火をしずめて、疏泄を改善し鬱滞している気を流す治療を行います。

ツボ:太衝・行間・風池・曲池・合谷・など

漢方:丹梔逍遥丸・羚角鈎藤湯・天麻鈎藤湯・大定風珠・竜胆瀉肝湯・越鞠丸・炙甘草湯・など

 

 

5.「オ血による発熱」

《病因・病機》

オ血とは、血が滞ってしまっている状態です。このような状態でいると気血の流れが妨げられて鬱滞を起こし、更に熱化し発熱を発症します。「オ血」は気滞・外傷・出血などにより引き起こされます。

《症状》

〈主症状〉

午後や夜間に発熱・・・

 

オ血の病は血にあります。血は陰に属します。陰の病は午後や夜間に発症しやすい特性があります。(詳しくは、陰虚の症状を参照してください。)

固定痛・・・

 

オ血の特徴です。血の滞りがある場所に痛みが発症します。

サメ肌・・・

 

皮下の経絡にオ血があると、その表皮まで血が循環されなくなり起こります。

 

〈随伴症状〉

顔色がどす黒い・・・

 

オ血があるため顔面 の表皮まで血が循環されなくなり起こります。

ノドの乾き・・・・・・

 

体内に鬱熱があるためノドが潤せずノドの乾きが生じます。

月経血や出血は紫暗色で血塊がある・・・

 

紫暗色は血液循環の悪い特徴で、さらに進むと血塊が生じます。

《治療》

治療は「活血化オ」「行気通絡」と言い、滞っている血を流し、更に、気も流して経絡を通 す治療を行います。

ツボ:合谷・三陰交・膈兪・内関・太衝・など

漢方:七厘散・温経湯・清営湯・など

 

以上が病因の分類による発熱の説明になります。

 

さて、発熱の中に「潮熱(ちょうねつ)」と表現される症状があります。

「潮熱」とは東洋医学独特の考え方で、臨床においてもよく見られる症状ですので簡単に紹介しておきます。

 

★潮熱★

「潮熱」とは、あたかも潮の満ち引きの様に、規則正しく、いつも同じ時間に発熱が起きたり、熱勢が強くなる症状をいいます。

一般には午後に多く発熱し、【陽明潮熱】【陰虚潮熱】【湿温潮熱】などがよく現れます。

 

 

【陽明潮熱】

午後3時~5時の間で熱が高くなります。この時間帯は「日晡」と呼ばれることから、「日晡潮熱」とも言われます。

外因の熱邪が胃腸(陽明)*にこもり、体内や体外を蒸らすことにより発熱します。

腹部の張ったような痛み・乾燥した便・などが特徴です。

[胃腸(陽明)*:経絡の説明で正経12頚経というのがありました。これは経絡のなかで一対ずつ内臓と深い関係のある経絡のことでした。このなかで胃と大腸に関係の深い経絡を陽明経といいます。]

この時間帯は陽明経の気が旺盛になり、陽明経の「正気**」と外邪で「邪正闘争***」が起こるために、毎日この時間に熱勢が強くなります。

(正気**は「気」の説明の「正気」を、邪正闘争は「外感発熱」を、参照してください。)

 

 

【陰虚潮熱】

午後もしくは夜間に発熱することから「午後・夜間潮熱」とも言われています。又、朝には熱は下っているのですが、午後や夜間になると再度発熱を起こします。

発熱はそれほど高熱ではなく(38℃位)、頬が紅潮したり、手の平や足の裏のほてり、寝汗、などが特徴です。「陰虚潮熱」とは先程説明した「陰虚による発熱」のことですので、詳細については「陰虚による発熱」を参照してください。

 

 

【湿温潮熱】

午後の発熱が顕著に現れます。又、高熱がでることもあります。患者さんは熱感を訴えますが、他人が手で触っても最初はそれほど熱はありませんが、しばらくすると著しい熱感を覚えます。

主に外因の中の湿邪・熱邪が脾胃に影響して起こります。

悪心・嘔吐・食欲不振・泥状便・頭や体が重い・といった特徴があります。

湿熱が体内にこもってしまい、陽気の流れを阻滞させてしまいます。その結果 、熱が体外に発散できず発熱します。

 

以上が「潮熱」の説明になります。

先程も述べましたが、「潮熱」は臨床上よく見る症状ですが、東洋医学独特の考え方をし、西洋医学には無い概念であります。

このような症状の患者さんが病院へ行くと、医師からは「ただの風邪でしょう」と言われ風邪薬を処方されたが、何日か服用しても症状が改善されないといった話をよく耳にします。

 

さて、発熱について説明してまいりましたが、ご理解していただけましたか?皆さんに一番わかっていただきたいのは、一口に「発熱」と言っても病因によって、ツボや漢方薬の処方が違うという点です。

中医学には「同病異治・異病同治」という言葉があり、同じ病気であっても患者さんの体質や病状で治療や処方が違うこともあれば、異なった病気であても同じになることもあります。まさしく患者さん個人個人に合わせたオーダーメイドの医学です。

ですから最近TVや雑誌でよく「○○○には、このツボが効く」とか「○○○には、この漢方薬がいい」などと言われていますが、本来の中医学はそのような単純なものでは決してありません。それらはあくまで対処療法的なもので、根本からの治療には残念ですがなりません。

以上が、中医学(東洋医学)の診立てによる発熱の説明です。ご理解いただけましたでしょうか?

 

さて、次にご家庭で簡単に作れる解熱効果のある家庭薬・健康飲料・薬酒を紹介したいと思います。

 

 

★★家庭で作れる解熱効果のある、家庭薬・健康飲料・薬酒★★

 

★家庭薬★

昔から伝わる民間療法や家庭薬の中には、ほとんど薬効がなく、おまじないや迷信といっていいものもから、驚くほど効力があり、且つ科学も認める物まであります。

しかしながら、これらの効力の高い家庭薬は材料の入手が困難であったり、手間がかかるものも少なくありません。ですから、ここでは入手も容易で、手間も出来るだけ掛からないものを紹介したいと思います。(尚、出来るだけ数多くの情報を提供したいと思いますので、レシピについては省かせていただきます。もし、興味のある方はご遠慮なさらずに質問をお寄せくださいませ。)

 

◎たんぽぽエキス

タンポポには西洋タンポポと日本産のタンポポがあります。普段、我々が目にしているのは西洋タンポポですが、薬効は西洋でも日本産でも大差はありません。タンポポは解熱の他にも様々な効用があり、漢方薬にも使われています。タンポポとアルコールで「たんぽぽエキス」が作れます。

 

 

★薬酒★

薬酒とは薬効のある原料をアルコールにつけたものです。薬酒のメリットは原料をそのまま摂取するより吸収率が高いことから、少量 で効果が期待できるところにあります。又、お酒の好きな方には、楽しく美味しく飲んでいただけることも出来ます。又、材料をビンに入れておけば後は自然に熟成されるので手間もかかりません。 結構、作り出すとはまりますよ!

 

◎クコ酒

クコは生薬名では「枸杞子」「地骨皮」などと言われ、不老長寿・強壮・強精の薬として有名ですが、実はクコには解熱の効果 もあります。クコの実・氷砂糖・ホワイトリカーで作れます。

 

◎地黄酒

地黄は解熱以外に、貧血や強壮に効果があります。

熟地黄・砂糖・ホワイトリカーで作れます。

(熟地黄:アカヤジオウの根を蒸して乾燥させたもので、漢方薬局で購入できます。)

 

◎しそ酒

しそは解熱の他にリラックス効果もあり、漢方では「蘇葉」と呼ばれています。青じそと赤じそがありますが、薬酒にするなら青じその方がよいでしょう。

しその葉と実・蜂蜜・ホワイトリカーで作れます。

 

◎スイカズラ酒

スイカズラは解熱の他には、感冒・利尿に効果があります。スイカズラの花は漢方では「金銀花」と呼ばれています。

 

 

★健康飲料★

ここ数年、健康食品ブームが訪れています。人は物を食べて、それをエネルギーに換えて生きております。どうせ食べるのなら健康によい物・自分の体に合った物を飲食したいですよね。是非とブームで終わらせず、生活の一部にしていただきたいと願っております。

 

◎クズ湯

クズ湯の解熱効果は改めて言う必要がないくらい有名ですね。クズを漢字で書くと「葛」です。どこかで見覚えのある漢字ですよね。実はクズは有名な漢方薬「葛根湯(かっこんとう)」の主原料なのです。クズ粉・ひねしょうが・砂糖で作れます。

 

いずれも解熱効果に優れ、入手も容易だと思います。興味がある方でレシピ等に質問がある方は遠慮なさらずにご質問下さいませ。

 

 

 

さて、冒頭でも述べましたが「発熱」は重大な病気のサインであったりします。ところが誰しも発熱して直ぐに病院へ行く方は少ないでしょう。中には発熱ぐらいで病院へ行くのは恥ずかしいと思い込んでいる方もまだいるようです。又、発熱が長引いた場合にどのタイミングで病院へ行けばよいのか迷う方も多いと思います。そこで最後に病院へ行ったほうがよい状況について挙げておきます。

 

☆お医者さんに相談した方がよい状態とは☆

もし下記の様な状態になってしまったら、医師に相談された方がよろしいと思います。

 

1.生後3ヶ月~1歳のお子さんの発熱が24時間以上持続した時。

2.薬等を服用して1~2時間たっても39℃を超えている時。

3.2日たっても発熱が収まらない時。

 

以上が「発熱」についてになります。

発熱といっても様々な体調のアンバランスから来ることが多いと言うことを今回の内容で学習・ご理解して頂ければ有り難いかと思います。

又、発熱にはその起因によって、単に解熱剤を服用すれば済むということではないという事もご理解して頂ければと思います。

なかなか発熱の症状が改善されない場合は西洋医学的なアプローチだけを試みるのではなく、中医学(東洋医学)に詳しい所へご相談されることも大切かと思います。

ただし、東洋医学と言っても、中医学を行っている所でなければ、タイプ別 の起因判断は行えないかと思いますので、この点もご留意くださいませ。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

2019/03/11
【内科疾患】貧血1~西洋医学編~

貧血は、いまやとてもポピュラーな病気です。

世間では、安易に貧血には鉄剤が良いと謳われ、コンビニでも鉄剤のサプリメントが売られていますね。

しかし、素人判断で済ませてしまってはいけません。自覚症状は感じ方に個人差がありますし、どのような 原因から貧血症状がでているのか分からないからです。安易に鉄剤を飲んでも、それをきちんと吸収し 血にかえていく力がなければ、無駄になってしまいますし、重大な病気が隠れていることもあるのです。

根本的な原因をきちんと把握し、それに合った対応をしていきましょう。

 

《西洋医学的考え方》

貧血の症状は、めまい・立ちくらみ・疲れやすい・眼瞼や爪床の蒼白・頭痛などです。

 

これらの症状は、酸素供給の役割を担っている血液中の赤血球やヘモグロビンが減少し、そのために 体内の細胞が酸素欠乏状態になることで起こります。その原因となる疾患は沢山の種類があります。

 

○貧血の血液検査

貧血の診断のための血液検査では、主に以下の項目を調べます。

・赤血球の数: 酸素を運ぶ主役の赤血球。

 

正常値は、1mml中に、成人男性で450万〜530万個、女性400万〜480万個。

 

検査値が男性450万以下、 女性400万以下だと貧血と診断されます。

・ヘモグロビン

 

正常値は、1dl中、男性14〜18g、女性12〜16g。

 

貧血は男性12g以下、女性10g以下。

・ヘマトクリット値

 

一定量の血液中に存在する赤血球の容積の割合を示した数字。

 

正常値は、男性で40〜50%、女性で35〜45%。

 

貧血は男性35%以下、女性30%以下。

・血清鉄

 

血清中にある鉄分で、肝臓や脾臓で貯蔵された鉄を骨髄に運んでいる状態のもの。

 

正常値は血清100mlあたり 80〜12μ g。

 

鉄欠乏性貧血ではこの値が減少しています。

・フェリチン

 

血清中にあるフェリチンは鉄と結合することのできるタンパクで、貯蔵鉄の減少があるかどうかがわかります。

 

○貧血の原因となる疾患について

☆鉄欠乏性貧血

 

貧血全体の約7割で最も頻度の高い貧血ですが、治りやすい貧血でもあります。

 

鉄欠乏性貧血の原因としては以下の事が考えられます。

 

1・

食生活での鉄不足

 

成人男性や閉経後の女性が1日に必要とする鉄の量 は1mgです。

ただし食事から鉄分を摂っても消化管からの鉄吸収率が約10%なので、食事から10mgの鉄を摂らなければなりません。

さらに成長期(14〜16歳)の男性や、生理のある女性は12mg、妊婦さんは18mgくらいの鉄が必要となります。

 

飽食の時代と言われる現代の日本では、普通に食事をとっていれば鉄分量 は足りるはずなのですが、一人暮らし等で食事が偏っていたり、また一般 の家庭でも好きなものしか食べさせなかったり、インスタント食品に頼りすぎていたり、また若い女性では無理なダイエットをしていたりと、意外にも食生活の不摂生から貧血になる方が多いようです。

また生理による出血や妊娠中はどうしても不足がちになります。

 

このような場合には、なるべくサプリメントに頼らずに食事で改善していきましょう。

お勧めの食品については、後半にあげてありますので、ご参考にしてください。

それと同時に胃腸の調子を整える事も大切です。

 

2・

鉄がうまく吸収できない

 

食事に含まれる鉄分は消化され主に十二指腸から吸収されます。健康な人の鉄吸収率は10%程ですが、 消化器の病気などで鉄の吸収がうまく行われない場合があります。

また胃を切除すると鉄分の吸収に必要な内因子が欠如するため吸収率が悪くなります。

 

3・

慢性的な出血

 

慢性的な出血とは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、大腸がんなどの消化管の疾患や子宮筋腫などにより継続的に少しずつ出血していることをいいます。

少しずつの出血であるため顕著な痛みもなく、気づかないうちにに血液を失っているわけです。

生理も毎月の出血であるので、この慢性的な出血に当てはまります。

生理では月当たり平均40mLの出血があり、鉄として20mgの損失になります。

 

生理のない成人男性や閉経後の女性が鉄欠乏性貧血になった場合は、何らかの病気によって出血が起こっている可能性が高く、病院で検査を受けてみる事をお勧めします。

 

☆ 妊娠による貧血

妊娠をすると母体だけでなく胎児にも栄養と酸素を与え続けなければならず、それだけ多くの血液が 必要となります。しかし妊娠すると「つわり」で食欲がなくなるなど、鉄不足に陥りやすくなります。

また妊娠中期以降は、胎児の急速な発育に伴って鉄の需要が増えますから、より注意が必要です。

妊娠中の貧血は、母体にも胎児にも悪い影響を及ぼします。

最近は妊娠検診が実施されるようになり、貧血が発見されやすく早期にに治療を行うことができるため、 重篤な問題は減少しています。

 

☆専門医の診察が必要なもの

以下に上げる疾患は専門医での詳しい検査や治療を必要とします。

・再性不良性貧血

・溶血性貧血

・悪性貧血

・ビタミンB12・葉酸欠乏症

・白血病

 

いずれの疾患も病気が進行してくると、単なる貧血症状以外に心配な自覚症状が現れてきますが、初期にはあまり自覚がないようです。

初期治療は有効ですから、安易な自己判断で放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。

 

☆慢性の病気によるもの

以下に上げるような慢性疾患でも貧血症状は起こります。

まずは原因疾患の治療がされますが、いずれも長期に渡る治療が必要となります。

・肝臓病

・腎臓病

・慢性関節リウマチ

・膠原病

・悪性腫瘍(癌)

 

☆脳貧血について

脳貧血とは小学校の朝礼などで長時間立ち続けていると気分が悪くなって倒れたりする症状を いいますが、これは本当の貧血とは違います。貧血は赤血球数やヘモグロビンが減少しますが、 脳貧血の場合は血液を調べても正常で問題はありません。

気分が悪くなって倒れてしまうのは、立ち続けていると重力によって血液が足のほうへ下がってしまい、 脳に血液があまりいかなくなったためです。つまり脳貧血とは、血液そのものの問題ではなく、 脳への血液循環がうまくいかずに脳が酸素不足を起こしてしまった状態です。

 

当院は予約制となります

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診療時間

9:00~
12:00
13:00まで
14:00~
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※ 当院は予約制です。

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