コラム
- 2019/03/12
- 【小児科疾患】小児の下痢について
下痢は、小児によくみられる病症で、特に春や秋に多くなります。
下痢というのは、いつもより水分がかなり多い便になった場合を指します。
乳児の場合には、水様便を1日に10回くらいもする場合がありますが、それが普通 なら下痢とはいいません。その場合、オムツかぶれも出来にくいという特徴があります。
いつも有形便の子が、水様便となれば下痢ということになります。
下痢になれば、一般的には排便回数が増加します。特に何回以上すると下痢という定義はありません。1日1回でも下痢は下痢です。
小児の下痢を“現代医学”と“中医学”それぞれの捉え方で説明していきます。
≪現代医学的な捉え方≫
原因・・・ |
小児期にみられる下痢の原因として“ウイルス(ロタウイルス、アデノウイルスなど、いわゆる「おなかの風邪」)“や“細菌(ブドウ球菌、病原性大腸炎O-157など、食中毒)“、”アレルギー(ミルクアレルギー、乳糖不耐性など)““薬剤性(抗生物質など)”などがあげられます。 この中で頻度が高いのは、ウイルス性の下痢です。 |
症状 |
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●ウイルス性の下痢・・・ |
1~2日で症状は軽快していきます。嘔吐を伴うことが多く、すっぱい臭いの便が頻回に出ます。 |
●細菌性の下痢・・・・・ |
腹痛が強く、下痢症状が悪化していく場合、細菌性腸炎の可能性があり注意が必要です。 血便を伴うことがあります。 |
●アレルギー性の下痢・・ |
乳児で、発熱・嘔吐・腹痛はみられず下痢だけが1週間以上続く場合は、乳糖不耐症などが考えられます。 ウイルス性の下痢の後に続いて乳糖不耐症を起こすことがよくあります。これは、腸粘膜についている乳糖分解酵素が洗い流されてしまい、ミルクや乳製品を分解することができなくなり下痢が起こります。 |
●薬剤性の下痢・・・・・ |
抗生物質の内服中に下痢が出現することがあります。腹痛・嘔吐を伴うことは少なく、機嫌も良いことが多いです。 |
≪中医学的な捉え方≫
中医学では“下痢”のことを“泄瀉(せっしゃ)”といいます。
小児泄瀉とは、排便回数が増加し、便がゆるい、または水様、あるいは水様で未消化物が混じっている状態をいいます。
下痢の主な原因は、脾・胃の機能障害によるものです。
脾には“運化・昇清作用”があります。
運化とは、食物の消化と吸収、精微(栄養)と水液の運搬をいい、昇清とは、上へあげるという意味で、運化のうちで特に肺や心など体内の上の方へ栄養を運ぶことを意味します。
胃には、“受納・腐熟・和降”の働きがあります。
受納とは、水穀(飲食物)を受け入れることで、腐熟とは消化をすること、和降とは消化物を下方の臓器(小腸・大腸)に渡す働きをいいます。
脾と胃が協調して消化活動全体を司り、栄養源(後天の精)が作られていきます。
この脾・胃の機能が、様々な要因により障害されて下痢(泄瀉)が起こります。
小児は、陰陽のバランスが崩れやすく、脾胃の機能も未熟で、気血がまだ充実しておらず、抵抗力も強くないため、内・外の要因の影響を受けやすい状態にあるので下痢を引き起こしやすいといわれています。
では下痢を引き起こす要因別に、説明をしていきます。
●湿熱による泄瀉(下痢)
泄瀉は四季のどの季節にも発生しますが、夏・秋に比較的多くみられます。
夏は暑さが厳しく(暑邪)、暑邪は湿邪を伴いやすいです。この季節に小児を炎天下や、暑い場所で過ごさせたり、冷たいものを飲食させ過ぎると、湿熱の邪が臓器に侵入し脾・胃を犯し泄瀉が起こります。
(症状)・・・1日に10数回にわたり緑色または黄色の水様便を泄瀉します。
便の中に未消化物が混じることがあります。または少量の粘液が混じる場合があります。
肛門は赤く灼熱します。その他に、口の渇き、小便は黄色で量が少ない、などがあります。
(治療原則)・・・清熱利湿(熱と湿を取り除き消化機能を調整し泄瀉を止める治療です)
●風寒による泄瀉(下痢)
冬・春は風寒を感受しやすい季節です。また暑さで肌腠(毛孔)が開泄している夏秋に、薄着をしたり肌を露出して眠っていると、風寒を感受することがあります。このようにして、風寒を感受し、寒邪が脾・胃の陽気を損傷すると、消化機能が失調して泄瀉が起こります。
(症状)・・・腹痛、腹鳴をともない、便は稀薄で泡立ち、色は淡色で臭気も少ないのが特徴です。その他に、発熱、鼻づまり、鼻水などがあります。
(治療原則)・・・疏風散寒・化湿和中(風寒を取り除き、湿を除去して脾胃の機能を整える治療です)
●傷食による泄瀉(下痢)
飲食の不摂生(過食や不潔な物の飲食)や、摂取した母乳の停滞により、脾胃が損傷され消化不良を起こすと泄瀉が起こります。
(症状)・・・腹脹、腹痛、泄瀉前は腹痛のため泣きわめき排便すると痛みは軽減する、大便は腐敗卵のようで腐臭も強い、未消化物を嘔吐する、などの特徴があります。
(治療原則)・・・消食化積・和中止瀉(消化物を除去してつかえを通 し、脾胃の機能を整える治療です)
●脾虚による泄瀉(下痢)
小児は体質的に脾胃が虚弱傾向にあるため、先天(両親から受け継いだ生命エネルギー)の不足や後天の栄養不足、または冷たい物の過剰摂取などが原因となって、脾胃が損傷して虚弱化します。
脾胃が虚弱になると消化機能が低下し泄瀉が起こります。
また、恐怖にあったり激怒して泣き叫んだりすると、肝の気がのびやかさを失って停滞し、脾胃を損傷します。このため脾胃虚弱となり消化機能が失調しても泄瀉が起こります。
(症状)・・・泄瀉したり止まったりを繰り返します。または、泄瀉が長引き治りきらない、大便は稀薄または未消化物やミルク様の白い固まりが混じる、食事をするとすぐに泄瀉する、などの特徴があります。
その他に、顔色蒼白、目を半開きにして眠る、身体が痩せてくる、などがあります。
(治療原則)・・・健脾止瀉(脾の機能を立て直し、消化機能を増強させる治療です)
●脾腎陽虚による泄瀉
慢性の泄瀉、慢性疾患により脾腎陽虚となり命門の火(生命を維持するためのエネルギー)が衰退すると、温煦作用(身体を温める働き)が低下し、脾の運化作用、腎の気化作用(尿を生成する働き)が障害されて泄瀉が起こります。
(症状)・・・泄瀉が長引き止まらない、または五更泄瀉(明け方に起こる下痢)、大便は稀薄で未消化物が混じる、腹部が力なく軟らかい、などの特徴があります。
その他に、寒がり、四肢の冷え、食欲不振、身体が痩せる、浮腫、目を半開きにして眠る、脱肛、などがあります。
(治療原則)・・・補脾温腎(腎を温めて脾を健全にする治療です)
小児の下痢で一番注意が必要なことは、下痢そのものより脱水の程度、全身の元気さです。
下痢は、身体の維持に不可欠な水分やナトリウム、カルシウム、カリウムなどの電解質をも体外に出てしまいます。電解質は、心臓や神経、筋肉の正常な働きを保つのに重要です。
そのため、下痢の時は失われた水分だけでなく電解質も補うことが大切です。
感染症の下痢症は感染力が強く、下痢便、嘔吐物そのものの他、飛沫感染(乾燥した便が空気に漂うことによる感染)も疑われているので、下痢・嘔吐の処置後の手洗い・うがいをしっかり行うことが大切です。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。
この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【小児科疾患】小児喘息(百日咳)
頓咳とは百日咳のことであり、小児によくみられる急性の呼吸器伝染病です。
この病気は百日咳菌という細菌が気管支粘膜などの気道粘膜に感染し発症します。
この菌が感染すると気道粘膜が剥がれ落ち、炎症が起きて重大な損傷を受けます。その結果 、痰を吐き出すことが困難になったり、物理的刺激で咳発作が誘発され、その咳がまた次の咳を誘発するという悪循環によって咳の重積化が起こります。
経過は比較的長く、3ヵ月以上も継続することがあるため、古くは百日咳ともいわれています。
現代の医学では三種混合ワクチンによって積極的に免疫確保を図っています。
臨床では発作性の痙攣性の咳がみられ、深い鶏鳴様の呼気音を伴うことが特徴です。
発生は、どの季節にもみられますが、冬季、春季に比較的多く年齢的に5歳以下の小児に多く、10歳以上にはあまりみられません。病状は、年齢が低ければ低いほど重くなりやすく、併発症状がないものは一般 的に予後は良好です。伝染性は、発病2~3週間が最大で主な感染ルートは咳による飛沫感染です。
病後は永久免疫を獲得するため、2回発病することはごくまれです。
百日咳の原因として考えられるもの
中医学で原因として考えられるものは外感又は六淫(ろくいん)というものになります。
外感とは外的環境が与える影響のことで風・暑・湿・燥・寒・火または熱の6種類からなることにより、六淫と言われます。
これが疾病を引き起こす原因となると考えます。
「気温差が激しいと体がついていかない」などとよく話に出ます。
これは自然の季節ごとの四季の変化の異常現象が深く関わっています。
春=風 夏=熱 長夏=湿 秋=燥 冬=寒
この自然の原理に暑が加わったものを六気といいます。
この正常な季節変化(六気)が六淫に変化した場合、六淫の邪ともいい、六気の名を冠してそれぞれ風邪(ふうじゃ)熱邪(ねつじゃ)湿邪(しつじゃ)燥邪(そうじゃ)火邪(かじゃ)暑邪(しょじゃ)といいます。
また外的環境によるものなので、外邪(がいじゃ)ともいいます。
六淫の特徴
外邪である六淫は主に皮膚・粘膜・毛穴などの体表と呼吸器の口や鼻から侵入します。
体表・呼吸器ともに中医学では肺がつかさどっており、言い換えれば、肺のバランスが崩れると外的環境の影響を受けやすくなるといえます。
六淫は単独で侵入することもあれば、複合した状態で侵入することもあります。
これは現れる症状やその症状が出た時の環境や状況から判断されます。
また侵入した六淫の邪は一定の条件下で変化することがあります。
風邪(かぜ)を例に考えてみましょう。
冬、寒い所にいて風邪を引いたとします。この場合原因となる邪気は寒邪です。寒気がして、節々が痛み透明の鼻水が出てくしゃみがでます。
ところが…
数日経つとこれらの症状はなくなり、変わって黄色くて粘っこい鼻水や痰が出るようになり、食後や夜、布団に入ったり温まると咳が出たりします。
これは寒邪が熱邪に転化(相反する一方が極まることにより、もう一方に変化すること)したためです。
中医学は初期症状(風邪ふうじゃ)と熱邪に転化した後期の症状で治療方針が変わっていきます。
病気の原因を探る場合、邪気の侵入経路や状態も大切な要因になります。
前項でも述べましたが、百日咳は冬季と春季に多く発生しやすい為、六淫の邪の中で風邪(春)と寒邪(冬)が大きく関与します。また、百日咳の症状が初期の段階を経過すると風・寒邪に加わり熱邪も関与してきます。
風邪の特徴 |
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① |
人体の上部、体表を襲いやすく、体表や毛穴を開かせる。 |
② |
発病部位や発病時間が特定されず、症状は遊走性があり、現れたり、治まったり、状態の変化が激しい。 |
③ |
他の外邪と複合しやすい。 |
寒邪の特徴
① 熱エネルギーである陽気を襲いやすく衛気などを損傷して代謝を悪くする。
② 気・血・津液の巡りを滞らせ血行不良などを引き起こす。
③ 皮膚・筋肉・血管などを収縮・緊張させる。
熱邪の特徴
熱邪が現れる状況として風邪や寒邪が転化するこが考えられます。
① 人体の上部を襲いやすく、顔や頭に症状が出やすい。
② 体液成分や潤いを最も消耗する。
③ 炎が風を生むように、体内に風邪を受けたのと似た症状を起こさせる。
④ 出血しやすくさせる。
⑤ できものを作る。
百日咳は「肺」の臓器と深く関わっています。ここで、中医学での肺の働きについて少し説明します。
肺の働き |
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① 呼吸と全身の気の生成や循環をつかさどる働きがある。 |
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人間が無意識に行っている呼吸は、現代医学同様、肺が管理していると考えますが、それのみならず、中医学では(宗気の生成)や肺は清いものを好むといわれ、大気から清浄な気を取り込み代謝により生じた老廃物などを濁気として排出しているとされています。 また大気から取り込んだ清浄な気は宗気の原料にもなります。 宗気は推動作用により、代謝や血行を促進したり、呼吸や発生に関与していますので、肺のバランスが崩れると呼吸器系や循環器系にも症状が現れることがあります。 |
② |
体表に通じ栄養物質や老廃物を体表に運んだり、皮膚呼吸を調節する働きがあります。 |
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肺は体表に通じており、表面に向けて散らすことができるとされ脾で作られた栄養物質を運んだり、皮膚呼吸によって老廃物を排出させているとされます。 また衛気を体表に運び、外界の環境の変化に対応して体を守ったり、必要以上に体表から栄養物質が漏れないように管理したり、皮膚を潤したりしているとされます。 |
③ 栄養物質を下降させる |
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体の中央に位置する脾で作られた栄養物質は体の上部にある肺に運ばれてから全身に運ばれます。 この下降させる働きと体表に散らす働きにより、肺が全身に栄養物質を運ぶと考えられています。 |
④ 体液成分の運搬 |
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肺は上部にあることから「水の上源」とも言われ、三焦を通 じて全身に体液成分を運ぶとされます。 風邪や鼻炎になると鼻水やなど呼吸器系に正常でない水分が出ますが、これは肺の働きが低下するためと考えます。 |
⑤ 全身の血液の気体交換の中心になる |
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体にあるすべての経絡や脈や肺に集まり、その中を流れる血液など人体の構成成分は肺で清濁の交換をするとされます。 西洋でいう肺でガス交換をして新鮮な血液を体内に循環させている機能と同様と考えることができます。 |
上記の様な説明を踏まえた上で百日咳を細かく見ていきましょう。
百日咳は臨床上、初咳期、痙咳期、回復期の3期に区分され、各期に応じて治療方法が異なります。
① 初咳期(カタル期):外邪(がいじゃ)が肺に侵入する時期
最初は風邪のような症状で始まりますが、合併症がない限り、熱はでません。次第に咳が強くなってきて1~2週間で痙咳がでます。
中医学でこの状態は…
子供は肺が未発達の為、肺気(肺の機能活動の推進力となります)が弱く、流行性の疫毒が口や鼻から侵入しやすい状態です。
外邪が体を守るバリケード「肺衛」を障害し、気の流れが渋滞を起こしてしまいます。これを気機阻滞といいます。
気の流れの滞りが起こると、肺の気が上逆し、咳が頻発します。肺は身体の上部に位 置しているので中医学では物質を下に降ろす作用がある(新鮮な空気を肺に取り入れ、他の臓器・器官に振り分ける働き)臓腑と考えます。
肺の気が逆流を起こしてしまった状態が咳という症状として出てくるのです。
② 痙咳期
痙咳は顔を真っ赤にしてコンコンと立て続けに咳き込み、最後にヒューと音を立てて息を吸い込むような咳発作で、最後に粘稠な痰を出して発作は終わります。
刺激で吐いてしまったりします。
咳は夜間に多く、咳の発作と発作の間は特に症状はありません。
この咳は百日咳菌が出す毒素により引き起こされるものであり、3~4週間続きます。
中医学でこの病状を説明すると下記のようになります。
体は臓腑や器官、組織が正常に働き、「気」「血」「津液」が十分にあって流れも正常であれば、病気から健康な体を守る「正気(せいき)」が満ちた状態にあるため、病気にかかる可能性はほとんどありません。
しかし、「正気」にスキができたり、「正気」が不足すると、発病因子である「病邪」が体の中に侵入して「正気」と戦いが起こり病気が発生します。
病邪が中に入って伏痰と結合し、鬱滞して熱に化けて煮詰まると、痰濁(体の中で生まれた水毒・ドロドロ水分)が気道を阻滞させ肺気を上逆させて痙咳の発作が起こります。
発作時は気機が失調して血行が阻害され、さまざまな症状を併発します。
病邪が経絡を通して体内深部まで侵入すると嘔吐など内臓器の障害が引き起こされます。
痙咳の発作は粘痰や乳食を吐き尽くすと気道の通りがよくなり、しだいに緩解します。
状態が長引くと邪熱が肺の経絡を損傷して喀血、鼻血が現れます。
体内で発生した病変(鼻血など)は経絡という独自の循行経路をもつ循環・伝達系・気血が流れる通 路を通して失調した臓器と関連する五官や体表部に影響を与えます。
肺の臓器を損傷すると鼻血や気管・気管支からの出血によって気道から血液そのもの出すなどの症状が起こります。
③ 回復期
次第に嘔吐しなくなり、咳の強さ、回数ともに減っていきます。
1~2週間で症状が消失して完治します。全経過は6~8週間です。
この状態を中医学的に説明すると…
回復期には、邪気は減退して発作性の痙咳は軽減し、精気(人体構成する基本物質で人体が先天的に持っている成長・発育のための生命エネルギーのことを指します)が衰退した症状が現れます。
次にさまざまな症状がそれぞれの期間に起こる理由を中医学の方向から説明していきます。
初咳期 (発病から1週間前後の期間)
主症:発病初期の症状は風邪に似ています。
咳、水様状の鼻水、痰は濃度や密度が薄く、サラサラしており泡沫が多い。
2~3日後から咳が増悪し、とくに夜間にひどくなります。
随伴症状
風寒犯肺
風寒の邪が肺に侵入し、その機能が損傷を受けた状態です。多くは風邪による寒気を伴う感染症の初期症状で起こります。
主な症状は悪寒、咳、痰(量は少なく薄く白い)鼻水(白いか透明で薄い)・頭痛・関節痛などです。
風熱犯肺
風熱の邪が肺の機能を損傷した状態です。
風寒の邪が侵入した後に風熱に変化することでも起こります。
症状は発熱・咳・痰(黄色で粘性がある)鼻づまり・鼻水(黄色でネバネバ)咽痛・咽の腫れ・赤みなど
症候分析
① 発病初期は咳、水様状の鼻水、痰は薄くて白い
風邪と寒邪が皮膚に侵襲し、肺の気を全身に散布する働きである「宣発」が悪くなると起こります。
② 咳が増悪し、とくに夜間にひどくなる
夜間に陽の気が少なくなり、肺気の滞りがひどくなると発生します。
「陰」と「陽」ということばを聞いたことがあると思います。陰は静かで内にあり、暗く重いものであり、逆に陽は活動的で外にあり明るく軽いものであるとされています。これら陰と陽のバランスが保たれているのが良い状態です。どちらか一方が強かったり、数が多い状態は良くないとされます。体の中に陽の気が陰の気に比べて量 が少なくなってしまっている状態と考えます。
③ 発熱・汗がでる
風邪と熱邪の外邪が衛気を障害し、汗腺など皮膚のバリア機能がゆるむと起こります。
体にはもともと外的から身を守る力が備わっています。その中には「気」(生体エネルギー)の一種である「衛気」といわれるものがあります。衛気は体表部をくまなくめぐり、皮膚や粘膜の防衛力を高めます。この衛気の力が弱くなるとバリア力が弱まったりしてウイルスなどが進入しやすくなります。
④ 顔面紅潮・唇の色は赤い
熱邪が上炎するとおこる(熱邪は人体の上部を襲いやすい邪氣です)
⑤ 咳・痰は粘る・咽頭の充血
風熱の邪が肺に影響し、津液(体を潤している水分・体液のこと)が不足すると体が砂漠のようにカラカラになってしまった状態になり上記のような症状が出ます。
⑥ 悪寒・顔色が白い・唇の色は淡い
風寒が体に侵襲して衛気(外的から身を守る力)を損傷し、肌表を温くできないとおこる。
⑦ 無汗
寒邪は収引の性質をもち、これが体表の皮膚を閉塞すると汗腺が引き締まって汗が出ない状態となります。
痙咳期 発病後2週間から6週間の期間
主症状
痙攣性の咳の発作
咳の最後に吼哮音を発して息を吸い込む
咳は反復して止まらない
痰は粘く、喀痰しにくい、夜間にひどくなる
粘い痰や乳食を吐きつくすと発作はしだいにおさまる
随伴症状
精神疲労・顔面紅潮・大便乾燥・小便黄
症候分析
① 痙攣性の咳の発作
痰が同じ場所に停滞し続けるとやがて熱が生まれ互結して気道を塞ぎます。
肺気がスムーズでなくなり、逆気すると発作がおこります。
② 痰は粘く喀痰しにくい
熱邪が肺の中に鬱積し津液(体を潤している体液・水分)を焼灼して痰が生じ、痰と熱が互結するとおこる。
③ 粘い痰や乳食を吐く
身体の余分な水分「痰」が熱化したことにより、胃に影響を及ぼし胃気が上逆するとおこります。
胃の気は下に降りていくのが正しい状態です。
つまり、食べたものを腸の方に運んでいく働きがあります。
この働きがスムーズにいかなくなった状態を胃気上逆といいます。
④ 精神疲労・顔面紅潮
熱邪が上炎し、消耗するとおこる。
⑤ 大便乾燥・小便黄
火熱が亢進して体にこもり、熱が上炎して陰液を消耗した状態です。
回復期 発病6週目以後、一般には約2~3週間で回復する
主症状
発作性の咳はしだいに軽減、吼哮音はしだいに消失し、嘔吐しなくなる。
咳は無力で音は低い、痰は稀白で少ない。
乾いた咳、痰は少ない。
随伴症状
食欲不振・手足不温・顔色がさえない・自汗・倦怠無力・大便溏薄
手足心熱 頬部の紅潮、盗汗
症候分析
① 咳は力がなく、音は低い、痰は稀白で少ない
肺のエネルギー不足により宣発(清い正気を全身に散布する)が弱くなり、脾気虚により水液を運化できないとおこる。
「脾」は飲食物などから必要な体液成分を作り出してポンプのように全身に運搬する働きをもっています。
② 乾いた咳・痰は少ない
症状が長引くと陰虚による津液(体を潤している体液・水分)不足で肺を潤せないとおこる。
陰虚とは陰液のことを指します。陰液とは人体の構成成分の気・血・津液のうち、物質を表す血と津液のことを指します。
体内で必要な物質が不足している状態が陰虚です。
③ 食欲不振・倦怠無力・大便溏薄
脾気虚により運化機能が減退するとおこる。
体に必要なエネルギー源をつくり出す「脾」の働きが弱くなっている状態。
④ 顔色がさえない
脾気虚により基本的物質である気や血を作り出す力が弱くなっている状態。
⑤ 自汗
気の消耗による固摂機能の減退によりおこる。
気は人体の構成物質(気・血・水)が必要以上に体外に流出しないよう留めようとする作用をもっており、これを固摂と呼んでいます。
⑥ 手足心熱 頬部の紅潮 盗汗
陰虚により虚熱が内生するとおこる。
陰虚の「陰」はラジエーターの水と同じで身体が熱くなるのを防いでくれています。症状が慢性化することにより、気や血が熱化し、陰液を消耗してしまうと上記のような症状がでます。
治療方法
① 初咳期
「宣肺解表」…肺の機能である気・血・津液を全身の隅々までめぐらせて体表を開いて発汗を促進し、体内毒素や老廃物を排出させます。
② 痙咳期
「清熱瀉肺」…肺の熱をさまして解熱します。
「化痰止咳」…痰を除き、咳を止めます。
① 回復期
「補益肺脾」…人体に内在する抵抗力を強め、生理機能の回復を促進する。肺と脾の臓腑が不足している部分を補い、益を与えます。
咳に効果のある食べ物
中国では百日咳のときに鶏の胆嚢を飲みます。新鮮な鶏を採取して、適量 の白糖を加えて糊状に調製し、これを蒸したものを内服します。
金柑 |
咳・痰が取れます。 |
柿 |
咳止め・肺炎・気管支炎などに効果 があり、殺菌作用もあります。 |
カリン |
咳止め 梅酒に漬けると酸味が効いて美味しく食べられます。 |
梨 |
空咳・痰に効果的 |
大根 |
痰と気管支炎に効果的です。かりん酒に金柑と大根を漬けたものを昆布と陶器の鍋に入れて黒砂糖を加えて30分ほど煮ると良い。 |
レンコン |
レンコンのはちみつ漬け・ |
銀杏 |
ゆりねと銀杏のおかゆは咳や喘息に効果 的です。 |
白菜 |
咳や痰が取れ、肺炎などに効果的です。 |
ねぎ |
痰を取ります。 |
上記のような食べ物を毎日の食事に上手に取り入れ、症状の緩和に努めましょう。
料理を作るとき、食べ物の相性が良いと美味しくたべられ、なおかつ効果 も高くなります。
例えば柿は冷たい性質の食べ物なので、温かい性質がある白菜や長芋と合わせると効果 的に摂取できます。
カリンや金柑は冷の性質なので蜂蜜やお酒など温性のものと合わせると良いでしょう。
咳は以外に体力を使うため、消耗したエネルギーを補うためにも、消化の良い食品も摂取して栄養補給を心がけましょう。
中医学(東洋医学)全般(鍼灸・漢方・食事療法・体質改善)のご相談はお気軽にどうぞ。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを 受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより
一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【小児科疾患】夜泣きについて
子育てを経験された方の中には、お子さんの夜泣きに悩まされた経験がある方も多いと思います。
ところで、夜に赤ちゃんが泣くことを「夜泣き」と思っている方はいませんか?
もしそのように思っていたならそれは間違いです。
夜泣きとは、原因が無いのに赤ちゃんが寝ている間に泣くことをいいます。
ですから何か原因があって夜に泣くものは「夜泣き」とはいいません。
「夜泣き」は早い場合は生後2ヶ月位から始まる場合もありますが、一般 的には6~8ヶ月位に始まることが多いようです。
又、「夜泣き」は泣き出す時間帯や期間もお子さんによってまちまちで、いつまでもグズグズ泣く子もいれば、突然号泣する子と色々なタイプがありますが、いずれもなかなか寝付いてくれないという特徴があります。
「夜泣き」は原因が無いわけですから病気ではありません。
むしろ、「夜泣き」は赤ちゃんが生活リズムを作るうえで必要な行為なのです。
夜泣きをすることで心配なさるご両親もいらっしゃるようですが、実際に何かしらの病気によるものでなければ特に心配する必要はありません。
ただ、昼間に子育てや仕事に疲れている大人達にとっては睡眠の妨げになったり、日本の住宅事情を考えると、近所迷惑などと気を使いストレスのもとになってしまいます。
色々なところのHPをのぞいてみると、様々な夜泣きグッズや対処法が紹介されております。
それほど夜泣きに悩まされている大人達が多いということでしょう。
ところで赤ちゃんは何故、夜泣きをするのでしょうか?
今のところその原因は、睡眠のサイクルの未熟さや、昼間に受けた刺激によるものと考えられておりますが、残念ながらはっきりしたことはわかっていないそうです。
睡眠のサイクルの未熟さとは、人間の睡眠は深い眠りのノンレム睡眠と、浅い眠りのレム睡眠が繰り返されておりますが、赤ちゃんはノンレム睡眠からレム睡眠への移行が上手く出来ずにレム睡眠時に夜泣きをすると考えられております。
では次に中医学ではどの様に「夜泣き」を考えているのかを、紹介してまいりましょう。
★ ★中医学の基礎概念★★
中医学は独特の理論によって構成されており、独特の専門用語を使用します。
最初はなかなか馴染むことが難しいと思いますので、先ず当HPの『わかりやすい東洋医学理論』をお読みになり、中医学の概念的なイメージを掴んでから、この後を読まれる事をおすすめいたします。
さて、『わかりやすい東洋医学理論』を読まれた方は何となくイメージできたでしょうか?
今度は中医学の基礎的な概念のなかから、「夜泣き」に関係するものをもう少し詳しく説明をさせていただきます。
▼夜泣きに関係のある中医学の生理観▼
《気・血・水》
〈気〉
気は人間が活動するために必要な基礎物質です。
そのため「気」は幾つかの種類や作用があります。
=気の種類=
気の種類には「元気」「宗気」「衛気」「営気」「臓腑の気」「経絡の気」があります。
この中で「夜泣き」に関係があるのは「宗気」です。
「宗気」は肺で作られ、胸中に存在します。宗気の働きは肺とともに、発声や呼吸を行います。
=気の作用=
気の主な作用には、「推動作用」・「栄養作用」・「温煦作用」・「防衛作用」・「気化作用」・「固摂作用」がありました。
このなかで、身体を温める「温煦作用」については「夜泣き」の原因で再度登場しますので、覚えておいてください。
<血>
血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます。
ここにも中医学独特の概念があり、血は精神活動の栄養源でもあります。
ですから血の不足は精神不安や不眠を発症させます。
<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。
* 健康な人の気・血・水はスムーズにながれています。
ですから気・血・水が渋滞や停滞を起こすと様々な症状が発現します。
その中の一つに、「不通なれば則ち痛む」という考え方があり、気血水の流れの滞りは痛みを生んでしまいます。
《内臓(五臓六腑)》
さて、中医学で考える内蔵は、西洋医学のそれとは異なる考え方をすることは『わかりやすい東洋医学理論』で説明されております。
ここでは「夜泣き」に関係のある臓腑ついて説明をいたします。
「脾」
脾の様々ある生理作用の中で「夜泣き」と関係がある作用は、運化作用です。
運化作用とは「消化・吸収・運送」のことで、「運化」の「運」が運送を意味し、「化」が消化吸収を意味します。
脾はこの運化作用により飲食物から栄養分を吸収し、気血水を作り、肺を経由して栄養分を全身へ行き渡らせます。
運化作用が失調すると、食欲不振・下痢などの症状が現れます。
又、気血水などの生成不足も生じてしまいます。
脾は「喜温悪寒」といい、温められる事を好み、冷やされる事を嫌います。
冷えは直ぐに脾に影響を及ぼしてしまいます。
ですから冷たいものを採りすぎるとお腹を壊したりするのです。
『肺』
肺の作用の1つに「呼吸を主る」があります。
肺は宗気を作り出し、宗気と協力して呼吸や発声を行っておりますので、肺の気が不足すると呼吸や発声に影響がでます。
『心』(しん)
心の生理作用は血脈を主る・神明を主る・神を蔵する などがあります。
(神明とは精神・意思・思惟活動・といった意味です。)
簡単な言葉で言い換えると、心の主要な生理作用は血を全身に運ぶことと、精神活動の総括になります。
ですから、心が損傷を受けると、精神不安になり、夜泣き・不眠・動悸・不安感・といった症状が発症します。
又、「驚則気乱」といい、過度の驚きは「心気」を乱すといわれ、精神不安を招きます。
* 心の機能活動を現す言葉に『心火』という言葉があり、生体全体の機能活動を促進する作用があります。
ところが、情志失調などにより心火が亢盛してしまうことがあります。
心火の亢盛は、不眠・イライラ・気分が落ちつかない・などの様々な症状を発現させてしまいます。
ご理解していただけましたでしょうか?
我々が慣れ親しんでいる西洋医学とは大分違っていたと思います。
最初はなかなか理解するのは難しかったり、抵抗があったりすると思いますが、生理観の概念が違うからこそ、西洋医学で治らなかった病気が中医学で治ったりすることがあるわけです。
それでは次に生理観の他に中医学の独特の考え方をするものを少しだけ紹介します。
これも中医学を理解する上でとても大事な予備知識になります。
▼ 「夜泣き」を理解するための中医学の基礎知識▼
《病因》
病因についても『わかりやすい東洋医学理論』で概要は説明しておりますので、ここでは夜泣きに関係のあるものについて説明をします。
夜泣きに関係のある病因は「外因・内因・不内外因」の全てになります。
『外因』には、六淫と呼ばれ
「風・湿・熱(火)・暑・寒・燥」の6種類がありました。
六淫は「湿邪(しつじゃ)」「寒邪(かんじゃ)」「熱邪(ねつじゃ)」・・・といった具合に六淫のそれぞれに、「邪」という言葉を付けて呼ぶ場合があります。
因み六淫の「風」は「風邪」と書いて(ふうじゃ)と呼びます。
皆さんがよく言う風邪(かぜ)の語源です。
このように実は皆さんは知らず知らずの内に、中医学に親しんでいるものなのです。
さて、この六淫の中で「夜泣き」の原因になるものとして「寒邪」と「熱邪」があります。
「寒邪」の特性は、①冷す ②流れを止める ③縮める の3つがあります。
①、 冷す
寒邪は体を冷やしますので、受感すると体に強い冷えを感じます。
また、寒邪は直接脾胃を損傷します。寒邪は陰に属しますので、特に脾陽を損傷します。(脾陽とは後述いたしますが、運化作用と温煦作用と思って下さい。)
②、 流れを止める
寒邪を受感すると気血の流動性が低下します。つまり気血がスムーズに流れなくなり渋滞を起こします。
「気」の説明でも述べましたが気血の渋滞は痛みを生んでしまいます。
③、 縮める
寒いと手足の筋肉は収縮し、かじかんで動かせなくなったりします。寒邪は筋肉ばかりではなく経絡まで収縮させてしまいます。経絡が収縮してしまうと気血は流れづらくなります。
「熱邪」の特性は
①蒸発・炎上
②気を損耗し津液を傷る
③風を生み血を動かす
熱邪の特性は以上の3つがありますが、「夜泣き」では①と②が特に関係します。
① |
自然界では火は上へ上へと燃え上がって行きます。 体内でも同じ事がおこりますので体内で熱邪は上へと昇ってゆき、顔や頭に影響を及ぼします。 |
② |
自然界で火が水を蒸発させるように、熱邪は体内の正常な水液(津液)や正気を損耗させてしまいます。 |
『内因』には「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の7種類ありました。
これらは七情と呼ばれます。これら七情はそれぞれ各臓器とつながりがあることもあり、例えば「驚則気乱」といい、過度の驚きは「心気」を乱すといわれています。
「心」は精神状態を統括しておりますから、心気が乱れると、精神不安や精神錯乱を起こします。
『不内外因』には「不節な飲食・外傷・寄生虫・過労・運動不足」などがありました。
特に「夜泣き」の病因となるものは「不節な飲食」が挙げられます。
「不節な飲食」とは食べ過ぎ・飢え・偏食・不衛生な物の飲食があります。
偏食にも色々ありましたが、「肥甘厚味の過食」「辛辣の過食」「生冷の過食」が 「夜泣き」の病因になります。
◎ |
「肥甘厚味」とは甘い物・味の濃い物・油っぽい物・といった食物をさします。 これらの食べ物は体内に余分な水分や熱を生産させます。 |
◎ |
「辛辣の過食」の辛辣とは辛くて熱い味をいいます。 このような食べ物を食べすぎると胃腸に熱がこもります。 |
◎ |
「生冷の過食」は生ま物と、冷たい物の採り過ぎを言います。 これらの食べ物は消化能力を下げてしまいます。 |
又、以上の食物はお子さんの過剰摂取によるものばかりではなく、お母さんの過剰摂取によるものも「夜泣き」の原因となります。
例えば妊娠中にお母さんが「生冷の過食」をすると、冷えがそのまま胎児に伝わったり、授乳期にお母さんが「肥甘厚味の過食」や「辛辣の過食」をしてしまうと、母乳を通 じてお子さんに熱が伝わってしまうことがあります。
《陰陽》
「夜泣き」に関係のある陰陽の分類としては、「寒・熱」があります。
寒熱を陰陽で分類すると、寒は陰に、熱は陽に属します。
体内で寒(陰)・熱(陽)は互いに抑制し合うことで適度な体温を保っております。
ですから、自分で体を温めるエネルギーの無い状態を「陽虚」といいます。
又、陽気は、体を温める他に各臓腑の機能を亢進させる働きもあります。
更に、さきほど臓腑の説明をしましたが、各臓腑は様々な働きがありました。その働きも臓腑によっては、陰陽に分けることができます。
例えば、「脾」では、運化作用*や温煦作用**などが「陽」に分類されます。 このような働きは脾の中の陽の分類なので「脾陽」といいます。
そして「脾陽」の不足を「脾陽虚」といいます。
ちょっと難しくなってきましたか?
では「脾陽虚」をイメージしやすくするために具体的例を紹介しましょう。
夏、暑くて冷たい物を飲み過ぎると、お腹がチャポチャポして冷たくなります。
更に悪化すると下痢や食欲不振になるといった事を聞いたり経験された事があると思います。
脾は「喜温悪寒」といい、冷えることをとても嫌いますので、冷たい物の採りすぎは脾を損傷させてしまいます。
冷たい物が大量に体内に入ってきて、脾が損傷されれば温煦作用の低下は容易に想像がつくと思います。
ですからこのような時はお腹が冷たくなっています。
更に脾の損傷と温煦作用の低下が起これば、それに続いて運化作用の低下が起こり、消化能力が低下します。
ですから先程飲んだ冷たい飲み物がいつまでも消化されずにお腹の中に残ってしまい、チャポチャポします。
このような状態を「胃内停水」といいます。
更に運化作用の失調は、この後食欲不振や下痢を招いてしまうのです。
このような脾の状態が「脾陽虚」です。
さて、このように「脾陽」とは温煦作用・運化作用・などをさします。
「脾陽虚」は夜泣きの原因の1つに入っておりますので是非覚えておいて下さい。
(運化作用*:脾の説明を、温煦作用**:気の説明を、参照してください。)
もう1つ「夜泣き」に関係のある分類で「昼・夜」があります。
昼は陽性に属し、夜は陰性に属します。
ですから夜になると「陰盛」といって、陰に分類される物の働きが旺盛になりやすくなりますので、このこともちょっと頭の中に留めておいてください。
さて、だいぶ中医学の基礎知識も頭に入ってきたところで、夜泣きについて説明をいたします。
★★中医学から診た夜泣き★★
中医学では「夜泣き」を『夜啼』(やてい)といいます。
原因は大きく3つあります。
① 脾や胃が冷えてしまって発症するもの
② 精神的ショック(驚恐)を受けて発症するもの
③「心」が熱の影響を受けて発症するもの
夜啼は、上記の病因により分類され、それによって症状・弁証・治療方針が異なりますので、説明の方も病因病機により分類して各々の弁証・症状・治療・を説明してまいりましょう。
▼夜啼の中医学的説明▼
Ⅰ、【脾や胃が冷えてしまって発症するもの】
《弁証》
『脾寒夜啼』(脾気虚寒)
《病因・病機》
乳児期に、親の不注意などで沐浴時や睡眠時にお腹を冷やしたり、母親が体を温める力の無い体質(陽虚体質)であったり、妊娠中に、生ものや冷たいものを食べ過ぎた場合は、そのまま胎児に冷えが伝わります。
脾はとても寒さを嫌い、寒さの影響を直ぐに受ける臓器でした。
ですから寒邪は胎児の脾を損傷させてしまいます。
このような状態を「脾気虚寒」といいます。
ここで、寒邪の特性を思い出してください。寒邪の特性*には「収引」と「凝滞」がありました。
「寒凝気滞」といい、寒邪が脾に入り込むと「収引」と「凝滞」の特性により 「気」の流れに滞りが生じることがあります。
中医学で「不通なれば則ち痛む**」という考えがありました。
つまり、気滞は痛みを生みます。
脾は中焦といってお腹の位置にありますから、脾に入った寒邪は腹部の気の流れを停滞させ腹痛を招きます。
さて、寒邪がどの様にお子さんのお腹に入り、どのような機序で腹痛を起こすかが、これで理解できたと思います。
次はいよいよ夜啼が起こるまでを説明します。
ここで今度は陰陽の説明を少し思い出してください。
寒は陰性に属しましたね。そして夜も陰性に属していて、陰性の働きを旺盛にさせました(陰盛***)。
ですから、寒邪も陰性ですから夜になると旺盛になります。
体内の寒邪が旺盛になると「寒凝気滞」の状態が更に悪化し、腹痛が増してしまい子供が泣き出します。これが「脾寒夜啼」です。
(寒邪の特性*は《病因》を、「不通なれば則ち痛む**」は《気血水》を、陰盛***は《陰陽》を参照してください)
《症状》 |
|
◎ |
泣き声が低く弱い・・・・脾が損傷され、運化作用*が低下してしまい、気血の生成不足が起こったことにより、肺の気が不足して起こります。 肺は発声を主っておりますので、肺気の不足は発声**に影響が出てきます。 (運化作用*:「脾」の説明を参照してください。発声**:「気種類」や「肺」の説明を参照してください。) |
◎ |
手足や腹部の冷え・・・・寒邪は陰性に属します。陰性の邪は陽を損傷させます。陽には体を温める作用(温煦作用)がありますので、寒邪により陽が損傷を受け「陽不足」となり、「温煦作用」が低下してしまって起こります。 |
◎ |
腹部を揉まれたり摩ると気持ちが良い・・・・寒邪の特性で腹部で気血が凝滞して起こります。(詳しくは外因を参照してください) |
◎ |
乳を飲まない・乳を吐く・下痢・・・・運化作用の低下によるものです。 |
《治療》
「温脾散寒」といい、脾を温めて寒邪を追い出す治療をします。
Ⅱ、【精神的ショック(驚恐)を受けて発症するもの】
《弁証》
「驚駭夜啼」(きょうがいやてい)
《病因・病気》
皆さんも経験あると思いますが、乳幼児は何でもないことでも、ものすごく驚いてしまったりします。
この様に乳幼児が精神的ショックを受けことによって発症する夜啼が「驚駭夜啼」です。
ここで言う精神的ショックとは、七情*では「驚」「恐」にあたります。
内因のところでも説明しましたが、過剰な七情は精神不安に繋がります。
精神的ショックを受けたことにより、七情が過剰となり精神不安となり、不眠や夜啼が起こります。
(詳しくは内因の説明を参照してください。)
《症状》 |
|
◎ |
夜中に突然何かを恐れるように激しく啼く・・・・「驚・恐」による精神不安があるためです。 |
◎ |
顔色が青白い・・・・精神不安の特徴です。 |
《治療》
「鎮驚安神」といい驚きを鎮めて精神安定の治療を行います。
Ⅲ、【「心」が熱の影響を受けて発症するもの】
《弁証》
「心熱夜啼」
《病因・病機》
母乳を与えている母親が、辛いものなや、味の濃いものや、甘いものなどの食べすぎて起こります。
病因のところで説明しましたが、上記のような食べ物の食べすぎ(飲食不節*)は熱を生みます。
その熱が母乳を通じて乳児の体内に入り、こもってしまいます。
やがてこもっていた熱は鬱熱となり炎上します。自然界では炎は上に舞い上がります。
体内でも同じ事がおこり、炎上した熱は体の中では上部にある心に影響を及ぼします。
「驚駭夜啼」でも説明しましたが心が損傷を受ければ精神不安になり「夜啼」が発症します。
この様な病機で発症する夜啼を「心熱夜啼」といいます。
《症状》 |
|
◎ |
泣き声が高い・灯りを見るとさらに強くなく・・・・炎上した熱によって、心火が亢盛して精神不安が起きているためです。 |
◎ |
顔が赤い・体に熱感がある・便秘・・・・熱が体内で潜伏しているため、体に熱感があります。熱の特性は上に上がりますので、熱が顔に上がって顔が赤くなります。熱が体内に潜伏することにより体内の水液が損耗され便秘が起こります。 |
《治療》
「清心導赤」といい心火の亢盛を抑える治療を行います。
以上が夜啼の中医学的説明になります。
いかがでしたか?ご理解していただけたでしょうか?
皆さんに一番理解していただきたいのは、先ず、中医学は生理観や病理観がしっかりしている医学であるということと、病因や病機や症状といったもの全てを考慮に入れて治療方針を決めているということです。
当然、治療方針が違えば使用するツボや漢方薬も違ってきます。
けして、この病気にはこのツボとか、この漢方薬といった短絡的なものではないということです。
最後に、夜啼についての注意事項を幾つか紹介して終わりにしたいと思います。
★★夜鳴き(夜啼)についての注意事項★★
冒頭でも述べましたが、夜泣きは病気ではありません。
お子さんによって期間は違いますが成長にしたがい自然に治ることが多いので、家族の皆さんは必要以上に心配しないで下さい。
但し、なんらかの病気が原因で泣いている場合もあるので、その辺の見極めはしっかり行ってください。
中医学ではお子さんのお腹の冷えや、体内にこもる熱も夜泣きの原因と考えます。
ですから、沐浴や睡眠時にお腹を冷やさないように、また食材や、ミルクの温度等も注意して下さい。
また、妊娠中や授乳期間における、お母さんの冷たい物の摂りすぎや、辛いもの・味の濃いもの・甘いものなどの食べ過ぎといった「飲食不節」も夜泣きの原因になりました。
お母さんも食事には十分注意して下さい。
以上が夜泣きについての説明になります。
何度も言いますが、夜泣きは病気ではありません。
むしろ成長には必要なものです。
成長にともない自然と治ることが多いので、家族の皆さんは決してイライラや必要以上に心配せずにお子さんを見守ってあげてください。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
◎ 当院での治療をお考えへの方へ
= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。
これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【小児科疾患】夜尿症
今回のテーマは夜尿症です。別な言い方としては「遺尿」とも言います。
「夜尿症」の定義としては、4~5歳のお子さんが寝ている間に起こる付随意の排尿のことを言います。
数字的には、女児より男児の方が2倍多いと言われております。
では早速、いつものように現代医学の観点から「夜尿症」を紹介してゆきましょう。
☆☆現代医学から診た夜尿症☆☆
先ずは、尿量調整や膀胱の貯尿量についての話から始めましょう。
皆さんもご存知のように、尿は腎臓で作られます。
腎臓で作られた尿は膀胱で一定量になるまで貯められ、尿量が一定量 に達すると尿意をもようし尿道を通過して体外に排尿されます。
腎臓で作られる尿量を決める要因としては、水分摂取量・塩分摂取量 ・腎臓の尿を作る働きを抑制するホルモン(抗利尿ホルモン)などがあります。
水分や塩分摂取量が多いと尿量は増え、抗利尿ホルモンの分泌が多いと尿量 は減ります。
実はこの仕組みが、昼と夜間睡眠中とでは以下のように変化が起こります。
①夜間睡眠中は抗利尿ホルモンが昼間の約2倍分泌されます。
②夜間睡眠中は自律神経の調節により、膀胱の大きさが昼間の約1.5倍になります。
以上の変化により、夜間睡眠中は腎臓で作られる尿量が昼間の60%に減少し、 膀胱の貯尿量も増量します。
この変化のおかげで、我々は夜間睡眠中の尿意も無く「おねしょ」もせずに、 グッスリと眠れるのです。
そしてこの身体の仕組みが完全に作られるのが、個人差はありますが3~4歳頃と言われております。
以上の事から、通常は3~4歳を過ぎたお子さんは、夜間睡眠中の尿量 の減少が起こり、更に膀胱の貯尿量が増加することにより、朝までおしっこを膀胱に貯めておくことが出来るようになります。
つまり、夜尿症は上記の尿量と膀胱の貯尿量のバランスが崩れて起こると言えます。
通常は睡眠中に尿意は発生しているのですが、お子さんは睡眠が深いために、 それに気付かず排尿してしまうのです。
夜間睡眠中の尿量減少が起こらないのは抗利尿ホルモンの分泌不足、膀胱貯尿量 の増量不足は自律神経のアンバランスが原因です。
では、何故そのような事が起こるのか、その原因を紹介しましょう。
☆尿量と貯尿量のバランスを崩す原因(夜尿症の原因)☆
① 早すぎるトイレ・トレーニングや強制的過ぎる場合。
お子さんが膀胱を抑制できるようになる年齢は個人差がありますが、通 常3歳以前ではトレーニングができる状態ではありません。
この様な時期にトイレ・トレーニングを開始したりすると「夜尿症」を発生させることがあります。
② 膀胱の筋肉の発達の遅れや、尿量が多い時にその圧力に耐え切れない場合。
③ もともと膀胱の容量が少ない
④ 睡眠が深い
⑤一時的な退行現象によるもの
⑥ストレスなどからくる適応障害の一種として発生するもの
⑦身体の冷えによるもの
⑧習慣性の多飲や塩分の過剰摂取
⑨糖尿病によるもの
⑩尿路感染によるもの
⑪脊髄の損傷によるもの
⑫尿路や生殖路の先天的奇形によるもの
などがあげられます。
但し、身体的な理由で「夜尿症」が起こることはまれであります。
☆夜尿症の分類☆
さて、夜尿症は先程の尿量と貯尿量のバランスの崩れ方から分類することができます。
そしてこの分類によって治療法が異なります。
▼ 多尿型・・・尿量の多いタイプです。原因の殆んどが抗利尿ホルモンの分泌不足ですが、塩分摂取量 過多の場合もあります。
(前者はうすい尿が、後者は濃い尿が多量に出ます)
▼ 膀胱型・・・膀胱の貯尿量が少ないタイプです。
(膀胱の容量が夜間のみ少ない場合と、昼夜共に少ない場合があります)
▼ 混合型・・・「多尿型」と「膀胱型」の両方の要因があるものです。
治療としては、先ず身体的原因がないかを検査します。
もし、そのような原因であればそちらの治療を行います。
身体的原因がない場合は
①薬物治療
②行動療法
③心理療法
④生活指導
⑤アラーム療法
⑥低周波電気刺激療法等 などが行われます。
簡単ではありますが、以上が現代医学から診た「夜尿症」の説明になります。
次に中医学から診た「夜尿症」の説明に入りましょう。
☆☆中医学から診た夜尿症☆☆
** 初めに ** 中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。
それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては、非常に難解で馴染みづらいものであります。
そこで、先ず、中医学による夜尿症の説明を読まれる前に、当HPの「わかる東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。
これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかる東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さいませ。
さてここでは、中医学による夜尿症を理解するために、「わかる東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。
☆ 夜尿症を理解するために必要な基礎知識☆
《陰陽》
陰陽の概念については既に皆さんはイメージが出来ていると思いますので、ここでは主に遺尿に関係のある陰陽の分類について紹介します。
○ 「気・血・水」
気血水も陰陽に分類することができるのです。
「気」は陽に属し、「血」と「水」は陰に属します。
○ 「昼・夜」
昼が陽に、夜が陰に属します。
《気》
「気」は「血」と「水」と伴に、人体を構成する基礎物質であり、健康な身体は「気・血・水」が適量 でスムースに流れていなければなりません。
ところが何らかの原因により「気」が不足を起こすことがあります。
この状態を「気虚」といいます。
「気」とは一種の生命エネルギーで各々の臓腑が持っているものなので、各臓腑ごとに気虚を起こします。
遺尿の原因には腎の気の不足(腎気虚)・脾の気の不足(脾気虚)・肺の気の不足(肺気虚)などがあります。
《臓腑》
臓腑とは内臓のことでした。
中医学で考える内蔵の働きと、現代医学のそれとはだいぶ違いがあることはもう皆さんはご存知のことと思います。
ここでは夜尿症に深く関係のある臓腑について少し説明してゆきます。
先ず、各臓腑の説明に入る前に、中医学が考える人体内の水液代謝と、それに関わる臓腑について説明します。
水液代謝についても、中医学独特の考え方をしますので、皆さんの常識は一度封印してこれから先をお読み下さい。
①、 口から入った飲食物(水分)は胃に送られ小腸に送られます。
②、 小腸は運ばれてきた飲食物(水分)を人体に必要な物と不必要な物に分けます。
その後、必要な物は脾に送られ、不必要な物の中で水液は膀胱へ、そうでない物は大腸へ送られ、排出されます。
③、 脾は小腸から送られてきた体に必要な物から有益な水液を吸収し肺へ送ります。
④、 肺は送られてきた水液を全身へ行き届かせます。
肺は身体の中では比較的上の方にありますので、水液を全身へ行き届かせるには都合がよいのです。
⑤、 全身を巡ってきた水液は腎臓に集められます。
そこで再利用出来る物は再吸収し、再度肺に戻します。不要な物は膀胱に送ります。
⑥、 膀胱へ送られてきた不要な水液は尿に変えられ排出されます。
また、膀胱へ運ばれる前の不必要になった水液は汗として排出される場合もあります。
これが大まかな体内の水液代謝の流れになります。
このように体内に入った水液は必要な物は再利用され、不必要な物は汗や尿として排出されます。
水液代謝に関わる主な臓腑は今の説明に出てきた脾・肺・腎が主役となり、それを補助する臓器として三焦(さんしょう)・膀胱・肝・心などが関与してまいります。
三焦とは、水液が流れる通路みたいなもので、現代医学には存在しない物です。
それでは次に各臓腑について説明してゆきましょう。
<腎>
腎は夜尿症にとってとても繋がりの深い臓器ですので、しっかりイメージを作ってください。
腎は「水を主る」と言われ、体内の水液代謝には大切な臓器です。
腎は全身を巡ってきた水液を必要な物と不必要な物にわけ、それらを吸収して肺に戻したり、膀胱へ送ったりしています。
更に、先程説明した水液代謝は全て腎の気化作用によって保たれております。
そしてこの気化作用を支えているのが腎陽というものです。
これは、腎の働きを「陰」と「陽」で分けた場合の「陽」の働きを指すことばで、身体を温める働きである「温煦作用」をさします。
ですから体内の水液代謝は腎の「温煦作用」によって支えられていると言っても過言ではありません。
そういったことから『腎は水を主る』と言われるのです。
この他に腎は「蔵精を主る」と言われます。
精とは広義の意味と狭義の意味がありますが、広義の精とは人体を構成し人体の各機能を支える基礎的な物質であります。
簡単に説明すると生きるために必要なエネルギーとイメージして頂ければよいかとおもいます。
狭義の精は生殖や発育を主ります。
精には「先天の精」と「後天の精」の2つがあります。
「先天の精」は両親から受け継ぐ精です。
ですから、赤ちゃんが母親から生まれ出た時にはしっかり赤ちゃんの身体の中に蔵されております。
それに対して「後天の精」は、飲食物から作られます。
これらの精は腎で貯蔵されますので、腎は「蔵精を主る」といわれるのです。
そして腎の中に蔵されている精を「腎精」と言います。
ところが、生まれつき「先天の精」が通常より少なく生まれてくるお子さんがいます。
この様な状態を「先天不足」といいます。
「先天不足」は腎の機能低下を起こすことがあり、これにより腎陽が不足して遺尿が起きることがありますので覚えておいてください。
又、腎は「骨を主り髄を生じる」と言われます。
先程説明した腎精には髄を生じる作用があります。
髄は骨を滋養しておりますので、腎精の不足は骨の滋養不足をまねきます。
さらに骨髄の不足は「腰膝酸軟腰(ようしつさんなん)」といって、腰や膝をだるくさせたり、痛みを生じさせてしまいます。
ですから腎は『腰の府』とも言われております。
さらに髄は「骨髄」と「脊髄」に別れます。「脊髄」は脳とつながります。
中医学では脳は髄が集まっていると考えます。
ですから、腎精の不足は知能にも影響を及ぼします。
<膀胱>
膀胱の主な生理作用は貯尿と排尿です。
膀胱の「気化作用」により尿は体外に排出されます。
「気化作用」は細かく分けると、「気化作用」と「制約作用(約束)」にわけられますが、通 常はこれらをひとまとめにして「気化作用」と言ってしまいます。
膀胱が失調を起こした場合、「気化作用」が失調を起こすと、排尿困難・排尿障害・尿閉といった症状が現れ、「制約作用」が失調を起こすと頻尿・失禁といった症状が現れます。
いずれにしても膀胱の機能が正常に保たれるのも、腎陽の温煦作用と水液調節作用の助けが必要です。
ですから腎の失調は膀胱の機能失調を起こし遺尿の原因になります。
<脾>
脾の主要な生理作用として「運化作用」と「昇清作用」があります。
【運化作用】
「運化作用」の『運』は転運輸送で、『化』は消化吸収を意味します。
つまり、飲食物から栄養分を吸収して、栄養分を全身へ運ぶ作用です。
先程説明した水液代謝の説明をもう一度思い出してみましょう。
飲食物は口から胃を通り小腸に運ばれます。
小腸では身体に必要な物と不要な物が分けられ、必要な物は脾に運ばれます。
脾はそこから有益の物を吸収して肺へ送り、肺から全身へと送られ、腎へ集められていました。
これらの口から始まって腎までの一連の流れが「運化作用」です。
脾の主要な生理作用は運化作用ですから、脾はこれらの働き全てを管理しているのです。
「納得できない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、中医学の臓腑の捉え方は現代医学のそれとは違い、臓腑を物体として見るのではなく、働きに注目しているのでこの様な考え方ができるのです。
又、運化作用は栄養分を吸収する働きがありますので、脾が損傷してしまうと気血を作る能力が低下してしまい、気血の生成不足をまねきます。
その他の運化作用の失調の症状は、食欲不振・下痢・軟便・むくみ・などが現れます。
【昇清作用】
先程の説明にあったように脾は小腸から送られてきた必要な物から、有益の物を吸収して肺へ送っておりました。
肺へ有益な物を持ち上げる作用が「昇清作用」です。
「昇清作用」が失調を起こすと、有益な物が肺まで持ち上げることが出来なくなってしまい、めまい・ふらつき・などが起こります。
又、「昇清作用」の失調が原因で起こる遺尿もありますので覚えておいてください。
因み、この持ち上げる作用には、臓腑や器官を正常な位置に保つ作用もあります。
この様な場合は「昇提作用」と言い、「昇提作用」の失調は胃下垂や脱肛などが現れます。
<肺>
肺の作用の中で遺尿に関係する作用は、『宣発作用』『粛降作用』『水道通 調作用』『治節』と沢山あります。
【宣発】
「宣発」とは宣布・発散の意で、広く発散させ行渡らせるという意味です。
水液・栄養物・気や濁気などを全身へ散布することです。
この働きにより脾から送られてきた、有益な水液は宣発作用によって全身へ散布されるのです。
又、濁気や汗もこの働きによって排出されます。
宣発作用の失調は、皮膚の乾燥・抵抗力低下・疲れやすい・各種の機能低下・汗が出ない・などの症状が現れます。
【粛降】
「粛降」の「粛」は清粛・粛清を意味し、「降」は下降を意味します。
粛降とは気や水液などを下部に輸送する作用です。
肺の宣発作用によって散布された有益な水液は粛降作用によって全身へ渡り腎へと送られます。
粛降作用の失調は、腎に気が届かなくなったり・不要な水液が体内に溜まったり・むくみ・息切れ・疲れやすい・尿量 減少・汗が止まらない・などの症状が現れます。
「肺は宣発・粛降を主る」と言われ、宣発・粛降といった作用を用いて水液や気を全身へ巡らせております。
【水道通調】
「水道」とは、先程水液代謝で説明した、脾→肺→全身→腎→膀胱→排出 といった一連の流れの全通 路を指します。
「通調」の「通」は疎通を意味し、「調」は調節を意味します。
肺は先程の宣発・粛降といった作用を用いて水道の流れがスームースに流れるように調節しております。
このことを「水道通調」といいます。
水道通調の失調は、むくみ・汗が出ない・といった症状が現れます。
【治節】
治節とは管理・調節を意味しますので、色々な働きがあります。
その中で遺尿に関係のある働きとしては、先程説明した「宣発・粛降」の作用により、水液の輸布・運行・排泄の管理・調節を行っております。
〈肝〉
肝の主要な生理作用に「疏泄を主る」があります。
【疏泄機能】
疏泄の「疏」は流れが通るの意で、「泄」は発散・昇発の意があります。
「疏泄」とは、全身の気を順調に運行させる・精神状態を安定させる・消化の補助・などの働きを言います。
ですから、「肺」の生理作用で説明した「水道通調」も疏泄の力を借りています。
【肝の特性】
肝は五行学説*では「木」に属します。木はのびやかに枝を伸ばします。
ですから、肝はノビノビとした状況や秩序のある状況を好みます。
逆を言えば物事が秩序よく進まない状況などを嫌います。
もしこのようなストレスにさらされると肝は損傷を受けてしまいます。
肝が損傷してしまうと、先程説明した疏泄機能の低下がおこりますので、様々な症状が現れてきます。
(五行学説*:「わかる・東洋医学理論」の五行学説の説明を参照してください)
<三焦>
三焦は現代医学にはない概念ですので、最初は理解するのに抵抗があるかもしれません。
三焦とは体内にあり、体内の水液や気が流れる通路とイメージして下さい。
あえて現代医学に例えると、リンパ管・汗腺・涙腺・といったような物ですが、全く同じ物ではありません。
<心>
心の主要な生理作用としては、「心は血脈を主る」と言い、全身の血液運行の原動力になります。
遺尿に関係のある作用としては「心は神を蔵す」と言い、心は精神活動の統括をしております。
「神」とは精神・意思・思惟活動を指し、血によって栄養されています。
何らかの原因で「心」へ血が巡って来ないと「神」が栄養されず、精神疲労や精神不安などがおこります。
《経絡》
経絡については「わかる・東洋医学理論」で説明されております。
その中に正経12経と言われる経脈がありました。
これは経脈の中でも特に重要なもので、それぞれ一対の臓腑と深い関係のある経脈でした。
遺尿に特に深く関係する経脈が正経12経の中にあります。
それは、肝と関係のある経脈で「足厥陰肝経」と言う経脈です。
足厥陰肝経のルートは陰部を通りますので、外邪*がこの経脈に入ると膀胱まで外邪を運んでしまい遺尿が起こることがあります。
(外邪*:「わかる・東洋医学理論」の病因を参照してください)
《病因》
病因についても「わかる・東洋医学理論」で説明しております。
病因には、様々なものがありましたが、この中で遺尿に関係があるのは、「湿熱・飲食不節・情志の失調」があります。
湿熱の場合は2通りあり、外因によるものと、飲食不節によって体内で生まれるものがありますので、先ずは外因による湿熱から説明してゆきましょう。
【外因による湿熱】
湿熱とは外因に含まれていた湿邪と熱邪が合わさったものです。
遺尿の場合はこの湿熱が体内に入り、更に足厥陰肝経に入り膀胱へ達して遺尿をおこします。
【飲食不節】
飲食不節に含まれている「肥甘厚味」「過食辛辣」「過度の飲酒」は体内で湿や熱を生みます。
飲食物は胃で受納され、脾は運化を主りますから、飲食不節によって生まれた湿熱を「脾胃湿熱」と言います。
こうして体内で生まれた湿熱は外因の湿熱同様に足厥陰肝経に入り込みます。
【情志の失調】
情志の失調は病因の中の内因で説明されております。
遺尿については、特にストレスなどの情志の抑鬱状態が原因となります。
肝の特性で説明いたしましたが、肝はストレス状態にさらされると損傷しやすい臓器です。
このことが遺尿の原因になることがあります。
さて、予備知識もだいぶ頭に入ってきたところで、「夜尿症」についての説明に入りましょう。
☆夜尿症について☆
中医学では夜尿症のことを、現代医学同様に「遺尿」又は「尿床」といいます。
中医学の「遺尿」とは、お子さんが夜間睡眠中に尿をもらし、目覚めてからそれに気付くものをいい、満3歳以上のお子さんを対象とします。
3歳~10歳位に多くみられるようですが、場合によっては成人まで引きずることも稀にあります。
(3歳未満のお子さんの夜尿は、知能・臓腑・気血・経脈が未発達のために、排尿制御能力の不足や、正常な排尿習慣がついていない為であるので、病態には属しません。又、就寝前の水分の過剰摂取や過労などによる夜尿も属しません。)
遺尿はその病因・病機により下記の3つに分類できます。
Ⅰ、腎の気の不足によるもの
Ⅱ、肺と脾の気の不足によるもの
Ⅲ、肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの
では、この分類別にそれぞれ病因・病機・弁証・症状・治療の順に説明してまいります。
Ⅰ、【腎の気の不足によるもの】
《病因・病気》
腎気の不足により膀胱が温煦されず、起こる遺尿です。
先ず、膀胱の働きを思い出してください。膀胱は小便の排尿や貯留を行っておりました。
そして、その機能は腎陽によって温煦されることで維持がされておりました。
病後や先天不足*又は虚弱体質などにより、腎気の不足が起こりると、それに続き腎陽**の不足が起こります。
昼と夜を陰陽で分けると、夜は陰に属します。
したがって夜は陰が主り、陽気は体内に納まる時間帯です。
しかし、この時に腎陽が不足していると膀胱は温煦されず、制約機能が失調すると遺尿が起こります。
(先天不足*・腎陽**:腎の説明を参照してください)
《弁証》
腎気虚証、又は腎陽虚証
《症状》 |
|
〈主症状〉 |
|
◎ |
尿量は多く、回数は1~数回・・・・腎気虚のため腎の固摂作用*と温煦作用が失調して起こります。 |
◎ |
冬季や寒冷によって症状が増悪する・・温煦作用が低下しているためです。 |
◎ |
疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。この場合は腎の気の不足の為に起こります。 (固摂作用*:わかる東洋医学理論の気の説明を参照してください) |
<随伴症状> |
|
○ |
顔色が白い・精神疲労・気力がない・下肢に力が入らない・寒がり・手足の冷え・・・陽気の不足により陽気(清陽)が全身に行き渡らなくて起こります。 |
○ |
知能遅れ・・・・・先天の不足*が脳に影響を及ぼしていると起こります。(詳しくは腎の説明を参照してください) |
○ |
腰に力が入らない・・・腎は「腰の府」でもあり、骨とも関係がありました。 腎虚によって起こる症状です。 (詳しくは腎の説明を参照してください) |
<誘発素因>
熟睡すると尿意に気付かない
《治療》
治法・・・・「補益腎気」「温固下元」といい、腎の気を補充して腎陽を高め、温煦機能を改善し、これにより膀胱を温煦し、膀胱の制約作用を促す治療を行います。
Ⅱ、【肺と脾の気の不足によるもの】
《病因・病機》
体内の水液代謝に関わる臓腑の主役は『脾・腎・肺』でした。
その中の脾と肺の機能が失調して起こる遺尿です。
大病や長期にわたる病気は、脾の気を損傷させてしまうことがあり、この状態を脾気虚といいます。
脾気虚になると脾の機能低下が起こります。
脾の作用の中には昇清作用といって、身体に有益な物を肺に持ち上げる作用がありました。
昇清作用が低下してしまうと、肺に持ち上げられるはずだった、身体に有益な水液が肺に運ばれなくなり、下部へ落ちて行ってしまいます。
更にこの場合は肺も失調を起こしていますので、肺の作用であった治節機能*が低下してしまい、膀胱の働きである制約作用を失調させてしまい遺尿が起こります。
(詳しくは脾・肺・膀胱・及び水液代謝の説明を参照してください)
(治節機能*:肺の生理作用の説明を参照してください)
この場合は、脾気虚と肺気虚が原因ですから、気虚に属します。
陰陽のところで説明しましたが、気は陽に属します。
したがって、気虚は陰盛を引き起こしますので、陰を主る夜に遺尿が起こります。
≪弁証≫
肺脾気虚証
《症状》 |
|
〈主症状〉 |
|
◎ |
排尿回数は多いが量は少ない・・・この場合の腎は正常であるので腎気虚による遺尿に比べると尿量 は少ないです。 |
◎ |
疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。 |
<随伴症状> |
|
○ |
顔色が黄色い・精神疲労・気力がない・・・脾気虚により運化作用の低下がおこり、気血の生化不足が起きてしまい、更に肺気虚により宣発・粛降作用の低下も起き、気血が、顔・心・四肢・に巡らず栄養できなくて起こります。 |
○ |
食欲不振・軟便・・・・・脾気虚により運化作用が低下して起こります。 |
○ |
息切れ・話す事さえ億劫・多汗・・・・気虚の特徴です。 |
《治療》
治法・・・・補益肺脾・昇陽固摂・・・・肺と脾の気を補して治節機能や昇清作用の改善し、膀胱の制約作用を促す治療をします。
Ⅲ【肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの】
〈病因・病気〉
肝の生理作用をもう一度思い出して見ましょう。
肝の「疏泄機能*」は肺の「水道通調**」を補助しておりました。
又、肝はストレスなどの「情志失調」で損傷され易い臓器でした。
ストレスなどが原因で「情志失調」が起こると、肝が損傷され「疏泄機能」が低下をいたします。
すると、「疏泄機能」の補助がなくなってしまった「水道通調機能」も低下を起こし、結果 的に膀胱の制約機能が低下し、遺尿を起こします。
又、「情志失調」の他にも、外邪の湿熱や、飲食不節により生まれた「脾胃湿熱」が「足厥陰肝経」に入り込む場合があります。
湿熱はその特性から経絡の中の気血の流れを阻滞させます。
「足厥陰肝経」は肝と深く関係しますので、気血の阻滞は肝の機能に影響を及ぼしてしまいます。
これにより肝の「疏泄機能」の低下が起こることもあります。
更に、「疏泄機能」の低下は気血の流れの滞りを助長させてしまうことになり、経脈に入り込んだ湿熱を化火させてしまいます。
先程も説明いたしましたが、「足厥陰肝経」は陰部や膀胱を通りますので、化火した火熱が膀胱に注がれてしまいます。
すると膀胱の制約作用が低下して遺尿が起こります。
(疏泄機能*は肝の、水道通調**は肺の、生理作用を参照してください)
≪弁証≫
肝経湿熱証
《症状》 |
|
〈主症状〉 |
|
◎ |
回数も尿量も少ない・・・・疏泄機能の低下のためです。 |
◎ |
小便が黄色く鼻をつく強い臭いがする・・・熱が膀胱へ入っているために熱症の特徴です。 |
<随伴症状> |
|
○ |
歯ぎしり・怒りっぽい・・・・肝の気が抑鬱状態により渋滞を起こし、さらにそれが熱化してしまうと、肝火がうまれてしまいます。 自然界と同様に熱は上に昇る性質がありますので、肝火の熱が上部にある「心」へと昇り、「心」に蔵されている「神」へ影響を及ぼします。 「神」が影響をうけると、精神不安などの症状が現れます。 (詳しくは「心」の生理作用を参照してください) |
○ |
顔・唇や目が赤い・・・・・・熱が顔まで昇ってきて起こります。 |
<誘発原因> |
|
○ |
情志の抑鬱や緊張すると症状が悪化する・・・この病証は肝に関わるものなので、肝に影響を及ぼす要因により症状は悪化します。 |
<治療>
治法・・・清肝利湿・・・・肝の疏泄機能を高めると伴に、「足厥陰肝経」に入り込んだ湿を体外に排出します。
以上が中医学的「遺尿」の説明になります。
現代医学とではだいぶ違った発想で、人体や疾患を捉えているのがおわかりになったかと思います。
現代医学と違う発想だからこそ病院で治らなかった疾患が中医鍼灸で治ることがあるのです。
そしてもう1つ、おそらく皆さんは中医学的な説明を読まれて、「遺尿」に対してこれだけ分類をするとは思わなかったと思います。
これが「わかる・東洋医学理論」で説明している『弁証』です。
中医学は疾患を診ているのではなく、患者さんの身体の「気血水」のバランスの崩れを診ているということが少しでも理解していただければ幸いです。
又、同じ「遺尿」であっても、弁証が違えば、使用するツボや処方される漢方薬も違ってきます。
これも又「わかる・東洋医学理論」で説明している【理・法・方・薬(穴)】という大原則です。
最近、東洋医学ブームとかで、様々なメディアで東洋医学が取り上げられており、「この疾患にはこのツボが効く!」とか、「この疾患にはこの漢方が効く!!」とか言っておりますが、本来の東洋医学(中医学)はそれほど短絡的なものではございません。
さて、次は予防についての話をいたしましょう。
予防については、特に現代医学や中医学といった括りはせずに紹介したいと思います。
☆予防☆ |
|
① |
お子さんの準備が出来ていないのにトイレ・トレーニングは避けましょう。 |
② |
寝る前に水分を控える。(水分摂取は就寝の2時間半前に)・・・・現代医学の分類で [多尿型・混合型]のタイプに分類されたお子さんは気を付けてください。 特に夕食後や入浴後の過剰な水分摂取には気を付けましょう。 水分摂取は、朝・昼は多く、夕方から減らすようにしましょう。 |
③ |
塩分摂取量を控える ・・・・これも上記と同様に [多尿型・混合型]のタイプのお子さんは気を付けてください。 |
④ |
排尿をこころもち我慢させる・・・・[膀胱型・混合型] のタイプのお子さんの予防法です。 これは排尿抑制訓練と言い、膀胱容量を大きくする訓練ですが、決して無理はさせないで下さい。 |
⑤ |
規則正しい生活リズムの確立をしましょう。 |
⑥ |
遅めの食事はやめましょう。 |
⑦ |
身体を冷やさないようにしましょう。 |
☆治る時期の予想☆
夜尿症の重症度は、その時間帯である程度わかると言われており、重症度から治る時期もある程度わかると言われております。
参考までに簡単に紹介しておきます。
寝入後すぐ・・・・5~6年後
夜中・・・・・・・3~4年後
朝方・・・・・・・1~2年後
以上になります。
これはあくまでも平均的な数字であり、個人差はありますのでご了承下さい。
☆夜尿症に効くと言われている民間療法☆
昔から伝わる民間療法や家庭薬の中には、ほとんど薬効がなくおまじないや迷信といっていいものもから、驚くほど効力があり、且つ科学も認める物まであります。
しかしながら、これらの効力の高い家庭薬は材料の入手が困難であったり、手間がかかるものも少なくありません。
ですから、ここでは入手も容易で、手間も出来るだけ掛からないものを紹介したいと思います。
(尚、出来るだけ数多くの情報を提供したいと思いますので、レシピについては省かせていただきます。もし、興味のある方はご遠慮なさらずに質問をお寄せくださいませ。)
*イタドリ*
道端や山野に自生する多年草です。
イタドリの根は利尿効果がありますので、根を煎じたり、黒焼きにして飲ませます。
*乾燥柿のへた*
乾燥柿のへたは夜尿症やしゃっくりに効果があります。
柿の種類は問いません。煎じて飲ませます。
*渋柿エキス*
渋柿エキスは脳卒中予防・夜尿症・しゃっくり・などに有効です。
渋の強いものほど効果的です。
=お茶=
「医食同源」と言う言葉は皆さんもご存知のことと思いますが、中国には「医茶同源」という言葉もあります。
お茶にも薬効があり、飲み方によってお茶は薬にもなるのです。
中国では、季節・体質・精神状態に合わせてお茶を選んで飲むことによって上手に体調を整えています。
今回は利尿効果のあるお茶を紹介しましょう。
*はとむぎ茶*
利尿効果の他に、皮膚の老廃物を取り除いてくれたり、胃腸を丈夫にしてくれたりします。
*スギナ茶*
高い利尿作用があります。
又、うがい薬としても使えます。因みに皆さんがよくご存知のツクシはスギナの子供です。
☆遺尿の注意点☆
最後に夜尿症についての3原則を紹介します。
夜尿症の3原則は『あせらず』『しからず』『おこさず』です。
夜尿症は『あせって』も治りません。
殆んどのお子さんが自然治癒いたしますので、おおらかな気持ちで対応しましょう。
『しかる』のは逆効果です。絶対に叱ってはいけません。
夜間にお子さんを『起こして』排尿させるのは、夜尿症を治すのに逆効果 になる場合がありますので、注意して下さい。
身体的原因がない夜尿症は、お子供さんの健康に何ら影響はありませんし、自然に治ることが多いので、ご家族の皆さんは必要以上に心配なさらないで下さい。
しかし、「おねしょ」が長期化すると、お子さんの精神衛生にも大きく影響する場合があるので、長期化するようであれば十分注意が必要です。あまり長引くようであれば、専門医への受診をおすすめいたします。
目安としては、4~5歳位までの「おねしょ」は心配しないで大丈夫でしょう。
6歳を過ぎても「おねしょ」が続くようであれば、適切な対応をされた方がよいと思います。
通常、大部分のお子供さんは何らかの治療に反応します。
以上で「夜尿症」についての説明を終わらせたいと思います。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【外科・整形外科・皮膚科疾患】インポテンスについて1
インポテンス(ED)について
皆さんの中には、自分や自分のパートナーは『インポテンス(以下ED)』にかからないと思っている方も多いと思います。しかし、先ごろアムステルダムで開催された「世界インポテンス研究会議」の数字を見てみると、日本のEDの患者数は約700万人と公表されております。これは世界的にみても高い発症率だそうです。そして日本の40歳以上の約三分の一強が中程度のEDだそうです(中程度のEDとは時々は勃起ができ維持できる程度。因みに、米国では8人に一人が慢性のEDということです)。
しかも、現在の日本ではED患者の若年化がおきているといわれております。
SEXは自分たちの遺伝子を次の世代へ残すという以外にも様々な意味でとても大切な行為です。ところが、この行為が成立しないとゆうことは本人ばかりではなく、パートナーにとっても重大な問題です。しかも、誰にでも簡単に相談ができる疾患ではありませんので、いつしか自分達だけで悩んでしまい精神的重圧も高くなり、更に悪い方向に進んでしまい悪循環に陥ってしまうケースも少なくありません。実際にどの国の調査結果 をみてもEDを訴えていても実際に医師の治療を受けた人は半数に満たないそうです。
▼ インポテンス(ED)ってどんな病気?▼
まずはEDについて現代医学(西洋医学)ではどのように捉えているのか簡単に説明してゆきたいと思います。
○概念○
≪定義≫
『満足のいく性交為をするために陰茎を勃起させ、尚且つ、その状態を持続する能力の欠如』となっています。又、日本性機能学会の定義だと、『性交の機会の75パーセント以上で勃起が不十分なため挿入が不可能な症状』としています。つまり、SEXの機会が4回あるうちの3回が勃起不十分な状態というわけです。
現代医学ではEDを幾つかに分類していますので、その分類を紹介します。
≪分類≫
分類法もEDの捉え方によって幾通りかあります。
<分類1>
代表的な分類です。
1.機能的インポテンス
勃起能力は正常だが精神的要因などにより十分な勃起が得られないタイプで、おもに心因性のものでEDの症状を訴える患者さんで一番多いパターンです。
2.器質的インポテンス
勃起に関与する神経・血管・ホルモンあるいは陰茎そのものに障害があるタイプで具体的には、外傷などにより神経や脳や脊髄の損傷・薬の副作用などがあり、代表的な疾患では糖尿病・動脈硬化・アルコール依存症・鬱などが挙げられます。
3.混合型インポテンス
機能的と器質的の区別ができなか、両者の混合しているタイプ
4.一過性インポテンス
薬剤使用中などにみられる一過性のタイプ
<分類2>
1.第一度インポテンス:パートナーとは性交できずパートナー以外だと勃起がおこる
2.第二度インポテンス:過去には性交ができていて現在は不可能なタイプ
**第一度の治療は困難で、第二度は一度に比べれば治療は容易です。
<分類3>
1.一次性(原発性)インポテンス:生来一度も性交が出来たことのないタイプ
2.二次性(続発性)インポテンス:従来は可能であったものが不可能になったタイプ
幾つかの分類を紹介したところで、次に勃起の仕組みと、それに必要な条件を簡単に考えてみたいと思います。
○ 勃起の仕組み○
勃起には性的興奮を伴う性的勃起と性的興奮を伴わない反射的勃起がありますが主に性的勃起について説明をします。
性的興奮の条件に適した刺激を与えられた脳は性的興奮を起こし、陰茎に勃起の命令を出します。この興奮に必要となるのがホルモンです。次にこの命令が中枢神経を伝わりペニスに血液を送るための筋肉を緩めます。この筋肉は弁構造となっており、この弁が開くことによりペニスを構成しているスポンジ状の海綿体へ血液が流入して勃起状態となります。海綿体に流入した血液は静脈を通 じて海綿体から流出するわけですが、構造上海綿体に血液が充満した状態では静脈は圧迫を受け、弁の作用をして勃起の維持の補助をすることになります。更に陰茎からの刺激は求心性に神経を介してお尻の骨(仙髄)に伝わり、遠心性の神経に乗り換えて再度陰茎の血液系に伝わり勃起の維持を行います。
簡単ですが勃起のメカニズムを紹介しました。次に上記をふまえて勃起に必要な条件をまとめてみましょう。
○勃起に必要な諸条件○
1.情緒的な状態
男性の勃起に対する精神的な条件は個人差がありますが、かなりデリケイトです。女性の発した一言や、ちょっとした態度でも影響します。意外と女性が考えている以上にデリケイトだったりします。
2.正常なホルモン分泌機能・適切なホルモン状態
脳の性的興奮はホルモンが深く関与しております。ホルモンを分泌させる脳の仕組み(大脳辺縁系・視床下部)とホルモンが正常であることが必要です。
3.正常な中枢神経
脳や脊髄などの神経の中枢です。脳からの指令が伝わる大切な経路になりますので、正常であることが条件になります。
4.正常な陰茎の血行状態
勃起は海綿体に血液が集まっておこりますので、正常な血液状態も条件に入ります。
○危険因子○
EDの危険因子は様々ですので、ここでは代表的なものを紹介します。
* 慢性病
動脈硬化・貧血・高血圧・腎臓病・アルコール性肝機能障害・前立腺肥大・癌・アルツハイマー・鬱病・糖尿病などがあり、日本では糖尿病が特に高い危険因子に挙げられています。
* 薬物
降圧剤・鬱病の薬剤・H2ブロッカー(胃潰瘍などの薬剤)・ホルモン製剤・非ステロイド性抗炎症薬・精神安定剤・麻薬・放射線治療などが挙げられます。
* その他
外傷・手術・不安・疲労・ストレス・心理的問題・加齢・喫煙・飲酒などがあげられ、日本人のインポテンス患者では喫煙常習者の割合が高値をしめしております。
○治療○
治療はEDの原因となってる要因の改善になります。
皆さんも既にご存知のようにEDの原因は様々ですから、治療法も多種にわたってしまいます。例えば薬剤が原因であれば薬剤の変更・心因的要因であればカウンセリングの受診・喫煙が原因なら禁煙・肝疾患が原因なら禁酒・ホルモン不足が原因の場合はホルモン製剤の投与など様々です。ですから全てをここで紹介するのは不可能なので、通 常病院ではどの様に診察が進められ、どの様な治療法や薬を使用するのか、代表的なものを幾つか紹介します。
まず、入念なカウンセリングが行われ、次に勃起機能検査(視聴覚性的刺激試験)(睡眠時勃起検査)・男性ホルモンの数値・血管の状態・神経の伝達の状態・睾丸やペニスの状態などの検査が行われます。そして具体的な状態を把握した上で、患者さんに一番適した治療が行われます。
次にどのような治療法があるか紹介をします。
まず、器質的なEDについてはペニスの血管を拡張させて強制的に勃起をおこさせる薬剤を注入する方法があります。この方法は直接注射によって薬剤をペニスの根元に注射する方法とスポイトのような器具を使用して尿道口から注入する方法があります。前者の場合薬の効果 の維持時間は2時間位で、基本的に日本では自己注射は認められておりませんから患者さんが医師以外の場合は利便性に欠けます。後者については医師の指導を受ければ患者さん自身で行うことができるという利点がありますが、効果 維持時間は前者の半分位です。尚、怪しい通販などでも同様な注射セットと薬剤が販売されていることがありますが、これらは海綿体へ副作用を起こすおそれがありますので、医師の受診をおすすめします。
又、手術によりシリコンなどの棒を海綿体に埋め込む方法があります。これは「折り曲げ式」や「ポンプ式」等、方式は様々ですが必要なときに任意で勃起をおこすことが可能です。
心因性EDについての治療法は勃起不全をおこすストレスの排除になります。この場合の多くは性交についての不安や緊張が関与してきているので、これらを取り除く治療になります。また、スタフィング・メソドといって勃起が不十分な状態で陰茎を膣に挿入する方法があります。この場合はシリコン製の挿入の補助具が使用されます。その他にはノン・エレクト法と言って、パートナーに性交を拒絶されると余計に性欲願望がたかまる、という心理を利用して勃起を誘発させる治療法もあります。
経口薬としては「塩酸トラゾル」「ビタミン剤」「ホルモン製剤」などがあり、有名なところでは「バイアグラ」や「レビトラ」などがあります。
EDの治療法を簡単に紹介しました。
以上が現代医学から診たEDの説明になります。
つぎは中医学(東洋医学)の視点からの説明にはいります。
今回は『インポテンス』を通して、できるだけ皆さんに中医学の病気の捉え方や、治療方針の立て方から治療にいたるまでをイメージしていただけるように説明してみたいと思います。
▼中医学の生理観について▼
中医学も現代医学と同様に医学です。医学である以上そこにはしっかりとした学問体系や理論が存在します。医学には正常な身体の状態を考える『生理観』(現代医学では生理学や解剖学など・中医学では臓腑学や経絡経穴学など)というものがあり、その上に病気の成り立ちを考える『病理観』が存在します。つまり、病気を理解するためには、まず正常な身体の仕組みや構造を理解しなければ病気を理解することは出来ません。ですから、まずは中医学の生理観を理解しないと、中医学から見た病気の説明をしても殆んど理解することは出来きません。しかし中医学の生理観は現代医学のそれとは全く異なった考え方をし、とても奥深いものですので、とりあえず今回はEDに関係するものだけにしぼって説明をさせていただきます。
≪気・血・水≫
中医学では人の身体は「気」「血」「水」の三つの物質により構成されていると考えます。そしてこれらが多くも少なくもなく適量 で、且つスムースに流れてこそ健康でいられると考えます。では、「気」「血」「水」についてもう少しだけ説明してみましょう。
<気>
気の主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。ここでその全てを説明することは不可能なので、失調をしてしまうと陽痿の原因になってしまう働きのみを説明します。
「推動作用」
推動とは「推進」「促進」の意味があります。推動作用とは臓器組織の活動の促進や「気・血・水」の流れを促進させる作用です。先程、健康な人は「気・血・水」がスムースに流れていると述べましたが、これら「気・血・水」をスムースに流す働きをしているのが推動作用の一つになります。又、各臓器が通 常の働きができるように臓器組織の活動の促進をしているのも推動作用の一つになります。もし、推動作用が失調をしてしまうと各臓器の活動性の低下が起きたり、「気・血・水」や不要な水液がスムースに流れなくなって停滞を起こしてしまいます。又、気が停滞してしまうことを「気滞」といいます。例えばストレスなどを受けると肝の気が停滞を起こすことがあります。肝の気が停滞を起こしている状態を『肝鬱』と言い陽痿の原因の一つになります。
「気化作用」
気化作用とはものを変化させる作用です。例えば食べた物を「気・血・水」に変化させています。もし、気化作用が失調してしまうと「気・血・水」が作れなくなってしまったり、余分な水分を気化することができないため不要な水液が生まれてしまったりします。
<血>
血の主な作用は各器官を栄養しています。また、精神活動の栄養源でもあります。ですから血が充実していれば情緒も安定していられます。
<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。
主な作用としては身体の各部所に潤いを与えます。津液が体内をスムースに循環できるのは主に「脾」「肺」「腎」「肝」の働きと「気」の推動作用によるものです。これらの働きが失調してしまうと、津液がスムースに流れなくなってしまい停滞を起こします。この状態を水湿証といい、水湿が寒性に傾くと寒湿と言い、水湿が熱化してしまい熱性に傾いた状態を湿熱と言います。この湿熱は陽痿の原因となります。
《精》
『精』とは生命の根本をなすもので、両親から受け継ぐ「先天の精」が、生後飲食物から作られる「後天の精」の滋養をうけて形成されます。『精』の作用は性行為・妊娠・出産といった性機能や生殖機能に関与します。又、成長・発育を促進する働きもあります。『精』は「腎」に蓄えられています。そのことから「腎精」とも呼ばれています。
次に陽痿と関係のある臓器について説明をしたいと思います。
《腎》
腎は水液代謝・呼吸・排尿・生殖・成長・発育などに関与します。この中で陽痿と関係が深い働きとしては、生殖・成長・発育の促進があります。
「精」のところでも述べましたが「精」は腎に蓄えられており、性機能や生殖機能に関与し、成長や発育を促進する働きもあります。腎に蓄えられていることから「腎精」とよばれています。「腎精」が充実していると成長・発育し、「腎精」が衰えると老化が始まります。この過程で「腎精」がある一定の量 に達すると精子が作られたり排卵がおこり、性欲が出てきます。ですから「腎精」の不足は陽痿の原因の一つになります。
腎には腎陰と腎陽があります。これらは相対する意味で用いられる言葉です。腎陽は「命門の火」とも呼ばれ各臓器・組織器官を温煦する作用があります。そして身体を温めて水液を蒸化し生殖・成長発育の促進の機能をしております。したがって腎陽の不足は陽痿をまねきます。
腎陽と腎陰は互いに依存しあい転化しあっています。したがって一方の不足は、やがてはもう片方の不足をまねきます。また、腎精は腎陰に属しますので、何らかの原因で腎精の不足が起きれば腎陽の不足に繋がります。
《心》
心の陽痿に関わる主な作用としては、血を全身のすみずみまで循環させる働きがあります。血の作用は、先程も述べましたが各器官を栄養することです。心の作用で血が全身へ循環されて各器官は栄養されることができるのです。その他には「心は神明を主る」と言われ、感情・思考・意思・判断などの精神活動全てを統括しています。ですから、心が充実していれば情緒は安定していますが、心が失調をおこすと不安感・不眠・などの症状があらわれます。
《脾》
脾の陽痿に関わる主な作用としては「運化作用」といって、飲食物を消化吸収して「気」や「血」を作りだし肺や心に送り、残りかすは大腸に送る働きがあります。もし、「運化作用」が失調すると食欲不振・軟便・下痢・むくみ、などがあらわれます。又、「脾は思を主る」といわれ、思考・記憶・集中などを統括しています。ですから思い悩みなどの精神の消耗は脾気を損耗させてしまいます。
《肝》
肝の主な働きとしては全身の「気」の運行・精神の安定・血の貯蔵・筋や目の生理機能の維持などがあります。この中で陽痿に関与する働きは「気」の運行・血の貯蔵・筋の生理機能の維持になります。
全身の「気」を順調に流す働きのことを「疏泄作用」といいます。「肝」はこの「疏泄」の働きをしています。肝は五行説では「木」に属し、疏泄条達の性質を持ちます。肝気が条達すれば気血はのびやかであり、疏泄作用は、気の運行・消化・情志の機能がスムースに働かせる助けをします。ですから肝はノビノビしたりスムースで秩序だった状況を好みます。逆を言うとストレスにとても弱い臓器です。もし、ストレスにさらされると「肝」の「疏泄作用」が失調を起こし「気」が停滞を起こします。なかなかイメージがしにくいと思いますので、少し具体的に説明してみましょう。皆さんもイライラしたり怒った時など顔がカッーと熱くなったり、更にひどいとクラクラした経験があると思います。これは、イライラというストレス状態にさらされたことで「肝」の「疏泄作用」が失調をおこし「気滞」が生まれます。次にスムースに流れることが出来なくなった「気」は熱化します。自然界では熱は上昇する性質を持ちますので「気滞」によって生まれた熱は体の中での上部である顔や頭に上ってきます。すると顔が熱く感じます。更に自然界では熱は風を生みます、体内で熱化した気も風を生み、脳が風の影響を受けクラクラした感じがするのです。
なんとなくイメージできたでしょうか?後程《病因》の所でも紹介しますが、中医学の考え方は人の体や病気のメカニズムを自然界にリンクさせて考えます。これは中医学の特徴の一つであり、我々現代医学に慣れ親しんでいる者にとっては理解しがたい部分であるかとは思います。
さて、その他に肝には血を貯蔵する作用があります、この肝に貯蔵されている血を「肝血」と呼びます。そして筋肉の働きはこの「肝血」によって維持されています。ですから「肝血」の不足は筋肉の働きにも影響をおよぼすことになり、筋肉のケイレンや陽痿の原因にもなります。
皆さん、中医学の生理観はご理解いただけたでしょうか?我々が慣れ親しんでいる現代医学の生理観とは大分違っていたと思います。最初はなかなか理解するのは難しかったり、抵抗があったりすると思いますが、生理観の概念が違うからこそ現代医学で治らなかった病気を中医学で治すことができるわけです。
それでは次に生理観の他に中医学の独特の考え方をするものを少しだけ紹介します。これも中医学を理解する上でとても大事な予備知識になります。
《病因》
病因とは病気となる原因のことです。中医学ではこの病因を「外因・内因・不内外因」の3つに大別 します。
『外因』とは身体の外の環境が病因となるものをさします。これらは「風・湿・熱(火)・暑・寒・燥」の6種類ありますが、この中で特に陽痿の病因となるものは「湿」です。
「湿」
湿の特徴は粘り気があり、気の流れを阻害します。また、湿は重いので体の下部を侵すことが多いです(湿邪下注と言います)。例えば、梅雨の季節などに足がむくみやすくなったり、重だるくなったりする方がいます。これは梅雨時期には空気中が多湿になっており、この湿気が体の中に入り込んできておこります。「気」が充実している健康な人であれば、「気の気化作用」の働きにより体の中に侵入してきた湿を追い出すことができますが、「気」の不足を起こしている人は「気化作用」が十分に働かないため、「湿」が体の中に停滞し下部である足に下がってしまいます。すると足が重だるくなったり、むくみが出たりするわけです。
「肝」のところでも触れましたが、中医学はマクロの医学と言われ、体や病気を大きな視点で診てゆきます。例えば人の体も自然界の一部と考えます。これは中医学の独特の考え方で、「天人相合」という、古代中国哲学からきている思想です。ですから、過度な季節の変化などは当然体に大きな影響をおよぼすと考えます。これが「外因」の基本的な考え方になります。
『内因』とは過度の精神状態が病因となるものをさします。これらは「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の7種類あります。これらは七情と呼ばれます。これらの内で「恐怖・驚き」は腎を傷つけ「憂鬱・怒り」は肝を傷つけ陽痿の原因となります。
『不内外因』とは内因・外因のどちらにも属さないものをさします。これらは「不節な飲食・外傷・寄生虫・過労・運動不足」などがあります。特に陽痿の病因となるものは「不節な飲食」が挙げられます。
《実証と虚証》
中医学では病気の状態を大きく実証と虚証に2分します。
『実証』
病因がとても強くて体の防衛力が抵抗出来ずに発症した病気です。例えば、いつも元気な人が強力な風邪のウイルスに侵された場合などがイメージしやすいかと思います。他には食べすぎも実証に含まれます。
『虚証』
「気・血・水」が不足したために病因自体はそれほど強くないのに発症した病気です。例えば、普通 の人には影響の無い程度のちょっとした気候の変化でも体調を崩してしまうような人がおられます。このような場合などが虚証になります。
さて、次は診断について説明をします。
そろそろ皆さんも現代医学と中医学とでは全く違うものであり、中医学にも独特の理論があることがわかっていただけてきていると思います。生理観や病理感が違うのですから当然治療理論についても現代医学のそれとはかなり違う独特の考え方をいたします。
引き続き「インポテンス 2」をご覧下さい。
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