コラム

2019/03/11
【その他】診察シュミレーション・突発性難聴・-3

弁証とは、

〔①何が原因で ②何処で ③何が ④どのように ⑤どうなった〕

を組み立てることにより、患者さんに起きている気血のバランスの崩れを判断することです。

それでは今までの四診で得た情報の中から①~⑤までを組み立ててみましょう。

 

先ず①の[何が原因で]ですが、これは既に皆さんもおわかりのように「ストレス」が原因になります。

次に②の[何処で]は通常は臓腑か経絡のことを言いますので、「肝」でということになります。

次の③の[何が]というのは「気」「血」「水」のどれが異常な状態かを差しますので、A子さんの場合は「気」になります。

つまり②と③を合わせると「肝の気」が異常な状態であるということになります。

次に④の、[どのように]とは、A子さんの場合「肝の気」がどのように異常な状態になっているのかということです。

 

問診を思い出してみましょう。

A子さんは「突発性難聴」が発症する前に耳の周りに張り感をおぼえておりました。

又、随伴症状の頭痛は張ったような痛みとも言っておりましたし、胸部も張った感じがすると言っています。これらは全て「肝」「胆」の経絡で「気」が滞っている症状でした。

又、その他の随伴症状の中に幾つかの「熱症状」がありました。

これらは、ストレスにより「肝」が損傷され「気」が滞り、それが熱化したと考えられます。

中医学ではこのように気が鬱滞して熱化してしまうことを『鬱熱』といいます。

ですから④の、[どのように]は、「鬱熱」となり、又は「気鬱化火」し、となります。

そして最後⑤の[どうなった]は、主訴の症状になりますから、中医学的な言い方をすると「耳窮を塞いだ」となります。

 

 ではまとめてみましょう。

「① ストレスが原因で、②肝が損傷をし、③気が、④気鬱化火して、⑤耳窮を塞いだ。」になります。

したがって、A子さんの「突発性難聴」は中医学的に言うと「肝火上擾耳聾」又は「肝火上炎証」となります。

因みに、「肝火上炎証」が長引いくと、「肝陽上亢証」に変化します。

では、A子さんはどうか考えてみましょう。

その前に、「肝火上炎証」と「肝陽上亢証」について少し説明しましょう。

「肝火上炎証」とは、過度や長期にわたる、怒りやストレスなどを受けたことにより肝の気が滞ってしまい、それが熱化してしまった状態です。

つまり身体の中で熱源が生まれてしまった状態です。この熱によって様々な症状が発症します。

「突発性難聴」もその中の一つです。

さて、熱は「陰・陽」で分類すると、「陽」に属します。

ですから、熱は陽邪になるわけです。陽邪の特性は陰を損傷します。

体内の水液は「陰」に属しますから、熱によって損傷されてしまいます。

このように、「肝火上炎証」が長期間続くことにより、体内の水液が損傷されてしまった状態が「肝陽上亢証」です。

[3-6]の随伴症状の説明で、『実熱』と『虚熱』の説明をいたしましたが覚えておりますか?

『虚熱』とは何らかの原因で体内の水分などが損耗してしまい、冷却効果 が低下してしまい熱症状がある状態で、特徴は「のぼせ」「寝汗」「頬が赤らむ」などがありました。

『実熱』とは体内に何らかの熱源ある熱症状の総称で、大きな特徴は水分を欲することでした。

以上の事から、「肝火上炎証」の特徴は実熱の症状です。

それに対して、「肝陽上亢証」は実熱の症状と虚熱の症状の2つの特徴を持ちます。

さて、もう一度A子さんの随伴症状を思い出してください。

A子さんは口渇がありました。これは熱症状を表わしていましたね。

次に虚熱と実熱の判別もしました。

A子さんには「のぼせ」「寝汗」「頬が赤らむ」といった虚熱の特徴はなく「冷たい物が飲みたくなる」という実熱の症状があり、A子さんは「実熱」であると判断しましたよね。

つまり、A子さんは「肝陽上亢証」ではなくて「肝火上炎証」ということになります。

これで、A子さんの弁証が終わりになります。

 

さて弁証が立てられた時点で基本的に問診は終了です。

患者さんには施術に備えて治療室へ移動をしていただき、ベッドに横になってもらいます。

その間に治療者は治療方針と使用するツボを決めなければなりません。

先ず最初に考えるのが治療方針です。

皆さんならどの様な治療方針を考えますか?

この場合は、肝の気が滞って熱化したのが原因ですから、肝の気の流れを正常な状態へ戻してあげながら、熱を下げる治療をおこないます。

そして、治療方針が決まれば、それに見合ったツボを選択します。

因みに、頭部や耳の周りのツボ以外にも、体幹や足の先のツボに至るまで、全身のツボを使用します。

又、治療者によっては、この先「脾」が損傷を受けることを考えて、「脾」のツボを追加する先生もおられるでしょう。

この発想が、最近よく耳にする「未病治療」の1つの考え方です。

問診が終わって針を打つまでに治療者の頭の中では上記の様なことを考えています。

 

如何でしたか?

以上が「突発性難聴Ⅰ」のシュミレーションでした。

診察中の治療者がどの様に患者さんの身体の中のバランスの崩れ具合を見極めてゆくのかイメージできましたでしょうか。

我々はこのようにして弁証を立てております。

そして、このような過程は決して珍しいことではなく、中医鍼灸ではごく普通 のことであります。

中医学の治療は『理・法・方・薬(穴)』という大原則にのっとって行われます。

「理・法・方・薬(穴)」とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。

「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。

「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。

「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。

「薬(穴)」とは薬やツボの知識をさします。

つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われるのです。逆を言えば、「理・法・方・薬(穴)」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。

以上のことから、いい加減な問診であったり、痛い所やコリが在る所や病んでいる所にのみ針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。

人を治すには、それなりの理論や手順を踏まないと決して結果はでません。

ましてや、慢性症状を治療するには尚のこと繊細な弁証が必要になってまいります。

 

当院は患者さんと伴に病を治していこうと考えております。

真剣にお悩みの方はお気軽に当院までご相談ください。

我々も誠意を持ってお答えいたします。

2019/03/11
【内科疾患】排尿障害1~現代医学編~

今回のテーマは排尿障害です。

排尿障害とは、排尿に何らかの障害がある状態を言います。

先ずはいつもの様に現代医学の視点から「排尿障害」をみてゆきましょう。

 

★★現代医学から診た排尿障害★★

最初に正常な『排尿』について考えてみましょう。

正常な『排尿』とは、尿意を催してすぐに太い尿線で放物線を描いて勢いよく放出され排尿に要する時間は短時間な状態をいいます。

ですから「排尿障害」とは、上記以外の状況の排尿のことをいいます。

排尿障害は大きく下記の2つのタイプがあります。

 

① 排尿や尿意が通常より多いタイプ

頻尿(尿意頻数)・夜間頻尿・多尿・尿意切迫(突然の強い尿意)・尿失禁・など

② 尿が出なくなってしまうタイプ

尿閉・乏尿・尿線の細小・尿線の中絶・二段排尿・など

 

次に、排尿障害をきたす疾患について紹介しますが、排尿障害をきたすは沢山ありますので、ここでは代表的な疾患のみを紹介いたします。

 

★現代医学からみた、排尿障害をきたす疾患★

◎先ず、尿が出ない・出づらい、などといったタイプの疾患から紹介しましょう。

「膀胱尿道外傷」「前立腺癌」「急性糸球体腎炎」「ネフローゼ症候群」

「膀胱結石」

 

◎次に、頻尿・尿意切迫、などといったタイプの疾患を紹介しましょう。

「膀胱炎」「慢性尿路感染症」「非細菌性前立腺炎」「住血吸虫症」

「尿道炎」「淋疾」「脊髄損傷」

 

◎最後に両方のタイプにも属す疾患を紹介します。

「良性前立腺肥大」「急性細菌性前立腺炎」「陰部ヘルペス」「尿道狭窄」

「急性腎不全」

 などがあります。

 

★診断★

排尿障害の診断は次のような検査を行います。

膀胱内圧測定・尿流測定・尿道造影・膀胱造影・神経学的検査など。

 

★治療★

治療は上記の検査などをして、原因疾患の治療をおこないます。

 

現代医学の視点で「排尿障害」をみると上記のような疾患があげられます。

しかし、ここで紹介した疾患は、あくまでも代表的な疾患であり、他にも「排尿障害」をきたす疾患は沢山あります。

これらの疾患についてさらに詳しくお知りになりたい方は、現代医学の専門のホームページをご覧下さいませ。

 

又、「排尿痛」も広義の排尿障害に含まれますので、簡単に紹介をしておきます。

排尿痛は排尿時に痛みがある状態を言い、このような痛みはかなりよくみられます。

通常は尿路のどこかに感染がある場合が多いです。

常に排尿痛がある場合や、尿道から液や分泌物が出ている場合は、医師に相談してください。

 

次に中医学からみた「排尿障害」を紹介します。

2019/03/11
【その他】診察シュミレーション・不妊症

<はじめに>

 中国医学は、およそ3000年前に中国文明の発祥とともに生まれ、発展してきた伝統医学の一つです。このころは、近代で使われているような検査機器はなかったため、治療者自身の感覚を通 してのみ、患者の身体が発する訴えを察知してきました。そして身体にあらわれた様々な病気や症状を細かく、色々な角度から観察し、治療方法を生み出し、発展させてきた経験による医学なのです。それは、精密な検査機器が発達した今もなお繰り返し実践が積まれ、発展し、伝承され続けています。

 

○中医学における健康の概念

 中医学では、万人に当てはまる正常値という概念がありません。人も自然の一部であるとする観点からみると、季節の変化を受けて、体も変化していくことは自然なことなのです。そのため年間を通 して、体の状態が一定であるということは考えられず、生活環境や年齢の違いなどにより、バランスの取れた「良い状態」は、人それぞれで異なります。

 健康状態の決め手は、免疫力や抵抗力の源とされる「正気」の充実になります。それは、「気」「血」「水」が充分にめぐっていること、「五臓六腑」の働きが順調であること、「陰陽」のバランスがとれていることが重要な条件になります。

 

○中医学でとらえる体のしくみ

 体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。

もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。

 この「気・血・水」は、「五臓六腑」によって作られたあと、「経絡」という(エネルギーを通 る)ルートを通って、全身に運ばれその働きを発揮します。

 

それではここから、どのような診察方法で体の中の状態を把握し治療へと結びつけていくのか、実際の臨床ではどのようなかたちで活用されているのか、今回は不妊症を例にご説明していきたいと思います。

 

中医学の治療では、先ず「弁証」を立てていきます。

「弁証」とは、病気の原因、部位、性質など、各段階における病気のタイプを見分けることをいいます。病気の進行にしたがって、各段階のタイプが変化し、治療もそれに応じて変化していきます。その時その時の体の状態をしっかり把握し、見極め、治療もそれにあったものにしていかなくてはいけないのです。ですので、同じ薬を長期間飲み続けている方で、症状が改善しない場合は、その薬が現在の自分の体の状態にあっているのか再確認する必要があります。

 「弁証」が立てられたら、それに基づいて治療方針を決め、治療方針が決まったら、それを基に使用するツボを決めていきます。

その「弁証」を立てる手段が『四診』と言われ、現代医学でいう検査と同様のものです。

『四診』とは「望診」「問診」「切診」「聞診」の総称になります。

 

~四診~

 

① 望診

望診は、患者さんの様子を、目でみて情報を確かめる方法です。患者さんがドアを開けて診察室に入ってきたときから、歩き方や姿勢におかしいところはないか、顔色はどうかなどを観察します。この段階で、すでに望診が始まっています。そのほか舌の色や舌の表面 についている苔(舌苔)の状態を見ることも重要な観察のポイントになります。

顔の色つやの変化をみて、エネルギーの充実度合い、体の中が冷えているのか熱しているのか、五臓の働きの失調ぐあいなどが反映されます。

舌の状態からは、気血の状態が、舌苔からは発病因子である「病邪(邪気)」の性質や深さなどがわかります。健康な人の舌はピンク色で、舌苔は白色のものがうっすらとある程度です。舌の色が白っぽい場合は、体の中が冷えている状態、赤く黄色っぽい場合は熱がある状態をあらわしています。

そのほか、ぼてっと肥大した状態はエネルギー不足を、舌の表面にできる亀裂は血不足でみられます。舌は体の状態に合わせて日々変わります。

またカレーやコーヒーなどの飲食物で、舌の表面が着色されますのでそういう時は注意が必要になります。

 

② 聞診

聞診は、耳で聞き、鼻でにおいをかいで診察する方法です。

まず、声に力があるかどうか、呼吸はスムーズか、咳がある場合はどのような音の咳か、耳で聞いてチェックしていきます。

声が弱々しく、途切れがちだったりする場合は「気」の不足が考えられ、ため息が多いときは気滞(気の流れがうっ滞している状態)が考えられます。

さらに鼻で体臭や口臭などを嗅ぎます。口臭が強い場合は「胃」に熱がこもっていることが疑われます。

 

③ 問診

問診では、病気を引き起こした原因や主な訴えに対する病気の経緯を探るため、一見病巣とは関係なさそうな部位 のことまで問診していきます。

なぜなら病気とは、ある日突然あらわれるといったものではなく、普段の食事や生活習慣を含めさまざまな原因が積み重なって徐々に形成されていくものだからです。

主な問診事項は、精神状態、生活習慣、食欲の有無、味に対する好みなどの食生活、便通 の状態、尿の状態、睡眠状態、汗のかきやすさ、喫煙や飲酒量、女性の場合は月経の状況や基礎体温について詳しく聞きだしていきます。

 

④ 切診

患者さんの体にふれて診察する方法です。現代医学でいう触診のことをさします。主に、脈を調べる「脈診」があります。

脈診では、発病因子である「病邪(邪気)」をはじめ、「気」「血」「水」の異常をみることができます。また、五臓の状態も、両手で押さえた指の位 置とそれぞれ関係しているため、どの臓腑で異常が起こっているのかを把握することができます。

 

これらの四診から得られた情報を総合的に分析して、弁証をたてていきます。

四診を通して、弁証(病気のタイプ)をたてていく流れは以下のようになります。

 

~弁証の手順~

 

①病因:「病気を引き起こす原因」または「誘発させる因子」のことをいいます。

中医学の治療は、最終的には病因に対応する治療ですから、病因の確定は大変重要な事項になります。

<中医学で考えられている病気の原因となるもの>

 

外部から体を障害する「外感」と体内から異常を起こす「内傷」とに大別 されます。

 

*外感には・・

気候の異常な変化である「六淫」(風・寒・湿・暑・火・燥)、外傷、寄生虫などがあります。

「六淫」は季節と関係深く、春(風)、夏(暑・火)梅雨(湿)、秋(燥)、

冬(寒)の特徴がみられ、これらの気候に異常がみられると体へも影響が及び、体調を崩しやすくなります。

しかし、影響を受けるかは、人によって(体質など)異なります。

 

*内傷には・・

過度な感情の乱れである「七情」(喜・怒・悲と憂・思・恐・驚)

食事の不摂生である「飲食不節」、過労とその反対の運動不足を含めた「労逸」があります。

余談ですが・・・

私たちが普段生活をしている環境や社会環境の中に、病気になる因子がたくさん潜んでいるのが、お分かりになると思います。

そのため東洋医学では、日頃から、自分の体質に合ったものをバランスよく食べ、適度な睡眠、運動、落ち着いた心を保つことが、疾病を予防する鍵であり、「養生法」に繋がると考えています。とてもシンプルなことですが、日々実践となると難しいものです。

しかし、心がけひとつでも変わってきます。病気になる前に、また病気に打ち勝てるよう、根気良く続けて実践してみましょう。

②病性:病の性質のことをいいます。

・寒証(冷えのタイプ)か熱証(熱のタイプ)

 

例)

寒証は、夏のクーラーや冬の寒さで誘発され、熱証は、夏の暑さや食べ物の性質が熱性に偏ったものを多く摂取して起こりやすくなります。

・虚証(体のパワー不足によって病邪の勢いはそんなに強くないが病気になってしまう)

・実証(体のパワーは充分あるが、病邪の勢いが強いため病気になってしまう)

 

例)

虚証は、体が疲れやすく、風邪をひきやすい場合など。

実証は、普段元気な人でも、感染力の強いウィルス性の風邪が流行して、罹ってしまう場合など。

 

③病位:

病気の部位を確定することです。

 

病邪が臓腑、経絡(エネルギーを通る道)、体の表面 なのか内側なのか、上、中、下部の、どの部位に存在するのかを見極めます。

 

④病状:

病の軽重度を弁別します。

 

2種類以上の病気があるとき、虚証と実証が合わさっているときなどは、その軽重度を弁別 します。治療の比重も異なってくるので、重要な意味を持ちます。

 

⑤病勢:

病が悪化するのか、快方に向かうのかという病の発展傾向

 

人が持っているパワー(正気)と病邪の闘いによって現れる、体の中のエネルギーの動向、バランス具合などをみていきます。

 

⑥病機:

病を引き起こしたメカニズム、その病がなぜ発生し、どう発展、転化するのかを解明することです。

この病機をしっかり把握すると、弁証の結論がでてくるのです。

それでは、症例をもとに、どのように活用していくのかを見ていきたいと思います。

(中医学的な不妊症の捉え方・タイプ、タイプ別養生法などの詳しい説明は、当院のHP上「よくわかる東洋医学理論」に記載してあります。そちらをご参照ください。)

 

 

 患者:○○ ○○ 女性  31歳

 初診日:1998年2月17日

 主訴:結婚して3年余り、まだ妊娠していない。

 現病歴:結婚をして3年、夫婦同居だがまだ妊娠しない。

 

子どもが欲しいので婦人科の診療を受けた。

検査では、子宮内膜の成熟度が遅延しており、基礎体温は2相性を示すものの、月経周期19~20日目ころにようやく高温相になり、黄体機能不全であることがわかった。2年間ホルモン療法で治療をしたが妊娠できない。その後3回の人工授精を試みたが、失敗した。

 

望診:痩せ型・顔色は白っぽい

問診:日頃から腰が重だるく、手足が冷えやすい。尿は透明で量が多く、夜間にも1~2回トイレへいく。大便はゆるいほうである。

脈診:遅・細・無力

舌診 色:淡  苔:薄白

月経状態:初潮は15歳

・月経周期:やや遅れぎみで30~32日型 ・期間:5~6日間

・経血量:少なめ ・月経色:淡い ・質:希薄

・月経前に伴う不快な症状:月経前になると下腹部が痛くなり、温めると楽になる、腰がだるくなる

・おりもの:白く、量は少ない

 

基礎体温の状態:高温期の体温が低く、11日間と短い。

 

弁証:腎陽虚、気血両虚

治則(治療方針):温補腎陽、補気養血

 

【症例の分析および解説】

分析をする前に、弁証で出てきました「腎陽虚」の(中医学で考える)腎の働きについて少し説明したいと思います。

「腎」は、生命力の源、子宮または生殖器・発育・成長関係と深く関わります。

腎のエネルギーは、両親から授かったもの(精気)であり、体全体のパワーを貯蔵してある大事な臓器になります。

エネルギーが少なく足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。

症状としては、腰や膝がだるくなり、足に力が入らなくなる、頻尿傾向になる(特に夜間尿)、耳鳴りや難聴、物忘れが多くなる、早く老いやすくなる、白髪が多くあるなど。

 

この症例を全体的にみますと、上記に書きました「腎」のエネルギー不足による症状が数多くみられます。以下に、現れている症状を当てはめていきたいと思います。

 

<腎のエネルギー不足により見られる症状>

初潮年齢が15歳と遅めである、子宮内膜の成熟度が遅延している、日頃から腰がだるくなる、頻尿で夜間にも1~2回いく、月経前に伴う不快な症状として、月経前になると下腹部が痛くなる(下腹部は子宮の位 置するところ)

 

<陽虚(体を温める力が不足していること)により見られる症状>

陽気の不足=気がさらに不足してしまった状態をいいます。

手足が冷えやすい、尿は透明で量が多い、大便はゆるいほうである、月経前に伴う不快な症状として下腹部痛は温めると楽になる、舌の色が淡く、苔は薄白、脈が遅く無力

 ⇒陽気不足のため、流れが緩慢になり、力の無い脈がみられる。

基礎体温の状態として、高温期の体温が低く、11日間と短い

 ⇒陽気の不足により高温の状態を保持することが出来ないために起こる

月経状態の症状については、体を温める力が低下しているために現れているものです

 ⇒陽気不足になると、臓腑の働きに影響を与えるため血もうまく生産されなくなってしまいます。そのため、子宮の中の血は月経期になっても充足できず、月経が遅れます。症例の経量 が少なく、色は淡い、質は希薄なのは、陽気不足によって子宮の血を充足できていないことを示しています。

 

<気血両虚は、腎陽虚によって、二次的にみられる症状になります>

体の機能が低下しているために、気血をうまく作ることが出来ないのです。

 

治療方針は、腎の温める力を増す治療を主に、気と血を補う治療を補助的にしていきます。

弁証の手順の流れで見ていきますと・・・・

① 病因:

初潮年齢が15歳と遅めであり、子宮内膜の成熟度が遅延していることから、生まれつきパワー不足の徴候が見られる。

② 病性:

冷え症状がみられるので、「寒証」。

体のパワー不足が考えられるので、「虚証」。

③ 病位:

臓腑の「腎」にある。場所は下部になる。

④ 病状:

気血両虚は、腎陽虚によって、二次的にみられる症状になるため、治療のメインとしては、腎の温める力を増す方に重きをおきます。

⑤ 病勢:

この状態のまま治療せずにいくと、冷えの症状がさらに悪化し、機能的にも働きが弱くなってきます。

⑥ 病機:

先天的に虚弱体質であり、パワー不足があり、その体の状態が現在に至るまで続き、冷えの症状をまねいてしまった。さらに、3度の人工授精などにより体力を消耗してしまった。

このようなかたちの流れになります。

 

「不妊症」の問診で、重要事項は以下のようになります。

① 結婚歴について

② 過去の妊娠の有無について

③ 器質的及び機能的な問題について⇒検査結果

④ 夫の精子検査、性機能について⇒検査結果

⑤ 月経状態、基礎体温表(持参)について

これに、日常生活について(食生活、睡眠状態、精神状態、便や尿の状態など)の問診が加わり、「現在の体質」を詳しく把握していきます。

 

<この症例の人工授精について・・>

 この患者さんは、2年間ホルモン療法を受けたにも関わらず、妊娠できず、3度の人工授精にも失敗してしまったのは、いったいなぜでしょうか・・・。

 それは、このケースを見てお分かりのように、冷え症状が多く見られ、体全体の機能が低下しています。これでは、妊娠することはもとより、良い卵さえも作り出すことができません。排卵を促したり、卵子を大きくするためのホルモン剤、人工授精、体外受精などは、あくまでも人工的に体を作り上げている状態に過ぎず、自分自身の力で調えられているわけではありません。そのために、今回のような3度の人工授精の失敗をまねいてしまったのです。

体全体のパワーが充分にあり、体内の環境がバランスよく調えられてはじめて、「良い卵が作られる→受精→着床→子どもを10ヶ月間、養い育てていくことができる」のです。

(流産の場合は子どもを産むのと同じくらい、体力や血を消耗し、負担がかかります。)

 

 すでに不妊治療を受けられている方、またこれから受けようと考えられている方は、体内環境を調えることの大切さを充分にご理解いただけたらと思います。

 

<最後に・・・>

 症例を通して、中医学的な考えに基づいた診察方法をみてきましたが、少しご理解していただけましたでしょうか。

同じ不妊症でも、人によって現れる症状は個々それぞれです。今回のような腎陽虚タイプでも、症状の軽重度はさまざまです。それは、体質の違い、生活環境(食生活など)の違い、精神的ストレスを受ける許容量 の違いなどが複雑に絡み合っているからなのです。私たちは(四診などのほかに)、そうした目には見えない状態を考慮しながら、問診を勧め、その人その人にあった治療をし、適切なアドバイスをしていかなければならないのです。

なぜなら、患者さん自身も気づいていない体や心の状態を、問診を通 して自覚してもらい、日々の日常生活で意識をして、改善していくことにより、症状の悪化を防ぐことができるからです。わたしたち治療者側は、患者さんが本来持っている治癒力を引き出すお手伝いをし、最終的には患者さん自身が自然に病気を治していくのです。

双方の協調性がとれたとき、自ずと良い治療結果へと結びついていくことができるのです。

そして問診は、診察以外に、患者さんとの信頼関係をつくる時間でもあるのです。

 

2019/03/11
【内科疾患】排尿障害2~中医学基礎編~

★★中医学から診た排尿障害★★

 

** 初めに **

中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。

それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては非常に難解で馴染みづらいものであります。

そこで、先ず、中医学による排尿障害の説明を読まれる前に、

「病気別・わかる東洋医学診断」に掲載されている

「わかりやすい東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。

これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかりやすい東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さいませ。

 

さてここでは、中医学による排尿障害を理解するために、「わかりやすい東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。

 

★排尿障害を理解するために必要な基礎知識★

≪気血水≫

「気・血・水」の概念については、既にご理解されておられると思います。

ここではもう少し詳しく説明します。

 

〈気〉

「推動作用」や「栄養作用」・・・といった気の作用については、「わかりやすい東洋医学理論」で説明してありますので、ここでは気の種類を説明します。

気の種類には「元気」「宗気」「衛気」「営気」「臓腑の気」「経絡の気」があります。

この中で「排尿障害」に特に関係があるのは「宗気」です。

「宗気」は推動作用が強く、心拍運動を促進したり、気血をスムースに流す働きをしています。

健康な人の「気」はスムースに流れていなければなりませんでした。

何らかの原因で「気」の流れが滞ってしまうことがあります。

このような状態を「気滞」といい、様々な病態をまねいてしまいます。

排尿障害もこの「気滞」によって起こる場合もあります。

 

〈血〉

「気」と同様に、健康な人の「血」もスムースに流れていなければなりません。

もしその流れが滞ってしまうとどうなってしまうのかを考えてみたいと思います。

中医学では血の流れが滞ることを「オ血」といいます。

「オ血」は経絡や臓腑で滞る場合と、経絡から出て滞る場合があります。

「オ血」の原因は大きく分けて、「気の不足(気虚血オ)」「気の滞り(気滞血オ)」「血への寒の侵入(血寒血オ)」「血への熱の侵入(血熱血オ)」の4つがあります。

オ血が原因となる排尿障害は、「気滞血オ」と「血熱血オ」よる場合の2パターンがあります。

 では、「オ血」になるとどの様な状態になるのか紹介しましょう。

疼痛の出現・・・・中医学では「通 ずれば則ち痛まず・不通なれば則ち痛む」と言い、流れていなければならない物が滞ると、痛みが生じます。

「オ血」の疼痛の特徴は、刺痛と固定痛です。

腫塊を生じます・・・「オ血」は腫塊を生じます。

「オ血」の腫塊の特徴は固定して移動しません。又、押さえると強い痛みを発します。排尿障害では「オ血」の塊が尿道を塞ぐことが原因となります。

その他としては、出血をさせたり、血の色が暗紫色であったり、生理の時に血塊が混じったりします。

又、「オ血体質」の方の顔色は浅黒く、乾燥し、光沢が無く、キメが荒かったりします。

 

〈気と血の関係〉

気の種類と作用で説明した「宗気」と「推動作用」を覚えていますか?

「推動作用」には血脈や経絡の流れを促進させる作用がありました。

「宗気」は推動作用が強く、心拍運動を促進したり、気血の運行を主っていました。

つまり、血がスムースに流れるためには気の働きが必要になります。

ですから、気の不足や気の滞りは「オ血」をまねきます。

 

〈気血水の陰陽分類〉

「わかりやすい東洋医学理論」で陰陽論の概要の説明があったと思います。

ここでは「気血水」を陰陽で分類してみたいと思います。

「気血水」を陰陽で分類すると、「気」は『陽』に、「血」「水」は『陰』に属します。

『陽』の特性の1つに温める作用があり、『陰』には冷す作用があります。

例えば、腎の中で体を温める働きを「腎陽」と言ったり、脾の中で温める働きを「脾陽」といいます。「脾陽」については消化吸収の働きに深く作用します。

一方、血や水が属す『陰』は、熱を抑えたり、肌を潤す働きがあります。

血や水が少ない状態を『陰虚』といいます。

この様な状態になると肌が乾燥したり、体内で熱が生じてしまいます。

又、上記のように陰虚によって生じる熱を、「虚熱」といいます。

 

≪病因≫

病気を起こす原因のことを病因と言いい、中医学ではこの病因を、外因・内因・不内外因の3つに大別 いたしました。

さて外因の中には六淫がありましたね。その六淫の中の「湿邪」と「熱邪」が排尿障害の原因の大素になります。

又、「湿」や「熱」は外因ばかりではなく、「飲食不節」により体内で生まれてしまうこともあります。

 

〈湿〉

『湿』とは外因に含まれる「湿邪」と、体内にある不要な水分の「湿」の2つをさします。

外因(外邪)で言う場合の「湿邪」とは空気中にある、過度の湿気をイメージしていただいて結構です(梅雨時期の空気など)。

健康な体は「気血水」が適量でなくてはなりませんでした。

ですから、外邪の「湿邪」が体内に過度に侵入してくると、余分な水分となってしまい体調を崩してしまうのです。

「湿」の特性には「重い」「粘性」があります。

体内で湿はその「重い」という特性から、下部である膀胱や足へと移行しやすくなります。

よく、梅雨時期に足が浮腫んだり、体や足が重だるく感じる方が多いと思います。

これは、梅雨時期の空気は多湿になりますので、湿邪が体に入りやすい季節となります。

体に入った湿は、その「重い」という特性から下部へと移行しやすいので足を浮腫させたり、重だるさを感じさせたりするのです。

更に湿の粘性の性質から、体内に入り込んだ湿は気血の流れを阻滞させてしまいます。

又、湿は陰陽で区分すると陰邪に属します。

陰邪は陽の気を損傷する性質があり、特に脾の陽気(脾陽)を損傷してしまいます。

脾陽は消化吸収や栄養分を上昇へ送る働き(運化作用・昇提作用)をしており、脾陽の損傷も排尿障害の原因となります。

又、「湿」は体外から入って来るものばかりではなく、「飲食不節」に含まれる「肥甘厚味の過食」によって体内で生まれることもあります。

体内に侵入して来たり、体内で生まれた「湿」は体外に上手く排出できないと、体内で滞りを起こします。

気や湿は滞りを起こすと熱化する性質があります。

この様に熱化した「湿」を『湿熱』と言います。

「飲食不節」に含まれていた「過度の飲酒」は体内で『湿熱』を生みます。

又、外邪の時点で「熱邪」と「湿邪」が合わさって、体内に侵入してくる場合もあります。

このような場合を『湿熱』の受感と言います。

いずれの場合も『湿熱』は排尿障害の原因となりますので、是非覚えておいて下さい。

 

〈熱邪〉

熱邪は夏に多く出現します。皆さんにもイメージしやすい外邪だと思います。

熱邪の特性としては、その熱により体内の水を消耗させてしまいます。

そのため、咽の渇きなどの症状が現れます。

又、熱は血に入ると血を動かし出血させる特性があります。

お風呂などで、のぼせて鼻血が出る場合がこれに当てはまります。

 

〈内因〉

病因の中の内因には七情がありました。

七情は健康な方も持っていますが、これらの感情が過度であったり、長時間持続的に続く場合は「情志失調」と言い、病因になりました。

長期や過度のイライラやストレスは情志を抑鬱状態し、肝の気の流れを滞らせてしまいます。

この様な状態を、「肝気鬱滞」と言い、排尿障害をまねきます。

 

〈不内外因〉

不内外因にも様々なものがありましたが、この中で排尿障害と関係があるのは 「飲食不節」と「疲労」があります。

「飲食不節」に含まれている「肥甘厚味の過食」は『湿』を「過度の飲酒」は『湿熱』を体内で生むことにより「排尿障害」をまねきます。

又、「過度の疲労」は、脾を損傷させることにより「排尿障害」をまねきます。

 

≪五臓六腑(内臓)≫

排尿障害に関わる五臓六腑の働きを理解するには、先ず正常な体内の水液代謝についてイメージを持っている方が理解しやすいので、先ず正常な水液代謝から説明したいと思います。

水液代謝についても、中医学独特の考え方をしますので、皆さんの常識は一度封印してこれから先をお読み下さい。

=中医学的な水液代謝=

①、

口から入った飲食物(水分)は胃に送られ小腸に送られます。

②、

小腸は運ばれてきた飲食物(水分)を人体に必要な物(清)と不必要な物(濁)に分けます。(必別 清濁といいます)

その後、必要な物は脾に送られ、不必要な物の中で水液は膀胱へ、そうでない物は大腸へ送られ、排出されます。

③、

脾は小腸から送られてきた体に必要な物(清)から有益な水液を吸収し肺へ送ります。

④、

肺は送られてきた水液を全身へ行き届かせます。

肺は身体の中では比較的上の方にありますので、水液を全身へ行き届かせるには都合がよいのです。

⑤、

全身を巡ってきた水液は腎臓に集められます。

そこで再利用出来る物は再吸収し、再度肺に戻します。不要な物は膀胱に送ります。

⑥、

膀胱へ送られてきた不要な水液は尿に変えられ排出されます。

また、膀胱へ運ばれる前の不必要になった水液は汗として排出される場合もあります。

これが大まかな体内の水液代謝の流れになります。

 

水液代謝に関わる主な臓腑は今の説明に出てきた脾・肺・腎が主役となり、それを補助する臓器として三焦(さんしょう)・膀胱・肝・心などが関与してまいります。

三焦とは、水液が流れる通路みたいなもので、現代医学には存在しない物です。

 

 それでは次に各臓腑について説明してゆきましょう。

 

≪肺≫

肺の主要な生理作用に「宣発・粛降」と「水道通調」があります。

ここで先程説明した水液代謝を思い出してみましょう。

脾から送られてきた有益な水液は、肺によって全身に散布され腎へと降ろされておりました。

これら一連の流れが「宣発・粛降」になります。

 

【宣発】

「宣発」とは宣布・発散の意で、広く発散させ行渡らせるという意味です。

水液・栄養物・気や濁気などを全身へ散布することです。

この働きにより脾から送られてきた、有益な水液は宣発作用によって全身へ散布されるのです。

又、濁気や汗はこの働きによって排出されます。

宣発作用の失調は、皮膚の乾燥・抵抗力低下・疲れやすい・各種の機能低下・汗が出ない・などの症状が現れます。

 

【粛降】

「粛降」の「粛」は清粛・粛清を意味し、「降」は下降を意味します。

粛降とは気や水液などを下部に輸送する作用です。

肺の宣発作用によって散布された有益な水液は粛降作用によって全身へ渡り腎へと送られます。

粛降作用の失調は、腎に気が届かなくなったり・不要な水液が体内に溜まったり・むくみ・息切れ・疲れやすい・尿量 減少・汗が止まらない・などの症状が現れます。

「肺は宣発・粛降を主る」と言われ、宣発・粛降といった作用を用いて水液や気を全身へ巡らせております。

 

【水道通調】

「水道」とは、先程水液代謝で説明した、脾→肺→全身→腎→膀胱→排出 

といった一連の流れの全通路を指します。

「通調」の「通」は疎通を意味し、「調」は調節を意味します。

肺は先程の宣発・粛降といった作用を用いて水道の流れがスームースに流れるように調節しております。

このことを「水道通調」といいます。

水道通調の失調は、むくみ・汗が出ない・といった症状が現れます。

 

 

≪脾≫

脾の主要な生理作用として「運化作用」と「昇清作用」があります。

 

【運化作用】

「運化作用」の『運』は転運輸送で、『化』は消化吸収を意味します。

つまり、飲食物から栄養分を吸収して、全身へ運ぶ作用です。

先程説明した水液代謝の説明をもう一度思い出してみましょう。

飲食物は口から胃を通り小腸に運ばれます。

小腸では体に必要な物と不要な物が分けられ、必要な物は脾に運ばれます。

脾はそこから有益の物を吸収して肺へ送り、肺から全身へと送られ、腎へ集められていました。

これらの口から始まって腎までの一連の流れが「運化作用」です。

脾の主要な生理作用は運化作用ですから、脾はこれらの働き全てを管理しているのです。

つまり、運化作用とは、栄養分を吸収し、それを全身へ送り届ける作用とイメージしてください。

運化作用は栄養分を吸収する働きがありますので、脾が損傷してしまうと気血を作る能力が低下してしまい、気血の生成不足をまねきます。

その他の運化作用の失調の症状には、食欲不振・下痢・軟便・むくみ・などがあります。

 

【昇清作用】

先程の説明にあったように脾は小腸から送られてきた必要な物から、有益な物を吸収して肺へ送っておりました。

肺へ有益な物を持ち上げる作用が「昇清作用」です。

「昇清作用」が失調を起こすと、有益な物が肺まで持ち上げることが出来なくなってしまい、めまい・ふらつき・などが起こります。

因み、この持ち上げる作用には、臓腑や器官を正常な位置に保つ作用もあります。

この様な場合は「昇提作用」と言い、「昇提作用」の失調は胃下垂や脱肛などが現れます。

ところで先程「湿」の特性の説明で、「湿は重い」と述べました。

例えば皆さんが濡れた洋服を着たら、とても重いと感じるでしょう。

これが「湿は重い」ということです。体の中でもこれと同じ事が起こり、湿は全ての物を重くします。

さて、脾には昇清作用や昇提作用といった物を上に持ち上げる働きがありました。

湿が体に入ってくることによって、脾に持ち上げられ物が重くなってしまったらどうなるでしょう?

昇清能力や昇提能力は下がってしまいます。

したがって脾は「喜燥悪湿」と言い、乾燥を好み湿気を嫌います。

逆を言うと、脾は湿によって損傷されやすい臓器であります。

ですから、「飲食不節」に含まれる「肥甘厚味の過食」や「過度の飲酒」は体内で「湿」や「湿熱」を生み、最終的に脾を損傷させることになります。

この他に脾を損傷させる要因となるものには、過度の疲労や長患いによる体質虚弱などがあげられます。

 

《肝》

肝の排尿障害に関係する、生理作用は「疏泄(そせつ)」です。

疏泄の「疏」は流れが通じるという意で、「泄」は発散や昇発の意です。

疏泄を一言で言うと、気血の運行・消化機能・情志の活動 などをスムースに行わせる働きをいいます。

肝は五行学説では「木」に属し、スムースで秩序だった状況を好みます。

ですから、肝は疏泄作用で上記の働きの促進をしているのです。

この中で、特に排尿障害に関与するのが、気血の運行の促進です。

気血の運行がスムースであるからこそ、他の臓器の機能が正常でいられるのです。

先程も述べましたが、肝はスムースで秩序だった状況を好みます。

もし、過度のストレスやイライラにさらされると肝の気は滞りを起こします。

肝の気の滞りは「肝鬱」といい、このような状態だと、正常な「疏泄」が出来なくなり様々な臓器の機能低下や機能失調をまねきます。

 

〈腎〉

腎は排尿にとってとても繋がりの深い臓器ですので、しっかりイメージを作ってください。

腎は「水を主る」と言われ、体内の水液代謝には大切な臓器です。

腎は全身を巡ってきた水液を必要な物と不必要な物にわけ、それらを吸収して肺に戻したり、膀胱へ送ったりしています。

更に、先程説明した水液代謝は全て腎の気化作用によって保たれております。

そしてこの気化作用を支えているのが腎陽というものです。

これは、腎の働きを「陰」と「陽」で分けた場合の「陽」の働きを指すことばで、身体を温める働きである「温煦作用」をさします。

ですから体内の水液代謝は腎の「温煦作用」によって支えられていると言っても過言ではありません。

そういったことから『腎は水を主る』と言われるのです。

 

又、「腎は骨を主り・髄を生じ・脳に通ず」と言われます。

腎は髄を生み、髄は骨を滋養します。

ですから、腎の損傷は髄の生成不足をまねき、髄の不足は骨の滋養不足をまねきます。

骨の栄養不足は「腰膝酸軟(ようしつさんなん)」といって、腰や膝をだるくさせたり、痛みを生じさせてしまいます。

ですから腎は『腰の府』とも言われております。

さらに髄は「骨髄」と「脊髄」に別れます。「脊髄」は脳とつながります。

中医学では脳は髄が集まっていると考えます。

 

更に「腎は二陰(又は二便)を主る」と言われます。

二陰とは前陰(外生殖器)と後陰(肛門)を指します。

腎には固摂作用により尿や精子を漏らさないようにしております。

腎が損傷を受けて固摂作用が無力となると、精子や尿が漏れ出てしまい、尿失禁や滑精などを起します。

このことを腎気不固といいます。

 

腎を損傷させる要因には、老化や長患い、過度な性交渉などがあげられます。

 

〈膀胱〉

膀胱の主な生理作用は貯尿と排尿です。

膀胱の「気化作用」により尿は体外に排出されます。

「気化作用」は細かく分けると、「気化作用」と「制約作用(約束)」にわけられますが、通 常はこれらをひとまとめにして「気化作用」と言ってしまいます。

膀胱が失調を起こした場合、「気化作用」が失調を起こすと、排尿困難・排尿障害・尿閉といった症状が現れ、「制約作用」が失調を起こすと頻尿・失禁といった症状が現れます。

いずれにしても膀胱の機能が正常に保たれるのも、腎陽の温煦作用と水液調節作用の助けが必要です。

ですから腎の失調は膀胱の機能失調を起こし排尿障害の原因になります。

 

<三焦>

三焦は現代医学にはない概念ですので、最初は理解するのに抵抗があるかもしれません。

三焦とは体内にあり、体内の水液や気が流れる通路とイメージして下さい。

あえて現代医学に例えると、リンパ管・汗腺・涙腺・といったような物ですが、全く同じ物ではありません。

 

2019/03/11
【その他】中医学で考える、ストレスが起因で起こる症状と病気

今、世の中ではストレスが蔓延しており、ストレスによる症状で心療内科を受診される方が非常に増えてきております。

それは何故でしょう?

私が考えるには、多くの方々が体の許容量を超え仕事をしなければならない状況下に置かれている事と、体へのお手当てが足りないために増えてきているのだと思います。

 

また、人間は機械と違い感情を持っています。とてもデリケートな生き物なのです。忙しい世の中だからこそ、自分自身の空白の時間、余暇の時間を持たなくてはいけません。それらが足りないが為に、体も心もオーバヒートを起こしてしまい、体に不具合が出てきてしまうのでしょう。

 

では、理論上「ストレス」を中医学(東洋医学)ではどの様に捉え認識しているのでしょうか?

 中医学(東洋医学)では、各臓器には?各々が精神作用を担っている?と考えられております。

「各臓器」とは、肝・心・脾・肺・腎を指します。

 

・「肝」の気が正常な働きを保っていれば

  常識・礼節をわきまえ、物事をきちんと判断し処理します。

 

・「肝」の気がスムーズでない場合は

  憂うつになりやすい、意欲がわかない、決断力が欠けます。

 

 

・「心」の気が正常な働きを保っていれば

  個性豊かな安定した情緒を保ちます。

 

・「心」の気がスムーズでない場合は

  臆病になりやすく、勇気がなく不安感が出やすくなります。

 

 

・「脾」の気が正常な働きを保っていれば

  包容力が有り、皆さんの意見を公平にまとめます。

 

・「脾」の気がスムーズでない場合は

  くよくよ思い悩み、主体性が無く、気迷う事が多くなります。

 

 

・「肺」の気が正常な働きを保っていれば

  五感がさえます(視る、聴く、痛痒など)

 

・「肺」の気がスムーズでない場合は

  表情が無くなり、注意力が散漫、やる気が出ません。

 

 

・「腎」の気が正常な働きを保っていれば

  志を強く持ち、根気が強く丁寧に物事を処理します。

 

・「腎」の気がスムーズでない場合は

  忍耐力が無くなり、根気も無くなり、面倒くさがります。

 

 

これらの臓器の中で、ストレスを受けると働きに特に影響が出やすくなるのが「肝」です。

 

中医学(東洋医学)では、各臓器の気・血が何時も万遍無くスムーズに流れ、気・血が体に満たされている状態が、人間の体を正常な働きに導き且つ健康な状態を保つのだと考えられています。

 

ですが、外気(天候)・精神状態(気持ち・感情)・食生活・房事・労働などの環境が自分の体の許容量 を超えて、必要以上に極端な変化や負荷が掛かってしまった時、生命活動・体を元気に保ち維持するエネルギー、気・血に影響が及び、その流れが損われてしまいます。そのため、体内での機能バランスが崩れ、症状や病気を引き起こすのだと考えられています。

 

この様な気・血の流れの失調により発症する症状・病気などは、残念ながら幾ら検査を行っても数値に出てきません。

しかし、中医学(東洋医学)的な発想で、問診・脈の打ち具合、舌の色合いなどを診ることで、体のどの部分で機能バランスの失調が起きているのかを知ることができます。

 

西洋医学と中医学(東洋医学)では、病気を診る角度が違うので、おのずと治すプロセスも違ってくるのです。

 

それでは、ストレスを中医学(東洋医学)的に考えた時、どの様に捉えるのでしょうか?

 中医学的な考えでは、人間がストレスを感じた時、「肝」の気の流れや働きに異常が出てくると考えます。

 

「肝」の気と言うのは、伸び伸び流れる事で正常な働きを保っています。しかし、いやな事・イライラする事・怒られる様な事などがあると、肝の臓器に影響が及び、肝の気の流れに問題が生じ、気の流れの渋滞を引き起こします。これを肝気鬱結(かんきうっけつ)といいます。この状況が長引くと、気のエネルギーがどんどん溜まって来て、熱を帯びるようになります。熱と言うものは炎上(上昇)の性質を持っています。そのためイライラやのぼせ・めまいなどが生じるようになり、益々症状が悪化するのです。

 

ですから、このような場合は肝の気の流れを元に戻し、スムーズに流れるように促す治療を行なってあげなければ症状は改善されません。

 

 

 

?肝の気の流れが失調した場合、基本的に下記の症状がおこります?

 ●軽い場合:

 

イライラする、怒り易くなる、落ち着かない、胸脇・乳房の脹痛、下腹部の脹痛。

 

 →さらに状態が進行すると:

 

赤ら顔、のぼせ、目の充血、頭頂痛、片頭痛

 

 →もっと進行すると:

 

めまい、ふるえ、ひきつけ、などの症状が出てきます。

 

また、ストレスが起因により肝に負荷が掛かる事で、様々な病気を引き起こします。

 ●軽いものであれば:

 

肩凝り、緊張性頭痛、軽い不眠、腰痛

 

 →多少重くなってくると:

 

過敏性大腸炎、自律神経失調症、書痙、対人恐怖症、突発性難聴、円形脱毛症、不妊症(器質的な問題のないタイプ)、インポテンツ、アトピー性皮膚炎の悪化

 

 →さらに重くなると:

 

パニック障害、適応障害、うつ病、重い不眠症

 

ストレスによる病気は、挙げたらまだまだございますが、上記の病気は一般 的によく目にする症状・病気かと思います。

 

上記の病気で、精神安定剤、抗うつ剤の服用で症状の改善や治っていくケースも多々有ります。しかし、逆に長引いて強い効能のある薬の投与を受ける方もいらっしゃいます。

 

それはどうしてでしょう?

 

中医学(東洋医学)的な発想では、肝の気の流れを改善していない為に、他の臓器の気の流れにも影響が及び症状が進行していくとのだと考えます。

また、自然治癒力(体の回復力)の低下だとも考えられます。自然治癒力の低下は年齢が増せば増すほど起こりやすくなります。体力の低下もその一つです。体力の低下と共に人間の体を整える自然治癒力と言うのは低下して行きます。その為、年齢が増すのにつれて、症状や病気も進行しやすくなるのです。

 

また、自然治癒力は、普段の生活での体への気配りが足りなくても低下しやすくなります。

 

体に負荷をかける生活が多くなりますと:睡眠不足、過労、食生活の乱れなどが起こってきます。

 

そのため、中医学(東洋医学)の治療では、肝の気の流れを調整すると共に、生活指導を行い、自然治癒力の底上げも同時に行い、症状の改善を図っています。

 

 

 何かの病気が発症する前に、体は声を発しています。

日頃、ストレスを感じている方はなるべく体の発している声に耳を傾けて、早めにお手当てをなさってください。

 例:

突発性難聴になる前、頻繁に耳鳴り(ジーやキーンという音)、肩の凝り、耳の周りの脹り、突っ張る様な症状が出ます。この様な症状は、体が注意信号を出している状態です。中医学(東洋医学)ではこれらの症状を?未病?と言っております。未病とはまだ病気にはなっていないが、病気の現れる前兆である事を指します。

ストレスに関して、中医学(東洋医学)的な考えを多少なりともご理解して頂けましたでしょうか?

 

ちなみに、ストレスを溜めやすいタイプは・・・

 

 ・内向的でおとなしい方

 

 ・真面目で几帳面な方

 

 ・取り越し苦労の多い方

 

 ・自分に否定的な方

 

 ・頑固で厳格な方

 

上記のようなタイプの方は、ストレスを溜め込まないように、リラックスとリフレッシュを心掛けて下さいませ。

大事なのは、オープン(発散)・リラックス(ときほぐす)・リズム(イキイキとした生活)です。

 

 普段の生活でストレスを感じている方、何か気になる症状が出ている方、中医学的な考えに関して詳しく知りたい方は、お気軽に当院へご相談くださいませ。

未病の状態は、中医学(東洋医学)が得意とする分野でございます。

 

当院は予約制となります

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