コラム
- 2019/03/11
- 【内科疾患】貧血2~中医学編~
《中医学的考え方》
さて、中医学では貧血をどのように考えているでしょう。
病名としては「貧血」に一致するものはありません。
なぜなら、中医学では人体をみる時、西洋医学のように細かく分析して検査の結果 からみるのではなく、全体をとらえてみますから、血液検査の値だけが異常であるという病気はないのです。
血の不足ということだけで考えると「血虚」に近いのですが、イコールではありません。
血虚は何らかの原因により、「血」が不足したり、働きが悪くなって起きる病態と考えますから、血液検査の値が正常でも「血虚」という状態は有り得るのです。
この話は後半で詳しく述べますが、その前に中医学の根本的な考え方について、簡単にお話しておきます。
中医学では身体のみかたが根本的に西洋医学とは違います。西洋医学では身体を細かく分析し、細胞レベルでとらえますが、中医学では身体を大きく捉えて、小宇宙であると考えます。地球は大宇宙に存在する小宇宙の一つです。これと同じように地球からみれば、身体は小宇宙といえるのです。宇宙に存在するものにはすべて意味があり、無駄 なものはひとつもありません。それぞれが、互いに影響しあいながら、バランスを保ち、大自然の法則に従って動いているのです。人間も同じように体内に存在するものすべてが 重要な意味を持ち、個々の臓器も互いに影響しあいバランスを保って、健康を維持しているのです。
小宇宙である身体を構成し、生命活動の源として働くものは『気・血・水』です。
気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器(五臓六腑)も、うまく働くことが出来るわけです。
それぞれの働きについて、少し詳しく説明していきましょう。
1・「気・血・水」について
「気」というのは、気持ちの気と同じような意味合いもありますが、中医学では、活力という意味であり、血脈の流れを推進し、臓器組織の活動を促進すると考えます。
気という言葉は日常生活の中でも使っていますね。例えば気が短いとかやる気が無い等々。
しかし、気とは何かというと、大抵の人が説明出来ないのではないでしょうか。目に見えないから信じないという人もいるくらいですが、そういう人でも「やる気」が出る事はあるだろうし、「気が向かない」時よりずっと物事が捗るなどという経験はあるでしょう。
中医学では気を大変重要な要素として認識しております。
気にはいろいろな作用があります。
血液の循環をよくする為に血液を押し流して、血流を良くする手助けをしたり、体が冷えないように暖めたり、ウイルスや細菌等が体に入り込まないよう防衛してくれたりしているのが気の作用なのです。
気はいつも充分に体に存在しているわけではなく、普通に生活しているだけでも消耗されてしまいます。
ですから、正しい食事・正しい呼吸をして補う必要があります。気の働きが弱くなった状態を気虚といい、疲れやすい・動くと症状が悪化する・身体が冷える・感染症にかかりやすい等の症状が出ます。
ウイルスや細菌等に感染し易くなり、体が冷えたり、血液の流れが悪くなったりします。
また気はストレス等によって容易に動きが悪くなり、滞ってしまいます。この状態を気滞といいます。
ため息やゲップ、ガスが多い等などの症状がでますし、気が滞ると、血の流れも悪くなり、血の働きにも悪影響がでます。
「血」は西洋医学で言う血液とは違い、広い働きを持ち、全身を栄養する働きだけでなく、精神活動も支えていると考えます。血の不足で起こる症状には、めまいなどもありますが、不眠・不安・などもあります。
また、血が滞ると血オという状態になり、オ血という病理産物が発生します。
オ血は固定性で激しく刺しこむような痛みを起こします。
女性では生理不順や生理痛、生理の出血にレバー状の塊が出る事等があります。
「水」は身体をうるおす水分の事です。これらは飲食から得られ、臓腑で消化吸収して作られていきます。
正常な水分が変化し、停滞すると湿という病理産物を生成してし、体がむくんだり、体が重い、めまい等を起こします。
気・血・水は『経絡』という、人体の上下・内外を貫く道筋によって流れ、全身を栄養したり、臓器の機能を調節したりしています。健康な状態では、経絡は全身を滞る事なく流れています。
気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器もうまく働くことが出来るのです。
2・「五臓六腑」について
五臓とは肝・心・脾・肺・腎、六腑とは胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の事をさしますが、西洋医学でいう臓器とは違います。
それぞれの臓器は、特有の働きがあり、さらにお互いに協力しあい、制御しあいながら、バランス良く健康を保っていると考えます。
西洋医学に比べると、個々の臓器の機能以上に、それぞれの関連性について重要に考えています。
例えば、肝臓にとって良い薬でも心臓には負担になってしまうというような事もあるわけですし、個々の臓器だけをみるのではなく、身体全体をみてバランスを大切にしなくてはいけません。
さて、小宇宙である身体の働きの主になっているのは、「臓」である 肝・心・脾・肺・腎 です。
「腑」は「蔵」にタイアップしながら、従うような働きをしますので、ここでは割愛させていただいて、「五蔵」の働きについて、説明しておきます。
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・肝: |
全身の気の流れを良くし、各器官の働きを助けます。 血を蓄えているので、貧血には関係深い臓器です。 筋肉の働きや精神活動にも関係しています。 肝の働きが悪くなるとイライラと怒りやすくなったり、 目や疾患・生理痛・手足のしびれ等を起こす事があります。 |
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・心: |
血の循環をしています。 精神活動に関係し、五臓の働きをとりまとめています。 働きが悪いと、動悸や不眠・舌の先が赤く痛んだりします。 |
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・脾: |
食べたものをエネルギー(気・血・水)に変え、身体の機能を活発にします(運化作用)。 この働きが悪くなると、活力不足で疲れやすくなり、下利しやすくなります。 血を脈外に漏らさないようにする働きもあります(統血作用)。 この働きが低下すると、内出血しやすくなります。少しぶつけただけでも青あざが出来ます。 |
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・肺: |
呼吸することにより、気を全身に巡らし、水分の調節をします。 汗腺の働きにも関与し、皮膚の状態にも関係します。 この働きが弱くなると、呼吸器疾患・鼻炎・などを起こすというのは分かり易いと思いますが、蕁麻疹などの皮膚科疾患も肺の働きに関係しています。 |
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・腎: |
生命力の源、先天の「気」を蓄えています。骨や髪・耳と関係します 成長や生殖能力に関連深く、年齢と共に変化します。 女性では、月経や妊娠と関係します。 腎のエネルギー(先天の気)は、脾から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。 腎の働きが弱いと、元気がない・不妊・生理不順・腰痛・冷え症などになります。 加齢と共に腎の働きは弱くなっていきますから、骨が弱ったり、髪がぬ ける、耳の聞えが悪くなるなどの症状がでてきます。 |
以上の五臓がバランス良く働いてくれるように調節してくれているのが、
「気・血・水」です。
中医学の場合は、症状と、どの「臓」の気・血・水の働きが失調し、関係しているかを分析し見極める事が、中医学的診断となり、治療方針をたてていくことになります。
さて、ここから本題の貧血についてのお話になります。
中医学では貧血に現れる症状を、血液検査に頼らずに、どのように把握していくのでしょうか。
身体全体をみる学問ですから、いろいろな方法でみていきます。
西洋医学の病院に行き、診察室に入った後のことを思い出してみて下さい。
お医者さんの視線はどこにありますか? 最近ではコンピューターの画面 を主に見ながら、患者さんの訴えを耳だけで聞くというパターンも多いようですね。
中医学では、その人を全体的に診るわけですから、患者さんに目を向けてお話をします。
診察室に入ってからの歩き方や、椅子への座り方、話のしかた、体臭等にも、その人の体調を表す メッセージが沢山含まれています。患者さんの感じている主訴以外にも問題点はないかどうか、診る側も五感を駆使して探っていくのです。
その上で、患者さんの訴えをよく聞き、問診をしていきます。
今回のテーマである貧血に関していえば、他覚症状として重要なのは、
「顔色」・「舌診」・「脈診」です。
「顔色」が青白いような時はかなりな貧血になっていると考えてよいでしょう。
一般的には眼瞼結膜(まぶたの裏側)をめくって、白いかどうか確認するようですが、最近では アレルギーやコンタクトレンズによる炎症で赤くなっている場合も多いので気をつけましょう。
「舌診」は中医学独特のものと考えていらっしゃるかたも多いようですね。
もちろん医学的理論体系がきちんとしているのは中医学ですが、日本でも昭和初期のお医者さんは舌を診察しました。
なぜなら舌はその時の病態を良く表しますし、内蔵の調子やストレスがあるかどうかなど、数カ月前からの体調も類推出来るからです。
戦後、西洋医学が主流となってから医学を学んだお医者さんは、なぜか舌の診察をしなくなってしまいました。検査によって病気が判明しやすくなってしまった為かもしれませんね。
舌の色や形・苔のつき方などは人によってかなり違うものですし、自分の舌でも毎日観察してみると 体調によってずいぶん違っていることが分かります。
健康であれば色は淡紅色で薄く白い苔があり、形も整っていますが、貧血であると白っぽくなりますし、胃腸の調子が悪いと苔は黄色く厚くなります。ストレスがあると、舌の先が赤くなりますし、他にも沢山の情報を得る事が出来ます。
「脈診」は中医学独特のものです。手首にある橈骨動脈に触れてみて、その人の病態を伺うのですから、知識はもちろん経験も必要です。
脈の速さや強弱・流れ方・脈管の柔軟性などから、患者さんの健康状態を把握します。
なぜ分かるのかというと、先に説明しました「血」は「気」の働きによって押し流されているわけですから、「血」の流れる状態を診れば、その人の「気・血・水」の状態を伺い知ることができる・というわけなのです。
つまり身体のどこかに問題が起きれば、「気・血・水」に影響が及び、「血」の流れ方に現れるという事になります。
脈の流れ方は体調によってずいぶん違います。
健康な時でも走れば変わるくらい変化しやすいものなのに病態がつかめるのかと、疑問に思われる方も いらっしゃるかもしれません。そんな方は是非試しに、ご自分の脈に触れてみて下さい。
例えば安静にして横になっている状態でも、健康な時と病気の時では全然違います。
分かりやすいのは痛みがある時とか、発熱している時です。痛みがある時は緊脈といって張りつめたような脈になりますし、熱のある時は速くて浮いているような脈になります。
熟練した中医師や鍼灸師は脈からいろいろな情報を得ます。
気・血・水の状態や五臓のバランス状態、邪気の侵入の有無など、実に細かい事が分かるのです。
針灸治療の後では脈も変化し、治療前より落ち着いた脈になります。
以上のようにいろいろな角度から診察をして治療方針をきめていくのが中医学です。
では次に貧血について症状別にみていきましょう。
貧血は身体の栄養分である「血」が不足し、その働きが悪くなっている状態です。
主な症状は顔色に艶がなく土気色・唇や爪の色が薄い・めまい・動悸・疲れやすい・不眠・不安・手足の麻痺・月経が遅れがちなどです。
貧血の原因としては、長期的な出血の他に「血」をつくる機能の低下があります。
気血生化の源は「脾」ですから「脾」の働きが弱くなると気血が作られず貧血の状態(脾虚)になります。
この他、「血」に関係するのは「心」と「肝」で、「心」の働きが悪い時(心血虚)とか、「肝」の働きが悪い時(肝血虚)にも、「血」の働きが悪くなります。
さらに気血不足が進んで、陽気も損なわれた状態(脾腎陽虚症)でも貧血症状が現れますので、それぞれの症状と対応について書いておきます。
☆脾虚:気血を作る脾の機能が低下 |
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症状: |
顔色に艶がなく土気色、めまい、食欲不振、疲れやすい、生理が遅れがち 舌質:淡 舌苔:白 脈:沈無力 |
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治療: |
健脾益気 脾の機能を高め、気血を増やす作用のあるツボをつかいます。 |
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食品: |
消化の良いものをとり、油もの冷たいものは避けましょう。 ほうれん草・にら・人参・ナツメ・松の実・梅・木耳・豚肉・牛肉など (注:植物性食品の鉄分は、ビタミンCと一緒に摂ると吸収が良くなります) |
☆心血虚:「心」の働きが低下した事による「血」の不足 |
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症状: |
めまい、動悸、不眠、不安、健忘、よく夢を見る 舌質:淡泊 脈:細弱 |
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治療: |
補血安神 血を補い血流を良くして、精神的にも安定するようにします。 |
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食品: |
三つ葉・にがうり・よもぎ・あさり |
☆肝血虚:「肝」の働きが低下した事による「血」の不足 |
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症状: |
顔色に艶がなく土気色、めまい、目が疲れやすい、爪がもろい、 毛髪に艶がない、手足のシビレ・ひきつり、月経が遅れがち、無月経 舌質:淡泊 脈:弦細 |
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治療: |
滋補肝血 肝の働きを補い血の働きを良くするようにします。 |
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食品: |
あさり・ごま・春菊・三つ葉・キャベツ・しいたけ・小松菜 |
☆脾腎陽虚:気血の不足が陽気を損ない、さらに気血が不足した状態 |
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症状: |
顔色が土気色、めまい、疲れやすい、寒がり、手足の冷え、足腰が重だるい、軟便、下利 舌質:淡 胖大 脈:沈細 |
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治療: |
温陽助運 身体を暖めて脾の運化作用をたすける治療をします。 |
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食品: |
身体を暖めるものをとり、冷やすものは避けましょう。 にら・小松菜・くるみ・黒ゴマ・羊肉・えび |
以上のように、中医学では、一人の患者さんを全体的にみて、どこに問題があって、どのような進行状態であるのかを慎重に考えて、「証」をたて、治療方針を決めていきます。
患者さんの性格や生活環境も考慮しながら、日常生活のアドバイスをする事もあり、まさに全人的な医学です 。
身体に対してはもちろん、心に対しても優しく、学問的にも奥の深い中医学は、幅広くいろいろな疾患に対応することが出来ます。
当院では個人個人の体質に合わせた治療を行います。
お気軽にご相談ください。
◎ 当院での治療をお考えの方へ
= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに慢性化した、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。
これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【その他】肥満・痩せについて
肥胖(肥満)・消痩について
肥胖・消痩とは、太り過ぎ・やせ過ぎの事です。
一般的には、食べ過ぎや運動不足から太り過ぎになり、無理な食事制限や病気で痩せすぎになると考えられることが多いようです。
しかし、少食なのに太りぎみの人もいれば、大食いなのに痩せている人もいます。
体質の違いだと言ってしまえば、それまでなのですが、では、いったい何が違うのでしょう。
まず、肥満について考えてみましょう。
単純に考えれば、摂取したカロリーに比べて、消費したカロリーが少ないと、 余分なカロリーが体内に蓄積されていきます。
摂取カロリーが過剰になってしまう原因としては、単なる食べすぎや、味の好みが濃いという事もありますが、精神的なストレスによるものや、摂食中枢の異常による場合もあります。
消費カロリーが少なくなる原因としては、運動不足もありますが、体質的に栄養を活力にかえていく力が弱いという場合もありますし、年齢的に中年以降は代謝が低いということもあります。
外見上、太っていても、その原因はさまざまです。
根本的な原因を治していくことにより、健康的に、適正な体重に近づくことができます。
やせすぎの場合も同様にその原因は何かを考えていくことが大切です。
中医学では常に、表面的な症状だけではなく、根本的な原因を重視して治療を行います。
身体の働きのバランスを整えていくことで、健康で活力があり魅力的な身体づくりをしていきましょう。
なぜ、中医学では現代医学と違って、身体全体のバランスを整えることができるのでしょう。
それは、基本的な身体の働きに関する考え方が違うため、おのずと治療法も違っているからなのです。
詳しいことは、病気別わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段に中医学で考える身体のしくみについて書いてありますので、「わかりやすい東洋医学理論」をご覧下さい。
今回のテーマで関連深い臓腑について、少し説明しておきます。
五臓六腑というのが東洋医学の考える内蔵のことです。
西洋医学のそれとは異なり、中医学では内臓を物体として区別するのではなく、働きで区別 します。
主な働きとして、六腑は飲食物の消化吸収を行い、五臓は栄養分から「気・血・水」を作り、運んだり、貯蔵したりしています。
五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の事で、六腑は「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」の事です。
各々の臓腑には西洋医学と同じような働きをするものや、全く違う働きをするものもあります。同じ臓腑の名前を使ってはいますが、中医学では臓腑の働きに注目していますので、名前が同じでも、全く同じ物を指しているわけではありません。
食物から得た栄養分を肌肉や活力にかえていく作用に関連深いのは、
「脾」・「胃」・「肝」・「腎」です。
「脾」: |
「脾」の働きは、飲食物の消化・吸収・代謝、および栄養物質の生成です。 食べ物から栄養成分を吸収し、「気」「血」といった栄養物質を生成し身体全体に運んでいます。また、水分代謝も調節しています。 |
「胃」: |
「胃」の主な働きは、飲食物を受け入れ(受納)、初期消化し(腐熟)、小腸に送ること(和降)の3つがあります。 |
「肝」: |
「肝」は、全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。 精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。 特に脾胃の働きに影響は受けやすく、食欲不振などを起こします。 また、全身の血液量をコントロールし、蓄える働きもあります。 |
「腎」: |
「腎」は、成長・発育・老化・ホルモンバランス・生殖・水分代謝に関係しています。 |
【 肥胖について 】
大きく分けて以下の3つのタイプに分けられます。
1. 脾胃倶旺タイプ :
脾胃の働きが非常に強く、食欲があり、多食で且つ運動不足の方に多く見られます。
主症 : 全身が太る。上腹部の肥満が著明。皮膚を押すと張りがある。
随伴症 : 食欲亢進・多食・顔面紅潮・暑がり・多汗・腹脹・便秘
舌脈 : 舌苔薄黄・脈滑有力
治則 : 清胃瀉火(過剰な胃の働きを整える治療をします)
日常生活 : 過食を防ぐ為に、香味野菜(しそ・セロリ・春菊等)やスパイス(クミン・カルダモン等)を利用しましょう。
全身運動(ジョギング、水泳など)で、汗をかいて気分をスッキリさせると良いでしょう。
2.脾胃虚弱タイプ :
脾は、胃で消化吸収された栄養物質を活力に変え、全身に栄養を運ぶ作用のある臓器です。これらの働きが弱くなると、代謝が低下するため、少食でも太ってしまいます。
主症 : 顔面、大腿部の肥満が著明。肌肉はゆるんでいる
随伴症 : 顔面蒼白・精神疲労・気力がない・疲れやすい・寒がり・すぐに横になりたがる・食欲不振・便秘
舌脈 : 舌質淡・舌苔薄・脈沈細遅
治則 : 健脾益気(脾の働きを良くする治療をします)
日常生活 : 代謝を高め、胃腸にやさしく、「気」を補う作用のある雑穀類がお勧めです。
胃腸の働きを低下させる、冷たいもの・生もの・油っこいものは摂りすぎに注意して下さい。温かく消化の良いものを適量 とりましょう。
運動は、軽いものを無理なく続け、充分な睡眠をとることも大切です。
3. 真元不足タイプ :
高齢者など、身体がもともと持っている元気が足りないために、体が冷え、むくみを伴う事が多い、水太りタイプです。
主症 : 肥満・殿部と大腿部が著明・肌肉はゆるんでいる
随伴症 : 気力がない・動きたがらない・食欲は正常または少食・寒がり・浮腫
舌脈 : 舌質淡・歯痕・舌苔薄白・脈沈細遅
治則 : 健脾益腎(身体を暖め、代謝を良くして元気をつける治療をします)
助気化湿(水分の代謝を良くします)
日常生活 : 腎を養う作用のある黒色の食材(黒豆・黒ゴマなど)をとりましょう。
黒い食材は、ビタミンB群・ビタミンE・良質なたんぱく質を含み、ホルモンのバランスを整え、貧血を改善して血行を促進してくれる作用があります。生もの・冷たいものは出来るだけ避け、身体を冷やさないようにしましょう。 生姜・ねぎ・にんにくなど、体を温める薬味やスパイスを上手に利用して下さい。運動は、疲れが残るほど激しいものではなく、体力に合ったものを選びましょう。よく歩くことも大切です。
【消痩について】
消痩とは、筋肉がやせて体重が異常に減少することを言います。
体型が痩せていても、元気があって、顔色も体調も良い場合は消痩とは言いません。
大きく分けて以下の4つのタイプに分かれます。
1. 脾胃気虚タイプ:
後天性の栄養不足や、悩み事が多く、脾胃の働きが悪くなることにより生じます。
症状 : 食欲不振・やせ・顔色が黄色い・疲れやすい・息切れ・話したがらない・軟便
治則 : 健脾益気(脾胃の調子を整え、栄養分をうまく体に巡らせるように治療をします)
2.気血両虚タイプ :
過労や病後の失調により生じます。
症状 : やせ・疲れやすい・息切れ・話したがらない・めまい・動悸・不眠
治則 : 益気養血(栄養分を筋肉や体力に変える力を補い、気血が増すように治療します)
3.胃熱タイプ :
辛いもの・熱いもの・甘いもの・脂っこいもの・などの食べ過ぎにより生じます。
症状 : 沢山食べてもお腹がすく・のどが渇き冷たいものを好んで飲む。胸焼け・口臭・大便が硬い
治則 : 清胃瀉火(胃の熱を鎮め、食欲や味覚を適正にする治療をします)
以上のように、中医学では、根本的な原因を見極め、根っこから治していくので、全体的にバランスが良く、活力のある身体をつくっていきます。
体調の不良は身体からのメッセージです。その声をむやみに封じこめることなく、根本を見直し、真の健康に近づいていくきっかけにして下さい。
心の底から明るい笑顔で生活することが出来るようになります。
中医学は身体と心に優しい医学です。是非一度ご相談下さい。
- 2019/03/12
- 【その他】風邪予防のお話
◎ 風邪予防に効果があるツボ
合谷と足三里→免疫力を高める、疲労回復に働き掛けます。
合谷と足三里と尺沢→咳止め
合谷と足三里と豊隆→痰を改善
合谷と列欠と照海→咽喉のイガイガ、炎症改善
◎ 風邪予防に効果のある食事
旬の食べ物をたべる
大根、ほうれん草、小松菜、にんじん、ごぼう、白菜、みかん、りんご
ぶり、ひらめ、かれい、たら、まぐろ、さけ、あんこう、はまぐり、かき
鍋料理を多く食べると良いです。鍋料理には色々な食材を入れやすいので平均的に旬の物を取り入れやすいです。体も温まりやすいので冷え予防にもなります。
生姜、長ネギ、にんにくを取るのも良いです。体を温めたり、胃腸を整えたり、疲労回復に働き掛けます。
飲み物
ホットコーラ→コーラに生姜の薄い2~5ミリのスライスを1、2入れ鍋などで多少温め飲むと悪寒の風邪に良いです。
その他、紅茶にやはり生姜を入れて飲むのもよいです。 生姜と蜂蜜をお湯でといで飲むのも良いです。これらは、体が冷えているとき或いはゾクゾク悪寒を生じるときに飲まれると体を温めてくれます。
杏仁パウダー→咽喉がイガイガするとき或いは軽い炎症症状が有る時に飲まれると潤いを与え、咽喉の症状を楽にします。
◎ 風邪予防のための生活習慣
過労を避ける、睡眠を十分に取る、身体を冷やさない事です。
寒い時節ですが、部屋の中ばかりに居ないで、時には外気にあたることも必要で、軽い体操、運動をしたりしましょう。
暖房中は換気を十分行う、適度な湿度を保つ様に、約60%前後に。加湿器にハッカオイルを数滴たらすと多少の殺菌作用にも役立ちます。暖房器具のほこりは定期的に掃除をして、ほこりが部屋の中を舞わないようにする。アレルギー疾患の予防にもなります。
- 2019/03/12
- 【その他】眠気について
嗜睡(嗜眠)とは?
昼夜問わず、眠りたがるものをいいます。
睡眠時間を十分とっているのにも関わらず、体がだるいのは何故?
気力が湧かないのは何故?
と考えた事がある方はたくさんいらっしゃると思います。
このような症状は西洋医学で、検査の数値には出てこないお体の悲鳴です。
西洋医学では解明されない体調を東洋医学(中医学)の視点から見ていくと原因が明らかになることが多々あります。
太陽の陽気が上がっているのに眠いのは何故でしょうか?
中医学は陰陽五行説という哲学的理論に基づいています。
世の中の事象は陰陽に分けられると考えます。
太陽の出ている昼間は「陽」太陽が沈んだ後の夜は「陰」
世の中は陰と陽という相対的な考え方によって成り立っています。
陽気が上がっていると、人間は活動的になります。
「陽」は「動」の働きを持っており、「陰」は「静」の働きをもっています。
したがって陰が盛んになってしまっている状態(気が活動性を満たしていない状態・気力のない状態)を、東洋医学では嗜睡と考えます。
この症状がある方は根本的に
胃腸機能の低下(中医学では「脾」の臓器が低下していると考えます)
がお体に体調不良を起こして四六時中眠いという症状をもたらしています。
胃腸機能の「機能」とは中医学では「気」の持っている作用のことです。
「気」は陰陽で言えば「陽」になります。
「陽」の性質を持つ「気」のエネルギーを損なうことにつながります。
根本的に「脾」の胃腸機能低下が原因となって体調不良を起こしている訳です。
それなので胃腸機能低下に伴う他の症状もおのずと出てきてしまいます。
嗜睡はタイプ別に分けるとおおまかに2つに分けられます。
中医学で言う
タイプ① 湿困脾陽によるもの
治法(治療方法)
健脾化湿…消化吸収系の機能を高め、体内の不必要な水分を取り除きます。
タイプ② 脾気虚によるもの
治法(治療方法)
温陽健脾…活動の基である「陽」を温め、消化吸収に関わる「脾」を活発にさせます。
益気化湿…滅入りがちな気持ちを引き立て、体内の余分な水分を取り除きます。
これから細かく体調の分析をしていきますので、ご自分がどちらのタイプに属するのか参考にしながら読んでみて下さい。
タイプ①
湿困脾陽によるもの
~ 身体が重だるい ~
人体には非常に多くの水分が含まれており、生理上重要な役割を果たしています。
人体に必要な水分を中医学では津液といいます。
必要な水分(津液)はいったん汚く濁ってしまうと、反対に生理代謝を阻害してしまいます。
そこで病邪として人体を襲う「湿」も濁って汚いというイメージでとらえられています。
このほか濡れた衣服が重いように、「湿」は「重い」という性質をもっています。
したがって「湿」が体表に侵入すると身体や四肢が重だるくなり、 関節に停留すると重く痛んで動作が障害され、分泌物や排泄物も濁って汚いものになります。
体質的に水太りになりやすい方や、湿気の多い梅雨の時期に湿邪が身体に侵入すると上記のような症状な症状が発生しやすくなります。
~ 胸悶感・食欲不振 ~
臓腑経絡中に「湿」が渋滞すると、気の活動は渋滞を起こし、気の運動形式を失調させたり、経絡の運行を障害します。
経絡とは臓腑で生成された気血が流れる通路で全身の栄養と機能調節を促進する作用があります。
食欲不振は、飲食物をエネルギーに変えて、全身に輸送する生理機能が減退し、胃の受納(飲食物を胃に送ること)に影響すると起こります。
~ 便が軟らかい(大便溏薄)~
一般に濁って汚い水は清らかな水に比較すると、どろっとして粘ついた感じがします。
そこで「湿」は津液(人体に必要な水分)とは違って、粘滞性が強いと考えられており、湿邪に犯されると、排泄物などがべとついたり、大小便の切れが悪くなかなかふき取れないなどの症状が現れます。
運化水液作用は運化水液作用が減退し、腸中に水湿が停留すると起こるわけです。
この運化水液作用は「脾」の作用の1つです。
飲食物から吸収されたエネルギーに含まれる余った水分はこの作用により「肺」と「腎」に送られ、「肺」と「腎」の気化作用により、汗や尿となって体外に排出されます。
この働きが正常であれば、余分な水分は体内に停滞することなく「湿」などの病理産物も生じません。
しかし、「脾」の運化水液作用の機能が失調すると、水分が体内に停滞し、便が軟らかくなったり、むくみなどの症状が出現します。
このタイプの方は湿邪(水分)が「動」の働きをもつ「陽」の作用を邪魔してしまうため、全身にエネルギーが回らなくなり、「四六時中眠い」という状態になると考えます。
「湿」は「陰」の作用を持ち、気の活動を阻滞し、陽気を損傷してしまうからなのです。
中医学(漢方)では「湿気」「水分」は胃腸機能を低下させますので、昔から湿気の多い日本で長生きするためには、いかに胃腸に負担をかけないかというのが最重要課題でした。
タイプ①の方に積極的に摂取して頂きたい食品です。参考になさって下さい。
☆ はとむぎ ☆
効用
健胃 →胃の機能を高めます。
健脾化湿→脾臓の働き(消化機能)を高め、体内の余分な水分を排出させます。
☆ インゲン豆 ☆
効用
健脾化湿→脾臓の働き(消化機能)を高め、余分な湿気を取り除く効果 があります。
タイプ②
脾気虚によるもの
~ 倦怠感 ~
生命活動の原動力となる「元気(原気とも言う)」不足が原因で臓器組織の活動を促進したり、経絡の流れを促進させる作用が無力となり、「気」そのものの活動性や運動性が低下してしまっている状態です。
~ 食後の嗜睡 ~
「脾」は後天の本と言って飲食物から生命活動のエネルギー源である気・血・水を作り出すおおもとの臓器になります。
この「脾」の臓器はエネルギー源を吸収して全身に輸送する働きがあります。これを運化作用と言います。
食べたものをうまく消化できない為、良いエネルギーを運搬する働きが弱ってしまっている状態です。
運化無力になると、食後に食したものが阻止され流れの滞りが起きている状態がこのような症状として出てきてしまうのです。
栄養のあるエネルギーは全身に散布する必要があります。
飲食物から得た「脾」にある良いエネルギーを上に持ち上げて(これを昇清作用といいます)上から下にある臓器へ運ぶことが大事になります。
上記のような働き(運化作用や昇清作用)が弱くなってしまうと、精神疲労感などの気の機能の減退した症状が出てきてしまうのです。
~ 話すことがおっくうになる・息切れなど ~
呼吸活動や発声などを促進させる作用のある気(推動作用といいます)が消耗してしまっている状態です。
~ 寒がり・四肢の冷え ~
筋肉を温めるのは、脾の「陽」の気により行われています。
中医学では人体に対して推動作用、温める作用を持つ気を「陽」と称しており、また人体に対して栄養・滋潤作用をもつ気を「陰」と称しています。
脾の運化不足・陽気不足が四肢や全身におよび、温かくできないと発生します。
胃腸機能が正常に働かないと・・・
単にゲップが出るとか胸やけや腹部膨満感などの不快感があるというだけでなく、体にとって必要とする栄養物が吸収されないばかりか、むくみや下痢といった不要な水分が体内に停滞し、更には気力の低下から免疫力の低下にもつながります(中医学では胃腸の機能は「脾」の働きになります)。
そこで、タイプ①の方にもタイプ②の方にも積極的に摂取して頂きたい食品をご紹介致します。
肉類 |
脂身の少ない鶏のささ身・牛肉の赤身など |
魚類 |
いしもち・すずき |
きのこ類 |
気を効果的に補う舞茸・椎茸 |
豆類 |
豆腐・納豆など大豆製品・そら豆・小豆・枝豆・グリーンピースなど |
主食 |
元気を補い、基礎代謝を高めてくれる主食をしっかり摂取することが大切で、あわ・ひえ・きび・はとむぎなどの穀物を混ぜて炊くとより元気をつけます。 |
お茶 |
元気不足が進むと体が冷えやすくなり、また冷えると代謝が悪くなります。 |
また冷えると代謝が悪くなるので、基本的に冷たいものは控えましょう。
身体のアンバランスこそが、免疫力を低下させることにつながり、色々な病気の誘発原因となりえます。
上記の補養食物を参考にされ、日々のお食事に取り入れられたら如何でしょうか?
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。たとえば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中国鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず、全体的なお手当てを行っているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行っている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがよくありました。
特に下記の疾患は早めに受診されると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/03/12
- 【その他】老化予防について
年齢とともに生じる老化は、誰しもが避けることのできない生理現象です。
しかし、いかに健康的な体の状態を維持し、老化の進行を遅らせるか、また早期に老化が起こるのをどのように防ぐのかということは、時代や国を越え、常に人々の関心の的の一つになっています。
昨今、日本では高齢化社会となり要介護の方が増えていますが、健康な体で老後を迎えて、長寿を全うしたいというのは万人が望んでいることだと思います。
今回は老化予防について、中医学で考える健康体とはどのような状態なのか、老化をまねきやすい原因は何か、老化の進行を少しでも防ぐ日常生活の過ごし方はどのようなものなのか、お話ししていきたいと思います。
ご参考までに読んでいただけたらと思います。
<中医学で診る人の成長と老衰>
10歳:五臓の生理機能が安定し始める。気血は流れ通じている。精子、卵子の排出がある。
20歳:気血は充満し、流れに勢いがある。筋肉はモリモリとし、元気である。
30歳:五臓の生理機能は安定している。血脈の機能も盛んである。
40歳:臓腑、経脈の流れは安定している。立つことより座ることを好む。老化が始まりかける。
50歳:肝臓が弱り始める。視力が減退し始める。老化が始まる。
60歳:心気が衰弱し始める。心配ごとが増えはじめ、横になりたがる。動くことがおっくうになる。
70歳:脾胃の機能が衰え始める。筋肉が衰え、皮膚のつやがなくなる。
80歳:肺が弱くなる。言葉をよく間違える。頭が少しボケる。
90歳:腎の機能が低下する。経脈の中が空虚になる。前記の症状が悪化する。
100歳:五臓が全て虚の状態となる。気力、体力ともに衰え、基本的な物質は全て減少してくる。
◆中医学における健康な体の概念とは◆
中医学では、「人体は、虚せば衰える」と言われており、老化は人体の生理機能(正気・エネルギー)が虚弱になったことの現われであると考えられています。
健康体の保持や早期の老化を防ぐためには、免疫力や抵抗力の源とされる「正気(パワー)」の充実がキーポイントとなります。そして、「気」「血」「水」(詳しくは後述)が、過不足なく充分にめぐっていること、「五臓六腑」の働きが順調であること、「陰陽」のバランスがとれていることが重要な条件になります。これらの働きがうまく調和していることにより、頭は聡明で、艶のある肌を保ち、健康で抵抗力のある身体を維持していくことができるのです。
中医学では、人も自然の一部であるとする観点からみますと、季節の変化を受けて、体も変化していくことは自然なことなのです。そのため年間を通 して、体の状態が一定であるということは考えられず、生活環境や年齢の違いなどにより、バランスの取れた「良い状態」は、人それぞれで異なります。
◆中医学でとらえる体のしくみ◆
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。
さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
この「気・血・水」は、「五臓六腑」によって作られたあと、「経絡」という(エネルギーを通 る)ルートを通って、全身に運ばれその働きを発揮します。
老化では、これら気、血が減少し、そのため五臓六腑が養われず、症状の悪化は相互に影響しあいます。
その結果、体全体の減退症状がみられ、早期の老化が見られるのです。
◆中医学で考える老化をまねきやすい原因とは◆
1.先天的に体が虚弱である
生まれつき身体が虚弱なため、さまざまな疾病を患いやすく、また病後も身体が虚弱で病が長引いて回復できず、「気(エネルギー)」「血」が日増しに消耗し、次第に臓腑にも影響を与え、早期の老化が起こります。
2.過労、早婚多産による五臓の損傷
過労は、正気(パワー)を消耗しやすく、特に早婚多産の女性の場合は、人体の 精気(‘生命の根源である力’をいい、下腹部にあります。気功でいう臍下丹田)を消耗し、精神的にも外見的にも次第に衰弱して、早期の老化が起こります。
3. 飲食の不節制による脾胃の損傷
空腹と満腹の状態が不調和となり脾胃の働き(食べたものをエネルギーに変える)を損傷してしまった結果 、「気、血」を作り出すことができません。
そのため、体の内部では五臓六腑に、体表では肌や経絡(エネルギーが通 る道)に栄養がいきわたらず、次第に体がエネルギー不足になり、老化が早期に起こります。
4.大病後の不調や慢性病による正気の消耗
大病は、気や血を消耗します。とくに産後の不養生、慢性病が長引き、発症を繰り返している状態が長く続きますと他の臓器へも影響を及ぼし様々な症状を生み出します。これらは老化を早めてしまう原因の一つになります。
◆中医学で考える老化と最も関係の深い臓器◆
~「腎」~
「腎」は、生命力の源であり、生殖器・発育・成長と深く関わります。
腎のエネルギーは、「先天の源」とも言われ、両親から授かった精気(体の丈夫さ)であり、体全体のパワーを貯蔵してある大切な臓器になります。
エネルギーが少なく足りなかったりすると、先天的な虚弱症状がみられ、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
病気の際にみられる症状としましては、腰や膝がだるくなり、足に力が入らなくなる、頻尿傾向になる(特に夜間尿)、耳鳴りや難聴、物忘れが多くなる、骨がもろくなりやすい、早く老いやすくなる、白髪が多くある、歯や髪が抜けやすくなるなどです。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
このように、腎のエネルギーが不足しますと、老化による症状が数多く見られます。
~「脾」~
脾は「後天の源」ともいわれ、食べたものをエネルギーに変える働きがあり、生まれてから死ぬ まで、活動源である「気」を生産し続けています。
ここの働きが低下してしまうと、エネルギーを作り出せないため、さまざまな疾患を引き起こしやすくなってしまいます。
以下に詳しく脾の働きを説明します。
①食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
<主な症状>
軟便または下痢、痰が多く出る、手足がむくむ、食欲がない、身体が重だるい
②エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
③血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
▼中医学的診断・治療方法▼
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。
この他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
◆中医学的老化症状のタイプと治療法◆
先に述べましたように、人体を構成する先天・後天の源である、脾と腎の働きを補い調和させることに重点をおいて、予防治療をしていきます。
●脾気虚タイプ●
食物からエネルギー(気)を生み出す源である「脾」の働きが失調することにより体を養う気や血が作りだせないため、体全体の機能減退症状がみられます。
○主な原因
生まれつき虚弱体質、飲食の不摂生、過労、あれこれ思い悩むことが多い。
○随伴症状
めまい、頭がくらくらする、食欲がない、食べても少ししか入らない、息切れ、便はやや軟便傾向または慢性の下痢、元気がでない、疲れやすい、話したがらない(パワー不足の為)、顔色が黄色っぽい
○治療方法
脾の働きを高めて、食べたものをエネルギーや血に変えていく「健脾益気」の治療をしていきます。
●肝腎不足タイプ●
肝は血を貯蔵し、腎は先天のエネルギーを貯蔵しています。これらはお互いに協力し必要なときに変換しあいます。この2つの臓器の働きが失調すると、体を養う「血」や「先天のエネルギー」不足を生じ、早くから老化症状がみられます。
○主な原因
生まれつき虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
めまい、耳鳴り、腰が重だるく不快感があり脚に力が入らない、目が乾きやすい
○治療方法
肝・腎の働きを高め、滋養していく「滋養肝腎」の治療をしていきます。
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腎は体全体を温める力(気の働き)と臓腑や各器官に栄養を与え潤す力(血・水の働きに当てはまります)を備え調節しています。
この温める力が低下すると手足の冷え、むくみ、頻尿などの冷え症状が強くあらわれ、潤す力が低下するとのぼせ、発汗、めまい、人によっては骨密度の減少、高血圧、高コレステロールをまねくと考えられています。
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●腎気虚タイプ●
○主な原因
先天的に虚弱体質、早婚、出産過多、長期間の過労、性交過多による腎のエネルギーの損傷。
○随伴してみられる症状
腰や膝が重くだるい、めまい、耳鳴り、難聴、精力減退、尿失禁、疲労感、頻尿、夜間尿が日に2~3回ある、インポテンツ、物忘れをする
○治療法
腎のエネルギーを補い増やしていく「補腎益気」の治療をしていきます。
●腎陽虚タイプ●
「腎気虚のタイプ」に冷えの症状が加わり、症状の悪化を示しています。
先天的に腎のエネルギーが弱いか、冷たいものの過食などから体の陽気が損なわれ、体全体の冷え症状があらわれます。
○主な原因
生まれつき体質が虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
寒がり、手足の冷え、腰や膝が重だるく痛い、下腹部が冷える、顔色が蒼白、尿が希薄で量 が多い、朝方(3~5時)下痢をする、むくみ、不妊、インポテンツ
○治療方法
体の大元である腎を温め、活動力を増す「温補腎陽」の治療をしていきます。
●腎陰虚タイプ●
体を養う「精や血」、体を潤す「水液」が不足した状態で、体の内外を潤すことができないために、ほてりや乾燥症状がみられます。
○主な原因
生まれつき体質が虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
腰・膝が重だるく痛い、やせている、めまい、耳鳴り、難聴、不眠、手足がほてる、咽喉が乾く、寝汗をかく、歯がぐらぐらして抜けやすい、男性女性ともに不妊、早期閉経
○治療方法
体を養う血、潤す働きを高める「滋補腎陰」の治療をしていきます。
以上、主に臨床で見られる老化現象についてお話してきましたが、ここでは一部を述べさせていただきました。
このほかにもいくつかのタイプが見られますが、老化の臨床症状は複雑であり、すべてをここでご紹介することはできませんが、もっと詳しく自分自身の体の状態を把握されたい方は、当院へお気軽にご相談してください。
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます。
タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。
●脾気虚タイプと腎気虚タイプ●
【生活習慣】 |
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・ |
消化が良く、栄養バランスの取れた食べ物を心がけましょう。 |
・ |
消化が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。 |
・ |
スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。 |
・ |
頭や目の使いすぎは血を消耗させてしまうので、この時期は極力長時間パソコン作業や、夜遅くまでの勉強、仕事は避けましょう。 |
・ |
ダイエットによる食事制限も禁物です。 |
【食べ物】 ~エネルギーを益す食べ物を(適度に)摂りましょう~
○脾気虚タイプ・・(穀類)うるち米、粟米、小麦製品
(豆類)大豆や大豆製品、牛乳
(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
(魚類)いか、貝柱
(果物)なつめ、もも、さくらんぼ
(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶
○腎気虚タイプ・・上記の食べ物にプラス
栗、くるみ、黒ごま、クコの実
~体を冷やす食べ物、辛い食べ物、油っこく味の濃い食べ物は胃を刺激し気を消耗させるので避けましょう~
・辛い食べ物・・青唐辛子、ねぎ、コショウなど
・冷やす食べ物・・すいか、バナナ、イチジク、なし、苦瓜、薄荷など
●肝腎不足タイプと腎陰虚タイプ●
【生活習慣】 |
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・ |
体を養う血の消耗につながる生活は避けましょう。 睡眠はしっかりとり、血を消耗させやすいパソコンの使いすぎ、テレビの見すぎ、夜更かしは避けましょう。 |
・ |
血を補い、体を潤す働きのある食べ物を摂るよう心がけましょう。 |
【食べ物】~体を冷まし、潤す作用のある食べ物を摂りましょう~
(乳製品)豆乳、牛乳
(肉類) 豚の皮、鴨肉、豚肉
(魚介類)いか、牡蠣、すっぽん(とくに甲羅の部分)
(野菜) 山芋、白きくらげ、黒きくらげ
(果物) なし、もも、ぶどう
(木の実)クコの実、くるみ、黒ごま
(お茶) 桑の実とクコの実のお茶
●腎陽虚タイプ●
【生活習慣】 |
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・ |
冷えやすい下半身は下腹部や腰部にカイロをはって、しっかり温めましょう。 |
・ |
体を温める食べ物を摂るようにしましょう。 |
【食べ物】~体を温め、活動力を増す作用のある食べ物を摂りましょう~
(穀類) もち米
(肉類) 羊肉、鹿肉、牛肉
(魚介類)えび、なまこ
(野菜) にら、ねぎ、ししとう、かぼちゃ、しょうが、にんにく
(木の実)栗、くるみ
(香辛料)酒、シナモン、黒砂糖、ウイキョウ(フェンネル)
(お茶) 杜仲茶、ジンジャーティー黒砂糖入り
※ 腎陽虚はからだを温める働きのある食材を、腎陰虚はからだに潤いを与える食材です。同じ「腎」でも作用させる働きが180度違いますので気をつけて摂取してください。
◆最後に◆
「老化=自然現象」ではありますが、その現れる年齢や症状は人それぞれで異なります。
また若い人でも白髪や脱毛、歯が抜けやすい、体力仕事ではないが腰痛になりやすいといった老化現象が見られます。これらの症状が現れやすい原因として、主に、
① 生まれつき虚弱体質(生命の根源のパワー不足)。
② 過労やストレス、多産などによる正気の消耗。
が挙げられます。ストレスやショックで白髪になってしまうといったケースはご存知の方もいらっしゃるかと思います。
ですので、日頃からできる老化予防としましては、「規則正しい生活をし、自分の体に合った適切なものを適量 食べ、適度に睡眠(休息)をとり、適度に運動をし、ポジティブ思考で、適度に笑うこと」が大切です。とても単純で当たり前のことなのですが、実践してみるとなるとなかなか続かないものです。
しかし上記の生活習慣は、美容によいことはもちろんのこと、健康な体を保持することができるのです。
普段忙しくしている方は、「こんなことは分かっているけど、忙しくてこんな理想的な生活なんてできない。」とお思いの方も多数いらっしゃるかと思いますが、そういう方は、食事の質や量 を見直してみたり、運動不足ぎみの方でイライラしやすくストレスのたまりやすい方は、少しでもいいですから運動を始めてみたり(ウォーキングなど身近なことから)、平日睡眠不足ぎみの方は、休日の前日は夜更かしせずに寝て、翌朝はいつも通 りまたは1~2時間後くらいの間に起きる(お昼に起きると体の疲労感を増してしまいます。平日とあまりギャップのない、規則ある生活を送りましょう)など、日常生活を少し見直してみるだけで、体の快調感が高まると思います。
老化予防には日頃からの養生が一番大切なのです。
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
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8:30~ 12:30 |
〇 13:00まで | 休 | 〇 | 〇 | 休 | 〇 | 〇 |
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診 | 〇 | 〇 | 診 | 〇 | 〇 |
※ 火曜日・水曜日・金曜日が祝祭日の場合は午前診療となります。
※ 当院は予約制です。