コラム
- 2019/02/20
- 肋間神経痛
肋間神経痛に関して、始めに神経の働きから説明します。“神経”とは、動物に見られる組織で、情報伝達の役割を担っています。
神経は、中枢神経と末梢神経に分かれます。中枢神経は、脳そのものと脊髄そのものをいいます。末梢神経は、脳と脊髄と全身の各部との連結する部分で、脳から出る脳神経と脊髄から出る脊髄神経があります。
脳神経は脳から左右それぞれ12本あります。末梢神経は、体性神経と自律神経があります。体性神経とは、痛みや温度などを脳に伝える知覚(感覚)神経と、自らの意志で動かすことの出来る運動神経です。顔の筋肉や手・足の筋肉などは末梢神経で支配されているので自分の意志で動かすことが出来ます。自律神経とは、自分の意志で動かすことの出来ない心臓や血管、内臓に分布している神経です。
肋間神経は、脊髄の胸髄から出て肋骨に沿って走り胸部や腹部に分布している末梢神経です。肋間神経の知覚性のものは胸・背部と腹部の皮膚に行き知覚を司っています。更に胸膜・横隔膜にも肋間神経が分布して痛覚に関与し、心膜・食道にも肋間神経の知覚線維が分布しています。運動性のものは、脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋)、肋間筋、腹筋に分布しています。
【現代医学的な捉え方】
末梢神経の経路に沿って起こる激痛発作を“神経痛”とよんでいます。神経支配に関係なく現れる痛みは漠然と用いられることが多い病名ですが、医学的にはいくつかの特徴が見られる場合だけを神経痛と定義しています。
神経痛の痛みの発作は1回につき数秒から数分間で終わることが多く、無症状の時間をはさんで繰り返し現れます。さらに、痛みが起こる末梢神経の支配領域に刺激を加えると、痛みを誘発する圧痛点と呼ばれるポイントが認められます。
また、くしゃみや咳をしたときなどに痛みが引き起こされることがあります。体を曲げるといった、ある決まった姿勢をとると痛みが起こる場合もあります。
神経痛は、特発性と症候性(続発性)に分けられます。特発性とは、原因となる病名が判明せず、神経痛が病名としてつけられる場合です。知覚や筋肉の運動・反射といった末梢神経の機能を調べる神経学的な検査をしても、痛み以外の症状が見られません。
かつては、背骨にある病気がなかなか突き止られず、ほとんどの神経痛が特発性として扱われていました。しかし、診断技術の進歩に伴い、神経痛の多くに原因となる病気があることが判明してきました。
症候性とは、診断や検査によって神経痛の背景にある病気が明らかになり、その1つの症状として痛みが現れる場合です。肋間神経痛は症候性タイプがほとんどとされています。 “脊髄の病変”“神経根の障害”“帯状疱疹(ウィルス感染)”“背骨の側湾症”“内臓異常から起こる関連痛”などが原因と考えられています。
◆脊髄の病変が原因の肋間神経痛
背骨の中に脊髄神経が走行していますが、この脊髄神経が何かの原因で圧迫を受けて神経異常を起こした状態です。圧迫を起こすのは、腫瘍・椎間板ヘルニア・脱臼・骨折・血腫 等が考えられます。胸椎部の病変で両側の異常(両側の肋間神経に知覚異常が感じられる) が現れたら、脊髄の病変が疑われます。また、トイレで力んだり、くしゃみをした時に体の両側に症状が出たり、電気的な痛みが走る、なども脊髄病変が疑われます。
◆神経根の障害が原因の肋間神経痛
肋間神経が胸椎の骨の間から出てくる時に、この出口の部分で何かしらの障害を受ける事で痛みなどの神経症状が出てくるものです。神経根をいたずらする要因は、椎間板ヘルニア・骨の変形・椎間関節症などによるものがあります。通 常は片側に症状が出ます。
◆背骨の側湾症が原因の肋間神経痛
側湾症は背骨が側湾しているため、肋骨にアンバランスが生じて神経を圧迫し、靭帯や筋肉に異常をきたし、背中のあちこちが痛くなることがあります。
◆帯状疱疹が原因の肋間神経痛
帯状疱疹は脊髄神経節のウィルス感染症による肋間神経痛で、神経の支配領域に沿って病変が広がります。ウィルスの正体である“ヘルペスウィルス”は脊髄神経節に進入し皮膚に運ばれ、そこに感染を起こして、感染した神経が支配する皮膚領域に激しい痛みを起こします。この場合、身体を動かさなくても痛みが持続します。
◆内臓異常から起こる関連痛
関連痛は、内臓の異常があるときに、ある一定の場所に出てくる痛みです。神経の支配域とは別 の痛みであり、動かしても変化はありません。背中に出てくる痛みが多いために、肋間神経痛と間違われることがあります。肋骨の中には、心臓・肺・肝臓・胃・膵臓などの臓器があります。これらの内臓には自律神経が背骨から走行しています。内臓の異常は神経を伝わって背骨の回旋筋に影響を与えるといわれています。胸椎は支持力を失って変位 を起こし、これが痛みの原因ではないかとも言われています。
【中医学的な捉え方】
中医学では、病気は体内の「気・血・水」のバランスが崩れた状態であると考えます。
必要なところに足りなかったり(この状態を“虚”といいます)、必要以上に多かったり (この状態を“実”といいます)、巡りが悪くなったりした状態を、独自の診断方法を用いて見極めて、証をたてて治療方法を決めていきます(これを弁証論治といいます)。
~気・血・水について~
《気》・・・
気は人体を構成し、人体の生命活動を維持する最も基本的な物質なのです。
“気”は二つの源から作られています。
・先天の気・・・両親から受け継いだ気です。生命の土台といえます。 ・後天の気・・・後天の気には二つあり、生命活動の基礎になっています。
1つは“水穀の精微”と呼ばれ、脾と胃の働きで飲食物を栄養に変えて作られます。
もう1つは、“清気”と呼ばれ、呼吸によって新鮮な外気を取り入れて体内の濁気を吐き出します。
気は体内で、絶え間なく流れ、全身の臓器や組織・器官をめぐり生理活動の動力となっています。
《血》・・・
血は栄養素を豊富に含んだものです。脈管内を通 じ、全身を流れ、各器官に 栄養を与え、その活動を支えています。
血の流れが悪くなり、有害な状態で体内に停滞した状態を”オ血“といい、月経痛や肩こりなど様々な痛みの症状を生みます。血が不足した状態を“血虚”といい、貧血やめまいの症状が現れます。
《水》・・・
体内に存在する必要な水液のことです。全身に潤いを与え、関節などの動きを 円滑にする作用があります。不足すると乾燥、関節が動かしづらいなど症状が現れます。多過ぎたり、流れが悪くなって停滞すると“湿”となり、むくみ・だるさ・冷えなどの症状が現れます。
この“気・血”が流れる通路を、「経絡」といいます。経絡は、臓腑で生成された気血を上下・内外に運び、全身を栄養したり機能を調節したりする作用を持っています。
さらに、臓腑と臓腑、あるいは臓腑と器官、体表などをつなぐ連絡網でもあります。
中医学には、現代医学でいう神経に該当する概念はありませんが、経絡は独自の楯行経路 をもつ循環・伝達系であると考えられています。
肋間神経痛は、中医学において“脇痛”に属する疾患で「季肋部痛」「脇下痛」などの病名があります。脇痛は情緒の不安定、飲食の不摂生、慢性疾患が長期化することなどが原因で起こると考えられています。そして経絡の流れに異常が起こったときに「痛み」という身体からの警告が発せられるのです。
経絡の運行障害による痛みを“不通則痛”といいます。治療は「通ずればすなはち痛まず」(通 則不痛)に基づいて行われます。
それでは、運行障害を起こす原因をタイプ別に説明していきます。
●肝気鬱結タイプ
中医学でいう“肝”とは、現代医学の“肝臓”とは異なります。肝の作用には、気の運動を調節して気血の運行を維持して、消化や水液代謝の促進があります。更に、精神・心理活動にも肝の調節機能が作用しています。このような作用を“疏泄(そせつ)”といいます。感情の抑鬱や悩み、怒りによって肝が傷つくことによって、気の流れが滞り経絡の流れが悪くなり胸肋部が張って痛みます(脹痛)。この時、痛む場所は流動的で定まりません。
情緒が安定して、気持ちがのびやかになると症状が軽減します。
舌質は紅、舌苔は薄白、脈は弦です。
(治療原則)・・・・疏肝解鬱・理気通絡(肝の疏泄作用の失調を整えて、気の流れを促し 経絡の通りを良くして“血”や“水”をどんどん行かせて痛みを取り除きます)
●血オ(血流不全)タイプ
“肝気鬱結”の症状が長く経過すると血行に影響して、オ血(血の流れが停滞した状態)を生み、これが経絡の流れを悪くし痛みが起こります。特徴は、針で刺されるような痛みで、痛む場所が一定しており、痛みは昼間は軽く、夜間に激しくなります。
舌質は暗紫またはオ斑、舌苔は薄白、脈は渋です。
(治療原則)・・・・活血化オ・疏経活絡・キョ風通絡(血の流れを良くして、オ血を取り 除き経絡の通りを良くして痛みを改善します)
●痰飲タイプ
飲食の不摂生や消化機能の減退により水飲・痰積(体内に溜まった不要な水分のこと)が肋部に停滞した為に経絡の流れを妨げ、胸脇部に痛みを生じることがあります。咳をしたり唾を吐くと胸脇下に痛みが響く、脇間部が脹る、息切れがする、などの症状も現れます。
舌質は淡、舌苔は白、脈は沈弦または沈滑です。
(治療原則)・・・・化痰逐飲(水分代謝を改善し体内にある不要な水分を取り除いて 胃腸の働きを整えて痛みを改善します)
●肝陰虚(血液・栄養不足)タイプ
肝の働きには“血の貯蔵”があります。活動時にその貯蔵した血を疏泄機能を用いて四肢末端まで供給する役目を担っています。過労や慢性疾患などによって、本来からだに必要な気血が不足することでも痛みが発生します。このような栄養不足の痛みを“不栄則痛”といいます。いつも胸脇部に痛みがあり、目のかすみ、耳鳴り、口の渇きなどの症状も現れます。
舌質は紅、舌苔は少、脈は弦細数です。
(治療原則)・・・・活血潤燥・理気疏肝・和絡止痛(血の不足を補って体を潤し、経絡の 流れを良くして痛みを改善します)
●少陽病タイプ
これは、“六経弁証”の中の症状です。中医学では、“弁証論治”という方法で病状を見極め、治療方法を導きます。弁証方法には“六経弁証“の他“臓腑弁証”“八綱弁証”“気血弁証”“三焦弁証”などがあります。
六経弁証は、おもに寒冷性の外邪(外因)により、疾病が発生する時に用いられます。六経弁証では、疾病の段階を、“太陽病・陽明病・少陽病・太陰病・少陰病・厥陰病”の6段階に分けています。少陽病は、外邪が体表にはなく、しかしまだ内部(裏)にまでは入っていない状態をいいます。これを、“半表半裏証”ともいい、冷感と熱感とが交互にあらわれること(寒熱往来といいます)を特徴とします。脇肋部が張って痛む他、口が苦い、呼吸をすると増悪する、咽喉部の乾燥感、食欲不振などが現れます。
舌質は紅、舌苔は白滑~薄黄、脈は弦です。
(治療原則)・・・・和解少陽(邪気を取り除いて正気を助けて症状を改善していきます)
治療原則の四文字は見慣れないものだと思いますが、原因となるものを取り除き“経絡”の中の気・血・水の流れをスムーズにすることで痛みを取ることを目的としています。
現代医学と中医学とでは、“肋間神経痛”という症状の捉え方が異なります。
このように、違った角度から人体を見つめているので、現代医学とは違ったアプローチで治療が行なえるのが中医学であるといえます。
大まかな説明でしたが、少しでも中医学的なアプローチがご理解頂ければ幸いです。
最後に、肋骨で囲まれた中には、脊髄をはじめ様々な臓器が存在しています。痛みを発する原因も多くありますので、安易に自己判断をされずに検査を受けることも付け加えさせて頂きます。
中医学鍼灸は、一般的な局所治療鍼灸と異なります。
症状のタイプ別や、細かい体質、或は症状の起因を見極め手当てを行なうところに大きな特徴が有ります。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
- 2019/02/20
- 脇痛
今回は脇痛についてのお話しです。
脇の痛みですが脇のみに限局するのでなく、場合によって胸部や腹部にまで波及するものも含めています。現代医学で脇に出る痛みを外傷によるもの、神経性によるものに分けて紹介していきます。
外傷によるものとしては「肋骨骨折」、神経性によるものとしては「肋間神経痛」、「内臓の関連痛」です。
《肋骨骨折》
転倒や打撲による外傷パターンと、スポーツや風邪(持続的な咳)などによる疲労骨折などが主な原因です。骨粗鬆症(骨がもろくなってしまう病気)の高齢者の他にも、スポーツを激しくする若年者にもよくみられます。
症状としては持続する胸脇部痛です。この痛みは咳や深呼吸、体動時に増強します。折れた肋骨が肺を傷つけ気胸(肺に穴が開いた状態)、血胸(胸腔内に血液が貯留した状態)をひきおこす場合もあります。
診断はレントゲン検査が欠かせませんが、骨がずれていないために骨折線が発見できなかったり、肋軟骨部での骨折では肋軟骨がレントゲンに写 らないために診断が難しくなります。したがって、自覚症状や医者の判断が重要となってきます。
2週間以上にわたって持続して痛みが出ている場合には、肋骨骨折の疑いを持ってください。単なる打撲や筋肉痛ではだいたい1週間程度で軽快します。骨折と診断された場合は、治療としてバストバンドによる固定や痛みに対しては非ステロイド系抗炎症剤等の服用があります。
《肋間神経痛》
肋間神経痛とは、胸髄(胸からお腹の高さくらいで背骨の中を通る神経のおおもと)から出て肋骨に沿って走行する肋間神経が、何らかの原因により特発的に痛みを生じるものをいいます。
原因不明の原発性肋間神経痛と原因の明らかな続発性肋間神経痛に分けられます。
原因-
原発性のものに関しては、心因性の痛みや続発性の痛みも除いた上で末梢神経になんらの病変がみられません。
続発性の場合は末梢神経、脊髄の知覚神経の刺激や障害によっておこります。最も多い原因としては肋間神経の絞扼(圧迫)障害で、肋間神経が肋骨と肋骨の間の肋間筋というところで圧迫されてしまうパターンです。
その他として寒冷刺激による神経炎や外傷(肋骨の骨折やひび)、帯状疱疹もしばしば肋間神経痛の原因となります。
症状-
肋間神経痛の主な症状は片側ででます。
・
脊髄から肋骨に沿って激しい痛みが突然おこる。
・
深呼吸や咳、会話で痛みが強くなる。
・
身体をひねったり、痛みのない側に身体を曲げて肋間神経を伸ばすような姿勢をとると刺すように痛む。 etc
治療-
原因が明らかな場合は、まず原因を取り除く治療を行います。
痛みに対しては温熱療法や鎮痛剤の使用、反応点への鍼刺激や筋肉や肋骨を整える徒手療法で様子をみて、それでも痛みが治まらない場合は神経ブロック注射で痛みの除去をはかります。
《内臓疾患による関連痛》
~関連痛とは?~
ある部位の痛みを、異なる部位の痛みと脳が勘違いをすることによっておこる痛みのことです。
なぜこのようなことがおこるかというと、人は痛みを感じるときは痛みが起きた場所にある受容器(痛みを感知する装置)から脳へ神経を通 って伝えられます。その神経はいくつかに枝分かれをして各所に伝わっているので、同じ神経束が源になっている場合などは、痛みの電気信号が一体どこから出ているのかわからない状態になってしまうことがあり、痛みの発生源が混乱してしまうためです。
・右脇腹に痛みが出る場合
・胆石-
肝臓の右下に胆嚢という袋状の臓器があります。
通常は胆汁といって食べた脂肪分の消化を助ける消化液を貯えています。この胆嚢に出来るまるで石のようなもの(結石)を胆石といいます。この胆石は脂肪分や糖分の成分が結晶を作り出来ます。そして胆嚢から胆石が管を通 って出ようとしたときに右脇腹に痛みが出るのです。
他にも心か部(みぞおち)の痛みや右肩、右背部にも痛みや筋肉の張りとしてあらわれます。
・肝炎-
肝炎とは、肝臓に炎症が起こった状態で赤く腫れて熱を持ち触ると痛みを感じます。
日本人の約80%はウイルス感染によるものですが、その他にも原因として薬剤、アルコール、アレルギー等があります。
右脇腹の痛み以外にも、全身倦怠感、発熱、頭痛、関節痛、悪心、食欲不振等もみられます。その後黄疸(眼球や皮膚などが黄色くなる)の症状がでてきます。
・尿管結石(右側)-
腎臓内でできた結石の一部が、尿管を下っていく途中で尿管につまってしまうものです。
主な症状としては血尿(目で見てわからない場合あり)と腹痛です。腹痛は脇腹あたりまで広がることもありかなり強い痛みです。
・左脇腹に痛みが出る場合
・膵炎-
膵炎には急性のものと慢性のものがあります。
膵臓から膵液という分泌液が出ますが、その中に消化酵素を含みます。この消化酵素が自らを消化してしまい組織が壊死してしまうものが急性です。慢性のものは膵臓が長年にわたって炎症を繰り返しているうちに徐々に膵臓の正常な細胞が破壊されていきます。原因としては胆石やアルコールの過飲等になります。
症状としては左脇腹の痛みの他に心か部(みぞおち)の痛み、発熱、嘔吐、腹部の膨満感、時として黄疸などです。
・脾腫-
脾臓が腫れて大きくなった状態です。
肝硬変や心不全による脾臓のうっ血、細菌やウイルス感染による炎症等が原因で起こります。
症状としては左脇腹の痛みの他に呼吸困難や吐き気、便秘などもみられます。脾臓が巨大になると脾臓への血流が阻害されて組織が壊死してしまい激しい痛みとなるのです。
・尿管結石(左側)-
右の場合と同じです。
ここであげた例はごく基本的なことであり、でてくる症状も必ず脇への痛みに限らない場合もあります。脇への痛みを感じた際に、上記で思い当たるものがあれば参考にしていただければと思います。
時間が経過してもなかなか改善しないものであれば、専門の医師のところで検査をして指示を仰いでください。
おおまかに3つの項目でみてきましたが、いずれもすぐには完治しないものばかりです。はじめは筋肉の凝り、張り、痛みと思っていても症状がなかなか改善されず、他にも気になる症状が出ている場合には我慢をせず、しっかりと検査等を行いましょう。早期に病態がわかれば治療予後も良いです。
《中医学からみた脇痛》
まずは脇痛に関連する中医学独特の身体観を説明していきましょう。
~気・血・水について~
気-
「気」とは、人が生理活動を行う際に必要なエネルギー源です。
生まれながらに両親から授かった「先天の気」と飲食物や呼吸などによって得られる「後天の気」とがあります。
「気」のはたらきとして内臓の活動を促進したり血脈(血の流れ道)や経絡(気の流れ道)を推進したりする「推動作用」、体温を維持したり、内臓を温めて活動を促進する「温く作用」、体の表面 を保護し、外邪(外からやってくる侵入者)を防ぐ「防衛作用」、必要以上に体の外に血や水分が漏れないようにする「固摂作用」、代謝を促進し物質を変化させるはたらきの「気化作用」などがあります。
血-
「血」とは人、の生命活動にとって基本となる物質で全身を栄養し潤していきます。顔色や肌つや、毛髪や筋肉などすべて「血」の充足が必要です。また「血」は人の精神活動にも必要なもので「血」が欠乏すると精神的な症状(失眠、健忘、昏迷、不安など)が現れます。
水-
「水」とは、人体中の正常な水分の総称です。
主な作用として潤いを与えることであり、体の表面近くでは皮膚や毛など、深い部分では脳や骨、関節、内臓まで潤します。
~臓腑について~
臓-
「臓」とは、五臓とも呼ばれ、肝、心、脾、肺、腎という実質性臓器のことを指し、主なはたらきとして気、血、水の生成や貯蔵といったはたらきを担います。
腑-
「腑」とは、六腑とも呼ばれ、胃、小腸、大腸、膀胱、胆、三焦という中空性臓器のことを指し、主なはたらきとして飲食物の消化をし身体に必要なものは五臓に渡し、不必要なものは排泄するというはたらきをします。
今回の脇痛と関連する臓腑
肝-
「肝」とは、現代医学でいうところの肝臓とは少し意味合いが違い、色々なはたらきをします。
大きなはたらきとして、1つは身体のすみずみによどみなく気を送り出す「疏泄作用」、もう1つは血液量 を調整すべく貯蔵するはたらきがあります。その他にも目や爪、筋肉といったところとも通 じており「肝」の不調がそこに現れたりもします。
胆-
「胆」とは、現代医学でいうところの胆嚢とは少し意味合いが違い、おもしろいはたらきをします。「胆」には「肝」で作られた胆汁を貯蔵し、消化吸収の際に助けるはたらきがあります。また、決断をしたり勇気につながるなどの精神的なはたらきも担うのです。
身体には経絡という気の通り道があります。大きなものでは14本身体を上下に走っていますが「肝」、「胆」に関係する経絡は脇を通 過してそれぞれ足や頭に行くのです。それで「肝」、「胆」の不調は時として脇部に出やすいのです。それではこの脇を通 る経絡に影響を与える原因をタイプ別に見ていきましょう。
・肝鬱脇痛タイプ
先ほども説明したとおり、肝は気をスムーズに流す疏泄作用をもっていますがストレスや怒りなどといった感情の変化にとても敏感で、気の流れが悪くなります。そのために脇を通 る経絡の流れが滞り脇部が張って痛みます。
痛みの症状の他には胸悶(イライラ)、ゲップ、胃液が込み上げる、怒りっぽくて不眠症などです。舌の苔は薄くて白く脈は弦(はじくような脈)です。治療は肝の気の流れを整えつまりをとっていきます。
・湿熱脇痛タイプ
湿とは身体にとって不必要な水分で、身体の中に停滞し重くてだるい感じを出したりするもので、体内で発生するものと外からやってくる場合があります。それに熱が加わると湿熱となります。
具体例として、アルコールの過剰摂取や味の濃い物の食べすぎは体内で湿熱となりやすいですし、高温多湿の環境に長時間いる場合などは外から身体に湿熱が入ってきやすいです。この湿熱が胆の経絡を犯し脇の痛みとなって出てきます。
他の症状として悪寒発熱、口苦、心煩、悪心嘔吐、脂っこい食べ物を嫌うなどです。舌の苔は厚くべっとりとして黄味をおびることもあります。
脈は数弦(速くてはじくような脈)です。治療は熱を発散させて湿を消して肝の疏泄機能をアップさせ流れを良くします。
・お血脇痛
お血とは血の流れが悪くなり臓腑や経絡に停滞したものをいい、きの流れが悪くなったとき(気は血と一緒に巡る)や打ち身や捻挫をして出来ます。脇を痛めてしまうと脇でお血がおきてしまい一定の場所が刺すように痛みます。
他には昼間よりも夜間に痛みが強まります。舌の色は点状に出血があったり暗紫色、脈は弦か細数(細くて速い脈)です。治療は血を活発に循環させて気の巡りも良くして痛みを止めます。
・陰虚脇痛タイプ
肝のはたらきで先ほども説明しましたが、血を貯蔵するはたらきがます。
何か活動する際は、肝で貯蔵していた血が各所にいきますが、慢性的に疲労していたり過労などで身体に必要な血が不足すると(陰虚)肝の経絡が栄養出来ず脇が痛みます。
痛みの他に微熱や自汗、めまいや心悸などがあります。舌の色は赤く苔は少ないです。脈は細数です。治療は陰を滋養して血を養い経絡を和ませて痛みを止めます。
現代医学で検査をしても特に異常がなく、医者のほうから痛み止めや安静を指示された方などは一度中医学治療での診断をお勧めします。
数値やレントゲンなどに現れない症状をひろい、別の角度からのお手当てをしていくことができます。中医学(東洋医学)の治療の基本ベースは目には見えない体内の生命活力エネルギー(気、血、水)のバランス失調の調整にあります。減少したものは補い、多すぎるものは調整することで体調回復をはかります。生命活力エネルギーを良い状態に戻してあげることが大切であることを忘れずに。これを自然治癒力といいます。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。
当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/02/20
- 喘息
▼喘息とは(西洋医学的な考え方)▼
喘息とは、発作性にゼイゼイやヒューヒュー(喘鳴)・息が苦しい(呼吸困難)・胸が苦しい・咳がひどい、などの症状が繰り返しみられる病気です。
空気の通り道である気管支の病気で、もっとも多いのが、気道(気管支)が炎症により細くなり、呼吸が妨げられることによって起こる場合ですが、気管支粘膜の浮腫(むくみ)や痰の増加 などでも起こります。
喘息の原因として一般に良く知られるものはアレルギー性のものです。 例えば、エビや卵などを食べたり、ある種の花粉がハウスダストを吸収したりすると発作が起こるのが特徴です。 気候の変化や温度の変化なども発作の誘引になりますし、精神的なストレスや過労なども原因になります。このようにさまざまな原因が複雑にからみ合って起こるために、治療も中々決め手となるものがありません。
小児喘息について
小児喘息の患者さんのばあい、喘息になる前に乳児湿疹、アトピー性皮膚炎があることがよくあります。家族のなかにアレルギー体質の方がおられると、小児喘息の子どもが出てくる頻度が高くなります。小児喘息は、成長するにつれて自然に緩解されてくるケースが多いですが、中学生・高校生になっても小児喘息が治らず、思春期喘息に移行するケースも増加しています。
▼中医学の喘息の捕らえ方▼
中国医学では、喘息を単に肺や気管支の問題として捉えず、他の臓器や体質など、また、当院のホームページの中でたびたび出てくる生命エネルギー、体を整えるエネルギー(気・血・水)の失調として考えます。
喘息という言葉は日本の言葉で、中医学では、喘息は、「喘証」(呼吸急迫を主症状とする病証)と、「哮証」(咽喉部でゼーゼーと痰の音がし、更に呼吸急迫を伴う病証)に属します。
【中医学的な喘息の原因の分類】
1.六淫
中医学では、外界(自然界)の環境因子が人体に与える影響を重視します。
風、寒、暑(熱)、湿、燥、火
この6つの外界の環境因子を中医学では六気といいます。
例えば、気温の上昇は暑(熱)、低下は寒、 湿度の上昇は湿、低下は燥というように、季節に相応しており、正常な場合は、人体の生理活動を促します。
しかしながら、この六気が、過剰・不足・季節との不相応により正常でなくなると、六淫と呼ばれる、人体の生理活動を損なう因子へと変化します。
湿気が多すぎると身体の調子が悪くなったり、乾燥して寒すぎると風邪をひいたり、夏の暑さが異常気象で40度近くになるような時、汗をかきすぎて、力が入らなくなったりするのも、この六淫が原因です。
喘息の場合は、六淫の中でも、寒、熱、燥、風が特に原因として考えられます。
これらの因子は、口、皮膚、鼻から肺に侵入することが多く、その侵入により、 肺の本来の働きができなくなり、喘息の症状を出してしまうのです。
2.痰飲内停
中医学では肺は貯痰の器と言われておりますが、この痰の代謝がなんらかの原因で悪くなりますと、 粘りのある痰が肺に充満し排出されずに、肺の本来の働きを阻害し喘息の症状をおこします。
身体の水液はきちんと流れていれば、津液と呼ばれ、生命エネルギー物質として働くのですが、 流れが悪くなりますと、痰飲となり、色々なよくない症状を起こしてきます。
水液の流れが悪くなる原因はさまざまですが、問診、視診、聞診、切診により原因を分析し、治療にあたるのが中医学です。
3.情緒失調
中医学には、六淫と同じように、今度は人間の感情によっても、身体の生理活動を損なうことがあるとして、人間の感情が与える影響も重要視します。
怒、喜、思、憂、悲、恐、驚 を七情と称します。
中でも悲が肺を傷って生じる肺の気の働き損ないや、怒が肝を傷って生じる肝の気の停滞などで 喘息の症状がでることがあります。
感情の変動によって、喘息の発作が表れる場合は、気の停滞を考慮する必要があります。
4.肺気不足
長い間、咳の症状があり、肺の気が損傷されると、肺気の不足の状態が現れます。
肺は呼吸の気、全身の気の働きを担っていますので、息切れを伴う喘息の症状が現れます。
臓腑は関連して協力しあって働いていますので、肺と関連の深い脾の働きも考慮し、治療することが大切です。
5.肺陰不足
肺陰不足とは、肺の陰液の不足のことです。陰液とは、簡単に言うと、身体の中の水分(津液)や血です。
特に肺は、潤を好み、燥を嫌う臓腑です。
体内の陰液が不足すると、肺は乾燥し、肺気が情逆して、喘息の症状が現れるのです。
6.飲食失調
暴飲暴食、冷えた食べ物、脂っこいものの過食により、脾と胃の働きが悪くなると、 痰の停滞が怒ります。中医学では脾は痰を生む源と言われています。
痰の停滞が、気も停滞させてしまい、肺の気の流れを塞ぎ、喘息の症状が現れます。
7.腎虚
中医学では、色々な病気に言われることですが、慢性化したり、長期化した病は腎に及ぶと 言われます。肺に原因がある喘息でも、長期化すると腎に影響を与えてしまうことがあります。
これは、肺と腎がお互いに影響しあい、協力しながら生理活動を行っていることを理解して頂ければ、一目瞭然ですので、次の項目では、喘息の症状と関係の深い臓腑の働きをご説明します。
【喘息と関係の深い臓腑の働き】
肺、脾、腎
この3つの臓腑は、協力しあって、身体の水液代謝と呼吸の生理活動に作用します。
1.肺と脾
脾の働きは、食べ物を消化し、身体に有益な水液(津液)を生成し、身体中に運ぶことですが、 肺はその働きを補助して、脾から肺に上がってきた水液を全身に散布します。
喘息の症状が慢性化している方の中には、食欲の無い人がいますが、それは、肺の気の消耗により、肺の働きが衰えて、脾の生理活動を補助できなくなっておこります。また、反対に飲食の不摂生で、脾の気が損傷されると、水液の代謝が悪くなり、 痰が生成され、その痰が肺にたまって、痰の多い喘息の症状がでたりするのです。
痰が停滞が長引くと、多くは熱化する傾向にあり、白い痰から黄色い痰に変化し、症状が悪化していくこともあります。
2.肺と腎
肺が脾によって運ばれた水液を全身に散布することは、すでに上で説明しましたが、 さらに肺は、不要な水分を腎に送るという生理活動も担っています。
腎は運ばれた水液のうち、不要なものは尿として排出、必要なものは再吸収します。
喘息の症状がひどく、肺の気を消耗し、肺が正常な生理活動を行えないと、腎も正常に働かなくなってしまうので、下肢の浮腫や、排尿障害が喘息症状に加わる例があるのはこのためです。
肺と腎は呼吸においても共同で働きます。
呼吸活動は肺で主られ、吐き出すことにより、濁気を排泄し、吸入することによって、清気を吸収しますが、この中の特に吸収する、吸い込む方の作用には、腎の納気作用(気を納めて貯蓄する作用)が重要な役割を担っています。
3.脾と腎
脾と腎が協同して行うのはまず、水液の代謝です。脾は身体に有益な水液の生成を、 腎は不要な水液の代謝を担います。
そして、もうひとつ、生まれる前までの生命エネルギーの源は、腎が、生まれてからの生命エネルギーの源を脾が担います。
そして、脾が食べ物を生命エネルギーに変える生理活動を、人間が生きている限り、腎がずっとバックアップするのです。
【中医学的な喘息の病態の分類症状と治療】
中医学では、喘息の場合は、まず、実証の喘息なのか虚証の喘息なのかを判断します。
実とは邪気が充満している状態のことで、虚とは、正気が不足している状態のことです。
どちらの状態も正常な状態ではありません。
●実喘の症状
胸部に膨満感があり、非常に呼吸が荒く、喘息の音も大きい。胸に何かが詰まっていて、もう、それ以上空気を吸い込めない感じがします。邪気が盛んであるため舌苔が厚く、時に白く厚い、時に黄色く厚い状態です。脈は力強い脈を打ちます。
●実喘には大きく分けると1寒と2熱と3痰の症状があります。
それぞれの症状は以下の通りです。
― 寒邪が盛んな場合
寒の邪が皮膚や口鼻から肺に侵入して肺の機能が乱されることにより、おこる症状です。
寒い冬に喘息が起きたり、悪化する傾向があり、暖かい状態または暖かい飲み物を好みます。
痰は白っぽく水のように淡いといった特徴が重要です。一般的に舌は白く苔が厚いのが特徴です。
治療について
辛温散寒 宣肺平喘
寒邪によって傷つけられた肺の治療と寒邪を取り去るために温める治療を行います。
― 熱邪が盛んな場合
熱の邪が皮膚や口鼻から肺に侵入して肺の機能が乱されることにより、おこる症状です。
咳が激しい、呼吸が荒い、吐き出した痰が黄色く、熱で身体の中の水分が損傷されているため痰の粘り気が強く、口渇があります。
熱い物を嫌い、氷や水など冷たいものを好んで飲みます。
熱の季節や暑い環境で症状が悪化するという特徴をもっています。舌は赤く、苔は黄色く厚いのが特徴です。
治療について
清熱化痰 宣肺平喘
熱により損傷された肺の治療と同時に、熱を清することにより、身体の中の水分の状態を良くして痰がきちんと排出されるような治療を行います。
― 痰が盛んな場合
中医学では、肺は貯痰の器であるといわれています。痰がにごって、どろどろと停滞してしまっている場合には、肺の本来の働きである、水液を体中に散布する働きができなくなってしまいますので、停滞した水液が痰化して、痰が気道に充満してしまいます。
症状としては、喘息と同時に痰が多いために胸が重苦しく、窒息しそうな感じを訴えます。
また、痰湿が多いと、胃にも停滞してしまうため、本来下がるはずの胃の気が上に上がってしまい、悪心と食欲の不振を訴えます。もともと、湿(むくみ)体質の方に多い症状です。
治療について
燥湿化痰 降気平喘
湿を除けば、痰の源も自然と枯れてきます。痰を取り去るというよりは、体内の水(津液といいます)の流れをよくすることにより、湿を除く治療を行います。
●虚喘の症状
吸って吐く感覚が短いために、途切れ途切れの状態になる。呼吸が弱く、声も実喘のようなゼーゼーという大きい音ではなくて、非常に低く、弱弱しい状態で、息も絶え絶えといった状態です。たくさんの空気を吸いたくても吸うことができず、浅い呼吸しかできない。
倦怠感を訴え、身体も弱くて、力がない。舌苔は薄いか無い場合もあります。脈は細く無力な場合が多いでしょう。
●虚喘の種類
大きく分けると、すでにご説明しております、肺と腎と脾がからむ気虚、陰虚、陽虚に分けられます。
― 肺気虚 脾気虚
中医学では、肺と脾は身体の正常な働きのためにとても関連が強いため、どちらの状態が悪くなっても、どちらかの状態に影響を与え、具合を悪くしてしまいます。
気虚の症状は、気短、息切れが第一の特徴です。声が小さく、痰が薄く量 が多い。
体表を引き締める力が弱くなってしまうため、汗がよく出て、風邪をひきやすい状態になり、疲労感も強くなります。また、暴飲暴食などで、脾胃の働きが低下すると、水湿の流れが悪くなり、水湿が脾胃に停滞し、痰を良く出すようになります。
また、脾の気は本来上に上がるべきものですが、その働きが低下しているために、水液が身体の中に停滞し、軟便にもなります。
舌は淡く、脈は弱くなります。
治療について
補益脾肺、健脾化痰
虚している状態というのは正気が不足している状態ですから、脾と肺を補う治療を行います。また、脾を治療すること胃腸を健康にし、水湿の流れをよくし、痰がたまって息苦しい状態を改善させます。
― 陰虚
陰虚とは、中医学的に言われる陰液が不足している状態のことです。
陰液とは、簡単に言うと、身体の中の水分(津液)や血です。
喘息で見られる陰虚とは、肺と腎の陰虚です。
身体の中の水分が不足しているため、ほてり感、寝汗、喉の乾きなどを感じ、夜間に咳が悪化します。身体の中の水分が不足しているため、痰はあまり出ませんが粘っこく、きれにくいのが特徴です。また、腎の陰虚症状としては、耳鳴り腰痛なども伴います。
治療について
滋陰降火、潤肺止咳、滋補腎陰
陰液が不足している原因を突き止め、陰液を補充する治療と同時に、陰液の不足により、 熱が上ってしまったことにより出ていた火照り感などの症状を治療をします。
また、肺の陰液も補い潤すことにより、咳を止める治療を行います。
― 陽虚
慢性化し、非常に重症な喘息の症状を呈している場合、往々にして腎陽虚の状態が見られます。症状としては、動くとゼーゼーする。呼気は楽であるが吸気が難しいのが特徴です。
これは、中国では古来から、空気を吐き出すときは肺が主な役割を果 し、空気を吸い込むときは、腎が主な役割を果すと言われています。これは、腎が気を納める働きを主っているためで、その力が減退しているため、吸気が難しくなるのです。
また、腎の気化(水分を蒸発させる機能)作用(正常な場合、腎には水分を気化させるはたらきがあります)の低下により、 夜間頻尿の症状を伴ったり、痰が薄く量が多いなどの症状も表れます。
冷えが強く、腰痛も悪化します。
治療について
温腎、納気平喘
腎を温め、気を納める本来の腎の作用や気化作用を正常に行われるように治療します。
▼中医学的な喘息の治療について▼
基本的には、ただ単に、咳を止める治療、或は痰を取り去る治療というのではなく、根本的な体質を改善して行くのが治療のメインとなります。 それにより、発作を起こしにくい体づくりをして行くのです。 ですから中国医学の治療は、根本的な体質改善により、痰を除き、痰の産生を防止し、気道を開通 させるとともに、外因に対する抵抗力を高めていきます。基本的に慢性疾患の場合、症状、発作等が落ち着いて3ヶ月間、現れなかった場合は一応 治癒したと見ます。その他の疾患の場合もそうですが症状が出なくなったといって治療をすぐやめてしまう方がおられますが、本来はまだ症状が小康状態になっているだけで完全に治ったという訳ではないのです。ですから症状が出なくなっても最低3ヶ月ぐらいは様子見で継続治療を 行なった方が宜しいかと思います。
それともうひとつ喘息治療で大切なのは、発作を止めることが喘息の治療ではないということです。病変を根本から改善し、次の発作をひきおこさないようにすることが大切です。当院にご来院頂いた患者さんから「今までにも鍼灸治療も受けたことがあるのですが、効果 が感じられず、 漢方薬も服用したが効かなかったのですがどうしてでしょう」と聞かれる事があります。
それはひとつに、技術的なレベル、診断・体質分析の把握ができてなかった事、また、局所的な治療しか行なってないと効かない場合もあります。漢方薬も奥深いものでただ単に対症療法的に、咳をおさえ気管支を拡張させるという様な処方をされると、思う様な効果 が出ないケースがあります。
ですので、患者さんサイドも鍼灸・漢方医院で受診、相談される場合、どの様な治療を行なって頂けるのか、また、自分の症状に対して細かく問診をして頂いているかを判断し、受診なり治療を受けた方が宜しいかと思います。 私が言えるのはろくに問診も、体質判断せず、やたらめったら鍼を打ったりするような鍼灸院での受診はなるべくさけられた方が良いかと思います。
尚、治療を受ける側も、治療内容とか考え方を理解、納得した上で、治療を受けられた方が良いかと思います。また、中医学は、体質改善(気・血・水のエネルギーのアンバランスを調整する)を目的として治療をしておりますので、多少時間がかかることもご理解の上、受診された方が良いかと思います。 また、普段の食生活の改善も、ときには必要だと思われます。例えば、冷えやすい方が、冷たい物を多く摂取される場合は、その摂取量 の改善も必要です。その方がより良い、 治療結果を得られることができます。
お互いが相互にコミュニケーションをとり、治療を受けられるのが宜しいかと思います。
▼お子様の治療について▼
病態が込み入っていないお子さんの喘息には短期間に効果を示すことが珍しくありません。このような場合には 中国医学による手当てをおすすめ致します。 時には当院で述べている違う角度、観点から病に対して着手するのも一手かもしれません。
小さいお子さんの場合は直接鍼を打たずに、当院ではローラー灸というもので経穴(ツボ)に刺激を与えています。これは、温熱効果 のある物で、とても気持ちがよく、お子さんも恐がらずに受けて頂けます。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
鍼灸・漢方全般のご相談もお気軽にどうぞ。
- 2019/03/11
- 【あいさつ】わかりやすい東洋医学理論
ここでは、皆さんが東洋医学(中医学)による疾患の説明を理解する上で、最低限必要な東洋医学(中医学)の基礎理論の説明いたします。最低限必要な基礎理論といっても、それだけで本が書けてしまう程奥深いものでありますので、ここでは概念的な説明にとどめ、詳細については各疾患の説明時に必要な範囲内で説明をいたします。
では、先ず東洋医学という言葉の意味から説明してまいりましょう。
☆ 東洋医学って何?
日本では「東洋医学」=中国で生まれた医学と思っている方も多いようですが、本来の東洋医学とは、それだけを指すものではありません。
では先ず、「東洋医学」を説明する前に、「現代医学」と「伝統医学」を簡単に紹介しましょう。
「現代医学」とは、日本でよく「西洋医学」と言われているもので、病院などで行われている最先端医療をさします。
それに対して「伝統医学」とは現代医学とは違う理論による治療を意味し、「東洋医学」もこの「伝統医学」の1つです。
つまり、「東洋医学」とは、『東洋で生まれた現代医学とは異なる理論による治療』ということになります。その中の1つに中国で生まれた医学があります。ですから、中国で生まれた医学のみを指す場合は、「中医学(中国伝統医学)」と言います。
因みに、東洋医学の中で中医学以外に有名なものとしては、皆さんも良くご存知のインドのアーユルヴェーダやチベット医学などがあります。
先程、「現代医学」のことを日本ではよく「西洋医学」と言われていると紹介しましたが、本当は「現代医学」=「西洋医学」ではありません。
なぜなら、「西洋医学」にも「伝統医学」があるからです。
皆さんも良くご存知の「アロマセラピー」や「ホミオパシ―」などが西洋の伝統医学に含まれます。ですから、病院などで受ける医学は厳密に言うと「現代西洋医学」と言います。
さて、当院では中医学による治療を基本に行っておりますので、当ホームページで東洋医学という場合は基本的には中医学を指します。
☆ 「針・灸・漢方」は全てが中医学なの?
中国で生まれた医学を「中医学」ということは理解されたと思います。
それでは、「針・灸・漢方薬」を使った治療は全て中医学だと思われますか?
答えは、『NO』です。
なぜなら、中医学で一番大事なものは『理論』なのです。確かに「針・灸・漢方」といった物は中国で生まれましたが、これらは「中医理論」の上に成り立つ治療法であります。つまり、「中医理論」に沿った「針・灸・漢方」の治療を行わなければ、それは中医鍼灸・漢方とはいえません。
では、ここでもう一度、いままで説明したことをまとめてみましょう。
1.本来の針・灸・漢方・は中医学理論の上に成り立つ治療法であります。
2.中医学は東洋医学に含まれており、東洋医学は伝統医学に含まれます。
3.伝統医学とは現代医学とは違う理論による治療です。
ここで、皆さんに一番理解して頂きたいのは、中医学と現代医学とは理論が全く違い、「針・灸・漢方」は中医理論の上に成り立つ治療法であるということです。ですから「針・灸・漢方」を現代医学に応用する事はとても有意義なことですが、現代医学の理論のみで、「針・灸・漢方」の治療を行っても、本来の効果 を100%発揮させることは出来ません。
中医学が現代医学と違う理論による医学だからこそ、病院で治らなかった病気が中医学で治ることがあるのです。逆に言えば、もし中医学が現代医学と同じ理論による医学だとしたら、病院で治せない病気は、中医学でも治せないことになるでしょう。
以前、当院へ次のような相談の電話がありました。
中国に転勤されていた方が体調を崩されてしまい、現地で漢方薬を処方してもらったところ、だいぶ症状が改善したそうです。その方はそれ以降も現地で漢方薬を継続して服用され、症状も落ち着いていたそうです。ところが、日本へ帰国して引き続き日本の漢方薬局で漢方薬を処方してもらっていたところ、症状が元に戻ってしまったというのです。
実はこの様な話は珍しい話ではないのです。中国では中医学の理論により漢方薬の処方をされていたのでしょうが、帰国されて行かれた薬局は中医学の理論による処方ではなかったようです。 (後ほど紹介しますが、日本には中医学に基づく中国漢方と、そうでないものがあります。)
この様に同じ漢方でも、病気を診立てる理論に違いがあると、結果が違ってきてしまうのです。
そして、このような事は、漢方薬に限らず鍼灸でも同じ事が言えるのです。
中医学の理論について、その大切さがおわかりになってきましたでしょうか。 では、次に中医学の基礎理論について説明をしたいと思いますが、先程も述べましたが中医学と皆さんが親しんでいる現代医学とは、基礎理論が全く異なります。最初はとまどうこともあるかと思いますが、是非、中医学的な考え方に慣れてみて下さい。
☆中医学の基礎概念
中医学も現代医学と同様に医学です。医学である以上そこにはしっかりとした学問体系や理論が存在します。医学には正常な身体の状態を考える『生理観』(現代医学では生理学や解剖学など・中医学では臓腑学や経絡経穴学や気血津液学など)というものがあり、その上に病気の成り立ちを考える『病理観』(現代医学では病理学・中医学では病因学説や病機学説)が存在します。 つまり、病気を理解するためには、まず正常な身体の仕組みや構造を理解しなければ病気を理解することは出来ません。
更に、中医学の生理観の根底は幾つかの古代中国哲学の思想により築かれております。
ですから、中医学の生理観を理解するには、それらの思想を簡単にでも知っていると理解しやすいかと思います。
そこで、先ずそれらの考え方を紹介し、次に生理観の説明をしてみたいと思います。
▼中医学の根底にある古代中国哲学▼
《天人相応》
一言で言い表すと「人体は自然界の一部であり、人体は自然界より多大な影響を受ける」という考え方です。
「天」は自然界のしくみを、「人」は人体のしくみ(生理観・病理観)を意味します。
「天人相応」とは、「天」と「人」のしくみを作っている要素は基本的に同じであり、人体の生理・病理の変化は自然界の変化と相応関係にあるという考え方です。自然界の法則を人体に当てはめて、人体の生理・病理を理解するもので中医学の考え方の根底をなすものです。
《陰陽》
陰陽とは古代中国哲学を構成する物の一つで、一言で説明しきれない奥が深い理論でありますので、ここでは簡単に説明します。
陰陽とは「全ての事物や現象には相反する二面性(陰と陽)があり、これらは対立しあいながら統一し、互いに依存しあう事によりバランスをとっている」という考えです。
例えば、上下・左右・内外・静動・夜昼・男女・腹背・・・・・など。
なかなかイメージしづらいと思いますので、その一部を温度(体温)を例にして説明しましょう。
温度についての相反する二面性といえば、寒と熱があります。次に寒熱を陰陽で分類すると、寒は陰に、熱は陽に属します。陽は体を温める作用があり、陰は体を冷やす作用があります。この働きは対立関係にあります。体内で陰・陽は互いに抑制し合うことで適度な体温を保っております。つまり、対立することで(陰陽バランスがとれている状態)体温は平常体温でいられるわけです。ところが、陽気の亢進や陰気の不足は熱症状を、陰気の亢進や陽気の不足は冷えの症状が現れます。このように陰陽関係のバランスが崩れてしまうことを「陰陽失調」といいます。
この陰陽の理論に医療実践を積み重ね確立されたものが「陰陽学説」です。
《五行学説》
五行学説の基本的な考え方は、この世のあらゆる事物・現象は5つの基本物質の要素が含まれており、その基本物質間で生じる運動と変化によって生成されると言う考え方です。
5つの基本物質とは「木」「火」「土」「金」「水」であり、これらそれぞれが、助け合ったり、抑制しあったりして世の中の平衡は保たれております。
実はこの「木」~「水」の順番には深い意味がありますので、これらの関係の一部を紹介しましょう。
<相生>
では先ず、先程の「木」~「水」の順でみてみましょう。
「木」を燃やすと「火」が生まれ、「火」から灰が生まれ「土」になります。「土」が沢山集まれば山ができ、山には金山があり「金」を生みます。「金山」からは「水」も湧き出、「水」は「木」を育てます。次から次へと生まれてゆく関係になります。この様な関係を「相生」といいます。
<相克>
次に、先程の順番を「木」「土」「水」「火」「金」と1つ飛ばしに見てみると、「木」は「土」から養分を奪い、「土」は「水」をせき止めます。「水」は「火」を消し、「火」は「金」を溶かします。「金」は鉱物を意味しますので、鉱物からできている斧で「木」は切られてしまいます。今度は次から次へと抑制してゆく関係になります。この様な関係を「相克」といいます。
いかがですか、単純ですが、よく考えられている関係だと思いませんか?
さて、世の中のあらゆる事物・現象はこの5つの物質に分類でき、いま説明した様にお互いに影響しあいながらバランスを保っております。
人間の体もこれと同じで臓腑もこの五つの基本物質に分類することができ、これらが適正に影響し合うことで健康でいられます。
▼中医学の生理観▼
≪気・血・水≫
中医学では人の身体は「気」「血」「水」の三つの物質により構成されると考えます。
そしてこれらが多くも少なくもなく適量でバランスよく、且つスムーズに流れてこそ健康でいられると考えます。
<気>
気は人間が活動するために必要な基礎物質です。そのため気の働きは様々です。
主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。
<血>
血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます。
ここにも中医学独特の概念があり、血は精神活動の栄養源でもあります。ですから血の不足は精神不安や不眠を発症させます。
また、身体が熱くなりすぎないように冷却する働きもあります。
<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。主な作用としては身体の各部所に潤いを与えたり、血と同様に冷却する働きもあります。
《内臓(五臓六腑)》
さて、次は内臓です。よく「五臓六腑にしみわたる」などといいますが、この五臓六腑が中医学の考える内蔵のことです。西洋医学のそれとは異なり中医学では内臓を物体として区別 するのではなく、働きで区別します。
六腑は飲食物の消化吸収を行い、五臓が栄養分から「気血水」を作ったり運んだり貯蔵をしています。
具体的に五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」があり、六腑には「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」があります。
先程の働きの他にも五臓六腑には沢山の働きがあります。しかし、各々の臓腑には西洋医学と同じような働きをするものや、全く違う働きをする臓腑もあります。それは、西洋医学と同じ臓腑の名前を使ってはいますが、冒頭で説明したように中医学では臓腑の働きに注目しておりますので、名前が同じでも全く同じ物を指しているわけではありません。
各臓腑に「気・血・水」の働きなどが加わって、人体の働きを構成していると考えております。ゆえに、西洋医学の臓腑との働きの違い、考え方の違いが存在するのです。
尚、各臓腑についての詳細については、各疾患の説明の際に必要な範囲で説明いたします。
《経絡》
経絡とは一言で言えば気血水を全身の各部位へ運ぶための通路みたいなものです。経絡の作用は「生理作用」「病理作用」「治療作用」の3つに分けられます。上記の気血水が流れる経路としての働きが「生理作用」になります。ところが経絡は気血以外にも病気の原因を運行させたり、針灸の刺激や漢方薬の効果 を患部へ伝達させたりします。前者の作用を「病理作用」といい、後者を「治療作用」といいます。
又、経絡が何らかの病因物質によって塞がれてしまうことがあります。
経絡は人体を縦方向に走る「経脈」と経脈の分枝の「絡脈」に分かれます。又、経脈の中には正経12経と言われる経脈があり、これは経脈の中でも特に重要なもので、それぞれ一対の臓腑と深い関係があります。
次に生理観以外の基礎概念について説明します。
☆生理観以外の基礎概念
《病因》
病因とは病気となる原因のことです。中医学ではこの病因を「外因・内因・不内外因」の3つに大別 します。
『外因』とは身体の外の環境が病因となるものをさします。これらは自然界の六候が変化したもので、六淫と呼ばれ「風・湿・熱(火)・暑・寒・燥」の6種類あります。
これらの六淫が通常の範囲であれば問題はありません。例えば夏は暑くて冬は寒いのは当然の話ですが、六淫が過剰であったり、季節はずれであったり、急激な気候の変化は体に負担を掛け害を及ぼして病気を引き起こします。
例えば、暑ければ熱中症・寒ければ体の冷え、などがあります。
この様に自然の変化と体の変化を結びつけた考え方は、先程説明した「天人相応」の思想です。
『内因』とは過度の精神状態が病因となるものをさします。これらは「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の7種類あり、これらは七情と呼ばれます。
七情は健康な方も持っていますが、これらの感情が過度であったり、長時間持続的に続く場合は正常ではありません。この様な状態を「情志失調」といい、病因になってしまいます。
心療内科系の疾患は、これら情志失調と深く関わっております。
中医学では情志の失調が内臓(五臓六腑)にも影響すると考えております。その結果 、気血のバランスを崩してしまい、心療内科系の疾患が発病すると考えます。
『不内外因』とは内因・外因のどちらにも属さないものをさします。これらは「不節な飲食・外傷・寄生虫・過労・運動不足」などがあります。
「不節な飲食」とは食べ過ぎ・飢え・偏食・不衛生な物の飲食があります。偏食には、「肥甘厚味の過食」「辛辣の過食」「生冷の過食」「飲酒の過度」があります。
◎「肥甘厚味」とは甘い物・味の濃い物・油っぽい物・といった食物をさします。これらの食べ物は体内に余分な水分や熱を生産させます。
◎「辛辣の過食」の辛辣とは辛くて熱い味をいいます。このような食べ物を食べすぎると胃腸に熱がこもります。
◎「生冷の過食」は生ま物と、冷たい物の採り過ぎを言います。これらの食べ物は消化能力を下げてしまいます。
《弁証》
中医学では病気の種類を「証」(しょう)と言います。その「証」を見極めることを「弁証」と言います。つまり、弁証とは簡単に言えば病気の原因や性質や状態などを見極めることです。もう少し具体的に説明しましょう。
先程「生理観」のところでも述べましたが、健康であるためには「気・血・水」が適量 であり、スームーズに流れていなくてはなりません。もし、その中のどれかのバランスが崩れると、重度・軽度はありますが、何らかの不調が現れてきます。
弁証とは、何が原因で・何が(気・血・水)・何処で(臓腑)・どの様に(不足ぎみ・多過ぎ)・バランスを崩しているのかを見極めるのです。
皆さんの中には「病証」とは現代医学の「病名」のことと思われる方もいらっしゃると思いますが、実は似ているようで少し違うのです。例えば現代医学で○○病と言われれば、その病名によって治療法が決まり、同じ病名の患者さんであれば基本的には、みな同じ治療が施されたり、同じ薬が処方されたりします。しかし「証」となると、もっと細かい分類になります。例えば、風邪などは数種類の弁証があります。弁証により、使用するツボや漢方薬が違ってきます。
つまり、中医学は病名に対する治療ではなく、人間個人の体質・症状に合わせた治療になります。
さて、実際の治療では、患者さんの弁証が出来たら、次に治療方針を考えます。
《治則と治法》
中医学の治療理論は治則と治法に分けられます。
治則とは治療の根本的な原則で、標治と本治と標本同治の3種類あります。
治法とはそれぞれの疾患に対しての具体的な治療法のことです。
簡単に言えば、治則は治法を導き出すための大原則です。つまり、「弁証」により病気の状態がわかり、次に「治則」による治療の方向性を出し「治法」で具体的な治療法を考えるのです。そして最後に「治法」にそって漢方薬は処方され使用するツボが決まるのです。
《【理・法・方・薬(穴)】という大原則》
『理・法・方・薬(穴)』とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。
「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。
「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。
「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。
「薬(穴)」とは薬やツボの知識をさします。
つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われるのです。逆を言えば、「理・法・方・薬(穴)」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。
問診もしっかり行わず痛い所やコリが在る所に針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。
中医学の基礎理論について、その概念的な説明をしてまいりました。上記のことをふまえて各疾患について読まれるとよいと思います。
さて、最後にもし皆さんが治療院を選ぶ際にどのような点に注意をすればよいのかを記載しておきます。
☆日本における中医学の現状
ここまで読まれた方は中医学の理論が我々の親しんでいる現代医学のそれとは全く異なっていることが理解されたことと思います。
しかし、残念なことに現在の日本では、中医学理論をしっかりと学んでいる、針灸師・医師・薬剤師は非常に少ないのが現状です。
皆さんの認識では、針灸師は皆、中医学の知識が豊富とお考えになると思いますが、それは大きな間違いなのです。なぜなら、鍼灸師の国家試験問題の殆んどは現代医学から出題されますので、針灸学校の授業は現代医学が中心で、中医学の授業は殆んどありません。ですから中医学を学びたいと思う学生や針灸師の方は個人で勉強をしたり、研修先を探さなければなりません。しかし、中医学による治療を行っている治療院自体が少ないので、研修先を探すといっても大変なことで、なかなか研修先を見つけられません。
医大や薬科大では最近になり徐々に中医学の授業も取り入れられてきてはおりますが、現代医学との比率から考えますと、殆んどが現代医学の授業となっております。
以上の理由から、中医学の知識のある針灸師はとても少ないというのがおわかりになると思います。また、漢方薬についても同様で、医師や薬剤師さんも中医学を学ばれている方はまだまだ少ないのが現状ですから、漢方薬が中医理論による処方をされている場合は少ないと言えます。
では、中医学以外に日本の針灸ではどの様な治療が施されているかと言うと、「経絡治療」といって、中医学をベースに日本国内で独自に発展した軽めの刺激の治療法や、「良導絡」といった現代医学と東洋医学をミックスさせたような治療や、「気血水」や「ツボ」といった概念を持たずに、硬くなっている筋肉や障害のある神経にアプローチする「現代医学的」な治療などがあります。漢方薬については中医学理論による「中国漢方(中薬)」と江戸時代に日本国内で独自に発展した「日本漢方(和漢)」があります。この2つはかなりの相違があるのですが、一般 の方はなかなかその違いを知っておられる方は少ないのが現状です。ですから先程紹介した、中国で処方された漢方は効いたのに、日本で処方された漢方は効かないということがおこってしまうのです。
ここでは、中医学が一番優れていると言っているのではありません。それぞれの治療法には利点も欠点もあります。ですから皆さんが治療院を選ぶ際に一番大事なことは、自分に一番合った治療法を選択するということです。例えば、体質改善を計りたいので、中医針灸を選択するのもいいでしょうし、筋肉痛などの運動器疾患や整形外科的疾患であれば、現代医学的な治療を行っている治療院で十分で、わざわざ数の少ない中医針灸院を探すことはないでしょう。又、鍼の刺激が嫌いな方は「経絡治療」を行っている治療院を探すのも1つの方法です。
このように自分にあった治療院を選べばよいのです。
また、現代医学の場合は診断をする際に様々な近代的検査を実施してデータや数字により診断をおこないますが、東洋医学の診断はデーターや数字というものは使わず、患者さんの、脈・顔色・舌・性格・日常生活の状況・食べ物の好み・主症状・随伴症状・家庭環境・・・・・などから総合して診断を行いますから、現代医学に比較して東洋医学の施術者の場合は、経験を含め個々の能力の差が大きいといえます。
冒頭でも述べましたが、今、東洋医学はかなり注目をされつつあり、様々なメディアで取り上げられております。情報量 が多いだけに、いい加減な情報もあります。ですから皆さんはその多い情報のなかから、「自分にあった信頼のおける治療院」を探さなければならないのです。そのためには、皆さん自身が針灸についての知識を深めるしかありません。そして、自分はどの治療法が適しているのかを判断して、さらにその治療法を行っている治療院の中から能力のある先生を探し出してください。
中医針灸を選択される場合は、最低でもここに記載されている事がスラスラと分かりやすく説明でき、且つ、皆さんの病態を中医学的に皆さんが納得のいくように説明できる先生をお探しください。
ご自分にあった鍼灸院を見つける近道は、皆さん自身が針灸師を見極める目を養うことしかないのです。
当ホームページが皆様の一助になれれば幸いと考えております。
- 2019/03/11
- 【内科疾患】しゃっくりについて
しゃっくりについての話
しゃっくりとは、横隔膜(胸部と腹部を隔てる筋肉の壁)の間代性の痙攣により、気管内に急激に空気が吸い込まれ、声帯筋が収縮して「ひっく」という音が繰り返されるものです。一過性のものがほとんどで、数分~数時間で消失します。
☆ なぜおこるの?
胎児は母親の胎内にいるときに、しゃっくりをするといわれます。
妊娠時にエコーを取ると、胎児がしゃっくりをしていることがあるのです。この原因ははっきりと解明されていませんが、胎児は羊水に包まれていて、羊水を飲んだり、その中で排泄をしているため、排泄物が口や鼻から喉に入ってしまうと外に吐き出そうとしゃっくりをすると考えられています。
赤ちゃんがしゃっくりをするのは、まだ呼吸に慣れていなかったり、母乳やミルクを飲む時に空気も一緒に吸い込んでしまい、食道や胃に入った空気を外に出すために横隔膜が痙攣してしゃっくりがおこると言われています。新生児の場合生まれて3か月までは、心拍数が大人の3倍もあるので、痙攣も細かく、しゃっくりの間隔も短いことが多いようです。おむつが濡れているときはそれが刺激となることもあるので、取り替えてあげるとよいでしょう。
成人のしゃっくりに関して、その原因は、暴飲暴食による胃の過進展・アルコールの過剰摂取・過度の喫煙や精神的因子が多いと言われています。
通常であれば、数分間続いた後おさまりますが、数時間以上も難治性しゃっくりでは、長期(1~2年)にわたることがあり、このような場合、うつ状態・食欲不振・睡眠障害・体重減少・栄養障害などを伴い、重篤な身体障害を来たすことがあります。
☆ どうしたらよいの?
数分~数十分で治まるような「しゃっくり」は心配することはありませんが、長時間続くようであれば、できるだけ早く原因を突き止める必要があります。まれに、手術や腹部の疾患による横隔膜の直接刺激・アルコールや脳腫瘍などによる中枢神経刺激・気管支、肺炎による末梢神経刺激が原因となる場合があるからです。
☆ しゃっくりをとめるには?
色々な言い伝えがありますが、いずれも、刺激により横隔膜の痙攣を治める、また気持ちを落ち着けて横隔膜の過剰な働きを緩めるなどの効果 を期待したものです。
〈 中医学からみるしゃっくり〉
医学用語でしゃっくりは「吃逆(きつぎゃく)」「えつ」といい、中医学では「あく逆」とも称します。
吃逆は、胃気の上逆によって、横隔膜が刺激され痙攣をおこすと考えられています。
人間の体は、それぞれの臓器や組織がお互いに強調し、バランスを保つことによって形成されています。1つの臓器は自らの役割を果 たすのみにとどまらず、他の臓器とも繋がりをもち、協力して機能を果 たすのです。
そのため、どこか1つの臓器に問題が発生すれば、他の臓器にも影響を及ぼします。
中医学では、問題のある臓器に対する治療だけではなく、影響を受けている臓器、また、影響を及ぼした臓器に対しても治療を行い、崩れた体のバランスを整え病気を治していきます。そのためには、まず健康(中庸)な臓腑の働きを学び、どうして病気になったのか、臓腑が邪に犯されるとどうなるかなど、基本的な考えをよく理解することが大切です。
西洋医学でいう臓器と、中医学でいう臓腑には、少し違いがあります。
中医学でいう臓腑には、
〔五臓〕肝・心・脾・肺・腎
〔六腑〕胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦
〔奇恒の腑〕脳・髄・骨・脈・胆・女子胞
があります。
臓は気・血・津液(生命活動を維持し、人体を構成する基本物質)などを化生したり、貯える働きをもちます。
腑は、飲食物を運搬したり、伝導、排泄する働きをもちます。
奇恒の腑は、形は腑に似ていますが、一方でその性質や働きが臓にも似ているので、奇恒(異常な)の腑と呼ばれています。
この中で吃逆と最も関係が深い臓腑は、胃になるので、その機能を詳しくみていきましょう。
○ 胃
先ほど述べたように、胃は六腑に分類されます。
この六腑というのは、水穀(飲食物)を消化して、身体に有益な物質である水穀の精微と、不要な物質である糟粕(カス)との分け、水穀の精微を五臓に受け渡し、糟粕を大小便に変えて排泄を行う臓器です。受け渡された水穀の精微から、五臓が気・血・津液を生成します。
六腑は三焦(形は無く、各臓腑の機能を統括し、水液や原気を中心とした諸気を運行させる通 路)を除くと、みな一つに連なった中空の器官になっていて、その中に有形の水穀を通 過させやすくなっています。そのため、六腑の病症の多くは、水穀が下降せずに、詰まったり、逆流する事によってあらわれてきます。(便秘・嘔吐・ゲップなど)
次に、各腑の働きを詳しく見てみましょう。
六腑のうち、口から吸収された水穀が最初に運ばれる臓器が胃です。
胃は水穀を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、消化物を下方の臓器に渡す(和降)という三つの働きをします。
小腸は、胃の下にある臓器で、胃で消化された水穀を人体に有益な水穀の精微(清)と、不要な糟粕(濁)とに分類します。そして、清を脾に、濁を水分とそうでないものに分けて、それぞれ膀胱と大腸に運びます。
また、胆は肝で生成された胆汁を小腸に分泌して、消化を助けていきます。
このようにして獲得された水穀の精微が、人体にとって欠かす事の出来ない気・血・津液の生成材料になるのです。
では、ここから本題の胃の生理作用に入りましょう。
六腑に分類される胃は、五臓に分類される脾と表裏関係にあります。、
主な役割は、飲食物の初歩的な消化を行い、小腸に送ることです。
○胃の生理作用○
1.胃は腐熟を主る。
口から入った飲食物は、まず初めに胃で受け入れられ(受納)、ドロドロの粥状態に変化します。この働きを「胃は腐熟を主る」といいます。
この胃の働きの失調は、上腹部の張り、悪心、嘔吐、食欲不振などの症状としてあらわれます。
2.胃は降を以って順となす
胃には腐熟し終わった飲食物を、一つ残らず小腸に送り出す働きがあります。このことは、飲食物を下に降ろすことでもあるので、「胃は降を以って順となす」といいます。
この働きの失調は、上腹部のもたれ、悪心、嘔吐などの症状としてあらわれます。
胃はその働きから、「水穀の海」ともよばれます。そしてこの胃を始め、六腑が協力して行う消化・吸収の働きを統括しているのが五臓のうちの「脾」です。脾は飲食物を消化することにより得られた水穀の精微を運搬し(運化)、気・血・津液(生命活動を維持し、人体を構成する基本物質)を化生する大切な役割を持っています。脾は運化を主り、胃は脾の管理のもと、受納・腐熟・和降を主るのです。これは、臓腑の主従関係の現れですが、脾と胃には、また別 の興味深い関係が存在しています。
その一つが、脾気と胃気の運動性です。脾気は昇清(飲食物の中から得られた清を、肺に持ち上げるなどの働き)という上昇方向への運動性を示すのに対し、胃気は和降を主り、消化物を下方にある小腸に運ぶ下降方向への運動性を示します。
また、脾は「燥を喜び、湿を悪む」のに対し、胃は「潤を喜び、燥を悪む」性質を持ちます。これは、胃は飲食物を通 過させる中空器官であり、もし飲食物が乾燥しすぎると、詰まって下降しなくなるので、潤いが必要だと考えるのです。これに対し、脾は水液の運化や昇清を主るので、水液が多すぎると運び切れなかったり、清い津液を化生できないために、脾は湿潤を嫌うと考えたのだと言われます。
以上のように脾胃は、昇降・燥湿など相互に相対した作用によって、消化活動を主るのです。
このように正常であれば下降するべき胃気が、何らかの影響をうけて上逆することを「胃気上逆」といいます。
これが吃逆を引き起こすのです。
次に、胃気上逆をおこす原因、その特徴とともに中医学での治療法を見てみましょう。
◎ 弁証〔胃寒〕
○ 起因
生もの、冷たいものの過食・飲食の不摂生、または腹部が寒冷刺激を受けることにより、寒邪が胃に侵入する。 寒邪が胃を犯すと、陽気が損傷され寒凝気滞となり、これにより胃は和降を失い、胃気上逆となる
○ 主症
しゃっくりの音が低くゆっくり・温めると軽減・心か部の冷感・膨張感
○ 兼症
口渇なし、味覚正常、食欲不振、小便は透明で量が多い、水楊の下痢
○ 舌診:白潤苔
○ 脈診:遅緩
○ 治則:温中 和胃降逆
○ 配穴:共通〈中かん・内関・足三里・胃ゆ・かくゆ〉・梁門・公孫
◎ 弁証〔胃火〕
○ 起因
辛いものの過食など飲食の不摂生により火を生じ、胃熱が亢進される。
胃は潤を喜び、燥を悪むので、胃火が気・津液を損傷すると、胃の潤降の機能が失われ、胃気が上逆する。
○ 主症
しゃっくりの音が大きくてよく響く・激しく上逆して出る・冷たいものを好む
○ 兼症
口臭、口渇、顔色が赤い、小便は少なく濃い、便秘
○ 舌診:黄苔
○ 脈診:滑数
○ 治則:清熱 和胃降逆
○ 配穴:共通・陰谷・内庭
◎ 弁証〔肝気上逆〕
○ 起因
精神的な抑うつや怒りで肝気が火に変化して上逆する。肝とは、五臓のうちの一つで、全身の気を順調にめぐらせ、精神状態を安定させる機能を持っている。ストレスなどによりこの疏せつの働きが失調すると、気の流れが停滞し肝気鬱結を現し、さらには化火する。
○ 主症
しゃっくりが連続する・ストレスを感じることにより症状が悪化する
○ 兼症
あい気(ゲップ)、胸悶、心か部のつかえ感、膨満感
○ 舌診:薄白苔
○ 脈診:弦
○ 治則:疏肝 和胃降逆
○ 配穴:共通・太衝(しゃ法)
◎ 弁証〔脾胃陽虚〕
○ 起因
過労や慢性疾患により脾気を消耗し、運化機能が損なわれることにより、水穀・水液の運搬が悪くなる。これにより生じた痰濁(水液の代謝障害によって形成され、人体の局部に貯留した異常な水分)がさらに正常な脾胃の機能を妨げ、寒冷症状及び、胃気上逆をおこす。
○ 主症
しゃっくりの音が低くて弱い。続けては出ない。
○ 兼症
手足が冷える、食欲不振、倦怠感、食後膨張感、痰や涎を吐く
○ 舌診:はん大、淡
○ 脈診:細、あるいは濡
○ 治則:益気 和胃降逆
○ 配穴:共通・気海・三陰交(補法・灸法)
◎ 弁証〔胃陰虚・胃陰不足〕
○ 起因
胃が滋潤能力を失調し、降濁作用の低下(胃失和降)によっておこる。
これは胃熱症、湿熱症の後期などで、気機が鬱滞、化火して陰液を灼損したり、胃陰が虚して咽喉部や腸を潤せないことによる。
○ 主症
しゃっくりの音が早く続けて出ない。
○ 兼症
口渇、舌の乾燥、煩渇、るいそう、頬が赤い、胃の灼熱感、空腹感はあるが食べたくない、便秘
○ 舌診:ほう、または紅。苔が少ない
○ 脈診:細数
○ 治則:滋陰 和胃降逆
○ 配穴:共通・太けい・照海・廉泉(補法)
※ 足三里は胃経の合穴であり気逆を止める効果が期待されます。補法では健胃益気、しゃ法では清熱和胃をはかります。
※ 足三里・中かんは、水湿運化に大切な処方穴です。
※ 公孫は脾経の絡穴であり、別支が胃経を走り、また衝脈に通じているので、同穴を取ると健脾和胃・理中降逆が可能となります。
手術後や神経疾患などの重篤な場合でなく、頻繁にしゃっくりが出やすいときは、まず食生活を見直してみて下さい。
冷たいもの、辛いものなどを取り過ぎていませんか?食事時間が深夜になっていませんか?また、アルコールを取り過ぎていませんか?
これらはいずれも、胃気の正常な働きを妨げ、しゃっくりを始め、身体に様様な影響を与える原因となるので、改善が必要です。
お刺身や生野菜、ジュース、ビール、香辛料などは控えましょう。
そして、特にストレスを感じやすい方は、気の巡りが滞りやすいので、気分転換に散歩を取り入れたり、ヨガやストレッチで体をほぐすことをお勧めいたします。また、ゆずなどの柑橘類やジャスミンティーなども気の巡りを良くするので、どうぞお試しください。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
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