コラム

2019/03/11
【その他】診察シュミレーション アトピー性皮膚炎

● 診察シュミレーション アトピー性皮膚炎 ●

慢性症状・難治病でお悩みの方、真の中医学(東洋医学)、真の診断と治療を理解していただけると思います。

 

診察シュミレーションも今回で5回目となりました。

今回はアトピー性皮膚炎についてのシュミレートをしたいと思います。

 

◇はじめに◇

現代医学の発展はめざましいものがあります。

皆さんも病院で検査などを受ければ、その検査データーの精密さや機材の進歩にお気づきになると思います。

現代医学では患者さんの病気を調べる手段に様々な検査が用いられております。

例えば、血液検査・レントゲン・CT・超音波・・・など、その症状により様々な検査がございます。

このように医師は検査データーや画像をみて患者さんの状態を把握します。

 それに対して鍼灸師は上記の様な検査は一切行いません。

皆さんは鍼灸師が検査機材などを使用しないで、どうして病態を把握することができるのか不思議に思うかもしれません。

しかし、中医学による施術を行っている治療者は、現代医学と同様に患者さんの病態をちゃんと把握して、治療方針を考えてから治療にあたります。

ただ病んでいる部位や痛い箇所に針を打つだけではありません。

一般的な鍼灸院の言う「東洋医学」と、我々が言う「中医学」とは全くの別 物です。

 中医学の治療というのは、先ず「弁証」を立てます。

「弁証」とは簡単に言ってしまえば、患者さんの体の中の、現代医学では出てこないエネルギーバランスの崩れ具合をみて、病気の原因や性質や進行状態などを見極めることです。

「弁証」が立てられたら、それに基づいて治療方針を決め、治療方針が決まったら、それを基に使用するツボを決めていきます。

つまり、治療の第一段階は「弁証」を立てることから始まります。

その「弁証」を立てる手段が『四診』と言われ、現代医学の検査と同様のものです。

 『四診』とは「望診」「問診」「切診」「聞診」の総称です。

「望診」とは、患者さんの顔色や舌の状態みて疾病の状況を判断するものです。

(舌の形状や苔の具合で寒熱や活力量の過不足などを判断します。)

 

「問診」とは『四診』の中でも重要な診察法で、患者さん本人や付き添いの方に病気のことは勿論の事、生活状況・家庭環境・性格・睡眠状況・食事の好み・・・など様々な質問をさせて頂き、そこから疾病の状況を判断するものです。

当院に来院された患者さんはお気づきだと思いますが、当院においても「問診」は重要視しており、初診時には「問診」のみに30分位 かける事も珍しくありません。

 

「切診」には〈脈診〉と〈按診〉があります。

 

 

1)

〈脈診〉とは脈拍を診察することですが、現代医学の〈脈診〉と、中医学の〈脈診〉とでは内容がやや違います。

我々の脈診は脈拍数や不整脈の他に、脈の強弱・浮き沈み・太い細い・脈の触れ方、などを観察します。

それにより、体の活力具合・体の寒熱などを見極めます。

 

 

2)

〈按診〉とは患者さんの皮膚・手足・胸腹部などを、撫でたり・押したり・触ったりして、しこり・圧痛・温度・湿り気などを観察します。

 

「聞診」とは、患者さんの発する声や臭いから、患者さんの疾病の状況を判断します。

上記に挙げた4つの診断法は独立するものではなく、これら全ての方法により情報を収集し、総合的に患者さんの体の中でどのような歪みが生じているのかを振り分けます。

このようにして振り分けられたものが、先程紹介した「弁証」です。

 

では実際にどの様に『四診』が行われ、どの様に「弁証」を立てていくのかをシュミレートしてみたいと思いますが、皆さんにはできるだけ理解し易いように、こちら『病気別 ・わかる東洋医学診断』の「わかりやすい東洋医学理論」と「アトピー性皮膚炎について」を先にお読みになられてから、この後をお読みになることをおすすめいたします。

 

◇ 問診シュミレーション◇

では早速シュミレートをしてみたいと思います。

 

初診の患者さんは先ず問診表を書いて頂きます。

問診表には現在の病状を書いていただく箇所と、普段の生活・めまい・耳鳴り・のぼせ、などの有無を答えていただく質問表があります。

質問表は患者さんの症状により、上記の質問の他に20~60位の質問が追加されます。

これらの質問にチェックを入れていただく事により、問診を行う前に治療者は現在の患者さんの病状に加え、患者さんの体質を大まかに把握することができます。

中医学では患者さんの体質を把握するということは、現在の病状を把握することと同等に重要な事だと考えております。

なぜなら中医学は病気を診るのではなく、病人を診る医学だからです。

例えば、風邪という病気は1つしかありませんが、風邪をひいた人(病人)となるとその人の体質に風邪が入っているわけですから、体質+病気=病人、となります。

中医学は病人をみる医学ですから、同じ風邪をひいた場合でも、体質が違えば弁証や治療法が変わってくるのです。

また、中医学では、風邪をひきやすい体質の方であれば、風邪の症状が治まっただけでは完治とは言いません。

このような患者さんの場合で、風邪の症状が辛い時は、先ず、「標治法」と言って風邪の症状を治める治療を行い、ある程度風邪の症状が治まってきた段階で「標治法」から「本治法」に切り替えます。

「本治法」とは風邪をひき易い体質から風邪をひき難い体質に改善します。

そしてこの体質の改善が終了して初めて「根治」といって、いわゆる完治となるわけです。

以上のことから、治療者にとっては患者さんの体質を知るということはとても大事なことなのです。

さて、問診表に質問表が付属しているのにも理由があります。

冒頭でも述べましたが、「問診」は「四診」の中でも重要度が高い診察の一つです。

当院でも「問診」にはかなりの時間をかけております。

問診の前に治療者が患者さんの体質を大まかに把握できることにより、問診時間の短縮が可能となります。

これは質問表にあった質問を問診時に省くとういうことではなく、質問表をもとに更に深い問診が可能になるということです。

患者さんは何らかの不調があって来られているのですから、問診は出来るだけ短く、正確に、より深く行うのが我々治療者の努めなのです。

 

さてシュミレーションにもどりましょう。

 

Ⅰ、治療者は問診に入る前に問診表と質問表に目を通します。

  問診表には以下のことが書かれてありました。

 

Dさん 男性 22歳 会社員 初診日7月30日

【主訴】

アトピー性皮膚炎

【経緯】

高校3年の時に発症し、一時的に症状は軽くなったが、最近になって悪化してきた。

 

 次に質問表を見てみると、

・ ストレスが多い

・ 便は軟便傾向・最近は下痢と便秘を繰り返すこともある

・ 食欲不振

・ 疲れやすい

 などにチェックがありました。

 

Ⅱ、問診表に目を通し終えたら、患者さんに問診室へ入ってもらいます。

入り口から少し太めな物静かそうな青年が入ってまいりました。

顔にはアトピーの症状はでていないようです。

椅子に腰掛けてもらい改めて挨拶を交わしました。

―Dさんには「湿」によるアトピーの患者さん特有の体臭があるようです。

 

治療者は患者さんが問診室へ入って来た時から先ほど説明した

「望診」と「聞診」を開始しており、患者さんから発せられる多くの情報を既にキャッチしています。

具体的には体型・顔の肌の質感・体臭などチェックしています。

 

 さてここで、治療者が問診表に目を通してから、患者さんが問診室の椅子に腰掛けるまでにどの様な事を考えていたのか、頭の中を覗いてみましょう。

 

【1-1問診表】

 先ず問診表を見て患者さんの主訴が「アトピー性皮膚炎」であることを確認すると、中医学的にアトピー性皮膚炎にはどの様な種類があり、それらを引き起す原因にはどのようなものがあるのかを考えます。

 

 では、先ずアトピー性皮膚炎の種類を紹介しましょう。

 

① 湿熱タイプ(湿熱内蘊)

  これは体内に余分な水分が溜まってしまい、それが熱化して発症します。

② 血虚タイプ(血虚生風)

  血が不足し皮膚を潤すことが出来なくなり発症します。

③ 陰虚タイプ(陰虚内熱)

  血虚がさらに進展してしまった状態です。

④ 血熱タイプ(血熱生風)

  熱が血へ入り込んで発症します。

⑤ 陽虚タイプ(虚陽上浮)

  体を温める力が無くなり発症します。

{ 尚、詳しくは「アトピー性皮膚炎について」を参照して下さい。}

 

 では次に病因といって上記の状態を引き起こす代表的な原因を幾つか紹介しましょう。

 

① 飲食不節

飲食不節には幾つかの種類がありますが、特にアトピー性皮膚炎の病因となるのは『肥甘厚味』『過食辛辣』『過度の飲酒』があります。

『肥甘厚味』とは、味の濃い物・甘いもの・脂っこい物、などの多食を言います。

『過食辛辣』とは辛い物の多食を言います。

これらは体内で余分な水分や熱を産んでしまい、湿熱や血熱タイプのアトピーの原因となります。

 

② 脾虚(脾のエネルギー不足)

脾は運化といって飲食物の消化吸収作用の中心を担っております。

したがって、脾虚になる消化吸収作用が低下してしまい、その結果体内に余分な水分が産まれ湿熱タイプのアトピーの原因になります。

又、飲食物の消化吸収作用が低下してしまうと気や血も作られなくなってしまい、気血の不足になります。その結果 、血虚タイプのアトピーの原因にもなります。

 

③ 精神状態

中医学では病気の症状と精神状態の関係をとても重視いたします。

アトピー性皮膚炎も例外ではなく、例えば、思い悩過ぎは脾を損傷させてしまいますし、ストレスは肝を通 じてやはり脾を損傷させてしまいます。

 

③ 外因

外因とは体外から体を襲う発病因子のこといいます。

中医学では外因を風・寒・湿・燥・火(熱)・暑、の6つに分類します。

{詳しくは「わかりやすい東洋医学理論」を参照してください}

特にこの中で風・湿・火(熱)がアトピー性皮膚炎と深い関係があります。

 

⑤ 遺伝

虚弱な体質やアレルギー体質を両親のどちらかが持っている場合、お子さんはそれを受け継いでしまうケースが多々みられます。

虚弱な体質は脾気虚となりやすく、アレルギー体質は外因の影響を受けやすくなってしまいます。

又、遺伝とは直接関係ありませんが、妊娠中にお母さんが飲食不節をしてしまったり、精神状態が不安定であったりすると、その影響が胎児に及ぶことがあり、湿疹を持って出生してくる赤ちゃんもおります。

 

 アトピー性皮膚炎の分類と病因を簡単にまとめてみました。

 

 さて、中医学では一般的に病気を「虚証」「実証」「虚実挟雑証」の3つに大きく分類します。

「虚証」とは、もともと患者さんが病気の原因となるものと戦うエネルギーが不足していて、抵抗力が無く発病してしまうものをさします。

例えば、周りの人は気にもとめない、ちょっとした気候の変化でも体調を崩してしまうような方の病証が当てはまります。

「実証」とは「虚証」の逆で、病気の原因となるものの勢いが強く、抵抗力のある人でも発病してしまうものをさします。

例えば、普段から抵抗力のある方のインフルエンザなどの流行性感冒などへの感染があります。

「虚実挟雑証」とは「虚証」と「実証」が混ざっている病証を言います。

さて、「虚証」と「実証」では病因から病気の成り立ちや特徴に大きな違いがありますので「虚証」と「実証」の判別 はとても大事なことと同時に、その後の問診時間の短縮に繋がります。

ですから、問診の初段階では病因の追求と虚実の判別をしていきます。

 

 さて、もう一度問診表を見てみましょう。

問診表には主訴の他に経緯として次の事が書かれてありました。

{高校生3年の時に発症し、一時的に症状は軽くなっていたが、最近になって又悪化してきた。}

ここで気になるのは、

① 何故高校時代に発症したのか?

② 一時的によくなったのは何故か?

③ 最近になって症状が悪化してきたのは何故か?   という点です。

 

これらについては患者さんに詳しく質問しなくてはなりません。

患者さんは気付いていないかもしれませんが、症状に変化があるという事は、そこに病因が隠されていることが多くあるからなのです。

 

 次に質問表を見てみましょう。

 

【1-2質問表】

 質問表には、次の項目にチェックがありました。

①ストレスが多い。

②便は軟便傾向で最近は下痢と便秘を繰り返すこともある。

③食欲不振。

④ 疲れやすい

 

 では個々をみてゆきましょう。

 

① ストレスが多い

アトピー性皮膚炎の病因で説明しましたが、ストレスは肝を通して脾を損傷させます。

ですから、Dさんのアトピー性皮膚炎の病因にストレスが関与している可能性が考えられますので、問診で詳しく訊ねなくてはなりません。

 

② 便は軟便傾向、最近は下痢と便秘を繰り返すこともある

[軟便]については先ず外因を考えると、寒・湿・暑・熱がその病因になりますが、特に湿によるものが多いようです。

その他の病因としては、脾虚・飲食不節・ストレス・腎のエネルギー不足、などが考えられます。

次に[下痢と便秘を繰り返す]については、ストレスが肝臓を通じて脾を損傷して起こることが多いようです。

又、上記の情報を総合すると、Dさんのアトピーには肝と脾が関係している可能性が窺えます。

 

③ 食欲不振

食欲不振は基本的には脾と胃の損傷によって起こります。

 

④ 疲れやすい

これは「気虚」といってエネルギー不足の症状です。

臓腑的には、脾・胃・腎、などに損傷がある場合に多く現れます。

 

 質問表から得れる情報をまとめると、

A)Dさんは脾と肝が損傷を受けている可能性が窺えます。

B)ストレスの関与の可能性も考えられます。

 

治療者は以上のことを頭に浮かべながらDさんを問診室へと招き入れます。

 

【2-1入室~着座】

患者さんが入室してきた時から「望診」と「聞診」が始まります。

ではDさんの場合はどうだったでしょうか?

先ず望診ですが、チェックポイントとしては、

 

 ①顔には特にアトピーの症状は出ていない。

顔は体の中でも最上部です。自然界では熱は対流といって上部に上がります。

中医学は人間の身体も自然界の一部と考えますから、自然界の摂理は体内でも同様に起こると考えます。

ですから、熱による症状は比較的上部である顔や首などに発症しやすいと考えます。

逆に川の水は標高の高い所から低い所へ流れます。

これと同様に体内でも余分な水分は下部へ流れます。

ですから湿による症状は比較的下腹部や足などに発症しやすいとされております。

上記のことから、中医学の場合は湿疹などの発症部位なども細かくチェックしなければなりません。

 

  ②体型はやや太め

体型も大事な情報源になります。

例えば、Dさんのように太めな方には、体質的に脾気虚などの気虚(エネルギー不足)や湿による影響を受けているかたが多く見受けられます。

 

 次に聞診ですが、Dさんの場合は少し体臭が気になりました。

中医学・現代医学ともに体臭のチェックは行っております。

しかし中医学と現代医学とは体臭チェックの観点は違います。

中医学では五行学説の分類に基づいて体臭のチェックを行います。

実際に今まで出合った患者さんの中で、湿による患者さんには、決まってある共通 した体臭があるのです。

Dさんの場合もこれと同じような体臭がありました。

 

 さて、治療者が問診表を見てから患者さんが着座するまでに、どの様なことを考えているかがおわかりになったと思います。

 

いよいよ、これから問診を開始してゆくわけですが、その前に今まで得た情報をまとめてみると、やはり脾の損傷が気になります。

又、湿とストレスの関与も考えられます。

ですから治療者は以上のことを頭に入れて問診を始めてゆきます。

 

Ⅲ、病因についての問診

先ずはDさんのアトピー性皮膚炎の病因を探るために、発症当時・症状が軽くなった時期・症状が悪化してきた最近について詳しく訊ねたところ次の様な答えが返ってまいりました。

 

《発症当時について》

発症は高校3年生の9月だそうです。

Dさんに何か発症の原因があったかを質問しましたが、「特に思い当たる事はありません」とのこと。

又、この時期には病院には行かなかったそうです。

 

《症状が軽減した時期について》

症状が軽減したのは、大学受験が終わって、病院へ行き薬をだしてもらったところ直ぐに症状が軽減したそうです。

完治とはいかなかったが、在学中は比較的症状は落ち着いていた。

病院へは直ぐに症状が落ち着いたのでその後は行っていないとのこと。

 

《症状が悪化してきた最近について》

今年の6月の後半頃から症状が悪化してきた。

Dさんには症状悪化の原因に思い当たることは無いとの事です。

 

Dさんのアトピーの症状の変化の時期の概要が見えてきました。

先ず、発症したのは9月で、症状が再度悪化してきたのは最近ですから、症状の誘発素因は季節的なものではなさそうです。

次に気になるのは、症状が軽くなった時期と、高校から大学へ進学した時期が同時期であるということです。

次に最近になり症状が重くなっているわけですが、Dさん問診表の職業のところは会社員となっておりました。

そこで、大学を卒業した時期と入社した時期を訊ねたところ、今年の3月に卒業し、4月に入社したそうです。

つまり、症状が悪化したのは大学を卒業し、会社に入社して2ヶ月後ということになります。

 

 さて、今までの情報をまとめると、

高校3年生で発症 →→ 大学在籍中は症状軽減 →→ 入社して2ヶ月で症状悪化

となります。

 

上記のことから考えられる病因としては「生活の変化」が考えられます。

そこで更に、高校生活・大学生活・仕事、について更に詳しく訊ねてみると次のような答えが返ってきました。

 

《発症当時の高校生活について》

Dさんの通っていた高校は県内でも有名な進学校であったそうで、Dさんも大学受験を控え2年生に進級してから本格的に大学受験の勉強を始めたそうです。

当然3年の夏休みは受験生にとっては大事な時期なので、勉強一色で過ごしたそうです。

又、Dさんは家庭の事情から、浪人することは許されておらず大学受験は1発勝負で、志望校も家から通 える国立大学のみという強度のプレッシャーを受けていたそうです。

 

《大学生活について》

大学に入学してからはそれほど追い込んで勉強をすることはなく、成績は下の方ではあったが楽しい学生生活を送った。

 

《仕事について》

仕事については特に希望の職種があるわけではなく、又、就職戦争に巻き込まれることは避けたかったので、簡単に入れる会社に入社をしてしまった。

仕事の内容は営業職で、入社して未だに契約を交わせず上司にいつも怒られて ストレスとなっている。

 

 今回の問診により、症状の変化とDさんの生活の変化の関係性が見えてまいりました。

発症した高校3年生当時、Dさんはかなりのストレス受けていたことがわかりました。

今年の4月に就職したわけですが、仕事でもかなりのストレスを受けております。

Dさんの話からストレスの原因は上司からのお小言のようです。

Dさんは今年の4月入社ですから、入社直後からお小言を受けていたわけではないでしょう。

おそらく5月・6月からお小言を貰うようになったのではないでしょうか。

次に症状が軽減された大学時代ですが、この時期はストレスもあまり無かったようです。

 

今の段階だと、ストレスとアトピーの症状の変化は関係があるように思えますが、これだけでストレスが病因であると判断するわけにはいきません。

今はDさんの生活上の精神状況と症状を比較しただけなので、これから後は症状そのものについて詳しく問診をしていく必要があるのです。

 

 それでは、症状について問診をしてゆきましょう。

先ずは症状の性質から探ってゆきます。

症状の性質とは「病性」といい、先程説明した「虚・実」や、症状が熱性なのか寒性のものかなどを振り分けます。

 

Ⅳ、病性についての問診

Dさんの現病歴を訊く場合は下記の3つの時期に分けて訊く必要があります。

①発症してから症状が軽減するまでの高校時代

②症状が軽かった大学時代

③ 症状が悪化した現在

以上のように分けて病性についての問診をしたところ、高校時代と現在については同じ答えが返ってきましたので、先ずはそちらから紹介しましょう。

 

=高校時代と現在の問診の答え=

症状は急激に現れた・強い痒みがあった・患部は淡い紅色・熱感もある。

 

=大学時代について問診の答え=

痒みについては高校時代や現在に比べると軽かったが、たまに、短期間ではあるが急に痒くなることもあった。

患部については、その当時も紅色ではあったが、高校時代や現在よりは薄い感じではあった。又、痒みと同様に患部の色にも変化はあった。

熱感については殆んど無かったが、やはりたまに急に熱感があることもあった。

 

以上が病性についての問診の答えになります。

 

 それでは先ず「虚実」の判別から説明してゆきましょう。

実証の症状の特徴は、症状の変化が急・強い痒み、でありますので、高校時代や現在のアトピーについては、実証の症状の可能性が高いと言えます。

 

虚証の特徴は、慢性あるいは反復性・症状の変化が緩慢・痒みは比較的軽い、でありますので。

大学時代のアトピーについては、基本的には「虚証」で、何かの原因により実証の症状が発症するようですので、その時に関しては「虚実挟雑証」の可能性が高いと言えます。

 

次に「寒熱」の判別を説明しましょう。

熱症状の特徴は、患部が紅色である・患部に熱感がある。

Dさんの場合は、常に熱症状の特徴がみられますので、「熱症状のアトピー」と言っていいでしょう。

 

さてここで気になるのは、大学時代にたまにではありますが、短期間急激に患部の色・痒み・熱感に変化が見られます。

これについて質問してみることにより、Dさんのアトピーの病因を知るヒントになるかもしれません。

 

Ⅴ、大学時代の症状の変化の誘発素因について

大学時代の症状の変化について訊ねたところ次のような答えが返ってまいりました。

① 痒み・患部の色・熱感、については、同時に同じタイミングで悪化する。

② 悪化する時期は定期試験の前であった。

③ Dさんは勉強をそれ程まじめにしていた方ではないので、試験の前になると、友人からノートなどを借りて試験勉強をした。

本人曰くかなり試験勉強は辛かったとのこと。

 

 以上のことから、大学時代に症状を悪化させた原因も、発症原因や現在の症状悪化の原因と同じく、ストレスによるものの可能性が高いと言えます。

 

 さてここで、問診を始めてから得た情報を整理してみましょう。

先ず、病因についてはストレスの可能性が高いようです。

次に病性については高校時代と現在は「実証」で大学時代は「虚証」と「実証」の両方の可能性があるようです。

ところで先程問診表の解説のところで、「虚・実」の説明と、アトピーのタイプの分類を紹介いたしましたが、タイプの分類は下記の様に虚実によって分けることができます。

 

「虚証」に含まれるタイプとしては、

「血虚」「陰虚」「陽虚」「脾虚湿盛」タイプのアトピーがあります。

「実証」に含まれるタイプとしては、

「血熱」「湿熱」「オ血」タイプのアトピーがあります。

「虚実挟雑証」にふくまれるタイプは

「脾虚湿盛」タイプのアトピーがあります。

 

つまり、Dさんの高校時代と現在のアトピーは「血熱」「湿熱」「オ血」のどれかのタイプか又は混ざっている可能性が高く、大学時代は「血虚」「陰虚」「陽虚」「脾虚湿盛」のタイプか、やはりこれらが混ざり合っている可能性が高いといえます。

 

次の問診ではDさんのアトピーがどのタイプになるのかを判断します。

 

?、Dさんのアトピーのタイプを知るための問診

 さて、実証についてのタイプ分けの質問をしたところ次のような答えが返ってきました。

① 湿疹は肘と膝の内側に多く、特に膝が酷い。

② 患部は水疱を伴っている。

③ 甘いものや脂っこいものを食べた後に悪化する。

④ 梅雨時にも悪化した。

⑤ 浸出液がでる。

⑥ 患部に熱感がある。

⑦ 掻いても血は出ない。

⑧ 患部が真っ赤になることも無い。

⑨ 皮膚や顔色色が浅黒いことは無い。

⑩ 皮膚の肥厚も無い。

 

 以上の問診のからどの様なことがわかるかというと、

①~⑤は湿の存在を意味します。

⑥ は熱症状を意味します。

 

 さて、Dさんが問診室へ入って来てから望診・聞診・ここまでの問診を総合すると、高校時代と現在アトピーは「湿熱」タイプのアトピーであると判断してよいでしょう。

 しかしアトピーは複雑な疾患ですので、1つのタイプだけとは限らず、幾つかのタイプが混ざっている場合もありますので、「オ血」「血熱」についても質問をしなければなりません。

そこでそれらの質問が⑦以降になります。

⑦ ⑧は血熱の特徴の否定です。

 この答えからDさんは血熱タイプのアトピーでは無いことがわかります。

⑨⑩はオ血の特徴の否定です。

 この答えからDさんはオ血タイプのアトピーでは無いことがわかります。

 

以上の問診から高校時代と現在は「湿熱タイプ」のアトピーであることがわかりました。

次に、大学時代のアトピーについて質問をしたところ、軽度ではあるが、症状自体は現在や高校の時と同じだということです。

以上のことから、大学時代も「湿熱タイプ」のアトピーであると判断してよいでしょう。

 

さて、ここまでの問診でアトピーのタイプはわかりました。

しかし、これで問診が終わりというわけにはいきません。

中医学は病気のタイプを分けるだけでは弁証をたてたことにはなりません。

病気のタイプの判別と損傷を受けている臓腑や経絡を明確にし、且つ病気の原因である「病因」と、病気を起したメカニズムである「病機」をも明確にしなければ弁証をたてたことにはならないのです。

 

 では、今までの問診でわかったことをまとめてみましょう。

①病因:ストレス

②タイプ:湿熱タイプのアトピー性皮膚炎

 以上の2点です。

 

ですから今後の問診は、損傷を受けている臓器、病機を明らかにしてゆかなければなりません。

これらを明らかにする問診は随伴症状を訊いてゆくことでわかります。

 

 

?、随伴症状についての問診

随伴症状につて質問したところ次のような答えが返ってきました。

 

―口が粘る・痰がよくでる・足のむくみ・などの症状がある。

これらの症状は体内に余分な水分である「湿」が存在する方の特徴であり、「脾」のエネルギー不足である「脾気虚」の方の特徴でもあります。

更に、質問表にあった「食欲不振」「軟便」「疲れやすい」というのも「脾気虚」の特徴であります。

又、Dさんの体格は少し太めでした。中医学的に太っている方には、エネルギー不足である「気虚タイプ」や体内に「湿」が存在するタイプの方が多くおられます。

以上の情報を総合するとDさんの体質は脾気虚と湿の存在は否めないかと思います。

 実は「脾気虚」と「湿」はとても深い関係にあります。

「脾」の働きに「運化」というものがあります。これは消化吸収を意味する言葉で、飲食物を吸収してエネルギーに換える働きです。

「脾気虚」になってしまうと、飲食物の消化吸収能力が低下してしまい、体内の水分代謝が効率よく行われなくなってしまい「湿」を産んでしまうのです。

ですから言い換えれば、脾気虚の方は「湿」が存在している方も多いのです。

 さて、ではDさんはいつ頃からこの様な症状であったのかを質問してみました。

先ず体格については、子供の頃から太めであったとのことです。

更に、他の「脾気虚」や「湿」について質問したところ、いつ頃かは覚えていないが、昔からだったそうで、高校に入った時には上記の随伴症状はあったと思うとのことです。

以上の問診からDさんは高校入学した時点では脾気虚によって、湿が生成され体内に「湿」の存在があったようです。

子供の時から太っていたとのことですので、「湿」を溜めやすい体質的であったのかもしれません。

体内に「湿」が溜まると熱化することがあります。この状態を「湿熱」といい、Dさんのアトピーのタイプになります。

 

これでDさんの体質は脾気虚で湿が溜まりやすく、熱化してしまっていることまではわかりました。

 

 さて、今までの問診でDさんのアトピーの誘発素因はストレスとわかっておりました。

次に、ストレスが症状を悪化させる機序を明確にしなければなりません。

そこで、気になるのが質問表にあった、「最近、便秘と下痢を繰り返す」という点です。

先ず、最近の大便について細かく質問したところ、次の答えが返ってきました。

①「最近、便秘と下痢を繰り返すようになったり、通勤中に何度もトイレへ駆け込むようになってしまったので、病院へ行ったところ『過敏性大腸炎』と診断された。」

②実はこの様な大便の状態は高校3年生の秋にも起きたことがある。

 

大便について以上の情報を得たので、次にその他の随伴症状について質問してみたところ下記様な答えが返ってきました。

③ 口が苦く感じることがある。

④ 胸や脇が張った感じがする。

(③~④については最近になり感じるということで、高校時代については覚えていないとのこと)

⑤ イライラや怒りやすい(高校時代も現在も同様であるとのこと)

⑥ 側頭部やコメカミの頭痛(      〃         )

⑦ 物忘れはない

⑧ 腰や膝に異常は無い

⑨ 風邪をひき易いことはない

⑩ 息切れもない

⑪ 動悸もない

 

 さて、それでは①②について説明をいたします。

① についてはお医者さんに「過敏性大腸炎」と言われているわけですが、中医学では、下痢や便秘を繰り返す症状を起す疾患の中に「肝気犯脾」というのがあります。

「肝気犯脾」とは、ストレスなどの精神の抑鬱状態により、「肝」が損傷を受けてしまいその影響が「脾」に及んでしまった状態をいいます。

「肝気犯脾」のキーポイントは誘発素因が「ストレス」であります。

現在Dさんは仕事のストレスを多く受けております。

又、高校時代にも過度のストレスを受けておりました。そこで②の質問をしたわけです。

すると案の定、高校時代にも同様の症状がありました。

以上のことから、Dさんの「便秘と下痢を繰り返す」といった症状は「肝気犯脾」による可能性が高くなってきました。

 

 そこで次に③~⑥の質問に繋がります。

③~⑥については、ストレスなどを受けて肝が損傷を受け、気の流れに滞りが起きた特徴です。又、どの症状も高校時代や現在に起きている症状ですから、ストレスを過度に起きている時期とも一致します。

以上の事からDさんは高校時代及び現在と過度にストレスにより、肝が損傷を受け更に脾がその影響により損傷を受けてしまったということがわかりました。

 これでストレスによりアトピーが発症したり悪化するメカニズムもわかったことになります。

⑦~⑪についてはその他の臓器の損傷の有無を確認した質問です。

Dさんの主訴についてはその他の臓器はそれ程損傷を受けている可能性が少ないので問診時間の短縮のため質問の数もへらしております。

⑦⑧については腎について、⑨⑩は肺について、⑦⑩⑪については心についての質問です。

やはり、腎・肺・心、については特に問題はないようです。

 

 さて、以上の質問で問診は終わりになります。

それでは今回の四診でわかったDさんのアトピーについての病因・病機・弁証名を説明してゆきましょう。

 

?、総合解説

=高校時代(アトピーの発症の病因・病機)=

?で説明したようにDさんはアトピーが発症した高校生以前から、「湿」が体内に溜まりやすい体質ではあったようです。

そこに高校生になり、現役で大学に合格しないといけないというプレッシャーと受験勉強のストレスを受けてしまいました。

「肝」は抑鬱状態にとても弱い臓器ですので、この当時の過度なストレスやプレッシャーによって損傷を受けてしまいました。(症状としてはイライラや怒りやすい、側頭部やコメカミの頭痛が根拠になります。)

「肝」の働きの1つに「疏泄作用」というものがあります。

これは気の流れを促進することにより、臓器の働きを促進させるという作用です。ストレスなどで「肝」が損傷してしまうと、「疏泄作用」の低下がおきてしまいます。

この影響を受けやすい臓器の1つに「脾」があります。

この様な機序で、Dさんの場合は先程説明した「肝気犯脾」が起こってしまいました。

さて、「肝気犯脾」の時の「脾」は「脾気虚」の状態です。

「脾気虚」は「湿」が生産されやすい状態であるのは先程説明いたしました。

ですから、ストレスなどが強くなればなるほど「肝」は強く損傷を受け、その影響が更に「脾」に及び、結果 として「脾気虚」の状態が悪化してしまいます。

つまり、ストレスの増加は「脾気虚」の悪化を助長させてしまうわけであります。

そのことにより益々体内で「湿」が産まれてしまい、体内で「湿」が多く溜まってしまうことにより熱化し「湿熱」へと変化します。

その結果「湿熱タイプ」のアトピーが発症してしまったわけです。

 

=大学時代(症状軽減の機序)=

Ⅲの問診でわかるように、Dさんは大学受験が終わって病院で受診されております。

その後直ぐにアトピーは軽くなったと言っておられますが、はたしてアトピーの症状を軽くしたのは病院で出された薬だけの効果 でしょうか?

おそらく大学受験のストレスからの開放が一番の薬になっていると思います。

その根拠は、大学在学中に軽くなっていたアトピーが定期試験の度に悪化して、試験が終わると薬を飲まずしても又軽くなるという点です。

 さて、ここでもう一度高校時代を振り返ってみましょう。

高校時代はストレスにより「肝」が損傷を受け、その影響で「脾気虚」となり湿熱タイプの痒みの強いアトピーを発症させました。

その後Dさんは見事入試に合格して受験のストレスから開放されました。

このことにより、「肝」もストレスから開放されます。

今まで「脾」は常に「肝」から影響を受けていたわけですが、受験後は「肝」がストレスから開放された分だけ「脾」への影響は軽減されます。

この軽減された影響分が、大学時代の症状が軽減された分に値します。

しかし、ストレスから開放されたことにより「肝」は元の状態に戻っても、「肝」の影響を受けた「脾」については何も改善はされていない状態です。

ですから、大学在学中もDさんのアトピーは軽減したものの完治はせず、「脾虚湿盛」タイプのアトピーとして残ってしまったわけです。

ですから大学受験ほどのストレスはかからないものの、定期試験といったストレスを受けても直ぐに悪化してしまったわけです。

 

=今現在のアトピーについて=

 さて、今のアトピーについては、仕事の過度なストレスにより、高校時代のアトピーの状態に逆戻りしてしまったことになります。

 

 以上がDさんのアトピーの病因・病機になります。

全般を通してみると、『湿熱タイプ』のアトピーということになります。

しかし、損傷をうけている臓腑に注目してみると、高校時代・今現在と大学時代とでは若干の違いがあるのがおわかりになると思います。

 

高校時代・今現在については、肝鬱と脾気虚でありました。

中医学的に言うと、「肝」が「脾」を相乗した、「脾虚湿盛」による「イン疹」となります。

 

一方、大学在学中はそれ程「肝」の損傷はみられません。あったとしても定期試験前の一時的なものです。

ですからこの時代のアトピーは「脾虚湿盛」による「イン疹」となります。

 

 さて弁証が立てられた時点で基本的に問診は終了です。

患者さんには施術に備えて治療室へ移動をしていただき、ベッドに横になってもらいます。

その間に治療者は治療方針と使用するツボを決めなければなりません。

先ず最初に考えるのが治療方針です。

皆さんならどの様な治療方針を考えますか?

 

治療方針としては、今現在については「疏肝解鬱・健脾利湿・清熱止痒」といって、ストレスによって損傷を受けている「肝」の気の流れを整えてあげ、「脾気虚」となっている「脾」をたて治してあげることにより、体内の「湿」を排除する治療と、熱を取り去り痒みを抑える治療をおこないます。

 

これに対して、もし大学時代の定期試験前以外のDさんを治療するのであれば、「疏肝解鬱」の必要はなく、「健脾利湿」のみの治療を行います。

 

ですから、同じアトピーでも発症した時期や環境によっては同一の人間であってもタイプの違うアトピーになってしまうこともあれば、損傷を受けている臓腑が違ってしまう事もあるのです。

当然タイプや損傷を受けている臓腑が違えば、治療方針は変わってきますし使用するツボも変わってまいります。

そして、治療方針が決まれば、それに見合ったツボを選択します。

因みに、アトピーの出ている患部以外にも、体幹や足の先のツボに至るまで、全身のツボを使用します。

問診が終わって針を打つまでに治療者の頭の中では上記の様なことを考えています。

 

如何でしたか?

以上が「アトピー性皮膚炎」のシュミレーションでした。

診察中の治療者がどの様に患者さんの身体の中のバランスの崩れ具合を見極めてゆくのかイメージできましたでしょうか。

我々はこのようにして弁証を立てております。

そして、このような過程は決して珍しいことではなく、中医鍼灸ではごく普通 のことであります。

中医学の治療は『理・法・方・穴(薬)・術』という大原則にのっとって行われます。

「理・法・方・穴(薬)・術」とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。

「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。

「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。

「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。

「穴(薬)」とは薬やツボの作用をさします。

「術」とは鍼灸の手技を意味します。

 つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われ、最後にどのような手技を施すかを考えるのです。

逆を言えば、「理・法・方・穴(薬)・術」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。

 以上のことから、いい加減な問診であったり、痛い所やコリが在る所や病んでいる所にのみ針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。

人を治すには、それなりの理論や手順を踏まないと決して結果はでません。

ましてや、慢性症状を治療するには尚のこと繊細な弁証が必要になってまいります。

 

中医学ではアレルギー疾患を単にアレルギーだけを理由に捉えません。

本日読んで頂いたシュミレーションの内容からもわかるかと思いますが体の何処で、何が、どうなったかを追って症状判断をしております。

 

当院は患者さんと伴に病を治していこうと考えております。

真剣にお悩みの方はお気軽に当院までご相談ください。

我々も誠意を持ってお答えいたします。

2019/03/11
遺精

症状の概要

遺精とは性行為や自慰行為によらずに、無意識に精液が漏れる状態のことです。

遺精には“生理的遺精”と“病的遺精”の2つの分類があります。

“生理的遺精”

病気ではなく、代表的なものに夢精があります。夢精とは睡眠時に性的な夢を見て興奮し射精してしまうことです。思春期に多いとされています。また、覚醒時、性的刺激により射精をしてしまうものも病気とはみなしません。

“病的遺精”

覚醒しているときに、性的感情や刺激によって射精してしまうのは正常ですが、性的感情や刺激、勃起がない状態で度々、射精をしてしまうのは“病的遺精”であります。この場合は治療をする必要があります。

 

原因

脊髄疾患、前立腺炎、長期の禁欲、精神疲労などがあります。

 

西洋医学的な治療

治療は原因疾患があれば、原因疾患の治療を行います。

 

当院での治療法

中医学では、体内の崩れたエネルギー(気・血・津液)のバランスを整えて治療していきます。

そのため、ひとりひとりのタイプを見極めてツボを決めていきます。

遺精は、体内のエネルギー(気や血など)のバランスが崩れることによって精液を留めておけずに精液が漏れてしまいます。

中医学的な治療

中医学ではタイプ別にわけて治療を行っていきます。

 

心腎不交:身体の熱を冷ますエネルギー (水)と熱(火)のバランスが崩れて精液を留めておけずに漏れてしまうタイプ。

 症状:寝つけない・早朝覚醒・多夢・健忘・動悸・めまい・耳鳴り・足腰が怠い・手足のほてりなど。

 治則:清心泄火・滋陰安神(心の熱を下げて腎陰をふやし、火と水のバランスをとる治療。)

 

腎虚不固:腎気が不足することによって精液を留めておくことができずに漏れてしまうタイプ。

 症状:排尿異常・性欲減退・精神疲労・聴力減退・足腰が怠い・耳鳴り・めまい・健忘など。

 治則:補益腎気・固渋精液(腎気を増やし精液の漏れを防ぐ治療。)

 

心脾両虚:心と消化器の働きが低下し、エネルギー(気血)が不足して精液が漏れてしまうタイプ。

 症状:食欲減退・不眠・多夢・動悸・四肢の怠さ・軟便・動悸・健忘・泥状便・精神疲労・倦怠感など。

 治則:補脾養心・益気摂精(心と脾の働きを改善し、気を増させて、精液の漏れを防ぐ治療。)

 

当院からのメッセージ

中医学による分類は上記以外のタイプもあります。一人一人の症状の違いをきちんと把握して身体のエネルギーバランスを整えていきます。

症状がなかなか改善しない方は一度、中医学を専門とする鍼灸院や漢方薬局を受診されることをおすすめ致します。

当院でも伝統的な中医学(東洋医学)による鍼灸治療によって、体質改善・症状改善を行っておりますので、一人でお悩みにならずに、お気軽にご相談下さい。

 

 

 

 

当院の治療に関しては下記もご参照ください。

治療の流れ

https://www.dokutoruyo.com/about/#a3

 

治療方針

https://www.dokutoruyo.com/about/#a4

 

カッピングについて

https://www.dokutoruyo.com/about/#a6

 

中医学について

https://www.dokutoruyo.com/medicine/

 

当院について

https://www.dokutoruyo.com/about/

 

お問い合わせ

https://www.dokutoruyo.com/contact/

 

 

 

吉祥寺 中医学に基づく 遺精

鍼灸・吸玉(カッピング)療法専門 楊中医鍼灸院

2019/03/11
【内科疾患】過敏性大腸炎

~診断治療編~

1.●過敏性大腸炎(過敏性腸症候群)●

 

最近、テレビの健康番組や雑誌などを見ていると「過敏性大腸炎」を取り上げている事がよくあります。皆様も何度か目や耳にしたことがあるかと思います。実際「過敏性大腸炎」で悩まされている患者さんはここ数年急増しきており、10年位 前から消化器外来でもかなりの割合(3~5割)を占めるようになってきていると言われています。(男女比では1:1.6でやや女性の方が多いみたいです。)

さて、皆さんは「過敏性大腸炎」と聞いてどんな病気だと想像しますか?

{慢性的な下痢の症状があり、通勤途中で電車から降りてトイレに駆け込んでしまうような病気}などとイメージされる方も多いのではないでしょうか。しかし「過敏性大腸炎」

の症状はそれだけではありません。それでは「過敏性大腸炎」(過敏性腸症候群)の説明を始めたいと思います。

 

 

★『過敏性大腸炎』は西洋医学的病名★

まず、『過敏性大腸炎』(過敏性腸症候群=IBS)という名前ですがこれは西洋医学的病名です。では西洋医学では『過敏性大腸炎』をどのように捉えてどのような治療をしてゆくのでしょうか。

▼西洋医学的な捉え方と治療▼

【概念】

胃腸の働きは交換神経と副交感神経によって支配されていますが、そのバランスが過度のストレスや感情、食事、気候の変化などの要因が重なり崩れると腸管が刺激に対し過敏になりすぎ蠕動運動を早めたり止めたり局所的痙攣が起こり下痢や便秘・下痢と便秘の繰り返し・腹痛などを起こします。従来より「慢性腸炎」と診断されていたもの多くはこの範疇です。西洋医学では症状によって「便秘型」「下痢型」「交代性下痢・便秘型」に分類しております。男性は下痢型、女性は便秘型が目立つようです。尚、胃腸の構造には全く異常はなく潰瘍等も出来ていない状態です。

 

【成因】

心理社会的な要因が関与していることが多いといわれ、自律神経失調症や心身症の一部とされています。

 

【症状】

便秘・下痢・便秘と下痢の繰り返し・腹痛などの消化器症状の他には頭痛・頭が重い・肩こり・眩暈・動悸・倦怠感・不眠・ゲップ・腹部膨満・腹鳴・放屁などの症状を伴うこともあります。

 

【治療】

1.増悪因子(ストレス・食事・アルコールなど)があれば除く

2.緩下薬・下痢止め薬・消化機能改善薬・消化酵素薬の投与。また、精神の要因が強い場合は心理療法・精神安定剤などの投与があります。

 

以上が西洋医学的な「過敏性大腸炎」の捉え方と治療になります。

 

次に中医学的(東洋医学)な説明に入りますが、その前に少しだけ中医学について説明をしたいと思います。

 

★ 多くの方が知っているようでよくわからない東洋医学★

皆さんの中には東洋医学のことを中国伝承医学と思っている方も多いかと思います。しかし中国と東洋は同じ意味ではありませんので、この考えは正しくはありません。勿論、中国伝承医学も東洋医学に入りますが、インドやチベットの伝承医学も東洋医学に入るからです。そして中国伝承医学のみを意味する場合は「中医学」と呼びます。因みに西洋医学にも伝承医学はあります、例えば皆さんもよくご存知の「アロマセラピー」や「ホミオパシー」「メディシナルハーブ」などです。本来はこれらも西洋医学に入ってしまいます。ですから皆さんが病院などで受けている医学だけを意味するときは「現代医学」と呼びます。

さて芸術や思想などの世界でも西洋と東洋の概念が違うように西洋医学(現代医学)と東洋医学(中医学)もまた全く別 物と言っても過言ではないくらい概念が違います。身体の仕組みから病気が発症する過程や治療の方針にいたるまで、全く違う観点や考え方をします。例えば現代医学では「膵臓」という臓器が存在するのに対して中医学では存在しません。逆に現代医学には無い「三焦(さんしょう)」「心包(しんぽう)」といった臓腑が中医学には存在したりします。これは現代医学は物理的に目や検査器具で見える物を見ているのに対して中医学は目には見えない『働き』を見ているからなのです。

いかがですか?おそらく今これを読んでいて混乱をしてきている方も多いと思いますが心配しないで下さい。今ここで知って頂きたかったのは我々の身近にある現代医学と中医学とでは根本的に考え方が違うという事を理解して頂きたかったのです。しかも中医学という学問は「天人相応」「陰陽論」「五行学説」といった中国古来の思想の上に成り立っている学問です。{「五行学説」「天人相応」については後に簡単に説明します}ですから「中医学の○○は現代医学の□□だ」といった単純に繋がるものではありません。だからこそ病院で治らなかった疾患が「中医針灸」で治るのです。

しかしながら我々は幼い頃から医学に関しては現代医学の概念で教育を受けていますので、最初はなかなか中医学的な考え方に戸惑いがあると思います。ですからここでは少しでも中医学的な思考を理解して頂く為に、まず中医学から見た健康な身体の状態と不健康な状態を簡単に説明します。

 

*「五行学説」

古代中国の哲学理論です。世の中の全ての物は「木」「火」「土」「金」「水」の五種の基本物質(性質)に分類することができ、その中で生じる様々な変化やその相関関係であらゆることを説明するという考え方です。後ほど病理の方で五行学説の一部を使って説明いたします。

 

*「天人相応」

「天」は自然界を意味し「人」は人体構造や人の生理的や病理的変化を意味します、そして「天」と「人」を作っている要素は同じであるという考え方です。ですから自然現象と人体に起こる変化を結びつける事が可能です。簡単に言ってしまえば「暑くて夏バテした」などといった具合です。これは中医学の大きな特徴の一つで現代医学にはない発想です。つまり中医学では気候の変化と身体の変化を結び付けて考えます。逆を言えば治療も気候の変化を考慮に入れて進行してゆきます。具体的に言えば同じ疾患であっても季節によって使用する薬やツボが違うということです。

 

▼中医学的生理観と病理観▼

◎ 人の身体は何で構成されている?◎

我々は生きる為に呼吸をして食べ物を食べ水分を補給します。現代医学ではこれらが血や肉や骨やエネルギーなどに変わり人を構成する要素へとなってゆきますが、中医学では体内に取り込まれた物は「気」「血(けつ)」「水」を生むと考えます。そしてこれらが人を構成します。では「気」「血」「水」とはいったい何でしょう?

 

【気】・・・全ての源。一口に言えば活力エネルギーの源であり身体を構成する大事な要素です。

中医学では「気」はとても流動的な『物質』と考えています。そして「気」の密度が低く流動性が高い状態の時を『陽』逆に密度が高く流動性が低い状態を『陰』として二分します。「気」の主な作用は飲食物や呼吸によって取り入れた空気をエネルギーに変えたり「血」「水」を身体の隅々まで運んだり、外部からの様々な身体に対する害に対しバリヤを張ったり、身体を温めたり、体から余分な水分(汗・尿・血)が出ない様にしてくれています。

中医学では「気」はとても重要です。その証拠に「天気」「元気」「やる気」「気のせい」など日本語にも「気」という文字を使った言葉が多いですよね。

 

【血】・・・皆さんの知っている血液に近いものですがイコールではありません。

「血」(けつ)の作用は全身に栄養分を行き渡らせています。その他には精神活動を支えています。このあたりは現代医学の血液と違う点です。

 

【水】・・・体内の「血」以外の体液

「水」は本来「津液」と言います。主な作用としては身体を潤しています。

**「血」「水」は身体の余分な熱を下げる作用もしております(車のラジエターの水を想像してください)

 

◎ 健康な身体の「気・血・水」◎

健康な人の身体の状態はこの『気』『血』『水』が多くも少なくもなくバランスよく且つ滞りなく流れている状態です。もう少しイメージしやすいように川に例えてみましょう。

「気・血・水」がバランスよく流れている状態は、あまり人が入って来ないような山の中の清流をイメージして下さい。魚も沢山棲んでいるでしょうし、飲んでもとても美味しく喉を潤してくれるでしょう。次にバランスが崩れた状態を説明します。

 

◎ 「気・血・水」のバランスが崩れた状態◎

1.「気・血・水」が少なくなった状態をそれぞれ「気虚」「血虚」「津液不足」といいます。川に例えれば水量 が減ってきている状態です。雨も降らずに放っておくと大変なことになってしまいます。

2.「気・血・水」の流れに滞りが生じた状態を、それぞれ「気滞」「オ血」「痰湿」といいます。川に例えると流れに淀みが生じヘドロでも浮いている状態をイメージしてもらえればよいかと思います。清流の時は飲む事も出来たでしょうが、同じ川でもこうなってしまったら飲むどころか近付きたくもないですし、逆に人間に害を与えてきます。

 

いかがですかイメージできました?

そして簡単に言ってしまえば針灸治療とはこの崩れたバランスを調整して元のバランスのとれた清流の状態に戻す事をしているわけです。

 

 

▼ 中医学的病気の診たてとは?▼

次に崩れたバランスを元の状態に戻す為に情報を収集します。

まず最初にどのようにバランスが崩れているのかを診ます。つまり「気虚」なのか?それとも「血虚」なのか?はたまた「気滞」なのか?・・・etcですね。

バランスがどのように崩れているのかがわかったら、次はそれが何処で起きているのかを調べなければいけません。例えばその場所が体表なのか?経絡と言って「気」「血」が流れる通 路で起こっているのか?それとも体表ではなくて体の中の内臓なのか?バランスが崩れている場所を特定せねば治療方針は立ちません。因みに「過敏性大腸炎」の場合は内臓にバランスの崩れが起きていることが多いのです。

勿論、原因が何なのかを知ることも大事です。

それと中医学の特徴の一つでもあることなのですが患者さんの体質を知るということも大事なことです。

まだ幾つかあるのですが今回は省略させていただきますが、最終的には

1.「何が原因で」・・・病気の原因(飲食物・ストレス・喜怒哀楽・熱・寒・湿・・・etc)

2.「何が」・・・・・・『気』『血』『水』のどれが

3.「何処で」・・・・・体表・経絡・内臓(臓腑)・・・等

4.「どうなって」・・・どの様にバランスが崩れているのか

5.「どうしたのか」・・症状

これらの情報を収集し患者さんの身体がどのような状態なのかを判断いたします。このようにして決定されたものを『証(しょう)』と言います。『証』とは現代医学の病名に近いものです。ですから冒頭で述べたように「過敏性大腸炎」とは現代医学の呼び方になるわけです。

そして『証』を決定することを「弁証(弁証)」と呼んでいます。次に「論治(ろんじ)」といって決定した『証』に対して治療方法を決めてゆきます。ここまできて始めて使用するツボや漢方薬を選ぶことができるようになります。そしてこの一連の流れを「弁証論治」と言いどんな疾患に対しても行ってゆきます。ですから最初から「この病気にはこのツボ」みたいな単純なものはありません、例えそれが肩こりであってもです。安易にコッテいる場所に針をさしているわけではありません。

 

▼ 中医学的内臓の働き▼

先ほども述べましたが「過敏性大腸炎」の場合、バランスの乱れは内臓に多くみられます。そこで少し中医学的に見た内臓の説明をいたします。よく「五臓六腑にしみわたる」などと言いますが、その五臓六腑の事です。中医学では内臓に現代医学とは別 の働きも持たせています。そこで今回は「過敏性大腸炎」に関係する臓器にしぼり作用と特徴を説明いたします。

 

【脾】

食べた物から「気」「血」「水」を作り肺や心に送ります。又、体内の余分な水分の気化をしています。思い悩んだりすると障害されやすく「気虚」を起こします。又、湿気をきらいます。五行説では「土」の性質を持ちます。

【腎】

体内の水(水液代謝)を管理し脳を栄養したりします。精を貯蔵します。精とは生命の根本をなすもので成長や生殖を支え、両親から受け継いだ『先天の精』飲食物から作られる『後天の精』があります。よく「精が出るね!」などと言いますよね。

【心】

血の循環を行います。「精神活動」を司ります。このあたりも現代医学には無い観点ですね。

【肝】

気血の流れを円滑にします。また血を貯蔵することにより循環血量の調整をします。

五行説では「木」の性質をもちます。「木」はノビノビと大地に根を張り、枝を天高く大きく伸ばします。「木」の性質の「肝」もノビノビした状況を好みます。ですからストレスがかかると肝の気は「気滞」をお越しやすいです。そして「気滞」は熱に変化します。

 

以上が「過敏性大腸炎」に関係する内臓の働きと特徴です。それでは以上の事をふまえて中医学的「過敏性大腸炎」の捉え方を説明してゆきます。

 

 

▼中医学的「過敏性大腸炎」の捉え方▼

中医学では「過敏性大腸炎」は精神的・社会的ストレスの他に過労と食生活にも原因があると考えます。また現代医学では「過敏性大腸炎」と一括りにされていますが、中医学では分類(弁証)の仕方によってだいたい2~8通 りに分類します。これは弁証を大きくするか細かくするかの違いであり、いずれもバランスを崩している臓器は「肝」「脾」「腎」が多いようです。今回は4つに分類してみたいと思います。

 

まず最初に4つの分類を簡単に紹介します。

1.脾の気が不足して起こる・・・・・・【脾虚湿盛証】

2.脾と腎の陽気の不足で起こる・・・・【脾腎陽虚証】

3.脾の気と心の血の不足で起こる・・・【心脾両虚証】

4.肝の気が脾をいじめて起こる・・・・【肝脾不和証】(肝脾不調証)

 

以上の4つの分類になります。

では、それぞれの病因~病機・症状・治則・ツボ・漢方薬の説明をします。

 

**脾虚湿盛証**

【病因病機】

内蔵の特徴で述べましたが「脾」は湿気を嫌います。冷たい物や生ものなどを食べ過ぎると身体のなかで余分な水分を生みます。すると「脾」はこの余分な水分により気の不足をおこします。この状態を『脾気虚』と呼びます。『脾気虚』になれば当然「脾」が行っていた働きは衰えてしまいます。「脾」の作用である水分の気化作用が衰えてしまえば益々体内に余分な水分が停滞してしまい、下痢や軟便が生じます。ひどくなると少量 の冷たい物を口にしただけでも下痢をしてしまったりします。程度の軽いものは皆さんも日常生活で経験があると思いますので理解するのも簡単ではないでしょうか。

【症状】

症状としては脾の機能が低下していますから、冷たいものを口にすると直ぐに下痢になったり、水様状の便あるいは軟便になったりします。またお腹が鳴ったり腹痛がおきたりもします。

【治側】

『健脾化湿』といって脾を元気にさせる(健脾)ことにより余分な湿気を取り除いてゆく(化湿)治療をします。

【ツボ】

『豊隆』『足三里』『陰陵泉』『三陰交』『中カン』『脾兪』『章門』『太白』

【漢方薬】

『二陳湯』『四君子湯』

 

**脾腎陽虚証**

【病因病機】

体質的に虚弱体質や過労や病にかかって時間が経ってしまうと「脾」と「腎」の陽気と言って身体を温める機能が低下してしまいます。勿論「脾」が行っていた飲食物をエネルギーに変える力も減ってしまい、余分な水分を気化する力もなくなります。一方、水を司っている「腎」では「水湿内停」といって水が溜まった状態になってしまいます。

【症状】

身体を温めている機能が低下していますから、全身や四肢又は下腹部の冷えや腎の症状が現れ易い場所である膝や腰に冷痛があったりします。水分代謝に関わる脾と腎の機能が低下していますので長期的な軟便と下痢の繰り返しや、食後すぐに腹痛やお腹が鳴ったりします。又、便は水様状や白い粘液が混じったりします。余分な水分が体内にありますから顔面 や肢体に浮腫が現れます。この証の原因は虚弱体質や疲労ですし体も冷えていますから、冷えや過労で症状は増悪し休んだり温めたりすれば軽減します。

【治側】

『温腎健脾』といって腎を温め脾を元気にすることによって、身体の冷えを取り除き水分代謝の改善をしてゆきます。

【ツボ】

『天枢』『中カン』『足三里』『脾兪』『章門』『関元』『気海』『太谿』『腎兪』『命門』

【漢方薬】

『理中丸』『合四神丸』

 

**心脾両虚証**

【病因病機】

ここで「脾」の働きをもう一度思い出してみましょう。脾は「運化」と言って食べた物から「気」「血」「水」を作り肺や心に送っていましたね。また思い悩むと障害されやすい臓器でもありました。「心脾両虚証」とはストレスなどで思い悩むことにより脾が障害され「運化」作用が低下しておこります。「脾」で「血」が作られず「心」へ「血」が送られて来ないのですから「心」では「血」の不足がおきてしまいます。この状態を『心血虚』と言います。つまり『脾気虚』と『心血虚』が同時に起きている状態です。「脾気虚」ですから脾で「血」「水」を十分作ることができません。「血」「水」は身体の余分な熱を下げていることは前に述べましたが、この証では『陰虚熱』といって「血」「水」の不足による熱状態も現れます。

【症状】

症状としては「心血不足」から現れる不眠・動悸・健忘や夢を多く見るようになったり「脾」の症状である飲食の減少やお腹が張った感じや倦怠感などが現れます。また便の方は緊張すると下痢をしたり、熱症状からくる便秘も現れます。また便秘と下痢を繰り返したりします。

【治側】

『補益心脾』心の血と脾の気を補って症状の改善を行います。

【ツボ】

『血海』『隔兪』『心兪』『脾兪』『足三里』『三陰交』『気海』『章門』『太白』

【漢方薬】

『帰脾湯』

 

**肝脾不和証(肝脾不調証)**

【病因病機】

「過敏性大腸炎」の代表的な弁証です。

臓器の特徴のところで「脾」は「土」・「肝」は「木」の性質を持つと述べました。これは「中医学の説明」で述べた五行学説による分類です。ここで五行学説を使って「肝」と「腗」の関係を説明します。ではまず、自然界において「木」と「土」の関係を考えてみましょう。「木」は成長したり生存するためには「土」から栄養分を吸い取らなければなりません。逆に言えば「土」は常に「木」に栄養分を奪われていると考えます。つまり「土」は「木」に克されている関係であるといえます。五行学説ではこういう関係を「相克」と呼び「土」と「木」の関係は『木克土』(もっこくど)といいます。「肝」と「脾」の間にもこの「木克土」の関係が存在していて「肝」が「脾」を克した時に現れるのがこの「肝脾不和証」(肝脾不調証)です。証名に使われている「和」や「調」は「調和」の意です。肝は健康であれば「気」「血」の流れを円滑にする機能をしているわけですから、本来は「脾」と調和して「脾」が行っている摂取物を「気」「血」に変え上にある臓器(心・肺)に送る作用を補助していなければなりません。しかしストレスなどの原因で肝が障害されれば「脾」との調和が崩れてしまいます。このような状態を「肝脾不和証」(肝脾不調証)と呼びます。

「過敏性大腸炎」の場合ストレスに弱い肝はストレスを受けると「気」の流れが滞りを起こしてしまい、滞った「気」は熱化してしまいます。やがてその影響を「脾」が受けてしまい「脾」は「気」の不足を起こします。

【症状】

症状としては「肝」の「気」が停滞してることによりガスが溜まりやすくなったり、お腹が張った感じや両脇がすっきりしないなどといた不快感が起きたり、イライラや怒りっぽくなったりもします。また気が停滞して熱化したことによる便秘も現れます。緊張やストレス・イライラで症状は増悪します。「脾」の「気」の不足もありますから「脾気虚」からくる下痢も現れます。この証の特徴は症状に便秘と下痢が混在するところにあります。つまり症状としては便秘と下痢の繰り返しになります。

【治側】

『疏肝健脾』といって「肝」を整えて「脾」を建てなおす治療です。

【ツボ】ダン中・内関・中カン・陽陵泉・太衝・脾兪など

【漢方薬】

『逍遥散』『柴苓湯』(小柴胡湯+五苓湯)

 

以上が中医学的「過敏性大腸炎」の捉え方と治療になります。

 

いかがですか?

ここで皆様に理解して頂きたかったのは現代医学では一括りにされている病気でも以上のような違った観点から診ればこのような分類が出来るということです。当然分類がちがえば治療方針も変わってきますし、同じ「過敏性大腸炎」でも使用するツボや薬も違てきます。けして「この病気にはこのツボだ」とか「この病気にはこの漢方薬だ」みたいな単純なものではありません。まして「下痢や便秘だから胃や腸に関係するツボを使えばいい」というものではありません。中医学には「同病異治・異病同治」という言葉があります。同じ病気であっても、患者さんの体質・精神状態・病状・気候などの要素を考慮して治療の仕方が違うこともあれば、異なった病気であても同じ治療になるとこともあるという事です。まさしく患者さん個人個人に合わせたオーダーメイドの医学です。

 

冒頭でも述べましたが現代医学と中医学は同じ医学であっても全くの別 物と思って頂いた方が理解しやすいかと思います。そして違う観点の医学だからこそお互いの苦手とする疾患や患者さんをホローできるのです。まさしく「陰・陽」の関係ですね。ですからこれを読んでおられる方の中で「病院へ行ったけど治らなかった」とか「お医者さんに完治は無理と言われた」からといって諦める前に、もう一度違う観点から病気をみてみてはいかがでしょうか?

では続いて「予防養生」についてご紹介させていただきます。

 

~予防養生編~

 

▼予防養生▼

「慢性腸炎」の病因の多くがストレスということは皆さんもご承知のことと思います。ストレスさえ除去できれば予防養生も簡単ですが、残念ながら現代社会で生きてゆかなければならない我々にとってそれはなかなか難しいことです。少しでもストレス緩和になるような生活を送りたいものです。

さて予防養生ですが、まず便通異常がある方は運動習慣・食事を含めた生活習慣を見直してみましょう。そこで東洋医学的予防養生の中からどなたでも簡単に日常生活に取り入れやすいものだけにしぼり紹介させていただきます。

 

【お茶による予防養生】

『医食同源』という言葉は皆さんも聞いた事があると思います。「食事も医学(薬)と同じである」という考え方ですが実はお茶もこの考え方の延長線上に位 置します。(中国では「医茶同源」と言う言葉があります)

 

≪ストレス解消のお茶≫

ストレスにより滞った「気」を流してくれます。

「ジャスミン茶」・・・ジャスミン特有のさわやかな香りが「気」の滞りを流してくれます

「ミントティー」・・・ミントの爽快感が「気」の滞りを流してくれます

「刺五加茶」・・・・・免疫力を高めて体力を整えてくれます

「しそ茶」・・・・・・「気」を流して精神を安定させてくれます

「西洋おとぎり草茶」(セント・ジョーンズ・ワート)坑うつ薬などとの併用は不可です。又、喘息薬を服用されている場合は医師への相談が必要です。

 

≪体を温めてくれるお茶≫

「杜仲茶」・・・・肥満や高血圧にも効果があり、カフェインが含まれていないため寝る前に飲んでも大丈夫です。又、美肌にも効果 があるそうです。

「紅茶」・・・・・ミルク・ショウガ・ハチミツ・シナモンなどを入れてお試し下さい。

「ウコン茶」・・・血行促進効果もあります。カレーの「ターメリック」と同じ原料です。

「よもぎ茶」・・・こちらも血行促進効果があります。民間薬として昔から親しまれています。

 

≪下痢に効果のあるお茶≫

濃い目に煎れた煎茶・玉露があります。ただし、緑茶は体を冷やしますから温めて飲むことをお勧めします。

 

≪便秘に効果のあるお茶≫

「決明子」・・・高血圧で便秘な方にお勧めです。

「アロエ茶」・・取り過ぎると体を冷やしますので注意して下さい。

「センナ」

 

 

【食べ物・飲み物による予防養生】

まず、暴飲暴食はやめましょう。又、腸内の細菌叢の改善にはヨーグルトなどの乳製品を取りましょう。緑茶や紅茶に含まれるカテキンは腸の病気の病原菌を殺菌してくれます。ただし、緑茶は体を冷やしますので注意して下さい。くず湯なども腸の働きを整えてくれます。では東洋医学的に具体的に紹介してゆきます。

 

≪体に元気を与えてくれる食べ物≫

「気」が不足することによって下痢を起こしたり、体を温められなくなったり、大便を押し出せなくなり便秘を起こしたりしますので、まず『補気』といって「気」を補ってくれる食べ物を紹介します。

さつま芋・えんどう豆・そら豆・豆腐・かぼちゃ・椎茸・なつめ・りんご・貝柱

 

≪ストレス解消になるたべもの≫

次にあげる食べ物は滞った「気」を流す作用があります。

*魚介類 

かき、あさり、かに、しじみ、しらす、しゃこ

*野菜

みょうが、三つ葉、春菊、パセリ、セロリ、しそ、小松菜、キャベツ菊の花、にら、ねぎ

からしな、大根、かいわれ大根、かぶ、カリフラワー、おかひじき、グリンピース、

たまねぎ、つるむらさき、にがうり、もやし、らっきょ

*果物  

金柑 レモン、グレープフルーツ、みかん、ゆず、いちご

*その他

牛乳、しょうが、こしょう、八角

 

≪下痢について≫

人は汗をかくと口渇になりますが、下痢の場合は水分が身体から出てもあまり口渇感がありません。ですから脱水症状を起こすこともありますので意識的に水分補給をしましょう。ただし、体を冷やさない飲み物を選んで下さい。下痢は冷えから起こる事が多いですから体を冷やす食べ物にも注意して下さい。皮をむいたりんごを薄い輪切りにし柔らかくなるまで煮て、それをつぶしてハチミツを入れて温めて食べるのもよいでしょう、下痢止めの効果 があります。また、ショウガは内臓を温める作用がありますし、シソは大腸・小腸を正常にしてくれます。

 

≪便秘について≫

食物繊維を取るようにして下さい:穀類・イモ類・海草類・根菜類・きのこ類などです。またアロエの皮を中のゼリーを食べたり、皮は擦ってハチミツを入れて飲むのも効果 があるといわれています。

 

 

【ツボによる予防養生】

まずツボの押し方を説明します。

1.リラックスできる時間と場所を選びます。

2.「痛いけど気持ちがよい」くらいの力でお腹から息を吐き出しながら押します。

3.押す力をゆるめる時に息を吸います。

4.何回か繰り返し押し手下さい。

5.ツボ押しをしている間は指を皮膚から離さないようにしましょう。

またツボ押しをる前には指を温めておくことも忘れずに。

 

≪ストレス解消のツボ≫

・「内関」・・・内側の手の関節から指3本分上にあります。

・「太衝」・・・足の甲で親指と人さし指の接合点、甲の一番高い部分の手前のへこみです。

 

≪胃腸を整えてくれるツボ≫

・「中カン」・・・みぞおちとへその真ん中にあります。

・「足三里」・・・膝の皿の外側、指4本分下がった所にあります。

・「梁丘」・・・・膝の上約2.5センチの太ももの外側にあります。

 

 

【その他に注意すること】

腸は自律神経の影響を強く受けていますので自然のリズムを崩さないようにしましょう。夜更かし・喫煙・深酒は慎みましょう。

冷えがある場合は肩甲骨と肩甲骨の間や臍の下などをホカロンなどで温めると楽になります。

 

 

簡単に生活に取り入れることができるものだけにしぼり紹介させていただきましたが、最初は自分に出来そうな簡単なものから少しずつやってゆくのが宜しいかと思います。

 

 

簡単ではありましたが中医学的「過敏性大腸炎」について説明させていただきました。なんとなく中医学的観点がわっかって頂けましたでしょうか?

冒頭でも述べましたが、「東洋医学」という言葉自体には馴染みがあっても、その内容となるとなかなか理解されておられる方はいらっしゃいません。しかも残念なことに国内において中医学を専門に治療を行っている治療院も数える位 しかないのが現状です。

近年、現代医学は目まぐるしく進歩しており、一昔前では治せなかった疾患もだいぶ治せるようになってまいりました。しかしながら、まだまだ現代医学が苦手としている疾患もあることは事実です。そして現代医学とは別 の医学があることを知らずに、そのような疾患に悩まされている患者さんも意外と身近に数多くいらっしゃいます。現代医学とは違う観点で診ることで症状の改善或は完治の可能性は広がると思います。

我々は中医学がさらに浸透して、このような患者さんが少しでも楽になられることを切に願っております。

「過敏性大腸炎」、その他の症状でお悩みの方や針灸・漢方全般に関する事で質問等がございましたらお気軽にご相談ください。

当院では漢方専門薬局へのご紹介、或いは保険漢方を出して頂けるクリニックへの紹介状もお出しします。

 

「病気別、わかる東洋医学診断」の過去のページには月経痛(月経困難症)・月経不順・アトピー性皮膚炎・耳鳴り・腰痛・鬱病などを紹介しております。

2019/03/11
【内科疾患】血尿・血便について

尿や便は、身体の健康状態を表す重要な指標です。

現代医学においても内科などでは、その状態は問われますが、それ以上に中医学では何科を受診しても、大抵、尿や便についての問診があります。

 

それは何故かというと、尿や便の状態には、その患者さんの病気の状態や、基本的な体質が反映されているからです。

中医学では、身体全体の様子を把握した上で、全体的にバランスの良い治療をしていきます。

 

最近は洋式のトイレが増えてきたため、自分の普段の尿や便の様子を知らない人が多いですが、日頃の健康管理のために、目で見ておくことをお勧めします。

 

血尿や血便は、自覚症状として気づく前に定期健診などで見つかることが多いようです。

見た目に色が普段と違うときも同様に、身体の中の何かしらの異変を表しているわけですし、何かの病気の場合もありますが、一過性で心配のない場合もありますから、早めに医療機関を受診しましょう。

 

 

<中医学的考え方>

 

中医学では常に、表面的な症状だけではなく、根本的な原因を重視して治療を行います。

身体の働きの全体的なバランスを整えていくことで、健康で活力のある身体づくりをしていきます。

なぜ、中医学では現代医学と違って、身体全体のバランスを整えることができるのかと言うと、基本的な身体の働きに関する考え方が違うため、おのずと治療法も違うからなのです。

詳しいことは、病気別わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段に中医学で考える身体のしくみについて書いてありますので、

「わかりやすい東洋医学理論」をご覧下さい。

 

中医学では身体のみかたが根本的に西洋医学とは違います。西洋医学では身体を細かく分析し、細胞レベルでとらえますが、中医学では身体を大きく捉えて、小宇宙であると考えます。地球は大宇宙に存在する小宇宙の一つです。これと同じように地球からみれば、身体は小宇宙といえるのです。

宇宙に存在するものにはすべて意味があり、無駄なものはひとつもありません。

それぞれが、互いに影響しあいながら、バランスを保ち、大自然の法則に従って動いているのです。人間も同じように体内に存在するものすべてが重要な意味を持ち、個々の臓器も、互いに影響しあい、バランスを保って、健康を維持しているのです。

 

小宇宙である身体を構成し、生命活動の源として働くものは『気・血・水』です。

気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器(五臓六腑)も、うまく働くことが出来、健康でいられると考えます。

 

○「気」・「血」・「水」について

<気>

気は人間が活動するために必要な基礎物質です。そのため気の働きは様々です。

主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。

 

<血>

血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます。

ここにも中医学独特の概念があり、血は精神活動の栄養源でもあります。

ですから血の不足は精神不安や不眠を発症させます。

また、身体が熱くなりすぎないように冷却する働きもあります。

 

<水(津液)>

水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。

主な作用としては 身体の各部所に潤いを与えたり、血と同様に冷却する働きもあります。

 

この「気・血・水」の3つが、充分にあり、スムーズに流れていると、健康な状態が保たれます。

これらが停滞したり、不足したりすると、不調をきたし、様々な症状がでてきます。

 

○臓腑の働き

五臓六腑というのが東洋医学の考える内蔵のことです。

西洋医学のそれとは異なり、中医学では内臓を物体として区別するのではなく、働きで区別 します。

主な働きとして、六腑は飲食物の消化吸収を行い、五臓は栄養分から「気・血・水」を作り、運んだり、貯蔵したりしています。

 

五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の事で、

六腑は「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」の事です。

 

各々の臓腑には西洋医学と同じような働きをするものや、全く違う働きをするものもあります。同じ臓腑の名前を使ってはいますが、中医学では臓腑の働きに注目していますので、名前が同じでも、全く同じ物を指しているわけではありません。

 

今回のテーマで関係深い臓腑は「心」・「脾」・「腎」です。

 

「心」: 中医学でいう「 心 」は西洋医学と同じ血液ポンプとしての役目に加えて、思考・精神作用の中枢とされています。

心を養う栄養物である血や体液(陰)・気(陽)などが充実していると精神的にもいい状態でいられます。この「陰」は冷やす作用があり、陽は温める作用があって互いにバランスを取り合っています。

 

「脾」:

1.食べたものをエネルギー(気・血・水)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。

この働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能が低下してしまいます。

 

2.エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。

この働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。

 

3.血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。

この働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。

 

「腎」 : 生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。

「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。

このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。

「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。

このエネルギーが足りなくなると、骨や歯がもろくなる、耳が遠くなる、髪が薄くなったり、白髪が多くなったりします。

 

 

○タイプ別にみた血尿・血便

 

【血尿】

 

1.心火による血尿

主症状:

小便が赤く熱感がある。

随伴症:

顔面紅潮・喉の渇き・不眠

舌脈像:

舌尖紅・脈数

病機 :

「心」の陰陽バランスが崩れて、陰(冷やす作用)が弱くなった結果 、「心」に熱が起こり、「心」と関係深い「腑」である小腸に熱が移ったため、血尿が起きた。

治法 :

清心瀉火・止血

「心」の陰陽バランスを整えて、熱症状を鎮め、止血する治療をします。

 

2.脾腎両虚による血尿

主症状:

小便頻回・淡紅色の血尿

随伴症:

倦怠・顔面が黄色っぽい・腰背部がだるい・めまい・耳鳴り

舌脈像:

舌質淡・脈細

病機 :

疲労しすぎたり、長く病気をしていたりすると、脾と腎の働きが弱まり、統血作用・固摂作用(必要以上の血液が体外に漏れでないようにする)が弱まり血尿が起こる。

治法 :

健脾益腎・補気摂血

「脾」の働きを良くし、気を補って血が漏れ出ないようにします。

 

 

【血便】

 

1.湿熱による血便(血熱内蘊)

主症状:

便は鮮紅色・先に血が出て、その後便が出る。すっきり排便しない。

随伴症:

肛門の疼痛・腹痛

舌脈像:

舌苔黄膩・脈濡数

病機 :

脂っこいもの甘いもの味の濃いものをとりすぎたり、お酒を飲みすぎたりすることにより、脾胃の働きが悪くなり、「湿熱」※が生じる、または、外界から「湿邪」※が身体に襲来して、これが大腸に移行して損傷が起こり、 血便が起こる。

※「湿熱」:飲食の不摂生などにより、湿が内生し、滞って、熱化した状態です。

※「湿邪」:外因のうちのひとつで、体外から侵入する病因物質。

湿邪の特徴は気機を阻害しやすく脾胃の陽気を損傷しやすい、重濁・粘滞の性質があるなどです。

治法 :

清熱化湿・涼血止血

「湿」を身体の外に出し、熱を下げ、止血します。

 

 

2.脾胃虚寒による血便

主症状:

下血・色は紫暗色または黒

随伴症:

腹痛・顔色が悪い・精神不振・下痢

舌脈像:

舌質淡・脈細

病機 :

長く病気を患い、「脾」の力が低下し、統血作用(血が対外に漏れでないようにする作用)がうまく働かず、血が腸からもれ出て血便が起こる。

治法 :

温中健脾・養血止血

身体を温め、「脾」の働きを良くして、統血作用(血が体外に漏れでないようにする作用)がうまく働くようにし、止血します。

 

 

以上のように、中医学的治療では、病気の『原因』を見極め、根本から治していくので、再発しにくくなり、体調も全体的にバランスが良くなっていきます。

 

体調の不調は身体からのメッセージです。その声をむやみに封じこめることなく、根本を見直し、真の健康に近づいていくきっかけにして下さい。

心の底から明るい笑顔で生活することが出来るようになります。

中医学は身体と心に優しい医学です。是非一度ご相談下さい。

 

2019/03/11
【その他】診察シュミレーション 花粉症1

●診察シュミレーション ~花粉症編~ ●

慢性症状・難治病でお悩みの方、真の中医学(東洋医学)、真の診断と治療を理解していただけると思います。

 

◇はじめに◇

現代医学の発展はめざましいものがあります。

皆さんも病院で検査などを受ければ、その検査データーの精密さや検査機材の進歩にお気づきになると思います。

現代医学では患者さんの病気を調べる手段に様々な検査が用いられております。

例えば、血液検査・レントゲン・CT・超音波・・・など、その症状により様々な検査がございます。

このように医師は検査データーや画像をみて患者さんの状態を把握します。

それに対して鍼灸師は上記の様な検査は一切行いません。

皆さんは鍼灸師が検査機材などを使用しないで、どうして病態を把握することができるのか不思議に思うかもしれません。

しかし、中医学による施術を行っている治療者は、現代医学と同様に患者さんの病態を把握して、治療方針を考えてから治療にあたります。

ただ病んでいる部位や痛い箇所に針を打つだけではありません。

一般的な鍼灸院の言う「東洋医学」と、我々が言う「中医学」とは全くの別 物です。

中医学の治療というのは、先ず「弁証」を立てます。

「弁証」とは簡単に言ってしまえば、患者さんの体の中の、現代医学では出てこないエネルギーバランスの崩れ具合をみて、病気の原因や性質や進行状態などを見極めることです。

「弁証」が立てられたら、それに基づいて治療方針を決め、治療方針が決まったら、それを基に使用するツボを決めていきます。

つまり、治療の第一段階は「弁証」を立てることから始まります。

その「弁証」を立てる手段が『四診』と言われ、現代医学の検査と同様のものです。

『四診』とは「望診」「問診」「切診」「聞診」の総称です。

 

①「望診」とは、患者さんの顔色や舌の状態みて疾病の状況を判断するものです。

 (舌の形状や苔の具合で寒熱や活力量の過不足などを判断します。)

 

②「問診」とは『四診』の中でも重要な診察法で、患者さん本人や付き添いの方に病気のことは勿論の事、生活状況・家庭環境・性格・睡眠状況・など様々な質問をさせて頂き、そこから疾病の状況を判断するものです。

当院に来院された患者さんはお気づきだと思いますが、当院においても「問診」は重要視しており、初診時には「問診」のみに30分位 かける事も珍しくありません。

③「切診」には〈脈診〉と〈按診〉があります。

 

1)

〈脈診〉とは脈拍を診察することですが、現代医学の〈脈診〉と、我々の〈脈診〉とでは内容がやや違います。

我々の脈診は脈拍数や不整脈の他に、脈の強弱・浮き沈み・太い細い・脈の触れ方、などを観察します。

それにより、体の活力具合・体の寒熱などを見極めます。

 

 

2)

〈按診〉とは患者さんの皮膚・手足・胸腹部などを、撫でたり・押したり・触ったりして、しこり・圧痛・温度・湿り気などを観察します。

④「聞診」とは、患者さんの発する声や臭いから、患者さんの疾病の状況を判断します。

 

上記に挙げた4つの診断法は独立するものではなく、これら全ての方法により情報を収集し、総合的に患者さんの体の中でどのような歪みが生じているのかを振り分けます。

このようにして振り分けられたものが、先程紹介した「弁証」です。

 

では実際にどの様に『四診』が行われ、どの様に「弁証」を立てていくのかをシュミレートしてみたいと思います。

 

第一回の今回は「花粉症」の四診をシュミレートしてみたいと思います。

そこで、できるだけ理解しやすいように、東洋医学の基礎的な理論についてと花粉症についての詳しい説明が、こちら『病気別 ・わかる東洋医学診断』の「わかりやすい東洋医学理論」と「花粉症について」に記載されておりますので、そちらを先にお読みになられてから、この後をお読みになることをおすすめいたします。

 

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