コラム
- 2019/02/20
- 子宮下垂
子宮の位置は、通常骨盤のほぼ中央にあり、先端は膣の中に少し突き出た状態にあります。
子宮下垂とは子宮が正常な位置から離れて、膣に沿って下降した病変をいいます。
そのうち、膣から外に出ていないものを子宮下垂といい、子宮の一部または全体が膣外に脱出しているものを子宮脱といいます。
子宮が下がっている場合、子宮の前にある膀胱、子宮の後方にある直腸がそれぞれ一緒に引っ張られて下降してくることがあります。そのため、膣内に圧迫感がある、便秘や腰痛、腹痛を起こしたり、排尿困難や尿失禁を起こす場合もあります。
子宮下垂と子宮脱は子宮を保持している周囲の筋肉群や靭帯群などの緊張力がゆるまってしまったり、弱まってしまったときに起こるとされています。
そのため子宮下垂は加齢によるものが多く、閉経後5~10年で始まるケースが多いようです。また多産によって子宮が下がったり、出産で分娩時に骨盤底の筋肉が引き伸ばされたり、出産後すぐに仕事を始めた方、重労働者、虚弱体質の方に見られます。
以下にくわしく、中医学的な子宮下垂の捉え方、タイプ別の治療法・日常生活の過ごし方をご紹介していきたいと思います。
▼中医学的子宮下垂の捉え方▼
中医学では主に「体全体のパワー不足」によって引き起こされると考えられています。
子宮下垂になりやすい方は上記でも少しふれましたが、加齢、多産婦、出産後すぐに仕事をした、虚弱体質など、すべての方に共通 してエネルギーの消耗による体のパワー不足があげられます。
その他、疲れ易い、疲れが取れにくい、倦怠感、息切れを起こし易い、話すのが億劫、食欲がない、風邪を引きやすいなどエネルギー不足による症状が全身に見られます。
では、なぜ子宮下垂がパワー不足で起こるのかといいますと、通常子宮をはじめとした各々の臓器は「一定の位 置を保つ力」を備えています。
その保つ力が生まれつき弱かったり、後天的に失ってしまった場合、一定の位 置からダランと下がってしまいます。これが中医学で考えます「パワー不足=下垂症状」になります。
皆さんもご存知の身近な例をあげますと胃下垂があります。生まれつき胃下垂がある方の特徴として、痩せていて食べても太らない、疲れやすいなど胃の虚弱症状がみられます。それに対し、子宮下垂は後天的なパワー不足によって起こることがほとんどです。
▼中医学的診察・治療方法▼
■診察方法
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
その他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し、中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
■治療方法
中医学では、体全体をひとつの働きとして見るため、それが部分的にあらわれている症状だけなのか、或いは全身と関連した中で起こったことなのかという両方の視点で病気を見つめます。そして、全身のバランスを調整していきます。
一方、現代医学では体を細分化し、病巣であるひとつのパーツを中心に病気を見つめていきます。
中医学と現代医学では「身体を見る目」が異なります。こうした考え方の違いは治療にも反映され、それぞれの特徴になっています。
症状が軽度で手術の必要がない方は、鍼灸治療でエネルギーの補充を図り、日常生活の食事や体操などでエネルギーの保持・増進されることをおすすめします。
ここで簡単に、中医学的体のしくみについて、子宮下垂と関連の深いそれぞれの臓腑の働きについてどのように考えられているのかを説明していきたいと思います。
▼中医学的からだのしくみ▼
~「気」「血」「水」とは~
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
~臓腑の働きとは~
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。現代医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。
ですので、現代医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。
<子宮下垂に関わる主な臓腑の働き>
「脾」・・
①
食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
軟便または下痢、痰が多く出る、手足がむくむ、食欲がない、身体が重だるい
②
エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
③
血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
「腎」・・
生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。生まれたときにこのエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの発育不良の状態があらわれます。
生殖器関係では、月経、妊娠、出産時のパワーの源であり、産後エネルギー不足になると子宮を一定の位 置に保つ事ができず下垂しやすくなります。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
年齢が増すにつれて、腎が支配する器官の機能減退症状があらわれてきます。
例)
骨や歯がもろくなる、耳が遠くなる、髪が薄くなったり、白髪が多くなる
婦人科疾患では無月経、不妊症、流産しやすい、子宮下垂
冷え症状が加わると、さむけ、下痢をしやすい(特に朝方)、手足、腰の冷え
▼ 現代医学的な診断・検査・治療法▼
~子宮下垂・子宮脱のレベル~
第1段階(子宮下垂)
子宮が元の位置より少し下がっている状態です。この段階では自覚症状がありませんが、膀胱がいっしょに下がっている場合には尿が漏れやすくなったり、残尿感がでることがあります。
第2段階
子宮が腟の入り口あたりまで下がっている状態です。入浴時などに陰部からしこりのような子宮の出口に触れてわかることが多いようです。
第3段階(子宮脱)
子宮だけでなく、膀胱や直腸の一部も腟の壁とともに下垂して外陰部の方に出ている状態です。
このように膀胱や直腸が腟の壁をふくらますように下がっている状態を膀胱瘤、直腸瘤と呼びます。歩くのが苦痛になり、排尿も排便もうまくできなくなります。トイレに行っても尿はわずかしかでませんが、手指で子宮をおしこむようにすると排尿できます。
■検査
子宮下垂の場合は腹圧をかけながら下垂度合いをみたり、子宮の一部(子宮膣部)を牽引しながらみます。
子宮脱の場合は膣外に脱出している子宮をみればわかります。
■治療
発症初期であれば、合成樹脂製の円形のぺッサリーという子宮を持ち上げる機器を利用しますが、ぺッサリーを外した時には効果 がなくなること、長期使用すると膣壁に炎症をおこしてしまうこともあります。その他手術による子宮保持装置の補強です。
子宮脱に膀胱脱、直腸脱を伴っている場合は膣式子宮全摘術に前・後膣形成術を行なう方法が現在もっとも多く行なわれている方法です。
膀胱脱のみ伴う場合は、前膣壁形成術を、直腸脱のみ伴う場合は、後膣壁形成術を行なうこともあります。
子宮脱があり妊娠を希望し子宮頸部延長症を伴う人の場合には、子宮頸部を切断後に子宮の保持装置を補強をする手術を行ないます。
高齢者の場合などでは前後の膣壁を中央で縫合閉鎖することもあります。
▼中医学的子宮下垂の原因▼
・虚弱体質
・産後・・・早くから仕事をした、力仕事をした
便秘になり力み過ぎた
長期間咳の症状がある
長期間軟便または下痢症状がある
・性交過多
▼中医学的子宮下垂のタイプと治療法▼
●気虚タイプ●
「エネルギー(気)が不足(虚になる)」により、全身のパワー不足がみられます。
○主な症状
疲れやすい、やる気がでない、息切れ、話すのが億劫
白いさらさらしたおりものが多くでる、頻尿
○治療法
エネルギーを益し、下がった子宮を持ち上げていく「補気・昇提・固脱」の治療をしていきます。
●腎虚タイプ●
腎は生命の源でありエネルギーが蓄えられている場所です。
疲れが長期間続きますと蓄えられているエネルギーが消耗し、さまざまな症状が現れやすくなります。
○主な症状
めまい、耳鳴り、腰膝がだるく脚に力が入らない、頻尿
疲れやすく取れにくい
○治療法
腎のエネルギーを益し、下がった子宮を持ち上げていく「補腎・益気・固脱」治療をしていきます。
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます。
タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。
気虚タイプと腎虚タイプは、ベースが気虚ですので生活習慣、食べ物はほぼ同じです。
●気虚タイプ・腎虚タイプ●
生活習慣 ・産後の方は、子育てがタイヘンでごはんもゆっくり食べられないというお母さんは多いと思います。
しかし食事を抜いたり、栄養素が偏ったりすると下垂状態を悪化させますので、消化が良く、栄養バランスの取れた食事と休養はしっかりとりましょう。
・
消化力が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。
・
スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。
・
ダイエットによる食事制限は禁物です。
食べ物 ~エネルギーを益す食べ物を(適度に)摂りましょう~
○気虚タイプ・・
(穀類)うるち米、粟米、小麦製品
(豆類)大豆や大豆製品、牛乳
(肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
(野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
(魚類)いか、貝柱
(果物)なつめ、もも、さくらんぼ
(お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶
○腎虚タイプ・・上記の食べ物にプラス
栗、くるみ、黒ごま、クコの実
~体を冷やす食べ物、辛い食べ物、油っこく味の濃い食べ物は 胃を刺激し気を消耗させるので避けましょう~
辛い食べ物・・青唐辛子、ねぎ、コショウなど
冷やす食べ物・・すいか、バナナ、イチジク、なし、苦瓜、薄荷など
▼その他日常生活での注意点▼
出産によって子宮下垂になった人は産褥体操(さんじょくたいそう)をきちんと行えば、子宮の位 置は元に戻ります。
加齢にともなう子宮下垂はケーゲル体操がおすすめです。自力更正の方法で、ゆるんだ骨盤底筋を強化する体操です。
<ケーゲル体操>
●トイレでの体操
おしっこの最中に4~5回、途中で止めてみましょう。止められるなら、筋肉が鍛えられています。
●気がついたときのくりかえし体操
1.
10秒間力強く肛門を締めてください。
このときに、肛門と会陰部の間に軽く指をあててみて肛門と会陰部の間が硬く少し持ち上がるように力をいれます。
2.
力を抜きます。
3.
3回ほど、肛門を素早く締めては、力を抜きます。
4.
1分間休みます。
毎日100回、最低3ヶ月間続けましょう。
●その他、骨盤底筋肉を鍛える簡単体操
・・あお向けに寝て・・
あお向けに寝て、脚を肩幅に開き、膝を立てます。
身体の力を抜き、肛門と腟をキュッと締め、そのままゆっくり5つ数えます。
この動作を繰り返します。
・・椅子に座って・・
床につけた脚を肩幅に開きます。
背中をまっすぐに伸ばし、顔を上げます。
肩の力を抜いて、お腹が動かないように気をつけながら肛門と腟をキュッと締め、そのままゆっくり5つ数えます。
この動作を繰り返します。
- 2019/02/20
- 子宮筋腫
子宮筋腫は子宮の筋肉にできる良性の腫瘍で成人女性の4人に1人の割合で見られる疾患です。
思春期前の若い女性に発症することはほとんどなく、閉経後には退縮して小さくなるため、筋腫の発育には女性ホルモンが強く関係していると考えられています。
この場合現代医学での検査は重要な診断・治療の目安となるため、比較的小さな筋腫で、特別 な症状が無い場合でも定期的な検診を受けることをお勧めします。
またその際、鍼灸治療と併用することにより(筋腫の大きさや症状の程度によりますが) 一定の効果があらわれやすく、治癒力も高められるため身体への負担も軽減されます。
そのほか病の根本である原因、誘発要因に着眼し治療を進めていくため再発しにくい体質へと改善していくことができます。
▼中医学的子宮筋腫のとらえ方▼
子宮筋腫で見られる症状の1つに「しこり」があります。
中医学では、この「しこり」の性質や特徴、全身に現れている症状を把握することにより 筋腫が形成された原因、誘発要因を導き出していきます。
「しこり」は体の活動源である<エネルギー>、栄養源である<血>、体を潤す<水>の流れが 長期間停滞することにより形成されていきます。
症状の軽重や進行状態は、生活環境や社会環境、個々の体質や性格が深く関与します。
▼現代医学的診断・治療方法▼
<筋腫の発生する部位>
*子宮体部(ショウ膜下筋腫、粘膜下筋腫、筋層内筋腫)
*子宮頚部(粘膜下分娩、子宮を支える靭帯に筋腫が発生する)
全体の95%は子宮体部に発生し、残りの5%が頚部に発生するといわれています。
<筋腫の主な症状>
月経の量が多くなる、月経期間の延長、頻発月経、月経痛などの月経異常と不正出血が見られます (これは中医学も同様です)。
また発生する部位や発育方向によりそれぞれ特異な症状が伴います。
<検査法>
子宮卵管造影や子宮鏡などがあります。
<治療法>
薬物療法と手術療法があります。
~薬物療法~
「偽閉経療法」という薬物を使って半年間ほど月経をとめ、子宮筋腫を小さくする方法です。
治療中は月経の症状で苦しむこともなく筋腫も小さくなるため有効な方法です。
しかし長期間の服用により骨量の減少や更年期障害のような副作用、さらには薬剤の服用中止後に卵巣機能が再開すると筋腫がまた大きくなってしまうという問題点もあります。
その他UAE(子宮動脈塞栓法)という子宮へ流れる血管に栓をして子宮筋腫を小さくするといった治療を行なっている施設もあるようです。
~手術療法~
手術を要する子宮筋腫は、大きさがこぶし大以上のとき、過多月経や不正出血などの出血傾向が強く貧血がひどくなる場合、不妊や習慣性流産、早産の原因になると考えられるときなどです。
治療法は子宮全摘術と筋腫核出術があります。
どちらの手術法を用いるかは全身状態、筋腫の数や大きさ、発生部位 、将来子どもを希望するかどうかなどにより選択されます。
▼中医学的からだのしくみ▼
~「気」「血」「水」とは~
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、 これらの3つが体内に十分な量で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。
さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
~臓腑の働きとは~
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。
西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。
ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。
ゆえに違う診たてができるのです。
この点をまず理解してください。
「肝」・・
全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。
伸びやかな状態を好むため、精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。
この状態を「気滞」(気の流れがとどこおる)といいます。
全身の血液量をコントロールし、蓄える働きがあります。
肝の働きが弱まってしまうと血液を蓄えることが出来なくなるため肝の支配している器官の機能減退症状があらわれてきます。
例)目のかすみ、爪が割れやすくなる、手足の震えやしびれ、筋けいれんが起こりやすくなったりします。
婦人科疾患としては、無月経、不妊症、月経前の乳房のはった痛み、ストレスにより月経周期が早まったり、遅くなったりする。
「脾」・・
食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。
婦人科疾患として見られる症状は白いおりものが多くでる、黄色っぽく臭いおりものがでる、不正出血、月経が早まる、子宮下垂
「腎」・・
生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。
このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
年齢が増すにつれて、腎が支配する器官の機能減退症状があらわれてきます。
例)骨や歯がもろくなる、耳が遠くなる、髪が薄くなったり、白髪が多くなる。
婦人科疾患では無月経、不妊症、流産しやすい。
▼中医学的診断方法▼
中医学では主に以下の状態での治療に一定の効果をもたらします。
1.筋腫の大きさが5センチ以下と比較的小さいもの
2.過多月経、不正出血による貧血など出血傾向の少ない場合
3.周辺臓器への圧迫や他の器官への癒着のない場合
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
そのため、同じ症状であっても人によっては治療方法が異なることがあります。
月経の状態(周期・期間・月経量・質・色、月経に伴う不快な症状など)、基礎体温表などから体の中の状態を把握することができます。
この他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
▼中医学的子宮筋腫のタイプと治療方法▼
「気滞」とは主に、精神的ストレスなどにより気の流れが停滞してしまうことです。
「血オ」とは血の流れが停滞してしまう状態をいいます。
気と血は、体の中をいっしょに運行していますので、気滞(血オ)により流れがスムーズでなくなると血(気)の流れも影響を受け、 滞ってしまうタイプです。
その結果、しこりが形成されやすくなっていきます。
●気滞タイプ●
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい、マイナス思考
○筋腫の特徴
・下腹部にしこりがあり、張った感じはあるが触れると堅くはない
・しこりを押すと移動する
・日によっては触れるときと触れない時がある
・痛む部位は一定しない
○月経の特徴
周期:早まったり、遅くなったりその時の精神状態により変わる
血量:少なく、ぽたぽたと出る程度
色 :紫色っぽく、赤黒い色
質 :レバー状のかたまりが血に混じる
○随伴症状
胸や脇、乳房がはって痛む、イライラしやすい、ガスやげっぷが出やすくなる、
頭痛は頭の側面が張って痛む、偏頭痛
○治療方法
気の流れをスムーズにし、しこりを散らしていく「疎肝解鬱」「行気散結」の治療をしていきます。
ツボ:太衝、子宮、関元、帰来、三陰交、内関、合谷
漢方:香リョウ丸
●血オタイプ●
○主な原因
月経中或いは産後、子宮から血が体外へ排出されず(子宮へ)停滞してしまう、
ストレス、冷え、外傷、打撲、手術によるうっ血、過労
○筋腫の特徴
・下腹部にしこりを触れる
・しこりは堅く移動しない
・痛みが強く、触れられるのを嫌がる
○随伴症状
月経中、下腹部が痛む、脹った痛み、腰痛、痛みのため下腹部を押さえるのを嫌がる
○月経血の特徴
月経周期は遅れがち
色:赤黒い
量:少ない
質:レバー状のかたまりが血に混じる
○治療法
血の流れを良くし、停滞した血のしこりを取り除いていく「活血破オ」「散結」の治療をしていきます。
ツボ:子宮、中極、血海、三陰交、合谷
漢方:桂枝茯苓丸
●痰湿タイプ●
「脾」のエネルギーが足りないために、食べた物が気・血・水に変わらず、余分な水分が体内に停滞し、経絡(気の流れるルート)の運行を阻害します。
滞っている状態が長く続きますと「しこり」が形成されていきます。
○主な原因
冷たい水分・甘いもの・味の濃いもの・脂っこいもの、ビール、生ものを多く摂取する、
家が湿気を帯びやすい
○筋腫の特徴
・下腹部の真ん中に堅いしこりを触れる
・しこりを押すと柔らかい
○月経の特徴
周期:遅れがち、
血量:少なめ
色 :黒っぽい赤色
質 :レバー状のかたまりが血に混じる、粘っこい
○随伴症状
白いおりものが多くでる、水太り体質、色白、体が重だるい、痰が多くでる、 頭が重くめまいがする、胸や胃のあたりがもたれる、吐き気、嘔吐をもよおす、手足・目のむくみ
○治療方法
脾の働きを高めることにより痰を作らないようにする「健脾化痰」、しこりを散らしていく「散結」の治療をしていきます。
ツボ:子宮、中極、帰来、豊隆、百会、陰陵泉、三陰交
漢方:開鬱二陳湯、または抑肝散と二陳湯
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます、タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。
●気滞タイプ●
【生活習慣】
イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、ヨガや気功などの呼吸法やストレッチでリラックスできる時間を作りましょう。
その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
【食べ物】~香りの高い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます~
(野菜)春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ、セロリ、
(果物)みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず
(お茶)ジャスミン茶、ミントティー
●血於タイプ●
【生活習慣】
夏は冷房、冬は外気の寒さから体が冷えるのを防ぐようにしましょう。
冷たいものの摂り過ぎは血行を悪くするので気をつけましょう。
寒い季節や冷房で冷えた日は、生野菜は控え、温野菜を摂るようにしましょう。
適度に運動をして、適度な汗をかくよう心がけましょう。
【食べ物】 ~血液の流れを良くする作用のある食べ物を摂りましょう~
(豆類)小豆、黒豆
(野菜)あぶらな、にんにく、にら、ねぎ、しょうが、とうがらし
(香辛料)酢、少量の酒
(お茶)さんざし茶、バラ茶、紅花茶
●痰湿タイプ●
【生活習慣】
甘いものや味付けの濃いもの、油っこい食べ物は控えましょう。
水分代謝が悪く、水太りしやすいので水分の摂りすぎには注意して下さい。また、冷たい物(アイスやジュース)は控えめにしましょう。
運動は規則的にじんわり汗をかくくらいのウォーキングなどがおすすめです。汗だくになってやる必要はありません。
梅雨の時期は湿気の影響を直に受けるので、この時期は食べ物に気をつけましょう。
【食べ物】 ~水分を排出してくれる働きのある食べ物を摂りましょう~
(穀類)はと麦、とうもろこし、小豆、黒豆
(野菜)冬瓜、白菜、山芋、トマト、チンゲンサイ
(魚類)こい、ふな
(果物)すいか、ぶどう、メロン
(お茶)紅茶、ジャスミン茶、杜仲茶、なつめ茶
▼その他日常生活での注意点▼
悩んだり、焦ったり、イライラしたりする気持ち、心身の疲労などが症状を悪化させますので、ストレスはためないよう、運動(ヨガ、気功、など)、軽い散歩などで気持ちが安らぐ空間を持ちましょう。
室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。
お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。
規則正しい生活をし栄養バランスの摂れた食べ物、特にカルシウムやビタミン類をしっかり摂り、十分な睡眠をとりましょう。
さて、お読みになって子宮筋腫にはさまざまなタイプがあり、タイプ別による治療、食養生、生活習慣が重要だということがお分りになって頂けましたでしょうか。
些細なことなのですが日常の過ごし方を少し見直してみるだけで体調が変わりはじめ、 体質改善に繋がっていきます。無理のない範囲で実践し、続けていくことが大事です。
当院では現代医学が苦手とする領域
「検査で問題はないが症状がある」
「活力エネルギーの調整(自然治癒力の底上げ)、体質改善」
「予防と未病の手当て」に力を入れています。
ご質問等ございましたら、お気軽に楊中医鍼灸院までご相談ください。
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吉祥寺|中医学に基づく|子宮筋腫
鍼灸・吸玉(カッピング)療法専門 楊中医鍼灸院
吉祥寺駅より徒歩10分
- 2019/02/20
- 子宮内膜症
女性を悩ませる代表的な病名ですが、どのような病態なのでしょう。
治療方法は西洋医学と東洋医学でかなり違うようですね。
《西洋医学的考え方》
子宮内膜症とは、本来子宮内腔に存在するはずの子宮内膜組織が、子宮以外の場所(主に腹部)にできる病気です。その内膜組織は,本来の子宮の周期と同じように月経期になると剥離・出血しますが、血液を体外に出すことが出来ず、体内に溜めてしまいます。
そのため、激しい月経痛や腰痛・不妊などの原因となったり、チョコレート嚢胞が出来たりすることがあります。
生殖年齢の女性の5%に,子宮内膜症があるという統計があり、やせ型・胃腸下垂型の人に多いようです。
☆症状
激しい月経痛や、月経時以外の下腹部痛が主な症状です。また不妊との関係も指摘されています。
生理時の出血が多くなる事もあります。
☆検査と診断
症状などから子宮内膜症が疑われた場合、内診や直腸診、超音波検査、血液検査(腫瘍マーカー測定)が行われます。確定診断に腹腔鏡検査を行う事もあります。
☆ 治療法
大きく分けて薬物療法と手術療法の2つがあります。
【薬物療法】
子宮内膜症は、卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)によって、病状が進行します。
薬物療法では、卵胞ホルモンの分泌や働きを抑えるホルモン剤を使い、月経を一時的に止めて 病巣を小さくします。
この薬を服用中には妊娠を期待することは出来ません。
痛みの軽い場合は、鎮痛剤のみで経過をみます。
【手術療法】
・
・
・
病状が進行している場合に行われます。
将来、妊娠を希望する場合は卵巣や子宮を残し、病巣のみを取り除きます。
腹腔鏡を使って行われる事が多く、身体の負担も少ないのですが、およそ3割の患者さんは再発をします。
妊娠の希望はなく、閉経までまだ期間が長い場合、女性ホルモンを分泌する卵巣機能の正常な部分のみを残し、子宮を摘出する場合もあります。
閉経間近い患者さんの場合、子宮、卵巣、卵管を全て摘出します。
再発はなくなりますが、更年期障害のような症状が出ることがあります。
《中医学的考え方》
中医学では、子宮内膜症は子宮内膜異位症とも言われ、本来あるべきではない位 置に子宮内膜が増殖し、生理のように剥離・出血をくりかえす病態で、出血した血液の行き場がないところに問題があります。
この状態を中医学では「お血(おけつ)」といいます。(身体の中の血がどこかで滞っている状態です)
中医学では、身体のしくみの考え方が、西洋医学とは少し違います。
人間の身体を車に例えると、エンジンにあたるのが『五臓六腑』で、ガソリンにあたるのが、『気・血・水』です。
エンジンとガソリンのどちらに問題があっても、車は動きませんね。
人間も同じように、五臓六腑の働きを整えるのと同時に、『気・血・水』の働きも整えて、初めて 健康を維持する事が維持出来るのです。
中医学では、生命活動の源として働くものは『気・血・水』であると考えています。
気というのは、気持ちの気と同じような意味合いもありますが、中医学では、活力という意味であり、 血脈の流れを推進したり、臓器組織の活動を促進したり、人体を栄養する作用もあると考えます。
血は血液という意味よりも広く考えて全身を栄養するだけでなく、精神活動も支えています。
水は津液とも言われ、身体をうるおす水分の事です。
これらは飲食から得られ、五臓六腑で消化吸収して作られていきます。
気・血・水は『経絡』という、人体の上下・内外を貫く道筋によって、全身を流れ、栄養したり、 臓器の機能を調節したりしています。健康な状態では、経絡は全身を滞る事なく流れています。
これらのどこかに問題がおこることにより、身体のバランスが崩れます。
そしてその微妙な崩れは、日頃の体調(食欲・排尿・排便・睡眠・疲労感・主訴以外の症状)などにも 現れますし、他覚症状としては、顔色や脈状・舌の色や形にも現れてきます。
少しだけバランスが崩れた時、早めに治療をすれば、大きな病になることなく、 元の健康な状態に戻ることが出来ます。
これを『未病治』といい、病になる前のケアで治す、東洋医学の基本概念でもあります。
バランスの崩れが進んで、病に陥った場合も、治療の目的はバランスを整える事ですから、 細かい症状のすべてを総合し、その人全体をとらえて、どのように治療したら良いかを決めていきます。
経絡の流れを良くしてあげる事は、身体機能のバランスをとり、 健康な状態に近づけることにつながりますから、 中医学的治療を続けると、主訴がとれていくだけでなく、自然治癒力が増すなど、人間の基本的な生命力が強くなっていきます。
ですから、赤ちゃんのころから、中医学的養生を続けていると、根が深い樹木が太く高い木になるように、強く生命力のある子に育つでしょう。
高齢者においては、若返ることはないにしても、老化のスピードを遅くすることは出来ますから、元気に天寿を全うする事ができるでしょう。
治療においては、ただ単に痛みのある部位だけではなく、経絡上で、その流れを良くしてくれる作用のあるツボや、滞りを除いてくれるようなツボも使っていきます。
ツボにはそれぞれ特性がありますから、その詳しい効能を考慮し、効果 的な組み合わせを考える事も大切です。
頭痛の治療にも、手足のツボを使いますし、特効穴が手にあったりするのは、ツボの特性を利用しているからです。
子宮内膜症の話に戻りましょう。
子宮内膜の症状は主に生理痛などの激しい腹痛です。
基本的な原因は、気血の流れが悪くなり、オ血(おけつ・血の滞り)が出来るためです。
かなり痛みがひどく、鎮痛剤を服用してしまう方も多いようですね。
話は少しズレますが、鎮痛剤について考えてみましょう。
最近の鎮痛剤の作用機序は、痛みを感じる元の物質〔発痛物質〕の働きを止めるものがほとんどです。
痛みは感じなくなるかもしれませんが、果たして身体への影響は大丈夫なのでしょうか?
生理痛の原因は気・血の滞りです。
ただでさえ流れが滞っている身体に、さらに普通の働きを止めてしまうものを与えてしまって いいわけがありません。
本当は気血の流れを良くしてあげるお手当てをするべきなのですから・・・。
「すべてのものには意味があります」発痛物質にも大切な意味があるのです。
痛みは身体の異常を伝えるメッセージです。「ここに異常がありますから、なんとかして下さい」と、脳に伝えてくれる役目をしているのが、発痛物質です。その働きをむやみに止めてはいけません。
動けないほど痛い時は、本当は寝ているべきなのです。
横になり、暖かくして消化のいいものをとり、気血の流れを少しでも良くしてあげれば、 自然治癒力が治してくれます。
しかし、現代社会では、もちろん呑気に寝ているわけにはいきません。
鎮痛剤を飲んで動かなければいけない事も多いでしょう。
でも忘れないで下さい、身体は困っているのです。
痛みは感じなくても、いたわってあげて下さい。
なるべく気血の流れが良くなるように、時々深呼吸をするとか、胃腸に負担をかけないようにする・ 早めに寝るようする・等、ちょっとの努力で出来る事は沢山あります。
飲んですぐ効く薬というのは、つまり身体のバランスをすぐに崩してくれるものです。
やむなく服用した場合は、バランスを良くしてあげる事も合わせてしてください。
さて、中医学の話に戻りましょう。
中医学ではどのように子宮内膜症を治療していくのでしょうか。
患者さんの、その時の症状を細かく伺い、
舌診・脈診を通して体質をつかみ、食べ物の嗜好や生活習慣(食欲・排尿便・睡眠)等も加味したうえで、 診断をし、その人その人にあった治療をします。
身体全体のバランスを良くするというのが、目標です。
子宮内膜の主な原因である「血の滞り」は、なぜ起こるか考えてみましょう。
大きく分けて、以下の三つ原因があります。
1. 滞血オ : 気の流れが滞りその結果として血が滞る
2. 凝血オ : 寒邪(冷え)が身体に侵入し血が滞る
3. 気虚血オ: 気を流す力が弱く気滞を生じ、その結果血も滞る
【原因別 主な症状・治療法・日常の養生について】
1. 気滞血オ
症 状:
治 療:
養 生:
お勧め
の食品:
漢方薬:
精神的ストレス、イライラ、下腹部の張痛。生理の時、血の塊が出ると痛みが軽くなる。
「気」の流れを改善して、心身をのびやかに保ち、血行を良くする治療をします。
ヨガや気功などの呼吸法、ストレッチ等でリラックスしましょう。
シソの葉、梅、みょうが、みかん、レモン、ジャスミンティー、ミントティー等
血府逐お湯(けっぷちくおとう)
2.寒凝血オ
症 状:
治 療:
養 生:
お勧め
の食品:
漢方薬:
手足の冷え、寒がり、薄着、生ものや冷たいものの飲食を好む。生理痛は暖めると軽減する。
身体を温めて血流を良くする治療をします。
夏でも冷房などで冷えてしまう事がありますから、上着を着るなど、こまめに体温の調節をして、日頃も身体を冷やさないようにしましょう。
ショウガ、にんにく、シソ、ネギ、鳥肉、ジンジャーティーなど
少腹逐お湯(しょうふくちくおとう)、温経湯(うんけいとう)
3.気虚血オ
症 状:
治 療:
養 生:
お勧め
の食品:
体力がない、すぐ疲れる、やせ型、胃下垂、虚弱体質
体力をつけ、血行をよくする。「気」を補って血流を正常にする治療をします。
日常の食事をバランス良くとり、睡眠をしっかりとるようにしましょう。
梅、キクラゲ、しじみ、ショウガ、なつめ、クコの実、豆腐、なつめ茶など
漢方薬:
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)四物湯(しもつとう)
なお、子宮内膜症は、下腹部痛以外にも、生理の量が多くなる・生理の期間が長くなる等で出血が多くなる場合もあります。
その際、生理中は、必要以上に出血が多くならないようにする配慮も必要ですし、生理中とそうでない時では、治療法も違う場合があります。
個人個人の体質に合わせて治療を行います。お気軽に当院までご相談くださいませ。
- 2019/02/20
- 痔
痔とは、日本人の大人の3人に1人がかかっているといわれるくらいポピュラーな病気です。
肛門からの出血、膿が出る、かゆみ、痛み、排便時にすっきりしないなどの不快感を持っている方も多いのではないでしょうか?
痔には様々な原因といくつかのタイプがありますので、それぞれのパターンでみていきましょう。
☆痔の種類
○痔 核-
ぞくに「いぼ痔」といわれているものですが大きく分けて2種類あります。
内痔核-
肛門の中の直腸静脈叢がうっ血して感染腫脹を起こしてできたものです。
外痔核-
肛門外側の皮下の静脈叢が血栓を形成し炎症を起こしてできたもので痛みを伴います。
○裂 肛-
肛門管が硬い便の排出時に裂けた肛門の傷です。ひりひりと激しく痛みます。
○痔ろう-
肛門小かから感染が起こり肛門腺かが化膿して肛門周囲膿瘍になり、それが慢性化して肛門外に排膿を繰り返すようになるとなります。
☆原因
肛門に過度のストレスがかかってくると起きやすくなりますが、重たい物を持ったり、女性であればお産、トイレ長時間の座り姿勢や立ち姿勢などがあげられます。また普段のこういった状態に便秘(必要以上に力む)、下痢(肛門内の感染や便の勢いが強いために負担がかかる)がともなうとよりいっそう痔になりやすいです。また、冷えやストレスでの血行障害においても肛門部の血流が悪くなってしまうので痔が形成されやすいです。
☆治療
まずは自分のライフスタイルをかえりみることです。便秘や下痢であれば普段の食生活から見直す必要がありますし、辛いものやアルコールなどを制限することも大事です。
また、長時間の座りっぱなしも血行を悪くさせてしまうので、歩くなどの軽めの運動をしてあげると良いでしょう。血行改善ということでは、体を冷やさないということも頭に入れておかなければなりません。その場での症状改善というならば、座薬や軟膏などを使いますし、かなり症状が悪化しているときは、手術の必要性も出てくるでしょう。
☆中医学で診る「痔」疾患とは
中医学においても「痔」の定義は、現代医学とほぼ差異はなく肛門の内外に痔核が出来た状態で痛みや、かゆみ、出血等、または脱肛となるのですが原因や成り立ちにいくつかのパターンがあるのです。ここではそのパターン別 に「湿熱」、「気虚下陥」、「お血」というキーワードをもとに説明していきます。
☆湿熱とは
「湿」とは体の中において粘っこい、重だるいなどのマイナス面を持ち合わせるものですが、発生的には2パターンあって外から入ってくるパターンと体の中の失調が原因で発生するパターンとあります。
○外から入ってくる場合は湿気の多い場所に長時間いたり、梅雨の時期など体に入ってきやすいですが、気温が高くなったり、高温多湿の場所においては熱を発生するので「湿熱」となります。
○体の中の失調の場合には、水液代謝に関係する臓ふの働きが弱まっていたりすると「湿」が発生します。特に「脾」という臓ふがありますが、食べ物から水分を取り出して全身に送る「水液運化作用」という働きがありますが、冷たいものや油っこいもの、甘いものを取りすぎることで「脾」の「水液運化作用」がうまくいかなくなってしまい体に「湿」がたまるのです。
体質的に熱がこもりやすい人などは、味の濃いものやアルコール摂取で「湿」に「熱」が加わった「湿熱」を発生させやすく、これが腸に停滞すると痔になりやすいのです。
この手の「痔」症状にはまず、体の中の余分な「湿」と「熱」を取り去るお手当てが必要となってきます。
☆気虚下陥とは
体の中での気の働きが正常であれば、内臓が正しい位置で安定させ、また上に昇る力があります。しかし、出血や食べ物から気、血が作られないということであれば体の中の気が不足し、「気虚」という状態になります。ここでまた「脾」という臓ふが登場しますが「脾」の主な働きに食べ物を気、血に変えるというものと気を上に昇らせるというものがあります。
しかし、この「脾」の働きが弱くなってしまうと気、血は作られず、気は上に昇れず、内臓は下垂してしまい力ない状態になります。「痔」症状においては痔核が飛び出す、もしくは脱肛になります。
こういった場合はまず「脾」の力をアップさせ、気や血がしっかり作り出せ、気の上に昇る働きを取り戻すお手当てが必要です。
☆お血とは
血は、正常であれば体内を巡る「経脈」というルートの中を流れていますが、それが「経脈」から出て体内に留まったり、「経脈」、「臓ふ」の中で滞ったりした血をいいます。
☆お血になる要因として
「気虚」、「気滞」、「血熱」、「血寒」によるものがあります。
それぞれのパターンをみていきましょう。
○「気虚」によるものは過労であったり、長患いで体内のエネルギーが消耗し、血を「経脈」を流せなくなり、滞ることによりお血になります。
このタイプには「先天の気」(生まれたときから持ってる気)、「後天の気」(食べ物や呼吸によって得られる気)を管理する「脾」、「肺」、「腎」をそれぞれパワーアップさせるようなお手当てをすると良いです。
○「気滞」によるものはストレスなどにより、「肝」の気が滞ってしまうことによってお血になります。
「肝」は正常であれば気を伸びやかに全身に送り出す働きがありますが、ストレスなどが加わるとうまく送り出すことが出来なくなってしまうからです。
このタイプには「肝」の働きをパワーアップしてあげるようなお手当てをすると良いです。
○「血熱」によるものは、熱邪(外から入ってくる攻撃因子)が血に入ってきたり感情が鬱積して体内で熱と化して発生することで血が熱によって煮詰められた状態になり、流れが悪くなることでお血になります。
このタイプは体内に熱がこもりやすい体質なので、熱を発散させたり熱をためやすい食べ物の摂取を控えるなどのお手当てをすると良いです。
○「血寒」によるものは、寒邪(冷えて流れを滞らせる働きのある攻撃因子)が血に入ってきたり体内で体を温める陽気が減ってくると血が冷えて滞り、お血が出来てしまいます。あるいは寒冷の飲食物を摂取しすぎて体を冷やしてしまい血が冷えてしまうケースがあります。
このタイプは体を冷やしやすい体質ですので、体を温める作用のある食べ物を摂取したり、外から入ってくる邪を守ってくれるバリアー役の気の働きをパワーアップさせてあげると良いのです。
このお血が肛門のまわりで起きてしまうと「痔」症状になりやすいです。
お手当てとしてはどういったパターンでお血が起きたのかを把握し、その状態を改善することで「痔」という症状を治療することにつながるのです。
痔になったときに、患部の周囲の血流改善や鎮痛効果の高いツボを使っただけでは根治にはなりません。まずは今の自分の体 はどうなっているんだろう?というところから始まり、その体の根本的な治療をしていくことで痔というおもてにあらわれた症状を治すことにつながるのです。
痔に関しておわかりになっていただけましたでしょうか?治療というものは対症療法的な治療も大切ですが、根本的な起因に対して着手してお手当てを行うのも大切かと思います。
中医学的治療を試みたい方はお気軽に当院へ。
また中医学(東洋医学)全般(鍼灸、漢方、食療、健康茶)に関する質問等も承っております。
◎ 当院での治療をお考えへの方へ
= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1~2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。
これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。
少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。
- 2019/02/20
- 耳鳴り
西洋医学的な耳鳴りの捉え方
今日では耳鳴りを完全になくすことのできる薬や決定的な治療法はありません。
最新の治療法としては「TRT療法」が挙げられます。
「TRT療法」とは?
耳鳴りを「意識しないように訓練する」
そして、「それに慣れる」ということに焦点を挙げた治療法
耳鳴りを知覚しないように訓練する、
つまり、音に慣れるということを焦点に挙げた治療法です。
耳鳴りについては現代医学では原因がよくつかめていません。
根本的な治療法も確立されていないのが実情です…
東洋医学的な耳鳴りの捉え方
東洋医学(中医学)では…
1.体内で生まれた病因物質(邪)によって耳の感覚が妨げられる
2.内臓の機能が衰え、全身の活動に必要な基本物質(気・血・津液)が不足する
ことによって耳が正常に機能することができなくなるために、耳鳴りが起こると考えます。
耳などの感覚器(目・舌・唇・鼻・耳)は、それぞれ五臓(肝・心・脾・肺・腎)の機能と密接に関係し、耳は腎と関連が深いと考えられています。
中医学の腎とは?
現代医学でいう腎臓の働き以外に、
内分泌(ホルモン)系、脊髄、脳の働きまでひっくるめた幅広い意味があります。
中国医学独特の考え方
「腎は精を蔵す。精は髄を生じ、脳は髄の海」
腎の精とは?
人間の成長、発育、生殖にとても必要であり、現代医学でいうホルモン系に似ています。
精は、生命力の根源である元気をもたらしてくれます。
よく「精が出るね!!」などと言ったりしますが、この考え方がもとになっているのかもしれませんね。
精は腎臓を介して活性化され、元気というエネルギーを作りだします。
骨や髄は精から作られ、髄が集まって脳ができるという考えかたから、感覚器とつながる脳も腎と密接に関係しています。
つまり、中医学でいうところの腎のエネルギーは精を蔵し、髄を生み、脳に通 じて耳の働きと関わる臓腑なのです。そして、病気による消耗や老化による腎精の不足が基盤となって、脳が空虚になり、耳鳴りを引き起こすと考えています。
故に東洋医学では(中医学)では、おおもとになっている腎をベースに治療します。
耳鳴りの原因を診断するには?
耳鳴りの症状は耳に集中して現れますが、
中医学ではその病因の多くは、
内臓の失調(肝・心・脾・肺・腎)にあると考えています。
この為、耳鳴りを診断する際に耳以外の部位も観察、診断しなければ、よい治療効果 を得ることができません。
耳鳴りをタイプ別に区別すると…
虚・実という2つのタイプに分類することができます。
◎ 病因物質によって起こる耳鳴りは「実」
◎ 基本物質の不足によって起こる耳鳴りは「虚」
更におのおの2つの計4つに分類することができます。
タイプ1.肝火による耳鳴り(肝火上炎)……実
肝の内臓の失調が欝結しているタイプの人です。
肝の気の欝結状態が続くと…
火を生みだす原因のひとつになります。
肝の気は、スムーズに流れるのを好みます。流れがスムーズでなくなると、欝結(気の渋滞)を引き起こし、それが長引くと熱化します。これが火を生み出す過程になります。
火には上昇の性質があり、昇発(肝の機能形態。春になると若芽がすくすくと伸びるように体の上部や外方に向かって機能を発現させます)を主る肝の火はさらに上昇しやすくなり、頭部の症状が最も多く現れます。
主な症状
・ 耳鳴りの症状は情緒の変化に左右されやすい
・ 気分が滅入ったり、激怒などにより急激に起こる
・ 耳が張ったり、耳痛がある。
随伴症状
口が苦い・目が赤い・便秘・尿が赤いなど
タイプ2.痰火による耳鳴り(痰火欝血)……実
栄養の代謝が悪くなるタイプの人です。
油もの、飲酒等の過食などで食生活の不摂生が脾の機能を失調させてしまい、代謝が悪くなり基本物質の1つである津液の流れが滞り、粘液性の病因物質に変わります。
中医学の脾とは?
脾の働きは口の中に入った食べ物が胃に届くと、胃は食べ物を更に細かくします。その栄養物を消化吸収して血に変えて全身へ運ぶ準備をします。血を運ぶだけでなく秩序を保ちながら正常に運搬されるように支持します。脾は湿気などを嫌がる性質を持っています。西洋医学の脾臓とは違って主に、消化吸収機能、栄養代謝機能を担う重要なところです。
主な症状
・ 重く濁った音がする。
・ 耳が閉塞してはっきり聞こえずらい
随伴症状
口が苦い・口が粘る・めまい・頭重感・大小便がすっきりしないなど
タイプ3.腎精虚損による耳鳴り(腎精虚損)……虚
生命のエネルギーのおおもとが不足するタイプの人です。
腎の衰えからくる虚証の耳鳴りはジージーとセミが鳴くような小さな音が持続し、周りが静かになった夜間など、特に気になるといった特徴があります。この他、眠りが浅い、のぼせ、イライラ感、といった症状を伴うこともあります。
主な症状
・ 蝉の鳴くような低い細い音の耳鳴りがする
・ 夜になると耳鳴りがひどくなる
随伴症状
不眠・聴力の低下・腰や膝がだるく力が入らない
タイプ4.脾胃虚弱による耳鳴り(脾胃虚弱)……虚
消化吸収力が低下してしまっているタイプの人です。
虚弱体質や過労、ストレス、食生活の乱れなどによって脾胃の消化吸収力が低下すると
栄養分を全身に送り出す力が不足してしまいます。
耳が栄養不足になって起こってしまう耳鳴りです。
主な症状
・ 疲労で耳鳴りが憎悪。休むと良くなる
・ 立ち上がったり、かがんだりするときに憎悪
・ 耳の中が空虚になる感じや冷える感じがある
随伴症状
倦怠感・脱力感・めまい・腹部膨満感・食欲減退・下痢しやすいなど。
耳鳴りにもさまざまなタイプがあることが少し理解して頂けたでしょうか?
中医学はお一人お一人の症状に合わせて治療方法がことなります。
具体的には・・・
治療方法(方針)
タイプ1.肝火によるもの
「 清肝瀉火 」
肝の火を清瀉し、少陽経脈(耳をまとうツボの道筋)の疏通をする促すことによって耳の通 りを良くします。
漢方 竜胆瀉肝湯 …ストレスや情緒不安によって誘発される耳鳴り
タイプ2.痰火によるもの
「 清熱化痰 」
熱を抜き去り、体に生産された痰湿を改善することによって耳の通りを良くします。
漢方 黄連解毒湯 抑肝散加陳皮半夏…耳の閉塞感が著しく、頭重感などを伴う耳鳴り
タイプ3.腎虚によるもの
「 補益腎精 」
腎精を補って耳を滋養し、さらに局部の気血運行を促します。
漢方
耳聾左慈耳鳴丸…昼夜の別なく常時つづく耳鳴り
腎を強化する補腎薬を中心に用いる。腎の精を補う熟知黄や、山茱萸など六味地黄丸の成分に、頭部の興奮を鎮めて精神安定作用のある磁石を加えた、耳鳴丸のような処方を基本に、症状によって他の処方や薬物を加えて治療する。
タイプ4.脾胃虚弱によるもの
「 益気健脾 」
健脾により気血の生化や気血運行を促し、耳の補益をはかります。
漢方 補中益気湯・・・疲れたときに憎悪する耳鳴り
~ 食養生 ~
養生とは自ら生命を養うと書きます。
食事に気を配って耳鳴りに効能作用のある食事を心がけましょう。
こちらもタイプ別に明記してあります。ご参考ください。
1.肝火上炎タイプ
涼性の大根や梨 菊花 セリ 柿 くらげ セロリ など
菊花
昔は菊枕というのがあって、菊の花びらを乾燥させた物を詰めた枕だそうです。今で言うアロマテラピー(芳香療法)ですが、頭痛、めまい、耳鳴りなど神経系の病気に効果 があります。菊の花には 野菊花と甘菊花の2種がありますが食用になるのは甘菊花の方です。
9月9日の重陽の節句といって、菊の花びらを杯に浮かべて菊花酒を飲んだそうです。
また、このタイプの方は・・・
辛温燥熱の性質を持つタバコ・アルコール・唐辛子・にんにくなどの食品を控える必要があります。夜は濃いお茶やコーヒーを飲まないほうが無難です。
特にコーヒーは辛温助火の弊害があり、耳鳴りを憎悪する作用をもつといわれています。
2.痰火欝結タイプ
さっぱりとした野菜類を中心としたメニューをお薦めします。
(例えば、昆布・海藻と大根のスープ・薄味の味噌汁など)
日頃の運動不足、不摂生な食事など、生活のリズムをまず調えることが肝心です。
3.腎精虚損タイプ
日頃の生活において、まず、過労を避けることが大切になります。
黒ゴマ・黒豆・牛乳・合鴨のスープなど
4.脾胃虚弱タイプ
レンコンの梅肉あえ 山芋など
山芋は中国語で「山薬」とも呼ばれています。古来より滋養強壮の漢方薬としても、用いられてきた野菜です。また消化酵素を多量 に含んでいますので、胃弱の方におすすめの食材です。
最後に…
同じ東洋医学の中でも、この治療方法は中医学を勉強していないと上記のような診断はできません。
実際、中医学を主とした治療を行っている治療院は日本でも数少ないのが現状です。
耳鳴りがあるからといって、耳の近くに針をさせば、改善されるという簡単なものではありません。
耳鳴りの原因となっている体の中のひずみを調整することが、根本的な治療になることをここで強く述べさせて頂きます。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
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