コラム

2019/03/11
診察シュミレーション・突発性難聴・-1

●診察シュミレーション ~突発性難聴Ⅱ~ ●

慢性症状・難治病でお悩みの方、真の中医学(東洋医学)・真の診断と治療を理解していただけると思います。

 

今回で4回目になります「診断シュミレーション」は前回に引き続き「突発性難聴」を紹介したいと思います。

前回の症例はストレスが原因となり起こった「突発性難聴」でしたので、今回は違うタイプの症例を紹介いたします。

 

尚、「突発性難聴Ⅰ」をまだお読みでない方は、診察の基礎的な知識などを

「突発性難聴Ⅰ」の方で説明してありますので、先ずそちらからお読み下さい。

 

▼シュミレーション▼

 

Ⅰ、治療者は問診に入る前に患者さんに書いて頂いた問診表と質問表に目を通 します。

問診表には以下のことが書かれてありました。

 

 Bさん 男性  38歳  T160  W57

 初診:H19年11月4日

 

【主訴】

1年位前から、耳が聞こえづらい。

病院では突発性難聴と言われたが、色々検査をしても異常は見つからない。

又、過去に大きな病気やケガはしていない。

 

次に質問表を見ると、特にチェックはありませんでした。

 

Ⅱ、問診表と質問表に目を通し終えたら、患者さんに問診室へ入ってもらいます。

問診表の身長体重のデーターからもわかるように、小柄な男性が入ってまいりました。

年齢のわりには白髪が多いようです。

椅子に腰を掛けていただき挨拶を交わしました。

身のこなしや顔色・表情からは特に異常は感じられず、声にも力がありますし、体臭や口臭も無いようです。

 

さてここで、治療者が問診表に目を通してから患者さんが問診室の椅子に腰掛けるまでにどの様な事を考えていたのか、頭の中を覗いてみましょう。

 

【1-1問診表】

前回の「突発性難聴Ⅰ」の時にも説明しましたが、問診表を見て患者さんの主訴が「突発性難聴」であることを確認すると、「突発性難聴」を引き起す原因と特に関係の深い臓腑は中医学的に何があるのかを考えます。

先ず原因となるものには、外傷・ストレス・怒り・思い悩み・偏食・長患い・疲労・老化・過度な性行為や自慰行為・先天の不足、などが考えられます。(先天の不足については後で説明いたします。)

次に関係のある臓腑は「肝」「腎」「脾」「胃」などが挙げられます。

又、これも前回説明いたしましたが、中医学では一般的に病気を「虚証」「実証」「虚実挟雑証」の3つに大きく分類しました。

又、「虚証」と「実証」では原因から病気の成り立ちや特徴に大きな違いがありました。

ですから、「虚証」と「実証」の判別はとても大事なことと同時に、その後の問診時間の短縮に繋がりますので、問診の初段階では病気の原因追求と虚実の判別 をしてゆきます。

 

 ではもう一度、問診表を見てみましょう。

問診表から得られる患者さんの情報は、

①1年位前に発症。

②病院では「突発性難聴」と言われたが、検査では異常はない。

③年齢

④大きな病気・ケガはしていない。

 

 では、細かくみていきましょう。

 

① 1年位前に発症。

「実証」には発症が急であるという特徴があります。

反対に「虚症」は徐々に発症する特徴があります。

前回も述べましたが、問診で患者さんに発症した日時を尋ねると、「実証」の患者さんは急に発症しているため、発症日時を記憶していることが多く、逆に「虚症」の患者さんの場合は徐所に発症することが多いので、日時を特定できず「だいたい○○頃」とか「気付いたら発症していた」とお答えになる方が多いのです。

又、通常は病気が長期化すればするほど影響を受ける臓腑も増してきますし、最初は実証であっても虚症へと変化している場合も多々あります。

更にもう1つ、発症してから初診日まで1年間あるということは、その1年の間の症状の変化などがあれば、そこから「虚・実」や「誘発素因」の情報が得られる可能性があるということです。

これは以降に必ず質問しなければならない項目です。

 

② 病院では「突発性難聴」と言われたが、検査では異常はない。

現代医学と東洋医学(中医学)の大きな特徴の違いの1つに、病気の捉え方があります。

現代医学は「ミクロの医学」と言われ、科学技術の最先端の検査機器を用い、病気を出来るだけ細かく捉えます。

それに対して東洋医学はマクロの医学といって病気を大きく捉えます。

このことにより、両医学には得意分野と不得意分野が存在します。

例えば、外科的処置などが必要な場合であれば、現代医学の方が治療は早いと思われます。

日本の現状では、難治性の病に侵された患者さんの場合、ファーストチョイスはやはり病院です。

鍼灸院には、様々な治療を受診したが良い結果が出なかったので訪れるといった患者さんが殆んどです。

しかし、まれにファーストチョイスとして、鍼灸院を訪れる患者さんもおられます。

このような患者さんの場合は「四診」を行いながら、現代医学の角度からも病状を診て、病院に行かれた方が早く完治すると判断すれば病院への受診をおすすめします。

我々は患者さん全てに対して中医鍼灸治療を行うわけではなく、その患者さんにとって最良の治療手段の提案もさせていただきます。

Bさんの場合は病院で検査を全て行って異常が無いと言われていますので、東洋医学の出番と言えます。

 

次に、Bさんが病院へ行ったのはいつごろなのかも気になります。

例えば、1年前に急に発症して慌てて病院行ったのか?

あるいは最近になって病院へ行ったのか?もしそうであるなら最近になって病院へ行った理由は何故か?

又、発症して1年も経っているのに何故今頃になって鍼灸院へ来院したのか?

その理由に病気の発症原因や誘発素因が隠されているかもしれませんので、これらについても質問する必要があります。

 

因みに病院で使われる病名はあくまでも現代医学の診立てによって付けられる診断名です。

それは我々が行っている中医学とは全く違う診立てであります。

ですから、中医学には「突発性難聴」という弁証名はありません。

我々は現代医学の診断名を参考にはいたしますが、それによって治療方針を考えるといったことはいたしません。

逆に皆さんが何処かの治療院へ行かれた時に、そこの先生が病院で言われた病名を聞いただけで、しっかりとした問診もせずに治療を開始したとしたら、その先生は東洋医学や中医学を、しっかりとは学ばれていないと判断された方がよいかと思います。

 

 さて話をもとに戻しましょう。

 

③ 年齢。

「突発性難聴」の原因の1つに「老化」があります。Bさんは38歳ですから、原因から老化は外せます。

しかし、もし38歳のBさんに老化の特徴となるものが現れていたとすると、それは何らかの原因として考慮しなければなりません。

 

④ 大きな病気・ケガはしていない。

このことから、原因の中から「長患い」「外傷」を外すことが出来ます。

 

【1-2質問表】

次に、質問表ですが、Bさんは特にチェックを入れていませんでした。

チェックが無いからといって、Bさんに質問表に書いてある症状が無いと思ってはいけません。

質問表ついては、細かくチェックを入れてくれる患者さんもいますが、逆にあまりチェックを入れてくれない患者さんもおります。

このような患者さんには2つのタイプがあります。

先ず1つは、質問表は冒頭で述べたように、様々なチェック項目があります。

患者さんが質問表にあるような症状と、ご自分の主訴とは無関係と解釈してしまい質問表をあまり重要視せずに、チェックを入れていない場合。

しかし、中医学では一般の方が考える体の成り立ちや病気の機序とは全く違う観点でそれらを捉えます。

ですから、一般の方が無関係だと思うような症状が、実は深い関係であったりすることが、よくあるのです。

もう1つは、患者さん本人が症状に気付いていない場合もあります。

このようなタイプの患者さんは、ちょっとした体の不調には気付かずに過ごしてしまい、症状が悪化してから病院や治療院へ来られる方が多いようです。

 

いずれのタイプにせよ、質問表にチェックが無い場合は、問診時に質問表にある項目を再度訊いていかなければなりません。

 

 治療者は以上の事を頭に入れて、患者さんを問診室へ招き入れます。

 

【2-1入室~着座】

治療者は患者さんが問診室へ入って来る時から先ほど説明した「望診」と「聞診」を開始しており、患者さんから発せられる情報を得ております。

具体的には体型・身のこなし・顔色・顔から受ける患者さんの気質などチェックしており、更に患者さんの発する声や臭いにも気を配っています。

ではこの患者さんの場合はどうだったのでしょうか?

治療者が気にとめた点をまとめてみましょう。

① 体格が小柄。

② 年齢のわりに白髪が多い。

ほとんどの皆さんは、体格や白髪と「突発性難聴」とは無関係ではないかとお考えになると思いますが、中医学では関係する場合があります。

 

 では、それぞれについて細かく考えてみましょう。

 

① 体格が小柄

小柄な体格の人全てに体の異常があるという訳ではありませんが、「四診」を行う上では、たとえ少ない可能性でも疑っていかなければなりません。

その原因は幾つかありますが、ここでは代表的なものを2つ紹介しましょう。

1つは、「脾胃虚弱」が考えられます。

これは成長するために必要なエネルギーは、食べた物から作られるのですが、「脾胃虚弱」のため、エネルギーを飲食物から吸収できなくて成長に必要とするエネルギーが不足して小柄になってしまうものです。

そしてもう1つは「腎精の不足」によるものが考えられます。

「精」とは{人体を構成し生命活動を維持する基礎物質の1つ}と定義されるものです。

定義だけ聞くと難しいのですが、そんなに難しいものではありませんので説明します。

「精」は大きく「先天の精」「後天の精」に2分されます。

先程の飲食物から作られるエネルギーは「後天の精」と呼びます。

それに対して「先天の精」とは、産まれた時に既に備わっている精で、両親から受け継いだものです。

そして、これらの精を貯蔵しておく場所が腎で、腎に貯蔵されている精のことを「腎精」といいます。

精には様々な働きがありますが、特に「先天の精」は、人体形成の基礎となり、生殖・成長・成熟・老化に深く関与します。

(これらは現代医学でいう、DNAやホルモンといったものに近い存在です。)

以上の事から、「先天の精」が少ない場合、成長が他の人に比べやや劣る場合があります。

先程「突発性難聴」の原因にありました、「先天の不足」とは、生まれつき「先天の性」が少ないことをいいます。

 

では、これらの原因をどの様に判別するかというと、随伴症状を訊いていけばわかります。

「脾胃虚弱」の方であれば、「軟便」「食欲不振」といった、脾胃が損傷している特長的な症状が現れますし、腎精が不足してる場合は、「早期の老化」「膝や腰の不調」といった、何らかの腎精不足の症状が現れます。

 

ですから、これらについては後ほど問診時に質問する必要がありそうです。

 

② 年齢のわりに白髪が多い

白髪は老化の特徴的な現象です。Bさんの年齢で老化は少し早すぎます。

これは先程説明した「先天の不足」と関係があるかもしれません。

 

問診に入る前に、今まで得た情報をまとめてみると、

① 先ず発症の原因についてはこれといって特定できる情報はありませんでしたが、老化・長患い・外傷、については除外していいでしょう。

② 臓腑の損傷については、今のところ「脾胃虚弱」と「腎精の不足」の可能性があります。

③ 虚実については実証の情報はありませんでした。虚症については若干の可能性があるようです。

 

今の段階では上記の情報を得ております。

しかし、診察はまだ始まったばかりですので、上記の情報がBさんの身体のバランスの崩れと繋がるものとは限りませんので、あくまでも参考程度にとどめ、あまり固執しないように注意をしながら問診を開始します。

 

それでは問診の様子をみてみましょう。

Ⅲ、先ずは「突発性難聴」を発症させた原因。虚実・寒熱といった病気の性質などを探る為に、発症当時についてや、発症時から初診日までの間の症状の変化について質問したところ、次の様な答えが返ってきました。

① 自分ではこれといって発病の原因はわからないが、大体1年前位からいつの間にか耳が聞こえづらくなっていた。

② 耳が聞こえづらくなってから今日に至るまでの1年間では症状に大きな変化は無いが、 徐所に症状が悪化している気がする。

③ 季節や天気の影響も無く、温めても寒いところへ行っても変化はない。

又、休んでも疲労しても変化はない。又、かがんだり、立ち上がっても症状に変化は無い。

 

Ⅳ、次に発病の原因を探るために、発症以前に耳に何か異常があったか質問してみたところ、次の様な答えが返ってきました。

① 発症前に耳の周辺に張ったような感じは無かった。又、耳がつまった様な感じや痛みも無かった。

② セミの鳴くような耳鳴りが若い頃から今だにあるが、それほど大きな音ではないので気にとめていな。

③ 特に耳が聞こえづらくなり始めたのは1年位前であるが、今から思うとそれ以前から徐々に聞こえづらくなっていた気がする。

④ 病院へ初めて行ったのは半年前で、その理由は症状が徐々に悪化してきており、電話の声が聞き取りづらかったりと生活にも支障が出始めてきたからで、鍼灸院へ来た理由は病院へ行っても症状の改善が無かったため。

 

Ⅴ、次に耳鳴りについて詳しく質問したところ、次の様な答えが返ってきました。

① セミの鳴く様な耳鳴りは今だに続いている。

音の種類としては、セミの鳴く様な音で低く細い。

重く濁った音ではなく、ヒューヒューという音でもない。

音量は気にとめるほど大きいものではない。

② 耳鳴りは夜間に増悪する気がする。

③ 耳を按じると症状は軽減する。

④ 難聴と同様に季節や天気の影響も無く、暖めても寒いところへ行っても変化はない。

又、休んでも疲労しても変化はなく、精神的な変化やストレスや怒りによって症状が変化することもない。

 

?、最後に随伴症状や生活習慣について質問をしたところ、次のような答えが返ってきました。

① 最近、性機能の減退や物忘れがある。(難聴発症後から)

② 前から足腰がだるかった。(耳鳴りの発症以前から)

③ 子供のころから歯が弱く、身体が小さかった。

④ 立ち上がっても症状は悪くはならない。

⑤ 倦怠感・気力が萎える・食欲不振・軟便、といった事は無い。

⑥ 飲酒はしない、偏食もなくバランスよく食べている。

⑦ 胸が張る感じ・口が苦い・頭痛、咽の渇き、便秘や乾燥便といったことは無い。

⑧ 精神的な変化やストレスや怒りによって症状が変化することもない。

⑨ 頭が重い感じや胃脘部の張った感じは無い。痰も無い。

⑩ 動悸・不眠・息切れ・風邪をひきやすい、といったこともない。

 

 最後に舌診と脈診をしたところ、

 舌質は淡く、苔は少ない。脈は細く弱い。

では、患者さんの答えや、脈・舌から、治療者がどの様に弁証を立てるのか

又、治療者の頭の中を覗いてみましょう。

 

【3-1、発症当時についてや発症時から初診日までの間の症状についての問診】

この問診の答えをまとめると、

① Bさん自身では発病の原因はわからない。

② 1年前位前からいつの間にか耳が聞こえづらくなっていた。

③ 発症からの1年間では症状に大きな変化は無いが、徐所に悪化している気がする。

④ 季節や天気の影響も無く、温めても寒いところへ行っても変化はない。又、休んでも疲労しても変化はない。

以上の4点です。

 

 それではそれぞれについて説明してゆきましょう。

 

① については、先ず外傷の否定になります。更に②③は「虚症」を意味します。

問診表の説明のところで述べましたが、虚症の特徴は徐所に発症することが多いので、虚症の患者さんは日時を特定できず「だいたい○○頃」とか「気付いたら発症していた」とお答えになる方が多いのです。Bさんの場合も「1年前位 前から~」と言っております。

又、病気が長期に渡る場合、実証の症状は急激に良くなったり悪化したりするという特徴があります。

逆に虚症の場合は症状があまり変化しないか、変化する場合も徐所に変化するといった特徴があります。

やはりBさんは「1年間では症状に大きな変化は無いが、徐所に悪化している気がする。」と言っています。

 

④ の質問は病気の原因や誘発素因を探る質問です。

例えば、梅雨時期に症状が悪化するのであれば、症状を悪化させる要因に湿気が考えられますし、夏であれば熱、冬であれば冷え、秋なら乾燥などとかんがえられます。

又、温めたり、冷やすことによって症状に変化があれば誘発素因がわかります。

これらがわかることにより病気の原因を知るヒントになることもありますし、病性といって病気の性質がわかりますので、弁証を立てる際や治療方法の選択の際に参考となります。

Bさんの場合は、季節の変化や、寒熱の変化はありませんから、これらが誘発素因にはなっていないようです。

又、休んでも疲労しても変化が無い・又、かがんだり、立ち上がっても症状に変化は無い。

とありますが、これは虚実を問う質問です。虚症の場合は疲労すると症状が悪化し、休息すると症状が軽減する傾向があります。

特に脾胃の損傷による難聴の場合の特徴です。

 

今回の問診をまとめてみると、②③は虚証を意味しており、④のみが虚証を否定しておりますので、今の段階では「虚症」の可能性が高いようです。

 

では次の問診をみてみましょう。

 

2019/03/11
【内科疾患】糖尿病について

心臓病、脳卒中、高脂血症、肥満、高血圧と並んで、生活習慣病のひとつに数えられる糖尿病。

日本人の食生活が豊かに、そして欧米化になるとともに増加の一途をたどっています。決して人事の問題ではなく、身近に潜んでいる病気なのです。

しかし、糖尿病は、初期であればコントロール可能な病気であり、主治医は患者さん自身になるのです。

患者さんと医師との連携作業ではありますが、いつ何を食べるか、運動するか、糖尿病薬を実際にどのように飲むか、注射するかは最終的に患者さん自身にかかっています。

将来、合併症が起こるリスクを少しでも減らすために糖尿病への知識を高めて、体調を良い方向にもっていきましょう。

 

中医学において糖尿病は、「消渇」という病名で認識されています。

その主症状は三多一少(多飲、多食、多尿と体重減少)と表現されています。

古来より詳しい観察がなされてきましたが、血糖値に関する測定手段はなかったので、高血糖という認識はなかったと思われます。

しかし尿甜(尿が甘い=高血糖)などの症状から、現在でいう高血糖が想定されていた可能性があると思われます。

以下にくわしく、中医学的な糖尿病の捉え方、タイプ別の治療法・日常生活の過ごし方をご紹介していきたいと思います。

 

▼西洋医学的糖尿病の診断・検査・治療法▼

糖尿病には、自己免疫異常などの関与が考えらている1型糖尿病と、遺伝や生活習慣などが原因で発症する2型糖尿病があります。

2型糖尿病(以下糖尿病)は血液中のブドウ糖(血糖)が正常より多くなる病気です。初期の頃は自覚症状がほとんどありませんが、血糖値が高いまま放置しますと、徐々に全身の血管や神経が障害され、いろいろな合併症を引き起こします。

 

<糖尿病の原因>

遺伝、高カロリー、高脂肪食、運動不足などにより引き起こされるインスリンの作用低下が原因で起こります。

インスリンは、すい臓から分泌されます。

<インスリンの働き>

糖分を含む食べ物は唾液や消化酵素でブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収されます。

食事によって血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌されます。

ブドウ糖が筋肉などに送り込まれエネルギーとして利用されます。

「インスリンの作用不足」が起こると、血液中のブドウ糖を上手に処理できなくなり、血糖値の高い状態が続くようになります。

■では、なぜインスリンの作用不足が起きるのでしょうか。

それには、2つの原因があります。

1つは、すい臓の働きが弱くなりインスリンの分泌量が低下するため。

もう1つは肝臓や筋肉などの組織がインスリンの働きに対して鈍感になり、インスリンがある程度分泌されているのに効きにくくなるため(インスリン抵抗性の発現)です。

糖尿病では体質以外にも、肥満や運動不足や食べすぎといった生活習慣の乱れが、「インスリン分泌低下」や「インスリン抵抗性」の発現を引き起こすと考えられています。

 

<糖尿病が引き起こす合併症とは・・>

糖尿病は、神経や目や腎臓などにさまざまな障害を起こすことが知られています。

(末梢神経障害、網膜症、腎症、心筋梗塞、狭心症、動脈硬化、脳梗塞、感染症など)

体のなかで最も高血糖の影響を受けやすいのは末梢の神経と細い血管です。そのため糖尿病では足の神経、目の血管、腎臓に障害があらわれてきます。それが進行すると、足の感覚が鈍くなったり、失明、透析など社会生活に大きな支障をきたす恐れが出てきます。

糖尿病は自覚症状がなくても、見えないところで合併症が進行しています。そして、気がついた時には合併症のため、日常生活に支障があらわれているということが少なくありません。しかし、きちんと血糖値をコントロールできれば、合併症を予防できることがわかっています。

 

<糖尿病の検査>

■ 定期検査で病状をチェックする

糖尿病の初期は自覚症状がほとんどありません。病状を把握するためには血糖値やヘモグロビンA1c(エイワンシー)を継続的に検査することが必要です。

 

■血糖値

血糖値は糖尿病コントロールの指標として用いられます。

糖尿病では食前の血糖値が高い場合と食後の血糖値が高い場合、または両方が高い場合とさまざまなタイプがあります。そして最近では食後の血糖値の上昇と脳卒中や心臓病との関係が注目されており、食前の血糖値だけではなく食後の血糖値もしっかりコントロールする必要があります。

 

■ヘモグロビンA1c

血糖値が高くなるとブドウ糖が赤血球の中のヘモグロビンと結合します。これがヘモグロビンA1cと呼ばれるもので、血糖値が高いほどヘモグロビンA1c値も大きくなります。この値は、赤血球の寿命(約4ヵ月)から過去1~2ヵ月の血糖コントロール状態を示していると考えられています。ヘモグロビンA1c値は合併症の進行と深く関係しており、6.5%未満がコントロールの目安となります。

 

<糖尿病の治療法>

 1. 食事療法

 2. 運動療法

 3. 薬物療法

食事療法と運動療法を行っても血糖コントロールが不十分な場合、薬物療法を併用します。

糖尿病の薬はいずれも「インスリンの作用不足」を改善し、血糖値を下げる作用があります。糖尿病の薬にはインスリン分泌量 を高める薬やインスリン抵抗性を改善する薬、そして不足しているインスリンそのものを外部から補うインスリン注射薬など、さまざまなタイプがあります。

~薬物療法時の注意~

薬の作用により血糖値が70mg/dL以下になると低血糖症状が起こります。

(低血糖が起こる血糖値には、個人差があります。)

低血糖が起こった時は、砂糖やあめなどを携帯し、すみやかに糖分をとりましょう。

低血糖の主な症状:冷や汗がでる、動悸がする、強い空腹感、手が震える、めまいがする。

 

糖尿病治療では、飲み薬やインスリン注射薬を自分で勝手に中止してはいけません。薬を突然中止すると、高血糖による意識障害や昏睡を招くことがあります。

 

▼中医学的にみる糖尿病のとらえ方▼

冒頭でも述べましたが、中医学では糖尿病を「消渇病」といいます。

そして、細かく分類していきますと、上消、中消、下消とに分かれます。

この上消とは、体の上部に位置する「肺」の症状があらわれることを意味します。

中消とは、体に真ん中に位置する「胃」の症状があらわれることを意味します。

下消とは、体の下部に位置する「腎」の症状があらわれることを意味します。

一般に症状が下に(腎に)いくに従い、病状も重くなっていきます。

※各臓腑の働きは、下記の「糖尿病に関わる主な臓腑の働き」をご参照下さい。

<主な症状>

上消部:口渇感が強く、よく水分をとる。

中消部:胃の熱により消化力が促進され、食べても食べてもお腹が空く。

下消部:尿量が多くなり、混濁する。

<中医学で考える糖尿病の主な原因>

「腎」は下記の(「糖尿病に関わる主な臓腑の働き」)でもふれますが、元気の源とも言われ、体全体を温める力(気の働き)と、臓腑や各器官に栄養を与え潤す力(血・水の働きに当てはまります)を備え調節しています。

糖尿病では、この潤す力の低下(腎陰虚)が、根本原因であると考えられています。

さまざまなタイプは、主に誘因物質であり、根本にはこの腎陰虚が潜んでいるとしています。病気が長期になりますと、陰だけであった損傷が陽にも及び、陰陽が共に虚の状態になります。

先天的なエネルギー不足。

長期にわたって油っこい物や甘いもの、飲酒、味の濃い食べ物、辛い食べ物を食べ過ぎると、「脾、胃」の働きを低下させます。そのため体内に余分な熱がこもり、体に必要な水分が失われます。体の中が乾燥状態になり、消渇として発病します。

精神的ストレス、過度の心労や思い悩みは、鬱積し、そのエネルギーは体の中で、火と化します。そのため、体に必要な水分が失われます。体の中が乾燥状態になり、消渇として発病します。

上記のさまざまな原因や病気の経過状態により、臓腑の働きの失調も多臓腑に及んできます。その結果 、気血の運行にも影響を与え、血脈のオ滞を引き起こします。

血脈のオ滞とは、血の流れが停滞した状態をあらわします。

糖尿病による合併症の発生も、このオ血と緊密に関連しています。

▼中医学的からだのしくみ▼

~「気」「血」「水」とは~

体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。

もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。

さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。

 

「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこれら「肺」、「胃」、「腎」の臓腑です。西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。

ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。

 

 詳しくは、HP上の‘わかる東洋医学診断・まとめ’の中に「わかりやすい東洋医学理論」があります。そちらをご参照ください。

 

▼糖尿病に関わる主な臓腑の働き▼

「肺」・・

気(エネルギー)を生成する。

下記の「脾」「腎」とともに気の生成をするために不可欠の臓腑です。

気の不足による主な症状は、息切れ、声にはりがない、かぜをひきやすい抵抗力が弱いなどがあります。

 

 

肺の最も重要な働きに、呼吸を司る。「発散と下降」があります。

肺は身体の上部へ位置するために、瞼や顔にむくみがでやすい。

《気の場合》

発散とは、各臓腑や体表にエネルギーを送り出す働き。

下降とは、息を吸って得たエネルギーを体の中に取り込み体の活動源とする。

主な症状:喘息、咳が出る。

《水分の場合》

発散とは、咽喉部、皮膚を潤す働き。汗として体外へ発散させる働き。

下降とは、不要となった水分を腎へ下ろす。

主な症状:喉がイガイガする、皮膚が乾燥する、水分を腎へ下ろせない場合は、主に顔面 部がむくみ、尿がでない。

 

 

鼻や皮膚の働きを司る。

主な症状:鼻づまり、鼻水、くしゃみ、アレルギー性鼻炎、蓄膿症

 

「胃」・・

食べた物を胃の中空器官で受け取る。

 

 

   ↓

 

熟成させる。

 

 

   ↓

 

下に位置する小腸へ送るといった一連の働きを担っています。

①の働きが失調しますと、食べたものを戻す(悪心、嘔吐)。

②の働きが失調しますと、胃の中に食物が停滞したまま、消化されません。

(臭いげっぷがでる、腹部の膨満感、胃痛)

③の働きが失調しますと、下へ下降させることができません(便秘)。

 

胃の働きの失調の特徴は、「停滞」と「逆流」です。

①②③それぞれの状態で留まった状態が長く続きますと、食べ物は熱と化し腐敗します。そのため、熱症状および臭いを伴った症状が多くみられるのです。

「腎」・・

生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。

「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。

生まれたときにこのエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの発育不良の状態があらわれます。

「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。

年齢が増すにつれて、腎が支配する器官の機能減退症状があらわれてきます。

 

例)

骨や歯がもろくなる、耳が遠くなる、髪が薄くなったり、白髪が多くなる

婦人科疾患では無月経、不妊症、流産しやすい

冷え症状が加わると、さむけ、下痢をしやすい(特に朝方)、手足、腰の冷え

 

▼中医学的病気の診断・治療方法▼

個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。

そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。

この他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。

その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。

 

▼中医学的糖尿病のタイプと治療法▼

~上消~

●燥熱傷肺タイプ●

「肺」は適度に潤っている状態を好み、乾燥状態を嫌います。

熱が肺に停滞し、肺の水分が失われ枯渇状態になります。そのため乾燥症状が主にあらわれるタイプです。

<随伴症状>

喉が渇き多く水を飲む、口の中が乾く、舌が乾燥する、頻尿で量が多い。

<治療法>

肺に停滞している熱を冷まし、潤していく「清熱潤肺」、水分(血や水に相当)を補い、のどの渇きを癒していく「生津止渇」の治療をしていきます。

 

~中消~

●胃燥津傷タイプ●

「胃」も「肺」と同様、適度に潤っている状態を好み、乾燥状態を嫌います。

胃に熱が停滞することにより、水分が失われ、熱が旺盛な状態となります。そのため、熱症状が強くあらわれるタイプです。

<随伴症状>

多食、飢えやすい、口渇、多尿、痩せてくる、便は乾燥する。

<治療法>

胃に停滞している熱を取り除く「養胃潤燥」、水分(血や水に相当)を補う「養陰増液」の治療をしていきます。

 

~下消~

●腎陰虚タイプ●

糖尿病では、この潤す力の低下(腎陰虚)が、根本原因であると考えられています。

<随伴症状>

頻尿で量が多い、混濁したクリームのよう、また尿に甘味がある、腰や膝がだるい、力がでない、めまい、耳鳴り、唇が乾燥する、皮膚が乾燥し痒い。

<治療法>

体を養う血、潤す働きを高める「滋陰補腎」、のどの渇き止める「潤燥止渇」の治療をしていきます。

 

●陰陽両虚タイプ●

病気が長期になりますと、腎陰だけであった損傷が腎陽にも及び、陰陽(温める力と潤す力)が共に虚の状態になり、あらわれるタイプです。

<随伴症状>

頻尿でクリームのような混濁した色、飲み物を飲むとすぐに尿がでる、顔は憔悴している、腰や膝がだるい、手足がほてる、寒がり、手足が冷える、月経不調、インポテンツ。

<治療法>

温め、潤す働きを高める「温陽滋陰」、「補腎固摂」の治療をしていきます。

 

●オ血タイプ●

病気が長期に及ぶと血の流れが停滞し、さまざまな代謝異常を引き起こします。

<随伴症状>

静脈瘤がある、血管が浮き出やすい、内出血(あざ)ができやすい、シミやそばかすができやすい、普段から肩こり、腰痛がある、睡眠が浅い、目の下にクマができやすい。

<治療法>

血の流れを良くし、停滞した血を取り除いていく「活血化オ」の治療をしていきます。

 

▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼

自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます。

タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。

体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。

●燥熱傷肺タイプ●

【生活習慣】

辛い食べ物、お酒の飲みすぎは、体の中に熱を生みます。過食、多飲は避けましょう。

 

【食べ物】 ~肺の熱を冷ます作用がある食べ物を摂りましょう~

 

(穀類)

大麦、あわ、とうもろこし、はとむぎ、小麦

 

(魚介類)

かに、あさり、ところてん、昆布、わかめ、のり、しじみ

 

(野菜)

れんこん、なす、トマト、きゅうり、とうがん、レタス、ごぼう、大根

 

(果物)

なし、すいか

 

(お茶)

緑茶、菊花茶、薄荷茶

 

 

●胃燥津傷タイプ●

【生活習慣】

油っこい食べ物や辛い食べ物、肉類、お酒の飲みすぎは、体の中に熱を生みます。過食、多飲は避けましょう。その際、野菜を多くとるようにして普段の食生活も和食を増やしてみましょう。

いつもお腹がすいているタイプなので、食事の量 に気をつけましょう。

徹夜仕事や夜遊びなどもほどほどにしましょう。

 

【食べ物】 ~胃の熱を冷ます作用がある食べ物を摂りましょう~

 

(穀類)

大麦、あわ、とうもろこし、はとむぎ、小麦

 

(魚介類)

かに、あさり、ところてん、昆布、わかめ、のり、しじみ

 

(野菜)

れんこん、なす、トマト、きゅうり、とうがん、レタス、ごぼう、大根

 

(果物)

なし、すいか

 

(お茶)

緑茶、菊花茶、ウーロン茶

 

 

●腎陰虚タイプ●

【生活習慣】

体を養う血の消耗につながる生活は避けましょう。睡眠はしっかりとり、生理中は血を消耗させやすいのでパソコンの使いすぎ、テレビの見すぎ、夜更かしは避けましょう。

血を補い、体を潤す働きのある食べ物を摂るよう心がけましょう。

 

【食べ物】 ~体を冷まし、潤す作用のある食べ物を摂りましょう~

 

(乳製品)

豆乳、牛乳

 

(肉類)

豚の皮、鴨肉、豚肉

 

(魚介類)

いか、牡蠣、すっぽん(とくに甲羅の部分)

 

(野菜)

山芋、白きくらげ、黒きくらげ

 

(果物)

なし、もも、ぶどう

 

(木の実)

クコの実、くるみ、黒ごま

 

(お茶)

桑の実とクコの実のお茶

 

 

●腎陽虚タイプ●

【生活習慣】

冷えやすい下半身は下腹部や腰部にカイロをはって、しっかり温めましょう。

体を温める食べ物を摂るようにしましょう。

 

【食べ物】 ~体を温め、活動力を増す作用のある食べ物を摂りましょう~

 

(穀類) 

もち米

 

(肉類)

羊肉、鹿肉、牛肉

 

(魚介類)

えび、なまこ

 

(野菜)

にら、ねぎ、ししとう、かぼちゃ、しょうが、にんにく

 

(木の実)

栗、くるみ

 

(香辛料)

酒、シナモン、黒砂糖、ウイキョウ(フェンネル)

 

(お茶)

杜仲茶、ジンジャーティー黒砂糖入り

 

 

●血於タイプ●

【生活習慣】

夏は冷房、冬は外気の寒さから体が冷えるのを防ぐようにしましょう。

冷たいものの摂り過ぎは血行を悪くするので気をつけましょう。

寒い季節や冷房で冷えた日は、生野菜は控え、温野菜を摂るようにしましょう。

適度に運動をして、適度な汗をかくよう心がけましょう。

 

【食べ物】 ~血液の流れを良くする作用のある食べ物を摂りましょう~

 

(豆類)

小豆、黒豆

 

(野菜)

あぶらな、にんにく、にら、ねぎ、しょうが、とうがらし

 

(香辛料)

酢、少量の酒

 

(お茶)

山ざし茶、バラ茶、紅花茶

 

 

▼その他日常生活での注意点▼

~食事療法~

適度な食事量と適切な食事内容の調節で、血糖値をコントロールすることができます。また適切な食事はインスリンの作用不足を改善する効果 が期待できます。

不規則な食事は血糖値の変動を大きくし、すい臓にも負担をかけます。食事は規則正しく、ゆっくりとよく噛んで食べましょう。

~運動療法~

運動療法は、糖尿病のさまざまな症状を改善し、さらに動脈硬化の予防などの点でも効果 があります。

しかし、進行した合併症がある時には、運動によって病状を悪化させてしまうこともあります。

運動療法を行う際は、まず主治医と相談し、自分に合った運動と運動量 を決定し、決して無理をせずに自分の体と相談しながら適切な運動量 を継続することが大切です。

有酸素運動でエネルギーをしっかり燃焼させましょう。有酸素運動は脂肪を燃焼させる効果 があります。

有酸素運動(散歩、水泳、ジョギングなど)でエネルギーを確実に消費しましょう。

少し汗ばむ程度の運動量で20分以上、週に3~5回、食後1~2時間に行ないましょう。

 

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 

2019/03/11
【内科疾患】頭痛について

日本人は4人に1人は慢性頭痛の経験があるといわれています。

わたし(ロース)自身、去年の5月にとても強い頭痛がおこり、救急へ行き検査して、仕事も5日間も休んでしまったという経験があります。

このように頭痛にも急性、慢性の頭痛があり、その中にもそれぞれ生命の危険性の高いものからいわゆる頭痛と言われるものまで 西洋医学と中医学の両方面 から原因、診断方法、治療方法、ケアの仕方と考えていきます。

 

<西洋医学的分類>

頭痛の原因はとても多いのですが、まず器質的疾患(形のある実質の異常)によるものと器質の問題以外の機能性頭痛(慢性頭痛)とに大別 されます。

器質的疾患には鼻や目の病気、そして脳の病気が原因となり頭痛が発生するものがあります。

それぞれ簡単にではありますが説明させていただきます。

 

○ 器質的疾患による頭痛

まず、注意しなくてはいけないのが頭痛で危険性の高いものとして脳の病気による頭痛があります。

一般的には頭痛の95%のものは脳の病気とは関係がありません。しかし、このうちの脳の病気の場合は放置しておくと危険なものがあります。

 

・ クモ膜下出血による頭痛

クモ膜というのは脳を包んでいる3層膜の真ん中のことで、脳動脈瘤破裂によりその膜の間に出血をして脳を障害してしまいます。生命に関わりますので、緊急の処置が必要です。

ポイントとしては40歳前後を過ぎてから突然ガーンと強い頭痛が起きるようになったり、休んでいても頭痛が緩和しなかったりした場合は念のためにも、まず現代医学による受診をしてください。

 

・ 髄膜炎による頭痛

髄膜炎は脳と脊髄を包む膜が細菌感染により炎症を起こす病気です。発熱と首の後ろ側が硬くなり顎を胸に付けられなくなる(項部硬直)症状が特徴です。風邪と間違われやすい。

 

・ 脳腫瘍

脳の中に腫瘍ができた状態。特徴は徐々に痛みの強くなる頭痛。吐き気を伴う。比較的朝方に痛む。などがあります。

 

これらの症状があった場合は、まず一度は精密検査が必要と思われますので早めに医療機関での受診をしてください。

 

その他、器質性頭痛の中で脳以外での問題は、鼻の問題として副鼻腔炎からの頭痛ではおでこ辺りの痛みがあり、緑内障などでも目の周囲の頭痛などがあります。顎、歯科の問題、噛み合わせなども影響します。これらはそれぞれ鼻、目、口腔の病気の治療により頭痛が改善されます。

 

○機能性頭痛(慢性頭痛)

慢性頭痛は3つに分類されます。緊張型頭痛、片(偏)頭痛、群発頭痛に分かれます。

 

●緊張型頭痛

慢性頭痛の中では一番多く、約3分の2がこの緊張型です。

原因―肩こりなど首の後ろ側の筋肉が緊張して、筋肉の中を流れる血流の量 が減ったり、神経を刺激したりして痛みをおこす。

ストレス、睡眠不足などが誘引になることが多い。

症状―頭全体や後頭部から首すじをベルトで締め付けられるような痛みがでる。痛み自体は中等度で日常生活はおくれる。めまいが出る人もいる。痛みは数日間続くことがあります。

治療―アスピリンなど一般的な鎮痛剤が処方される。また、緊張やストレスを取り除くために生活習慣、睡眠不足の改善をしたり、姿勢に気をつけたり、軽い運動が必要である。

 原因の緊張を改善させずに薬で痛みをとるだけでは、身体には負担がかかるだけなので、 鎮痛剤だけに頼らないように注意が必要である。

 

●片頭痛

次に多いのが片頭痛です。日本では100人中約8人が片頭痛持ちです。

原因―現在では、三叉神経血管説がもっとも有力になっています。三叉神経とは側頭部から顔まで伸びている神経ですが、その神経が頭の血管を取り囲んでいて、なんらかの原因でセロトニンという血管を収縮させる物質が減少し、その結果 、血管が拡張し神経が刺激されると痛みがおこります。

症状―片側に起こることが多く、拍動性(ズキンズキンと血管が拍動するようなリズム)の痛み。痛みは強く、生活に支障がでることもある。女性に多い。頭痛の発作は3~72時間ほど持続します。音やにおい、光に敏感になる。吐き気や嘔吐がある。ワインやチョコレートで誘発される。発症のピークは20~30歳代で40歳以降の発症は少なくなる。視野がキラキラ光る前兆がでることもある。遺伝性がある。  など多くの特徴があります。

※ 片頭痛が女性に多いのは、エストロゲンといわれる女性ホルモンの影響があるからと考えられています。そのため、月経前に痛みが出たり、閉経前はエストロゲン分泌が不安定になり痛みのコントロールが困難になります。

治療―トリプタン系の薬が有効です。

カフェインを取ると血管が収縮しますので、コーヒー、お茶などが痛みを少し緩和させます。

 

●群発性頭痛  (群発とは繰り返し何回も発生するということです)

頭痛の中では少ない部類になり圧倒的に男性に多い頭痛です。

原因―群発頭痛の原因はまだはっきりとはしていませんが、発症には、片頭痛と同じくセロトニンという物質がかかわっていると考えられています。

症状―片側の目の周囲に突き刺すような激しい痛みがでる。30歳以上の男性に多い。痛みが強く寝ていても痛みで目が覚めることがあります。

一回の頭痛は15分~3時間続き、数週間から数ヶ月群発します。

頭痛と同じ側の目が充血したり、むくんだり、涙や鼻汁がでたりします。

治療―片頭痛に使用するトリプタン系の薬が有効です。

酸素吸引が有効です。アルコール、喫煙は禁止です。

体内時計が崩れると起こりやすいので、睡眠に気をつけます。

 

 

<中医学的な考え方>

中医学では、人と自然との間の密接な関係を重視します。

自然界に空気、水、火があるように人間の身体の中でも気があり、水が川の様に流れ、海があり、火は上昇する…という同じような現象があると考えます。

 

中医学の中の経絡とは身体の中を流れる川や道路のようなもので、身体中に栄養を送ります。

 

○中医学での頭部

中医学では頭は人間の身体で上方に位置しているので、陽に属します。そして「諸陽の会」と言われ、頭部で手足の経絡の陽経が流れ、交わります。

山の頂上が頭で麓(ふもと)が手足だとすると、麓から東西南北の登山道があって、その登山道が山の頂上で交わるようなものです。

経絡の流れは東西南北のように前頭部(おでこ)、側頭部、後頭部(うなじの辺り)、頭頂部(頭のてっぺん)と支配している場所により分けることができます。

 

また、「五体の尊、百骸の長、中には脳髄を蔵し、脳は元神の府である」と言われ、これは、頭がとても重要で、脳が記憶したり、精神活動をしたりする大事な器官であるということです。

 

他の臓器の関係もありますが、頭の経絡に気血がちゃんと流れていると、記憶力も良く、精神的にも安定します。 

逆になんらかの原因で気血の流れが悪くなると、記憶も悪く、精神的にも不安定で、痛みも起こります。

 

中医学で「痛み」とは

1.気血の流れが滞り痛む…「不通則痛(通らざるもの則ち痛む)」

2.気血がおとろえて痛む…「不栄則痛(栄えぬもの則ち痛む)」

この二つの状態で起こります。

 

頭痛も頭の経絡で気血の通りが悪くなるか、気血がおとろえて頭を栄養できなくなるかによって起こります。

 

○ 中医学での頭痛の種類

 

頭痛の原因となるものは大きく2つに分かれます。

一つは外界からの影響ともう一つは身体の中からの変化です。前者を外因といい、後者を内因といいます。それぞれ、症状、治療法に違いがありますので分けて考えていきます。

 

●外因による頭痛(外感頭痛)

外因の中には風、熱、湿、燥、寒の気があり、字に表れるように自然界の気候の変化が人体に影響を与えるのですが、これらが身体に悪い影響を及ぼすことになると、邪気(外邪)となります。

 

このなかでも頭痛に一番関係の深いのは風邪(ふうじゃ)です。風邪は身体の上部を犯す性質があります。

風邪は度々他の気と一緒に皮膚や鼻、口から侵入し、頭部の経絡の流れを悪くし痛みを起こします。

 

症状―頭痛、風に当たることを嫌がる、首から背中にかけても痛む、感冒に似た症状がでる などがあります。    

痛む場所は侵された経絡の場所により様々です。

治療―針治療では、風邪とその他の邪気をはらい去ることと痛みの出ている場所、経絡の流れをよくすることが必要になります。経絡の流れをよくする時は、痛みの出ている頭(山の頂上)を直接治療して流れをよくするのと、登山道を利用するように手足のツボを利用して流れをよくする事を同時に行います。

食べて治す―感冒のひき始めのような悪寒がある場合は、ネギやにんにくを使った料理で除菌、発汗させましょう。熱っぽさがある頭痛には菊花茶

 

● 肝陽頭痛

肝陽による頭痛とは 怒った時に頭が一気に熱くなったり、ストレスなどでイライラが過ぎてカーッとなりやすい状態から起こる頭痛のことです。

中医学での肝とは気をスムーズに流す作用があるのですが、同時にストレスや精神状態に左右されやすい性質があります。

ストレスは溜め込みすぎるといつかは爆発しますが、肝気も滞るとじきに火の性質に変化します。火は性質として炎上するので、上に上がり頭部への影響が多くなります。

症状―頭痛、めまい、顔面が赤くなる、ストレスの影響を受けやすい などがあります。

治療―針治療では頭の痛みの出ている経絡を治療することと、上がってしまった肝火を下げて落ち着かせるようにします。鎮火をするために水の性質のツボも使います。

食べて治す―セロリや菊花茶がおすすめです。できるだけ生にちかい物がよい(ただし、月経不順など血液に関する症状がある場合は控えてください)

 

● 痰湿頭痛

痰湿とは 体質的にやや太めだったり、甘く油っこい物を好んで食べたり、食生活が不規則になったりすると発生します。

水分(水液)代謝の障害により産生されます。

痰には目に見える、いわゆる痰と見えない痰があります。性質としては、咽につまる痰のように経絡に留まると気血の運行を悪くします。

痰湿により頭の方へ流れる経絡を阻滞(とどこおる)させられると痛みが生じます。

症状―頭痛、頭が重くボーっとする、胸がつまるような苦しさがある、痰が出る などがある。

治療―針治療では痛みの出ているところの治療と、痰を溶かして消失させる必要があります。痰は水液代謝の障害により産生されるので、水液をコントロールしている臓腑、水液を貯蔵している臓腑などを調整します。

食べて治す―油っこいものは控えましょう。

 

● 血オ頭痛

血オとは 血液の流れが悪くなり滞った状態です。外傷の後に血オになったり、また頭痛が他の原因で発生し、それが長期にわたり気血の流れを悪くし血の滞りを起こしてしまった結果 、血オ性の頭痛になる。

症状―刺すような、頑固な頭痛、痛みの場所は固定されている。

治療―針治療では痛む場所の治療と、血に本来の流れる力を取り戻すようにします。 

また、気は血を押し出す作用があるので、気の力を強くするツボも一緒に使う必要がある。

 

● 血虚頭痛

血には、全身を栄養して潤す作用がある。

血虚による頭痛とは 頭や脳髄を栄養する血が足りなくなってしまったために「不栄則痛」で痛みが出ている状態です。

長く病気をして体力が落ちてしまったり、なんらかの原因で失血をしてしまった後に起こります。

症状―弱い頭痛が続く、めまい、疲れると痛む。

治療―針治療では、身体が虚している状態の場合は痛む場所よりも補うことに重点を置く。            

血虚の場合は血を補うのがメインだが、血の産生に気は不可欠なので、このような慢性疾患は血と同時に気を補う必要がある

食べて治す―ほうれん草をゴマ油で炒めたものが養血作用があります。

 

● 腎虚頭痛

腎虚とは腎精不足の状態です。

腎精とは脳髄の元になっているもので、腎精が不足してくると脳が空虚になるような頭痛になります。先天的な虚弱体質、高齢や慢性の病気によるもの、夜の生活の度が過ぎた時に起こります。

症状―頭が空になったような感覚の頭痛、めまい、腰や膝に力が入らない、耳鳴 などがある。

治療―針治療では メインは脳髄の元になる腎精を補う治療をする。

食べて治す―山芋、ウドがおすすめです。擦りゴマ入りのホットミルクもいいです。

 

~~ 夏に冷た~いカキ氷なんかを食べた時におこるツーンとくるあの頭痛 ~~~~~ 話は少し脱線して、カキ氷頭痛について考えてみます。

これは、頭に通じる経絡の中の(陽明)胃経に関係していると考えられます。胃経は鼻の脇より始まり、目の内側やこめかみ、額の辺りまで流れ、それから下って胃を通 り足の方まで行きます。つまり経絡上では、胃と鼻の脇はつながっています。そして、カキ氷など寒の性質のものには「凝滞」といって凝結させ滞らせる作用があるので、冷たいものを一気に胃に入れるということは胃経の気血のながれを滞らせたと考えられ、ツーンとした痛みがでるのだと考えられます。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

○ 梅干をこめかみに貼り付ける

梅には収斂作用があり、肺、肝、脾、大腸に関係するのでこめかみに貼り付けることで経絡の流れをよくするのと同時に流れをよい意味で引き締めるために痛みを緩和することができると考えます。

 

このように、中医学では個々の体質、状態にあわせて治療していきます。

慢性頭痛で身体、精神に負担をかけて生活していくのも、また、生活や体質をかえりみる事なく鎮痛剤だけを使っていくのも、あまり関心できることではありません。

 

慢性の頭痛がある方は、生活習慣の改善指導も含めた治療をおすすめ致します。

 

また、東洋医学の中医学治療を詳しく知りたい方は、

お気軽に当院までご相談下さい。

中医学は一般の痛い所や局所に針を打つのとは違い、体質判断や病気の成り立ち、起因を追求して行き症状の改善を根本から行って行きます。

2019/03/11
【その他】診察シュミレーション・突発性難聴・-2

Ⅲ、先ずはA子さんが「突発性難聴」になってしまった原因を探る為に、寝不足・ストレス・発症してからの3週間での症状の変化について質問してみたところ、次のような答えが返ってまいりました。

 

①6ヶ月前に第一子を出産し、夜泣きが酷く睡眠不足になっている。

②ストレスは育児によるストレスが殆んどである。

③発症してから3週間で、たまに調子のいい時もあるがイライラすると症状が悪くなる。

 

Ⅳ、次に育児・家庭環境・本人の性格、について質問したところ次のような答えが返ってきました。

子育てについては、出産前から色々な本を読んで勉強をしていたが、実際に育ててみると本の通 りにはいかず、自分は母親として失格などと考えてしまい落ち込んだりイライラしたりする。

ご主人は現在単身赴任中で、お互いの両親も遠方に住んでいるため、子育てはA子さんが全て一人でしている状態。

性格は友人からよく「細かい」「完璧主義」と言われる。

 

Ⅴ、次に発症する前に耳について何か症状があったか質問してみたところ次の答えが返ってきました。

発症する少し前から「キーン」という高い耳鳴りと、耳の周りに張ったような感じがあった。

これらの症状は出産前にはなかった。

 

?、次にその他の「突発性難聴」の原因について質問してみたところ次の答えが返ってきました。

① 偏食はなく、食事の量や栄養はバランスよく摂るように注意している。

③ 過去に重い病気や長患いの経験は無い。

④ 出産後、性行為等は行っていない。

⑤ 特に過労ということは無い。

 

?、質問表にあった症状について詳しく質問したところ、次の様な答えが返ってまいりました。

① 頭痛については、イライラしたり、怒ると側頭部が張った様に痛む。

② めまいについても頭痛と同様にイライラすると起こる。

③ 食欲については以前は普通であったが、最近になって食欲が無くなった。

④ 便秘傾向については、子供の頃から便秘がちで試験の前などによく便秘をした。

便意はあるが排便できない。便自体は細くはない。

⑤ 食欲不振以外の症状は出産前からあった。

 

?、最後に随伴症状について質問をしたところ、患者さんからは次のような答えが返ってきました。

口が苦いことがある・咽が渇き、冷たい物が飲みたくなる・胸の脇が張る感じがする。

疲れやすくは無い・むくみも無い・手足のだるさもない・痰も無い。

膝や腰もだるくない・小水の回数も普通・性機能低下も無い。

動悸・不眠・健忘・息切れ・風邪をひきやすいこともない。

 

 以上が今回の問診の患者さんの答えです。

 

?、最後に舌診と脈診をしました。

舌は紅く、裂紋といって舌の中央に亀裂の様なスジがあり、脈は弦を弾く様に触れ、速い。

 

 では、患者さんの答えや、脈・舌から、治療者がどの様に弁証を立てるのか又、治療者の頭の中を覗いてみましょう。

 

【3-1寝不足・ストレス・発症してからの3週間での症状の変化・性格についての問診】

寝不足の原因はお子さんの夜泣きによるものでした。また、ストレスの原因は育児によるものとの事です。

夜泣きによる睡眠不足は新たににストレスを生むでしょうし、A子さんは育児によるストレスをかなり受けていると考えられます。

又、ストレスとA子さんの「突発性難聴」は関係があるようです。

その事を表わしている答えが、[イライラすると症状が悪くなる。]になります。

育児についてのストレスは、子育て中のお母さんなら誰でも抱えております。

しかし、その度合いは家庭環境や個人の資質により、かなりの違いがあります。

 

 そこでA子さんがどれだけストレスの影響を受けやすいのかを探る質問を次にしてみました。

 

【3-2育児についてと家庭環境についての問診】

出産前に子育ての本を色々読んでいることから、A子さんは子育てへの関心は高い方のようです。

おそらく彼女は出産前に、子育てについて理想的なイメージを作り上げていたのだと思います。

しかし、現実には本のようにはいきません。普通の方なら現実を受けとめるのですが、完璧主義のA子さんはそれが許せず、ストレスへと変わっていってしまったのでしょう。

又、ご主人様は単身赴任・ご両親は遠方で暮らしているため、毎日理想と現実のギャップに1人で戦っていたことは容易に想像できます。

これでは大きなストレスがA子さんにのしかかってきてしまいます。

 

 次に、実際にストレスが「突発性難聴」の発病になったのかを確認する質問をしてみました。

 

【3-3発症する前の耳の症状についての問診】

発症する少し前から「キーン」という高い耳鳴りと、耳の周りに張ったような感じがあった。

A子さんは上記の様に答えています。

この症状はストレスが原因であることの可能性を高めてくれる答えになります。

耳鳴りには「ジー」といったセミの鳴くような低音のものと、「キーン」という高音のものの2種類があります。

「ジー」といった低音のものは、老化などによる「腎」に関わる耳鳴りのケースが多く、「キーン」といった高音のものは、ストレスなどによって「気」の滞りが起こり、「肝」に関わりのあるケースが多く発症いたします。

中医学では強いストレスを受けたり、長期間にわたりストレスにさらされると、「気」が滞ってしまいます。又、ストレスによって損傷を受けやすい臓器が「肝」であります。

更に、表裏関係といい「肝」と「胆」は深く関係をしております。

ですから、「肝」が損傷を受けると「胆」に影響がでることがよくあります。

側頭部や耳の周りには「胆」と関係がある経絡が通っております。

経絡とは気血の流れる通路ですから、ストレスによって「肝」が損傷を受けたことにより、「胆」の経絡で気の滞りが生じることもよくあります。

その結果、耳の周りに張ったような感じを受けることがあります。

A子さんも「突発性難聴」を発症する前に、耳の回りに張ったような感じや高音の耳鳴りを経験しております。

これらは何を意味するかと言うと、育児によるストレスにさらされた結果 、「胆」の経絡で「気」の流れに滞りが起こり張ったような感じや耳鳴りをもたらしました。

更にストレスは軽減されず、そのままストレスにさらされたことにより「突発性難聴」を発症させた可能性が高いということです。

 

さらにA子さんは「これらの症状は出産前にはなかった。」と言っております。

これは、これらのストレスが出産後にA子さんを襲ったことの可能性をしめしております。

具体的には育児によるストレスと考えていいでしょう。

ここまで問診が進むとストレスによる「突発性難聴」の可能性が高くなってまいりました。

しかし、これだけで病気の原因を決定してはいけません。

次にその他の「突発性難聴」の原因となる事柄について質問をしてみます。

 

【3-4その他の「突発性難聴」の原因となる事柄についての問診】

ストレス以外の原因について問診をしたところ、全ての事柄は関係ないことがわかりました。

これでストレス以外の病気の原因が否定されましたので、A子さんの「突発性難聴」の原因がストレスであると断定できました。

 

中医学では、過度や長時間にストレスにさらされると、「肝」が損傷を受けます。

次に「肝」の影響が現れるのが「脾・胃」に多いとも考えます。

ですから、これ以降は、A子さんは「肝」や「脾・胃」を損傷されている可能性があることを頭に置いて問診を行わなければなりません。

 

 では、次にA子さんの体質についても質問してみましょう。

この質問では、A子さんの体質を把握する目的と病気の原因である「ストレス」の裏付けをしてゆきます。

 

【3-5質問表にあった症状についての問診】

① 便秘傾向については、ウサギの糞みたいにコロコロして乾燥している。細くはない。

子供の頃から便秘がちで試験の前などによく便秘をした。

② 頭痛については、イライラしたり、怒ると側頭部が張った様に痛む。

③ めまいについても頭痛と同様にイライラしたり怒ったりすると起こる。

④ 食欲については以前は普通であったが、最近になって食欲が無くなった。

食欲不振以外の症状は出産前からあった。

 

これらの症状をみる場合に先ず注意しなければならない事の1つが、これらの症状が患者さんの体質に由来するものか、それとも現症状に由来するものかを判別 しなくてはなりません。

今回注目すべきところは、A子さんの現症状が出産以降に発症しているという点です。

随伴症状を見てみると、「頭痛」「めまい」「便秘傾向」は出産以前から起きております。

これはこれらの症状はA子さんの体質に由来するものと考えられます。

これに対して「食欲不振」は出産後に発症しておりますので、現症状に由来する可能性が高いと言えます。

 

 では、それぞれを見てみましょう。

 

「頭痛」

A子さんの頭痛の特徴は側頭部に張ったような痛みがあることです。

これは言い換えれば、ストレスによる気が滞っておこる頭痛の特徴とも言えます。

〈3-3〉の耳の周りの張り感の説明を思い出して下さい。側頭部の張痛もこれと同じ機序によるものであります。

つまり、ストレスにさらされる事により「肝」が損傷され、「肝」と表裏関係のある「胆」の経絡に気の滞りが起こります。

胆の経絡は側頭部を通りますので、側頭部に張ったような痛みが現れます。

ですから、イライラしたり、怒ると側頭部が張った様に痛むのです。

 

「めまい」

めまいが起こる原因も様々です。例えば、「脾」に損傷があると気血が作られなくなり「めまい」が生じます。

又「腎」に損傷があってもエネルギー不足が起こり「めまい」が起こります。

では、A子さんの場合はどうでしょう。

ヒントはイライラしたり怒ったりすると発症する点です。

A子さんの「めまい」は、ストレスより「肝」が損傷を受け、肝の気が滞ることにより熱が産まれ、その熱の影響で「めまい」が生じております。

 

「便秘」

便秘を起す原因には、エネルギー不足(気虚)・ストレス・冷え・熱など様々です。

熱による便秘は辛い物の食べ過ぎで起こります。先程の問診でA子さんは食べ物には 気をつけていると言っておられました。

A子さんの性格等を考慮しても、かなり気を付けていると思われますので、辛い物の食べ過ぎによる便秘は否定できると思います。

次に冷えによる便秘は、老人や虚弱体質の方で身体を温めるエネルギーの無い、「虚症」タイプの方に多く、A子さんには当てはまりません。

さて、A子さんは「便意はあるが排便できない」と言っておられます。

これは、「気虚」や「ストレス」による便秘の特徴です。更に、便は細くないそうです。

細い便は「気虚」による便秘の特徴ですし、やはり「気虚」の便秘は虚症のタイプの方に多くみられます。

次にA子さんは「子供の頃から便秘がちで試験の前などによく便秘をした。」とも言っております。

これは、試験というストレスにより便秘が起きていたと考えられます。

以上を総合するとA子さん便秘はやはり「ストレス」によるものと考えてもよいでしょう。

 

A子さんの、「頭痛」「めまい」「便秘」をみてみると、ストレスの影響をかなり受けているのは明らかです。

このことはA子さんの体質がストレスを産みやすかったり、ストレスの影響を受けやすいということを表わしています。

次に「食欲不振」についてですが、これは出産後から現れた症状ですから、現症状に由来する可能性が高いわけです。

「食欲不振」と関係が深い臓腑は「脾」「胃」「肝」があります。

一般的に食欲不振は「脾」「胃」の損傷が起きた場合に多くみられます。

又、「肝」の働きの1つに疏泄があり、「気の流れ・消化・精神安定」などを促進させております。

「肝」が損傷を受けることにより、疏泄作用の低下が起こり、食欲不振が起こることもあります。

五行説では「肝」は『木』に属し、「脾・胃」は『土』に属します。

木は土から養分から奪う関係ですので、「肝」が損傷を受けると続いて「脾」が損傷を受けることがよくあります。

(現代医学でいう、「過敏性大腸炎」などがこれに当たります)

今の段階では、A子さんの場合、ストレスにより「肝」が損傷し、続いて「脾」にも影響が及んだ可能性もありますし、「肝」だけの可能性の両方あります。

 

そこで、次にどの臓腑が損傷を起しているのかを判断し、最終的な弁証を立てます。

 

【3-6随伴症状についての問診】

随伴症状について質問したところ、

口が苦い・咽が渇き、冷たい物が飲みたくなる・胸の脇が張る感じがする。

むくみも無い・手足のだるさもない・痰も無い。

膝や腰もだるくない・小水の回数も普通・性機能低下も無い。

動悸・不眠・健忘・息切れ・風邪をひきやすいこともない。

との回答でした。

 

 では、それぞれを見てゆきましょう。

 

[口が苦い・胸の脇が張る]

以上の症状は、「肝」が損傷されて、「気」が滞った症状です。

先程も述べましたが、「肝」と「胆」は表裏関係にあり、お互い影響を受けております。

「肝」が損傷を受け「胆」に影響が及ぼすと、口が苦くなったりします。

又、「肝」と関係のある経絡は胸の脇を通ります。ですから、「肝」の気が滞ると胸部に張った感じを受けます。

 

[咽が渇き、冷たい物が飲みたくなる]

咽の渇きは体内に熱があることを意味します。

中医学では熱を「虚熱」と「実熱」に2分します。

『虚熱』とは何らかの原因で体内の水分などが損耗してしまい、冷却効果 が低下してしまい熱症状がある状態です。

特徴は「のぼせ」「寝汗」「頬が赤らむ」などがあります。

A子さんには「のぼせ」「寝汗」はありません。

又、「望診」で述べましたが、顔自体は赤味を帯びているのですが、頬だけが赤いわけではありません。

『実熱』とは体内に何らかの熱源ある熱症状の総称です。

大きな特徴は水分を欲します。A子さんは「冷たい物が飲みたくなる」と言っておりますので、「実熱」と判断できます。

イライラや怒りによって、気が滞ると次に熱化し、それが熱源となって実熱を起します。

「望診」でチェックした「目が充血している」・「顔に赤味がある」といった症状は上記の機序から現れます。

以上の答えから明らかにストレスにより「肝」が損傷され、「気」の滞りが起きているといえます。

 

[むくみも無い・手足のだるさもない・痰も無い]

以上の質問は「脾」についての問診です。

A子さんには「食欲不振」がありましたので、「脾」については念入りにチェックが必要になります。

「脾」の損傷を表わす代表的な症状に「軟便」がありますが、A子さんは便秘傾向ですから、あえて問診で「軟便」は確認する必要はありません。

A子さんには、軟便・むくみ・手足のだるさ・痰、などの「脾」の症状はありません。

更に、「脾」を損傷させる原因である、偏食・長患い・過労ということは無い。

以上のことから、「脾」はまだ損傷されていないと考えていいと思います。

「食欲不振」については、今の段階では先程説明した「肝」の疏泄作用の失調によるものと考えてよいでしょう。

一般的にストレスなどを受けると、食欲が増す方と食欲不振を起す方がおります。

A子さんの場合は後者であったのでしょう。

このように、ストレスなどを受けて食欲不振を起した方全てに、「脾」の損傷があるとは限りません。

しかし、このまま治療をしないで放置していると、「脾」に損傷が及ぶことは十分に考えられます。

又、神経質な性格というのも「脾」を損傷させる原因の1つになりますが、同時に「肝」を損傷させる原因でもあります。

一般的に「脾」が損傷するとエネルギーが作られなくなるので、「虚証」の症状が現れますが、A子さんの場合は「脾」の症状が無く、殆んどが「実証」の症状です。

又、「食欲不振」や「神経質な性格」は「肝」とも関係がありますので、A子さんの場合はこれらは「肝」との係わり合いの方が強いと言えます。

以上の事からも「脾」の損傷は無いと判断できます。

 

このように、確実に注意深く問診を行うことで、損傷を受けている臓腑を見つけ出してゆくのです。

よく、たった一つの症状を聞いただけで、「○○の臓器が虚しています。」などと言う自称「東洋医学の治療家」がおりますが、決してそのように簡単に損傷が起きている臓腑がわかるものではありません。

 

[膝や腰もだるくない・小水の回数も普通・健忘・性機能低下も無い]

上記の質問は「腎」についての問診ですが、A子さんはこれらの症状もありませんし、年齢などを考慮しても「腎」の損傷は無いといえます。

 

[動悸・不眠・健忘・息切れ・風邪をひきやすいこともない]

これらの質問は「肺」と「心」についての問診です。

両臓器とも症状がありませんので、「肺」も「心」も損傷は無いと判断します。

尚、「肺」と「心」については、それ程深く「突発性難聴」には関係しませんので、問診時間の短縮の為に深くは質問しませんでした。

 

以上が臓腑についての問診になります。

 

以上の事から損傷を受けているのは「肝」だけと判断できました。

 

次に、舌と脈をみてみましょう。

A子さんの舌は紅く、裂紋がありました。

舌が紅いというのは体内に熱があることを意味しております。

確かに問診や望診でも熱の症状がありました。

つまり舌が紅いということはこれまでの四診で判断してきた「熱症状」の裏づけになります。

次に裂紋ですが、裂紋は体内の必要な水分が不足すると現れます。

例えば、寝不足をしたり、体内に熱があったりすると、その熱により水分が損耗されてしまいます。

A子さんは、お子さんの夜泣きによって寝不足でしたよね。又、気の滞りによる実熱の症状もありました。

体内の水分が損耗されやすい状況であるのは容易に想像が付きます。

次に脈ですが、弦を弾く様な脈とは「弦脈」と言い、ストレスなどを受け、気が滞った時によく現れる脈であります。

又、脈の速さは、体内の寒熱を表わします。

早い脈は熱を、遅い脈は冷えを表わしますので、A子さんの脈は速くうっておりましたので、やはり熱を意味します。

 

さて、舌と脈をみても、今まで四診で得てきた情報と同じような結果 となりましたので、今までの四診が間違っていないという裏づけになりました。

 

これで、四診により得た情報が整理出来ました。

では、いよいよ最終的な弁証を立ててまいりましょう。

2019/03/11
【内科疾患】尿失禁

~西洋医学編~

尿失禁とは、不随意(意思とは無関係)におしっこが漏れる状態をいいます。

大人になってからの尿失禁は羞恥心にさいなまれ、普段の生活や外出にも自信が持てなくなってしまいます。また、羞恥心や情報不足などによって治療をしない人も非常に多いのではないかとおもわれます。

尿失禁は、日本では約400万人の人が尿失禁で悩まされています。中でも女性の割合は、男性の3倍にもなります。高齢者に多いのですが、10代の女性では15%ぐらいに、40歳以上の女性には2人に1人の割合で尿失禁が見られます。

 

尿失禁の影に怖い病気がかくれているということは比較的に少ないのですが、「生活の質」という観点から考えますと、放っておいて悩み続けるのは苦痛であるかと存じます。

これから、おしっこが排泄されるまでの流れと尿失禁について西洋医学と中医学のそれぞれの考え方から治療まで紹介していきたいとおもいます。

 

<おしっことは>

そもそも、おしっことは一体なんでしょう?

おしっことは食事、水分として体内に取り込んだ物の中の不用物や、人間の生命活動でエネルギーとして使われた物質の老廃物などが血液によって腎臓に運ばれ、吸収、ろ過されたものです。

腎臓で血液から作られる原尿(おしっこの元になる物)の量は一日に180ℓにもなり、ドラム缶 の一本分です。これが100分の1ほどに再吸収ろ過され、残る1~2ℓが実際に出るおしっこになります。腎臓はこれだけの働きをするので、水分バランスをとるのに非常に重要な器官といわれます。

腎臓でできたおしっこは、一分間に1ccという速度で尿管という管の中をたらたらと流れていき、膀胱の中に溜まっていきます。

膀胱は風船のように伸び縮みする器官です。

150~300ml.で軽い尿意を感じ、一般的には300~400ml.ほど溜まるとおしっこにいきます。

我慢をすると500~600ml.くらいまでは溜めることができます。夜間では膀胱が膨らみやすくなり800ml.までは溜めることができます。

膀胱におしっこが300~400ml.溜まると風船をつぶす様に膀胱の壁(筋肉)が収縮してきます。そして、おしっこは膀胱から尿道という管を通 り対外へ排泄されます。

尿道には自動的に動く筋肉と自分の意思でコントロールできる筋肉(尿道括約筋)があり、健康な状態では尿意を感じてもある程度コントロールすることができます。排尿の回数は成人で4~8回が一般 的。

 

このようにして、血液の不用物はおしっことして対外に排泄されることになります。

 

※女性と男性の尿道の違い

女性は尿道の長さは4~5cmで、尿道括約筋が少し弱い。海から近い浜名湖のイメージ

男性の尿道はL字型になっており長さも20cmほどになり、精液も通るため丈夫にできている。海から遠い琵琶湖のイメージ

 

<西洋医学から尿失禁を考える>

 

尿失禁の頻度の多いものとして、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁があります。その他には機能性尿失禁、溢流性(いつりゅうせい)尿失禁などがあります。

ここでは、特に頻度の多い腹圧性尿失禁を中心にお話しして行きたいとおもいます。

 

○腹圧性尿失禁

 

腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみ、走るなどで腹圧(お腹の中の圧力)が上がってしまったためにおこる尿失禁です。女性特有の症状で男性にはほとんどありません。また、女性の尿失禁の中でも7割ほどを占める症状です。男性におこるのは前立腺の術後などです。

腹圧性尿失禁でも、たまにおしっこが漏れる程度で下着を換える必要もなく生活に支障がない程度でしたら問題はありません。失禁が毎日あったり、下着の交換が必要な状態になったりしましたら治療が必要になります。

症状

――

腹圧性尿失禁の場合、尿意はありません。瞬間的にお腹に力が入ったときにおしっこが漏れる状態です。症状が重くなると歩いているだけでも漏れたり、ちょっと体勢を変えただけでも漏れたりします。

 

原因

――

骨盤底筋や尿道括約筋の収縮(引き締める)力が弱くなり、下がってしまい、膀胱の出口を締める力が弱くなってしまったためにおこります。つまり、膀胱の圧力に耐えられなくなってしまった状態です。

婦人科の手術の経験がある。肥満、便秘、冷えなども影響します。

※骨盤底筋とは、恥骨と尾骨(尾底骨)の間にハンモックのように張っていて、泌尿器、腟、子宮、直腸などを吊り上げている筋肉です。妊娠、出産、加齢などにより筋力が弱くなります。

検査

――

問診(中等度までの尿失禁の場合は問診で大体分かります)

 

 

パッドテスト(尿失禁定量テスト)…パッドを股間に当てた状態で、500ml.の水を、飲んで、15分安静後、30分以上歩行するなど一定の動きをして漏れたおしっこの重量 (2g以下~50g以上の間で5段階分)でグレイド分けをするテスト。

 

 

チェーンテスト…医療用のチェーンを尿道から膀胱に入れレントゲンで撮影する。腹圧性尿失禁の人は膀胱がうしろ側に落ち込んでいるので角度を計測して判断する。

 

 

尿道、膀胱内圧検査…管を使って膀胱に水を入れて、圧力計で測定する。

 

治療

――

運動療法…尿道括約筋を含めた骨盤底筋の意識的収縮を行う骨盤底筋体操(※1)を約3ヶ月おこなう。

 

 

薬物療法…運動療法だけでうまく治らなかったり、運動療法の補助として、膀胱の筋肉を緩める薬や、尿道括約筋の収縮力を強くする薬を使用

 

 

手術療法…運動療法、薬物療法で良い効果 が上がらない場合は手術療法を選択します。

・コラーゲン注入法(尿道をふくらます)

・尿道、膀胱を吊り上げる手術

 

※1:骨盤底筋体操―緩んだ骨盤底筋を鍛える体操です

 

 

仰向けになり、膝を立て身体の力をぬ きます(膝を立てると腹筋が緩みやすい)。

 

 

肛門、腟、尿道に力を入れ収縮させる。身体の中に引き上げる感じ。(慣れないうちは肛門を収縮させることから始める)

 

 

お腹に力は入れないこと(膀胱、尿道を押し下げてしまうため)

 

 

5秒かけて収縮させ、ゆっくりと緩める

 

 

椅子に腰掛けた姿勢、四つんばいの姿勢、立って手を机などについた姿勢などの姿勢でおこなう

 

 

これらの中でやりやすい姿勢を選んで、一日に50回おこなう

○切迫性尿失禁

 

強い尿意がありトイレまで我慢できずにおしっこが漏れてしまうタイプ。

尿道には問題はなく、膀胱の異常収縮でおこります。切迫性尿失禁には急性膀胱炎などの一時的なもの(女性に多い)、高齢によるもの(不安定膀胱)、脳や背髄の病気によるもの(神経因性膀胱)にわかれます。

症状

――

強い尿意を感じるが、トイレに間に合わず漏れる。

尿量が多い(ときに大量になる)

頻尿を伴う。

 

原因

――

膀胱炎など原因のはっきりしているもの。

脳から膀胱へ間違った情報がいってしまうなどがあります。

不安定膀胱については原因不明

 

治療

――

膀胱炎は膀胱炎の治療をすることにより改善します。

神経性膀胱と不安定膀胱は薬物療法により膀胱の筋を緩めることが主体になりますが、改善はなかなか難しいようです。

 

その他の溢流性尿失禁とは、男性に多く、膀胱に尿がたまり過ぎて漏れだすタイプですが、詳しくは別 の章で紹介いたします。

機能性尿失禁とは手足が不自由なもの、痴呆によるもので排尿機能には問題がないので、こちらも省かせていただきます。

 

~中医学編~

<中医学からみた尿失禁の考え方>

 

中医学では人の身体は「気」「血」「水(津液)」の三つの物質により構成されると考えます。

そしてこれらが多くもなく少なくもなく適量でバランスよく、且つスムーズにながれてこそ健康でいられると考えます。

 

この考え方が基本となり、この気血水のバランスが崩れたり、スムーズに流れなくなったりすると病気になると考えます。

 

ここでは特に尿失禁に関係の深いものに絞って説明していきます。

 

● 気

気は、人体を構成する最も基本的な物質であり、生命を維持する基本物質でもあります。気には強力なエネルギーがあって、絶えず運動する特性があります。

主な作用には推動作用、温煦作用、防衛作用、固摂作用、気化作用などがあります。

 

推動作用 ― 気は人体の発育、臓腑や経絡などの生理活動、血の生成や運行、水(津液)の生成や散布、排泄において、それらを動かしたり始動させたりする作用

 

温煦作用 ― 気の温煦作用によって、体温は一定に保持され、臓腑・経絡・組織・器官も正常に機能し、血の運行、水(津液)の運行、水の排泄も正常に維持される作用

 

気化作用 ― 気化とは代謝作用のように物質転化の機能です。気、血、水(津液)、精(成長発育の元)などの新陳代謝と相互転化をさせる作用。

 

固摂作用 ― 固摂作用とは、血や津液などの液状の物質が理由なく流失しないようにする作用です。

血液、尿、汗、唾液、胃液、腸液、精液などの排泄量をコントロールして流失しないようにします。

 

● 血

血には、全身を栄養して潤す作用があります。

 

● 水(津液)

水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。

主な作用は身体各所を潤したり、滋養したりする作用があります。

 

● 五臓六腑

五臓には肝、心、脾、肺、腎  六腑には胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦 があります。

五臓六腑は工場のようなもので、これらの臓腑で気血水を吸収、運行、代謝、貯蔵、排泄などの働きをします。

名称は西洋医学の臓器と同じものがありますが、働きは似ているものと大きく違うものがあります。

 

中医学からみたおしっことは、津液の余った代謝物として排泄されたものです。

では、おしっこの元になる津液がどのように作られ、利用されていくのか、またどの臓腑と関係しているのか説明していきます。

 

「正常な津液の代謝は、食べた物(の中の水分)が胃に入り、脾の運化、肺の宣発と粛降作用、腎の蒸騰気化作用によって三焦を通 って全身に輸送されます。そして、代謝して余った津液は汗や尿(膀胱に一時溜められ)として排泄されます」

これが大まかな津液の代謝の流れですが、この中でも脾、肺、腎の臓腑が津液のバランスを調整するために重要な働きをしています。中でも腎は津液の代謝にもっとも関係の深い臓器です。

では次にこれらの臓腑の中でも、津液と尿失禁に関係する働きについて説明していきます。

 

腎 ― 腎は水液を主るといいます。

これは腎の中の精気(生命活動のもと)というものが気化作用によっておこなっています。体内の津液の運行、排泄、維持や代謝のバランスなど調整することを指します。

前述した、「正常な津液の代謝…」とは全てこの腎の蒸騰気化作用(水分を蒸気のように昇らせる作用)をベースに行なわれているため、腎がもっとも関係の深い臓器といわれるのです。このため、腎は「水臓」とも呼ばれます。

 

肺 ― 肺には宣発、粛降という作用があります。

肺の宣発作用とは簡単にいうと津液や栄養分(水穀の精微という)を全身に散布したり、代謝産物である汗を排泄したりします。

粛降作用はきれいな空気(清気という)を吸入したり、吸入した清気や水穀の精微と津液を下に向けて散布したりします。

また、体内の水液を絶えず下方の腎へ運搬し尿を作る元とする。これらの水液を調整する作用を「通 調水道作用」と呼ぶ。

また、肺が気の流れや津液の流れを治めたり調節したりしていることを「治節作用」という。

このように肺には調節、調整作用が備わっている。

 

この中で尿失禁に関係が深いのは粛降作用と通調水道作用で、津液を下にある腎まで運ぶことです。

 

脾 ― 脾は運化を主る。

運とは中継輸送のことで、化とは消化吸収することです。

脾の運化とは飲食物を精微(エキス)に変化させ(水穀の精微)、そして、それを全身に輸送することです。

運化される物には食物と水液があります。その中でも水液の運化とは、水液を吸収、輸送し全身に散布する作用と余分に余った水分を肺や腎に送り、汗や尿として体外に排泄する作用があります。この作用が尿失禁に関係が深いといえます。また、脾に水穀の精微を上方に昇らせる作用があります(昇清作用)

 

膀胱 ― 膀胱は貯尿の器官です。

膀胱は腎と直接つながっている。尿は膀胱の中に一定量溜め込まれ、意識的に体外に排出されます。

 

その他、三焦は元気と水液が流れる通路の作用がありますが、三焦自体には形が存在しません。(体腔全体のイメージでもよいと思います。)

小腸では大量の水液が吸収されます。

 

基礎的な知識として臓腑の作用中でも尿失禁に関係するものに絞って説明させていただきました。

これらの臓腑の働きにより気血水のバランスが保たれているのですが、なんらかの影響によって臓腑の働きが悪くなり、気血水のバランスが崩れると病気の状態になります。

では、これからどのようにして病気の状態になるのか、症状、治療法などを説明していきます。

 

尿失禁は最終的には膀胱で正常に尿を溜めることができなくなってしまう膀胱失約(拘束する、取り締まることができなくなった)状態になってしまうためにおこります。

この膀胱がコントロールできなくなる理由を病理的な角度から3つのタイプにわけます。

 

< 肺脾気虚 >

 

原因―平素から虚弱体質であったり、長期の咳から肺の気が不足してしまったりして、それが脾に影響して脾の気虚も同時に起こる。

または、飲食を節制しなかったり(食べる時間帯や量、種類)、疲れすぎたりして脾を損傷し、脾気虚になり、そのため肺に栄養を送れなくなり肺気虚が起こる。

両者は互いに影響して肺脾両虚となる。

肺が機能しなくなれば、水道も調整できなくなり、治節(コントロール作用)も弱くなります。

脾が機能しなくなれば、水液の運化が悪くなり、津液も上方に昇らせられなくなります。このような機能の低下が膀胱の貯尿機能に影響して尿失禁になります。

 

症状―尿失禁、下腹部の下垂感、強い疲労、頻尿だが尿量が少ない、声に力がない、食欲不振、などがあげられる。

 

治療―針治療では、肺と脾の気を補う治療をします。肺のコントロール作用、脾の運化作用、昇清作用を助けます。

 

食べて治す―もち米…もち米には脾、胃を丈夫にし、肺を補養する作用があり、止尿作用があります。

炒ったギンナンもいいです(ギンナンは一日5個まで。)

 

< 腎気不足 >

 

原因―虚弱体質、房事過多、重病や手術の後、不養生などが原因となる。

腎の蒸騰気化作用は腎中にある精気がおこなっている。

腎気が不足してしまったため、体内の津液のバランスをとることができなくなり、腎気の中の陽気(各臓腑をあたためる機能)が弱くなると、膀胱を抑えることもできなくなってしまう。

固摂作用も弱くなり (腎気不固)、尿を固摂することができなくなる。

これらの結果、尿失禁となる。

 

症状―尿失禁、腰や四肢のだるさと冷え、精神不振、めまいなど

 

治療―針治療では腎気を補うようにする。腎の陽虚がある場合は温める。

 

食べて治す―山芋。虚弱体質に効果があり泌尿器系の症状を改善させる。

 

 

< 気虚腎虧(キキョジンキ)または肺腎気虚(※虧(キ)とは欠ける・不足の意味) >

 

原因 ― 慢性の咳や病気などから肺気虚になり、それが腎に影響して腎気虚になってしまったため。肺気虚では水道を調節できなくなり、腎気虚は膀胱のコントロールができなくなる。

 

症状 ― 咳とともに尿失禁する。息切れ、活動時に悪化する、腰がだるいなど

 

治療 ― 針治療では肺と腎の気を補う治療をする。

 

食べて治す ― 胡桃(くるみ)。胡桃は肺と腎両方に効果があり、咳を止め、泌尿器に効果 があります。

 

※ 膀胱失約

主にはこれらの3パターンによって尿失禁がおこると考えられるが、中には外からの邪気が直接膀胱に影響して膀胱失約になることもある。

 

<その他の注意点>

 

○利尿作用の強い食べ物は避けましょう ― 冬瓜、みかん、キュウリ、大根、ハトムギ、小豆などは利尿作用が強いので過食は避けましょう。特に冬瓜、みかん、キュウリ、生野菜の過食などは身体を冷やす作用もありますので注意が必要です。

 

○夕方から夜にかけての水分の摂り過ぎや冷たい物の摂り過ぎには気をつけましょう

 

○足腰が冷えないようにしましょう

 

○骨盤低筋体操をしましょう

 

このように、中医学ではタイプ別に分けて治療するのと同時に生活の中からチェックし改善さえて身体全体を変えていきます。ですから、治療したからといって冷たいものをたくさん食べたり身体を冷やしたりしては意味がありません。治療をするときには、生活も気をつける。これが中医学ではとても重要です。

体力が衰えてしまって尿失禁になってしまった場合、体操することさえも困難な場合もあるとおもいます。針治療では衰えた体力を補う治療があります。また、適切なアドバイス、日頃の身体の管理などを同時におこない生活の質を上げていっていただきたいとおもいます。

 

中医学(東洋医学)全般(鍼灸・漢方・食事療法・体質改善)のご相談はお気軽にどうぞ。

 

◎ 当院での治療をお考えの方へ

 

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

 

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

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