コラム

2019/03/11
【その他】受診・治療を受ける際に

●受診・治療などを受ける際に関して●

西洋医学・東洋医学を問わず受診や治療を受ける際に、自覚症状、何時から、どの様になどをメモし、また先生に伝えたいことや聞きたいことをメモをし、受診や治療を受ける際に伝えると良いです。

また、他の医院、治療院などで治療を受けてた場合はどの様な薬を頂いたか、治療を受けたかを伝えた方が良いでしょう。

そして、受け答えがはっきりしてて、自分が納得し好印象を得られた時に受診・治療を継続して受ければ良いかと思います。

説明や治療方針に納得いかず、中途半端な気持ちで受診・治療を受けると良い結果 を得られ無いケースもございます。医療は、受ける側、行う側両サイドがお互いにコミュニケーションを取って始めてよい結果 が生み出されます。

 

 

●中医学(東洋医学)の受診・治療を受ける際に関して●

さて、中医学(東洋医学)の受診・治療を受ける際に関して、参考意見を少々述べさせて頂きます。

現在、日本で行われている東洋医学特に鍼灸治療に関して様々な治療法があります。玉 石混合していると言っても過言ではないかと思います。

治療の方針がリラックスゼーション慰安的なもの(筋肉のコリをほぐしたり痛いところに鍼を打つような局所の対症療法や気分を癒す治療、体質改善や体の内部環境のアンバランスの治療を行わないもの)と病の症状改善・治すのを目的としたもの(東洋医学の理論を確りと活用し東洋医学的な診断証と言うものを判断し治療方針が出せるもの、ツボとツボの組み合わせ処方のあるもの)とかが有ります。

どちらのタイプの治療が多いかと申しますと、前記のタイプの治療を行っている所の方が、全体の割合を占めているかと思います。

試しに、ホームページを検索して頂き、幾つかのホームページを読み比べて頂ければ理解頂けるかと思います。事細かく理論や治療方針、適応症が多種多様に分かりやすく述べられ、また読まれて納得理解出来る様なページは比較的少ないかと思われます。

 

東洋医学を受診される場合、まず東洋医学に何を求めるのか、また東洋医学の治療目的がなんなのか、受診されるご自身が理解することが大切かと思います。

なぜならば、東洋医学には東洋医学の理論があり。西洋医学と違い、病気の見立てと考えが違います。

西洋医学は、細分化し検査を行い異常ヶ所や数値の異常を見つけ出すのが特徴です。それらに対しての治療が主になります。

 

東洋医学は、体内の検査数値に出てこない活力(気・血・津液)の崩れを見つけ出すのが特徴です。それらを調整し、体内の自然な体の回復力取り戻して内部環境を整えます。

ですから、まったく治療目的が違います。なので受診される方は、東洋医学の考えを有る程度理解し治療を受けることをお勧めいたします。

 

 

●中医学(東洋医学)的な治療の例をあげてみました●

例として、不妊症の方の治療に関して、一般的な医学の治療は検査を行い、器質的にどこかに問題が有るか無いかを捜し、器質的に問題が有ればそれに対して治療を行います。

しかし、器質的に問題がない場合は、なかなかこれと言っていい治療手段が見つかりません。

 

こんなときこそ中医学(東洋医学)の出番と成ります。なぜならば、再三当院のホームページ内で話してますが、病の見立てが違い検査数値とかを重視しておらず、患者様の訴え症状に重点を置いて、東洋医学的な理論に照らし合わせ症状を引き起こしている起因が体のどこで、何が、どの様にアンバランスになり崩れてしまい、体を良い状態にコントロール出来なくなったのかを捜し出し、そしてそれらを整え調整して治療を行います。要するに、体の内部環境を整えてあげる事に治療の着眼点をおいているのです。

 

冷え性は、西洋医学的な考えでは病気では御座いません。しかし当事者とっても辛い思いをしている方が沢山おります。またなかには、自分自身の体が冷えていると自覚のない方がおられます。この冷え症というものは器質的検査や数値には出てこない部分でもあります。

その分厄介かも知れませんね。ですから、人間の体は全てが検査などで解決されるものではないと言う事をご理解下さいませ。

 

例えば、女性の基礎体温に関して低温期一相から高温期二相に勢いよく上がらない場合、或いは高温期になっても体温が不安定、もしくは高温期の期間が短いなどこれらは女性ホルモンの分泌に問題があるケースが有ります。

この症状をホルモン調整剤を服用して改善される場合もございますが、なかなか改善されない場合も有ります。

なぜならば、内部環境が改善されてないから効果が出ずらいケースもあるのです。中医学(東洋医学)では、基本的に体の活力エネルギー(気、血、水)がアンバランスになって高温期が不安定になったり、高温期が短くなったりすると考えております。ゆえに、活力エネルギーの調整も大事かと思います。

 

また、その他検査に出てこない色々な症状、疾病が活力エネルギーの失調から起きていると言うことも考えられる事を認識しとくと良いかと思います。

 

 

●鍼治療の刺激に関して●

多くの治療院では、無痛のはり、細い鍼を使用と謳っているのですが・・・

無痛の鍼と言うのは、本来の意味合いは体に鍼を打つときに刺入痛が無い事を強調しているかと思うのですが、しかしいつしか世の中では、この無痛の鍼と言うものが刺激の無いものに変わってきてしまっているようです。

 

この場を借り少々説明させて頂きたいかと思います。鍼灸治療の本来の治療の形態は、鍼や灸を使い物理的な刺激を体に与え、身体上にあるツボを刺激し体に反応を起こさせる療法なのです。

なので、刺入痛が無いのは良い事だと思いますが、鍼が体表から中に入ってからも刺激が無いと言うのは如何なもんでしょうか?中国の鍼治療には、「得気」と言う言葉があります。これは鍼を受け「気」と言う活力エネルギーを得た反応です。

これは何を意味するかと言いますと、鍼を体内に刺入した際に得られる反応です。別 名響きとも言います。

この反応は、ツン、重い、けだるい、しびれる様な感覚が生じます。これらは、刺入痛とは違います。体が、病気を治そうとする生体反応なのです。良い反応です。しかしこれらの反応を得るには、実はある程度の鍼の刺激があって初めて得られる反応なのです。

 

ですから、鍼の治療効果を得るには多少なりとも刺激が無ければ、病気治療の目的に達しないと思ってくださいませ。なので刺激のない鍼治療或いは細すぎりる鍼での治療は病治療まで行き届かない可能性があります。但し感受性の非常に高い方は一概に言えませんですが・・・(リラックスを求めての治療はこの様な刺激がなくても良い場合があります)

 

また、鍼を刺入して頂くツボの位置によって反応が違ってきます。肉厚の所は、ツン、ボアンとはったような感じが出ます。

神経の近くを通ているツボには、しびれるような、だるいような感じが生じます。手足の先はしびれるような、はるような、ぼあんとした何とも表現しずらい感覚が生じます。これらは、実際に体験してみないと何とも言えない感覚です。しかし、けしてチクチクとした痛みを伴なうものでは御座いません。チクチクした様な場合は過敏痛点に刺入したか、技術的に問題があるかと思われます。

 

以上受診・治療を受ける際の何かの参考になればと存じます。

 

中医学(東洋医学・鍼灸・漢方・食養・健康茶)に関してご質問のある方は、お気軽に当院までご相談ください。

2019/03/11
【その他】書痙について

書痙とは、一般の動作には問題はないのですが、字を書こうとしたり、また書き始めたりすると手に持続性の筋肉の緊張による強張りや振るえ(振震)がおきて、書字が困難になる病気のことをいいます。

この病気は人口10人対し5名程度の発症率で頻繁にみられる病気ではないのですが、職業などで手を長期にわたり頻繁に使う人にあらわれるため、社会生活に深刻な影響を及ぼします。

 

これから、書痙について西洋医学と中医学のそれぞれの考え方から治療まで紹介していきたいとおもいます。

 

<西洋医学から書痙を考える>

 

書痙は、長い間、神経症(心因的な原因から頭痛、動悸、不眠、振るえなどをおこす疾患で精神病とは違い人格が障害されず、身体的以上は認められないもの)の一部と考えられてきました。

現在では、ジストニアという脳の障害による筋緊張異常や姿勢異常、不随意運動の一つであると認識されています。

ただ、原因が脳の障害であるとはいえ、書痙の場合は少なからず精神的な要因も関与していると考えられています。

年齢は20才~40才に多い。男性に多い。

 

また人前で字を書くときだけ手が震える神経症由来の書字困難もあります。これらは対人恐怖症の症状と考えられます。

このタイプの書字困難に対しては基本的には精神療法にて治療していきますが、状態に応じて抗不安薬や抗うつ薬を用います。

 

原因―はっきりとした原因はわかってはいないが、作家、ピアニスト、タイピストなど身体の一部を反復して長期に動かす人に多い傾向があることを考えると、過度の使用とストレスによる影響が考えられる。

発症の前に手の怪我が認められる場合もある。

 

症状―字を書く動作やピアノを弾く動作をしようとしたり、始めたりすると、手が強張り、捻じれ、振るえが出てきて動作が困難になる。

症例の25%ぐらいに反対側にも同様の症状がでることがある。

知的機能が障害されることはない。

 

治療―原因がはっきりしていないので、確実な治療法は確立していない。

対症療法として、薬物療法、ボツリヌス治療などがあり、外科的に治療して効果 があると判断されれば外科療法も選択される。

また、神経症由来の書字困難の可能性も考え、神経科、心療内科的な薬物療法(精神安定剤)や筋弛緩剤なども使用される。

指だけで持つと書痙が出るので、手全体で把握することができるような筆記用具などの装具を使用する。

 

①薬物療法― 一般的にはアーテンという抗コリン剤が使用される。

神経伝達に使われるアセチルコリンという物質を抑え、過剰な神経の興奮を抑える。

 

②ボツリヌス(ボトックス)治療―ボツリヌス菌という食中毒の原因の一つである毒素の力を利用する治療法。

緊張のある筋肉を特定して、毒素の量を調整しボツリヌス毒素を筋注射して緊張のある筋肉を麻痺させる。

ボツリヌスは美容整形でシワを取るときなどにも使われるので、使用方法を守り、ボツリヌス治療を許可された医師の下で使用されるので危険は少ない。

効果は3~4ヶ月で、繰り返し注射をする必要がある。

 

③外科療法―定位脳手術を施す。

定位脳手術とは、頭蓋骨に500円玉ぐらいの穴を開けて、予めMRIやCTで確認してある目標点を針状の装置を使い凝固させる治療法です。

手術は局所麻酔の下でおこなわれます。

随時、患者の意識はあり手の動きを確認しながら書痙をおこす神経支配ポイントを凝固させます。

手術後は10日程度の入院が必要になります。

まだ症例数も少なく、外科手術にともなう危険性もありますが、経過が良ければ根治の望める治療法です。

 

<中医学から書痙を考える>

 

※中医学のお話しをする前に、ホームページのトップページのやや下にある「わかりやすい東洋医学理論」の中の中医学の陰陽、生理観、気血水(津液)、内臓(五臓六腑)、経絡を読んでいただきたいとおもいます。

 

中医学では書痙のことを「書写痙攣(ショシャケイレン)」といいます。

素問という中医学の基本になる考えの中に「諸暴強直、皆風に属す」という文があります。

(後述しますが、この中で「風」とは痙攣、四肢のひきつりなどの意味を指します)

この意味は、「急に発病する多くの痙攣、強直は大体、風証に属する」となります。

「痙攣」は身体を「風邪」という邪気が侵した結果あらわれる症状です。

 

では、これから「風邪」が起こる原因と関係の深い臓器、病理について説明していきます。

 

中医学における健康な状態とは気血水(津液)のバランスがとれ、滞りなく流れている状態です。

病気とはその反対で気血水のバランスがくずれ、弱くなったり、強くなりすぎたり、滞ったりしている状態です。

「風邪」も身体のバランスが崩れた時に身体の中から発生したり、外から侵されたりします。

 

まず、病気の原因からお話しします。

病気の原因には内因、外因、不内外因の三つがあります。

外因とは 体外より人体を襲う病邪(邪気)のことで、六淫(ろくいん)といって、風、寒、暑、湿、燥、火(熱)があります。

 

内因とは 情志(感情)のことで、怒、喜、思、悲、憂、恐、驚の7種類の感情が、臓器の働きを悪くして気血水が正常に働けなくなり、病気になると考えます。

内風、内寒、内湿、内燥、内火の5種類あります。

 

不内外因とは食生活、労働、安逸、性生活などで、これらを節制せずバランスが悪くなると臓腑に悪影響を与えて病気になります。

 

書痙の場合は、内風、外風では「内風」が多い。

 

風邪の作用には、

①風邪は陽邪、その性は開泄、上部を侵しやすい…

②風性は善く行り数々変ず…

③風は百病の長

④風性は動を主る

などがあります。

また、中医学の古典の中にも「諸風掉眩、皆肝に属す」という言葉があり、これは全ての風証やめまいに関わるものは皆肝に属する という意味である。

このことから、古くから痙攣や振るえなど原因の風証と肝は関係が深いと考えられている。

肝の機能は

①蔵血作用…

血液の貯蔵。血液量の調節。出血予防。などの作用

②疏泄作用…

気の流れをスムーズにする。脾胃(消化吸収、栄養運搬など)の働きを促進。情志のコントロール。

胆汁の分泌、排泄。女性の排卵や月経、男性の射精をスムーズにする。

※血液を貯蔵、調節し、排卵や月経に関係することにより 肝は婦人科疾患に非常に関係の深い臓腑といえる。

これらが肝の機能です。

そして、肝と関係の深い身体との連絡では

志(精神活動)は怒る

(体)液は泪

身体は筋、その華は爪…この場合の筋とは靭帯のことであるが、この筋に血液(陰液と血液)が十分にいきわたっていれば正常に動くが、血液が少なければ、筋が栄養を失い、手足の痺れ、振動、曲げ伸ばしが不便になる。

開竅(孔)は目…肝の経絡は目に連絡している。

 

さらに、書く動作には 長時間座っていること、目を酷使することなども挙げられる。

中医学では、久視は血を傷る、久座は肉を傷る、久行は筋を傷る、久立は骨を傷る、久臥は気を傷る と言われる。

つまり、字を継続して書き続けると 久視により血を傷ってしまい、久座によって肉を傷ってしまうことになる。

 

書痙はこのように継続する姿勢や動作によって血を傷ったり、またストレスが肝に影響したりして発症すると考えます。

 

 

弁証論治(中医学診断と治療)

 

○(肝)血虚生風―生血不足、出血過多、久病により肝血が不足して筋骨が栄養できなくなった状態。

 

症状―書痙がおこる。筋肉のひきつり、振るえが起こる。

 

ストレスを溜め込みやすい、めまい、多夢、目がかすむ、顔や爪の色が悪い、月経が少ないなど。

 

治療―養血熄風(ヨウケツソクフウ)…血液を養い、風邪を自然消滅させる。

 

食べて治す―ごま、松の実、ぶどう、うなぎ、レバーなどは血虚を改善させ、肝を助けます。

 

 

○(肝)陰虚内風―房事の不摂生、久病、感情に極みや熱病などの原因により陰液が損傷し、筋骨を栄養できなくなった状態。

(陰とは津液のことで、津液は血の組成成分なので、血を消耗すると同時に津液も消耗することになる)

 

症状―書痙がおこる。筋肉のひきつり、振るえが起こる。

手足のほてり、午後に微熱でるなど。

 

治療―滋陰熄風(ジインソクフウ)…陰液を滋養し、風邪を消滅させる。

 

食べて治す―黒きくらげ、クコの実、山芋、スッポン、イカなどは陰虚を改善させ、肝を助けます。

 

※血虚生風と陰虚内風の症状は似たところがあります。これは血液の成分に津液が含まれるので血虚、陰虚共に影響し合う関係にあるからです。

 

 

○肝陽化風―肝、腎の陰虚が陽の亢進を制御できなくなるとおこる。

 

症状―書痙がおこる(痙攣、捻れなどが強くでる)。筋肉の引きつり、振るえ。症状は強めに出現。

めまい、頭痛など

 

治療―育陰潜陽、平肝熄風(イクインセンヨウ、ヘイガンソクフウ)…陰を補い、陰の力で陽を沈める。肝を整えて風邪を消滅させる。

 

食べて治す―陰虚内風と同じもの、その他にセロリ、金針菜、カニなどは肝の熱をとり、火を下げる作用があります。

 

◎まとめ

決してパソコンを打つ動作の時に手が引きつってしまうことが、すぐ書痙につながるとは考えられないが、頻繁にそのような症状がある場合は、精神的にも、身体的にも疲れているのだと自覚が必要であるとおもう。

書痙は治るまで非常に時間のかかる病気です。治療を受けるときは長期によって食事、生活を気をつけましょう。

 

2019/03/11
【内科疾患】胃潰瘍・胃炎について

ストレス社会といわれる現代において、胃炎や胃潰瘍はよく耳にしますね。今日は、この二つの消化器疾患に関して述べさせて頂きます。

 

○胃

みぞおちの左に位置する袋状の消化器官が胃です。その容量は約1.2~1.6リットルです。

胃は食べ物を十二指腸での消化の進み具合に合わせて、一時的に貯留しながら、食べ物と胃液を混ぜ合わせて消化・吸収し、十二指腸に送り出します。普通 は約4時間で胃から十二指腸に送り出されます。

胃の粘膜からは、塩酸・消化酵素ペプシン・粘液などの胃液が分泌され、特に塩酸はpH1.0~2.5という強い酸性を示すため、この酸から胃自体を保護するために、粘液がとても大切な役割を果 たしています。粘液の作用が弱くなると、酸によって胃の粘膜が消化されるために、胃潰瘍などを引き起こします。

 

◎胃炎(急性胃炎・慢性胃炎)

胃炎とは、胃の粘膜が炎症を起こしている病気です。その原因や症状の違い、胃粘膜の状態から、急性胃炎と慢性胃炎に分けられます。

 

・急性胃炎

概念―

胃粘膜に限局した炎症、発赤、腫脹、びらん

原因―

肉体的、精神的ストレス、暴飲暴食、抗生物質、非ステロイド系消炎剤などによる胃粘膜の血流障害

症状―

突発的な腹痛、胸焼け、吐き気。まれに吐血や下血をおこす場合もある。

治療―

薬物性のものやストレスによるものは原因の除去が第一。安静を心がける。

それでも症状が改善されないときは、胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護薬を使用

 

・慢性胃炎

分類―

表層性胃炎

萎縮性胃炎

肥厚性胃炎

※ 特に萎縮性胃炎が多い。慢性の炎症により、胃腺がつぶれるなど萎縮性の胃病変が全体に見られる。非可逆性。

原因―

☆☆ヘリコバクター・ピロリ菌の感染。

アルコールの飲みすぎ、喫煙、ストレス、薬剤

症状―

急性胃炎と比べて、症状がはっきりしないものが多い。

何となく胃がもたれる。胃の不快感、ゲップ、胸焼け。

長期に渡ると、食欲不振や倦怠感がおこる。

 

治療―

対処療法としては、急性胃炎と同様、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、運動機能改善薬を使用。

☆ピロリ菌に感染している場合は、除菌が有効とされていますが、現在のところ、ピロリ菌の除菌療法がみとめられているのは消化性潰瘍だけで、慢性胃炎では認められていないため、検査・治療ともに自費となります。

 

 

◎胃潰瘍

十二指腸潰瘍とともに消化性潰瘍と言われ、酸・ペプシン(タンパク質を分解する酵素)により消化管の壁の欠損を生じる状態です。食べ物を消化する胃液(攻撃因子)とその胃液から胃を守る作用(防御因子)のバランスが崩れた時におこると考えられています。男性は女性に比べ、約3倍ほど罹患率が高いようです。

攻撃因子の一つである胃液は、塩酸とペプシンを含んでおり、食べ物を溶かすだけに強い酸性を持っています。その力から胃自体を守るのが防御因子です。防御因子には、粘膜を保護する粘液、粘膜が分泌するアルカリ性の重炭酸、粘液を健全に保つ血液の流れがあります。この攻撃因子と防御因子のバランスが崩れると、胃が自己消化し粘膜が障害されます。

攻撃因子にはその他、ストレスも大きく関係しています。ストレスは自律神経に変調を来たします。胃液の過分泌や、粘膜表面 の血管を収縮させることにより、血液の流れが悪くなり防御因子の力を低下させてしまうのです。

同様に、喫煙も胃粘膜の血流を低下させ、潰瘍を悪化させる誘因となります。喫煙がストレス発散!と言う人も多いと思いますが、実は喫煙自体が病気を産み出す行為となり、まさに百害あって一利なし!!です。

 

また、最近になって、ヘリコバクター・ピロリ菌という菌が消化性潰瘍と深く関わっていることがわかってきました。

ピロリ菌は、胃の粘液内や、粘液と粘膜の間に生息している細菌で、ピロリ菌が放出するアンモニアが胃の粘膜を攻撃して炎症や潰瘍を引き起こすと考えられています。

消化性潰瘍に罹っている人の胃を調べると、その多くに、ピロリ菌の陽性反応が出ますが、ピロリ菌に感染した人全てに症状が現れるわけではありません。

再発を繰り返しやすい場合は、ピロリ菌の除菌が有効とされ、消化性潰瘍治療薬<ランソプラゾール>と、抗生物質の<クラリスロマイシン>と<アモキシシリン>の3剤を1週間服用する除菌療法が行われます。この除菌については専門医に相談して下さい。

・ 症状―

みぞおちや上腹部の痛み、げっぷ、胃酸が上がってくる。

背中の痛み

特に胃潰瘍の場合は、食後すぐに痛みが現れることが多い。

潰瘍からの出血が多いと、黒色のタール便が出る。

・ 治療―

薬を使った治療が中心。

ピロリ菌の除去。

出血や穿孔などがある場合は、内視鏡手術や、外科的手術を行う。

以上が西洋医学的な胃炎・胃潰瘍の概要です。

次に中医学的な考察に入ります。

 

 

《中医学的による考察》

中医学では、胃炎や胃潰瘍をその器質的変化で分類するのではなく、胃の痛み<胃痛>を主訴とする状態としてとらえた中で、その起因や症状の違いなどから弁証を行い、治療法を組み立てます。

詳細に問診し、胃痛の出ている期間、痛みの性質や特徴、及び随伴症状などとも関連させて分類します。

特に鍼灸治療では、機能性病変(胃そのものに炎症は認められないが、胃に不快感やもたれ、食欲が出ないなどの症状がある)による胃痛に良い効果 があります。また、器質清病変(炎症や潰瘍を呈する場合)でも、止痛効果 が期待できるので、この場合は継続して治療を行うことが大切です。

 胃炎や胃潰瘍だけでなく、現代医学の分類による十二指腸潰瘍や胃神経症なども、この<胃痛>と同様に考えるので、参照ください。

 

中医学では、外界の気候(特に寒さ)や、飲食物の取り過ぎ、ストレス、長期にわたる薬剤の使用などが、胃痛をひきおこすと考えています。

中医学の弁証でみると、

◎ 寒邪犯胃

◎ 飲食停滞

◎ 肝気犯胃

◎ 脾胃虚寒

 

が挙げられます。これらを分類するにあたっては、その発症原因や痛みの性質を問診の際に詳しく聞き、病邪が阻滞しているのか、臓腑の機能失調なのか、また、実証もしくは虚証なのかを正確に判断することが大切です。弁証するにあたり、問診で重要なポイントを次に示します。

 

 

<問診のポイント>

食べ過ぎ、飲みすぎてはいないか?

雨に濡れた、プールに入った、強い冷房の中にいた…など体を冷やしてはいないか?(温めると胃痛は軽減するか)

胃痛の出る時間は決まっているか?(会社に行く通 勤時間に痛む、テスト前に痛くなるなど)

胃は[痛む]のか、[張る]のか?

便秘傾向か、それとも軟便か?回数や便の性状(水っぽい、乾いている)

嘔吐がある場合は、嘔吐するのは、酸水か、水っぽい涎か?

また飲食物の嘔吐はあるか?その後楽になるか?

食べ物の好き嫌い。(冷たいものや熱いもの、油もの)

飲食と痛みの関係(食べると痛む、空腹時に痛むなど)

以上の問診を含め、舌診や脈診をもとに、弁証施治を行います。

 

 

次に「胃痛」を学ぶ上でポイントとなる中医学の基本を示します。

 

○中医学のいろは・1○

中医学では、人間のからだを構成し、生命活動を維持する基本物質を気・血・津液と呼んでいます。気・血・津液は、飲食物から得た水穀の精微をもとに、体内で作られます。多すぎることもなく、また少なすぎる事もなく、気・血・津液の絶妙なバランスを保ち、本来の機能を保たせることが、中医学の治療です。

また、その前提として、臓腑が互いに協調しながらそれぞれの機能を円滑に行うことが肝心です。

〔五臓〕肝・心・脾・肺・腎

〔六腑〕胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦

〔奇恒の腑〕脳・髄・骨・脈・胆・女子

それぞれの臓腑は自らの役割を果たすのみにとどまらず、他の臓器とも協力して機能を果 たしています。

 

○中医学のいろは・2○

―気候とからだ―

中医学では、外部環境の変化が病因となるものを外邪(外因)といいます。

外邪には風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・熱邪(火邪)の六つがあります。

このうち胃痛と深く関係するのは、寒邪です。

寒邪は凝滞性をもち、気・血の流れを停させる為、こわばりや激しい痛みをもたらします。お腹を出して寝てしまったら、明け方腹痛で目が覚めた…とは、この寒邪がお腹に入り痛みを引き起こしたと判断します。

 

○中医学のいろは・3○

―ストレスとからだ―

「肝・心・脾・肺・腎」の五臓のうち、ストレスと最も深くかかわっているのが「肝」です。「肝」は全身の気の流れを統括し、スムーズにしています。これを肝の疏泄機能と言います。

「肝」は本来伸び伸びとした状態を好むため、肉体的・精神的なストレスを受けると、この疏泄機能が影響を受けて肝気が渋滞をおこし、怒りっぽくなったり、ため息が多いなどの症状が出ます。このように気の流れがスムーズでなく、停滞していることを「気滞」といいます。

○ ストレス→肝の疏泄機能失調→気滞→体の不調を訴えるーこの図式は、ストレスの多い現代社会ではよく見られます。

 

 また、「肝」は気血の流れをスムーズにするとともに、胆汁を分泌することで、飲食物の消化・吸収を補助しています。この作用が低下すると、ゲップや胃のもたれ、腹が張るなどの症状が現れます。

 

ではここから「胃痛」の具体的な弁証を見ていきましょう。

 

○ 寒邪犯胃 ○

この証はもともと胃陽(胃を温める力)が虚しているところに、生ものや冷たいものを過食したか、あるいは腹部が寒冷刺激を受け、寒邪が胃を犯したことでおこる。寒邪により胃陽が損傷して寒凝気滞になり、気が通 じなくなることで痛みが生じる。したがって、寒さに遇うと痛みが増し、温めると緩解する胃カン部の冷痛が主症となる。

症状―

急性の胃かん痛。寒がりで暖を取りたがる。寒さで痛みが増し、温めると痛みは軽減。熱いものを好む。味覚が減退し、口渇はない。

舌診―

淡・白滑苔

脈診―

弦緊、または沈遅

治則―

温中暖胃・散寒止痛

取穴―

中カン・胃ゆ・足三里

※ 中カン・胃ゆは<ゆ募配穴>で、補法を施し灸を加えると、胃陽を奮いおこし温中散寒をはかることができる。

 

○ 飲食停滞 ○

胃気虚弱なものが、暴飲暴食、疲労時に消化の悪いものを過食して、飲食物の停滞が起こり、胃の降濁作用が失調。胃に停滞した未消化物が腐敗して濁気が上昇する。

嘔吐後は実邪が去って、胃気の巡りが改善するため、張痛は軽減する。

 

※胃の降濁作用とは…

胃には腐熟し終わった飲食物を、一つ残らず小腸に送り出す働きがあります。このことは、飲食物を下に降ろすことでもあるので、「胃は降を以って順となす」といいます。

症状―

胃カン部の張痛(拒按)。酸腐臭の嘔吐。ゲップ。酸っぱい胃液がこみ上げる。泥状便。唾液の分泌亢進。脱力感。発汗。

舌診―

紅・厚ジ苔

脈診―

滑、滑数など

治則―

消食導滞(消化物を除去して、胃気を導く)

取穴―

足三里・中カン・梁門

※ 足三里・中カンー和胃通 腸をはかる

※ 梁門―胃経のゲキ穴。急症を主る。また、中カンと組み合わせることで、緩急止痛の効果 がある。

 

○ 肝気犯胃 ○

ストレスや緊張により肝気が鬱結して、疏泄機能の低下をおこし、胃の気を阻滞するために痛みが引き起こされる。肝と胃の協調作用が崩れた状態。

現代医学でいう神経性胃炎に相当し、慢性化すると潰瘍を形成する。

症状―

胃部の張痛が反復。痛みは両脇部におよぶ。イライラや怒り、興奮などの精神状態とともに痛みが増す。上腹部のつかえ感。

舌診―

紅、薄黄苔

脈診―

弦または弦数

治則―

シャ肝和胃、和胃止痛

取穴―

内関・太衝・足三里

※ 内関は理気の作用があり、この配穴により疏肝解鬱・和胃降逆をはかる。

 

○ 脾胃虚寒 ○

胃通が長引いたり、薬剤を長期服用していると、正気が衰えて胃痛が治らなくなる。胃の経絡が温めらずらくなり、益々胃の働きが低下。

現代医学でいうと、慢性萎縮性胃炎などがこれにあたる。息切れや、精神疲労、倦怠感などの全身症状を伴う。

症状―

胃カン部の隠痛(しくしく痛む)按じると痛みは軽減する。飲食減少。水様のよだれ。無力感。精神疲労。手足が冷たく寒がり。

舌診―

淡、薄白苔

脈診―

軟弱、または細数

治則―

温中健脾・散寒止痛・(養陰和胃)

取穴―

中カン・関元・足三里・(三陰交・照海)

※ 三陰交・照海―胃を潤す作用が失調し、機能低下が顕著にみられる場合は、肝、脾、腎三陰交会穴である三陰交を組み合わせる事で、健脾和胃をはかり、水穀の精微の化生を促進。また、滋補肝腎によって胃陰不足を助ける。

 

以上のように、「胃痛」といってもその症状や発症原因は様様であります。

現代医学的解説でも述べたように、胃潰瘍の原因として注目されるヘリコバクター・ピロリ菌も、その保菌者全員が発病するわけではありません。発症する人と、しない人の差はどこにあるのか…個個人を取り巻く生活環境の違いや性格の特徴、生まれ持った体質。そして何よりも外的ストレス。

体の機能失調を来たし、結果として病気を発症する原因を見逃さずに治療を行う中医学の治療は、ただ炎症を抑えるとか、痛みを感じなくする…といった対処療法的考えから抜け出し、その根本にせまる本質的治療と言えます。

 

胃炎や胃潰瘍を含め、消化器疾患では、日々の食生活を見直すことが最重要となります。

規則正しい食事を心がけ、冷たいものや油ものはなるべく避けたいものです。

特に、暑い夏は、クーラーの効いた部屋で氷の入ったジュースを一気飲み…しがちです。

心して、自分自身の体を守りたいですね。

また、ストレスを感じやすい方は、気の巡りが滞りやすいので、気分転換に散歩を取り入れたり、ヨガやストレッチで体をほぐすことをお勧めいたします。また、ゆずなどの柑橘類やジャスミンティーなども気の巡りを良くするので、どうぞお試しください。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

 

◎ 当院での治療をお考えの方へ

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

 

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに慢性化した、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。

例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。

これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 

2019/03/11
【その他】寝汗について

寝汗とは寝ている間にかく自然の汗のことです。大人では、一晩でコップ一杯分ほどの寝汗をかくと言われています。

寝汗の仕組みは睡眠が深くなると、視床下部の発汗中枢の体温のセットポイントが下がり体温を下げようとして汗をかこうとするものなのです。

特に、最初に睡眠が深くなったときに多くの汗をかく傾向にあります。これはまったく生理的なもので異常ではありません。ただし、寝汗があまりにもひどい場合は、自律神経失調症などの病気も考えられます。

寝汗は、夏よりも冬にかく傾向が多く、冷え性の人が時に寝汗をかきやすいとも言います。また、妊娠中や生理中にも体温が上がるため、寝汗を大量 にかくという女性が多いと言われています。

 

 

注意を要する寝汗

何らかの病気に伴ってかく寝汗はその病気の危険信号になります。

ここではどんな病気が寝汗を伴うのかを簡単にあげていきます。

 

 

自律神経失調症

自律神経とは心臓を動かしたり、汗をかいたり、自分ではコントロールできない自動的に働く神経のことです。

自律神経には活動する神経といわれる交感神経と、休む神経といわれる副交感神経の2つに分類され、必要に応じて自動的に切り替わって働くようになっています。

しかし、生活のリズムの乱れや過度なストレス、環境の変化などにより神経の働きが崩れてしまうことがあります。これを自律神経失調症といいますが、内臓や器官に病変があるわけではないので、病院で検査をしても異常なしと言われてしまいます。

自覚症状を訴えるケースが多く、頭痛、耳鳴り、口が渇く、動悸、冷え、息苦しさ、多汗、寝汗、倦怠感、不安などその他にも多岐にわたります。

 

 

ホジキン病

リンパ腫の一種で特殊なガン細胞を特徴にもちます。女性よりも男性に多く、女性2に対して男性3の割合でみられます。原因はわかっていません。

症状として、首の周りのリンパ節の腫れですが、脇の下や足の付け根のリンパ節が腫れることもあります。痛みがないのが普通 ですが、大量に飲酒をした際に痛みが出る場合があります。

またこれらに合わせて、人によっては発熱、寝汗、体重減少、かゆみ、疲労などがみられることもあります。

かぜや感染症による、痛みを伴うリンパ節の急な腫れはホジキン病の症状ではありませんので区別 が必要です。

 

 

甲状腺機能亢進症

甲状腺から甲状腺ホルモンがたくさん出過ぎるため、全身の細胞の新陳代謝が異常に高まる病気です。男性よりも女性に多くみられます。

症状は特徴的なもので頻脈、甲状腺腫、眼球突出がありますが、他にも動悸、寝汗、たくさん  食べるのにやせる、手の指が震える、疲れやすい、暑がり、イライラするなどがあります。

 

 

肺結核

結核菌が侵入して肺に炎症が起こる細菌性の感染症です。1950年代までは死亡原因の第1位 を占めていた病気です。

症状として咳、痰、血痰、胸痛などの呼吸器に関するものと微熱や悪寒を伴わない高熱、寝汗、食欲不振、体重減少、全身倦怠感など全身に関するものに分けられます。これといって診断の決め手となる症状があるわけではないですが2週間以上持続している場合には検査が必要となってきます。

 

寝汗が長期にわたって出るならば上記のような病気を疑ってみると良いかもしれません。またこれら以外にも精神的に不安な状態や疲労が続いた場合にもみられることがあります。

またここには紹介しきれなかった病気にも寝汗が伴うものもいくつかあります。頻繁に寝汗を生じる場合には、専門医のところで一度検査を受けて今の身体の状態を把握しておくと早い対応が出来ると思います。

 

 

中医学的観点からの寝汗

 

寝汗の説明の前に中医学の生体観から説明していきます。

 

~気・血・水~

気-

気とは、物質であり、人が生理活動をする上での重要なエネルギー源です。物質ゆえに消耗したり補充したりすることが出来ます。

また運動性も持ち合わせており、「昇降出入」という働きがあります。「昇降出入」とは、気の運動形式のことで、昇ったり降りたりする上下方向の運動と、発散したり収納したりする出入方向の運動が基本になっているということです。よって、気は物質でありながら運動性を持っているのです。

また、気が不足して病気になってしまうことを気虚と呼び、気が1ヵ所に滞って流れが悪くなって病気になってしまうことを、気滞と呼びます。

気の具体的な生理作用には人体各部を栄養する栄養作用、内蔵の活動を促進したり、体内の流れを推進したりする推動作用、内臓を温め活動を促進したり、体温を維持する温く作用、体表を保護し外から侵入してくるものを防いだり侵入してきたものと闘ったりする防御作用、人体を構成している水分や血液が外に漏れ出ないようにする固摂作用、体内の物質を変化させたり代謝を行う気化作用などがあります。

 

血-

血とは、体内を流れる赤色の液体で人体を構成し、生命活動を維持する基本的物質です。現代医学でいう血液とは似ていますが、イコールではありません。中医学で血の作用は全身を栄養し潤すことです。

例えば、顔が赤くつややかだったり、肌がふくよかで皮膚や髪の毛が潤って光沢があるのも、あるいは目などの感覚器や筋肉などの運動器が円滑に働くのも血の充足のおかげなのです。

他にも、血は精神活動を支える栄養源になっており、血が足りなくなると精神的な症状(失眠、健忘、昏迷、不安など)が現れます。

 

水-

水とは人体中の正常な水分の総称です。

その中には唾液や涙、汗といったものも含まれます。

水の作用は、体表部(皮膚や汗腺など)から体内深部(脳や骨、関節や内臓など)を潤します。また水は血を作るうえでも重要な成分になっています。

 

~臓・腑~

臓-

臓とは五臓とも呼ばれ、肝、心、脾、肺、腎という実質性臓器のことを指し、主な働きは気、血、水の生成と貯蔵を担います。

 

腑-

腑とは六腑とも呼ばれ、胃、大腸、小腸、膀胱、胆、三焦という中空性臓器のことを指します。

主な働きは、飲食物の消化をし、身体に必要なものは五臓に渡し、不必要なものは排泄します。

 

臓腑の中で特に寝汗と関連が強いものを説明していきます。

心-

心は血の流れを管理します。

体の中には血脈(血が循環する通路)があり、血はその中を流れますが、それは心が拍動することで可能になります。その結果 、血は全身に運ばれて滋養しているのです。

また、心は人の精神や意識をコントロールしています。現代医学では精神活動は大脳の生理機能ですが、中医学では心が担います。特に喜びの感情と結びつきが強く、さらに舌にもつながっていて、味覚や言葉なども心の働きによるものです。

 

脾-

脾は、胃や小腸で消化吸収された食べ物を栄養物質に変え、全身に運びます。これを運化作用といいます。

また水分も運び、余っているならば肺や腎に送り、汗や尿として身体の外に出してもらいます。脾は身体に必要な気や血を作り出す大事な臓器です。エネルギーを全身に運びますが、特に上に昇らせる働きが強く、これを昇清作用といいます。

さらに血のコントロールにも一役買っています。血の流れは心のコントロールでしたが、脾は血が血脈の中から外に漏れ出してしまわないように制御する働きがあります。

脾と結びつきやすい感情は思うです。あまり思い悩みすぎてしまうと脾のこれらの働きが弱くなってしまいます。

 

肺-

肺はガス交換の場であり、自然界の清気を吸入し、身体の濁気を吐き出しています。いわば呼吸は、肺のコントロールによるものです。呼吸がスムーズであれば体内の気の流れも良くなり、吸い込んだ清気は脾が作った栄養物質と合体して体内で気が作られるのです。

また、脾が肺まで持ち上げてくれた水や栄養物質を全身に散布します。皮膚や身体の各組織が潤うのはそのためです。

さらに皮膚表面には汗孔があり、そこをあけたりしめたりして汗を出したりする働きや、肺の中の異物を吐き出してきれいにする働きもみんな肺の宣発粛降作用のおかげです。

 

腎-

腎は身体の成長や発育、生殖能力などの源となっています。

これは腎が精を管理するからです。精とは先天の精、後天の精が合わさったものですが、前者は両親からもらったいわば生まれつきもっているもの、後者は脾の働きで得た栄養物質や肺で得た自然界の清気が合わさったものです。

また腎は、肺が吸い込んだ清気を身体の奥に引き込む働きをもち、肺のガス交換を手伝います。水分代謝もコントロールし、体の中の余った水分は尿として排出し、必要な分は再利用するのです。

また体内には陰陽というものがあります。陰とは身体を滋養するもので、血や水はこの部類に入り、陽とは活動させるもので、気がこの部類に入ります。各臓器にも陰陽はありますが、腎陰と腎陽がそのおおもとになります。そのため腎陰が減ると身体全体の陰も減り、腎陽が減ると身体全体の陽も減ります。

 

ここまでざっと中医学的な生体観を説明してきました。

これから寝汗の原因を説明していきます。

 

 

陰虚による場合

陰虚とは、体内の必要な水分が不足している状態です。

水分が不足しているので体内に熱がこもりやすくなっています。すると身体は汗を出して体温を下げようとするために過度の寝汗となってしまうのです。

また、汗をかくとさらに水分が不足して陰虚の状態が続いてしまいます。

さらに分類していくと、どの臓腑の陰が不足して寝汗が出るのかをみていきます。

 

 

心陰虚

心労や慢性疾患による栄養不足により、心陰が不足したり感情による内傷で心陰を消耗したり、心の熱が強くなり心陰を焼いてしまうことが原因で発生します。

陰が不足して陽(熱)が盛んになるので、五心煩熱(両手、両足、心臓が熱っぽい)や気持ちが落ち着かなかったり、イライラして眠れないという症状が寝汗とともに出てきます。脈をとると速く、舌の色は赤くなります。

 

 

肺陰虚

ストレスなどで体内に熱が発生し、それが肺を傷つけたり、対外から乾燥したものや熱が入りすぎてしまうと肺を焼いてしまい、慢性の咳で肺陰を消耗したりして発生します。

こちらも体内で熱が発生している状態なので、カラ咳して痰が出ない、出ても少なくネバネバしています。ひどければ痰に血が混じっていることもあります。呼吸も浅くなり、頬が赤くなるなどの症状も出てきます。

 

 

腎陰虚

今まで出てきた陰虚の状態が長引くと、陰のおおもとである腎陰を損傷していきます。また、体内の熱が発生しても陰を傷つけてしまいます。他にも失血や体液の消耗、性生活の乱れなどでも起こります。体が痩せてくる、五心煩熱  、頬が赤いなどの症状が寝汗とともに出てきます。

陰虚の治療としては、体内の余分な熱をとり(清熱)、必要な陰を補う(滋陰)を同時に行います。またその時弱って いる臓腑をパワーアップさせる治療を忘れてはいけません。

 

半表半裏証の場合

中医学では、病がどこにあるかということで、表証、裏証、半表半裏証に分けることが出来ます。

表証-

表位とは、体の最も浅い部位で皮膚や頭部、肩背部や四肢を指し、ここに病が存在するとき表証といいます。

わかりやすくいうと風邪の引き始めの時期です。

 

裏証-

裏位とは、体の最も深い部位で内臓などの部位を指し、この部位 に病が存在するとき裏証といいます。風邪が長引いてる状態です。

 

半表半裏証-

半表半裏とは、表と裏の中間で横隔膜に隣接する臓器類のある部位 を指し、この部位に病が存在するときを半表半裏証といいます。

ちょうど表証から裏証に移り変わる間です。このときに寝汗が出やすいのです。

他にも脇が張って苦しくなったり、熱感と悪寒が交互にやってきたり、口が渇く、口が苦い、めまいなどの症状を伴います。

これらの治療は、まずは病を体から発散させることを第一とします。

 

中医学では、現代医学とは違う角度から寝汗を捉えて治療していきます。

病院で検査をして、特に異常なしと言われたがなかなか症状が改善しない方は中医学による鍼灸治療をお勧めします。その方の生活習慣や体質などを細かく聞き、舌や脈を同時に診ながらタイムリーな体の状態を把握できる中医学は症状改善の手助けとなるでしょう。

尚、同じ鍼灸を使い、治療を行う鍼灸院はたくさんありますが、中医学を学び伝統的な鍼灸の施術を行っている鍼灸院の数は少ないです。鍼灸治療を受ける方も吟味する力が必要となっていることを留意ください。

HPで検索される場合は、鍼灸院の述べている内容をよく読み、内容を把握することが大切かと思います。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください 。

 

2019/03/11
【その他】診察シュミレーション アトピー性皮膚炎

● 診察シュミレーション アトピー性皮膚炎 ●

慢性症状・難治病でお悩みの方、真の中医学(東洋医学)、真の診断と治療を理解していただけると思います。

 

診察シュミレーションも今回で5回目となりました。

今回はアトピー性皮膚炎についてのシュミレートをしたいと思います。

 

◇はじめに◇

現代医学の発展はめざましいものがあります。

皆さんも病院で検査などを受ければ、その検査データーの精密さや機材の進歩にお気づきになると思います。

現代医学では患者さんの病気を調べる手段に様々な検査が用いられております。

例えば、血液検査・レントゲン・CT・超音波・・・など、その症状により様々な検査がございます。

このように医師は検査データーや画像をみて患者さんの状態を把握します。

 それに対して鍼灸師は上記の様な検査は一切行いません。

皆さんは鍼灸師が検査機材などを使用しないで、どうして病態を把握することができるのか不思議に思うかもしれません。

しかし、中医学による施術を行っている治療者は、現代医学と同様に患者さんの病態をちゃんと把握して、治療方針を考えてから治療にあたります。

ただ病んでいる部位や痛い箇所に針を打つだけではありません。

一般的な鍼灸院の言う「東洋医学」と、我々が言う「中医学」とは全くの別 物です。

 中医学の治療というのは、先ず「弁証」を立てます。

「弁証」とは簡単に言ってしまえば、患者さんの体の中の、現代医学では出てこないエネルギーバランスの崩れ具合をみて、病気の原因や性質や進行状態などを見極めることです。

「弁証」が立てられたら、それに基づいて治療方針を決め、治療方針が決まったら、それを基に使用するツボを決めていきます。

つまり、治療の第一段階は「弁証」を立てることから始まります。

その「弁証」を立てる手段が『四診』と言われ、現代医学の検査と同様のものです。

 『四診』とは「望診」「問診」「切診」「聞診」の総称です。

「望診」とは、患者さんの顔色や舌の状態みて疾病の状況を判断するものです。

(舌の形状や苔の具合で寒熱や活力量の過不足などを判断します。)

 

「問診」とは『四診』の中でも重要な診察法で、患者さん本人や付き添いの方に病気のことは勿論の事、生活状況・家庭環境・性格・睡眠状況・食事の好み・・・など様々な質問をさせて頂き、そこから疾病の状況を判断するものです。

当院に来院された患者さんはお気づきだと思いますが、当院においても「問診」は重要視しており、初診時には「問診」のみに30分位 かける事も珍しくありません。

 

「切診」には〈脈診〉と〈按診〉があります。

 

 

1)

〈脈診〉とは脈拍を診察することですが、現代医学の〈脈診〉と、中医学の〈脈診〉とでは内容がやや違います。

我々の脈診は脈拍数や不整脈の他に、脈の強弱・浮き沈み・太い細い・脈の触れ方、などを観察します。

それにより、体の活力具合・体の寒熱などを見極めます。

 

 

2)

〈按診〉とは患者さんの皮膚・手足・胸腹部などを、撫でたり・押したり・触ったりして、しこり・圧痛・温度・湿り気などを観察します。

 

「聞診」とは、患者さんの発する声や臭いから、患者さんの疾病の状況を判断します。

上記に挙げた4つの診断法は独立するものではなく、これら全ての方法により情報を収集し、総合的に患者さんの体の中でどのような歪みが生じているのかを振り分けます。

このようにして振り分けられたものが、先程紹介した「弁証」です。

 

では実際にどの様に『四診』が行われ、どの様に「弁証」を立てていくのかをシュミレートしてみたいと思いますが、皆さんにはできるだけ理解し易いように、こちら『病気別 ・わかる東洋医学診断』の「わかりやすい東洋医学理論」と「アトピー性皮膚炎について」を先にお読みになられてから、この後をお読みになることをおすすめいたします。

 

◇ 問診シュミレーション◇

では早速シュミレートをしてみたいと思います。

 

初診の患者さんは先ず問診表を書いて頂きます。

問診表には現在の病状を書いていただく箇所と、普段の生活・めまい・耳鳴り・のぼせ、などの有無を答えていただく質問表があります。

質問表は患者さんの症状により、上記の質問の他に20~60位の質問が追加されます。

これらの質問にチェックを入れていただく事により、問診を行う前に治療者は現在の患者さんの病状に加え、患者さんの体質を大まかに把握することができます。

中医学では患者さんの体質を把握するということは、現在の病状を把握することと同等に重要な事だと考えております。

なぜなら中医学は病気を診るのではなく、病人を診る医学だからです。

例えば、風邪という病気は1つしかありませんが、風邪をひいた人(病人)となるとその人の体質に風邪が入っているわけですから、体質+病気=病人、となります。

中医学は病人をみる医学ですから、同じ風邪をひいた場合でも、体質が違えば弁証や治療法が変わってくるのです。

また、中医学では、風邪をひきやすい体質の方であれば、風邪の症状が治まっただけでは完治とは言いません。

このような患者さんの場合で、風邪の症状が辛い時は、先ず、「標治法」と言って風邪の症状を治める治療を行い、ある程度風邪の症状が治まってきた段階で「標治法」から「本治法」に切り替えます。

「本治法」とは風邪をひき易い体質から風邪をひき難い体質に改善します。

そしてこの体質の改善が終了して初めて「根治」といって、いわゆる完治となるわけです。

以上のことから、治療者にとっては患者さんの体質を知るということはとても大事なことなのです。

さて、問診表に質問表が付属しているのにも理由があります。

冒頭でも述べましたが、「問診」は「四診」の中でも重要度が高い診察の一つです。

当院でも「問診」にはかなりの時間をかけております。

問診の前に治療者が患者さんの体質を大まかに把握できることにより、問診時間の短縮が可能となります。

これは質問表にあった質問を問診時に省くとういうことではなく、質問表をもとに更に深い問診が可能になるということです。

患者さんは何らかの不調があって来られているのですから、問診は出来るだけ短く、正確に、より深く行うのが我々治療者の努めなのです。

 

さてシュミレーションにもどりましょう。

 

Ⅰ、治療者は問診に入る前に問診表と質問表に目を通します。

  問診表には以下のことが書かれてありました。

 

Dさん 男性 22歳 会社員 初診日7月30日

【主訴】

アトピー性皮膚炎

【経緯】

高校3年の時に発症し、一時的に症状は軽くなったが、最近になって悪化してきた。

 

 次に質問表を見てみると、

・ ストレスが多い

・ 便は軟便傾向・最近は下痢と便秘を繰り返すこともある

・ 食欲不振

・ 疲れやすい

 などにチェックがありました。

 

Ⅱ、問診表に目を通し終えたら、患者さんに問診室へ入ってもらいます。

入り口から少し太めな物静かそうな青年が入ってまいりました。

顔にはアトピーの症状はでていないようです。

椅子に腰掛けてもらい改めて挨拶を交わしました。

―Dさんには「湿」によるアトピーの患者さん特有の体臭があるようです。

 

治療者は患者さんが問診室へ入って来た時から先ほど説明した

「望診」と「聞診」を開始しており、患者さんから発せられる多くの情報を既にキャッチしています。

具体的には体型・顔の肌の質感・体臭などチェックしています。

 

 さてここで、治療者が問診表に目を通してから、患者さんが問診室の椅子に腰掛けるまでにどの様な事を考えていたのか、頭の中を覗いてみましょう。

 

【1-1問診表】

 先ず問診表を見て患者さんの主訴が「アトピー性皮膚炎」であることを確認すると、中医学的にアトピー性皮膚炎にはどの様な種類があり、それらを引き起す原因にはどのようなものがあるのかを考えます。

 

 では、先ずアトピー性皮膚炎の種類を紹介しましょう。

 

① 湿熱タイプ(湿熱内蘊)

  これは体内に余分な水分が溜まってしまい、それが熱化して発症します。

② 血虚タイプ(血虚生風)

  血が不足し皮膚を潤すことが出来なくなり発症します。

③ 陰虚タイプ(陰虚内熱)

  血虚がさらに進展してしまった状態です。

④ 血熱タイプ(血熱生風)

  熱が血へ入り込んで発症します。

⑤ 陽虚タイプ(虚陽上浮)

  体を温める力が無くなり発症します。

{ 尚、詳しくは「アトピー性皮膚炎について」を参照して下さい。}

 

 では次に病因といって上記の状態を引き起こす代表的な原因を幾つか紹介しましょう。

 

① 飲食不節

飲食不節には幾つかの種類がありますが、特にアトピー性皮膚炎の病因となるのは『肥甘厚味』『過食辛辣』『過度の飲酒』があります。

『肥甘厚味』とは、味の濃い物・甘いもの・脂っこい物、などの多食を言います。

『過食辛辣』とは辛い物の多食を言います。

これらは体内で余分な水分や熱を産んでしまい、湿熱や血熱タイプのアトピーの原因となります。

 

② 脾虚(脾のエネルギー不足)

脾は運化といって飲食物の消化吸収作用の中心を担っております。

したがって、脾虚になる消化吸収作用が低下してしまい、その結果体内に余分な水分が産まれ湿熱タイプのアトピーの原因になります。

又、飲食物の消化吸収作用が低下してしまうと気や血も作られなくなってしまい、気血の不足になります。その結果 、血虚タイプのアトピーの原因にもなります。

 

③ 精神状態

中医学では病気の症状と精神状態の関係をとても重視いたします。

アトピー性皮膚炎も例外ではなく、例えば、思い悩過ぎは脾を損傷させてしまいますし、ストレスは肝を通 じてやはり脾を損傷させてしまいます。

 

③ 外因

外因とは体外から体を襲う発病因子のこといいます。

中医学では外因を風・寒・湿・燥・火(熱)・暑、の6つに分類します。

{詳しくは「わかりやすい東洋医学理論」を参照してください}

特にこの中で風・湿・火(熱)がアトピー性皮膚炎と深い関係があります。

 

⑤ 遺伝

虚弱な体質やアレルギー体質を両親のどちらかが持っている場合、お子さんはそれを受け継いでしまうケースが多々みられます。

虚弱な体質は脾気虚となりやすく、アレルギー体質は外因の影響を受けやすくなってしまいます。

又、遺伝とは直接関係ありませんが、妊娠中にお母さんが飲食不節をしてしまったり、精神状態が不安定であったりすると、その影響が胎児に及ぶことがあり、湿疹を持って出生してくる赤ちゃんもおります。

 

 アトピー性皮膚炎の分類と病因を簡単にまとめてみました。

 

 さて、中医学では一般的に病気を「虚証」「実証」「虚実挟雑証」の3つに大きく分類します。

「虚証」とは、もともと患者さんが病気の原因となるものと戦うエネルギーが不足していて、抵抗力が無く発病してしまうものをさします。

例えば、周りの人は気にもとめない、ちょっとした気候の変化でも体調を崩してしまうような方の病証が当てはまります。

「実証」とは「虚証」の逆で、病気の原因となるものの勢いが強く、抵抗力のある人でも発病してしまうものをさします。

例えば、普段から抵抗力のある方のインフルエンザなどの流行性感冒などへの感染があります。

「虚実挟雑証」とは「虚証」と「実証」が混ざっている病証を言います。

さて、「虚証」と「実証」では病因から病気の成り立ちや特徴に大きな違いがありますので「虚証」と「実証」の判別 はとても大事なことと同時に、その後の問診時間の短縮に繋がります。

ですから、問診の初段階では病因の追求と虚実の判別をしていきます。

 

 さて、もう一度問診表を見てみましょう。

問診表には主訴の他に経緯として次の事が書かれてありました。

{高校生3年の時に発症し、一時的に症状は軽くなっていたが、最近になって又悪化してきた。}

ここで気になるのは、

① 何故高校時代に発症したのか?

② 一時的によくなったのは何故か?

③ 最近になって症状が悪化してきたのは何故か?   という点です。

 

これらについては患者さんに詳しく質問しなくてはなりません。

患者さんは気付いていないかもしれませんが、症状に変化があるという事は、そこに病因が隠されていることが多くあるからなのです。

 

 次に質問表を見てみましょう。

 

【1-2質問表】

 質問表には、次の項目にチェックがありました。

①ストレスが多い。

②便は軟便傾向で最近は下痢と便秘を繰り返すこともある。

③食欲不振。

④ 疲れやすい

 

 では個々をみてゆきましょう。

 

① ストレスが多い

アトピー性皮膚炎の病因で説明しましたが、ストレスは肝を通して脾を損傷させます。

ですから、Dさんのアトピー性皮膚炎の病因にストレスが関与している可能性が考えられますので、問診で詳しく訊ねなくてはなりません。

 

② 便は軟便傾向、最近は下痢と便秘を繰り返すこともある

[軟便]については先ず外因を考えると、寒・湿・暑・熱がその病因になりますが、特に湿によるものが多いようです。

その他の病因としては、脾虚・飲食不節・ストレス・腎のエネルギー不足、などが考えられます。

次に[下痢と便秘を繰り返す]については、ストレスが肝臓を通じて脾を損傷して起こることが多いようです。

又、上記の情報を総合すると、Dさんのアトピーには肝と脾が関係している可能性が窺えます。

 

③ 食欲不振

食欲不振は基本的には脾と胃の損傷によって起こります。

 

④ 疲れやすい

これは「気虚」といってエネルギー不足の症状です。

臓腑的には、脾・胃・腎、などに損傷がある場合に多く現れます。

 

 質問表から得れる情報をまとめると、

A)Dさんは脾と肝が損傷を受けている可能性が窺えます。

B)ストレスの関与の可能性も考えられます。

 

治療者は以上のことを頭に浮かべながらDさんを問診室へと招き入れます。

 

【2-1入室~着座】

患者さんが入室してきた時から「望診」と「聞診」が始まります。

ではDさんの場合はどうだったでしょうか?

先ず望診ですが、チェックポイントとしては、

 

 ①顔には特にアトピーの症状は出ていない。

顔は体の中でも最上部です。自然界では熱は対流といって上部に上がります。

中医学は人間の身体も自然界の一部と考えますから、自然界の摂理は体内でも同様に起こると考えます。

ですから、熱による症状は比較的上部である顔や首などに発症しやすいと考えます。

逆に川の水は標高の高い所から低い所へ流れます。

これと同様に体内でも余分な水分は下部へ流れます。

ですから湿による症状は比較的下腹部や足などに発症しやすいとされております。

上記のことから、中医学の場合は湿疹などの発症部位なども細かくチェックしなければなりません。

 

  ②体型はやや太め

体型も大事な情報源になります。

例えば、Dさんのように太めな方には、体質的に脾気虚などの気虚(エネルギー不足)や湿による影響を受けているかたが多く見受けられます。

 

 次に聞診ですが、Dさんの場合は少し体臭が気になりました。

中医学・現代医学ともに体臭のチェックは行っております。

しかし中医学と現代医学とは体臭チェックの観点は違います。

中医学では五行学説の分類に基づいて体臭のチェックを行います。

実際に今まで出合った患者さんの中で、湿による患者さんには、決まってある共通 した体臭があるのです。

Dさんの場合もこれと同じような体臭がありました。

 

 さて、治療者が問診表を見てから患者さんが着座するまでに、どの様なことを考えているかがおわかりになったと思います。

 

いよいよ、これから問診を開始してゆくわけですが、その前に今まで得た情報をまとめてみると、やはり脾の損傷が気になります。

又、湿とストレスの関与も考えられます。

ですから治療者は以上のことを頭に入れて問診を始めてゆきます。

 

Ⅲ、病因についての問診

先ずはDさんのアトピー性皮膚炎の病因を探るために、発症当時・症状が軽くなった時期・症状が悪化してきた最近について詳しく訊ねたところ次の様な答えが返ってまいりました。

 

《発症当時について》

発症は高校3年生の9月だそうです。

Dさんに何か発症の原因があったかを質問しましたが、「特に思い当たる事はありません」とのこと。

又、この時期には病院には行かなかったそうです。

 

《症状が軽減した時期について》

症状が軽減したのは、大学受験が終わって、病院へ行き薬をだしてもらったところ直ぐに症状が軽減したそうです。

完治とはいかなかったが、在学中は比較的症状は落ち着いていた。

病院へは直ぐに症状が落ち着いたのでその後は行っていないとのこと。

 

《症状が悪化してきた最近について》

今年の6月の後半頃から症状が悪化してきた。

Dさんには症状悪化の原因に思い当たることは無いとの事です。

 

Dさんのアトピーの症状の変化の時期の概要が見えてきました。

先ず、発症したのは9月で、症状が再度悪化してきたのは最近ですから、症状の誘発素因は季節的なものではなさそうです。

次に気になるのは、症状が軽くなった時期と、高校から大学へ進学した時期が同時期であるということです。

次に最近になり症状が重くなっているわけですが、Dさん問診表の職業のところは会社員となっておりました。

そこで、大学を卒業した時期と入社した時期を訊ねたところ、今年の3月に卒業し、4月に入社したそうです。

つまり、症状が悪化したのは大学を卒業し、会社に入社して2ヶ月後ということになります。

 

 さて、今までの情報をまとめると、

高校3年生で発症 →→ 大学在籍中は症状軽減 →→ 入社して2ヶ月で症状悪化

となります。

 

上記のことから考えられる病因としては「生活の変化」が考えられます。

そこで更に、高校生活・大学生活・仕事、について更に詳しく訊ねてみると次のような答えが返ってきました。

 

《発症当時の高校生活について》

Dさんの通っていた高校は県内でも有名な進学校であったそうで、Dさんも大学受験を控え2年生に進級してから本格的に大学受験の勉強を始めたそうです。

当然3年の夏休みは受験生にとっては大事な時期なので、勉強一色で過ごしたそうです。

又、Dさんは家庭の事情から、浪人することは許されておらず大学受験は1発勝負で、志望校も家から通 える国立大学のみという強度のプレッシャーを受けていたそうです。

 

《大学生活について》

大学に入学してからはそれほど追い込んで勉強をすることはなく、成績は下の方ではあったが楽しい学生生活を送った。

 

《仕事について》

仕事については特に希望の職種があるわけではなく、又、就職戦争に巻き込まれることは避けたかったので、簡単に入れる会社に入社をしてしまった。

仕事の内容は営業職で、入社して未だに契約を交わせず上司にいつも怒られて ストレスとなっている。

 

 今回の問診により、症状の変化とDさんの生活の変化の関係性が見えてまいりました。

発症した高校3年生当時、Dさんはかなりのストレス受けていたことがわかりました。

今年の4月に就職したわけですが、仕事でもかなりのストレスを受けております。

Dさんの話からストレスの原因は上司からのお小言のようです。

Dさんは今年の4月入社ですから、入社直後からお小言を受けていたわけではないでしょう。

おそらく5月・6月からお小言を貰うようになったのではないでしょうか。

次に症状が軽減された大学時代ですが、この時期はストレスもあまり無かったようです。

 

今の段階だと、ストレスとアトピーの症状の変化は関係があるように思えますが、これだけでストレスが病因であると判断するわけにはいきません。

今はDさんの生活上の精神状況と症状を比較しただけなので、これから後は症状そのものについて詳しく問診をしていく必要があるのです。

 

 それでは、症状について問診をしてゆきましょう。

先ずは症状の性質から探ってゆきます。

症状の性質とは「病性」といい、先程説明した「虚・実」や、症状が熱性なのか寒性のものかなどを振り分けます。

 

Ⅳ、病性についての問診

Dさんの現病歴を訊く場合は下記の3つの時期に分けて訊く必要があります。

①発症してから症状が軽減するまでの高校時代

②症状が軽かった大学時代

③ 症状が悪化した現在

以上のように分けて病性についての問診をしたところ、高校時代と現在については同じ答えが返ってきましたので、先ずはそちらから紹介しましょう。

 

=高校時代と現在の問診の答え=

症状は急激に現れた・強い痒みがあった・患部は淡い紅色・熱感もある。

 

=大学時代について問診の答え=

痒みについては高校時代や現在に比べると軽かったが、たまに、短期間ではあるが急に痒くなることもあった。

患部については、その当時も紅色ではあったが、高校時代や現在よりは薄い感じではあった。又、痒みと同様に患部の色にも変化はあった。

熱感については殆んど無かったが、やはりたまに急に熱感があることもあった。

 

以上が病性についての問診の答えになります。

 

 それでは先ず「虚実」の判別から説明してゆきましょう。

実証の症状の特徴は、症状の変化が急・強い痒み、でありますので、高校時代や現在のアトピーについては、実証の症状の可能性が高いと言えます。

 

虚証の特徴は、慢性あるいは反復性・症状の変化が緩慢・痒みは比較的軽い、でありますので。

大学時代のアトピーについては、基本的には「虚証」で、何かの原因により実証の症状が発症するようですので、その時に関しては「虚実挟雑証」の可能性が高いと言えます。

 

次に「寒熱」の判別を説明しましょう。

熱症状の特徴は、患部が紅色である・患部に熱感がある。

Dさんの場合は、常に熱症状の特徴がみられますので、「熱症状のアトピー」と言っていいでしょう。

 

さてここで気になるのは、大学時代にたまにではありますが、短期間急激に患部の色・痒み・熱感に変化が見られます。

これについて質問してみることにより、Dさんのアトピーの病因を知るヒントになるかもしれません。

 

Ⅴ、大学時代の症状の変化の誘発素因について

大学時代の症状の変化について訊ねたところ次のような答えが返ってまいりました。

① 痒み・患部の色・熱感、については、同時に同じタイミングで悪化する。

② 悪化する時期は定期試験の前であった。

③ Dさんは勉強をそれ程まじめにしていた方ではないので、試験の前になると、友人からノートなどを借りて試験勉強をした。

本人曰くかなり試験勉強は辛かったとのこと。

 

 以上のことから、大学時代に症状を悪化させた原因も、発症原因や現在の症状悪化の原因と同じく、ストレスによるものの可能性が高いと言えます。

 

 さてここで、問診を始めてから得た情報を整理してみましょう。

先ず、病因についてはストレスの可能性が高いようです。

次に病性については高校時代と現在は「実証」で大学時代は「虚証」と「実証」の両方の可能性があるようです。

ところで先程問診表の解説のところで、「虚・実」の説明と、アトピーのタイプの分類を紹介いたしましたが、タイプの分類は下記の様に虚実によって分けることができます。

 

「虚証」に含まれるタイプとしては、

「血虚」「陰虚」「陽虚」「脾虚湿盛」タイプのアトピーがあります。

「実証」に含まれるタイプとしては、

「血熱」「湿熱」「オ血」タイプのアトピーがあります。

「虚実挟雑証」にふくまれるタイプは

「脾虚湿盛」タイプのアトピーがあります。

 

つまり、Dさんの高校時代と現在のアトピーは「血熱」「湿熱」「オ血」のどれかのタイプか又は混ざっている可能性が高く、大学時代は「血虚」「陰虚」「陽虚」「脾虚湿盛」のタイプか、やはりこれらが混ざり合っている可能性が高いといえます。

 

次の問診ではDさんのアトピーがどのタイプになるのかを判断します。

 

?、Dさんのアトピーのタイプを知るための問診

 さて、実証についてのタイプ分けの質問をしたところ次のような答えが返ってきました。

① 湿疹は肘と膝の内側に多く、特に膝が酷い。

② 患部は水疱を伴っている。

③ 甘いものや脂っこいものを食べた後に悪化する。

④ 梅雨時にも悪化した。

⑤ 浸出液がでる。

⑥ 患部に熱感がある。

⑦ 掻いても血は出ない。

⑧ 患部が真っ赤になることも無い。

⑨ 皮膚や顔色色が浅黒いことは無い。

⑩ 皮膚の肥厚も無い。

 

 以上の問診のからどの様なことがわかるかというと、

①~⑤は湿の存在を意味します。

⑥ は熱症状を意味します。

 

 さて、Dさんが問診室へ入って来てから望診・聞診・ここまでの問診を総合すると、高校時代と現在アトピーは「湿熱」タイプのアトピーであると判断してよいでしょう。

 しかしアトピーは複雑な疾患ですので、1つのタイプだけとは限らず、幾つかのタイプが混ざっている場合もありますので、「オ血」「血熱」についても質問をしなければなりません。

そこでそれらの質問が⑦以降になります。

⑦ ⑧は血熱の特徴の否定です。

 この答えからDさんは血熱タイプのアトピーでは無いことがわかります。

⑨⑩はオ血の特徴の否定です。

 この答えからDさんはオ血タイプのアトピーでは無いことがわかります。

 

以上の問診から高校時代と現在は「湿熱タイプ」のアトピーであることがわかりました。

次に、大学時代のアトピーについて質問をしたところ、軽度ではあるが、症状自体は現在や高校の時と同じだということです。

以上のことから、大学時代も「湿熱タイプ」のアトピーであると判断してよいでしょう。

 

さて、ここまでの問診でアトピーのタイプはわかりました。

しかし、これで問診が終わりというわけにはいきません。

中医学は病気のタイプを分けるだけでは弁証をたてたことにはなりません。

病気のタイプの判別と損傷を受けている臓腑や経絡を明確にし、且つ病気の原因である「病因」と、病気を起したメカニズムである「病機」をも明確にしなければ弁証をたてたことにはならないのです。

 

 では、今までの問診でわかったことをまとめてみましょう。

①病因:ストレス

②タイプ:湿熱タイプのアトピー性皮膚炎

 以上の2点です。

 

ですから今後の問診は、損傷を受けている臓器、病機を明らかにしてゆかなければなりません。

これらを明らかにする問診は随伴症状を訊いてゆくことでわかります。

 

 

?、随伴症状についての問診

随伴症状につて質問したところ次のような答えが返ってきました。

 

―口が粘る・痰がよくでる・足のむくみ・などの症状がある。

これらの症状は体内に余分な水分である「湿」が存在する方の特徴であり、「脾」のエネルギー不足である「脾気虚」の方の特徴でもあります。

更に、質問表にあった「食欲不振」「軟便」「疲れやすい」というのも「脾気虚」の特徴であります。

又、Dさんの体格は少し太めでした。中医学的に太っている方には、エネルギー不足である「気虚タイプ」や体内に「湿」が存在するタイプの方が多くおられます。

以上の情報を総合するとDさんの体質は脾気虚と湿の存在は否めないかと思います。

 実は「脾気虚」と「湿」はとても深い関係にあります。

「脾」の働きに「運化」というものがあります。これは消化吸収を意味する言葉で、飲食物を吸収してエネルギーに換える働きです。

「脾気虚」になってしまうと、飲食物の消化吸収能力が低下してしまい、体内の水分代謝が効率よく行われなくなってしまい「湿」を産んでしまうのです。

ですから言い換えれば、脾気虚の方は「湿」が存在している方も多いのです。

 さて、ではDさんはいつ頃からこの様な症状であったのかを質問してみました。

先ず体格については、子供の頃から太めであったとのことです。

更に、他の「脾気虚」や「湿」について質問したところ、いつ頃かは覚えていないが、昔からだったそうで、高校に入った時には上記の随伴症状はあったと思うとのことです。

以上の問診からDさんは高校入学した時点では脾気虚によって、湿が生成され体内に「湿」の存在があったようです。

子供の時から太っていたとのことですので、「湿」を溜めやすい体質的であったのかもしれません。

体内に「湿」が溜まると熱化することがあります。この状態を「湿熱」といい、Dさんのアトピーのタイプになります。

 

これでDさんの体質は脾気虚で湿が溜まりやすく、熱化してしまっていることまではわかりました。

 

 さて、今までの問診でDさんのアトピーの誘発素因はストレスとわかっておりました。

次に、ストレスが症状を悪化させる機序を明確にしなければなりません。

そこで、気になるのが質問表にあった、「最近、便秘と下痢を繰り返す」という点です。

先ず、最近の大便について細かく質問したところ、次の答えが返ってきました。

①「最近、便秘と下痢を繰り返すようになったり、通勤中に何度もトイレへ駆け込むようになってしまったので、病院へ行ったところ『過敏性大腸炎』と診断された。」

②実はこの様な大便の状態は高校3年生の秋にも起きたことがある。

 

大便について以上の情報を得たので、次にその他の随伴症状について質問してみたところ下記様な答えが返ってきました。

③ 口が苦く感じることがある。

④ 胸や脇が張った感じがする。

(③~④については最近になり感じるということで、高校時代については覚えていないとのこと)

⑤ イライラや怒りやすい(高校時代も現在も同様であるとのこと)

⑥ 側頭部やコメカミの頭痛(      〃         )

⑦ 物忘れはない

⑧ 腰や膝に異常は無い

⑨ 風邪をひき易いことはない

⑩ 息切れもない

⑪ 動悸もない

 

 さて、それでは①②について説明をいたします。

① についてはお医者さんに「過敏性大腸炎」と言われているわけですが、中医学では、下痢や便秘を繰り返す症状を起す疾患の中に「肝気犯脾」というのがあります。

「肝気犯脾」とは、ストレスなどの精神の抑鬱状態により、「肝」が損傷を受けてしまいその影響が「脾」に及んでしまった状態をいいます。

「肝気犯脾」のキーポイントは誘発素因が「ストレス」であります。

現在Dさんは仕事のストレスを多く受けております。

又、高校時代にも過度のストレスを受けておりました。そこで②の質問をしたわけです。

すると案の定、高校時代にも同様の症状がありました。

以上のことから、Dさんの「便秘と下痢を繰り返す」といった症状は「肝気犯脾」による可能性が高くなってきました。

 

 そこで次に③~⑥の質問に繋がります。

③~⑥については、ストレスなどを受けて肝が損傷を受け、気の流れに滞りが起きた特徴です。又、どの症状も高校時代や現在に起きている症状ですから、ストレスを過度に起きている時期とも一致します。

以上の事からDさんは高校時代及び現在と過度にストレスにより、肝が損傷を受け更に脾がその影響により損傷を受けてしまったということがわかりました。

 これでストレスによりアトピーが発症したり悪化するメカニズムもわかったことになります。

⑦~⑪についてはその他の臓器の損傷の有無を確認した質問です。

Dさんの主訴についてはその他の臓器はそれ程損傷を受けている可能性が少ないので問診時間の短縮のため質問の数もへらしております。

⑦⑧については腎について、⑨⑩は肺について、⑦⑩⑪については心についての質問です。

やはり、腎・肺・心、については特に問題はないようです。

 

 さて、以上の質問で問診は終わりになります。

それでは今回の四診でわかったDさんのアトピーについての病因・病機・弁証名を説明してゆきましょう。

 

?、総合解説

=高校時代(アトピーの発症の病因・病機)=

?で説明したようにDさんはアトピーが発症した高校生以前から、「湿」が体内に溜まりやすい体質ではあったようです。

そこに高校生になり、現役で大学に合格しないといけないというプレッシャーと受験勉強のストレスを受けてしまいました。

「肝」は抑鬱状態にとても弱い臓器ですので、この当時の過度なストレスやプレッシャーによって損傷を受けてしまいました。(症状としてはイライラや怒りやすい、側頭部やコメカミの頭痛が根拠になります。)

「肝」の働きの1つに「疏泄作用」というものがあります。

これは気の流れを促進することにより、臓器の働きを促進させるという作用です。ストレスなどで「肝」が損傷してしまうと、「疏泄作用」の低下がおきてしまいます。

この影響を受けやすい臓器の1つに「脾」があります。

この様な機序で、Dさんの場合は先程説明した「肝気犯脾」が起こってしまいました。

さて、「肝気犯脾」の時の「脾」は「脾気虚」の状態です。

「脾気虚」は「湿」が生産されやすい状態であるのは先程説明いたしました。

ですから、ストレスなどが強くなればなるほど「肝」は強く損傷を受け、その影響が更に「脾」に及び、結果 として「脾気虚」の状態が悪化してしまいます。

つまり、ストレスの増加は「脾気虚」の悪化を助長させてしまうわけであります。

そのことにより益々体内で「湿」が産まれてしまい、体内で「湿」が多く溜まってしまうことにより熱化し「湿熱」へと変化します。

その結果「湿熱タイプ」のアトピーが発症してしまったわけです。

 

=大学時代(症状軽減の機序)=

Ⅲの問診でわかるように、Dさんは大学受験が終わって病院で受診されております。

その後直ぐにアトピーは軽くなったと言っておられますが、はたしてアトピーの症状を軽くしたのは病院で出された薬だけの効果 でしょうか?

おそらく大学受験のストレスからの開放が一番の薬になっていると思います。

その根拠は、大学在学中に軽くなっていたアトピーが定期試験の度に悪化して、試験が終わると薬を飲まずしても又軽くなるという点です。

 さて、ここでもう一度高校時代を振り返ってみましょう。

高校時代はストレスにより「肝」が損傷を受け、その影響で「脾気虚」となり湿熱タイプの痒みの強いアトピーを発症させました。

その後Dさんは見事入試に合格して受験のストレスから開放されました。

このことにより、「肝」もストレスから開放されます。

今まで「脾」は常に「肝」から影響を受けていたわけですが、受験後は「肝」がストレスから開放された分だけ「脾」への影響は軽減されます。

この軽減された影響分が、大学時代の症状が軽減された分に値します。

しかし、ストレスから開放されたことにより「肝」は元の状態に戻っても、「肝」の影響を受けた「脾」については何も改善はされていない状態です。

ですから、大学在学中もDさんのアトピーは軽減したものの完治はせず、「脾虚湿盛」タイプのアトピーとして残ってしまったわけです。

ですから大学受験ほどのストレスはかからないものの、定期試験といったストレスを受けても直ぐに悪化してしまったわけです。

 

=今現在のアトピーについて=

 さて、今のアトピーについては、仕事の過度なストレスにより、高校時代のアトピーの状態に逆戻りしてしまったことになります。

 

 以上がDさんのアトピーの病因・病機になります。

全般を通してみると、『湿熱タイプ』のアトピーということになります。

しかし、損傷をうけている臓腑に注目してみると、高校時代・今現在と大学時代とでは若干の違いがあるのがおわかりになると思います。

 

高校時代・今現在については、肝鬱と脾気虚でありました。

中医学的に言うと、「肝」が「脾」を相乗した、「脾虚湿盛」による「イン疹」となります。

 

一方、大学在学中はそれ程「肝」の損傷はみられません。あったとしても定期試験前の一時的なものです。

ですからこの時代のアトピーは「脾虚湿盛」による「イン疹」となります。

 

 さて弁証が立てられた時点で基本的に問診は終了です。

患者さんには施術に備えて治療室へ移動をしていただき、ベッドに横になってもらいます。

その間に治療者は治療方針と使用するツボを決めなければなりません。

先ず最初に考えるのが治療方針です。

皆さんならどの様な治療方針を考えますか?

 

治療方針としては、今現在については「疏肝解鬱・健脾利湿・清熱止痒」といって、ストレスによって損傷を受けている「肝」の気の流れを整えてあげ、「脾気虚」となっている「脾」をたて治してあげることにより、体内の「湿」を排除する治療と、熱を取り去り痒みを抑える治療をおこないます。

 

これに対して、もし大学時代の定期試験前以外のDさんを治療するのであれば、「疏肝解鬱」の必要はなく、「健脾利湿」のみの治療を行います。

 

ですから、同じアトピーでも発症した時期や環境によっては同一の人間であってもタイプの違うアトピーになってしまうこともあれば、損傷を受けている臓腑が違ってしまう事もあるのです。

当然タイプや損傷を受けている臓腑が違えば、治療方針は変わってきますし使用するツボも変わってまいります。

そして、治療方針が決まれば、それに見合ったツボを選択します。

因みに、アトピーの出ている患部以外にも、体幹や足の先のツボに至るまで、全身のツボを使用します。

問診が終わって針を打つまでに治療者の頭の中では上記の様なことを考えています。

 

如何でしたか?

以上が「アトピー性皮膚炎」のシュミレーションでした。

診察中の治療者がどの様に患者さんの身体の中のバランスの崩れ具合を見極めてゆくのかイメージできましたでしょうか。

我々はこのようにして弁証を立てております。

そして、このような過程は決して珍しいことではなく、中医鍼灸ではごく普通 のことであります。

中医学の治療は『理・法・方・穴(薬)・術』という大原則にのっとって行われます。

「理・法・方・穴(薬)・術」とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。

「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。

「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。

「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。

「穴(薬)」とは薬やツボの作用をさします。

「術」とは鍼灸の手技を意味します。

 つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われ、最後にどのような手技を施すかを考えるのです。

逆を言えば、「理・法・方・穴(薬)・術」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。

 以上のことから、いい加減な問診であったり、痛い所やコリが在る所や病んでいる所にのみ針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。

人を治すには、それなりの理論や手順を踏まないと決して結果はでません。

ましてや、慢性症状を治療するには尚のこと繊細な弁証が必要になってまいります。

 

中医学ではアレルギー疾患を単にアレルギーだけを理由に捉えません。

本日読んで頂いたシュミレーションの内容からもわかるかと思いますが体の何処で、何が、どうなったかを追って症状判断をしております。

 

当院は患者さんと伴に病を治していこうと考えております。

真剣にお悩みの方はお気軽に当院までご相談ください。

我々も誠意を持ってお答えいたします。

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