赤ちゃんがほしいけれど妊娠しない。カップルのおよそ10%にみられる症状です。
近年、現代医学では不妊治療が発展し、様々な角度から治療が受けられるようになりました。しかし、器質的異常(身体的異常)はなく原因不明と診断された不妊症に対しては、ホルモン療法や排卵誘発剤、体外受精などの治療方法がほとんどです。
このような場合中医学では、体全体の働きを調え、妊娠・出産へ必要な体作りを手助けしていきます。妊娠しやすい環境をつくることにより、ホルモン療法や人工受精、体外受精での治療効果
も高まり安定した妊娠、出産へと結びついていくと思います。
不妊の原因は、男性に問題がある場合(精子欠乏や無精子症、精路通
過障害など)と女性に問題がある場合(子宮発育不全、排卵障害、輸卵管、子宮、子宮頸部、子宮内膜症)がありますが、今回は主に女性側の治療方法を中心に説明していきたいと思います。
▼現代医学的診断・治療方法▼
子宮発育不全、排卵障害、輸卵管、子宮頸部狭小、子宮内膜症など、器質的な異常に基づく不妊症は、現代医学での検査、治療が有効といえます。
また、器質的に異常がない場合でも、中医学とうまく使い分けて治療することにより効果
が高まりやすく、産後の体への負担も軽減され、丈夫な胎児が授かるかと思います。
▼中医学的診断・治療方法▼
中医学では、主に器質的に異常がない、原因不明の不妊症に効果を発揮します。
生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)や月経の状態(周期・期間・月経量
・質・色、月経に伴う不快な症状など)、基礎体温表などから体の状態を詳しく問診し中医学独特の診断方法(後述)を用いて診察していきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。
また不妊症を招く要因の一つとして、日々の患者さん自身の生活習慣や食生活も改善していく必要があり(詳しくは下記の「タイプ別
にみる生活養生・食養生」を参照してください)、生活指導もしていきます。
治療効果は個々それぞれ(治療の効きやすさ、治療に通うペース、その人の生活環境などにより現れる効果
は様々です)ですが、体質を改善していくため時間はかかります。
そのため、すぐには目にみえて効果がわかりづらいため、途中で治療を断念してしまう方も
少なくありません。精神的なストレスなど治療の過程中では様々な思い、不安を抱きやすくなってくる方もいます。
そのようなときは、私達スタッフにお気軽に相談してください。
一緒に体質改善の治療をしていき、待望の妊娠、出産への道のりをともに歩んで行けたらと思います。
▼中医学的からだのしくみ▼
〜「気」「血」「水」とは〜
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量
で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。
さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。
〜臓腑の働きとは〜
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。西洋医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。ですので、西洋医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。
中医学的にみた婦人科疾患で重要な臓腑の働きは下記のようになります。
| 『肝』・・ |
1. |
全身の気の流れをスムーズにし、各器官の働きを助けます。
伸びやかな状態を好むため、精神的ストレスなどを受けると働きが低下し、他の器官の働きに悪影響を与えます。この状態を「気滞」(気の流れがとどこおる)といいます。 |
| |
2. |
全身の血液量をコントロールし、蓄える働きがあります。
ですので、肝の働きが弱まってしまうと血液を蓄えることが出来なくなるため(肝が支配している器官である)目のかすみ、爪が割れやすくなる、手足がしびれる、筋けいれんが起こりやすくなったりします。 |
| 『脾』・・ |
1. |
食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。 |
| |
2. |
エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。
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| |
3. |
血を脈外に漏らさないようにする働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。 |
| 『腎』・・ |
|
生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。
このエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの状態があらわれます。
女性では、月経不順や不妊症、閉経などの原因になります。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。 |
▼中医学的不妊症のタイプと治療法▼
●腎陽虚タイプ●
先天的に腎のエネルギーが弱いか、冷たいものの過食などから体の陽気が損なわれ、
子宮が温められず妊娠できないタイプです。
○主な原因
生まれつき体質が虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
腰や膝が重だるく痛い、下腹部が冷える、顔色が暗い、尿が希薄で量
が多い、性欲低下。
○月経血の特徴
月経周期は遅れる
量:少ない
色:薄い赤色(淡い)
質:さらさらしている
月経はあったり、なかったり様々、ひどいときは閉経
○治療方法
体を温め、活動力を増す「温補腎陽」の治療をしていきます。
ツボ:腎ユ、命門、関元、三陰交
漢方:八味地黄丸
●腎陰虚タイプ●
子宮を養う「精や血」、体を潤す「水液」が不足した状態で子宮の機能がうまく働かず妊娠できないタイプです。
○主な原因
生まれつき体質が虚弱体質、長期間の過労、性交過多による腎エネルギーの損傷
○随伴症状
腰・膝が重だるく痛い、やせている、めまい、耳鳴り、動悸、不眠、手足がほてる、咽喉が乾く、寝汗をかく
○月経血の状態
月経周期は早まる
量:少ない
色:紅い
質:少し粘る
○治療方法
体を養う血、潤す働きを高める「滋陰養血」の治療をしていきます。
ツボ:腎ユ、太ケイ、復溜、関元、三陰交
漢方:六味丸
●肝気鬱滞タイプ●
感情的なストレスが原因で気の流れを調節する「肝」の働きが損なわれ、気の流れが滞ることによって妊娠のための機能が乱れて妊娠できないタイプです。
○主な原因
精神的ストレス、イライラしやすく怒りっぽい人、マイナス思考
○随伴症状
イライラしやすく怒りっぽくなる、ため息がよく出る、 月経前、胸や下腹部が脹って痛む。
これらの症状は精神的ストレスにより悪化します。
○月経血の特徴
月経周期は早まったり、遅くなったりとその時の精神状態によります。
量:多かったり、少なかったりさまざま
色:少し暗めの赤色
質:レバー状のかたまりがでる
○治療法
肝の気のめぐりをよくし、調えていく「疏肝解鬱」の治療をしていきます。
ツボ:太衝、ダン中、内関、関元、三陰交
漢方:加味逍遥散、抑肝散
●痰湿内阻タイプ●
「脾」のエネルギーが足りないために、食べた物が気・血・水に変わらず、余分な水分が体内に停滞し、気血の流れを妨げ妊娠できないタイプです。
○主な原因
冷たい水分・甘いもの・味の濃いもの・生ものを多く摂取する。
○随伴症状
白いおりものが多くでる、水太り体質、体が重だるい、痰が多くでる、頭が重くめまいがする、胸や胃のあたりがもたれる、吐き気、嘔吐をもよおす、手足・目のむくみ
○月経血の特徴
月経周期は遅れる
色:うすい赤色もしくは、黒っぽい赤色
量:少なめ
質:粘っこい
○治療法
脾の働きを高めることにより痰を作らないようにする「健脾化痰」、エネルギーの流れ調え、栄養が子宮へ行くよう促す「理気調経」の治療をしていきます。
ツボ:(鍼)足三里、中カン、豊隆、陰陵泉
(お灸も一緒にすると効果が高まります)
漢方:二陳湯、五苓散
●血オタイプ●
血の流れが滞ることにより気の流れもスムーズに流れなくなります。子宮や妊娠に関与するルートが阻害され妊娠できないタイプです。
○主な原因
月経中或いは産後、子宮から血が体外へ排出されず(子宮へ)停滞してしまう、ストレス、冷え、外傷、打撲、手術によるうっ血、過労
○随伴症状
月経中、下腹部が痛む、脹った痛み、腰痛、痛みのため下腹部を押さえるのを嫌がる
○月経血の特徴
月経周期は遅れがち
色:赤黒い
量:少ない
質:レバー状のかたまりが血に混じる
○治療法
血の流れを良くし、停滞した血を取り除いていく「活血化オ」の治療をしていきます。
ツボ:中極、血海、三陰交、気海
漢方:桂枝茯苓丸、折衝飲、桃紅四物湯
▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分の月経血の特徴や随伴症状などからタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます、タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。
●腎陽虚タイプ●
| 【生活習慣】
|
| ・ |
普段よりいっそう体が冷えやすい生理中は、体を冷やさないよう充分気をつけましょう。 |
| ・ |
冷えやすい下半身は下腹部や腰部にカイロをはって、しっかり温めましょう。 |
| ・ |
体を温める食べ物を摂るようにしましょう。 |
【食べ物】
〜体を温め、活動力を増す作用のある食べ物を摂りましょう〜
| (穀 類) |
もち米 |
| (肉 類) |
羊肉、鹿肉、牛肉 |
| (魚介類) |
えび、なまこ |
| (野 菜) |
にら、ねぎ、ししとう、かぼちゃ、しょうが、にんにく |
| (木の実) |
栗、くるみ |
| (香辛料) |
酒、シナモン、黒砂糖、ウイキョウ(フェンネル) |
| (お 茶) |
杜仲茶、ジンジャーティー黒砂糖入り |
●腎陰虚タイプ●
| 【生活習慣】
|
| ・ |
体を養う血の消耗につながる生活は避けましょう。 |
| ・ |
睡眠はしっかりとり、生理中は血を消耗させやすいのでパソコンの使いすぎ、テレビの見すぎ、夜更かしは避けましょう。 |
| ・ |
血を補い、体を潤す働きのある食べ物を摂るよう心がけましょう。 |
【食べ物】
〜体を冷まし、潤す作用のある食べ物を摂りましょう〜
| (乳製品) |
豆乳、牛乳 |
| (肉 類) |
豚の皮、鴨肉、豚肉 |
| (魚介類) |
いか、牡蠣、すっぽん(とくに甲羅の部分) |
| (野 菜) |
山芋、白きくらげ、黒きくらげ |
| (果
物) |
なし、もも、ぶどう |
| (木の実) |
クコの実、くるみ、黒ごま |
| (お 茶) |
桑の実とクコの実のお茶 |
※腎陽虚はからだを温める働きのある食材を、腎陰虚はからだに潤いを与える食材です。同じ「腎」でも作用させる働きが180度違いますので気をつけて摂取してください。
●肝鬱気滞タイプ●
| 【生活習慣】
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| ・ |
イライラしやすく、ストレスを感じやすいこのタイプは、ヨガや気功などの呼吸法やストレッチでリラックスできる時間を作りましょう。その時、室内でアロマオイルやお香を焚くと、気持ちが静まり部屋の空気も変わるので心身ともに気分が落ち着きます。 |
| ・ |
お風呂に入る時や寝る前に、みかんやレモンの柑橘類の皮を袋に入れて香りを楽しむのもよいものです。 |
【食べ物】
〜香りの濃い食べ物を摂ることにより鬱々とした気持ちを発散してくれます〜
| (野菜) |
春菊、三つ葉、みょうが、シソの葉、パセリ、セロリ |
| (果
物) |
みかん、レモン、グレープフルーツ、きんかん、ゆず |
| (お茶) |
ジャスミン茶、ミントティー) |
●痰湿タイプ●
| 【生活習慣】
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| ・ |
甘いものや味付けの濃いもの、油っこい食べ物は控えましょう。 |
| ・ |
水分代謝が悪く、水太りしやすいので水分の摂りすぎには注意して下さい。
また、冷たい物(アイスやジュース)は控えめにしましょう。 |
| ・ |
運動は規則的にじんわり汗をかくくらいのウォーキングなどがおすすめです。汗だくになってやる必要はありません。 |
| ・ |
梅雨の時期は湿気の影響を直に受けるので、この時期は食べ物に気をつけましょう。 |
【食べ物】
〜水分を排出してくれる働きのある食べ物を摂りましょう〜
| (穀類) |
はと麦、とうもろこし、小豆、黒豆 |
| (野菜) |
冬瓜、白菜、山芋、トマト、チンゲンサイ |
| (魚類) |
こい、ふな |
| (果
物) |
すいか、ぶどう、メロン |
| (お茶) |
紅茶、ジャスミン茶、杜仲茶、なつめ茶 |
●血オタイプ●
| 【生活習慣】
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| ・ |
夏は冷房、冬は外気の寒さから体が冷えるのを防ぐようにしましょう。 |
| ・ |
冷たいものの摂り過ぎは血行を悪くするので気をつけましょう。 |
| ・ |
寒い季節や冷房で冷えた日は、生野菜は控え、温野菜を摂るようにしましょう。 |
| ・ |
適度に運動をして、適度な汗をかくよう心がけましょう。 |
【食べ物】
〜血液の流れを良くする作用のある食べ物を摂りましょう〜
| (豆 類) |
小豆、黒豆 |
| (野 菜) |
あぶらな、にんにく、にら、ねぎ、しょうが、とうがらし |
| (香辛料) |
酢、少量の酒 |
| (お 茶) |
さんざし茶、バラ茶、紅花茶 |
▼その他日常生活での注意点▼
| 1. |
基礎体温を毎日つけましょう。
基礎体温を測ることにより自分の体の状態(体内リズム)を目でみてわかることが出来ます。
|
| 2. |
月経1週間前は、消化しやすく栄養に富んだ食べ物を多く摂るようにしましょう。豆類、魚類の高たんぱく食、緑黄色野菜、果
物、適度な水をバランスよく摂ることにより月経中に失われる血液を補うことができます。 |
| 3. |
体を冷やさないようにしましょう。(特に月経中)
冷たい飲み物や冷たい風に直接あたらないよう気をつけましょう。 |
| 4. |
月経後は栄養に富んだ食べ物を多く摂るようにしましょう。
(たんぱく質、鉄、食べ物、主に、肉類、動物のレバー、牛乳、乳製品) |
| 5. |
睡眠はしっかりとりましょう。 |
| 6. |
ストレスはためないよう、運動(ヨガ、気功など)、読書、散歩などで気持ちが安らぐ空間を持ちましょう。 |
さて、お読みになって不妊症にはさまざまなタイプがあり、タイプ別
の治療手当てが必要だということがお分りになって頂けましたでしょうか。
●当院では治療にあたって、患者さんサイドにも身体に関する学習をしていただく場合があります。自分自身の体の働きを理解することにより、納得のいく治療が受けられまた良い結果
へとつながっていくことと思います。
女性には特に「生理」に対する正しい理解を深めて頂きたいと思います。
こちらでも理解しやすいようプリントなどをお渡ししています。
●中医学を導入している鍼灸院は非常に少なく、中医学的な考えや治療を受けたい方はお気軽に当院へご相談下さい。
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鍼灸・漢方全般に関するご相談も歓迎しております。
★過去のページに婦人科疾患の「月経不順」「月経痛」についても掲載しております。是非ご覧下さい。