コラム

2019/02/20
発疹

皮膚に見られる肉眼的な変化を言います。発疹とは、局所の刺激によって生じるだけでなく、全身性疾患の一部分症として現れることがあります。

また、健康な皮膚に最初に出現する現発疹と、それに続く続発疹があります。

よくみられる発疹には次のようなものがあります。

・紅斑-

皮膚が限局性に発赤したもので、ガラス定規で圧迫すると容易に退色します。皮膚は隆起していません。

 

・紫斑-

皮膚組織内の出血によるもので、大きさにより点状出血、斑状出血に分けられます。はじめは赤色ですが、やがて紫色→青色→黄色と変化して消失します。

 

・丘疹-

皮膚から半球状、扁平に隆起した病変で、通常直径5mm以下のものを言います。

 

・結節-

えんどう豆以上の皮膚の隆起を言います。

 

・水ほう-

表皮内に空洞を生じ、その中にしょう液の溜まった状態です。

 

・膿ほう-

膿液が溜まり、水ほうが混濁したり黄色に見えます。

 

・蕁麻疹-

真皮上層の浮腫により、限局性にかつ境界鮮明に皮膚の隆起した状態です。

 

上記したものが先に述べた原発疹です。

原発疹が変化し、ひっかいたり、感染が加わるなどして続発する続発疹は下記のようなものがあります。

 

・びらん-皮膚の欠損のうち浅いものをいいます。

 

・潰瘍-深くて治癒した後に瘢痕を残すものを言います。

 

・か皮-いわゆるかさぶたの状態です。

 

・瘢痕-創傷が結合組織によって修復された状態です。

 

・鱗そう-表皮角層上層が角質片となって剥脱したものです。

 

また、発疹には感染によるものとアレルギーが関係しているものがあります。

 

 

感染症による発疹

代表的なものをいくつかあげていきます。

 

麻疹(はしか)

 

・症状と診断

はしかの始まりはカゼ症状です。すなわち、咳、鼻水、目やになどの症状とともに38℃ぐらいの熱が出ます。

このカゼ症状が3~4日続いた後一旦37℃台に熱が下がり、一日くらいたって再び熱が上がり、それと同時に発疹が顔あたりから出始めて全身に広がります。発疹は特徴的に毒々しい色になります。

最初のカゼ症状が出て、2~3日経過したころより口の中を注意深く見ますと頬の内側の粘膜にコプリック斑と呼ばれる白い斑点が見えます。

はしかを最初から疑って注意してみると、このコプリック斑は特徴的なのですが、普通 はなかなか頬の内側まで注意してみないため、小児科医でもこのコプリック斑はしばしば見落とします。

2回目の熱はさらに高く、40℃くらいまでに達し4~5日続きます。咳、鼻水、目やに(結膜炎)もさらに激しくなってきます。

この期間を乗り切ると熱が下がり、発疹の後は茶色い色がついて残ります。

 

・治療および注意点

はしかは病気の力も強いのですが、その伝染力にかけて右に出るものはありません。予防接種を受けないときに、はしかの患者に接触するとまず発病すると考えたほうがよいでしょう。

患者に接触して2日以内であれば予防接種で、4日以内であればガンマグロブリン(ヒト免疫グロブリン)を筋肉注射することによって発症を予防できる可能性があります。もちろん早ければ早いに越したことはありません。

しかし、一旦発症してしまうと直接の治療法は残念ながらありません。重症になり、入院が必要となることも少なからずあります。

はしかは他のウイルス感染症に比べ、圧倒的に細菌感染を併発することが多いため、通 常これを予防するために抗生剤を内服します。高熱と強い咳などで体力を消耗して食事がとりづらいために、脱水症状にならないためにこまめに水分補給をすることが大切です。

高熱で食事や睡眠が妨げられる場合は、熱さましを使ってもかまいません。

ひどい咳や鼻水に対しては、咳止め、鼻水止めを使います。脱水症状になれば点滴で水分補給を行います。

2回目の発熱が5日以上続く、咳がひどく呼吸困難になる、耳を痛がる、けいれんを起こしたり意識状態がおかしくなるなどの症状が出てくれば、合併症(肺炎、中耳炎、脳炎など)の可能性があるので病院を受診しましょう。

 

 

風疹

 

・症状と診断

典型的な経過は、耳の後ろや首のリンパ節が腫れ、その数日後に38℃ぐらいの熱が出、同時に発疹が出ます。鼻水や目やにを伴うことがあります。

発疹はぶつぶつと出色が薄く、顔から出始め全身に広がります。身体にまんべんなく分布しており、あとで皮がむけることはありません。

3日はしかといわれているように、発熱と発疹は約3日でなくなりますが、リンパ節の腫れは1ヵ月以上続くこともあります。

流行していると、発疹を見ただけで診断をつけやすいですが、ぽっと現れたものは断定するのが難しく、血液の抗体検査が必要なこともあります。

 

・合併症と注意点

風疹自体は自然に治り、合併症を起こさない限りは特に治療も必要ありません。知られている合併症は髄膜炎、脳炎、血小板減少性紫斑病(出血を止めるのに必要な血小板がどんどん壊れて少なくなる病気)、溶血性貧血( 赤血球がどんどん壊れて貧血になる病気)などです。

風疹の経過中に頭痛、けいれん、意識障害、出血点、強い疲労感などが出たら病院を受診してください。

妊娠初期の妊婦が感染すると流産の可能性があり、流産しなくても先天性風疹症候群と呼ばれる難聴や目の障害、心臓や脳の障害をもつ子供を生む確率が高くなります。

 

 

突発性発疹症

 

・症状

熱以外にこれといった症状がないのが特徴ですが、下痢をしていることもあります。

診察してもまたこれといって悪いところがなく、口の中に永山斑と呼ばれる小さな斑点を認められることがあるくらいです。

熱は、典型的なものは39℃以上の高熱ですが、38℃前後のこともあります。熱の続く長さも人によってまちまちで、一日で下がってしまうケースもあれば、5日ほど続くケースもあります。平均的には3~4日間です。

体の状態にも個人差があり、熱の割りにけろっとして普通に過ごしている場合もあれば、機嫌が悪くぐったりして食事や睡眠が妨げられるケースがあります。また、急に高熱が出るために、熱性けいれんを起こすことがまれではありません。その一部は単なる熱性けいれんではなく、髄膜炎を起こしていることもあるため注意が必要です。

発疹は、熱が下がると同じくらいに身体から出始め、全身に広がります。発疹は、一見してわかる場合がほとんどですが、中にはよく注意して見ないとわからない場合があります。

 

・治療法

ウイルスそのものに効く薬は残念ながらありません。

高熱で身体がぐったりしたり、吐いて水分がとれず脱水症状になっていることがありますので、点滴による脱水症状の改善が必要となります。熱の原因がはっきりしない場合、抗生剤を飲んでもらうこともあります。

 

 

アレルギーによる発疹

代表的なものをあげていきましょう。

 

じんましん

 

じんましんとは、突然皮膚に出来る痒みを伴う赤い(時には白い)蚊にかまれたようなふくらみのことです。大きさは様々ですが、掻くとどんどん広がります。

普通数時間で消えていきますが、違う部分からまた新たなものが出てきたりします。目の中や唇に出来ることもあり、夏に発症することが多い傾向にあります。

 

 

アトピー性皮膚炎

 

アトピー性皮膚炎は乳幼児期に始まることが多く、よくなったり、悪くなったりを繰り返しながら長期間続く皮膚炎で、症状は痒みのある湿疹が中心です。

原因には、体質的なものと環境的なものが絡んでいると考えられていますが、まだ詳細はわかっていません。乳幼児期に始まったアトピー性皮膚炎が成人期まで続くこともあり、中には成人になってから始まる人もいます。

喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎など他のアレルギー疾患が同時に見られることが多く、伝染性膿か疹(とびひ)などの感染症、白内障、網膜剥離なども見られます。

アトピー性皮膚炎は、近年世界的にも日本国内でも増加傾向にあります。症状や経過は個人差が大きいので、治療効果 を見ながら注意深く根気強く治療する必要があります。

 

 

ここにあげたのは代表的な例です。

これ以外にもたくさんの病気の一症状として出てきます。特に、頭痛や吐き気など発疹以外の症状がでているようならば専門医に見てもらい適切な処置をあおいでください。

 

 

中医学的観点からの発疹

 

中医学による生体観をまずみていき、そこから発疹がどのようにおこるかみていきます。

 

 ~気・血・水~

気-

気とは物質であり、人が生理活動をする上での重要なエネルギー源です。物質ゆえに消耗したり補充したりすることが出来ます。

また運動性も持ち合わせており、「昇降出入」という働きがあります。

「昇降出入」とは気の運動形式のことで、昇ったり降りたりする上下方向の運動と、発散したり収納したりする出入方向の運動が基本になっているということです。よって、気は物質でありながら運動性を持っているのです。

また、気が不足して病気になってしまうことを気虚と呼び、気が1ヵ所に滞って流れが悪くなって病気になってしまうことを気滞と呼びます。

気の具体的な生理作用には、人体各部を栄養する栄養作用、内蔵の活動を促進したり、体内の流れを推進したりする推動作用、内臓を温め活動を促進したり体温を維持する温く作用、体表を保護し外から侵入してくるものを防いだり侵入してきたものと闘ったりする防御作用、人体を構成している水分や血液が外に漏れ出ないようにする固摂作用、体内の物質を変化させたり代謝を行う気化作用などがあります。

 

血-

血とは、体内を流れる赤色の液体で、人体を構成し生命活動を維持する基本的物質です。現代医学でいう血液とは似ていますがイコールではありません。

中医学で血の作用は、全身を栄養し潤すことです。

例えば、顔が赤くつややかだったり、肌がふくよかで皮膚や髪の毛が潤って光沢があるのも、あるいは目などの感覚器や筋肉などの運動器が円滑に働くのも血の充足のおかげなのです。

他にも、血は精神活動を支える栄養源になっており、血が足りなくなると精神的な症状(失眠、健忘、昏迷、不安など)が現れます。

 

水-

水とは、人体中の正常な水分の総称です。

その中には唾液や涙、汗といったものも含まれます。

水の作用は体表部(皮膚や汗腺など)から体内深部(脳や骨、関節や内臓など)を潤します。また水は、血を作るうえでも重要な成分になっています。

 

~臓・腑~

臓-

臓とは五臓とも呼ばれ、肝、心、脾、肺、腎という実質性臓器のことを指し、主な働きは気、血、水の生成と貯蔵を担います。

 

腑-

腑とは六腑とも呼ばれ、胃、大腸、小腸、膀胱、胆、三焦という中空性臓器のことを指します。

主な働きは、飲食物の消化をし身体に必要なものは五臓に渡し、不必要なものは排泄します。

 

~外邪~

 

外から体内に入ってきて病気のもととなるものです。

風、暑、湿、燥、寒、火(熱)と六つあるので六淫とも呼ばれています。

その中でも発疹と関わりのあるものには風、火(熱)、寒があります。

風-

他の外邪と結びつきやすく、体内に入ってくるとあちこちと飛び回り、症状が色々と変化していき、一ヶ所にとどまることがないです。

 

火(熱)-体内に入ってくると上のほうに症状が出やすく熱症状を伴います。

 

寒-

体内に入ってくると気や血の流れを止めてしまい、痛みを引き起こすような症状を伴います。

 

 

・気の種類

 

・営気-

気の作用のうち特に栄養作用が強く、経脈を通して全身に運ばれ栄養し潤します。血のもとにもなります。

 

・衛気-

気の作用のうち、防御作用と温く作用のはたらきが強く、肌表を保護して外邪の侵入を防ぎ、汗孔の開閉に関与して発散や体温調節をつかさどるほか皮膚を潤します。

また臓器を温め働きをよくします。

 

 

気の種類の中でも特にこの2つが発疹と関わりがあります。

 

~発疹と関わりが強い臓腑~

 

脾-

食物を水穀の精微(栄養素)にかえ、全身に送り水穀の精微を気、血に変化させます。簡単に言うと食物をエネルギーに変える働きをしてくれます。

 

胃-食物を消化・吸収し小腸に送る働きをします。

 

これらが失調することで発疹が出やすい体内環境になってしまいます。

 

 

・風熱による発疹

 

そう理の状態が悪い人が風熱の邪の侵襲を受け、それが皮毛に停滞すると営衛不和(営気と衛気の働きが悪くなる)になると発疹が起こります。

 

特徴-

発疹が赤くて痒みが激しく、口渇を伴い、舌には薄く黄色い苔がついています。

 

治療-去風清熱(風と熱を体内から外に追い出します)

 

 

・風寒による発疹

 

営衛失調のために衛気が体表にうまく作用しないと、そう理の状態は悪くなります。そこに、風寒の邪が皮毛に侵襲して毛孔が閉塞して、発疹が起こります。

特徴-

悪寒や発熱、無汗といった症状を伴い、軽く触れると脈が緊張したり遅くなったりします。

 

治療-去風散寒(風と寒を体内から外に追い出します)

 

 

・胃の湿熱による発疹

 

体質や飲食不節により胃に湿熱が生じ、その湿熱がうまく発散しないで皮毛で

停滞すると発疹が起こります。

 

特徴-

急に発疹が起こり、色は赤です。舌の色は赤く、舌につく苔は黄色くべったりしています。

脈は速くなり、その他に胃痛や悪心・嘔吐、下痢、小便は黄色く少量 などの症状を呈します。

 

治療-胃の働きをスムーズにし、余分な湿熱を取り除きます。

 

 

・気血両虚による発疹

 

虚弱体質、気血の生成不足、または出血などにより気血が不足し、そのために皮毛がうまく栄養されず、体表の防御機能が低下し、そう理もうまく開閉できずに発疹が起こります。

 

特徴-

発疹は反復して起こり、なかなか治りません。色は淡紅色で、舌は大きく色は淡いです。脈は力なく弱いです。

他に、顔の血色が悪い、精神疲労、無力感、食欲減退、不眠、心悸、息切れが見られます。

 

治療-気血の生成を脾を丈夫にし、衛気の機能回復をはかります。

 

中医学で発疹を捉えるときは、その人がどんな状態にあるかをまず判断していきます。その上で、発疹を治療するには体内環境を正常化するということをしていきます。

中医学では、幅広く病気に対応していけるだけの確かな論理と実践がありますので、発疹をお持ちの方は当院にお気軽にご相談ください。

2019/02/20
不正出血

不正出血とは、月経以外で膣や子宮などから出血することを言います。大きく分けると機能性出血と、器質性出血の二つに分類されます。

 

機能性出血とは子宮や膣などその組織自体に異常はみられないが、正常な月経以外で出血をおこすことを言います。多くは、ストレスや不規則な生活、また過度のダイエットなどによって女性ホルモンのバランスが崩れ、不正出血をおこすと考えられています。婦人科で検査をしても子宮などに異常は無いが、月経が長引く、または経血量 の急激な増加、月経周期が短い…などはこの不正出血に含まれます。

 

器質性出血は、子宮がん・子宮筋腫・子宮内膜症・膣炎などの炎症性疾患が原因でおこる不正出血です。特に不正出血は子宮がんの初期症状でもあります。検査をしなければ、炎症や器質的異常の有無はわからないので、月経の乱れが続く場合は、早めに婦人科を受診されることをお勧めいたします。

 

<中医学による考察>

一般に現代医学で「不正出血」と総称される女性の月経期間以外の陰道内出血、及び月経後に出血が続くものを、中医学では「崩漏」あるいは「崩漏下」と言います。

崩漏は、急激に大量の出血がおこる「崩」、だらだらと少量の出血が続く「漏」に分けられます。この「崩」と「漏」は時に相互転化をおこします。「崩」が長引いて気血を消耗すれば「漏」に病証が移行し、逆に「漏」から出血量 が次第に増加して「崩」の状態に移行することもあります。

この「崩漏」のおこる背景には、衝脈・任脈という経絡の損傷と、それにともなう固摂機能の失調が深く関わっています。女性の生殖機能を主る臓腑の考え方と「衝脈」・「任脈」を軸に、中医学的考察を次に示します。

 

 

中医学のいろは・1○

中医学では、人間のからだを構成し、生命活動を維持する基本物質を「気・血・津液」と呼んでいます。

「気・血・津液」は、五臓六腑―〔五臓〕肝・心・脾・肺・腎〔六腑〕胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦―の働きにより、飲食物から得た水穀の精微をもとに作られ、からだのすみずみまで運ばれます。臓腑は自らの役割を果 たすのみにとどまらず、他の臓器とも協力して機能を果たしています。臓腑や器官、組織がそれぞれ円滑に働き、「気・血・津液」が充分にあって、かつ、流れがスムーズであれば、病気からからだをまもる「正気」が働いて病気にかかりにくなりますが、何らかの原因で臓腑の機能が損なわれ、「気・血・津液」の不足や停滞がおこれば、健康は脅かされてしまいます。

一個の「統一体」としてのからだの働きに注目し、目には見えない「気・血・津液」の状態や、臓腑の働きに重きをおく中医学の治療は、検査数値で異常がない=健康とする西洋医学的な観点を離れ、何よりも一人一人のからだの「性質の変化」を優先しています。

 

中医学のいろは・2○

経絡とは気血がめぐる通路です。体内では臓腑と臓腑、あるいは臓腑と器官をつなぎ、体表では皮膚をはじめ骨・関節などとも繋がっています。このように経絡は全身に分布して、網の目のようにネットワークを広げ、この経絡を流れる「経気」を仲立ちとして、臓腑や器官、組織は互いに連絡し合い、有機的に機能し合っているのです。

この経絡のなかで、縦に流れる主要な脈を経脈と呼びます。経脈には、特定の臓腑と直接繋がっている十二正経(※経絡の根幹をなす)と、属絡する臓腑を持たない奇経八脈、さらに十二経脈から分かれ、深部を走る十二経別 があります。

「衝脈」・「任脈」はともに奇経八脈に含まれ、属する臓腑はありませんが、どちらもその走行は会陰部に起こって腹部を通 り、直接子宮と連なることから、婦人の月経や妊娠と深く関わっているのです。

 

中医学のいろは・3○

前述したように、「気・血・津液」は中医学の中で人体を構成する代表的な物質ですが、その他では「精」があります。

「精」は人体の機能活動全てを支える根本的な物質であり、先天の精と後天の精の区別 があります。

 

先天の精は、両親から受け継ぐ生殖の精で、五臓のうちの腎に蔵されて、生殖や発育を主ることから、「腎精」とも呼ばれます。一般 に狭義的に精という場合は、この腎精を指します。両親の先天の精が交わって受胎すると、先天の精は胎児の腎に蓄えられて(これを“腎は封蔵を主る”という)、腎精となります。青年期になると、腎の精気は生殖の精である「性ホルモン」を産生し、性器を発育させて生殖能力を高め、男子には精子の産生を盛んにし、女子には月経を開始させるのです。

この腎精は物質であるため、発育や成長で使用されれば消耗してしまいます。両親から受け継ぐ先天の精は、一度生まれ出てしまえば、それ以上直接受け取ることは出来ません。そこでもう一つの精、「後天の精」が重要な働きを担うのです。

 

後天の精は、脾胃の働きにより飲食物から化生された栄養豊富な物質で、全身の臓腑組織にゆきわたり、人間の生理作用を円滑に行うためのエネルギー源となっているものです。この後天の精をもとに、「気・血・津液」の多くは作られています。このように、後天の精は日々人間が生きていく為のエネルギーとなる一方で、その一部は腎に運ばれ、腎精へと化生されます。発育・成長の過程で消耗を続ける「腎精」を補う大切な役割を果 たしているのです。

この他に、精が不足すると「血」が「精」に変化して精を補充しています。反対に「精」が主る骨は「髄」を生じ、この「髄」によって「血」は化生されることから、「腎精は血を化生する」と呼ばれています。この両者の関係を「精血同源」と言います。

 

<中医学による生殖機能の考え方>

胞宮(子宮)は月経と胎児を育むことを主っており、その機能は腎気の盛衰・天き(人体の成長・発育・生殖機能を促進する物質)の分泌の度合い、衝脈・任脈の気血の状態と密接な関係があります。

腎には、両親から受け継がれた腎精(中医学のいろは・3参照)と、腎精が気化してできた腎気があります。このほか、両親より先天の陰気と陽気が継承されており、先天の陰気は腎精とともに体の火照りをとる力を形成し、先天の陽気は腎気とともに体を温める力を形成しています。腎気は、蔵精・封蔵・気化の作用を持ち、腎精を貯蔵したり、脾より運ばれた後天の精を貯蔵し、腎精に化生する働きを主っており、腎陽はからだを温める作用に優れ、全身を温めて体温を維持したり、熱エネルギーを産み出しています。

 

腎は精を蔵し、生殖を主り、天きの源であります。そして、衝脈・任脈(あわせて衝任)の本となり、胞宮が胎児を養うことに深く関わっています。腎気が充実し、腎の陰陽が平衡を保つことによってはじめて、天きは分泌されて胞宮に至り、衝任脈は通 じ、精血は胞宮に注入されて月経に変化し、胞宮は懐胎が可能となります。

 

肝は、血を蔵し、疏泄を主っています。(疏泄とは、気血の流れをスムーズにすることを言います)肝の蔵血と疏泄の機能によって、胞宮の血を蓄え、溢れさせる機能が持続的になされ、月経は規則的に来るよう調整されます。

 

脾は、胃や小腸、大腸を含めた飲食物の消化吸収に関わるすべてを管理し、水穀の精微から「気・血・津液」を作ります。この作用が失調すると、食欲不振・腹部のもたれ・食後倦怠感や眠気・軟便・下痢・むくみなどの症状があらわれます。

脾胃は後天の本であり、気血生化の源であります。規則的な月経や胎児の栄養、乳汁の分泌には、脾の化生する気血が旺盛か否かに関わっているのです。

 

また、気の固摂作用(出血や汗がダラダラと出るのを抑える。尿、精液、帯下などの過剰な排泄を防ぎ、内臓が下がらないように一定の位 置に保つ)によって、脾は血が経脈を流れる際に、脈外に漏れださないように監督して、血の漏出を防いでいます。これを「脾は血を統す」といいます。規則的な月経を保つことに、脾の統血作用は不可欠なのです。

 

 

ではここから「衝脈」・「任脈」の話に入ります。

 

「衝脈」は子宮から出て、腹部・胸部の正中線の左右両則に沿い、上に向かって走る経絡で、咽喉を経て口唇に連なっています。衝脈は「十二経の海」・または「血海」とも言われ、五臓六腑に連なる十二の経絡から集められた「血」をたくわえる「海」のような存在です。衝脈にたくわえられた「血」が妊娠時には胎児の栄養として使われます。中国最古の医学書の一つである〔黄帝内経(こうていだいけい)〕の「素問」には、「女性は十四歳になると腎の気が充実して衝脈が血で満たされるので、生殖機能を促進する発育物質{天き}が生まれ、生理が始まり、妊娠が可能になる」と記されています。このように「衝脈」は女性の妊娠・生理作用と深く関わっているのです。

 

また「任脈」は子宮から出て、腹部や胸部を通る正中線に沿って走る経絡です。「任」とは、妊娠あるいは妊養の意味で、子宮と直接つながり、衝脈同様、女性の生理や、特に妊娠と深く関わっています。中医学の陰陽学説では、からだの前面 である胸腹部は「陰」に、背部は「陽」に属すと考え、からだ前面の胸腹部を通 る「任脈」には人体の陰経の脈気が集まり、諸陰の海を為しているとしています。諸陰の中でも特に足三陰経とは、中極・関元で交会し、さらに足三陰経が全て少腹部を循行していることから、任脈がこれらを隷属させると考えています。

 

この二つの経絡はともに奇経八脈と呼ばれ、絡属する臓腑はありません。しかし、上記のように、「衝脈」・「任脈」はともに女性の生理・妊娠と密接に結びついており、「崩漏」を含め、中医学に於いて今日の婦人科疾患を治療する上では欠かすことの出来ない、重要な役割を果 たしている経絡なのです。

 

では次に、この「衝脈」・「任脈」が損傷され崩漏がおこる発生機序を、中医学の弁証により分類し、以下に示します。

 

衝任不固○

平素から脾気不足であったり、あるいは飲食の不摂や疲労により脾気を損傷して、統摂機能の失調がおこる。あるいは、先天の不足や房事過多により腎虚精欠となり、封蔵を司ることができなくなって崩漏が生じる。

・主症

月経が頻発し経血量が多い。また月経期間が延長する。重症になると出血がたらたらと続く。経血の色(経色)は淡紅色でさらさらして薄い。顔色は白く、息切れ、倦怠感、食欲不振を呈す。腎虚精欠の場合は膝や腰がだるく、力が入らない。澄んで白色の帯下がみられる。

・舌診

舌質:淡 舌苔:薄白

・脈診

細弱

・治則

固摂衝任(脾虚の場合―加えて補中益気、腎虚の場合―温補腎陽)

 

衝任失調○

鬱熱

ストレスなどにより肝の疏泄が失われ、肝気が滞ることにより、鬱熱が化火する。これにより肝の蔵血機能が失調して崩漏がおこる。さらにこの血熱が直接、衝任脈を破ることもある。

 

血熱

A:実熱

もともと陽盛の人が辛いものを食べ過ぎたり、外から熱邪を受けることによって実火が内生し、血を妄行させる。

・脈診

細弱

・治則

固摂衝任(脾虚の場合―加えて補中益気、腎虚の場合―温補腎陽)

 

B:虚熱

体質が陰虚であったり、失血や長期に渡る慢性病によって、腎陰の不足がおこる。陰虚によって相対的に内熱が発生し、虚火が妄動して精血を固守できなくなって崩漏がおこる。

 

湿熱

甘いものや油っぽいものの過剰摂取や外感湿熱は体内にも湿熱を内生させる。この湿熱が下焦に留まり胞宮の血絡が損傷される。

 

血オ

月経期や産後の悪露が尽きない時に、寒熱を感受したり、気鬱が長期間にわたると血オを形成して衝任脈が阻滞する。衝任脈が阻滞して、胞宮の循環が悪くなると、胞宮に終結した血液は経脈に戻れず、胞宮に蓄積する。血液の蓄積が過剰になると、急激に溢れ出して崩漏が起こる。

 

 

肝鬱による崩漏

・主症

精神的刺激などにより誘発されて出血することが多い。経色は暗紅色で血塊がまじることがある。乳房の張痛、心煩、怒りっぽい。

・舌診

舌質:紅 舌苔:黄色

・脈診

弦数

・治則

調理衝任・疏肝理気

 

血熱による崩漏

<実熱>

・主症

通常の月経期間でない時期に急激に出血がおこる。経色は深紅色、経質は粘り気があり、臭いが強い。口が渇いて水分を取りたがる。イライラ感や、心煩をともなう。便秘傾向。

・舌診

舌質:紅 舌苔:黄

・脈診

滑数 または弦数

・治則

調理衝任、清熱涼血

 

<虚熱>

・主症

少量の出血がだらだら続いて止まらない。または、虚熱が強くなると突然経血量 が多くなる。経色は鮮紅色で粘調。頬の紅潮や五心煩熱、口の乾燥感などを呈す。また、不眠や盗汗を兼ねることも多い。

・舌診

舌質:紅 舌苔:少苔または剥離苔

・脈診

細数

・治則

調理衝任、滋陰清熱

 

湿熱による崩漏

・主症

月経期間以外の急激な出血、だらだらと出血していて、突然大量 に出血する。経色は暗紅色。臭いが強く、出血とともに濁った帯下、または黄緑色の膿様の帯下が出る。さらに陰部のかゆみと疼痛がある。(湿熱が下注し、陰部を犯す)

・舌診

舌苔:黄じ

・脈診

濡数

・治則

調理衝任、清熱利湿

 

オ血による崩漏

・主症

月経が停止している期間が続いた後、突然大量 出血をする。または、出血後継続して「漏」状態となる。経色は紫暗色、経質は粘調で血塊がある。小腹部が痛むが、出血後は痛みが軽減する。

・舌診

舌質:紫暗色、あるいは辺縁や舌先にオ斑やオ点がある。

舌苔:薄白

・脈診

沈渋または、しょく脈

・治則

調理衝任、調血化オ

 

以上のように、同じ崩漏のようであっても、その性質や原因は様様です。特にストレスや不規則な生活、また、若い女性にみられる極端な痩せ願望は、女性のからだに多大な影響を与えます。不正出血だけでなく、月経周期の乱れ、月経痛などは、自分のからだが発する危険信号です。一つでもあてはまる方は、食事や生活環境を整え、養生に努めましょう。食事にあっては、まず、なま物や冷たい物をなるべく避けて下さいね。

また、不正出血が再三反復しておこる場合は、一度、婦人科を受診してみて下さい。

 

 

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

 

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。

例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。

ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。

西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。

ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。

大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

 

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。

又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

 

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

 

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。

当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。

それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。

この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。

特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。

顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)

急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子

その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳

アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など

これらの疾患はほんの一例です。

疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。

針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

 

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

 

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

2019/02/20
腹痛

腹痛について

腹痛は、外来診療で最も遭遇する機会の多い症候のひとつと言われている病気です。

これは、腹部が食物の通り道でもあり、生命を維持する上で必要な様々な臓器が存在しているために遭遇する機会が多いのかもしれません。

今回は、腹痛の鑑別について述べていきたいと思います。

 

 

<概要>

 

まずは、西洋医学的な視点で腹痛を説明していきます。

腹痛は、その名のとおり、腹部を中心とした疼痛や圧迫感などを総称し腹痛と言います。

みなさんも、今まで、腹部の痛みという症状を自覚したことはあるのではないでしょうか。

よくある原因としては、食中毒や冷たいもののとり過ぎ、また、現代社会では、過度なストレスによっても腹痛を覚えることがあります。

 

しかし、腹痛には他にも様々な原因が考えられます。

 

一つ例を挙げましょう。

あまり腹痛と連想ができないかと思いますが、脂肪肝という病気があります。

この病気は、脂肪や糖質のとりすぎにより起こる病気で、肝細胞に中性脂肪が 蓄積することにより起こります。メタボリックシンドロームに関心のある方は、よく聞く病気なのではないでしょうか。

この病気、症状は、無症状のことが多いのですが、ときに右上腹部痛として、症状が現れることがあるようです。

このような例は、臓器の失調といっても、とても軽度のものであると言えます。

 

しかし、他にも重篤な病気により、腹痛を自覚することがあります。

腹部には、肝臓や膵臓、胃や腸、腎臓など、様々な臓器が存在します。

このような臓器に著しい炎症や、悪性腫瘍が発生することでも、腹痛を自覚し、そのような場合、とても重篤な腹痛と言えます。

 

つまり、腹痛と言っても、軽症なものから重症なものまで、様々であり、命の危険を伴う危険のある腹痛もある以上、軽視できない症状の一つなのです。

 

 

<気をつけるべき腹痛と随伴症状>

 

では、どのような腹痛がより大きな危険性を秘めているのでしょう。

腹痛を自覚したときに、危険性があるかどうかを確実に判断するためには、病院での検査が必要になりますが、とくに気をつけた方がよい腹部の痛み方と随伴症状を参考のために紹介します。

・急性かつ激しい腹痛

 

胃や腸などの、腹腔内の異常によるもので、かつ急性のものであると思われます。

このような場合、すぐにでも病院での検査および治療が必要と思われます。

 

・発熱を伴う

 

広範囲の炎症や、臓器の急性炎症の可能性があります。

 

・体重の減少

 

このような場合、癌やクローン病などの重篤な病気の可能性があります。

すぐにでも病院での検査および治療が必要と思われます。

 

・吐き気や嘔吐を伴う

 

膵炎や胃潰瘍、胆嚢炎などの可能性があります。

もし、上記のような症状がある場合には、病院でより早く検査をして治療をした方が良いと言えます。

 

 

<中医学による腹痛の捉え方>

 

それでは次に、中医学的にみた腹痛の捉えかた方を述べていきます。

 

「わかりやすい東洋医学理論」でも述べられていますが、中医学における人間の体は、気、血、水により構成されており、これらを臓腑が正常に運用することで、人間は正常な生理活動を行っています。

しかし、気、血、水のいずれかが正常に体内を巡らなくなることで、様々な症状が現れることとなり、その結果 、病気に至ります。

 

腹痛においても同様で、主に、気が腹部をスムーズに巡らなくなることで、腹部に痛みを及ぼします。

では、どのような原因によって、気の流れが失調するのでしょう。

もう少し詳しく述べていきます。

 

<腹痛の原因>

中医学においても、腹痛には様々な原因があります。

・寒邪によるもの

 

寒邪とは、人間の体を病気にする原因の一つで、非常に低い外気温をさします。

冬の寒い時期に体を冷やして風邪をひくというような場合も、寒邪によるものと言えましょう。

この寒邪が腹部に停滞することで、気の運行を邪魔し、スムーズに巡らなくなり、腹痛となることがあります。

お腹を開けて睡眠をとり、冷やしてしまうなどの状況がイメージしやすいかもしれません。

 

・過食によるもの

 

暴飲暴食によっても腹痛は起こります。

これは、飲食物が多すぎるために、胃や脾臓の機能を低下させて、その結果 、気がスムーズに運行しなくなるために起こります。

 

・偏食によるもの

 

偏食には様々なものがありますが、特に、脂っこいものや冷たいものの偏食により、腹痛は起こります。

脂っこいものの偏食は、湿熱という水の流れが悪く熱を帯びた物質を生み出し、その結果 、気の運行を邪魔します。

冷たいものの偏食は、直接冷えたものが腹部に入り、停滞することで、気がスムーズに巡らなくなります。

刺身やビールなど、冷たいものを好む日本人には、イメージのしやすい腹痛ではないでしょうか。

 

・過度なストレスによるもの

 

過度なストレスは、中医学における肝臓の機能を低下させて、気をスムーズに流す力が低下し、その結果 、腹痛を及ぼすことがあります。

仕事上における過度なストレス、学生であれば受験に対するストレスにより、 腹部の痛みを経験したことのある方も多いのではないでしょうか。

 

・体質によるもの

 

体質的に胃や脾臓の機能が低下している場合、慢性的に気をスムーズに巡らせる力が低下し、腹痛を及ぼすことがあります。

このような状態では、疲労により気の流れがさらに悪くなり、腹痛という症状を生み出すことがあります。

また、このような体質が長期に続いている場合、腹部を温める作用が低下していることもあります。

腹部を温める作用が低下していれば、冷えの感受により、腹痛を起こすことがあります。

 

<腹痛の治療方法>

では、次に腹痛の治療方法について述べていきます。

腹痛の治療は、先ほど述べた原因を取り去ることと、原因に対する耐性が弱い場合は、その耐性を高める治療を行います。

・外的な冷えによる腹痛の治療

 

寒邪によるもの、冷たいものの偏食による腹痛の場合には、体内から冷えを取り去り痛みを止める治療を行います。

中医学では、このような治療を、「温中散寒」「理気止痛」と言います。

生活面では、なるべく外気温にさらされないよう、厚着をして、なるべく冷たい飲食は控えることが重要です。

 

・過度なストレスによる腹痛の治療

 

過度なストレスによる腹痛の場合、滞っている気をスムーズに流し、ストレスに対する耐性を上げる治療を行います。

中医学では、このような治療を、「疏肝解鬱」「理気止痛」と言います。

生活面では、ストレスを少しでも解消する手立てを見つけ、実践することが重要です。

 

・過食による腹痛の治療

 

食べすぎによる腹痛の場合には、食物の消化を促す治療を行います。

中医学では、このような治療を、「消食導滞」「理気止痛」と言います。

生活面では、食事を多く取りすぎないよう制限をすることが重要です。

 

・体質による腹痛の治療

 

体質による腹痛の場合、胃や脾臓の機能を改善する治療を行います。

中医学では、このような治療を、「健脾益胃」と言います。

また、胃や脾臓の機能の低下が著しく、腹部を温める作用も低下している場合は、「温運脾陽」と言い、脾臓が体を温める作用を高める治療を行います。

生活面では、過食や冷たいものを控えることが重要です。

 

いかがでしょう?

中医学的な腹痛の治療はご理解頂けましたでしょうか?

 

腹痛の場合、食中毒や物理的な腸の疾患など、急な発症の場合も多く、西洋医学的なお手当てが優先される場合が多いと思います。しかし、一方で、長期的に腹痛にお悩みの方は、体質が原因となっている可能性があります。そのような場合、根本的に体質から改善をしていく必要があると思います。

一度、中医学的なお手当てをされてみるのも良いかと思います。

 

中医学(東洋医学)全般(鍼灸・漢方・食事療法・体質改善)のご相談は

当院までお気軽にどうぞ。

2019/02/28
院長紹介

院長 
楊志成

1959年台湾出身。幼少期来日。1978年台湾の中国医薬大学に入学。中医師を取得後、中国の上海中医大学内のWHO(世界保健機構)認定の伝統中医学研修センターにて臨床研修を積む。台湾と上海にて中医学を計8年間学ぶ。日本に帰国後、日本医薬専門学校漢方科・薬種商科と中和鍼灸専門学校就学。卒業後、四日市市・小野外科にて 東洋医学治療室室長に就任。

1989年 楊中医鍼灸院開院
2004年 アメリカ・ジェムズ大学(UNIVERSITY OF JAMES)医学博士の学位を取得。
2009年 メンタル心理カウンセラーの資格取得。
日本工学院八王子専門学校医療カレッジ鍼灸科 特別講師を担う。
たかの友梨ビューティクリニック、吸玉療法(カッピング)指導講師を勤める。
所属:台中市中医医師会顧問、日本抗加齢医学会会員、日本不妊カウセリング学会会員

2019/02/20
便秘

排泄物が長時間腸内にとどまり、水分が吸収されて、排便に困難を伴う状態をいいます。健康な人は普通 1日1回の便通があるが中には2~3日に1回の人もあり、それでも充分に満足でき、また不規則な排便であっても苦痛を感じない場合は便秘とはいいません。毎日便通 があって苦痛や残便感など不快感を伴う場合便秘とみなします。

 

原因として

1.

小食および水分不足

食べ物が便のもとです。小食が便秘を起こします。最近はダイエット志向で小食の方が増えていますので便秘になりやすいです。また十分な水分をとらないと便が硬くなり便秘となります。

 

2.

食べ物の繊維不足

食物繊維は腸で消化されず、便として排出されます。繊維は便通 を整えると共に腸を刺激しスムーズな排便を促します。   

また、繊維は腸内細菌の善玉菌を増やし、腸内環境を整えます。

 

3.

がまん癖

便意が起きてもすぐにトイレに行けない状態で我慢し続けると便意が消えてしますので便秘習慣がついてしまいます。

 

4.

精神的ストレスで

精神的ストレスが自律神経のバランスを崩し、ケイレン性便秘を起こしやすくなります。

 

5.

運動不足

腸の働きは運動などで活発化します。

 

6.

病気

病気で寝たきりの場合、腸の運動が弱くなります。

 

便秘の種類は急性便秘と慢性便秘があります。   

ここでよく悩みとしてでる便秘は、いわゆる慢性便秘、その中の習慣性便秘の方でしょう。  

・習慣性便秘にはさらに3つのタイプに分かれます。弛緩性便秘・直腸性便秘・ケイレン性便秘があります。

 

 

1.弛緩性便秘

便秘の多くはこのタイプです。   

大腸の緊張が緩んでいて蠕動運動が弱く便秘を感じなくなっています。虚弱体質、無力体質の人に多く見られます。   

内臓下垂の人、病気の後で体力が低下した場合になりやすいです。

 

2.直腸性便秘

便が直腸に達しても便意が起きず蠕動運動が始まらない場合をいいます。忙しくてトイレに行かず我慢をしたり、痔で排 便を抑える、また浣腸を繰り返して年老いて神経が鈍くなったりするとこれにかかわります。特徴として太く硬い便で切痔を起こすことがあります。

 

3.ケイレン性便秘

大腸の運動が強すぎ、ケイレンを起こし便の通過を妨げて便秘になるタイプです。また、神経的ストレス、自律神経失調症が原因でなりやすいです。特徴としては便意は強いが排便困難、腹痛、腹がゴロゴロ鳴ったり、腹が張ったりします。  

便はウサギの糞状の細いものです。

 

便秘の予防および治療

食物繊維は充分の摂る  

・繊維は消化吸収されないので、便の量を増やし便意がつきやすくなります。

 

朝食後に排便の習慣をつける  

・朝食を食べて食べ物が胃にはいると胃から大腸へと信号が送られ大腸の蠕動運動が始まり、便が直腸へと送られ便意が起こります。

 

運動をして腹筋を強化する  

・腹筋が弱いと大腸がだらんとして、りきむ力が弱くなるので腹筋をつけて腹圧を高めます。

 

上記のことをしてもなかなか改善されない場合に下剤や浣腸を使っていきます。

 

 

中医学的に便秘を診たときに4つに分かれます。

1.熱証タイプ

このタイプは便秘は「熱秘」と呼ばれます。病気としては体に熱を持ちやすい体質のうえに辛いもを食べ過ぎたり、野菜不足により陽明(消化器系に関するツボのルート)に熱がたまると津熱(体内を潤す作用のある水分)が損なわれ便が出にくくなるものです。

〈主症状〉

大便は乾燥して硬く通じない・腹部がつかえて膨満感がある・腹部を押さえると塊があり痛む・おならがよく出る・排便の切れが悪い等です。  

 

〈随伴症状〉  

顔色が赤い・身体が熱っぽい・頭痛・口が渇く・小便は量が少なく黄色。

 

治療のポイント  

体の中の熱を取り去るツボや体を潤す「水」(津液)の通りを良くするツボを選んで治療を行っていきます。

 

 

2.気滞タイプ

このタイプは便秘は「気秘」と呼ばれます。病気としては、ストレスなどが原因で鬱状態になると体の気の流れがうっ滞します。

そうなると、気の流れをつかさどっている「肝」の働きが失調して便が流れなくなるものです。

〈主症状〉

便秘であるが乾燥や硬さはひどくない・腹部から両脇に連なる張痛  

 

〈随伴症状〉  

食欲不振・めまい・よくげっぷをする等です。

 

治療ポイント  

「肝」の働きを良くし「気」(エネルギー源)の流れを良くするツボを選んで治療を行っていきます。

 

 

3.虚証タイプ

このタイプの便秘は「虚秘」と呼ばれています。病機としては病後や産後に気血(体にとってのエネルギー源や栄養するもの)が回復せず気虚(エネルギー不足)により、うまく便を出せなくなった状態です。また血虚(体を滋養するものの不足)のため、腸が潤いを失っています。

〈主症状〉  

腹部に張痛はない・小腹(下腹部)が不快で便意があるが力が足りず排便が困難・大便はカスのように軟らかい。  

 

〈随伴症状〉  

排便後に疲れる・汗が出る・息切れ・顔色の色艶が良くない・動悸・目のかすみ

 

治療ポイント   

「気」、「血」を回復させるツボを選んで治療を行っていきます。

 

 

4.寒証タイプ

このタイプの便秘は「冷秘」と呼ばれます。病機としては加齢により下焦(下腹)の陽気(温かいエネルギー)が衰えるため温く(温める)出来なくなると陰寒(冷たいもの)が凝結して、気化作用(この場合物質代謝)がうまくいかず便が出にくくなるものです。

〈主症状〉  

排便困難・ひどいときは脱肛・ときどき腹が冷えて痛む。  

 

〈随伴症状〉  

顔色が白い・小便は透明で量が多い・手足の冷え・足腰がだるく力が入らない。

 

治療ポイント  

下焦(下腹)付近のツボを使い気の働き(ここでは体を温めたり、物質体謝を活発にしたりする働き)を強化、また体が冷えるのでお灸を使った治療を していきます。

 

 

食養生として  

はくさい(熱証タイプ、気滞タイプ)、にら(寒証タイプ)、さつまいも(虚証タイプ)、もも(寒証タイプ、虚証タイプ)などを普段の食事にプラスしてあげると良いかと思います。

 

このように中医学では「便秘」=便が出にくい状態にその他の随伴症状をもとに舌の状態や脈の状態も合わせてタイプ別 に診ていきます。

その結果、便秘だけでなくその他の症状にも治療効果が出ますので統合的にお体のお手当てになります。便秘に対しての対処療法ではなく便秘にならない体にしていきましょうというのが中医学の特徴ですのでなかなか治らない頑固な便秘は中医学的鍼灸治療で改善をはかるのも良いかと思います。

 

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

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